芽吹は携帯を片手に、たまに誰かと通話しながら大赦内を走り回っていた。
「もう少しの辛抱よ、園子。」
芽吹はそう言うと走るスピードを上げ、ラストスパートをかけた。向こうには扉があり、芽吹はそれを勢いよく開けた。その瞬間、光が差し込む。太陽の光だ。
「こっからは私が案内するよ。」
「え?」
「ここは見覚えある。抜け道とかいろいろ知ってるからね~」
「さすが園子ね。....わかった。お願いするわ。」
芽吹は園子の案内の通りに動き、大赦本部から離れることに成功した。
「....ここまで来れば大丈夫なはずだよ。」
「はぁ....はぁ....さすがに疲れたわ....。」
「メブーお疲れ様~。私を背負ったままこの距離を走り抜けるなんてすごいよ~。本当にありがとね~。」
「いえ....園子を救出できたのは私一人だけの力じゃないからね。」
「........やっぱり協力者が....?」
園子がそれを聞いた途端、奥の道の角から誰かが現れた。
「その人が........乃木園子....さん....?」
と、その人物は恐る恐る尋ねてきた。
「!?....ふ、フーミン先輩....!?」
角から出てきたのは犬吠埼風だった。その時、なぜか園子は風が自分を恨んでるような目で見てきたように感じた。
「....園子、この未来では風はあなたのことをよく知らない。それをしっかり理解して。」
芽吹は小声でそう言い、園子は小さく頷いた。芽吹は息を整えながら風に近づく。
「そうです。彼女が乃木園子。....風先輩もここまで逃げてきたんですね。あなたの協力のおかげで助かりました。ありがとうございます。」
「な~に、監視カメラ制御室をぶん取っちゃえば例え大赦が相手でも楽勝よ!でも........ここまでしたからには、大赦も黙っているはずがない。協力したはいいけど、直に見つかるのも時間の問題よ?」
「そうですね....。その前に早く実行しなくちゃ。」
(実行?....なんだろう実行って....。それに、フーミン先輩はろくに私のことも知らないのになんでこんな危険な話に協力したんだろう....。)
芽吹が電話で話していた相手、あれは風だった。まず風が監視カメラ制御室を制圧。その部屋で園子のいる部屋を探り、それから電話で芽吹をサポート....こういう流れだったのだ。それにしても、まさか二人で大赦のセキュリティーを突破してしまうとは。もちろん二人が強いというのもあるのだろうが....。きっと二人にとっても大きな賭けだったに違いない。
「大赦のヤツら....痛い目見てるかしら....?」
突如としてそう呟いたのは風だった。
「えっ....?」
「散々私たちのことを騙しておいて....これくらいじゃ全然足りないけど、仕返しできたならスッキリしたわ!........今頃あいつら、血相を変えて園子さんを探し回ってるのかしらね....。ヤツらの顔が見れないのが残念だわ。フフフ....。」
「え、えと....風先輩....?」
「あっ、いやなんでもないわ!移動しましょ!」
(もしかして....フーミン先輩が協力したのは大赦に仕返しをするため....!?そのためにこんな危ないことするなんて....相変わらずぶっ飛んでるなぁ、フーミン先輩....。)
三人は風が手配していたタクシーに乗り込み、ある場所へ向かった。園子は、芽吹がタクシー運転手に行き先を伝えたとき、『実行』の意味も芽吹のしようとしていることもすべてわかった。
「風先輩....みんなは?」
「大丈夫。みんなまだ依頼をこなしているところよ。そして、誰にもバレてない!」
「よかった....。」
「フフフ....これが勇者部元部長の居候の力よ!........それで....乃木園子さん....でいいのよね?」
「あっ、はい。....私、あなたよりも年下ですから『乃木』でいいですよ~。」
「いえ....。あの....失礼なのですが、その体は....。」
「あ~、三年前の戦いでこうなっちゃったんです~。」
「やはり....あなたが唯一の生き残りの先代勇者....なのですね。」
「そんな堅くならなくたっていいですよ~。」
「あなたも........同じ大赦の被害者....私たちの仲間、ですね。つらかったでしょう....。一緒に戦った友達も失って....。三年前の勇者システムは私たちの時よりもずさんだったと聞いております....。」
風はそこまで言うと園子の残った左手を握った。
「私はあなたに協力します。....同じ勇者だった者同士ですから!」
園子はそのとき、風のことを信用できる........とは思わなかった。
なぜだろう。こんなにも強く私の気持ちをわかろうとして、行動してくれているのに。風の目の奥深くからほんのわずかだけ邪悪な心を感じる。本当は私に協力したい、などと思っていない。園子は不思議とそう感じた。だが、園子はそれを気のせいだと捉えることにした。あのフーミン先輩がそんなことを思うはずがない。私に対してそんなこと....。と、思うことにした。
「ありがとうございます!風さん!」
園子はそう返事をし、風の手を握り返した。
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目的地周辺まで来ると、三人はタクシーを止めて降りた。直接目的地まで行かないのは後のことを考えて大赦に行き先を悟られないようにするためであった。
「私たちがタクシーを使って移動したことなんてすぐにバレる。もしかしたらもうバレてるかも....。芽吹、急ぎなさい。」
「えっ....?」
「『えっ』ってなによ。ここからは二人で行きなさい。........ほら私はさ、勇者部のこととかあるし....。」
「さっきあれだけ思い切って園子に『あなたに協力します!』とか言ってたのにですか?」
「だからこれも園子さんのためよ!........どうやらこの近くに夏凜が来てるらしいのよ....。」
「えっ!?....ここ大橋の近くですよ!?」
「こっちまで依頼が来てたみたいなのよ!勇者部の名が馳せるのはいいことだけど!ってことで私が時間を稼ぐから!....ほら早く!」
「そういうことだったんですね....!わ、わかりました!ご協力、改めて感謝します!また後で会いましょう!」
「ええ!最後までがんばってネ~!」
芽吹はまた走り出し、園子は後ろを振り返って手を降り続けている風を見ていた。
「........大丈夫よ。風先輩には私とあなたが小学校の頃の同級生ってことで話合わせてる。そしてこの計画を話したのは風先輩だけ。風先輩が一番大赦に恨みを持ってて一番協力してくれそうだったから。他の部員には話してない。だからなにも知らない。できるだけ巻き込みたくなかったからね。」
「えっと........フーミン先輩はもう高校生だよね?」
「そうよ。でも、高校はちょっとだけ春休みが長いみたい。まだ春休み中らしいわよ。」
「へ~....」
「?....どうかした?」
「いや........ちょっと気になったっていうか....。」
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「風、みっ~け!」
「わっ!夏凜!?き、奇遇ね~あははは。」
「わざとらしすぎるわ!....それで、あんたなんでここにいんの?さっき芽吹ともう一人、誰かと一緒にいたでしょ。」
「ギクッ........まさか見られてたとは....。」
「甘いわね。さあ、洗いざらい白状しなさい!」
「........ぅぅ~....」
「........な~んてね。芽吹が背負ってた子、あれ先代勇者の乃木園子でしょ。」
「!?」
「その顔....やっぱり図星ね。聞いてた特徴と一致してるのよ。三年前の戦いで部位欠損....そして綺麗な長い金髪。おまけに今大赦も騒いでる。」
夏凜はそう言って風にスマホを見せた。そこには大赦からのメールで風たちを捜すように書かれていた。
「........さすがね、夏凜....。」
「私にまで隠してこんなことするなんて水くさいじゃない!....一体なにがあったの?」
「私は何も知らない....芽吹に頼まれて、それに従っただけ。これは本当よ。」
「そう....。」
「でもね、乃木園子と話した。....そしてよくわかった。アイツはなにも知らない。三年前、自分のせいで現実世界にどんな影響が現れ、私たちが苦しんだか....やった本人が何も知らない....。話してみて分かった。」
「風....まさかそれを確認するために協力を....?」
「....三年前、大橋が壊れた日。そこら中災害だらけになった。あの時は、あんたもニュースで見て覚えてるでしょ?....私の家は火事になって、両親はそれに巻き込まれて死んだ。....そして樹は数週間意識不明になった。今でもそのときの火傷は、樹の体に生々しく残ってる。」
風はそう言うと服をめくって自分の腹部を夏凜に見せた。
「私も....私のお腹にも火傷がまだ残ってる....。樹ほどひどくはないけどね。私はなによりも家族を壊されたこと、そして樹が傷つけられたらことが許せない。自分のことよりそっちの方が何倍もつらい!だって....あの傷は一生消えることはないんだから....!樹は一生あの傷を背負わなければならないのよっ....。」
「うん....。よく知ってるわ....。でもあの勇者は....!」
「『あの勇者が一生懸命戦ってくれたから今の世界がある』....でしょ?それは実際に私たちも勇者をやって痛いほどよくわかった。でもね....私にとって家族を傷つけられた苦しみは、どんなことよりも苦しいのよ!この恨みは....樹の傷と同じように消えることはないのよ!!」
「....!!ご、ごめんなさい....!あなたの気持ちもよく知らないで....!」
「....いいのよ。あ~あ、なんで私は世界一嫌いな人間を助けちゃったりしたのかねぇ....。あれだけ恨んで呪った先代勇者を。どんな顔してるか想像して、いろんな仕返しの仕方を考えた乃木園子のことを。私バカなのかしらねぇ~。いっそのこと、このあとやろうとしてることも失敗しちゃえば....」
「風っ!!........さすがに、言い過ぎだと思うわ....!お願いだから、それ以上喋らないで....!そんな風の言葉聞きたくない....!樹が聞いたら悲しむわよっ....!」
「........。.....ごめん!さすがに私が悪かったわ!確かに言い過ぎよね!さて....讃州中学に戻りますか!」
風は気持ちを切り替えたふりをして夏凜と共に讃州中学を目指す。
(乃木園子....あんたはもっと苦しむべき存在よ。あんたが世界の人たちにしたことは、その程度で終わることじゃない。)
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「よし、着いた....。見た感じまだ大赦には気づかれてないみたいね....このままうまくいけば....!」
一方、芽吹たちは目的地に到着していた。二人が目指した場所、それは三ノ輪鉄男の自宅であった。芽吹はキョロキョロしながら三ノ輪家の門をくぐると、静かにインターホンを押した。が、返答はない。
「あれ....?外出中かしら....。」
「だって今日平日でしょ?ご家族は仕事と買い物って考えて....。もしかしたらてっちゃんは....」
「小学校ってこと!?........私としたことがうっかりしてた....。それを視野に入れてなかった....!どうしましょう、せっかくここまで来たのに....!下手に動けば大赦に見つかってしまう....!」
「落ち着いてメブー!....大丈夫だよ。きっとなんとかなる。ここから神樹館小学校まで移動しよう!」
「........夕方になるまでここで待ってても見つかるのも時間の問題....。そうね。一か八か、行ってみますか!」
芽吹はまたキョロキョロしながら慎重に歩き始める。
「芽吹....ちゃん....?」
「!!」
そのとき、突然後ろから声をかけられた。芽吹は名前を呼ばれ、すぐさま振り返って身構える。が....
「えっ!?ゆ、友奈!?」
そこにいたのは結城友奈であった。
「どうしてここに!?....依頼は!?」
「えへへ~....サボってきちゃった~。それより、背中の子は....。」
友奈はおぶられている園子を心配そうに見る。
「....!い、いえ!彼女は私の友達なのよ!」
「ケガ....してるよね....?それもかなりひどい....。」
「こ、これは....!」
芽吹はそう言いながら後ずさりする。
(やばい....!友奈にバレた....!どうする!?逃げるか!?)
友奈は芽吹を壁際に追い詰めると、彼女の耳元に顔を近づけて言った。
「....大丈夫だよ。私、全部知ってるから。」
『えっ....?』
それを聞いた二人は戸惑った。
「それはつまり.........どういうこと?」
「私、この前ね....そのちゃんの病室から二人の会話が聞こえてきちゃって....。そのちゃん、タイムリープしてるんでしょ....?」
『!?!?』
二人は驚愕した。まさかあれを聞かれていたとは。
「ごめんね!盗み聞きするつもりはなかったんだ....。でも、本当にあの後世界が変わって、気づいたらみんなそのちゃんのことを知らないんだもん....。びっくりしちゃったよ。もしかしたらあの話をしてた芽吹ちゃんなら私と同じで、世界の変化に気づいてるんじゃないかって思って........しばらく芽吹ちゃんの行動を観察させてもらってたんだ....。」
「友奈....!知ってたなら言ってくれてよかったのに....!」
「ほ、ほらだって....!........そんなこと聞きにくいって言うかさ....なんというか....本当にごめん!」
「....わかったよ、ゆーゆ。教えてくれてありがと!これで仲間が増えたね!」
「えっ....?」
「本心を言うと、あんまり知られたくなかったけどさ........今のこの状況から考えて、タイムリープのことを知っている人が増えたのは心強いよ!」
「園子....。」
「わ、私もいろいろと知りたいことたくさんあるけど今はそのちゃんたちに協力するよ!私にできることなんかない?」
「そうね....なるべく園子を周りから見えないように隠してもらうとか....?」
「わかった!」
友奈はそう言うと芽吹の後ろにピッタリついた。
「これで見えないかな....?」
「う~ん....とりあえず進みましょう!友奈、私に息を合わせて!」
「う、うん!」
芽吹と友奈で園子をサンドイッチするような形で移動を始める。園子はそのとき、ふと友奈に質問をした。
「ねぇ、ゆーゆ....。」
「なに?そのちゃん。」
「ゆーゆってさ........わっしーのこと知らないんだよね....。『東郷美森』って子....知らないんだよね....?」
「東郷....美森....?さぁ....。そのちゃんのお友達?」
「そう....だよね....。ううん、なんでもない。忘れて!」
あの時、友奈が園子たち二人の会話を聞いていたとするならば、あの時初めて知ったとするならば、今の友奈は須美との面識がない友奈だと言うこと。銀と須美の立場が逆で、銀が園子の目の前で自殺をしたあの世界。今の友奈は須美のことを知らない....。ただの確認だったが、いざそれを知るととても胸が苦しくなった。
(二人は親友なのに....今のゆーゆはわっしーのことを知ってすらいない....。なんか....それだけで目の前の女の子がゆーゆじゃないみたいに感じる....。)
三人は巧みに体を使い、見事神樹館小学校にたどり着いた。ここまで来てもうヘトヘトになっていた。
「はぁ....はぁ....さすがにここにはいるはずよね....?」
「そろそろお昼休みのはずだよ。....お昼休みなら会えるかもしれない....!」
「見て!子どもたちがいっぱい校庭に出てきた!遊びに出てきたんだ!」
「昼休みが始まったんだわ....!まさに今がチャンス!鉄男くんはどこ....?」
「........。あっ!あそこ!」
園子は見逃さなかった。ボールを持って友達と一緒に歩いてきている。
「あのボールを持った子ね....?よし、任せて!もう一走り!」
芽吹はそう言って鉄男のところへ向かおうとしたとき、急に目の前に立ちふさがる人影が一つ。
「....っ!?」
芽吹は立ち止まり、その人物の顔を見上げた。
「えっ!?ふ、風!?....讃州中に戻ったんじゃ....!?」
「乃木....園子さん........あの言葉、訂正させていただきますね。」
「えっ....?」
明らかに何かおかしかった。さっき見た風とはまるで風格が違う。....怖かった。芽吹も不気味な風を見てゾッとしていた。鉄男のもとへ走ろうとしていた体は思わず止まる。
すると、風の手元が太陽の光に照らされてギラッと光った。刃物だ。刃物を持っている。
「『あなたに協力する』という言葉....訂正させていただきます。そして、あなたに対して『もっと苦しめ』と思っていた私の心も訂正する。」
風は右手に持っていた刃物を両手でがっしりと持つとこう言った。
「あなたは私の手で....樹の傷と、両親の無念、そして三年前の大災害で死んだ多くの人たちの復讐を今........晴らさせていただきます....!」
(第20話に続く)
正直物語の今までの展開は
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かなりおもしろい
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おもしろい
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普通
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つまらない
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かなりつまらない