乃木園子は勇者である ~リベンジの章~   作:てんぱまん

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【第33話】The true of the world

 

数日前

 

「確か前の未来だと....今日わっしーが来るはずだよ~」

 

「そ、そうなのか!?今日!?もっと前々から教えておいてくれよ!?」

 

「あはは...ごめんごめん。」

 

「...いやぁ...なんでだか緊張するなぁ...もう最近一回会ったのに。でもまた須美の声が聞けると思うと嬉しい。」

 

「うん。...たぶん今日、わっしーが鷲尾家にいた頃のお話を持ってくると思うから。ちゃんと説明しないとね。...壁の外のこともきちんと...。」

 

「ああ。そうだな。...でも説明は園子がしてくれよ?あたしはそういうの苦手だからさ...。人にわかりやすく伝えるのはどうも難しくって。」

 

「もちろんだよ。それは任せて。...今日が正念場だからね。」

 

「........。...でもあたしもできる限りのことはするから。二人で頑張ろう。........須美のこれからのために。」

 

そう。今日話す内容で東郷が壁を壊すか壊さないかが決まる。どれだけ彼女を説得し、この世界にはまだ希望があると信じ込ませることができるか...。それが鍵となってくる。このことさえ変われば後々の未来、大きく変わってくることだろう。ただ心配なことが一つだけある。その未来になった場合、園子もどうなるかわからないということだ。東郷が『壁を壊さない世界線』は知らないからだ。もうタイムリープはできない、先の見えない未来。一度きりのチャンスだが大きな賭けでもあった。...だが園子の中にある願いはただひとつ。『東郷に苦しんでほしくない』...今はそれだけだった。

 

 

ガラっ

 

 

少し時間が経って入室してくる人物が一人。

 

「やっぱり来てくれた~。...必ず来てくれると思ったよわっしー。......あ、東郷さんか。」

 

その人物は神妙な面もちで大きなベッドに横たわる二人の少女を見つめた。そこにいるのは先代勇者の乃木園子と三ノ輪銀だ。この部屋にやってきたのは現役勇者の東郷美森だった。この前大橋で会話したときからすぐのことだった。彼女は腰掛けた車いすを巧みに操り、二台のベッドの間に入る形にした。どちらか片方だけでなく園子と銀...両者とも話しやすいようにするためだった。

 

「...わっしーでいいわ。実際、二年前までは鷲尾という名字だったのだから。」

 

「あれ、もうそこまで調べたんだね~さすが~」

 

「二年前...勇者適正値の高かった私は大赦の中でも大きな権力を持つ鷲尾家に養子として預けられた。そしてその中でお役目を引き受け、あなたたちと共に戦った。」

 

「うん。大赦の身内だけじゃやっていけなくなって、勇者の素質を持っている人を全国で調べたんだよ~。」

 

「満開の影響で足が動かなくなったことも、記憶を失ったことも、事故と言われて両親から嘘をつかれていた。引っ越しの時に友奈ちゃんの隣に越してきたことも仕組まれたもの。」

 

「彼女、勇者候補の中でも適正値が一番高かったんだって。だから大赦側も彼女が神樹様に選ばれるってわかってたんだろうね~」

 

「満開してからは食事の質が上がったわ。」

 

「大赦が手当として家に十分な援助をしているんだろうね~。」

 

「思えば...合宿での料理も豪華なものだった。........あれは労っていたのではなくて...祀っていたのね。私たちを...。そして親たちは事情をわかっていて、今も黙ってる。」

 

「神樹様に選ばれたんだから、喜ばしいことだって納得したんだろうね~。」

 

「どうして私たちがこんなっ...!神樹様は私たちの味方じゃなかったの...?」

 

東郷は膝の上で握り拳をつくり、泣き始めてしまった。

 

「味方だけど、神様だからね...。そういう面もあるよ。」

 

(そ、園子すごい...!こんなスラスラと質問に答えて...!........でも...)

 

淡々と答えていく園子を見て、銀は呆気にとられていた。さすが園子だと思ったが、逆に冷たすぎるのではないかと思った。銀もなにか声をかけようとしたとき、

 

「満開したのは10回ほどだって言っていたわよね...?じゃあ精霊の数は11体...?」

 

と、東郷が聞いてきたため遮られてしまった。

 

「うん...。派手にやっちゃったからね~。こんな体になっちゃったけど。ミノさんも。」

 

「ああ...。でもこうでもしなきゃ勝てない戦いだった。だけどその代わり、大量の武器で相手をめったうちにできる!」

 

ようやく銀が声を発する。暗い空気を少しでもよくしようと、ちょっと無駄に声を張り上げて言った。

 

「普段は怖がられて取り上げられてるんだけどね~。........実はね、私...あなたたちの中でもしものことがあったら止める役割を担ってるんだ~」

 

「え...?」

 

「あたしの場合は諸事情でもう勇者の力はないんだけどな。園子は園子で...そういうお役目があるんだ。」

 

ここで一段落の沈黙が流れる。園子は一度、銀に視線を送るとすぅ...と息を吸い込んで話し始めた。

 

「あのね、私がこれから言うこと......落ち着いて聞いてほしいんだ。」

 

(ついに来る...!)

 

銀はこのタイミングで園子がついに話すのだとわかり、身構えた。

 

「神樹様の壁の外...あるでしょ?」

 

「?壁の外...?大赦が管理して『何人も外に出てはならない』って定められてるけど...。」

 

「うん、そうだね。...こちら側から見た壁の外は壁内と変わらず綺麗な風景が広がってるよね~。私たちの住む四国は海に囲まれて、海の向こう側には本土が見える。」

 

「??...それがなにか...?」

 

銀は息を呑んで二人を見守る。

 

「........それは嘘の風景なんだ。壁の外の秘密...大赦がそうまでして壁の外に行かせないようにしてるのはね、神樹様の結界の外側は火の海で包まれているからなんだ。」

 

「............。...ひ、火の海...?あなたは一体なにを言っているの...?」

 

当然の反応だ。誰だっていきなりこんなことを言われたらこうなるに決まってる。だが園子は台本を読むかのようにスラスラと答えていく。

 

「つまりね、四国以外は地獄になっちゃったってこと。もはや現実の世界じゃない...天の神が作り出した世界になったんだよ。」

 

「........。その説明でもよくわからないわ。......そもそも天の神って...?」

 

「天の神はね~バーテックスの親玉のようなものだよ。そいつがいる限り壁の外はバーテックスだらけ。火の海のままだよ~。」

 

「!?...バーテックスだらけ...!?バーテックスは12体だけじゃないの!?」

 

「...現実はね、バーテックスの数は無限大。倒しても倒しても復活する。」

 

「そ、それって...それも大赦に騙されてたってこと...!?じゃあ私たちは体の一部を供物として捧げながらあなたたちみたいになるまで戦わせられる...!?」

 

「落ち着け須美!!」

 

銀がそう叫び、慌てふためく東郷を黙らせた。

 

「!........あ...ご、ごめんなさい...。」

 

「気持ちはわかるよ。こうなった身として。...でもな、話はこれで終わりじゃない。このままあたしたちだけバッドエンドなんてそんなひどい話はないさ。」

 

「え........?」

 

「そう。ミノさんの言う通り。...希望はある。」

 

園子はそう言い、東郷に熱いまなざしを送った。

 

「さっき、天の神がいる"限り"バーテックスは生まれ続けるって言ったでしょ?...だから天の神を倒せば元通りになるんだよ。壁の外が火の海になっているのも全部直って、本当の景色を見ることができる。」

 

「天の神を倒す...?でもそれはどうやって...。」

 

「近いうち、私たちはそれを成し遂げる。...いきなりこんなこと言われても信じられないだろうけど、私たちを信じてほしい。」

 

「........そう言われても...。」

 

やはり不安か。なにしろ確証がないのだから。会ったばかりのこの二人の言うことをそう簡単に信じていいのか。

 

「...やっぱり信じがたいよな、こんな話。だいたい、壁の外にいる敵をどう倒せってんだって話だよな。........けどこのチャンスはいずれやってくる。勇者部の団結力は大赦の人たちから耳が腐るほど聞いてる。自信があるんだろ?その面は。........勇者部のみんなが力を合わせて、天の神さえ倒す瞬間が近い未来訪れるんだ。」

 

「......なんでそんなこと言えるんですか...?あまりにも話が非現実的すぎる...!だいたいその天の神とかいう敵は壁の外にいるんでしょう?」

 

二人は言葉に詰まった。

 

「えっ~と........それは...」

 

「天の神直々に、壁内に攻めてくるからだよ。」

 

「ちょっ、園子!?」

 

なにを思ったのか、園子はド直球にそう言った。

 

「え........!」

 

「ふふ、それなら説明がつくでしょ?」

 

「....か、からかってるの...!?」

 

にやけた園子を見て東郷は彼女を睨みつけた。

 

「あ、いやいやそんなつもりはないよ~!......私たちは単に未来に起こることがちょっとだけわかるだけなんよ~。」

 

「!?!?えっと...つまりそれは...み、未来予知...!?」

 

「うん。...私たちは神樹様...神様に最も近い存在になったって言ったよね~。この体になってからどれくらいかな~...だんだん見た夢で未来のことがわかるようになってきたんよ~。正夢みたいな?ね、ミノさん~」

 

「あ、ああ!そうそうそうなんだよ!だから言えるんだ!ははは...」

 

(そ、園子...!さすがにその説明は怪しまれるんじゃ...!)

 

「なるほど...夢で見た内容が現実になると...。そういうことだったのね...。」

 

(信じた!?)

 

銀は心の中で一人ツッコミを繰り返していると、園子が静かに言った。

 

「だからね......私たちを信じてほしい。これはあなたが決めることだけど...私たちは伝えられることを全部伝えた。あとはわっしーの判断に任せるよ。」

 

「...。」

 

「気になるんだったら直接自分の目で壁の外を見に行ってみればいいよ~。........けど気をつけてね。おそらくあなたの予想を遥かに超えるくらいの地獄が広がってるから。...勇者のあなただとしても、安全は保障できない。」

 

園子のその言葉を聞き、東郷はゴクリと唾を飲み込んだ。

 

「......わかったわ。今日はありがとう...。早速行ってみることにするわ。」

 

「うん。......わっしーがどんな判断を下そうが、私たちはわっしーの味方だから。どこまでもついて行くよ。」

 

「またな、須美。」

 

銀と園子は東郷に別れの言葉を言ったが、彼女はその場にいたままでなかなか動かない。二人は不思議に思ったが、次の瞬間

 

「......つらかったでしょう。」

 

東郷はそうつぶやいて二人の手を優しく握った。

 

「............須美...!」

 

「........。うん...ミノさんも私も...この二年間とってもつらかったよ。でもね......なぜか今はそんなにつらくないんだ。」

 

「........。」

 

「もう少し...このままでいてくれないかな...?」

 

再び東郷の手に包まれ、二人は安心した。銀は目が見えずとも、彼女の温もりを感じることでより思いがこみ上げてきた。園子も銀もこの時が永遠に続いてほしいと思った。

 

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「............園子、よかったのか?」

 

東郷がいなくなってから銀はふと口を開いた。

 

「園子は須美が責任を感じて生贄にならないようにしたかったんだろ?だったら壁の外に行かないように話した方がよかったんじゃないか?それに...もし須美があたしたちを信じなかったら........」

 

「...その時はその時だよ。決めるのはわっしーだから。壁の外に行くのをやめるように言ってもわっしーだったら気になって行っちゃうだろうしね。...それにね、たとえ私たちの存在を忘れていたとしても、わっしーは私たちのことを信じてくれるって思ってるから。」

 

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東郷は勇者システムを起動し、神樹の壁の上までやってきた。

 

「........。」

 

緊張しながらも東郷は壁の外へと向かう。すると........

 

「...!!!」

 

突然周りの風景が一変し、真実が姿を現した。辺り一面紅の色。例えるならば太陽にいるかのような感覚。その景色は果てしなく先まで続いており、この世界は完全にヤツらに支配されていた。『壁外は火の海』...すべて園子の言うとおりだった。

 

「なに...これ........。...!バーテックスがこんなにたくさん...!」

 

うじゃうじゃ動いている小さい白い物体が所々に見える。その一体一体が星屑で、大型や中型など様々な大きさのバーテックスを作り出していた。

 

「彼女の言っていたことは本当だった...!........無限に作り出されるバーテックス...そして私たちは体を捧げながら戦わせ続けられる...。」

 

そんなことをつぶやいているうちに、東郷の存在に気づいた星屑が彼女を食そうと向かってきた。

 

「きゃっ!」

 

東郷は飛び退き、咄嗟に小銃を取り出して星屑を撃ち殺していく。その騒ぎは瞬く間に辺りに広がり、無数のバーテックスが次々に彼女の元へやってくる。

 

「くっ...!こんなのきりがない...!!」

 

やがて一人では処理しきれない数が彼女へ向かって突っ込んでくる。身の危険を感じ、急いで壁内へ飛び込んだ。

 

「はぁっ...はぁっ...はぁっ...!」

 

全身から汗が吹き出る。...危なかった。東郷は地べたに手をつき、絶望した。

 

「...なんなのよこれ...!!これが本当の世界なの...?........倒したはずのバーテックスが生み出されてた...!小さいバーテックスも無限にいて...満開したとしてもとても敵わない...!」

 

恐怖で涙を流し、体を震わせる。壁外の記憶は東郷の頭の中にトラウマとしてしっかりと刻まれた。汗は依然、止まる気配はない。

 

((天の神を倒せば元通りになるんだよ。...近いうち、私たちはそれを成し遂げる。))

 

東郷は園子の言った言葉を思い返した。

 

「天の神を倒す...?バーテックス数体を倒すのが精一杯の私たちが、バーテックスを無限に生み出せる親玉に勝てるっていうの...?あんな地獄の世界を創り出せる怪物を倒せるの...?」

 

彼女たちのことを信じたかったが、実際に外の世界を見て彼女の心の中に迷いが生じていた。

 

「...それに、そいつが壁の中に攻めてくるなんて........私たちはどうしたらいいの...?満開すれば、体を捧げれば勝てるの...?でもそしたら最悪私たちは...」

 

考えに考え抜いた結果、東郷が出した結論は ---

 

「........神樹様を壊せばみんな救われる。バーテックスも、天の神も...攻めてくることはない!」

 

すでにこのときの東郷の頭の中は、園子たちと話したことなど吹っ飛んでいた。実際に『地獄』を見てしまったことにより、彼女は正常な判断が下せなくなっていた。冷静になることなどとてもできなかった。

 

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「!?...樹海化警報!?」

 

「くっ...こんな時に...!」

 

「あの...みなさんこれ、いつもと違いませんか?」

 

風の暴走を食い止めたばかりの友奈たち一行は突然の樹海化警報に戸惑っていた。その警報はどこか普段と違ったからだ。すぐに樹海化が始まり、光が彼女たちを包み込む。

 

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「友奈ちゃん...風先輩...樹ちゃん...夏凜ちゃん...待っててね。今助けてあげるから。」

 

本来神樹を守るために使うはずの武器を、壊すために使用する人物がここに一人。先ほどまで彼女が立っていた場所はもうない。なぜなら、そこは彼女が破壊したからだ。この武器を使って、壁に大穴を開けたからだ。

 

「さあ、おいで。」

 

ぽっかりと開いた穴から、チャンスだとでも言うようにバーテックスたちが入ってくる。その勢いを例えるならばならば、それは河の流れのようだった。彼女はそれを横で見守り、バーテックスの大群を神樹のもとへ導いていく。

 

「神樹様がいなくなってしまえば...私たちが生き地獄を味合うことはない。........こんな世界、私が終わらせる。」

 

(第34話に続く)




園子の作戦は失敗...東郷は本来の歴史通り壁を破壊してしまいました。物語は次回から原作で言う『勇者の章』へあたるところへ入っていきます!黒幕へ迫るため、着々と準備を進めていく園子...これからもお楽しみいただければ幸いです!
今回も更新が遅れて申し訳ありませんでした。これからもがんばって書いていきますのでどうかよろしくお願いします!
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