乃木園子は勇者である ~リベンジの章~   作:てんぱまん

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【第23話】Even stronger more

 

また学校の毎日が戻ってくる。園子はいつも通りに登校し、放課後に須美と銀から遊びの誘いを受けたが断った。そしてできるだけ早く家に帰った。そこからランドセルを置き、私服に着替えて父親の私物であるちょっと大きめのコートを持って大赦本部へ向かった。その理由はただ一つ。大赦から満開の機能の設計図を盗むため。できれば大赦の人間がどんな気持ちでこれを作ったのかも知りたかった。しかし、それを知るのは困難だろう。満開のことなんて機密事項に決まっている。大赦内でもかなりの上官でないと知らないだろう。それでも園子はひとりで向かった。二人にまだ詳しく話していない以上、危険を犯す行為はひとりでこなすしかなかった。見つかったとしても乃木家の一人娘だ。まだ小学生だし、両親にはひどく怒られるだろうが処罰は受けないだろう。それに園子は大赦本部の構造をよく知っている。彼女は持ってきた黒いコートを着てフードを深く被り、いつも通り警備が薄い死角から忍び込んで上官がいる部屋を目指した。大赦本部内はなぜか暗い。園子は毎回、こんな暗くする必要なんてあるのかと疑問に思う。だが今だけはそれが逆に潜入しやすく、隠れやすかった。

 

(今のところは順調...だけどこの先は........)

 

園子は廊下の角からしゃがんで体を小さくしながら行き先を覗き、行くタイミングを見計らう。

 

---その時だった。後ろからいきなりトントン、と肩をたたかれた。園子は驚き、バッと後ろに下がって肩をたたいた人物の方を見る。....神官だ。大赦の人間。例の仮面、大赦の正装をして立っている。とうとう見つかってしまった。

 

「やっぱり........乃木さん....よね....?」

 

神官が最初に発した言葉はそれだった。

 

「え....?」

 

意外にも、この神官が発した声は聞き覚えのある声だった。

 

「もしかして....安芸先生!?」

 

「しっ!乃木さん、大きな声を出したら他の誰かに見つかるわ。....とりあえずこっちに来なさい。」

 

「!....はい....!」

 

正体は彼女の担任であった。担任の安芸先生なら何か知っているかもしれない。逆に園子はこれがチャンスなのではないかと思った。

 

「乃木さん....私はあなたが大赦に忍び込んでここまで来るのをずっと見ていたわ。そしてあなたの跡を追っていたの。....あなたがなにするのか気になったからね。でもあそこから先は高い権力を持っていないと入ってはいけない部屋よ。私でも、許可が下りたときだけしか入れない。」

 

「そうですか....大赦に入られるところ、見られてたんですね~。最初からバレてたってわけだ~。」

 

「........。」

 

安芸は園子を小さな一室へと案内すると部屋のほとんどを占めているベッドに座らせた。そのあと大赦の仮面を外し、自身もベッドに腰かけて園子の隣に座った。

 

「........乃木さん、あそこから先まで行ってなにをしようとしたのかしら?....まさかだけど、もしかしてあの先がどんなところか知っていたの....?」

 

都合がいい。向こうから聞いてきてくれた。園子は唾を飲むとこう言い、聞き返した。

 

「....そうですよ。あの先がどんなところか知ってた。....そこまで行って知りたいことがあったんです。きっと、そこにしかないと思ったから。........安芸先生は何か聞いてたりしませんか?........その....勇者システムの強化、とか....。」

 

「勇者システムの強化....?いや、今のところ聞いていないわね。....でも、その質問があの先まで行こうとしたことと何か関係が?」

 

園子はそこまで安芸に聞かれたところで迷った。彼女にタイムリープのことを明かすべきかどうか。バカにされて終わりか、素直に信じて協力してくれるか。ここは賭けるしかないのか...。これを言うということはかなりのリスクが生じる。そこで園子は一旦うち明けるのを先延ばしにした。

 

「もしかしたら........勇者システムの強化の話が出てたりしないかな~....って。最近、バーテックスの侵攻も増してますし。........そろそろ今のままじゃ厳しいかもしれないから。」

 

「確かに....三体来たときもあったわよね?....その時は乃木さんも重傷で、三ノ輪さんも身体中傷だらけだった....。勇者システムの強化は必要かもしれないわね。」

 

「....!じゃあ強化してくれって、上の人にお願いしてくれませんか~....?お願いします~。」

 

園子は両手を合わせ、頭を下げて頼む。とりあえず今はとにかく強化が必要なのだ。そしたら、一刻も早く満開に隠されている副作用を二人に伝えなくては。

 

「........わかったわ。そういう話が出ていないかも確認してみるし、出てなかったら頭を下げる。」

 

「わ~ありがとうございます~!........で、もう一つお願いしたいことがあるんですけど....」

 

「なにかしら?」

 

園子は少し睨むようにして安芸を見ると、声を低くしてこう言った。

 

「お偉いさんたちがそれを許可して....勇者システムが強化された後、何も隠さないで話して欲しいんです。...強化された勇者システムがどんな力を持っていて...どんなデメリットがあるか...。使うのは私たちだから、全部話して欲しいんです。三人全員にね。」

 

安芸は雰囲気が一変した園子を見て血相を変えて驚いた。

 

「............あ、あぁ....わかったわ。全部....話す....。約束する....!」

 

安芸は園子に気圧され、そう答えてしまった。安芸からはその時だけ彼女が別人に見えた。その答えを聞いた園子は先ほどの顔が嘘のようにパッと笑顔になり、

 

「よかった~!じゃあよろしくお願いしますね、先生~!」

 

と言った。....元の園子に戻った。

 

「の、乃木さん....。」

 

「?....どうかしました~?」

 

「い、いえ........やっぱりなんでもないわ。」

 

安芸は大赦本部から園子を帰すと、自分の部屋に戻って考えた。園子が自分を睨む顔が、頭にこびれついている。あの剣幕のある顔を、小学生ができると思えない。

 

(乃木さんのあれは.........なんだったのかしら....。私の気のせい?........どこか貫禄があるような....大人みたいなキリッとした表情....。とてもあの乃木さんとは思えなかった....。)

 

このとことを安芸は忘れることにした。考えたってしょうがない。というか、考えれば考えるほど嫌な想像ばかり膨らんでしまうからだ。園子だってきっとそういう顔をするときがあるのだと思うことにし、自分の仕事に戻った。

 

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---------

 

---

 

「........乃木さん。ちょっといいかしら。」

 

「は~い!」

 

それから数日後、園子は学校にて安芸に呼び出され、誰もいない多目的室へと連れてこられた。

 

「ここなら誰も使わないし、来ないと思うわ。」

 

安芸はそう言い、園子を椅子に座らせて向かい合った。

 

「........あの話、ですよね。通ったんですか?」

 

「うん...。確かに勇者システムの強化という案は存在していた。けど........それはあなたたち勇者の中から戦闘不能、もしくは犠牲が出たときに実装するつもりだったそうよ...。勇者の誰かがそうならないと実装する気がなかったなんて、本当にひどい話だと思ったわ...。」

 

「それはつまり、その強化後の勇者システムが危険だから...ということですよね?強化がいつでもできるのにそうしないのはそれが理由...。そうですよね?」

 

「...!!!............。」

 

「答えてください安芸先生。....どんな機能か全部聞いたんでしょう?何も隠さないで全部話すって、約束しましたよね?」

 

園子は安芸の目をじっと見つめ、次々に口で攻めてくる。そこで安芸は思い切って尋ねてみた。

 

「............乃木さん、もしかして....何か知ってる....?なぜそんなに焦っているの?」

 

「....!!...なんにも...知らないですよ。ただ、早く知りたいじゃないですか。どんな力なのか。」

 

園子は安芸から目をそらし、うつむいてそう言った。その反応を見て安芸は園子が何か知っていると確信を持った。

 

「...わかったわ。約束通り、全部話す。けどね........私は新しい勇者システムの内容を勇者たち本人には絶対に教えるなって口止めされてるの。大赦の上層部からね。だから...絶対に外で勇者の話をしちゃダメよ。私以外の大赦の人に聞かれても答えてはダメ。........約束してくれる?」

 

「うん...もちろんです...!」

 

と、園子は安心したみたいに顔を緩ませた。

 

「...あなたたちの、これからに関わってくる。今までとは段違いの力を手に入れる代わりに、失うモノが必要になってくる...。とても........残酷な話だけどね...。」

 

安芸がようやく勇者システムの強化内容の全容を話そうとしたとき、園子が突然口を挟んできた。

 

「ふ~ん?残酷な話ねぇ....。先生はさっき、戦闘不能もしくは犠牲が出ないと勇者システムは強化されないことに対して『ひどい話』って言ってたけど....あれは本当?」

 

「え....?」

 

「お役目で死ぬことと、これからその残酷な目に遭う私たち...どっちが苦しいと思う?」

 

「その言いぐさ...。乃木さん........やっぱりあなた知ってるでしょ!なんなの、あなたは何者なの!?」

 

安芸は立ち上がり、大声で園子にそう尋ねた。もう我慢ならなかった。だが、いきなり安芸がそんな行動をしても園子は特にうろたえなかった。安芸は普段、こんなに怒鳴ったりすることはないから園子はすっかり驚くかと思えば、普段通りおっとりとしたまま冷静だ。

 

「まあまあ、落ち着いて~。...とりあえず座ってください~。」

 

園子は安芸を落ち着かせ、再びイスに座らせた。

 

「つい...熱くなってしまってごめんなさい...。それで新しい力のことなんだけど............」

 

「うん、知ってるよ。」

 

「え........?」

 

園子は突然そう呟いた。安芸は何がなんだかわからず、困惑する。

 

「最初から全部知ってた。...私ね、安芸先生が自分から言ってくれるのを待ってたんです~。あ、もちろん何で知ってるか気になりますよね~。それに、知ってるんならなぜ大赦に忍び込んだりしたのかも。」

 

そう言うと今度は園子がガタッと立ち上がり、安芸にキスするのではないかと思うくらい顔をグッと近づけ、目をパッチリ見開いてまるで安芸の目の奥を覗くようにした。安芸は園子の行動と彼女の狂人のような目に恐怖し、冷や汗をだらだらとかき始める。

 

「ねぇ........安芸先生~...?だから、これから私が言うこと信じてくれるかな~?」

 

安芸には園子が考えていることが全くわからなかった。........怖い。ただその一心。小学生の、少女の目ではない。死神に睨まれているようだ。金縛りにでも遭っているかのように動けなくなり、口をパクパクさせて声を震わせながら喋る。

 

「........ええ...。も、もちろん信じるわ...!どんなことでも!」

 

「........ふふ、そう~?」

 

すると園子は安芸の肩をがっしりと掴み、その瞬間安芸は驚いてビクッと体を振るわせた。やがて園子はしゃべり出す。

 

「その強化された勇者システムっていうのは、『満開』って機能でしょ?....『精霊』ってものがスマホに宿されていて、基本の勇者形態のときも攻撃力とかいろいろ上がってる。なによりも一番上がるのは防御力だよね?どんな攻撃を受けてもケガをしない。それどこらか、攻撃を受ければ受けるほど満開ゲージが溜まっていって、やがて満開できるようになる...。そして『満開』は今までとは比にならない高い攻撃力、機動性、広範囲攻撃を合わせ持つ...とても強大で次元を超えた力。...違う?」

 

「そんな...!間違いのない、完璧な説明...!?........そうよ!その通りよ!でも............」

 

「『でも』...。私、その先もちゃんと知ってるよ。........『満開』する度に供物として捧げるんだよね。どこか体の一部の機能を、神樹様に。...使えば使うほど、より強くなっていくけどそのまま戦い続ければ最後、人形みたいに動けなくなってほぼ脳死状態になる...。その状態って死に近いはずなのにね。...本当は死から遠ざかってるっていう矛盾が生まれるんだ。なんとも不思議でたちの悪い機能だよ。........それが、安芸先生の言う『残酷な目』...でしょ?」

 

「ぁ........ぁ........ぁぁ........?」

 

全部が全部図星で安芸は混乱していた。なぜ園子はすべて知っているのか。自分の心が読まれているのかのような感覚。最近園子の様子がおかしかったのと関係があるのか。安芸は思い切って聞いてみた。

 

「あなたは........本当に乃木さんなの...?」

 

安芸のその質問に、園子は少し黙ってからこう答えた。

 

「まぁ、一応ね。」

 

「い、一応........?」

 

「ここまで言って、ここまで攻めたんだから...さすがに疑り深い安芸先生でも信じてくれるよね...?」

 

「え...?」

 

園子はすうっと息を吸い込むと、静かに言った。

 

「実は私......未来から来た『乃木園子』なんです。今から約三年後の、神世紀301年からタイムリープしてきました~。」

 

「は...?タイムリープ...?未来から...?だから様子がおかしかったの...?だから...満開のことも知ってたってこと...?」

 

「そーゆーことです!........って私の様子がおかしいって気づいたのいつでした?」

 

「確かあなたが........大赦に忍び込んでたときが最初ね...。」

 

「あ~、ならよかった。作成通りだ!あれは私の演技で、わざと怖いようにしたんです~!今もこうやって顔近づけて怖い顔したのも、まじめな安芸先生にタイムリープのことを信じてもらうためにしたんです~!やっぱり威圧が一番かな~って!」

 

「!!...そうだったの...。よかったわぁ...すんごい怖かったのよ...?というか、普通に話してくれれば信じたのに。さっき話したことを普通に言ってくれれば誰だって信じるわよ。そんな情報、大赦のかなり上層部の人しか知らないし、組織の機密事項だからね。」

 

「安芸先生の場合は本当にそうですかね~...?」

 

「で........いつからタイムリープを...?わざわざ私に満開のことを聞いたのは...。」

 

「あ~...順番に全部話しますから落ち着いてください~。」

 

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---

 

翌日。鍛錬場にて。いつも通り鍛錬に励んでいた須美と銀は安芸に呼ばれ、近日行われる儀式について話された。

 

「新装備...?」

 

「おお!ついにもっと強くなるんだな!」

 

「ええ。でもその前に...。」

 

安芸の後ろから園子がひょこっと顔を出す。そして安芸の横に立ち、二人に告げた。

 

「きっと二人のことだからOKしちゃうだろうけど...。全部話すよ。勇者システムの新しい力、『満開』について。」

 

「その新しい勇者システムは『満開』って言うのか?」

 

「........。鷲尾さん、三ノ輪さん、くれぐれもこのことは内密にね。本当は勇者本人たちに教えるのは禁止されていて、もうそれは大赦の中で決まったことだから。........私が大赦に何も言わず自分の判断で乃木さんに許可した。『散華』のことを話すのをね...。」

 

『散華....?』

 

須美と銀は同時に首を傾げる。四人は正座で鍛錬場の床に座ると、やがて園子が話し始めた。精霊のご加護がつくことにより、ケガはもうしなくなること。武器が強化され、全体的に攻撃力が上がること。バーテックスの攻撃を受けると満開ゲージが溜まること。満開ゲージが溜まれば満開できること。そして........満開する度に体のどこかの機能を失うということ。さらにそれは、絶対に死ぬことのできない生き地獄を味わうということも...。自分が体験したことも含め、すべて話した。

 

------------

 

「........これで私の知ってることは全部。...安芸先生付け足しはない?」

 

「いいえ何も...。それよりも........乃木さんはそんな不自由な体で二年間も...。」

 

「........。」

 

園子はうつむき、少しだけ微笑んだ。

 

「...本当、嫌だったよ。あの時間は。でもね...過去に戻ってきて、またわっしーとミノさんと一緒に過ごせた。そのおかげで気持ちが軽くなったよ。吹き飛んだんだ~。...懐かしい思い出ばかりで、つまらない日、無駄な日なんて一日もない。前の世界では経験できなかったこともいっぱいしたしね~。これからは本当...私もどうなるかわからないよ。」

 

園子は今だからこそ、本音を話せた。須美と銀は顔を見合わせると、

 

「園子...話してくれないか、その二年間を。」

 

「私たち、そのっちの気持ちを少しでもわかってあげたいから...!」

 

園子は二人のその言葉を聞き、少し驚いた表情をする。それからすぐに口を開いた。

 

「うん...いいよ。この気持ちを人に話すのは初めてだね~」

 

園子は、心の内をすべて話した。全く体が動かない中での生活、しょっちゅう夢に出てくる須美と銀、戦いの結果を聞くことしかできない(神世紀300年)現勇者の活躍を...。

 

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「すぅ........はぁ~....ふふっ!スッキリしたよ~!!」

 

園子は、話を終えたところで深呼吸をすると笑顔でそう言う。が、園子以外の三人は真逆の顔をしていた。こんな経験をしていて、なぜ園子がこのような態度を取れるのかとても三人には理解できなかった。園子の精神力はいかなるものなのか。

 

「私は........その『満開』とかいう力で記憶を失うのね...。たった二回しか『満開』しなかった上に、機能を失ったのは足と記憶だけ...。私はすべてを忘れて、二人のことも忘れて...何事もなかったかのように中学校生活を送ってた...。そのっちがひとりぼっちなのに、近くに寄り添うこともしないで....。............私は、私はなんて酷なことを...!!」

 

須美は膝の上で拳を握りしめ、涙をこぼす。

 

「...わっしー、しょうがないんよ~。...散華には、神樹様には、逆らえないんだから。だから気にしないで。大丈夫だから。...今となっては別の未来の話だしね~。」

 

園子はゆっくり須美に近づき、優しく抱いてあげた。

 

「........私は、わっしーが元気に過ごしてくれててとっても嬉しかったよ~。中学生のわっしーと初めて会ったときにね、わっしーは中学でできた親友と一緒にいて、周りの友達にも恵まれて、ちゃんと学校生活も両立させてて........すごく幸せそうで嬉しかった。」

 

その言葉に嘘はなかった。すべて本心だ。が、園子は初めてそのとき思っていた自分の気持ちを付け足した。

 

「けどね........同時にすっごい羨ましいな~って...思っちゃったんだ...。私もわっしーと一緒に中学生活を送りたかったな~って、友達作って普通の生活してみたかったな~って........思っちゃったんだ。」

 

「...!」

 

「お役目さえなければ...バーテックスさえいなければ...ミノさんも生きてて、私もこんな目に遭わなくて、わっしーも記憶を失わずに済んだ。三人で過ごす幸せな未来が待っていたはずだった...!」

 

「でも園子........お役目がなきゃあたしたちそもそも関わってなかったよな。...なかったらなかったでそれは...」

 

「そうだよねミノさん。...本当その通り。だから複雑な気持ちでね~...。」

 

園子は須美から離れるとその場で立ち上がり、自分の手のひらを見て言った。

 

「だからこのタイムリープの力には本当に感謝してる...なんで起こったかまだわからないけど、人生やり直しできるなんてこれほど恵まれてるのは世界に私一人だけだよ。」

 

園子は二人の手を取ると、自分に近づけて強く、強く抱きしめた。もう離さないと言わんばかりに抱きしめ、声を震わせながら言った。

 

「これで........私が抱えてる気持ち、全部吐いたよ...。みんなにぶつけた...。...受け止めてくれてありがとう。一緒に痛みを共有してくれて........ありがとう...!」

 

須美も銀も黙ったまま園子を受け入れた。一方安芸は微笑みながら、その情景を見ていた。

そして二人は『満開』の実装を受け入れ、近日その儀式を行うこととなった。

 

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流れ落ちる滝、透き通った水、清められた神聖な聖域....三人は『満開』を扱うための精霊親授の儀を行うため、大赦敷地内の滝に打たれて体を清めていた。

 

「...。」

 

「...。」

 

「...。」

 

清め終わった後、滝から出た三人は巫女たちによって正装に着替えさせられ、差し出されたスマホを受け取った。その途端、空中にパッと精霊が現れる。

 

「!これが...精霊...。」

 

「おぉ...かわいいな...!」

 

精霊は三者三様の姿をしていた。どれも大きさは同じくらい。小動物のような見た目だが、不思議な雰囲気を醸し出している。

 

「ミノさんの精霊...初めて見たけどかわいいね~!」

 

「鈴鹿御前って言うらしいぞ。...よろしくな!」

 

銀はそう言って精霊に挨拶する。

 

「これで...いいんだよね...。」

 

園子はいまいち自信が持てなかった。満開が実装され、もう体の機能を失わなければいけないことが確定した。これから二年以上、不自由な思いをしなければならない。だが逆に、実装されたことで死ぬことは絶対にない。つまり、銀も須美も少なくとも天の神との戦いが終わった後に何かしない限りは死ぬことはないのだ。お役目で命を失うことは絶対にない。そこだけは安心できた。

 

「これしかないんだろ?園子。だから胸張れって!」

 

「そうよ。私たちだって、その覚悟はしたんだから。」

 

髪がなびくくらいの優しい風が吹く。その言葉を聞いた園子は大きく頷いた。

 

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大赦本部 神官会議

 

「もちろん、勇者様たちには話しておられませんな?」

 

「はい...。」

 

「全く、彼女たちには残酷な話ですが世界を守るにはこれしか方法がないのです。神樹様に体を捧げ、代わりに強大な力を得る...そうして戦わなくてはバーテックスに勝てないのですよ。」

 

「ですが........本人たちに何も話さないというのは...。」

 

「そんなことを知れば、嫌がって戦わなくなることくらい目に見えるでしょう?勇者様はまだ小学生です。そもそも、そんな判断簡単に下せないでしょう。」

 

「それでも...使うのは彼女たちなんです...。やはり当の本人たちが何一つ知らないなんて...!」

 

安芸がそこまで言ったとき、その部屋にいる神官たちが一斉に彼女を見た。無言の圧力というものだ。

 

「これは決定事項なのです。勇者様たちには絶対に教えてはなりません。...あなたには、勇者様のご家族に満開の副作用をお伝えしてもらいます。わかりましたね?」

 

これ以上逆らうと自分の立場が危険だと感じた安芸は組織に従うしかなかった。立場が危ぶまれれば園子たちと離れなくてはいけなくなるかもしれない。重要な大赦の情報を掴むのも難しくなるだろう。

 

「........はい。」

 

深く礼をし、受け入れた。できる限り交渉してみたもののやはりダメだった。大赦は園子たちに喋る気は毛頭なかった。その気持ちが変わるのも決してなかった。

 

(やっぱり大赦は........乃木さんの言う通り...。)

 

 

------------------------------------

 

 

後日、安芸は先日の大赦内での話を園子に話した。

 

「そうですか~...やっぱり大赦の人たちは私たちに喋る気はないんだね~。せっかく安芸先生が頭下げて頼んでくれたのに...。あの人たちには直接話してもらいたかったな~...。」

 

「ごめんなさい乃木さん...私に力がないから...。」

 

安芸は少しだけ頭を斜めにして園子に謝った。

 

「いいんですよ~。私は、『満開』のことを安芸先生が正直に話してくれただけで嬉しいですから~!」

 

「乃木さん...!」

 

「このことは、ミノさんとわっしーにも伝えておきますからよろしくお願いします~。」

 

「...ええ。『満開』の実情は、秋頃にご家族にお話しろって言われたから...それもわかっていてちょうだい。」

 

「秋頃...ちょうど最後の戦いが来るあたりだね~。わっしーの家族も事前に知ってたんだな~...。それは知らなかったよ...。一体どんな気持ちだったんだろ...。」

 

 

------------------------------------

 

 

「二人とも、ちょっとお話いい?」

 

放課後、三人は学校近くの河原で遊んでいた。

 

「そのっち?...いいわよ!........けど...」

 

「おおっ!うおっ!すごいなお前!こんなことまでできるのか!」

 

銀は精霊と一緒に遊んでいた。お世話するのが楽しいらしい。

 

「こら銀!精霊をむやみやたらに出しちゃダメでしょ?誰かに見られたら...」

 

「だいじょーぶ!精霊はあたしら以外には見えないんだろ?それに、今この辺人の気配もないしさ!」

 

「もう...。」

 

須美は呆れて頬を膨らます。それからすぐに銀は満足したのか、精霊をスマホに戻すと園子に近寄った。

 

「んで、またまたお話だったな。」

 

「もうこの雰囲気にも慣れっこね。」

 

「うん、そうだね~。それでなんだけど...今日実は安芸先生が大赦でね...」

 

------------

 

------

 

---

 

「そっか........大赦は相変わらず頭がお堅いな。」

 

「........そんなの...頼んでもダメだなんて...!大赦には本当に失望したわ...!」

 

「ま、大赦ってのはそういう人の集まりだからね~。私はよく知ってる。........もしかしたらって思ったけど、その考えは浅はかでした~」

 

須美は大赦への信用を失い、銀は少し残念そうにしていた。対して園子はすべて予想通りというような余裕の表情を見せていた。

しかし、その表情も次の銀の発言で一瞬で消えることになる。園子の話が終わると、須美と銀が神妙な面もちでアイコンタクトをした。そして銀がこう呟く。

 

「あのさ........あたしらも園子に話があるんだ。」

 

改まった態度の二人を見て園子はポカンと口を開けたまま聞いた。

 

「園子........お前、未来に帰ってくれないか...?」

 

「........。え...?」

 

園子は一瞬頭が真っ白になった。『未来に帰れ』二人はそう言ったのか。なぜそんなことをいきなり...。

 

「それって...どういう...」

 

「頼む!...あたしら二人からのお願いだ...。」

 

「ごめんねそのっち...けど、お願い...!」

 

園子の言葉を聞かずに、二人は深々と頭を下げた。

 

(第24話に続く)




ついに『満開』が実装されました...。『鷲尾須美の章』もついに大詰めと言ったところでしょうか。大橋最終決戦編は他と比べて少し長くなりそうです...w
どうかこれからもお付き合いください!では次回の更新でお会いしましょう!
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