「鉄男っー!鉄男~?」
園子たちは三ノ輪家に到着し、銀が真っ先に家へ入って鉄男の名を呼ぶ。しかし、
「おっかしいな...今日は家にいろって言ったのに~。」
鉄男どころか、家族全員家にいなかった。家の照明はすべて消えており、真っ暗だった。
「どっか出かけてるのかな...?おじゃましま~す。」
雀と園子は変身を解き、家の中に入って家中捜索する。しかし...
「やっぱりどこにもいないね、鉄男くん。」
「ミノさん、なんか言ってなかった?」
「いや...何も聞いてないけど......あっ、」
と、ここで銀があるものを発見した。それは冷蔵庫に磁石で貼られているメモ用紙で、そこには『少し買い物に行ってきます!お腹空いたらお菓子でも何でも食べててネ。』と書いてあった。
「これってつまり......鉄男くんはお母さんたちと一緒に買い物に行っちゃったってこと?」
「...そういうことだね~。」
「鉄男のヤツ!忘れちゃったのか!?...お手伝いは大切だけど...状況が状況だろ!」
「まあまあ、てっちゃんはこんなことになってるなんて知らないわけだし...。」
「そうだとしても!......。」
すると銀はのぞき込むようにして園子の顔をじっと見つめる。何かと思って彼女を見返すと、銀は言った。
「園子、お前顔洗え。」
「えっ?」
「血だらけだからさ...。それじゃ目に血が入るぞ。」
「あっ...そうだね。わかった。洗面所借りるね。」
「ああ。」
園子が顔を洗っている間、雀は居間に座ってのんびりしていた。一方銀は腕を組みながら外を見ていた。
「銀ちゃん...みんなのこと気になるの?」
「......。」
「...きっと大丈夫だよ。樹ちゃんが満開?っての使って閉じ込めてたし。満開ってすっごいんでしょ?普通の状態の時とは比べものにならないくらいの力が手に入るって。いくら天の神が強すぎてもみんながあれになったら勝てないと思うな。」
「いや...。」
「えっ?」
「...天の神も満開を使っていた...。」
「ええっ!?本当!?なんでわかったの!?」
「逃げてる間、後ろを振り返ったら砂浜の方から桜色の鮮やかな光が見えた。...その色は間違いなく友奈の色...!たぶん、満開ゲージだいぶ減らされてたから完全な満開はできなかったと思うけど...一瞬だけなら...。...あの樹の檻を破るくらいならできたはずだ。」
「ええっー!?それヤバいじゃん!こっち来ちゃうじゃん!ここでのんびりしてる場合じゃないじゃん!」
「おいおい...さっき自分で言ってたじゃないか、雀。」
「えっ...?」
「夏凜たちはそんな簡単に負けない...だろ?私は念のため警戒してるだけだよ。」
と、そこで園子が小走りで戻ってくる。
「おまたせ~!...水しみるしちょっと顔触っただけでも痛むから時間かかっちゃった~。」
「園子ちゃん...目は...?」
「ああ...やっぱり左目は失明しちゃったみたい。まぶたの中でグチャッと潰れちゃってるよ~。」
「そ、そこまで詳しく言わなくてもいいよ...。」
雀はその様子を想像してしまい、少し気持ち悪そうにする。
「...それじゃミノさん、行こうか。」
「そうだな。鉄男に会いに。」
「買い物行ったって書いてあったけど、どこに行ったのかわかるの?」
「もちろんだ!買い物と言ったらイネスしかないだろ!?」
「いや...私は知らないけど...。」
「ええっ!?そっちにはないのか!?」
「う~ん...まあ、ショッピングモール的なのはね......」
「あの~...その話今は置いておいてもらっても?」
話が広がる前に園子が止める。
「おっとそうだった。急がなくちゃな。」
三人は家を出、変身してイネスへ向かおうとするが、
「...やっぱりチュン助はここに残ってくれない?」
「...え?」
「ほら、もしかしたら知らないうちにすれ違いになっちゃうかもしれないし。」
「そっか...。その可能性もあるかもな。あたしたちも注意しながら行くけど、もしあたしの家族が帰ってきたら連絡してくれ。」
「OK~わかった。」
雀は頷いて変身を解く。こうして彼女は三ノ輪家宅に残ることになった。
「...気をつけてね、二人とも。」
「うん...。行ってくる!」
最後に別れの挨拶をし、園子は銀をおぶってイネスへ向かった。雀は跳んでいく二人の後ろ姿を見ながら見えなくなるまで見送った。
「はぁ...私ひとりになっちゃったぁ。......ん?待てよ...もし天の神がタイムリープを止めようとしてこの家に来たら......私死ぬじゃん!殺されるじゃん!」
雀はここからすぐさま逃げたくてしょうがなくなったが、もう一度約束してしまったことだ。
「どこか絶対に見つからないところに隠れて待とう...。なんとしても生き延びろ、加賀城雀ぇ!」
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先ほどまで綺麗な夕日が見えていたのに、いつの間にか灰色の雲が空全体を覆っている。
「ひと降り来そうだな...。」
「そうだね、早く見つけよう!」
ようやくイネスに到着し、園子は一般人に怪しまれないように変身を解く。しかし、イネスの入口まで小走りで行ったとき、二人はここに降り立ってから感じていた違和感を口にする。
「...なぁ園子...おかしくないか?」
「うん...。私もそう思ってた。」
「不自然すぎるほど人がいない。ってかひとりもいないぞ。...イネスに人がいないなんてあり得ない...。」
「ミノさん...警戒しながら捜そうか。」
「...そうだな。とりあえず中入ろう。」
自動ドアは普通に開いた。エレベーターもエスカレーターも動いている。二人は手分けしてイネス館内を走って見て回った。しかし...やはり変だった。
「園子ー!見つかったか?」
「まだ...。いやそれ以前に...。」
「ほんと、不気味だよな...。イネスにいるのはあたしらだけ、普通に営業してるっぽいのに店員さんすらも見当たらない...。」
イネスの中に響くのは銀と園子の声だけだった。人間まるごとガランと消えており、この状況を見て銀は思わず口にする。
「......まるで...人間が絶滅しちゃったみたいだ。」
「でもね、ミノさん...フードコートで誰かが食べてた形跡もあったし、お店もお好み焼きとかラーメンとか、作り途中の物があった。私たちが来る直前まで、人はいたんだよ。」
このわけがわからない現象に、二人は背筋を凍らせる。実に気味が悪い。そして二人は同時に出口へ向かって走り出した。
「とにかく!ここにいても無駄だ!!外に出て鉄男たちを捜さないと!」
「そうだね!もう帰っちゃったのかも!」
二人はイネスを出て今度は下道から鉄男たちを捜そうと、敷地内を出ようとしたとき...
「あれぇ~?遅かったねぇ銀ちゃん、そのちゃん。」
『...!!』
どこからか声が聞こえてきた。そして二人はその声に聞き覚えがあった。当然だ。...つい先ほど、その声の主から死に物狂いで逃げてきたのだから。
二人はすぐさま振り返って見上げると、大きなイネスの看板の上に足を組んで彼女は座っていた。相変わらず余裕をかましている。彼女はふふっとニヤけると、スッと跳んで二人の約20m先に着地した。
「天の...神...!先に来てたのか...!」
「なんでこの場所に...!?まさかもうミノさんちを...」
「いや、まだ行ってないよ。そんなことよりぃ...あなたたちの捜し物はあれでしょ!」
彼女はそう言い、遠くにある街頭を指差す。そこには...
「!!!......鉄男っ!!」
腕を後ろに回され、街頭にくくりつけられている鉄男がいた。どうやら気を失っているらしく、ぐったりして動かない。
「そんな...最初来たときにはあそこにいなかったのに...!」
「ふふふっ、驚いたぁ?...まあ、驚かせたくてやったんだけどね。」
「.........鉄男に...何をした......。」
銀は下を向いて拳を強く握っていた。彼女の腕はプルプル震えている。園子は隣で、銀がこれまでに見たことないほど怒っているのだと感じ取った。
「ん?なに銀ちゃん。これだけ距離が離れてるんだから、もうちょっと大きな声で言ってくれないと。」
「鉄男に......あたしの家族に......何をしたんだっー!!!」
「あぁ、大丈夫。鉄男くんにはちょっと眠ってもらってるだけ。他の家族は......。あっ、イネスにお客さん全員いなかったでしょ?それ、私がやったんだ!」
「まぁそうだろうね...。で、その人たちはどこにやったの?全員消すなんてあなたひとりじゃできないよね?」
「そうだねそのちゃん。私ひとりじゃできない...。だから隷を使ったんだ。」
「しもべ...?」
「そう!私のかわいいかわいいバーテックス...。」
『...!!』
その言葉を聞いたとき、二人の顔は一瞬にして青ざめる。
「お前...まさか...!!」
「そのまさかだよ。ちょうど私は三ノ輪家に向かっているとき、イネスの上空付近で鉄男くんたちが帰ってるのを見かけたんだ。でも空からいきなり人間が降ってきて、鉄男くんだけをさらうなんてことしたら周りの人間み~んなに見られちゃう。だから......」
友奈は指を鳴らす素振りを見せ、もったいぶってから言った。
「...さっきみたいにこうやって......それっから食べてもらったんだ♪周りの人間み~んな。...血をこぼさないように、骨も残らないようにね。大変なんだよ?私の隷たちって食べ方汚いから。」
「なに言ってんだお前......!!」
銀は思わず一歩前に出る。そんな彼女を、園子は冷静に肩を掴んで止める。そして友奈に問う。
「.........メブーたちは?」
「...!...そうだ...どうしたんだよ...!なんでここに来れた!?」
「そのちゃん、また忘れちゃったの?次私が言ったら三回目だよ?」
「.........そんなこと、言いたくないよ...!」
「ふ~ん...。ってことは内心わかってるってことだね。」
「...。」
「は...?何が言いたい!」
「銀ちゃんは鈍いなぁ。それとも信じたくないだけ?...なら、これでどう?」
友奈はそう言うと、腰に手を回して一つのスマホを取り出した。すると二人の方向へゴミを捨てるように投げ捨てる。
カラッカラッ!
「...!!こ、これは...!?」
近くまで飛んできてそれは転がった。そのスマホは一部だけ不自然に赤く染められており、どこか不気味だった。
「...夏凜ちゃんのスマホだよ。ちょっと借りてきたんだ。」
「『借りてきた』じゃねぇ!!なんなんだよこれ...!この......赤いやつ!!夏凜たちに何した!!」
「え?銀ちゃんまだわかんないの?...わかったよ、ならもう言うよ。全員やっつけてきたの。だから、汚れてるのは我慢して。」
「やっつけて...きた......?この短時間で...?ありえないっ...!!」
困惑する銀に構わず、友奈はひとつため息をついてから勝手に喋り出す。
「ねえねえ二人とも!!今からゲームしない?ゲームゲーム!!」
「今度は...なに考えてるの?」
園子の声にも怒りが籠もっているように聞こえる。
「あの街頭に鉄男くんを縛り付けたのは今から言うゲームを始めるため!そのちゃんが無事あそこにたどり着き、鉄男くんと接触して...過去に戻れたらそのちゃんチームの勝ち!でも...その前に私があなたたち二人をやっつけたら私の勝ち!どう?おもしろいでしょ!?」
「お前...ふざけるのもいい加減に......!!」
「いきなりそんなこと提案するなんておかしいね!あなたは最初、どうしても私が過去に戻ることを阻もうとしたのに!」
「...まあ、こうやって間に合ったわけだし...なにより今の私は、負ける気がしないからね。」
「......園子...まさかお前、あいつの提案に乗ろうってんじゃないだろうな...!」
「でも...そうするしかないよ。あいつの手の中にてっちゃんがいる限りは......あいつとの戦闘は避けられない。」
「...。」
「私の挑戦状、受けるしかないよね?...さあ!銀ちゃん!そのスマホを拾って?それがあれば...あなたも参加できるでしょ?」
「...!そうか...だからあいつは夏凜のスマホを...!」
「いや!!あなたの相手は私だけだよ!...ミノさんは戦わせない!」
「...ダメだ、園子。」
「えっ...?」
銀は歩き出して手前に落ちている夏凜のスマホを取りに行き、拾った。そして制服のポケットからハンカチを取り出して付着している血を拭き取った。それから仁王立ちで友奈に強い視線を送って言った。
「お前の相手は...あたしだ!!」
「ミノさん!?」
「ふふっ...そうこなくっちゃ!!」
「ミノさん!それじゃ本当にあいつの思い通りだよ!」
「ああ、そうかもな。...だけど、さっきの戦いぶりを見るに園子ひとりじゃ鉄男の所にたどり着くのは無理だと思う。だから...あたしが園子を守る...!ブランクあるし、あたしがいても勝つのはキツいかもしれないけど...お前を鉄男のところに行かせることくらいならきっとできる...!」
銀は夏凜のスマホを強く握る。よく見たら細かい傷だらけだった。それはこれまでの戦いの歴史を物語っていた。
「感動的だねぇ...。銀ちゃんが変身するの何年ぶり?私、中学生の銀ちゃんが変身するのを見るの初めてかも。あっ、それはそのちゃんもか?」
「ミノさん...。」
「そんな心配そうな顔すんなって!...あたしを信用しろ、園子。それに今のあたしは...怒りでふつふつ燃え上がってんだ。...怒ったあたしは強いぞ。」
銀はそう言うと、勇者システムを起動させる。
「おおっ♪...やっぱり銀ちゃんにはその赤い勇者服が似合うね。」
「久しぶりだなぁ、この感覚...!気分が高ぶってきた...!」
「あなたと戦うの、ちょっと楽しみにしてたんだ。」
勇者装束の彼女を、友奈は笑みを浮かべながら見る。一方銀はウォーミングアップとでも言うように剣をブンブン振り回し、先端を友奈に向けた。
「後悔すんなよ?...あたしにこれを渡したこと。」
(第46話に続く)