(園子....園子....)
園子は誰かに呼びかけられ、目を覚ます。だがなにか変だった。辺り一面真っ白であり、どこが地面で空なのかわからない。不思議な空間であった。
「ぅぅ........ここは....?」
(目を覚ましたか、園子。)
自分の名前を呼ばれ、園子が顔を見上げると会ったことのない女性が立っていた。年齢は園子よりちょっと上くらいだろうか。しかし、初めて会うはずなのにどこか親近感が湧いた。
(なんで私のこと知ってるんだろう....。)
「あの....どこかで会ったりとか....?」
(いいや、ないな。それより園子、率直に聞くがお前は常人にはない特別な力を持っているな?)
「えっ....?もしかしてタイムリープのこと?....なにか知ってることが....?」
(........。)
目の前の少女はこの質問に対して答えなかった。
(園子、お前はまだこちらの世界に来てはいけない。お前にはまだ『あの世界』でするべきことがある。)
「するべきこと.....?」
(ああ。乃木家として、絶対にやり遂げなければいけないことがな。....『何事にも報いを』。例え何世代かかったとしても、成し遂げなければいけない乃木家の使命がある....我が一族の宿命なんだ。お前は乃木家の誇りであり、全世界の希望だ。お前がその力を授かった以上、お前の代ですべてを終わらせてほしい。)
「乃木家....?じゃああなた....私のご先祖さん....?もしかして初代勇者の....乃木若葉....?」
(........。)
これに対しても目の前の人物はなにも答えなかった。
(いいか園子。私は先ほどその力は常人にはないと言ったな。つまりだ、その力は園子だけにあるものではない。)
「えっ....!?他にタイムリープできる人かいるってこと....!?」
(これはきっとお前が思っているより長い戦いになる。単純にすぐ終わるものではない....。お前はこれから何度もつらい思いをするだろう。今までお前が苦しんでるのをずっと見てきたが........さらにまた苦しむことになるだろう。それでも挫けずにがんばってほしい。この長い戦いに決着をつけるんだ。お前なら可能だ。それができる。........その先にあるはずの、幸せな未来のために。)
そう言った瞬間、目の前の人物は青い光を放ち、青い鳥に変化して羽ばたいていった。
「待って....!何か知ってるなら聞きたいことたくさんあるのに...。」
すると園子の周囲が光輝く。園子はその光に呑まれ、再び意識を失った。
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ピッ、ピッ、ピッ、
(なんだろう....この音....。)
園子が次に目を覚ましたときにはベッドに寝ていた。ここがどこなのか知るために首を傾け、辺りを見渡す。
「........ここ、病院....?いっ....!」
ちょっと体を傾けただけで左肩がズキズキと痛んだ。まるでナイフで刺されたかのような激痛が左肩に走る。ピッ、ピッ、という音は心電図計の音だった。
「そうか........私、あれから....助かったんだね....。」
園子はさっき話した少女との話を思い出す。
(『こっちの世界』....私がさっき見たのは夢なんかじゃ....)
ガラッ
そんなことをあれこれ考えているうちに誰かが病室へ入ってきた。
「園子....?」
「....!!」
ひょこっと顔を出したのは銀だった。それに続くように須美も顔を見せる。目を開けている園子を見た二人は、目をうるうるさせながら園子に抱きついた。
「よかった....よかったよ園子ぉ~!!気がついたんだな!!」
「もう私....そのっちが目を覚まさないんじゃないかと思って....ホントにホントに心配したんだからねっ!」
「ごめん二人とも~....でもああまでしないと勝てなかったからさ~。命は大事だね~。」
「だからってさすがに無茶しすぎだったぞ!........出血が止まってないの、本当は自覚があったんだろ。」
「........まあね....でもこっちの方があの未来を見るより100倍マシだからさ....。」
『........。』
園子の言葉を聞いて二人とも黙る。二人は園子だけしか体験していない『最悪の未来』を完全に知ったわけではないので、彼女の心の苦しみは底知れないものだと理解していたからだ。
「あの~........ぎゅ~してくれるのは嬉しいんだけどさ........腕、痛い。」
「あっ!ごめんなさい!」
須美と銀は同時に後ろへ飛び退いた。
「そ、そうだったな!園子はまだケガ人だった!」
「もう!それは銀もでしょ?体に異常はなくても体中切り傷、擦り傷だらけなんだから!」
「こんなんすぐ治るってば!園子に比べりゃケガしてないと言ってもいいね!ほら、こんなに元気だし!」
銀はそう言って激しく体を動かして見せる。
「確かにそうだけれども....銀まで無理しちゃダメよ!」
「あはは....わかってますよ、鷲尾さんちの須美さんや。」
(目の前で二人が仲良しそうに話してる。それを見てるだけで私、自然と笑ってる....。本当に変えたんだ。私が....。これで未来が変わった。)
「ねぇ、そう言えば今日は何日?あれからどれくらい時間が経ったのかな....?」
「今日は7月11日よ。そのっちは約一日寝ていたわ。」
(7月11日...!やった....10日を過ぎた!いろいろ変更したところもあったけど、7.10作戦成功だ....!)
「リベンジ....成功....!」
園子はそう呟くと、次に二人の方を向いて言った。
「私、すぐこのケガ治すよ!せめて夏祭りまでには間に合うようにする!そしてお料理も教えてもらって、この先もいっぱい遊ぶ!楽しむ!」
園子の年相応な明るい表情を見た二人はフッと微笑んで、
「....ああ。とことん楽しもう!」
「私たち毎日お見舞い来るから!」
と言った。
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「おっと、もうこんな時間か....。楽しい時間はあっという間だな本当に....。」
「そうね。もうこんなに外が暗いわ。」
「二人とも明日も学校あるんだからもう帰った方がいいよ~。お父さんお母さんも心配してるだろうし~。」
「........そうしましょうか!じゃあそのっち、また明日!」
「またな~!」
二人は園子に手を振って病室を出ようとする。が、
「あっ、やっぱり待って!」
園子は唐突に二人を止めた。須美と銀は立ち止まり、園子の方に振り向く。
「私ね........一回未来に帰ってみようと思うんだ。」
『え........』
須美も銀も驚きの表情を見せ、園子に近づいた。
「それって........どうなっちゃうんだ?今の園子は....。」
「私が未来に戻ったら、こっちの私は過去の私になる。つまり、未来の私として過ごした記憶は、過去の私には曖昧にしか残ってない....。」
「じゃあもう今のそのっちとはお別れってこと....?」
「それはわからない。未来が良い方向に変わってたらそうなると思う。でも、まだ悪かったらすぐに戻ってくるよ。........幸せの未来にするために、何度だってやり直すから。」
「要するに、お別れかもしれないしすぐにまた会えるかもしれないってことか。」
「でも私自体がいなくなるってわけじゃないから~。」
「それでも、寂しいわよ....これまで過ごした時間はほとんど無駄になるってことでしょう....?」
「........大丈夫だよ、わっしー。過去の私も未来の私もほとんど変わりないからさ~。それに、今まで積み上げてきた絆がすべて消えるわけじゃない....。私たち三人の絆はたとえ神様が相手でも壊れることはない!....それくらいは自信を持って言えるからさ!」
二人は哀愁の目で園子を見る。それに園子は笑って応えた。
(そうは言っても........やっぱりこの二人と過ごす夏祭りとか絶対楽しいだろうし良い未来になってたとしてもまた過去に来ちゃうかもな~)
「........ま、すぐに帰って来るかもしれないけど~」
園子がそれを付け足した瞬間、再び須美と銀が抱きついてきた。
「またね、未来のそのっち。」
「三年後に会おう!....それまでしばしお別れだ!」
二人は園子の耳元でそう言い、数秒間そのままでいた。この間園子は体の痛みを我慢しながら自分で勝ち取った幸せを噛み締めた。
「........うん!またね!」
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翌日、園子は須美と銀に内緒で鉄男を呼び出した。果たして来てくれるかどうか不安だったが、意外と素直に受け入れてすぐにやってきた。
「わざわざ家電に連絡入れてきて........一体なんの用っすか....。」
「おお~、驚いたよ~。あれだけ私のことを変人扱いして嫌ってたのにまさか来てくれるとは~」
「別に嫌ってたわけじゃ........それに、俺が必要なんだろ?いつもそうだ。突然俺の手を握る。」
「勘も冴えてるね~」
「まぁ........俺と握手したとき、お前の顔が少し変になるからな。気を失うっていうか....一瞬だけだけど。」
「そうなんだ........一瞬だけ....。」
タイムリープした瞬間、少しだけ時間干渉による時差が起きるのだろうか。園子はちょっと気になった。
「で、なんだよ。今度は俺になんの用........」
鉄男が全部言い切る前に園子はすばやく彼の手を握った。
「ごめんね!今回もこれだけでいいの!」
「はぁ!?またかよっ!俺と握手したらなんか........」
バチっっっ!
いつもの感覚が走り、園子の視界は真っ暗になる。
(鉄男くんなんか言ってたな~。........いや、今はそんなことはどうでもいい。....私は過去に戻って、二人にタイムリープしていることを伝えた。作戦を立て、実行し、多少変更はあったけど誰も犠牲者を出さずに成功した。そして7月10日を過ぎ、わっしーもミノさんも生きてる。因縁の三体を三人で倒した!これで変わってるはずだ。少なくとも今までとは違う未来が待っている。これで........未来はよくなってるはず!)
園子はそうやって今までしてきたことを頭の中でまとめ、未来がどうなっているか考察した。そして....園子は再び目を開ける。
「........あれ....。」
何か違和感を感じた。未来に来てもベッドに横たわっていたのだ。しかし、病院ではない。周りは真っ暗だ。この部屋は園子に見覚えがあった。
(嘘........おかしい。私が三年後の今、ここにいること自体がおかしい....!)
園子は起き上がって動こうとする。しかしうまいように体を動かせなかった。
(まさか........戦いが終わったはずなのにまだどこか散華を....!?........いや、違う。目も見えるし首も動く....。)
園子はなんとかあがいて起き上がることができた。違和感の正体....体がうまく動かせなかった理由は起き上がった瞬間に気づいた。
(あれ........?私........腕が........。)
布団から右手を出そうとしたとき。 園 子 の 右 腕 は 肘 下 か ら 存 在 し な か っ た 。
(え........。)
園子は何がなんだかわからなくなり、混乱する。どうしてこんなことになっているのか見当もつかなかった。
(いや....右腕だけじゃ........ない........!?)
それだけではなかった違和感を感じ、園子は残った左腕で布団をはいで足も確認する。
(........!!)
彼女の思った通り、原因は足にあった。足の場合、 両 方 と も 股 か ら 下 が な く な っ て い た 。
「い、イヤ........なんなのこれ........!!」
園子はあまりにも大きすぎる恐怖で声すらも出なかった。が、次の瞬間、
(....!!)
「ぎゃああああああああああっ!!!ああああああああああああああっ!!!」
ないはずの手足に鋭い痛みが走った。とても現実とは思えないほどの痛みに、園子は体をジタバタ動かして苦しむ。今までに受けたどんなケガよりも、痛みよりもはるかに痛かった。
「園子様!」 「園子様!」 「園子様!」
園子の悲痛の叫びを聞いた神官たちが部屋の扉を開けて一斉に入ってくる。
「園子様...!また幻肢痛が....。」
「三年前のあの戦いからずっとだ....。早くお薬を。」
そんな大赦職員たちの会話が聞こえてくる。
「はぁっ....!はぁっ....!うっ....ああああああああっ!!!いっ....わああああああっ....!!!」
園子は薬を待つ間、苦しむことしかできなかった。薬を飲むまでこの痛みは引くことはなかった。園子は神官たちに無理やり体を押さえ込まれ、薬を飲まされる。その瞬間にスッと楽になり、痛みが引く。
(なんだったの....?今のは........。)
「園子様....お体の調子はいかがでございますか?」
「え....あ、うん。もう大丈夫....。」
園子は神官たちを落ち着かせ、ひとりにさせて欲しいと言って部屋から追い出した。彼らは昔のようにしつこくはなく、意外と素直に園子の言うことを聞いてくれた。
「今の状況を整理したいけど........私はまた祀られているの?でもなんで....中学三年になってもこの部屋にいるなんて....もしかして私はそもそも讃州中学に入学していない?それに、気になるのは私の手足はどうしてないのか....。」
園子は包帯で断面をぐるぐる巻きにされた自分の手足を見る。そんな自分の姿は見苦しかった。だが、園子にはまだ希望があった。
「でも........かろうじて左手は残ってて良かった。一応どちらかの手さえ残っていればタイムリープできる....。てっちゃんに会えればだけど....。」
園子は至って冷静だった。わからないことが多すぎて逆に落ち着いていた。園子はなんとかしてこの未来がどうなっているのか、調べようと思った。と、そこへ....
「園子様。失礼いたします。」
ひとりの神官が入ってきた。園子はその声と背格好を見てすぐに誰かわかった。
「安芸先生........ですね?」
「........。」
神官はそれに対してなにも答えることはなく、園子の横まで近づいた。
「ちょうどよかった。聞きたいことがあったんです~」
「........なんでしょうか。」
「私の体........どうなっちゃったのかな....?」
「........覚えておられないのですか。」
その神官は特に驚く素振りも見せず、冷静に聞き返してくる。
「三年前ってのは覚えてる....。でもね、たまに忘れちゃうんだ~なにがあったか。」
「........。」
「ほら、いろいろあったでしょう?」
園子はそう言って肘から下がない腕を上にあげて神官に見せる。
「....本当によろしいのですか。ようやくここまで精神状態が回復されたのに、また悪くしてしまう可能性がございます。私はお尋ねにならないことをお勧めします。」
「心配してくれてありがとうございます~。....でも、教えてくれませんか?」
「ですが....」
「なにがあったか、私は知らなくちゃいけないんです。だからお願いします。私は大丈夫ですから。」
園子は頼み込んだ。それに対し、神官は少し黙るとやがて小さく頷いた。
「じゃあまず、一番知りたいことから。........ミノさんとわっしーはどこにいるんですか?」
「........。」
園子は恐る恐る聞くが、神官は黙ったままで答えない。より一層園子の不安が募った。そこで、さらに攻めた質問をしてみる。
「私がこんな体になっちゃったのは........二人のことを命懸けで守ったからなんでしょう?二人はちゃんと中学校生活を送れてるのかな?」
「........いや、逆でございます。」
「え........逆....?」
神官はようやく口を開いた。きっとこの神官も真実を話すこと自体が苦しいのだろう。ましてや、自分の口から園子に話すのが何よりもイヤなはずなのだ。
「はい....。逆でございます。鷲尾様と三ノ輪様は、ほとんど致命傷かと思われるほどの傷を負ったあなた様を守りながら戦ったのです。」
「私が........二人に守られたってこと....?そんな....そんなの私が二人の足を引っ張ったってことじゃない!」
「実際のところ、あなた様方三人のみしか樹海で戦っていないので正確にはわかりませんが....明らかに、あなた様を守ったかのような痕跡があったのです。」
「ちょ、ちょっと待って........さっきから『正確にはわからない』とか『痕跡』とか言って....まるで二人が生きていないみたいな...!!」
「........。」
「一番大事なことを言ってよ、安芸先生....。二人は....二人はどこにいるの....?どんな....状態なの....?」
園子はただ、神官の答えを待った。言う覚悟を決めたのか、神官は拳を強く握り、仮面をつけた顔を園子に向けるとこう告げた。
「お二人は、三年前の戦いで命を失いました。」
(7.10作戦編 完 第18話に続く)
こうして7.10作戦編は幕を閉じました....。さて、園子の頑張りも虚しく、また悪い未来へと変わってしまいました...。ズバリ、これから重要となってくるキーとなるのは勇者システムの例の『あの機能』です...。(たぶんだいたいの人が察してるでしょう笑)
次に、ここまでまで見てくださった皆様方に今一度、お礼を申し上げたいと思います!ありがとうございます!これからも『リベンジの章』は続いていきますのでよかったらぜひ応援の方、よろしくお願いいたします....!
わすゆの物語もついにラストスパートですね!(構想ではゆゆゆの物語まで続ける予定)では次回、『大橋最終決戦編』開幕です!どうぞお楽しみに!