乃木園子は勇者である ~リベンジの章~   作:てんぱまん

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大橋最終決戦編
【第18話】Nightmare


 

 

「おい....一体何体来るんだ....?あれ....。」

 

「どんどん入ってくる....あの数を私たちでどうやって....」

 

「ミノさん、わっしー!とりあえず、変身しよう!」

 

三人とも勇者システムを起動させ、遠くの大橋を睨む。そこから大量の12星座バーテックスが侵入してきていた。最大三体までしか戦ったことのない園子たちにとって、この数は異常だった。

 

「よし....まずは手前のヤツから倒していきましょう!」

 

「了解!」

 

「OKわっしー!」

 

三人は武器を構え、声を掛け合って進む。

 

パチッ---

 

(あれ....!?私、一体なにしてるの....?ここは樹海....?ここまでの経緯を全く覚えてない....。っていうか、そもそも 根 本 がおかしいよこれ....!)

 

「わっしー!こっち援護お願い!!」

 

「わかったわ!....えいっ!」

 

園子の呼びかけに、須美はすばやく矢を射って反応する。

 

「ナイスだよわっしー!」

 

園子はそう言って須美に親指を立てて見せた。

 

(私....無意識に言葉を発してる....!?体も言うこと聞かない!勝手に動く!なんなのこれは!?いつの戦いで、どうして戦ってるの!?....私、今までなにしてたってけ....!)

 

園子はここに至るまでの流れを全く思い出せずにいた。そして、自分の思い通りに動かない体に対して恐怖していた。

 

「....園子!後ろだぞ!」

 

「!!....ありがとうミノさん!」

 

銀のサポートで園子はギリギリで回避。一命を取り留める。そのとき、心の中の園子は気づいた。侵攻してきているバーテックスの種類、数、侵攻の仕方....身に覚えがあった。

 

(これ........間違いない....。わっしーと私の二人で戦った、大橋最後の戦いだ....。)

 

しかし、それがわかってもおかしい点がまだまだある。本来ならばいないはずなのに一緒に戦っている銀、強化されていない旧型の勇者システム、そして....実装されていない『満開』の能力........。園子が実際に体験した事実とは、異なっているものばかりであった。

 

(もしかしてこれ........私が未来を変えてから迎えた大橋最後の戦い....?いや、それにしては来るのが早すぎる。確かあの侵攻は秋頃だったはずだ。今はまだ夏になったばかりだったし....。そしてなによりも、私の体が勝手に動いて意図していないことを勝手に喋っていることが一番謎だ。なにが起こっているって言うの....?)

 

「そのっち!銀!また攻撃が来るわよ!」

 

 

ガンッガンッ!ガガガッ!

 

 

銀が敵の攻撃をはじき返す。

 

「くっ....!次から次へと....!」

 

「ミノさん!ここは私に任せて後ろに下がって!こいつの相手は私の武器が向いてる!」

 

「....わかった!一旦さがる!」

 

銀は後ろに飛び退き、他のバーテックスの相手をする。ひとりになった園子は槍を振り、

 

「渾身の一撃だよっ~!く~らえ~!!」

 

ブンっ、と一振り。そしてバーテックスの体を引き裂いた。が....その間にできた隙は大きかった。今まで身を隠していたバーテックスが後ろから攻めてくる。

 

「....!!」

 

園子の槍ははじかれて遠くに飛ばされ、敵が扱う反射板で地面に叩きつけられて転がった。

 

(こいつは........キャンサーバーテックス!今戦ってたバーテックスの後ろに隠れてたんだ!私も気づかなかった!私が自分の意志で行動できない今....なんだかわからないけど、この自分を信じるしかない!頑張れ私!!)

 

園子は自分で自分を鼓舞した。それが届いているのかわからないが。

 

「くっ....ぬうぅ....」

 

しかし、なかなか園子は立ち上がらない。

 

(あれ....?そういえば........ふっとばされたときの痛みも、感じないな....。もしかしてこれって........夢....?そうだとしたら、全部説明が....)

 

そこまで考えた瞬間---

 

 

ザクッ。

 

 

(え........?)

 

気味の悪い音が鳴ったと思うと、自分の両足が空中を飛んでいた。激しく血しぶきを上げながら高く、高く、上空に飛び上がった。やがてその二本は、ビチャッと音を立てて地面に落ちた。

 

(あれ....私の足........だよね....?)

 

「ああああああああああああああああああああああああっっっ!!!!」

 

聞いたことのないほどの、聞くだけで苦しいと分かる悲鳴が樹海を包み込む。

 

(なにこの声........私の声なの....?)

 

「!!....どうした園子....。おいっ!大丈夫か園子っー!」

 

その悲鳴で異変に気づいた銀が、相手していたバーテックスをほったらかしにして園子の方へ向かった。

 

(私の足........キャンサーの反射板で切断された....!板自体を刃物代わりにして、包丁で野菜を輪切りにするみたいに私の足を切断したんだ....。)

 

園子はその場でもがき苦しみ、ジタバタ体を動かして二人に助けを求める。汗、鼻水、涙....体中の穴という穴から水分が流れ出て、気分もとても悪い。

 

「ああああああああっっ!!!ううっ....がああああっ!!!いやああああああああっ!!!」

 

須美は、園子の足が切断されてから苦しみ続ける一部始終をすべて見ていた。

 

「ぁぁぁぁ........う、嘘............そのっち........?」

 

須美は完璧に恐怖に包み込まれ、腰を抜かして動けなくなっていた。その場で座り込み、園子が殺されそうになるのをじっと見る。

 

「おい、須美!一体なにがあって........はっ....!!!」

 

ようやく銀も到着し、変わり果てた園子を発見する。

 

「な、なんだよこれ........」

 

銀も須美の隣で同じように、その場にとどまってしまった。

 

「二人とも........助け........」

 

園子は右手を伸ばし、二人に助けを求めようとする。が、キャンサーバーテックスはさらに追い討ちをかけるようにして、

 

 

ザクッ

 

 

『....!!!』

 

(え....?あれ....?私の右手も、いつの間にかなくなって....)

 

右腕もさっきの足と同様に、勢いよく飛び上がって切断された。その右腕は須美たちの方までふっとんでいき、二人の前にボトッと音を立てて落ちた。園子の右腕の断面から、赤い血液が流れ出す。

 

「いやあああああああああああああああっっ!!!!うわあああああああああああっ!!!ああああああああっ!!!」

 

またしても園子の叫びが樹海を包む。

 

「そんな........そのっち........!やだ....こんなのやだ....!」

 

須美は頭を抱えてひたすら恐怖した。目の前に園子の切断された右腕が落ちている。一緒に手を繋ぎ、握手し、いろんな思い出を作っていろんなことを共にした彼女の手が....切断されて目の前に落ちている。

 

「....!?........須美....お前....!」

 

「え....?あ!?やだ....私....!」

 

銀に指摘され、須美は今自分がどのような状態かやっとわかった。須美は、あまりの恐怖で失禁していたのだ。

 

「........。」

 

(....須美がこんな状態に....!園子は重傷だ....!あたしがやらなきゃ....!なのになんでだ!体が全く動かない!!........あたしも、怖がってるのか....?目の前で園子が死にそうなのに....?あたしは自分の恐怖なんかで、友達を見殺しにしようと....してるのか....?)

 

銀もとても平然を装うことなどできなかった。須美と同じく、体はピクリとも動かないまま。キャンサーバーテックスはトドメを刺そうと、今度は園子の首の上に板を持ってくる。一方園子は声がまばらになり、あれだけ暴れていた体も動かなくなってきていた。

 

(まずい....!私、このままじゃやられちゃう!痛覚と出血多量で意識が遠のいてきてるんだ!でも........私の考えている通りにこれが夢だとしたら....)

 

反射板が勢いよく振り下ろされる。誰もが終わりかと思ったそのとき、

 

 

ガキンッ!ガガガッ....!

 

 

(あっ!?....ミノさん!?)

 

「うっ....うぐぐ........!」

 

さっきまで須美の隣にいたはずの銀が斧でそれを受け止めていた。

 

「うおおおおおおっ!!....だあっ!!....あたしは、このまま後悔して終わりなんて、嫌だ....!気合いと根性で、体を動かせ....!恐怖なんかに負けるな、三ノ輪銀....!!」

 

銀はひどい顔をしていた。顔を真っ青にし、ハァハァと息を切らしながらひたすら狂ったかのようにバーテックスを睨みつけていた。銀は反射板をぶっ飛ばすと、そのままキャンサーバーテックスに突っ込んでいった。

 

「どりゃああああああっ!!........ぐわっ....」

 

がむしゃらに斧を振っているせいでいつものように戦えていない。銀はあっけなくキャンサーバーテックスに返り討ちにあった。体は動いたとしても、彼女は冷静ではなかった。園子を守りたい、その一心で動いただけであったからだ。

 

「お前は........もう取り返しをつかないことをした....。お前らはどれだけ傷つけられても、すぐに再生して治せるかもしれないけどよ........あたしら人間は違う!園子の足は、右手はもう戻らない!!生えてきたりしない!お前は園子の、あたしの大切なものを奪ったんだああああっ!!!」

 

(ミノさん落ち着いて........そんな戦い方したらあなたが....)

 

「ぐはっ....ぐっ....!っ........」

 

園子の体は依然として全く動く気配がない。園子はただ、銀が傷ついていく姿を見ているしかなかった。そして絶望は畳み掛けるように....。....いつの間にか周りを大勢のバーテックスが囲んでいた。

 

(もう........終わりだ....。なにこれ....夢なんじゃないの....?だったら早く覚めてよ!!こんな悪夢、いつまで私に見せるつもり!?自分は友達が傷ついていくのを見てるだけなんて、どんな地獄よ!!!)

 

園子はひたすら心の中で叫んだ。そんなとき、銀がこう叫んだ。

 

「須美っー!!動けー!!!」

 

須美はまだあの場所から動けずにいた。ずっと園子の切断された右腕を眺めて座り込んでいる。

 

「園子を守りたいなら動けー!このままお前らを守りながら戦ってたらあたしら全員、みんな死ぬ!!....とりあえずここはあたしひとりに任せろ!!」

 

「........。え........今、なんて....?」

 

「ひとりの方がよっぽど戦いやすいんだ!........おい、須美聞いてんのか!?正気に戻れ!!」

 

「無理よ....もう........そのっちは助からないわ....。」

 

須美はずっと小声で体をガクガクと震わせながらそう言い続けた。

 

「須美がなんて言ってるか全然聞こえねぇ....。あっ!?」

 

そんな動けない須美を、狙うバーテックスが一体。銀は一度、キャンサーから離れて須美を守りに行った。

 

「おい須美動けって!!とりあえず立ち上がらないとなにも始まらないんだよ!!」

 

「........。」

 

「須美っーーー!!!」

 

銀は必死に呼びかける。そして、ようやく....

 

(そうよ....私、なにやってるの....?勝手にそのっちが助からないと決めつけて、お役目をほったらかしにして、人前で恥ずかしいことをして........私、このまま終わろうとしてた....。)

 

ようやく我を取り戻した須美は弓を持って立ち上がり、近づいてきていたバーテックスを合計五本の弓で葬った。

 

「須美....!よかった....!!」

 

「ごめんなさい、銀....。今まで私....」

 

「あたしに謝るなら、戦いが終わってからにしろよ。それに、お前が一番謝らなくちゃいけないのは園子だ。....お前は一度、すべてを投げ捨てようとした。心中しようとした....違うか?」

 

「........ええ。その通りだわ....。」

 

須美は素直に認め、銀の横に立った。

 

「........それじゃ、行くか。」

 

銀と須美は一斉に走り出し、園子の元へと向かう。

 

「お前の相手は引き続きあたしだっ!!どりゃあー!!」

 

銀はまた突っ込んでいき、二人の囮となる。その間に、須美は園子を背負ってその場から離れ始めた。

 

「銀!!くれぐれも無理しないように!ある程度私たちが離れたら、別にそいつの相手しなくてもいいからね!?」

 

「了解した!園子を頼んだぞ須美!」

 

園子の切断された腕の断面から、血が滴り落ちる。その血が須美の勇者服に付着し、赤く染めた。

 

「大丈夫だよ、そのっち....。大丈夫だからね。あなたは、絶対に私たちが守るから。」

 

須美は移動している間、園子にずっとそう言い聞かせた。

 

(わっしー、ミノさん....私が足を引っ張ったせいでこんなことに........。まさか....これから二人だけであの数と戦うっていうの....!?ダメだよそんなの、勝ってこない!........強化すらもされていない、『精霊バリア』も『満開』も実装されていない勇者システムで、勝てるわけがない....!!だって私が....20回『満開』してやっと勝てたってくらいなのに....!!)

 

園子はどうにかしてそのことを伝えたかったが、やはり体は動かない。というか私は今、完全に意識を失っているのだろう。全身に力が入っていないのがわかった。

かなりの距離を移動すると、須美が樹海の物陰に園子を寝かせた。

 

「それじゃそのっち、私も....銀の援護に行ってくるわね。」

 

須美はそう言うと、一度変身を解除した。

 

「これ........私が普段髪を束ねているリボン。そのっちが持ってて。」

 

須美は動かない園子の左手に、そのリボンを握らせた。

 

「私、それを取りに戻ってくるから。それまで待ってて。だから約束だよ。........私は、必ずここへ帰ってくる。その間、それはそのっちが預かっといてくれない....?これは約束の証。」

 

そう言って須美は再び立ち上がり、勇者システムを起動させる。

 

「なるべく早く帰ってくるから!....それまで、少しだけ待っててね!」

 

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(はっ!?........あれ、時間が飛んだ....!?戦ってる音も聞こえない....そして樹海の風景も少し違う....。)

 

園子は、これは夢で間違いないと確信した。そしてなによりよかったと思った。だが....夢にしてはあまりにも鮮明すぎる。足や手が切断される感じ、相変わらず不気味な動きをするバーテックスたち、須美たちの会話....なにもかも現実で起こっているかのように、鮮明でリアリティに溢れていた。

そんなときだった。

 

(....!あ、あれは............わっしー!?)

 

遠くに見える人影が一つ、こっちに歩いてきていた。辺りは戦いの影響で遮蔽物が減り、とても見晴らしがよかった。それもあって、園子はこちらに向かってきているのが須美だとすぐに判断できた。

 

(よかった....!まさかあの数を『満開』なしで倒したなんて....!!わっしーもミノさんもすごいよ!本当....に.........。...?)

 

だんだんと近づいてきている中、園子は彼女の異変に気づいた。

須美は残酷な姿となって、それでも園子の元へたどり着こうと歩いていたのだ。

 

(........う、うそだよ....そんな........わっしーが....)

 

須美の左腕は肩から下が無く、腹からは勇者服に染みるほどの出血、左目が潰されて開かなくなっており、同じく潰れた左足を引きずりながら一生懸命歩き続いていた。

 

(なんでこんな傷ついたわっしーを、私は見なくちゃいけないの....!?しかも、さっきから無駄に鮮明すぎるんだよ....!夢ならもっと曖昧でいいのに!!)

 

須美はやたらと体の左側ばかり傷を負っていた。もちろん、その理由は戦闘に参加していなかった園子が知る由もない。

ようやく園子の近くまでたどり着いた須美は、安心したかのように微笑み、園子の横にドサッと倒れた。

 

(わっしー!!しっかり!!)

 

なんとか訴えようとするが、やはりどこも動かない。すると、須美がかすれた声で話し始めた。

 

「そのっ....ち........ぎ........ん........あなたたちとの約束........果たした....わよ....。」

 

(え....?そうだ、ミノさんはどこ!?)

 

このときだけ、園子の言ったことが伝わったかのように須美はその質問の答えを言った。

 

「あぁ........そうだ....ごめんね、そのっち........銀はダメだった........もう....三人みんなで帰るって約束は........果たせない........。銀は、最期まで勇敢に戦った....わ....。最期は、敵が放ったでっかい火の球から私を守るために、私をかばって........銀はそのまま火の中へ........。」

 

須美の目の光は、もう消えかけていた。須美が逝ってしまうのも、時間の問題だった。

 

「でもね........そのっち....私は最後に銀と約束したのよ....。『お前は園子のところへ行け』って....『最期までなんとしても園子だけは守れ』って........。」

 

(!?........なんで、私だけそんな....!)

 

「そのっち....聞こえてないかもしれないけど、今ここで........ずっと私と仲良くしてくれたお礼を言いたい。........改めて、ありがとう....そのっち....。おかげで私は....短い人生だったけど、とっても楽しかったわ....。銀、あなたにも感謝してる....。」

 

須美はそう言うと最後の力を振り絞り、残った右手で園子の左手を強く握った。園子は、須美が泣いていることに気づいた。それが死に対する恐怖なのか、約束を守れたことに対する安心感によるものなのか、園子にはわからなかった。

 

「....さっき渡したリボン、あげるわ。私が持ってても、意味ないしね....。つけてくれると....うれしいな....。あとそのっち........あなただけでも....生きてくれていればいいの........あなたさえ生きていればいずれ....良い未来がやってくる。」

 

(え........?)

 

「そのっち........あなたは、私たちの........『希望』だから....。」

 

(........!........わっしー....?ねぇ、わっしー!!)

 

その言葉を最期に須美の目から光が消え、まぶたを閉じた。しかし、そのときの須美の顔は美しかった。まるでスヤスヤと安眠しているかのような、天使のような綺麗な顔だった。とても死んでいるようには見えなかった。

そんな須美の顔を、園子は永遠と見続けていた。この記憶を忘れないために。

やがて鎮火の議が始まり、辺りが輝き始める。その光によって須美の顔が照らされた。横たわっている須美も含め、園子の周りはここが天国かと錯覚するくらい神秘的な情景が広がっていた。

 

(わっしー....ミノさん....二人は強いよ。たった二人で、『満開』なしであの数に勝てちゃうなんて。本当に、私は二人のことを尊敬するよ。自慢の友達だ。........この風景....きっと二人は天国に行けるね。お迎えが来たんだ。)

 

そして、目がだんだんと霞んでくる。もうすぐ目が覚めるのだと思った。

 

(........何度だってやり直すよ、私は。何回だって二人を助ける。守ってみせる。....だからわっしー、ミノさん....それまで待ってて。)

 

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園子はゆっくりと目を覚ました。むくっと起き上がり、自分の手足を確認する。やはりあるのは左手だけであった。

 

(あぁ....この未来があるのも夢なら良かったのに....。)

 

そして園子は、起きた瞬間に思い出した。例の神官から話されたこの世界の歴史を。

まず、三人で最後のお役目を迎えられたこと。だが侵攻してきたバーテックスの数が異常で、なんとか一命を取り留められたのは園子ひとりだった。それから園子はしばらく鬱状態が続き、一日中ボーッとしている毎日がしばらく続いていたらしい。理由として、最愛の友達二人と自分の手足を欠損したショックからと考えられている。その事実から、人とコミュニケーションを図るのは難しいと考えられ、『世界をまもるために命を捧げた勇者』として祀られる結果となったらしい。この教訓を生かし、大赦はより武器を強化する『満開システム』を開発。後に讃州中学で勇者となる者たちの端末に実装された。

そして、讃州中学にて勇者になった者は全部で5人。結城友奈、犬吠埼風、犬吠埼樹、三好夏凜、そして楠芽吹....。その5人で見事、お役目を全うし、300年以上続く天の神との戦いに決着をつけた。これがこの世界の歴史。しかし、まだまだ疑問点はあった。元の世界では自分も含め6人勇者がいたはずだ。端末の数が6個あるなら、大赦は余すことなく使うはずだ。なのになぜ5人なのか。他にもまだ勇者候補生がたくさんいるのだ。代わりならいくらでもいるはずだ。

 

「園子様、失礼いたします。」

 

「....!!....安芸先生!いいところに来てくれた!」

 

「またなにかお尋ね事でございますか?....ですがその前にお薬を。」

 

「あっ、うん....。」

 

園子は神官に水と幻肢痛を抑える錠剤を渡され、それを飲み込んだ。

 

「....それでね、聞きたいことなんだけど....。ゆーゆ....こほん、結城さんと犬吠埼姉妹の三つの端末、そして私たち神樹館勇者の端末三つ....全部で六つあるはずだよね?なのになんで勇者は五人だけなの?」

 

「それは、三ノ輪様の端末が復元不可となるほどに壊れてしまっていたからです。」

 

「ミノさんのが....?なんで....。」

 

「....三ノ輪様は原型をとどめていないほどの焼死体として発見されました....。そのせいで、端末が無事なわけがなく....」

 

「焼死体....!ミノさんが....!?」

 

園子は夢の内容を思い出した。確か須美がそんなことを言っていた気がする。もしやと思い、園子は食い入って聞いた。

 

「わっしーは!?....どんなだったの....?」

 

「....鷲尾様もひどい状態でした....。四肢の一部が欠損、大量の出血、跡形もなく潰された左目....もうその時点で手の施しようがありませんでした。....ですが発見されたとき、園子様のお隣におられました。まるで園子様を安心させるために寄り添うかのような感じで....。」

 

「........!!やっぱり....!」

 

夢と現実、見事にリンクしていた。これならやけに夢の内容が鮮明だったのも頷ける。そしてあの夢は、この世界の『私』の記憶だったのだ。気絶していたにも関わらず、耳に入ってちゃんと記憶に残っていたのだ。

 

「....ちなみに、園子様の端末の継承者は三好夏凜様、鷲尾様の継承者は楠芽吹様でございます。お二人ともとても優秀で、どの戦いにおいてもお役目に貢献なさってくださいました。」

 

「そう....。さすがあの二人....。」

 

勇者が5人である理由と芽吹と夏凜の活躍を聞き、園子は次のステップへ動き始めた。

 

(....これでこの時代の情報は十分に集まった。まず、やっぱり『満開』の力なしでは最後の戦いに勝てないということ。そして、私がいた元の未来で『満開』の力が実装されていたのはおそらく....ミノさんが命を失ったから。誰かが大きな被害を受けない限り、大赦は勇者システムを改善しない....。全く....どの世界でも相変わらずだな、大赦は。)

 

「....三ノ輪鉄男くんに会わせてくれる?」

 

園子は唐突に神官にそう聞いた。

 

「........申し訳ありませんが、大赦の上官、そしてご家族しか面会は許可されておりません。どうかご理解を....」

 

「三ノ輪家は大赦の中でも高い位についてるよね?金太郎くんも三ノ輪家の御曹子....。彼もそのうち上官になるんだから別にいいんじゃない?」

 

「....といってもまだ鉄男様は成人されておりません。正式な大赦職員でもなく、三ノ輪家の跡を継いだわけでもございません。許可はできません。」

 

「....それがお父さんの意向なの?」

 

「........。」

 

鉄男と接触できないとなにもかも始まらない。園子は少し焦っていた。なんとかして会わなくては。園子は説得するため、話を続ける。

 

「お父さんの考えなんだね?私が最近まで鬱病で、ようやくよくなってきたから。今は大切な時期だからなるべく誰にも会わせたくない、と....。そういうことだね?」

 

「........。」

 

「しつこかった大赦の人たちも、素直に私の言うことを聞くようになったのは....病んでしまった私の心に、なるべく負担をかけないようにするため....だったんだね。」

 

「........すべて、わかっておられたのですね。」

 

「....そうだよ。私はそれをわかってて言ってるんだよ。もう一度言う。....三ノ輪鉄男に会わせて。」

 

「........なりません。」

 

「!?....なんで....?これだけ言ってるんだよ?」

 

「私個人の判断で勝手に決定していいことではございません。まずは、園子様のお父様にお話してから....」

 

「私自身が言ってるんだよ?........お父さんに相談する必要なんてないよ。」

 

「ですが........」

 

目の前の神官がまた否定しようとした瞬間、突如として神官の首もとに手刀が入れられる。

 

 

トンッ

 

 

その流れはキレイだった。間違いなく訓練されている動き、そしてその手刀が入るまで園子はその人物に気づかなかった。神官は眠るように倒れ、手刀を入れた人物が体を支えてゆっくりと地面に寝かせた。

 

「........!?え....!!....あなたは....!」

 

園子はその人物に見覚えがあった。園子のいる部屋は大赦の中でもトップレベルに警備が固いはずだ。それをかいくぐり、先ほどのように静かに忍び込んでここまでたどり着いたのだろうか。園子は目の前の人物に、たった一人でそこまでできるとは思わなかった。

 

「め、メブー!?」

 

「....園子....この未来は最悪ね....。一体何があったって言うの....?」

 

芽吹は園子に出かける準備をするように促す。

 

「ちょ、ちょっと待って....どういう....」

 

「そんな待ってる時間も、質問に答えてる時間なんてものもない。急ぎなさい。....バレて捕まるのも時間の問題よ。」

 

考えてみれば、芽吹には前の未来でタイムリープのことを話していた。そのため、芽吹も未来の変わった瞬間に気づいたのだ。おかげでほぼ監禁状態だった場所から逃げられる。芽吹に話していたことが功を成した。

そして芽吹は園子に対し、背中に乗るように促す。

 

「........よくわかったね。ここが。」

 

「そんなもん、ちょっと調べればわかることよ。園子が昔、祀られてたのは別のあなたから聞いて知ってたからね....。」

 

『別のあなた』とはつまり、銀と須美の立場が逆で、一つ前に見たあの未来の園子のことだろう。

園子は芽吹の背中に背負われ、それを確認した芽吹は全速力で駆け始めた。そして芽吹は言う。

 

「園子....私は、あなたを助けにきた!」

 

(第19話に続く)

正直物語の今までの展開は

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  • おもしろい
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  • つまらない
  • かなりつまらない

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