「大丈夫...?友奈ちゃん...。」
「.........うん...ちょっと落ち着いてきたよ...。」
砂浜に残った二人は、仲良く寄り添い合いながら静かに流れる海を眺めていた。
「...なんであんなことになってたか...状況を教えてくれる...?」
「うん...。えっとね......もうすぐでみんなのところに戻ろうって時にそのちゃんが...。......いきなり私のことを黒幕だとか言い始めて...勇者システムを起動して襲ってきたの...。」
「えっ...いきなり...?」
「...うん。だから私も勇者システムを使って、抵抗したの。どれだけ否定しても認めてくれなくて......最終的に力負けして、ああなった。」
「......そのっちは...なんで友奈ちゃんのことを黒幕だと思ったのかしら...。今までだって友奈ちゃんはそのっちに協力してきたわけだし...。」
「わからない...理由も何も言わなかったから。」
「......本当にそうなの...?...私、どうも信じられなくて...。そのっちかいきなりそんなことするなんて、おかしいわよ。やっぱりよっぽどの理由があって...。」
「理由はあったんだろうけど...。東郷さんも見たでしょ?そのちゃんの怖い顔と、本気で私を殺そうとしてる殺気。」
「......。...友奈ちゃん、本当に何もしてない?」
「?...してないよ。東郷さん、なんで何度も聞くの...?そんなに私のこと信じられない...?」
「違う!......そういうことじゃ、ないけど...。やっぱりそのっちがあそこまでなるのはおかしいもの。...私も見たことがないっていうか...。」
「東郷さんは...私の親友だよね...?私のことが大好きなんだよね...?」
「もちろんよッ!!!世界で一番!!!!」
「......だったら、東郷さんはそのちゃんよりも私のことを信じてくれるよね...?...ね??」
「!!......そ、それは...。」
「違うの...?」
「.......。」
「...東郷さん...答えてよ...!」
「............あなた、本当に友奈ちゃん...?」
「!?!?...えっ!?い、いきなり何言い出すの!?」
「なんか...友奈ちゃんもおかしい気がする...。友奈ちゃんは普段友達のことを優先する。自分を前に置こうだなんてしないわ。私の知ってる友奈ちゃんなら、そのっちに何かあったんじゃないかって言うはずよ。」
「だからって...!私は命を狙われそうになったんだよ?殺されそうになったの!」
「......。...まだ続けるの?本当のこと言ってよ!」
「東郷さんこそ!おかしいよ!急にそのちゃんみたいに!!」
「......。...『そのちゃんみたい』?...ってことはそのっちもあなたが友奈ちゃんじゃないって言ったのかしら?」
「...!......あ、いや...今のは...」
「......いい加減姿を現しなさい、天の神!」
「...!!!」
その瞬間、友奈の表情が驚きと焦りの表情に変わった。
「え......?なんで......それを知ってるのは......!」
「初めから東郷はあなたを陥れるために話してたのよ。」
と、いきなり後ろから話しかけられた。友奈はびっくりして振り返ると、そこにいたのは...
「なっ、なんでここに!?」
風と樹、夏凜だった。
「さすがの神様も、ここまでのことは予測してなかったみたいね。その顔、戸惑いが隠しきれてないわよ?」
「これはどういうこと!?東郷さん!!」
友奈は東郷から離れ、海の方へ後ずさりする。
「自分から正直に言ってくれるのを待ってたのに...。私が......本物の友奈ちゃんと偽者の友奈ちゃんを見分けられないとでも思った!?」
「!!...そんなっ...!完璧な演技だったはず...!」
「嘘おっしゃい東郷ぉー!園子に教えてもらったからでしょーがー!」
「あっ...夏凜ちゃんそれ言っちゃだめ...。」
「!?......ソナタたち、最初からすべて知って...!」
「完全に詰んだようね、天の神!」
「!?......そ、ソナタまで...!」
もう一組、ここへやってくる。そこにいたのはこの未来には讃州中学に入学していないはずの楠芽吹だった。腕を組み、友奈を睨む。
「前の未来ではお世話になったわね、天の神。あの時はまんまとはめられたわ。」
「ねぇねぇ、本当にあの人の中に天の神がいるの?」
「とても信じられませんわね...。というか今まで部外者だったわたくしたちが、つい三週間前に教えられて理解できるはずがありませんわ。」
「この場の流れに任せよう...。私たちはあくまでサポート...。」
「あなたには初めて会うだろうから紹介するわ。この三人は私の防人の隊のメンバー。」
「わたくし、弥勒夕美子と言いますわ!」
「......山伏、しずく...。」
「ど、どーも!加賀城雀ですぅ!......あの~...バーテックス全部消してもらうこととかってできませんかねぇ...?」
「......なんなんだソナタたち...。」
と、また
「どう神様。驚いた?」
そう聞きながら奥から二人歩いてくる。そこにいたのは銀と園子の二人だった。
「!!......乃木園子...!?大赦に行ったはずじゃ...」
「大赦内部にも協力者がいるからね。」
「ではあのメールも...。」
「こんな状況になるなんて思いもしなかったでしょ?さっきはみんなに演技してもらってたんだ。」
「......演技だと...?バカな!人間ごときの演技に我が翻弄されるはずが...!」
「今まで劇とかやってきた勇者部を舐めんじゃないわよ!演技は一級品!!現状、あんたは気づけなかったしね!」
「...夏凜、あなた自信満々にそんなこと言ってるけど『えっ......!嘘......!』とか言って、園子の言ったとおりの状況になってて本気で驚いてたじゃない。」
「っ...!あれも演技よ!園子が友奈を襲っていることに対しての『えっ......!嘘......!』よ!」
「本当かしら~?」
「本当よ!!」
この状況でもいつものような会話を続ける風と夏凜。
「これはどういう風の吹き回しだ、乃木の末裔よ。」
「簡単なことだよ。私はみんなにあなたの正体が天の神だということを教えた。そして考えておいた計画であなたをはめた。」
「なぜだ...?ソナタはなんでも一人で抱え込む性格のはず...!なぜ周りに教えた...!?」
「.......答えはシンプルだよ。友達を信用してるから。...私はタイムリープを繰り返して学んだ!ミノさんとわっしー...メブーとてっちゃん...他にもみんなの協力があったからここまで来れた!だから今回も頼ったの。私一人の力じゃあなたに勝てないと思ったから。......変わったんだよ、私は。」
「くっ...!人間が考えた計画ごときに...!」
「......私の体が動かなかった二年間、あなたを倒すためにずっと考えてきた。何度も何度も...神様を欺いて、一度で完璧に...あなたを倒せる方法を死ぬ気で考えた!」
園子は遠くからじっと友奈を見つめる。
「...その結果がこの状況だよ。」
「.....。」
「さあ、これで逃げ場はないわよ!天の神!!...ここに集まった全員が強い!神世紀の最高戦力よ!讃州中学勇者部と、防人精鋭部隊がお相手よ!!」
風は自慢げにそう叫ぶ。
「......人間の演技も見破れず...ましてや人間の考えた作戦に陥れられるとは...。神の身でありながらなんという失態。永遠に恥ずべきことだ...。」
彼女はうつむき、静かにそう呟く。おそらく自戒しているのだろう。天の神の怒りも、頂点と達しているようだった。
「...少し見直したぞ、乃木の末裔。......一つ聞いてもいいか?ソナタが考えた計画の全貌を知りたい。」
「......聞いてどうするの?また時間稼ぎ?どうせ何か企んでるんでしょ?」
「逆にこの状況からの打開策があるか?もうこれだけの人数に正体がバレてしまった。大赦に協力者がいるのなら大赦にも我の正体が割れているということだろう。」
「......そうだね、それもそうかもねぇ。」
園子はなぜか隣にいる銀と一瞬目を合わせると、再び友奈をじっと見て言った。
「いいよ。話してあげる。......この計画のすべてを。」
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三週間前 勇者部部室 放課後
「いっつん、せっかくだから二人でのんびりしてよっか~。」
「え...?でも...園子さん用事があるんじゃ...」
「ふふっ、これが用事だよ~。ほら、いっつんも座って。」
樹をイスに座るように促す。樹は少々怖がりながらも素直に座った。
「二人きりになるようにしたのは私の指示なんだ。........いっつん、あなたとちょっとお話したいの。とっても大切なお話を。」
「.........大切なお話...ですか...?」
いつもの園子と打って変わり、真剣な眼差しの彼女を見て樹は緊張した面もちで向かい合った。
「今からとっても信じられないような話をするんだけどね~、落ち着いて聞いて欲しい。」
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翌日 部活の時間
「......みなさん、実は今日園子さんからお話があるんです。」
この日は東郷と銀、友奈の三人以外の部員が部室に集められていた。すでに卒業している風も呼び出され、イスに大人しく座っている。
「一体どうしたのよ?友奈たちもう依頼場所へ行っちゃったし、私たちもそれぞれのところへ行かなくちゃ。」
「大丈夫です夏凜さん。さっきここにいるみなさんにお願いした依頼は存在しない偽りの依頼です。だから安心してください。」
「偽りの依頼って!!なんでそこまでして私たちを...?」
「...わざわざ友奈たちを省いての話なんて大層特別な理由があるんでしょう。」
「......そうですフーミン先輩。今ここに集めた人たちに、私は打ち明けなければいけないことがあるんです。」
園子は樹に代わって前に出て話し始める。
「いっつんにはもう昨日軽く話しました。...これは真剣なお話だからまじめに聞いてくれると嬉しいです~。」
夏凜と風は黙って頷いた。
「......実は私、タイムリーパーなの。」
『......。......は?』
二人は声を揃えてそう言った。
「何度か過去を変えたので、私は別の未来から来ました~。...それと関係あることでみんなに相談があるんだけど......」
「ちょ、ちょっと待って園子!......えぇ...全然話に追いつけないんだけど...。」
「私も...。...え、タイムリーパー?...もしかして、タイムリープできる人のこと?過去と未来を自由に行ったり来たりできるあの都市伝説的なヤツ?」
「はい、そうです!」
「ええっ!?本当!?そんな超人がこんな近くにいたなんて!!」
「『はい、そうです!』じゃないわよ!いきなりそんなこと言われても!!風も飲み込み早すぎでしょ!!......てかならなんで今まで黙ってたわけ!?」
「ありがとう~。二人とも信じてくれるんだね~。」
「....そりゃあこんな場まで用意して話しているわけだし、さすがに冗談じゃないと思うからねぇ?」
「それにしても、あなたはもっとわかりやすく説明しなさい!今まであなたが何をしてきて、私たちに何をして欲しいのか。どれだけ時間かかってもいいから全部!...じゃないとすぐに理解しきれる気がしないわ。話はそれから!いい?」
「うん!元からそのつもり!」
園子はそれから、最初にタイムリープしたときから現在に至るまでを丁寧にわかりやすく三人に話した。
「......ざっとこんな感じかな。」
「......うん...説明はわかりやすかったんだけど...。それは本当なの?」
「そうよ...!いくらあんたが言ってもそう簡単に信じられないわ、そんなこと...!」
「...そうですよ...。じゃあ今まで友奈さんが私たちに見せてきた顔は...?」
「うん、そうだね。言いたいことはわかるよ。...私も何度も自分を疑った。でもそれ以外考えられないんだよ、こんなことできたのは.........ゆーゆしかいないって。」
「......う、嘘よ!!!」
「...夏凜、落ち着きなさい...。」
「東郷さんたちは知っているんですか...?」
「わっしーとミノさんにはいっつんよりも前に話した。つまり二人は全部知っていながら彼女と一緒に行動してる。あの二人なら大丈夫だよ。」
「...ねぇ、園子。友奈はなんでそんなことをするの?理由がないじゃない...!」
「...うん、そうだよね~。...だからまだ話は終わりじゃないんよ。」
一同は唾を飲んで耳を傾ける。
「......もちろんゆーゆがそんなことするわけないって私も信じてるからね。...私は、彼女が『天の神』に操られているんじゃないかって思ってる。」
『ええっ...!?』
またしても素っ頓狂な内容に、全員驚く。
「そう考えれば今まで話したすべての現象に説明がつくでしょ?......ゆーゆは二回天の神と接触してる。一回目はわっしーを救うとき。そのときは『祟り』に遭った。...そして二回目、天の神を倒したとき。ゆーゆの拳は天の神に触れ、天の神はそのまま消滅。......その瞬間、私は天の神が敗れ去る姿をしっかりこの目で見たよ。神樹様も消えちゃったしね。倒されたのは間違いない。...だから恐らく...天の神は消滅するのと同時にゆーゆと一つになり、それがトリガーとなって彼女らもタイムリープを引き起こした。これが私の仮説。」
「なるほどぉ......それなら筋が通るわね。」
「...そして、何よりの証拠がこの人!入っていいんよ~!」
園子が部室の扉に向かってそう叫ぶと、ガラッと開いて入ってきた。
「どうも風先輩、ご無沙汰してます。」
「えっと.........誰...?」
風は目を細くして芽吹を見る。
「!?......芽吹...さん...!?」
夏凜は芽吹の顔を見て驚くと、すぐに気まずそうにして顔を逸らした。
「?...どうしたの夏凜。恥ずかしがって。」
「別に恥ずかしがっているわけじゃなくて...!......その...なんというか......あなたは私のことを、恨んでるんじゃないの?」
「...恨んでる?私が夏凜のことを?そんなわけないじゃない!私と夏凜は親友でしょ?」
「はあっ!?親友!?!?数ヶ月前、何年ぶりかに会ったくらいよね!?」
「ごめんね、メブー。...にぼっしーたちは今私がタイムリープしていることを知ったから、それ以前の記憶はないんよ~。」
「あっ、そっか...。じゃあ私が讃州中学にいたって記憶は...。」
「......。...にぼっしーたちにとっては存在しない歴史。フーミン先輩といっつんは今初めて会ったって感じだね...。」
「!!......そっか...。それはなんか......寂しいわね...。」
芽吹は哀しそうにうつむく。しかしすぐに顔をあげると前に出て風に手を差し出した。
「はじめまして、よろしくお願いします。ゴールドタワーで防人をやっています、楠芽吹です。」
二人はそのまま握手を交わす。
「あ、あぁ...よろしく。讃州中学勇者部OB犬吠埼風...です。......えっと...なんかごめんなさい...。私たち前の未来では仲良かったはずなんですよね...?でも何にも知らなくて...。」
「いいんです。気にしないでください。」
「いや、今から仲良くしましょう!!」
「え......?」
「芽吹さんも勇者部の部員だったんだから!私たちはもう仲間!今からでも遅くないわ!!」
「風先輩...!」
その言葉を聞いた芽吹は少し涙ぐんでいた。本当はこの三人に忘れ去れているという事実が、かなり精神的ダメージを与えていたのだ。
「......やっぱり、どの未来でも風先輩は風先輩ですね!」
「......芽吹。」
「夏凜...!」
「...これから、よろしく...。」
夏凜は気恥ずかしそうに手を出し、芽吹と握手した。
「よろしくお願いします、芽吹先輩!先輩がまた一人増えて嬉しいです!」
「樹...!」
「ふふっ、よかったんよ~。」
園子は微笑んでその様子を見守る。
「それで、乃木。芽吹が証拠ってどういうこと?」
「あぁ、そうそう。メブーよろしく~。」
「...おそらく私がここに来る前、園子からだいたい聞いていると思うけど、私は園子がタイムリーパーであることを知ってた。そして彼女に協力していた...。そしてそのことに関して友奈はかなり前から知っていた...。彼女も私たちに協力してくれていたから。......けど、この一個前の未来で...私は...私は......!.........彼女に、殺された...!」
『友奈に殺された!?!?』
風たちはまた声を揃えて驚愕する。
「ちょっと待って!それは本当なの?どうやって!」
「......間接的...いや、世間から見たら全く関わりのないように見える。...彼女は『祟り』の力を使って私を殺した。正確には私は不審者たちにバラバラにされて殺されたんだけど...」
「はあっ!?バラバラ!?!?」
「しれっとエグいこと言うんじゃないわよ!」
「いやでも本当だし...。」
「......ゆーゆは、メブーに対して詳しく『祟り』の症状を伝えたらしいの。ほら、私たちのときもさ...ゆーゆがちょっと『祟り』について話そうとしただけで周りの人がケガをしたでしょ?...だから内容を詳しく話せば話すほど、それはより残虐に、残酷さが増していく。最終的にはその死亡の原因も...。」
園子がそこまで言ったとき、突然芽吹が彼女の口を抑えた。
「はぁ...はぁ......ごめんなさい、園子...。それ以上言わないで欲しい...。私もまだこのことを喋るのがやっとで、少しでも思い出したら...汗と吐き気が止まらなくて...。」
「!...ごめんメブー!座って。」
園子は芽吹を椅子に座らせ、樹が即座にお茶を持ってきた。
「............ふぅ...ありがとう。もう大丈夫。話を続けるわ。彼女が『祟り』の話をしたとき、最初は園子に話すつもりだったと言っていた。タイムリープできる園子なら、自分のことも救えるんじゃないかと思ったから。」
「......でもそれも後々考えたら罠。ゆーゆは最初からメブーに話すつもりだった。私のことを理由に、自分が黒幕だと疑われないようにそう口実したの。」
「私もすっかり友奈のことを信用しきっていたし、その理由にも全く疑いを持たなかった...。私もあともう少しで園子に話しちゃうところだったしね...。」
「そして何よりの証拠が、急に『祟り』の症状を言ってきたこと。...もし天の神がゆーゆの体を乗っ取っているとしたら、『祟り』を自分に出すのも簡単だろうし。」
「......なるほど...二人ともよく気づいたわね。」
「探偵さんみたいです。」
「...それで?友奈の中に天の神がいるとして私たちに何ができるの?」
「その質問を待ってました~!.........と、言いたいところだけどまだ準備が必要なのです!とりあえず今は早めにみんなに知ってもらおうってことで教えたんよ~。だから、神様を倒す作戦については追々伝えるね~。」
「何よそれ!...準備だって?水くさいわね。それなら私たちにも手伝わせなさいよ!」
「......!」
「そうよ乃木。教えてもらったからには、私たちも全力でサポートしたいわ。」
「ぜひお願いしたいです!それも勇者部として...いや仲間として!今園子さんが考えていること、教えてください!」
「......わかった。ありがとうみんな~。...だけどこれだけは約束して。作戦のことは何が何でもゆーゆに悟られちゃいけない。適当にごまかしたり少しでも怪しい動きをすればすぐに感づかれる。...相手は人間じゃなくて神様だからね、決して侮ってはいけないよ。」
一同は緊張した面もちで首を縦に動かす。自分たちですらいつも園子が何を考えているかわからないのに、天の神は幾度となくその彼女を陥れてきた。園子がここまで念を押すのも頷けた。
すると園子は立ち上がり、チョークを持って黒板の前に立った。
「...それじゃ、私の作戦について話すけどね............」
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「......園子らしい完璧な作戦ね、聞いたところでは。」
芽吹は腕を組み、冷静にそう言う。
「...はい。私も穴がないように感じます。」
「しっかり失敗したときの保険も、別の作戦も用意してるってわけね。」
夏凜は黒板に書いてある白い線をじっと見ながら確認する。
「うん。だからそのときはすぐに切り替えられるように覚えていてほしい。そのときはそのときでサインを送るから。」
「わかった。じゃあまた二週間後に会議を開きましょう。私も予定開けとくわ。」
「ありがとうこざいます~フーミン先輩。......あっ、そろそろゆーゆたち戻って来るみたい。」
園子は携帯を見ながらそう言った。
「わかった。...じゃあ私もう帰るわ。ここにいたことがバレたらそれこそ終わりだからね。それに、防人のみんなにも迷惑をかけてしまう。まだゴールドタワーにいて一日も経ってないくらいだけど、やたら信用されてるみたいだから。」
「それはこのメブーの中だけの感覚だからね~。周りの防人さんたちからしたら、昔からずっとメブーはリーダーなはずだし、頼られて当たり前だよ~。」
芽吹は静かに微笑み、扉に向かって歩き始めた。
「......ちょっとは連絡よこしなさいよ。」
芽吹が扉を出る直前、夏凜が壁によりかかりながら彼女にさりげなくそう言う。
「ええ。また会いましょう。」
芽吹は嬉しそうにしながら言い残し、そこから去っていった。
勇者の量産型---通称防人。この未来での芽吹は、そのようなお役目についていた。力は勇者に大きく劣り、バーテックスとの戦闘も星屑をやっと倒せる程度。ろくに覚悟ができていないものは戦うことすらもままならない。そんな厳しい世界だった。約30名から成るその部隊は、主に壁外調査などを行っていた。芽吹はその隊のリーダー。そして組織NO.1の戦闘力。彼女の班には芽吹の他に三人のメンバーがいる。今日、讃州中学まではるばる来ることができたのも彼女らの協力あってこそだ。芽吹は防人のメンバーと讃州中学の人々を交互に思い出し、帰りのバスの中で複雑な気持ちになっているのだった。
(第41話に続く)
昔と今どっちがおもしろいですか?
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昔
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今
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昔も今も変わらず同じ