神世紀298年10月
「園子~これ味する~?」
「私はするけど...味付けは薄いね。」
二人は神官に昼食を食べさせてもらいながら話していた。
「なぁ、やっぱりこんなめんどくさいことするより点滴にした方がよくね~?」
「そうだね~。私も味はするけど匂いはしないし...。」
あの戦いが終わってすぐの頃。二人はこの不自由な生活に慣れるのに大変だった。園子もこの生活は久しぶりだ。しかし前よりも失った部分が少なく、銀という存在が近くにいたのでとても気持ちが楽だった。
「あ~...暇だ暇~!!」
「まだ10月も終わってないよ、ミノさん...。」
「......。長すぎだよ~!第一、目見えないで何できるってんだよ~!」
「目が見えてても体が動かないから何もできないよ~」
「......。...園子、もうちょっと明るく考えられないのか...?」
「そうしたいけど全部本当のことだから~。」
「うっ...!ぜ、絶望だぁ...。」
銀は俯き、残念そうにする。
「......園子の気持ち、体験してようやくわかった気がする。...いや、まだわかってないな。」
銀はいきなりまじめな声色になって話し始めた。
「え...?」
「一年どころか、一カ月、一日経つのさえもめっちゃ長く感じる...。園子はこれを一人で、それか無口な神官たちと過ごしたわけだろ?...ホント、園子はすごいよ。」
「......。」
「長かったろ...?ひとりにしてごめんな。あたしが死んじゃったせいで......。」
「...謝らないでよ。」
「えっ...?」
銀には園子の声が怒っているように聞こえた。しかし、彼女の表情を見れないのでよくはわからない。
「私がこうしてる間、何してたと思う?」
「えっ......?」
「私ね...ずっと心の中でミノさんに謝ってた...。わっしーのことも、全部...全部後悔しながらこの長い時間を過ごした...。」
「!!」
園子は無力な自分に怒っていた。
「だからね、ミノさんが謝ることじゃない。私のせいなんだよ。............この話って前にも話したっけ...?」
「......いや、何度でも聞くよ。...だけど一つだけお前の言っていることを訂正させてくれ。お前のせいじゃない。それだけは、園子が間違ってる。」
「えっ...?」
「自分の責任だと思うな。園子一人だけが悪いなんて、そんなおかしい話が成り立つわけないだろ。お前はもう思い詰めることはないんだ。お前はすでに未来を変えた。元の未来よりはよっぽどマシじゃないか。...私だってこのことは何度だって言うぞ。お前がそれをわかるまで、これを言い続ける。」
「ミノさん...。」
「私がここにいるだけでもずいぶん違うだろ?だからいいんだよ!...全部バーテックスが悪い。二年後に一匹残らずぶちのめしてやろうぜ!」
「うん...!」
園子はそれから元の未来のことを思い出すのはやめた。そして今の未来に専念することに決めた。元の未来は今となっては『過去』なのだ。...いや、過去ですらないのかもしれない。存在しない歴史になったのだから。ただ、間違いなく彼女の心の支えとなったのは三ノ輪銀だった。園子もまた、銀の支えになってあげようと思った。
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神世紀298年11月
「園子...私決めたよ。」
「えっ?なにまた急に~。」
「私の勇者システムを、次の世代に繋げるために後継者に託す。」
「えっ...!?」
「私が持ってたってしょうがないからな。こんな体になっちゃったし、もう戦えないよ。ここは新しい勇者に任せるべきなんだ。世代交代ってヤツ?将来戦う須美たちのためにも、勇者の人手は必要だろ?」
「......!」
「神官さんたちよ、私の勇者システムを引き継ぐ人を探してくれ。これがあるだけでも少しは須美たちの力になれると思う。」
銀と園子の勇者システムは夏凜と芽吹に受け継がれる...最後に行った未来で芽吹はそう言っていた。おそらく、このことであろう。そして銀の発言に流された園子も同じように......。
「......園子、お前はどうする?」
「えっ...私?私は....」
ここで自分のスマホが芽吹に渡ったらどうなる?またあの未来の二の舞になる?逆に渡さなかったとしたら芽吹はどうなる?少なくとも、讃州中学に来ることはなくなるだろう。...それに、
「私は......自分で持ってるよ。」
それに、私は黒幕を倒さなくちゃいけない。黒幕を倒すにはどうしても勇者システムが必要不可欠なのだ。これがないと倒せない。そのためにも渡すわけにはいかない。
「!!」
銀は少し驚いたような顔をした。おそらく、園子も銀と同じように大赦へ預けると言うと思ったからであろう。
「そうか...。園子の決断だ。あたしは何も言わないよ。」
「うん...。ごめんね。これは憎たらしいものだけど、どうしても必要なんだ。」
こうして銀のスマホは大赦の手へと渡り、銀は正式に勇者の立場を降りた。程なくして銀の後継者を決める試験が行われ、勇者候補生たちが集められた。その中から一人選考され、三好夏凜が勇者システムを受け継いだと園子たちに伝えられた。
「ついに選ばれたかぁ~...!名前は三好夏凜...あたしらと同い年か!...一体どんな子なんだろうなぁ~。」
「にぼっしーはね~、とってもいい子だよ~!あとおもしろい~!」
「に、にぼっしー...?」
「そう!煮干しが大好きでいつも食べてるからにぼっしー!」
「へ、へぇ~...中学生なのに結構渋い趣味してるな...。......ねぇねぇ、あたしの後継者に選ばれるくらいなんだからあたしと似てるとことかあったりするかな!?」
「ん~...性格はあんまり似てないと思うけど......すぐ突っ込んで行っちゃうところとか、似てるかな~」
「ほう...?...ますます会ってみたくなってきた!彼女にはぜひがんばってほしいな!」
「にぼっしーもとっても強いからね~!彼女は努力の子だし、戦いの腕は間違いないよ~!......私も、ひさしぶりに会いたくなってきたな~...。」
二年後、ここから出た後のことを今のうちに考えておかないと。園子はそう考えていた。時間なら十分にある。まだ敵の疑問点はたくさんあるのだ。なぜあんなことができたのか、解き明かさなくてはならない。そうしないと勝てないだろう。ここから出た後が勝負なのだ。あまり時間はかけたくない。その後に神様との本当の戦いがあるのだから。早めに決着をつける必要がある。どうしてこんなことをするのか、まだ到底理解できないし本当にしているのか信じることも完全にできていない。
それでも園子は倒すための作戦を考えに考え抜いた。それは彼女にとってつらいことだったが敵の目的を知るためにも、それは必要だった。
(......大丈夫だ。私には仲間がいる。私一人だけじゃダメかもしれないけど、みんなでならきっと...!今までもそうだったじゃない...!)
園子は希望を信じ、何度も作戦を練りに練った。そして............
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神世紀300年4月
「今日、バーテックスの侵攻がございました。」
「そう...。ついに来たんだね。」
「はい。...ですが、選ばれた勇者たちは見事初陣に勝利したようです。」
「...わっしーは...?」
「........。それでは、失礼します。」
園子の質問には答えず、情報伝達のために来た神官はその場を退いた。
「そっか...またバーテックスが攻めてきたんだな。須美はうまくやれてるだろうか...。」
「うん...。詳細に関してはあんまり教えてくれないんだよね~。バーテックスが来たよってくらいしか...。」
「........。なぁ、もう春なんだろ?...外は暖かいんだろうなぁ。桜もきっと満開だ。」
「......ミノさん...。外に、出たいよね。」
「ああ、そうだな。...せめて外の空気くらい吸いたい。桜は見れないけどさ。」
二人とも体中包帯でぐるぐる巻きにされてベッドに横たわっていた。目の機能を失った銀は両目とも包帯で巻かれている。
「......そして須美たちに、今の勇者たちに知らせたい。勇者がどんなものなのか。...私たちがお役目をこなしていたときのように何も知らないんだろ?」
「うん。満開のことも全部知らない。...それなのに大赦は年端もいかない彼女たちを戦わせる。そんなことを知らせたら戦わなくなると思っているから。」
「体を供物として捧げながら戦うなんて...そんなこと知ったら普通は誰もやらないよな。あたしは園子から近い未来、バーテックスの親玉を倒せるって聞いたからいいけど、須美たちはそれも知り得ないってわけだ。」
「......そうだね~。彼女たちは永遠に体の機能を失い続けて戦わせられる...そう思うだろうね~。」
「!!...え......?」
「二年ぶりにわっしーと会ったときに、そこで私が満開の真実を伝えた。そしたらわっしーは、私みたいになるまで戦わせ続けられるって思ったんだ。わっしーの友達も、みんな...。」
「それって...大丈夫だったのか...?」
「......ううん。決して大丈夫とは言えなかった。結果、絶望したわっしーは神樹様の壁を破壊して大量のバーテックスを壁内におびき寄せたんだ。...バーテックスに神樹様を壊させ、世界ごと消し去ってみんなで心中するためにね。」
「え...!?それ...どうなっちゃったんだよ...!?」
「ゆーゆ...あっ、わっしーの友達がみんなで必死になって止めた。勇者部のみんながいたから、わっしーのしたことは手遅れにならなかった。.......私はわっしーを、みんなを信じてたから何も手出しはしなかった。」
「...!結果的に丸く収まったならよかったけど、須美は思いつめてなかったのか...?一度そんな取り返しのつかないことをしたんだから...。」
「........。」
「...園子...?」
園子は一呼吸おくと、再び話し始めた。
「.......そうだね~。...わっしーは心の奥深くで責任を感じてた。お役目が終わってすぐの頃に、神樹様の寿命がもうすく来るということを...大赦はわっしー一人だけに伝えた。......それは、わっしーを生け贄にして神樹様の寿命を延ばすため。」
「...は......?そんなこと、許されるはずないだろ...!!」
「...もちろんそうだよ。私たちが許すわけない。だけど、わっしーは私たちに何も言わずに消えた。」
「...それで、園子たちは捜さなかったのか?」
「...『捜せなかった』んだ。...わっしーは生け贄になるときに神樹様にお願いしたの。私たちから、すべての人から、世界から...自分の存在を消すように。」
「...!!」
「...そこまでして、わっしーは消えようとした。最初から存在してなかったことになってた。私たちの記憶からも、写真からもすべて消えてた。けど......」
「思い出したんだな...?園子、お前が最初に。」
「え......!?」
「ははっ、図星かぁ~?神樹館勇者の絆は相手が神様であろうと負けないからな!」
「..........さすがミノさん。...そうだよ。でも...ゆーゆも薄々気づいてたみたい。私たちはそのことをみんなに話した。そしたらみんなも思い出してくれて...私たちは再び勇者システムを使ってわっしーを救出した。」
「......。...つまり園子、お前が言いたいことは...。」
「なんとしてもわっしーが暴走しないようにする。それが次の目標だよ。」
「でもそれって...須美たちに会わないのが一番手っ取り早いよな...?いや...そしたら須美たちは満開の真実に気づかないままか...。」
「......うん。だからわっしーたちに会うのはやめない。...真実を知ってもなお、暴走しないように私たちが説得するしかない。」
「...せ、説得...!...向こうはあたしらのこと忘れてるんだぞ...?こんな姿になった先代勇者の話を信じるか...?」
「それでもやるしかない。...残された道はそれだけ。わっしーにつらい思いはさせたくない。やれるだけやるんだよ。」
「........。......わかった。」
銀は渋々OKした。須美に会うことができるのは夏の終わり頃だろうか。神官たちに懇願してそれが叶ったのはそれくらいの時期だったと思う。それまでは彼女たちの武運をただ祈るしかなかった。神官から報告を聞く毎日...。やがて彼女たちが初めて満開を使用して、散華したという報告を受けた。
「......そっか。ついに使ったんだね。」
園子は銀の方を向き、静かに言った。
「......そろそろだよ、ミノさん。」
「..........ああ。やっと...やっと会えるんだな。」
(第32話に続く)
ご覧の通り『結城友奈の章』はかなり割愛させていただきますがご了承ください。
さて、次回は三人が二年ぶりに再開です。東郷を説得し、壁の破壊を防げるのか!?