すると鉄男はこちらを見るのをやめ、二人の前へゆっくりと近づいてきて止まった。そして下を向いたまま何やらボソボソと話し始める。
「あの........その...なんというか........」
何やらずっと言葉に詰まっている。と、突然園子に向かって頭を下げた。
「...ごめんなさい!俺、今まであなたに冷たい態度をとってしまって...あなたが姉ちゃんと一緒にいなくなっちゃって気づいたんです...自分はこれまでの間、あなたにどれだけ嫌な態度をとっていたか...自分の前からいなくなって、わかったんです。」
「...!......てっちゃん...。そんなの別に気にしてないんよ~。いろいろと説明しなかった私が全部悪いし~。」
「いえっ...!そんなことは...!!」
「いいから、頭上げて。」
「........。」
鉄男はのっそりと頭を上げる。園子は彼に近づき、頭を優しく撫でると静かに抱いた。
「ひゃっ!?」
鉄男はびっくりしたのか、小さくそう言った。
「......てっちゃんも、苦しかったでしょ...?ミノさんが急にいなくなってしまって、生きているのに会えなくなった。きっと何度も恨んだはずだよ。...ミノさんを勇者に選んだ神樹様と、満開の副作用を本人に伝えなかった大赦のことをね。」
「...!!........後になって両親からそれを聞いたとき、俺は怒ったんだ。お父さんもお母さんもこんなことになるのをわかっていたのに止めなかった。...神樹様のためだって、世界を救うためにはしょうがなかったんだって言ってた。.......その気持ちはわかるけどさ...だからと言って自分の娘がそんな目に合うのを許せる?......そのとき思ったんだ。この世界の人たちはみんな神様に操られてるんだって。神様には逆らえない、人間はただ従うことしかできないんだなって思った。...でもね、俺だったら...俺が最初に副作用のことを聞いてたら止めたよ。...勇者を辞めるように言ってた。..........でも、結局は変わらなかったと思う。だって姉ちゃんは......。」
「ミノさんは自分のことよりも他人のことを考えちゃう人だからね~...。」
「......姉ちゃんがいなくなってからは俺がしっかりしなきゃって思ってがんばった。金太郎の世話も学校も普段の行いも。...三ノ輪家の長男として、跡取りとしてそれに見合った男になろうって覚悟を決めた。そしていつか大赦を変えて良い組織にしてやろうと思った。...もう姉ちゃんみたいな人は出したくない...大赦には改革が必要なんだってね。」
「...!!」
園子はその時、初めて未来の鉄男と会ったときのことを思い出した。あの最初の未来は正史通り銀がお役目で亡くなってしまっている世界だった。園子は彼と会ったとき、過去の鉄男からは想像できないほど礼儀正しく、かっこよくなっていて立派に成長したとそのときは思った。だが、今ならわかる。彼を変えたきっかけは『銀がいなくなった』から。三ノ輪家の跡取りとして自覚を持ち、今まで支えていた姉がいなくなったことで自分が代わりになろうとし、彼なりに努力した結果があの鉄男だったに違いない。...敬語は話しにくいと言っていたが本当は園子に気遣いして言った言葉なのかもしれない。
『【園子さん】は堅苦しいな~って。』
あのとき園子がさり気なく放った言葉...。鉄男はその時姉が戻ってきたかのように感じてとても嬉しかったのかもしれない。
「......てっちゃん、今から言う話を落ち着いて聞いてくれる...?」
「......?」
本当は話さないつもりだった。一般の人は巻き込まないと決めていたが、やはり彼には話しておくべきだと思った。
「そ、そのっち...!........いいの...?」
話の流れから内容を察した東郷が尋ねる。
「........いいんよ...。きっと、いつかは教えなきゃいけなかったんだ。」
「遅くなってごめんな~!せんべいあるかと思ったらまんじゅうしかなくってさ~......って、え?これどーゆー状況...?」
お茶を持ってきた銀がお盆を持ったまま立ち止まる。そして園子が鉄男を抱きしめている構図を見て顔を赤くした。
「え、え、ええっ!?...まさか園子、鉄男のことをッ...!?」
「銀!ちょっと黙ってて!」
(ああ、そっか...!これからなんだな...愛の告白はッ...!)
「す、スマン!邪魔した!」
もっとも、これから園子が彼に話そうとしている内容は銀の考えている内容とはまるで正反対の言葉なのだが。
「......てっちゃん、実は私...タイムリープしてるの...。」
「え..........タイムリープ...?」
いきなりの非現実的な発言に、鉄男は当然の反応を見せる。
「!?...お、おい園子...!なんでタイムリープのことを鉄男に言うんだ...?一般の人は巻き込まないってお前......!!」
「ごめんねミノさん。...でも、いつかは言わなきゃいけなかったんだよ。トリガーである鉄男くんには、過去でも打ち明けなきゃいけなかったんだ。」
「........え...?姉ちゃんも、姉ちゃんのお友達も、みんな知ってたってこと...?」
「ええ。そうよ。...そのっちは未来から来た時間逆行者。神世紀301年の4月からこちらの世界へ。」
「おい...須美までなに勝手に......!」
「今の時間以上昔には戻れないんだけどね~。あなたと握手をすることで過去と未来とを行き来してたんだ~。...未来では本当に助けてもらってばかりだよ、鉄男くんには。」
「は、話の流れが早すぎますって...!え......?じゃあ今まで俺を急に呼び出して握手してたのは未来に戻るため...?」
「そう。そういうこと。...良い未来を作るために何度もやり直して来た。」
「......!...そう言えば、俺と手をつないで泣いていたときがありましたよね...?確かあれが最後の握手だった気が......。」
「うん。それはね......」
「おい、いい加減に...」
銀は園子を止めようとするが、彼女は止まらない。
「...未来でてっちゃんが死んじゃって、未来に行けなくなっちゃったからだよ。」
「....................え........?」
バンッ!
と、その時、銀は手に持っていたお盆を強く机に置き、園子の肩を掴むと鉄男から引き剥がして言った。
「......急にどういうつもりだよ園子...!!なんで鉄男に未来のことを言うんだ...?しかも最悪な内容までっ...!こんなヒドいこと、いきなり打ち明けるなんて何考えてんだよお前は!!」
園子の勝手な行動に、銀は怒っていた。しかし園子はスン...とすました顔をしている。
「...さっきも言ったとおり、いつかは打ち明けなきゃいけなかったんだ。むしろ遅すぎたくらいだよ。このまま隠し通しつづけたら、私たちは大赦と変わりないもんだよ。」
「........!...でもこんなこと教えて...これから鉄男はどういう気持ちで生きていけばいいんだよっ...!」
「二人ともやめて!」
東郷が二人の間に割って入る。
「二人とも...ケンカなんかしてる場合...?一番困ってるのは鉄男くんなのよ?」
「...大丈夫です。俺は。なんなら、試してみます?」
『えっ...?』
三人は声を合わせて戸惑った。意外にも鉄男はケロッとしている。
「だってほら、俺は未来のことを知れたわけだろ?だから対策できるかもだし!......それに、何度もタイムリープして頑張ってきたであろう園子さんのことだから、この動けない二年間もなにかしてたんじゃないかな?大赦の人たちとか使ったりして。」
「...!!!」
「もしかしたら、未来が変わってて、俺が生きてて......未来に戻れるかも...?」
「そうよそのっち!試してみる価値は全然あるわよ!」
「でも......できなかったら...。」
「......するだけやってみたらどうだ...?」
「...え?」
「......ごめんな、園子。あたしは自分の弟を軽く見過ぎてたみたいだ。...こいつはこの二年間で思っていた以上にたくましく、強く成長してたんだな。」
「ミノさん...!......私こそ、急にごめんね...。」
「いやいや!...やっぱいつだって園子の判断は正しいってことだ。ほれ、いってきな!」
銀はそう言って園子の背中を押した。
「やってみましょう、園子さん!」
鉄男は手を差し出す。
「う、うん...!」
そして園子も手を出して、二人はがっしりと握手を交わした。
「..............。...う~ん...。」
「...やっぱり...ダメ...?」
「そうみたい...。いつものビリビリがこな.........」
バチっっっ!!
ダメかと思って諦めかけたその時、あの感覚が巡ってきた。
「......はっ!!!」
園子が目を覚ましたとき、自分は制服を着て学校の机に突っ伏していた。
(これって......!)
園子はガタッと立ち上がり、トイレに向かった。今は休み時間らしく、特に目立つような行動はしていない。トイレにつくと園子はスマホを見て今の時間を確認した。
「4月...!4月だ...!!そんなまさか...成功した!?」
なぜタイムリープできたのか。考えてみれば簡単なことだった。前の未来では芽吹が殺されたのを発端に鉄男まで死んだ。つまり、勇者の資格を芽吹が持つことなく讃州中学に編入することがなければ変わると言うことだ。園子が二年前、勇者システムは後継者に渡さず自分で持っていると言ったのがすべてを変えた。
(もしかして...私の勇者システムをメブーに渡さないで正解だった......?でもそうするとメブーは今......。)
過去でもそうだったが讃州中学には芽吹はおらず、夏凜しかいなかった。...しかし、彼女が讃州中学に編入していないということはどこかで生きているかもしれない。
と、その瞬間非通知から電話がかかってくる。しかしその番号には見覚えがあった。園子はちょっと驚いてからすぐに電話に出る。
「もしもしメブー!?メブーなの!?...よかった...!............そっか................うん................そうだったんだね...。」
電話の相手は芽吹だった。園子は数分ほど芽吹と会話をすると電話を切り、トイレの洗面所でパシャパシャと顔を洗った。
「...未来に戻れたなら好都合だ。今すぐ作戦を始められる。やり直しだってできる。......一度これを実行して失敗してもまた戻って計画し直せばいい。とりあえずは当たって砕けろだ!」
園子はハンカチで顔を拭き、鏡の向こうの自分を睨む。
「もう...絶対、負けないんだから。」
パシッと顔を叩き、トイレを出た。そしてまず彼女が最初にとった行動は........
放課後
「じゃあ今日はこれで解散にしましょう!みなさんお疲れさまでした!」
部長の立場も慣れてきたらしく、樹はハキハキとした声でそう言うと一同は「お疲れ様~」と言って帰り支度を始めた。
「どうする?今日カラオケでも行く?」
「いいね夏凜ちゃん!行こう~!」
「ごめん、今日私用事があって~...いけないんだ~。」
園子は両手を合わせて夏凜と友奈に謝る。
「ああそうなの?じゃあまた今度にしましょ。」
夏凜の言葉を聞いた瞬間、園子は銀と東郷にアイコンタクトを送り、それに気づいた二人は小さく首を縦に動かした。
「帰りましょうか、友奈ちゃん!」
「夏凜も帰ろ!」
銀と東郷は少々強引に二人を退出させ、扉をしっかり閉めて帰っていった。
「......。...なんか焦ってるように帰っちゃいましたね...。」
樹の言葉を聞きながら園子はゆっくりとイスに腰かける。
「そうだね~。まるで私たち二人だけにしたいかのように~。」
「...え?」
意味深な発言が気になり、樹は園子の方を振り返った。園子は足を組み、頬杖をついて樹を見上げるような形で話を続ける。
「いっつん、せっかくだから二人でのんびりしてよっか~。」
「え...?でも...園子さん用事があるんじゃ...」
「ふふっ、これが用事だよ~。ほら、いっつんも座って。」
いまいち理解できていないまま、樹はイスに座るように促される。何を話されるのか心当たりがないのか、樹は少々怖がりながら座って園子と向き合った。ずっと笑顔なのが逆に怖い。そして園子は言った。
「二人きりになるようにしたのは私の指示なんだ。......いっつん、あなたとちょっとお話したいの。とっても大切なお話を。」
(勇者部編 完 第36話に続く)
未来に再び戻ることができた園子。短い勇者部編はここで終了です。次回から急展開を迎えていきますのでお楽しみに。あえて新編名は明かしません。