ピンポーン
園子は夏凜の家のインターホンを押し、何度か扉をドンドンと叩いた。しかしなにも応答がない。まだ朝早い時間帯なのに留守のようだ。夏凜の前であたふたしていると東郷から電話がかかってきた。きっと何か知ってるいると思い、すぐに電話に出る。
「!...もしもしわっしー!えっとね、さっきニュースで見て...」
『そのっち........もしかして夏凜ちゃん家にいる...?』
東郷の声はいつになく暗く、重かった。
「え...うん...。どうしてわかったの...?」
「なんとなく...そのっちならそうしてそうだったから。........夏凜ちゃんなら私と一緒にいる。友奈ちゃんも一緒。銀にも連絡して来るように言ったから...。」
「じゃあ.......わっしーたちはもう聞いたの...?あれは、本当のことなの...?」
「........。とりあえず今はこっちに来て。話はみんなが集まってからにしたい。」
「........。...わかった。」
園子は電話を切ると、東郷たちがどこにいるのかが書いてあるメールが、送られてきたことに気づく。園子はそれを頼りに東郷たちがいる場所へと向かった。
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(ここって........。)
警察署...。彼女たちがいるのはそこだった。もうここにいるということだけでどういうことなのか、すべてわかった。園子は警察署に入っていき、早歩きで廊下を進む。
「あっ........そのっち、こっち...!」
東郷が手を振って園子を呼ぶ。その後ろには勇者部が全員集合しており、高校生になったばかりの風までいる。そして見たこともないほどの重苦しい雰囲気に包まれていた。
(みんなのこんな顔見るの........いつぶりだろう...。)
園子は友奈が祟りに遭っているときのことを思い出した。そのとき友奈と風が喧嘩して、部室内の空気が最悪になったのをよく覚えている。
「これで全員...集まったわね...。」
すると東郷は独り言のように詳細を話し始めた。これは警察からすべて聞いた話らしい。勇者部員たちが家に帰るように促された後も捜索を続けていた警察は、怪しい人たちに絡まれている女子中学生を見たという目撃情報を得た。防犯カメラなども用いて調べていき、愛媛県にまで捜査網を広げ、とある廃工場にて人間の手首を発見。そこから首、胴体、腕、足首、股などを切断された少女の遺体が発見された。無造作に棄てられているように放置され、辺りに血は飛び散り、彼女の所持品もそのまま。犯人たちは全く隠すつもりはなかったようだった。まるで遊び終わった後におもちゃを片付けない子供のように、その少女をバラバラにしてそのままほったらかしにしてあったらしい。その後の調査でその遺体は行方不明だった『楠芽吹』だと判明。凶器は電動ノコギリ...。近くに拷問するための、人間を固定する道具もあったことから麻酔も打たれずに生きたまま切断されたと考えられている。この廃工場の周辺は治安が悪く、住人も少ないため悲鳴が聞かれる可能性も少ないらしい。犯人は未だ逃走中。もちろんなぜそんなことをしたのかわかっていない。
「警察は今、四国全土まで捜索網を広げて犯人を捜索中...。もちろん大赦も黙っちゃいないでしょう。そして犯人はおそらく...愉快犯だとされているわ。それに複数人いるとも思われる...。芽吹ちゃんは武道も強いし、ひとりで連れ去るなんてことはできないと思うから...。」
「え........?愉快犯...?じゃあ、メブーは........メブーは........!遊び感覚で殺されたってこと...?」
「........。」
東郷は黙りこくってしまった。図星なんだな...園子はそう思った。芽吹が痛みに耐えながら、必死に助けを求め、声がかれるほど泣き叫び、そのまま身体中切り落とされたと考えると胸が締め付けられて苦しかった。それに犯人たちはそれを楽しみながら、遊びながら行っていた。きっと不気味に笑いながら狂った表情で切り刻んでたに違いない。...最期にそれを見た芽吹はどれほど怖かったろう。痛かったろう。それは誰も想像できないものだった。
「わああああ~...!うぅぅ~........芽吹ちゃん...芽吹ちゃん...!どうして........どうしてこんなことに...。芽吹ちゃんは何もしてないのに...!とってもいい子なのに...なんでよっ...!こんなことされる筋合いなんてないよっ...!........会いたいよ...帰ってきてよ........芽吹ちゃん........!!うわああ~...!ああああ~...!」
友奈はベンチに顔をうずくませて大号泣していた。静かな警察署の廊下に、友奈の大きな泣き声が響き渡る。銀も樹もうつむいたままで動かなかった。
「なんでっ...!なんでなのよ...なんで芽吹がこんな目にっ!!」
一方夏凜は犯人に対する怒りで感情が抑え切れていなかった。なんども壁を殴り、頭突きする。そんな夏凜を、風が後ろから抱きしめて止めた。
「やめて........夏凜...。つらいのはわかる...けどそんなことしてもっ...!」
「風!!...あんたは悔しくないの?芽吹は遊ばれたのよ!!人間のクズ共におもちゃにされて、全身ノコギリで刻まれてバラバラにされたのよ!!!これが怒らないでいられる?!落ち着いてなんかいられるわけないでしょ!!!芽吹がどれほどつらかったか...!」
「夏凜....復讐なんかしても芽吹は喜ばないわよ...?わかってるわよね...?なにをしてももう、芽吹は帰ってこないんだから!!」
風の言葉に、園子は少しドキッとした。この世界の風は、復讐に対する考え方が180度違うと感じた。
「そんなことわかってるわよ........でも、それでも私は許せない...。芽吹を殺した奴らは........必ず私の手で...!」
ゾクゾクっと寒気がよだつ。あのときの風と一緒だ。その片鱗が見えた。そしてそのまま夏凜は警察を飛び出して行き、どこかへ行ってしまった。
「あっ........夏凜...!」
「私、ちょっと行ってくる!」
「えっ?...あ、そのっち!」
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夏凜は砂浜にいた。体育座りで顔をうずくめ、目を閉じると芽吹と生活した今までの記憶が蘇ってくる。
「にぼっしー...?」
突然後ろから声をかけられた。夏凜は涙を拭い、声の主を知るためにゆっくりと振り向いた。
「あ........園子...?」
園子は黙ったまま夏凜の隣に座り、海をじっと見た。
「な、何しに来たのよ...!てかなんでここが...。」
「にぼっしーよくここ来てたからね~。気に入ってるんでしょ?この砂浜。」
「...!........う、うん...。」
しばし沈黙が流れる。聞こえるのはザザ...という波の音だけだ。すると、夏凜がようやく話し始めた。
「私ね........よくここで鍛錬してたのよ。芽吹と一緒に...。たくさんの勇者候補生から選ばれたんだから、その代表として名に恥じぬようお役目に全うしたくてね...。私も芽吹もほとんど毎日鍛錬に打ち込んだ。熱中してた。...アイツ、最初の頃はすごい堅いやつでね...。もっと勇者としての誇りを持てとか、勇者ならこの程度で凹まないだとか........特に『あなたは甘い』って言葉は何度聞いたことか...。」
「........。そうだったんね~...。」
「私は芽吹のことが嫌いだったわ...たぶん向こうも私のことが嫌いだった。でも...勇者部に馴染んでいくに連れて私も芽吹もだんだんと変わっていってね...。今まで一緒に鍛錬することが嫌だったけど、楽しい時間に変わっていった。自分のライバルとしてお互い高め合うことができた。どんどん強くなってるって自覚できた...。芽吹はいつの間にか...私の中で良きライバルであり、一番大切な人になっていたのよ。」
「........。」
「戦いも終わって...散華した部分も全部戻ってきたのに...すぐまたこんなことになるなんて...!やっとみんなで過ごせるごく普通の時間が来ると思っていたのに...!なんなのよ........バーテックスじゃなくて人間に命を奪われるなんて...。しょーもない死に方しちゃって...!」
夏凜は泣きながらも自分の気持ちを吐き出した。園子はただ隣にいるだけで、じっと海を見つめたままだ。
「........まだ大丈夫だよ。」
園子はポツリと呟いた。『えっ...?』と言って夏凜は園子の顔を見上げる。
「私に任せといて!...メブーは私が助ける...!」
「園子...あんた何言ってんのよ...?助けるも何も芽吹はすでにこの世にはいない!........ショックでおかしくなっちゃったの...?」
「まぁ........確かにショックは大きいよ...。メブーは最初の頃からずっと私を助けてきてくれて........彼女がいなかったら、今私はこうしていられないから...。」
初めてタイムリープのことを打ち明けたのも芽吹、危険を犯してまで大赦から助けてくれたのも芽吹、タイムリープさせるために背負って神樹館小学校まで運んでくれたのも芽吹だ。すべて園子のため、園子の願望を叶えるために彼女は協力してくれた。きっと芽吹は園子のことを心の底から信用していたのだろう。また、彼女も園子の望む世界を見てみたかったのだろう。それだからこそできた行動だったに違いない。
「なんかよくわからないけど...あんたも芽吹にお世話になってたのね...。........それにしても、この一年だけで不幸続きで本当に嫌になるわ...。一生分の不幸を経験した気がする。...友達が苦しんで、体の機能を失って、友奈は祟りにあって、挙げ句の果てには芽吹が殺される...。本当にどんな人生よ、私の人生。波乱万丈すぎだっての...。」
夏凜の精神的ダメージはかなり大きいようだった。当然だ。また、もはや吹っ切れているようにも見えた。....ストレスのせいなのか、彼女に隈があるように見えた。そして最後に夏凜は付け加える。
「あーあ........せめて...せめてもでいいから...あの憎たらしい『天の神』だけは私の手で潰したかったわね...。」
夏凜はそう言って空を仰いだ。
「.............。...........え........?」
と、夏凜の言葉を聞いた瞬間、余裕そうにしていた園子の表情が激変する。
「ん...?ど、どうしたのよ...。そんな世界の終わりみたいな顔して...。」
「.......今なんて言った...?」
「え...?」
「なんて言ったの!?」
園子は鬼気迫る顔で詰め寄る。急変した園子に夏凜は恐怖感を抱いた。
「だ、だから...『天の神』だけは倒したかったなって...。」
「さっき...戦いは終わったって...言ってたよね...?」
「それは私たちの代での話よ。...大赦の予測では次の侵攻は何百年後だろうって言ってたじゃない。園子も一緒に聞いてたでしょ?」
「にぼっしー...なに言ってるの...?『天の神』は私たちで倒したじゃない!!ゆーゆがパンチであいつの体を突き破って倒した!!神樹様もいなくなって、壁の外も火の海じゃなくなった!本来の景色を見れるようになったじゃない!!」
「園子!!さっきからあんたなんなのよ!!意味わかんないことばっかり言って........やっぱあんた変よ!!!」
「変なのはにぼっしーの方だよ!!...ほら、あれ見て!壁だってもう................」
園子は立ち上がり、海の向こうを指差す。が、園子はそこまで言ったところで止まった。遠い海の向こうを見た園子は見間違いなのではないかと目を疑ったが、何度まばたきしてもそれは見えた。やがて海の向こうを指していた腕がだらん、と力が抜けたように降ろされる。彼女はありえないはずの景色に驚愕し、感じたことのないほどの鳥肌がゾワゾワッと立った。
「............壁が...ある.......?」
ただその一言だけ呟いた。本当ならありえない は ず なのだ。今は神世紀301年の春...。天の神を倒したのは春になる前だ。というか初めてタイムリープする以前だ。存在しているはずがなかった。
「これは........どういうこと...?........ゆーゆは祟りにあったんだよね...?そしてその後天の神を倒して...ゆーゆは祟りから解放された........そうだったよね...!?」
「はぁ...?本当にどうしちゃったのよ園子...。天の神に大きな損害を与えられただけで倒すまでにはいたらなかった、外の世界も未だ火の海のまま...そうだったでしょ?........なんなのよ急に...記憶を失ったみたいな感じで...。あんた、本当に園子...?」
「...!私は........」
自分が何者なのか、だんだんとわからなくなってきていた。この未来の歴史を何も知らず、パラレルワールドから来たみたいな自分はもう...この世界の『乃木園子』ではないのではないか?
「私は.........園子...だよ...。........たぶん...。」
「は?...『たぶん』?」
園子はそれだけ言い残すとその場から走り去っていった。いや、逃げ出したのかもしれない。とにかく離れたかった。なんで天の神が存在しているのかその真相も知りたかった。
「ちょ...園子!!どこ行くのよ!!!........あいつ、私を励ましに来たんじゃないの...?訳わかんないこと言うし、本当に昔から意味わかんないヤツだわ...。」
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園子は走りながら今起きていることをなんとかして整理しようとする。
(なんで壁が、天の神がいるの...!?もしかして、メブーは昨日それに気づいて伝えようとしてくれた...?だから昨日の放課後に話したいと言ったのかな...?でもそれなら別に電話でもはず...。........とにかく、今できることは...!)
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園子は警察署に戻った。そこはまだ先ほどと変わらない情景が広がっていた。園子に気づいた東郷はこちらに走り寄ってくる。
「そのっち...!........夏凜ちゃんは...?」
「........いつもの砂浜にいるよ。...大丈夫。犯人を殺して復讐しようだなんて考えてないよ。」
「はぁ........よかった...。」
「........みんなこれからどうするの...?」
「........。...最後に芽吹ちゃんに会わせてくれって警察の人たちに頼んだのだけれど........あまりにもひどい姿だから会うのはやめとけって言われて....。わかってはいたのだけれど、芽吹ちゃんもそんな姿見せたくないだろうし会わないことにしたわ...。」
「そう...。」
すると、奥のベンチで座っていた風が立ち上がり、みんなに言った。
「私........芽吹のご両親と話してくるわ。...学校での、部活での面倒を見てた身としてご挨拶を兼ねて...。........ほら樹、あんたも行くわよ。」
「........。」
樹は返事をしない。彼女が無視するなんて珍しい。それほど心に深い傷を負ったのだろう。
「樹...。あんたもつらいだろうけど、これも私たちがするべきことよ。........がんばって。」
「........。........うん...。」
樹は小さく返事をし、風に支えられながらこの場をあとにした。
「フーミン先輩もつらいだろうに...。」
「部長を退いた後も、引っ張らなきゃっていう責任を感じてるんでしょうね...。」
すると風と樹がいなくなった瞬間に、突然銀が口を開いた。おそらく二人がいなくなる時を待っていたのだろう。
「なぁ...園子...。...お前なら芽吹を助けられるんじゃないか?........そのタイムリープの力で。」
「...!...うん、でもなんでこうなったか原因を調べないと。」
「原因...?そんなの異常な犯人たちのせいに決まってるだろ!過去に戻ってそいつらとっつかまえればいいんだ!」
「銀落ち着いて!...犯人はまだ捕まってない。私たちも犯人の顔を知らない。それなのに過去でどうやって捕まえろっていうの...?」
「それは.......今すぐ犯人を見つけ出して捕まえるしかないじゃないか!」
「待って二人とも!........バラバラ殺人なんてここ数年は聞かない珍しい事件だよ。たまたまメブーが狙われたなんてこと、考えづらいと思わない?これは人間が起こしただけの単純な事件じゃないと思うんだ...。」
「は...?人間以外が関わってるってことか...?」
「そのっち、どういうこと...?」
「二人は三年前から今までに至る間、過去に私が言った未来の話を聞いておかしいと思わなかった...?私はあの時、三年後にはバーテックスの元凶を倒したって言ったよね?でもこの世界には春になっても天の神が鎮座している!私が元々いた未来では春になる前に倒してた!!...これっておかしい...。これは私の、勇者の勘ってヤツだけど........なにか関わってると思うんだ。」
「確かに........三年前のそのっちは三年後に天の神を打ち破れると言っていた...。」
「もうちょっと先の夏くらいに倒すのかなとか思ってみたりしたけど、大赦には数百年くらい侵攻はないから大丈夫だって伝えられたしな...。」
やはりおかしい。ズレているというよりかは歴史が完全に変わっている。どこで変わるような出来事が起きた...?そこで園子はキーを握るのは友奈ではないのか...ということに気づく。祟りに遭った彼女こそ何かわかることがあるのかもしれない、と。
「........ゆーゆは...何か覚えてない...?実は、今回の未来だけ特別だったんだ。メブーはこの未来の過去の記憶を一部だけ持っていた...。ゆーゆは何か知らない?」
「私は...私は........東郷さんを助けて、祟りに遭って...誰にも相談できなかった...。祟りは話しただけで人に移るから...。私は神樹様と結婚することにしたけど...みんなが気づいて止めてくれた........。夏凜ちゃんと芽吹ちゃんががんばってくれて...天の神の体に傷をつけてくれたおかげで........天の神の力は弱くなって、私は祟りから解放された...。」
「!!...それがこの未来の歴史...!?」
東郷と銀の方を振り向くと二人も頷く。正直驚いた。園子も元々いた未来の記憶をよく覚えている。夏凜と共に天の神に一撃を与えたときのことを。この未来の場合では、芽吹が自分の代わりを果たしてくれているが。
「まさか........あれだけで終わってたなんて...。ゆーゆは覚醒せずにそのまま天の神は退散して...事なきを得たってこと...?」
「ああ。まあ、そういう感じだな。園子のいた未来では、友奈が覚醒したのか?」
「うん...。バアッーて光って、ズーンと空飛んで、ズドーンって天の神の体を突き破ったんだ。」
「おお...!そりゃすげぇ...一度でいいから見てみたいな...!」
「今のでよく伝わったわね...。」
「でもあの程度の傷しか与えられてないと考えたら........きっとすぐ治る...!天の神が攻めてくるのは100年後なんてそんな遠いわけないよ!むしろ傷を負わされて怒ってるかもしれない!」
「それで腹いせに芽吹を........ってことか...?」
「でもそんなの常識的に考えて無理よ。ここは神樹様の結界の中。...さらに祟りの特徴は、日に日に体に異常が出始めて、その症状がひどくなっていくこと。...戦いが終わって1ヶ月は経つし、芽吹ちゃんはずっと元気だった...。」
「1ヶ月もあれば........さすがに隠し通せないと思うよ...。私、経験したからわかる。...高熱も出て、立ち上がるのも厳しくなってくるから........。私も、芽吹ちゃんは祟りに遭っていなかったと思う。」
経験者に言われてしまえばこの説も通らない。また振り出しに戻ってしまった。
「........なんとかして、調べなきゃ...!」
園子は何か行動をおこそうと、また警察署を出ようとするが、
「おい、ちょっと落ち着けよ園子。何にも手がかりはないっていうのになにしようってんだよ?」
銀が園子の肩にポンっと手を乗せて止めた。
「........がむしゃらに調べるんだよ...!じっとしていたら時間がもったいない!何か...何か見つけないと...!」
園子は銀をふりほどいてでも無理やり出ようとする。だが、銀も負けじと園子を離さなかった。
「どうしたんだ...?園子らしくない...。お前...何焦ってんだよ...?時間はいくらでもあるんだ!ここは過去の世界じゃないんだぞ!!」
「そんなことはわかってるよ!...もしかしたらこのままじゃメブーみたいな犠牲者が出るかもしれない...。だから少しでも早く原因を突き止めなくちゃいけないんだよ!!」
署内にも関わらず、怒号が飛び交う。しかし、それは急にピタリと止まる。それを止めたのは友奈の泣き声だった。
「ぅぅ........ぅぅ~.....二人ともやめてよ........こんなときにケンカなんて...ぐすっ........ただでさえ芽吹ちゃんが死んじゃって心の整理ができてないのに........勇者部がどんどんバラバラになってる気がして嫌だよ........。」
友奈は両手で目をかき、涙を拭う。そんな友奈の隣に東郷が座り、何も言わずに背中を優しくトントン、と叩き続けた。
「ごめん...友奈...。」
「私も...ちょっと熱くなりすぎたよ...。」
二人は反省し、友奈に頭を下げた。
「もう私...やだよ...。これ以上苦しい未来を見るのは耐えられないよ...。」
「えっ...?」
「私、この短い間そのちゃんがタイムリープできるのを知っている一人として生きてきた...。そのことを知っているのは私と芽吹ちゃんと鉄男くんくらいで...特に学校で長いこと一緒にいる芽吹ちゃんには支えられた...芽吹ちゃんがいたからまだよかった........でももう芽吹ちゃんはいない...!突然変わり続ける世界で、孤独に生きていかなくちゃいけない...!」
園子は自分がタイムリープすることで他人にかける迷惑を、このときようやく理解できた気がした。今まではなんとなくでしかわかっていなかった感じがする。タイムリープすることで、苦しんでいるのは自分だけではない。この数日間で目まぐるしく変わる世界に、ついて来れている芽吹と友奈はまさに奇跡と呼んでもいいくらいだった。そのくらいの精神力があった。しかし、そんな友奈もここまで来て折れかかってきている。友奈は今までどんな経験をした...?やはり簡単に周りの人にタイムリープのことを打ち明けるのは問題があった。
「友奈は...あたしたちが知らない世界も見てきたのか...?」
「もしかして........私たちがいない世界も...」
「うん........うんっ...!そうだよ!!...東郷さんのことなんて、この未来で初めて知った!...だから私にとって、あなたと会ったのは昨日が初めてみたいな感じ...。」
「え........?」
東郷は大きなショックを受け、ボッーと一点を見つめるようになってしまった。
「...それなのに親友のように振る舞わなくちゃいけない!昨日初めて会った人に、そうしなくちゃいけない...!もうキツいよ........。...夏凜ちゃんは急にいなくなるし...銀ちゃんは飛び降り自殺をするし...風先輩は暴れまわって、私たち勇者部員たちを刃物で刺した...そして今度は芽吹ちゃんが殺される...?冗談じゃないよ!!!」
園子は心底驚いていた。友奈がこうも淡々と弱音を吐くのは初めてだったからだ。それほど大きなショックを抱えていたのだろう。園子は友奈に悪いと思った。いつまで経っても理想の世界を手に入れることのできないことに。何パターンものバッドエンドを見せていることに。
「は...?あたしが自殺...?家族や園子たちを置いて...?そんな未来あるわけ...」
「それがあったんだよ...。私だって信じられないことだらけの連続なんだから........。........ねぇ、そのちゃん...次こそは、次こそは、って毎回言ってるけど...いつなの...?いつみんなでずっと一緒にいられる未来が来るの!?!?」
「...っ!」
友奈に問い詰められた園子は黙っていることしかできなかった。拳を握り、うつむく。いつまでも目標を達成できない自分が憎かった。やがて園子は崩れ落ち、地面に手をついて涙を地面に落とし始めた。
「ごめん、ゆーゆ...ごめん...!私...苦しむのは自分だけだと思って何度もやり直してた......でも、本当はメブーやゆーゆ、てっちゃんも....すごく苦しい思いをしてた...。それなのにゆーゆたちは変わっていく未来ごとにその世界に合わせてくれて........全部私のために...ごめん...ごめんっ...!そんな風に思ってたなんて知らなかった...目の前のことに夢中になってて気づかなかった...!」
園子はゆっくりと地に両手をつき、友奈に土下座のようなポーズをとった。そのとき、我に帰ったのだろう。ハッとした顔をした友奈は園子に覆い被さるように抱きつき、彼女の服に涙を流しながら言った。
「!!!.........違う...違う...!私なに言ってんだろ...自分から勇者部がバラバラになるような、傷つくようなこと言っちゃって...!ごめん、そのちゃんごめん!!そんなこと思ってないよ!!私は何度でも頑張るから!だからそのちゃんは自分のことだけに集中して...!手に入れられるはずの未来を信じて...!」
友奈はそう言うが、園子は否定する。
「そんなの嘘だよ...。もう無理してがんばらなくていいんだよ...?ゆーゆ...私、本音を話してくれてうれしかったよ...?だから我慢しないで。今みたいに思ってること全部ぶつけていいから。言って良いから。...ひとりで抱え込まないで...?」
すると、銀と須美も二人に寄り添うように抱きつく。
「バカだな園子...お前もすぐひとりで抱え込むだろ...?人のこと言えないんだよ、お前は。」
「...二人は、底知れない苦しみを持っていることがよ~くわかったわ...。私たちも協力する。だからいち早く原因を見つけ出しましょう...。」
四人とも涙を流し、山のように一つに固まっている異常な光景がよりによって警察署内に広がっていた。
それから少し時間を置いた。署内の人たちに心配されたが、なんとか説得して警察署を出た。
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「それじゃ...四人に分かれて片っ端から調べてみるわよ。主に調べるべきところは神樹様と関わりが深い場所...天の神が絡むならきっとそこになにかあるはずよ。」
「さっすが東郷さん~!」
四人はそれぞれ行く場所を分け合い、園子は大橋と英霊碑に向かうことになった。
「よし...それではみんな、健闘を祈るわ。」
「何か情報を掴んだらすぐにみんなに連絡しろよ?」
「もっちろん!結城友奈、がんばりま~っす!」
「あの...最後に一つだけいい...?」
園子は三人に告げる。それは彼女なりの覚悟であった。
「ゆーゆの苦しみもちゃんとわかった...。そして、これを乗り越えれば今度こそ本当の幸せな未来が待っている...って私思うんだ。これも勇者の勘だけど。だから........原因が判明して、全部わかったら...今回でタイムリープをするのは最後にしようと思う。」
(第26話に続く)