乃木園子は勇者である ~リベンジの章~   作:てんぱまん

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【第13話】BAD END

 

次の日の早朝、園子は日の出の光で目を覚ました。銀からのメールを思い返し、今日から学校なのだからかなり早めに屋上に来ていると思った園子は私服に着替えて少し早歩きで屋上へ続く階段を上った。手の痛みはもうほとんどなく、すでに完治していると感じた。包帯はもうとってもいいだろう。

 

階段を上りきって屋上に出るドアを開ける。その途端、朝の冷たい風が園子を襲う。園子はブルッと身震いをし、一瞬目を閉じて手をこすりながら屋上へと出た。4月とは言っても朝はまだ全然寒い。園子はまだ来ていないかと辺りを見回す。すると、この寒い屋上に中学の制服を着た少女がひとり。彼女は屋上の柵に両腕を乗せて香川の風景を見ていた。こんな朝にこれほど寒い中、さらに病院の屋上に制服を着た少女がいるのは第三者から見たらなんとも異質な光景であった。風は依然、ビュービュー吹いている。

 

「ミノさん!!」

 

園子はその場から彼女の名を呼ぶ。それに気づいた少女はゆっくりと振り返った。

 

「おおっー!園子来たか~!」

 

まだ朝日が出たばかりの早朝だというのに、彼女はいつも通りのテンションで答え、園子に手を振った。

 

「どうしたのミノさん~!わざわざ屋上で、それにこんな朝に話がしたいなんて~!」

 

屋上のドア付近にいる園子と屋上の柵に寄りかかる銀の距離は遠い。それに風の影響もあって中々声が通らなかった。園子は銀に近づいて話しやすいように動こうとする。が........

 

「あっ、園子!そこにいてくれ!」

 

「えっ?なんで~!ここじゃよく声が聞こえないよ~!」

 

「いいから!聞こえるようにするから~!」

 

銀は園子がこちらに近づくのを止めた。銀は少し焦って止めたように見えた。なにか意図があるのだろうか。園子は銀の行動がよくわからなかった。と、突然風がやむ。まるで二人の空気を読んだかのように。

 

「園子。おとといの話、覚えてるか?」

 

「えっ?」

 

風がやんだのを見計らって銀がいきなり話題に入る。

 

「二年前の話だよ。」

 

「ああ....」

 

「あたしな、今やっと安心できた。記憶も足も戻って、勇者のお役目も終わって....。交通事故に遭ったけど、園子ももう大丈夫そうだ!これでだいたい区切りがついた。ようやく全部、終わったんだ....。」

 

「ミノさん....?なに言ってるの?区切り?全部終わったって....」

 

園子のなかにモヤモヤっとした感情が生まれ、早くも直感で嫌な予感がした。

 

「ミノさん、一体なにしようとしてるの....?」

 

銀は先ほどからずっと変だ。何か彼女らしくない。底知れぬ不気味さを感じた。

 

「園子、あたし後悔してるって言ったろ?須美のこと。」

 

「う、うん....そうだね。」

 

「ずっとずっと....ずっーと須美に謝ってきた。心の中でも、英霊碑へ直接会いに行っても、あたしは数え切れないくらい須美に謝ってきた。どうせ須美のことだから許してくれちゃってんだろうけどさ....。でも、あたし自身が許せないんだ。あたしが自分のことを許せない。今でも永遠と煮えたぎるこの自分への恨みは、何があっても一生変わることはない。」

 

「ミノさん....。」

 

「あたしさ、苦しいんだよ....。勇者部のみんなで楽しんで笑ったりいろいろなことしてきたけどさ、やっぱりあたしは心の底から楽しめないんだ。笑えないんだ。どうしても、『ここに須美がいたらな』って....考えちゃうんだ。」

 

「....!」

 

「その顔、お前もそうなんだろう?」

 

銀の問いに、園子はうつむくしかなかった。まさに図星であった。

 

「やっぱりそうだな。........あたしの心はすでに....いくつも前から死んでたんだ。今までみんなに見せていたのは表向きの作り物の心だった。あたしはもう限界なんだよ。」

 

「み、ミノさん....?ダメだよ、そんな言葉ばかり言っちゃ....ミノさんらしくないよ....!」

 

銀から聞いたことのないくらいマイナスの言葉がずらりと出てくる。園子は悪い夢でも見ているようだった。すると、園子の言葉に銀は表情を険しくしてこう答えた。

 

「『あたしらしくない』....?なに、言ってんだよ....『あたしらしくない』ってなんだよ!?言ったろ!!あたしの心はもう死んでるって!!今まで園子たちに見せてきたものはすべて嘘だって!!!」

 

「....!!」

 

「だからさ....あたし今までがんばってきたんだよ....勇者のお役目が終わるまでは須美のためにも最後までやり切ろうって....。そしてそのお役目は終わった。風先輩も卒業して、園子のケガももうほとんど完治してる。これほどタイミングがいいときはもうないと思う。」

 

「えっ....?なんなのさっきから....!?さっきからミノさんの言ってること全っ然わからない!!変だよミノさん!!目を覚ましてよっ!!」

 

銀はずっと意味深な言葉を発してきた。園子は銀が手の届かないところへ遠ざかってしまうのではないか、と一番悪い考えが頭によぎってしまった。

 

「........園子、これが本当のあたしなんだ。」

 

「........そ、そんな....。」

 

「こんなこと話せるのはさ、お前しかいない。今まであたしと仲良くしてくれた、ズッ友のお前しか。」

 

「み、ミノさんやめてよ....そんなこと言わないで....」

 

園子は早くも声が震え始める。それは自分の悪い考えに対する恐怖によるものだった。

そして銀は、柵に身を乗り出し、柵の上に乗って園子の方を向く。

 

「ミノさん....!ダメだよそんなことっ!あたし絶対許さないよっ!!」

 

園子は無理やりにでも止めようと走って彼女に近づく。が、

 

「止まれ。園子。あたしの最期の言葉だ。」

 

「やだっ!!やだよそんなのっ!!」

 

銀が口で止めても園子は走るのをやめなかった。

 

「あたしさ、ズッ友のお前を置いていくのはちょっと不安だった。でも....今は友奈たちがいる。それにお前は、もうひとりでも十分やっていけるさ。」

 

「それ以上喋らないでっ!!!」

 

「園子........頼む。あたしをこの苦しみから解放してくれ。」

 

「....!!!」

 

その言葉を聞いた園子は自然と立ち止まってしまった。なぜか。それは祀られていた二年間、自分も何度かそう思ったことがあったからであった。

やがて銀は苦笑しながら涙を流し始めた。そしてまた風が吹き始める。銀は朝日に照らされ、風によって髪と制服がなびく。そして最期にこう言った。

 

「ごめんな園子....こんなあたしで。でも、お前と須美と過ごした短い時間は本当に...すっごく楽しかった!!今までありがとう園子....。たとえ離れ離れになっても、会えなくても、あたしたちの絆は壊れることはない。....あたしは三ノ輪銀。あの子は鷲尾須美。あなたは乃木園子....。あたしたちは友達だよ。ズッ友だよ....!........さよなら。」

 

銀はそう告げると体が斜めに傾く。

 

「ミノさんっ!!」

 

園子は一生懸命手を伸ばした。しかし、その手は鉄男をトラックから救ったようにはならず、ギリギリのところで届かなかった。その瞬間、園子の中で何かがプツンっと切れる。

 

 

 

 

 

 

 

      そして、銀は彼女の前から姿を消した----

 

 

 

 

 

 

 

銀の最期の言葉を聞いた園子は腰が抜けてその場に座り込む。絶望に打ちひしがれている園子に追い討ちをかけるかのようにして冷たい風が吹きつける。

 

「ぁぁ........ぁぁぁぁぁ........わあああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」

 

園子は叫んだ。そしてなんども地面を殴った。それからすぐに下に人だかりができはじめ、騒がしくなってくるのが分かる。当然園子は下を見ることなどできるはずがなかった。その後園子は、病院関係者に発見されるまで屋上で泣き続けていた。

 

------------

 

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--

 

「乃木、大丈夫....?ちょっとは落ち着いた?」

 

「........。」

 

「警察もひどいもんよねぇ。まだ気持ちの整理もついてないのに取り調べなんかしちゃってさ。」

 

「........。」

 

「乃木........えっと....」

 

「お姉ちゃん、無理して話さなくていいよ。」

 

「でも....」

 

「園子さんはしばらく一人にさせておいた方が良いと思う。今園子さんの心を癒せるのは時間だけだと思うよ。」

 

「........わかったわ、樹....。じゃ、乃木!また来るから!」

 

「明日も顔出しますね!」

 

「........。」

 

犬吠埼姉妹はそう言って姿を消した。園子は病院関係者に発見されたあと、事情聴取のため警察に行った。もちろん彼女の心はボロボロで聴取などろくにできなかった。警察から帰されたあとはまた元の病院に戻され、ずっとベッドで寝ていた。そんな時に来たのが犬吠埼姉妹だ。彼女たちも複雑な気持ちだったであろう。この状況だと園子が銀を....ということになってしまう。警察はきっとそう考えているのだろう。

園子は今、まさに鬱状態となっていた。

 

 

ガラッ

 

 

また病室の扉が開く。園子は目だけ動かして入ってくる人物を見た。

 

「!?て、てっちゃん....!?」

 

まさか彼が来るとは思わなかった。銀の家族であり、弟でもある彼が今この状況で来れるとは。

鉄男の目尻は泣いた痕が目立っていた。疲れ切っている表情の中、園子を睨みつけるようにして彼女に近づいた。

 

「園子....姉ちゃん........これは一体....?なにが....あったんだよ....。いきなり死ぬなんて異常だよ....。俺、気になって気になってさ....」

 

「........。」

 

「黙ってないでなんか言ってくれよ....!苦しいのは園子姉ちゃんだけじゃないんだぞ....?俺もこの数日間でいろいろありすぎて頭こんがらがってんだよ。それでも俺なりにがんばってやってきたんだよ。それに追い打ちかけるようにしてこの未来でも姉ちゃんが死ぬなんて....もう俺の心は....」

 

「やめてっ!!!」

 

「...!?」

 

「『心が折れた』なんて言わないで....お願いだから....。私、てっちゃんまで....失いたくない....」

 

「!....それって....どういうこと....?姉ちゃんもおんなじようなこと言ってたのか....!?」

 

「........うん。ミノさんの心はね、とっくに死んでたんだって。おかしいなぁ....なんでこの未来の私はミノさんの変化に気づけてあげられなかったんだろう....悔しいなぁ....気づけてさえいれば変えられたかもしれないのに....なんで気づけなかったんだろう....。」

 

「そんなことを言ってたのか....。俺も全然、姉ちゃんの変化には気づかなかった....。姉ちゃんは長いことひとりで抱え込んできて、今までは全部演技みたいなもんだったってことかよ....。」

 

「ミノさんが一番大切にしてた家族でさえも置いていくなんて....相当心が締め付けられてたんだよっ....!........もう....なんでこうなるの....?前よりずっとひどくなってる....!!なんで私の友達が二人とも....!!こんなの、最悪すぎるよ。最悪すぎる未来だよっ....。」

 

「........。」

 

鉄男は黙っているしかなかった。二人は絶望に打ちひしがれた。立ち直るのも困難かと思ったが、

 

「....やり直そう。」

 

そう呟いたのは園子であった。先ほどまで絶望していたのに急に態度が変わった園子を見て鉄男は驚いた。さらに彼女の目には覚悟を決めた信念があった。

 

「....えっ?」

 

「どんなに最悪な未来になっても、私ならやり直せる。私だけ未来を変えられる力を持ってる。........こんなのにくじけてる場合じゃない。これは夢だと一旦仮定してすぐに立ち上がる。....へこたれてる時間なんてない。そんな時間はもったいない。」

 

「で、でも............俺、やっぱ怖くなってきちゃったよ....。またすぐに俺の知らない未来になると思うと....。それもまた悪い未来だったら....!」

 

「てっちゃん。私を...信じて。」

 

「....!!」

 

「私、7月10日が過ぎるまでもう未来には帰ってこないから。成功するまで戻ってこない。だから安心して!私が戻ってきたときにはきっと、良い未来になってる!」

 

「せ、成功するまで戻ってこないって....失敗したらどうするんだよ!?」

 

「........そのときはそのとき....。私はそのまま過去で過ごすよ。私が変えられなかった未来は私が責任持って過去で償う....。」

 

「!....そ、そんなこと....!」

 

「大丈夫だよ!失敗なんてしないから!」

 

「俺、園子姉ちゃんが心配だ!!....園子姉ちゃんも園子姉ちゃんを大切に想ってる人がいるってこと忘れないでくれよ!『園子姉ちゃんも一緒に生きる』、これだけは絶対に約束しろよな!」

 

「うん。わかってる!」

 

園子はそう言うと鉄男に手を差し出した。そして....

 

「じゃ、行ってくる!」

 

「........わかった。こっちのことはまた任せておきな。なんかいろいろ言って済ませておくから。」

 

「....うん、お願いね。ありがとう。」

 

「気をつけて....行ってきてください....!過去の7月10日を過ぎるのは未来の世界ではもう今日の夜はとっくに過ぎているはず....だからまた明日の朝会おうな!絶対だぞ!」

 

「了解!明日の朝ね!」

 

鉄男も覚悟を決めた顔をすると、園子の手をギュッと握った。

 

「....またね、てっちゃん!」

 

 

 

バチっ!!

 

 

 

「もう~なんなんですか!!」

 

「え........?あっ!!」

 

園子の目の前には鉄男が立っていた。しかし、少し顔が幼い。それに園子は外に立っていて上に夜空が広がる。そして鉄男の後ろには銀もいる。

 

(そうだった!夜に突然お邪魔しててっちゃんに握手しに来たんだった!)

 

「わわわわわっ!!ご、ごめんね~いきなりすぎてびっくりしちゃったよね~」

 

「ふんっ!........それで、俺になんか用っすか....」

 

鉄男は園子を睨みつけながら聞く。

 

「あ~....えっと....」

 

園子はそう言うと鉄男の耳元に口を近づけ、こう言った。

 

「この前イネスで言ったこと、覚えてるよね?」

 

「え?ああ........つい最近のことだし覚えてるけど?」

 

「ならよかった!それだけだから!」 

 

「はあっ!?その確認のためだけに来たのかよ!?」

 

鉄男は驚き、引き気味の目で園子を見る。さすがに無理があると園子も思っていたが今はとりあえず笑っているしかなかった。

 

「えっ!?なになに、なんの確認!?」

 

銀は食いついて聞いてくるが鉄男に家に入ってろと怒鳴られ、しょぼくれながらリビングに入っていった。

 

「....はぁ....あんたってほんと変なヤツだな。」

 

鉄男は呆れ果て、ため息をつきながらそう言う。

 

「変なヤツって思われても良い。私のことが嫌いでも....これだけはお願い。」

 

「?....なんだよ。」

 

「お姉ちゃんのことを、大切にするんだよ。ミノさんみたいなお姉ちゃんを持って鉄男くんは幸せだね~」

 

「いや....姉ちゃん怒ったら怖いし結構厳しいけど....。」

 

「でもそれは全部鉄男くんのために言ってることだから。....ミノさんは、家族のことを、鉄男くんのことをとても大切に想ってるんよ~」

 

「........。」

 

「遠足のお土産とかミノさんに頼んだ?」

 

「えっ?ああ....そうだな。」

 

「そのお土産は絶対に、ミノさんが届けるからね。」

 

「........はぁ?そんなの当たり前だろ。」

 

「家に帰るまでが遠足、だからね~。それじゃ!」

 

園子はそこまで言うとまた走ってそそくさと帰った。

 

「あっ!ちょ........もうっ!どーゆー意味か全っ然わかんねっー!マジでなんなんだよあの人ー!!」

 

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--

 

園子は家に戻ると再びノートを開いた。

 

(ミノさんは調子に乗ったせいでわっしーを死なることになったって言ってた....。完璧に勝つためには私が経験した『二つの未来』を教えるしかない。『ミノさんがいない世界』と、『わっしーがいない世界』....わっしーを亡くしたことに責任を感じて自ら命を絶ったミノさんのこと、それから私のこと...全部言う。そうすればきっと二人はいつもより緊張感を持ってお役目に励むはず。)

 

園子は『二つの未来』で起きた出来事をすべてノートに記し、わかりやすいようにまとめた。

 

「よし、これで今度こそ....」

 

園子はカーテンを開け、夜に輝く月を見る。そして拳を握った。リベンジする覚悟は決めたものの、最悪な『二つの未来』を見た園子はまだやはりどこかに恐怖心があった。

 

(第14話に続く)




急展開すぎてびっくりした方もかなりいると思いますがどうか大目に見てくださると助かります....。
さて、ここから園子はどうするのでしょうか?フラグを立てまくっていますが、それは折るのか回収するのか....楽しみに待っていてください!
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