園子と銀が天の神と交戦中 その頃、三ノ輪家
ガシャ...ガシャガシャ...ガラガラ......
(ひっ...!誰か家に入ってきた...!?)
戸が開く音を聞き、雀はさらにうずくまる。押し入れに隠れていた彼女は体を震わせながら目を閉じた。
「............め.........す......め.........」
(なんか言ってる...!絶対銀ちゃんの家族じゃないよね!?もしかして...もしかしてぇ!?!?)
「雀......!いるんでしょ......!?」
(あれ...この声って...!)
馴染みのあった声に、雀はすぐに押し入れから飛び出して玄関に向かった。そこにいたのは...
「!?...メブぅ!?」
「はぁ...はぁ...やっぱりいた...。」
そこにはボロボロになって倒れている芽吹がいた。必死でここまで来たようで、息も荒く、汗もすごい。何より出血の量とケガの数がひどかった。
「メブ大丈夫!?死なないで!死なないでメブぅー!!」
「雀...落ち着いて...。園子と銀は...?」
「イネスってところに行ったよ!鉄男くんたち買い物に行っちゃったみたいで...それを捜しに行った!...私は鉄男くんたちが途中で帰ってくるかもしれないからここでお留守番してた!」
「そう......。天の神は...まだここに来てないのね...?」
「そうだけど......園子ちゃんたち結構前に行ったはずなのに...何も連絡ない...。」
「えっ...!?......うっ、ゴホッ...ゲホッ...!」
「うわわわわ!?メブぅー!?メブが血吐いたぁ!!」
「私も...時間の問題だわ...。みんなももう...。」
「えっ...?」
「私たちは...天の神に敗北した...!生き残りはたぶん私だけ...力振り絞ってここまで来たの...!」
「そんな...!しずくちゃんも弥勒さんも...?」
「......。」
「えぇ...やだよ......。なんでこんな...こんな目に遭わなくちゃいけないのさ...!」
「ごめんなさい...雀...。天の神はまだ...力を隠し......ゲホッ、ガホッ...!!.........はぁ...ふぅ......。」
芽吹の息もだんだんと深くなっていく。声も最初のときより小さくなっていた。
「メブまで...死なないでよぉ!!」
芽吹は雀の膝の上でじっと彼女の瞳を見つめる。
「あなたは...死んじゃダメよ...。」
「うぅぅ~...メぇぇブぅぅぅ~~...!!」
雀はいつものように涙を流し、芽吹の顔に次々にこぼれ落ちる。
「最期に会えてよかった...。あなたに看取ってもらって...よかった...。」
「えぇ...?...!......メブ...?メブったらぁ!!」
芽吹は雀の腕の中で動かなくなった。雀はそれから園子たちの決着がつくまでそこで泣き続けた。
---------------------
一方、イネス駐車場
「.........死んで。」
「...!!」
園子の槍先は友奈の喉仏に向かって落ちる。さすがに天の神も死を覚悟し、目を閉じた。が......
ピタッ...
「...............え...?」
槍先は首ギリギリの位置で止まっていた。天の神もその理由はわからず、キョトンとしている。するとそのうち園子が口を開いて呟いた。
「......ゆーゆ...。」
園子の顔を見た友奈は隙を見逃さず、園子の拘束を解いて蹴り飛ばした。
「はぁ...はぁ......あれだけ啖呵切っておいて...直前で思いとどまったか。全く、ヒヤヒヤさせる。」
「園子!どうしたんだ...!?」
「はぁ...はぁ...ゆーゆが...!」
「もうあれは友奈じゃないんだぞ!?お前もわかってるだろ...!お前がやるしかないんだよ!天の神を倒せるのは、同じタイムリーパーの園子しかいないんだろ!?」
「違うのミノさん...!私、タイムリープの他にもう一つ能力を持ってる...。それでわかったの。ゆーゆの心は...天の神に支配されながらも呪縛を解こうと抵抗してる!!」
「え...!?」
「私は相手に触れることでその相手のことをいろいろ知ることができる...。砂浜で触ったときにはゆーゆの存在の欠片も感じなかったけど...今は感じた...!たぶんもう、封印を解きかけてる!」
「それは本当なんだな!?園子!」
「うん!間違いない!」
おそらく、ダメージを与えたことで天の神の力が弱まったのであろう。微かな希望を見いだした園子と銀は友奈の方を見て構える。
「はぁ...はぁ......くそっ...やってくれたなぁ、乃木の末裔...。はぁ...はぁ......。」
友奈はよろめき、やがて地面に手をつく。ろくに立つことすらも苦しいようだった。
「汗が...止まらない...。気持ち悪い...頭が痛む、吐き気も...めまいも....激しい..。」
(次の一撃で...仕留めるしかない!...我の体力も残りわずか...次外したら我は完璧にあの二人にやられる!)
「くっ...うあああああああああああああっ!!!」
友奈は最後の力を振り絞って地面を蹴り、二人に拳を振るった。
「そんなわかりきった攻撃...当たるか!」
銀はスッと後ろに飛んで軽々避ける。しかし...
「!?園子!なんで動かない!当たるぞ!」
園子はその場で立ったまま微動だにしなかった。避ける素振りすらも見せない。友奈の拳が園子の顔面目掛けて飛んでくる。
「うらああああああ!!」
「そ、園子っ!」
---
ヒュウウウ~...。
雨と混じって風が吹く。園子は無事だった。変わらずその場に立っている。一方、友奈も同じようにピタッと止まっていた。コンクリートで固められたかのように、あの急激な素早い動きが嘘だったかのようにピッタリと。
「な、なんだ...?体が...動かない...。」
「え...!?なんで天の神の動きが止まったんだ...?まさか...!!」
「......ゆーゆだよ。」
「何!?」
「ゆーゆが戻ってきたんだ。あなたの封印を解いたの。」
「そんなことはありえんっ!!我の封印は絶対!一度かければそれは二度と解かれることは.............あがっ...?」
(!?......今度はなんだ...!声も...出せなくなった...!)
「そのちゃん!逃げて!」
「!!...ゆーゆ...!ゆーゆだね!?」
「まじか...!!友奈が戻ってきた!やった!!」
銀は二人の元へ駆け戻って喜んだ。
「そうだよ...!でも......今こうやって話せてるのもやっと...!早く逃げて!また私は...支配される...!」
---
(なぜ我の封印を解けた...!?)
(がんばって暴れたんだよ!)
(!?...そ、それだけか...?)
(そうだよ!...もう...友達が傷ついていくのなんて見てられないから...!)
(...ならもう一度縛るのみだ!!)
---
「ゆーゆ...あなたは必ず、私たちが助ける!」
「ごめん...ね...二人とも...。ありがとう...!おね...がい...。」
友奈はそう言ってから、眠るようにして倒れた。
「.........ゆ、友奈...?」
「はぁ...はぁ......そのちゃん...?銀ちゃん...?」
「!...もしかして友...」
「違うミノさん!これはゆーゆじゃない...!」
「えっ...!」
「はぁ...さすがに騙せなかったか...。」
園子と銀はすぐに後ろに下がり、間合いをとる。友奈はよろめきながら立ち上がり、激しいめまいの中で話す。
「正直、我は追いつめられて焦っていた...。だから正常な判断ができていなかったのだ。...我は『アレ』を忘れていた...。」
「『アレ』...?なんだ『アレ』って!」
銀がそう聞くと友奈はニヤリと笑って指をパチンと鳴らした。すると一瞬で友奈の背後に十数体の星屑が出現した。
「!...またこいつらと戦わせる気か...!?」
「いや、違う...。......はぁ...はぁ...こいつらはさっき、この建物内にいた人間を食べ尽くした隷たちだ。」
『...!!』
「我はこれで...さらに強くなれる。」
友奈はそう呟き、片手をあげて号令をかける。
「来いっ!隷たちよ!!...我の力となれ!!」
号令を聞いた星屑たちは友奈を食べるようにして集まり、彼女を取り囲んだ。
「なんだ!?食べられてる...!?」
「ミノさん、これは...結構ヤバいかも。」
やがてバーテックスたちは爆発したかのようにはじけ飛び、友奈が姿を現した。
『...!!!』
「ふっふっふっ...とても気分がいいぞ...。」
「傷が...完治してる!?」
「なんで...!?お前、さっき何したんだ!!」
「隷たちが取り込んだ人間の生命力を貰ったんだ。命とは奇跡...神の力にもなるのだよ。...おかげで傷も体力も元通り。ソナタたちが一生懸命になって与えたダメージも、これで振り出しに戻ったということだ。」
「...そんなのアリかよっ...!」
「神様はとことんズルいね...。」
「勝つためならなんでもする。...そう言えば、我がなぜこんなに早くここに来れたか気になっていたなぁ?お前たちが砂浜にいた頃、我はかなり苦戦していたのに。どうしてこんな一瞬で勇者たちを倒せたのか。」
友奈はそう言うと、高く跳んでイネスの屋上に立った。そこから園子たちを見下ろしながら話す。
「...体力も回復したことだ。人間の体では負担が大きいから、普通ならこれをやれるのは一日一回限りなのだが...もう一度使えるな。......せっかくだからソナタたちにも見せてやろう。」
それから友奈は指で銃の形を作り、人差し指を銃口に見立てて二人の方に指先を向けると...
「...ばん。」
ビュッウ!!
『!!』
友奈が『ばん』と言った瞬間、突如として光の矢のようなものが出現し、二人を襲った。園子は右に、銀は左に、咄嗟に飛び退いてなんとか回避する。
「うわぁっ!?これって...!!」
「サジタリウスの矢...!?」
その矢は駐車場のコンクリートをえぐり、爆発音のようなボガン!という音を立てて地面に突き刺さった。
「ふははははっ!どうだ?驚いたろう。...続いてこれはどうだ?」
友奈は続いて手をパンパン、と叩く。すると今度は空中にキャンサーの反射板が姿を現した。そして...
「...ばんばん、ばんばんばんばんばんばんっ!」
反射板に向かって矢を連射する。その矢は綺麗に弾かれ、四方八方から矢が飛んでくる。
「!...くそっ!」
「ミノさん!こっち!」
園子は槍を変形させて傘をつくり、銀を呼んでその中に避難させる。
「この感じ...懐かしいねぇ。」
「これやったのも三年前くらいだよね...!」
続いて友奈は矢を放つのをやめると、
「こんなのはどう?」
屋上から跳んで右足を振り上げる。すると今度は
「...っ!」
ガキンっ!!
友奈の足がスコーピオンの毒針に変形し、自由落下と組み合わせて園子たちを襲う。園子はすぐに槍状に戻して対応。槍と針がぶつかり合い、激しく火花を散らす。
「おいおい...足まで変わったぞ!友奈の体なのに!」
「この少女の体は、すっかり我に馴染んだからなぁ。こんなことも可能になった。」
園子は槍を強く振って友奈を弾き、友奈は足を元に戻して着地した。
「中身が神様だからって...なんでもありだね。十二星座バーテックス、全員の技を使えるってことかな?」
「我はすべてのバーテックスの生みの親。使えて当然だろう?」
友奈は拳を振り上げ、地面を思い切り殴る。すると友奈の周りのコンクリートは砕け、その振動が伝わって地震を起こす。
「うおおっ!すごい揺れだっ...!」
「っ...!」
立つのもやっとのほどの地震。だが友奈は平然と立っている。
「これはカプリコーンの技だ。...そして次は...」
友奈はその場から拳を振るう。その拳には何やら雷のようなものが見えた。
「もしかして...電気!?」
「その通り。...アリエスの電撃!」
「うわあっ!」
園子はなんとかギリギリでしゃがんで避け、二発目も跳んで避けた。
「フッ...跳んだな乃木の末裔!その行動はお前にとって大きな過ちだ!」
跳んだ園子目掛け、友奈は電撃を打ち込む。しかし、
ジバババババ!
「ん!?あれは...タイヤ!?」
銀が駐車場に停めてある車からタイヤを外し、空中に投げていた。それが盾になったのだ。
「へへっ...危ない危ない間に合ったぁ...。地震もやっと止まったな。」
「ミノさんありがと~!」
「これくらいお安いご用だ!」
「......三ノ輪銀、なかなか楽しませてくれる。」
次に友奈は片足を軸にしてくるくる回り始めた。すると友奈を目にして竜巻が発生し、周囲の物が風に吹かれる。そのうちその竜巻はさらに大きくなり、周りの車も浮くほどの威力で竜巻に吸い込まれていく。銀と園子はそれぞれの武器を地面に刺し、巻き込まれないように耐える。
「うおおおぉぉぉ!?おいおいおいおい!嘘だろぉ!?」
「ライブラの竜巻だ...!現実世界でこんなことして...ずいぶんと大胆だね!」
「フハハハハハ!さてこれはどうする!?...くらえっ!」
友奈は完成した竜巻を投げ飛ばす。
「やばいやばいやばいやばーい!!」
「ミノさん!こっち!」
「えっ?」
園子は銀に手を伸ばし、銀はそれを掴む。しっかり掴んだことを確認するとググッと引き寄せて園子は叫んだ。
「満開っ!!」
薄紫色の光が放たれ、その瞬間一瞬にして竜巻が消える。
「......。ほう。そう言えばまだそんなものが残っていたな、ソナタには。」
「おお...園子すげぇっ!!」
「大丈夫?ミノさん。」
「おう!おかげで無傷だ!」
銀は園子の片手に抱かれ、大きな船の上に乗っていた。
「これは...かなり長引きそうだ。」
「そっちがその気ならこっちも出し惜しみなしだよ。お手柔らかにね、神様!」
「臨むところだ、人間。」
園子は手のひらを友奈に向ける。すると園子の船の周りに浮かんでいた針のような物が一斉に友奈目掛けて飛んでいった。
ガガガガッ!
「!!...あれ!?消えたぞ!」
全部地面に突き刺さっており、友奈の姿はどこにも見当たらない。目を離さなかったのに消えた瞬間がわからなかった。
「当然、こんな分かりきった攻撃は当たらないよね...!」
「園子!後ろだ!」
いつの間にか友奈は背後におり、拳を振るって攻撃に転じていた。
ガキンッ!!
「!...背後はソナタが守る...と言った感じか。」
「そうだ!そう簡単にはいかせない!」
その攻撃は銀が防ぎ、友奈はまた地面に逆戻り。そして再び友奈は地面に降り立ったと同時に消えた。
「!!...まただ...!」
「いや、今度は見えたよ。...びっくりだけど、あれはピスケスの力!」
「ぴ、ピスケス...?ごめん園子...さっきからだけどあたしバーテックスの名前とかどんな力使うとかよくわかんない...。」
「ピスケス・バーテックスは魚座のバーテックス。地面にも潜行できるの。」
「ええっ!?...ってことは土であろうがコンクリであろうが水みたいに潜れて、泳げるってこと!?」
「うん、そういうこと。」
しばらくするとクロールで地面を泳いでいる友奈が現れる。辺りはコンクリートなのに、友奈が泳いでいる周りだけ水のように柔らかくなっているように見えた。
「はあっ!?そんなのズルじゃん!こっちの攻撃当たんないじゃん!」
「だから厄介なんだよ、あれを使われると。でも逆に...潜っている間は向こうも攻撃できない。体を地面から出さないといけないから。...この満開の力だって、できるだけ温存しておけば時間切れを抑えることができる。」
「なるほどな...。つまりあいつを地面から引きずり出せばいいと。園子はこんなゴツいのじゃ難しそうだしなぁ。......よし!」
「えっ、ミノさん何するつもり?」
「...まあ、あたしに任せておけって!」
銀はニコッと笑い、船から飛び降りる。
「あたしがヤツをおびき出す!園子はそこを狙え!おとり作戦だ!」
「おとり!?そんなことしたらミノさん危ないよ!」
「大丈夫!あたしは死なん!......さぁ、どっからでも来い!天の神っ!!」
銀は刀を構え、どこから攻められてもいいように警戒する。
(ひとりで戦うつもりか...?おびき出そうとしてるんだろうが、それを何を意味するかわかっているんだろうな...?)
友奈は深く潜水し、それから一気に浮上する。
ザバァッ!
銀の背後からイルカのように友奈が飛び上がってきた。
「...!!そこかっ!」
「フン...愚かな。」
銀は剣を振る。友奈はそれを普通に拳で防いだ。
「おかしい...!わざわざミノさんの背後をとったのに、なんであいつから攻撃を仕掛けなかった...?なんで最初から防御の体制をとったの...!?」
園子がその理由に気づいたときには既に遅かった。
「......さっきの我の攻撃を見て警戒しなかったのか?今の我は電撃による攻撃が可能。」
「はっ...!!」
「金属は...よく電気を通すだろうなぁ...?」
バリバリバリっ!!
青白い光が友奈と銀の周りに一瞬だけ現れる。
「ミノさぁぁぁんっっ!!!」
「がっ......!」
銀の体に電気が流れ、痙攣を起こして倒れる。
「...これでしばらく動けまい。案ずるな、全力で流してはいない。我の攻撃のみ精霊バリアが発動しないとて、心臓へのダメージは精霊が少し和らげてくれたであろう。...こんな一瞬で殺してしまってはもったいないからなぁ。」
「くぅっ...!許さない...!!」
園子が友奈に攻撃をしようとしたとき。
ムクッ
電撃を受け、倒れたはずの銀が立ち上がっておりそのまま剣を振った。
ザシュッ!!
「!!...ぐおおおおおおっ!?」
銀の振った剣の軌跡は友奈の背中に大きく刻まれ、普通ならば致命傷になるほどの深い傷を与える。
「なぜ...だ...!?明らかに、気を失う程度の電圧は...加えたはず...!!」
「お前がさっきあたしに言った言葉...そっくりそのまま返してもらうぞ。...あたしの攻撃を見て警戒しなかったのか?」
「...はっ!」
よく見ると銀の剣の持ち手にはタイヤのゴムが巻き付けられていた。彼女はそれを握っていたから、ゴムが絶縁体となり電流をシャットアウトしたのだ。
「さっきはわざとくらったふりをして倒れたんだ。そうでもしないと今のお前に攻撃は与えられない。...お前が油断したところを狙わないとな。」
友奈は膝をつき、辛そうにしながら自分を見下している銀を睨みつける。
「これ結構いいぞ?ゴムのおかげで手が滑って放しちゃうようなこともなくなった。おまけにお前の電気攻撃は効かない。いいことだらけだ。」
「ぬうぅぅ~...!」
「...!」
致命傷を与えられたかと思いきや、友奈は全身に力を入れた途端に背中の傷が塞がった。
「お前の体どうなってんだ...!?もう人間やめてるだろそれは!!」
「...そもそも我は人間ではない...!くそっ...ソナタのせいでせっかく手に入れた生命力が半分も減った!」
(そしてわかったことがある...今のあの深い一撃......。三ノ輪銀は本気で我を殺しにきている...!)
「もう有無は言わせん!」
「!!...いけない!ミノさん距離をとって!」
友奈は手を一度合わせた後、手のひらを銀の方に向けた。
「...今度はなんだ!?」
「...水は普段は軟らかい。だが......少し勢いを変えれば、鉄をも抉る凶器となる...。」
次の瞬間、友奈の手のひらから大量の水が発射される。その勢いは水鉄砲の比にならず、どちらかと言ったらビームのような感じだった。銀から見たら津波が自分に襲ってきたかのように見えた。
「うわわわぁっ!!」
銀は間一髪、横に回避して事なきを得る。だが避けた後、銀は後ろを振り返って絶句した。
ズゴゴゴゴゴォォォー!!!
駐車場に停めてあった車が吹き飛び、遠くのコンクリート製の建物にさえぽっかりと穴が開いていた。
「嘘だろ...。なんだよこの威力...。」
「これがアクエリアスの力。...ソナタは一度この水を飲んでいるはずだ。」
「あ~!途中で味変わるヤツ!」
友奈と銀が会話している間に、園子は攻撃をしかける。
「...!...全く、油断も隙も与えんな。」
「そっちこそ...避けられたってことは警戒を怠ってない証拠だね。」
「当たり前だ。...油断して何度攻撃を与えられたか。神の身として恥ずかしい。」
すると今度は指で丸をつくり、
「...ぼん。」
と言う。
「また何か来る!」
園子の言ったとおり、追尾型の丸っこい爆弾が出現して銀を狙う。園子はすぐさま満開の力でその爆弾を消し去った。
「これは覚えてるぞ...!ずっとニッコリしてるバーテックスが使ってた!」
「ヴァルゴだ。爆弾地獄をくらうがよい。...ぼんぼんぼんぼん!」
そう言うととんでもない数の爆弾が現れ、二人を襲う。
「うわぁ!すごい数!」
「これくらいならまだなんとかなるよ、ミノさん!」
園子は巧みに満開の力を使いこなし、すべての爆弾を無被害で防いだ。爆弾は空中で爆発し、雨の中、空で火をあげる。
続いて友奈は地面に手をつくと、陸上選手のようにクラウチングの姿勢をとる。そして一瞬---
シュン...!!
「!!...あいつまた消えた!?」
銀は辺りを見渡すがその姿はみえない。今度は地面に潜ったわけではない。一方、園子は耳を澄ませる。
「......。...わかった...ミノさん!天の神は高速移動してるから見えないんだ!目視できないほどの速さで!」
「はぁ!?そんなことまでできんのかよ!?」
「たぶんジェミニの力!ほんのちょっとだけだけど風を切る音がするの!気をつけて!」
「わかっ......」
銀は返事の言葉を言い切れなかった。なぜならば、そのときにはすでに友奈が銀に攻撃を与えていたからだ。
ドドッ!ダッ!ダダン!
友奈はこの一瞬で右足、左肩、脇腹、の順で一撃ずつ打撃を与える。
「かはっ...!」
「フン...っ!」
最後にトドメとでも言うかのように足を高くあげて回し蹴りを銀の顔面に容赦なく食らわせる。銀の体はそのまま弧を描くようにして回る。そしてコンクリートが砕けるほどの強さで顔から地面に叩きつけられた。
「あがっ...!」
「ふっ...さっきまでの威勢が嘘のようだな、三ノ輪銀。」
友奈はそのまま足をグリグリと動かし、銀の頭を潰すようにして苦痛を与える。
「う...ああああ...!」
「...ん...?」
園子はその隙に攻撃を、と思い槍を動かしたがまた素早い動きをされ簡単に避けられる。そのおかげで解放された銀はすぐに立ち上がって構えた。
「ミノさん大丈夫!?」
「ああ...!なんとか!地面に叩きつけられた衝撃は鈴鹿御前が守ってくれた...。それに心なしか、それほど強い力で殴ってこなかった。......左肩は脱臼したみたいだけど...。」
「えっ...!?」
「大丈夫だって!まだ右が残ってる!」
銀は残った右腕で刀をがっしりと持つ。
「ソナタたちでは我のスピードについてこれない..。この時代の勇者でも、ジェミニを倒せたのは犬吠埼樹のみ。厄介な糸の力があったからだ。」
ヒュン...!!
今度は園子の背後に立ち、ボールを蹴る感覚で園子を蹴飛ばし、満開の力で現れる船から落とした。
「きゃっ!」
「園子...!」
「ご覧の通り、ソナタたちが攻撃を当てることはもちろん目でとらえることも不可能。...諦めろ。」
地面に落とされた園子は手をつきながらゆっくり立ち上がる。
「諦めるわけ...ないでしょ!」
「そうだ!敵討ちしないと...あたしの気が済まない!」
「いい加減立場を理解しろ。...今の一撃、足をスコーピオンの針に変えていればソナタは死んでいたのだぞ?これがどういうことか分かるか!」
友奈は園子の船の上で両手を広げて叫ぶ。
「我は、いつでもソナタたちを殺せるということだ!!ここに来るときもバーテックスの技を組み合わせ、勇者たちを瞬殺した!!ソナタたちに勝ち目はない!!」
「さあ...案外やってみないとわかんないかもよ?」
「...?......ここまで言ってまだ理解できないか?」
「理解できないねぇ!神様のくせになんでもかんでも決めつけちゃって!実際、ここまであんたを追いつめてる!少なくともバーテックスの力を使わないとあたしらを倒せない、そう判断したんだろ!?」
「......。そうか。ソナタたちの言い分はわかった。もう理解させるようなマネはやめよう。...圧倒的な力でねじ伏せるのみだ。」
友奈はそう言うと園子の船から飛び降りる。それから両手を合わせて開き、両腕に青白いスパークを纏う。
「水は電気をよく通す...。」
友奈は園子と銀、両方に対して電撃を混ぜたビームのような水を発射する。さっきのとは違い、雷のような光を発しながら飛んできた。
ジバババババッ!!ドドドドドドドッ!!
園子と銀は跳んで避け、二人は一つの場所に寄って着地した。発射されたビームは地面を削り、周囲の電柱が倒れ、ショートを起こした。
「...ただでさえかなりの高電圧だ。ここ周辺は停電したみたいだな。」
これまでの戦いの影響で、イネス駐車場は原型をとどめていなかった。両者共々勇者の力を全力で使いまくっていたため、地面のコンクリートは砕け、地面が盛り上がったり大きく凹んだ部分もあるほどだ。ここはもう瓦礫の山のような歪な地形へと変化していた。
「園子...行くぞ!」
「うん!」
園子は通常状態時に使う槍を取り出し、銀と共に立ち向かう。
「たあっ!」
「やあっー!」
しかし、もう二人の攻撃はかすることすらかなわなかった。
シュンシュン...ヒュン...!!
二人はまるで実体ではないものを切るような感覚だった。彼女は光で映し出された虚像なのではないかと錯覚するほど。
「...遅い。こっちだ。」
気づいたら後ろに立っている。すぐに武器を振ってもまた空を切る。
「さっきから風しか感じぬぞ。」
「くそっ!...はあっ!!」
「もう我に攻撃は当てられんと言ったはずだが。」
『...!』
彼女の動きが早すぎて、何人もいるように見える。向こうから攻撃してこないのはいつでも倒すことができるのを示唆させているのだろう。
「...当たらんのではつまらんだろう?」
友奈はそう言うと、パンパンと手を叩き、右手で銃の形をつくり、左手で丸をつくった。そして......
「ばんばんばんばんばんばんばんばん!ぼんぼんぼんぼんぼんぼんぼんぼん!」
「これ...ヤバいぞ!!」
矢と爆弾は大量に生み出され、手を叩いたときに現れた反射板に当たっては反射して全方位から攻撃の嵐が二人を襲う。
「さっきの比じゃないぞ!!」
「私に任せて!」
園子は空に浮いている船を戻し、満開の力で見事防ぎきることに成功する。
「!!...ナイス園子!」
「ミノさん!次来るよ!」
友奈の方を見ると、片目を閉じて手の銃で二人に狙いを定めていた。
「ズッキューン!!」
友奈のかけ声で巨大な矢が出現する。
「!!...でっか!!」
(まずい...間に合わない...!)
園子は焦るが、銀が園子の前に立った。
「今度はあたしが守る番だ!」
銀はそう言い、剣で矢を受け止める。
ギギギギギギギギギギギギギギギ!!!
「ぬおおおおおおおおおおっ!!!」
金属を削るような音が鳴り響き、後ろの園子は思わずその音に耳を塞ぐ。
「おおおおおおっ~.........おりゃあああああああっ!!!」
銀は矢を上空に跳ね返すことに成功し、息を切らせながらしゃがみこむ。上空に取ばされた矢は雲を突き抜け、その部分だけ青空が見えた。
「はぁ...はぁ...今のは結構腕にきた...。」
「ふふふっ...さすがは熟練勇者と言ったところか。」
友奈はまた攻撃の体制に入る。このままでは体力的にこっちが負けるのも時間の問題だろう。
「ミノさん!ひとつにまとまってたらいつまで経っても攻撃を与えられない!私が前に出るから、ミノさんは隙を狙って!」
「わかった!頼んだぞ!」
銀は一度前線から退き、園子は船に乗って友奈の次の攻撃に構えた。
「...だいたいソナタたちの作戦はわかっているぞ...。」
「そう。...でもこっちだってやるしかないからね。」
園子は先手を取り、武器を操る。友奈は地面に潜り、それをすべて避けた。そしてすぐに地面から出てそのタイミングを狙っていた園子の攻撃を防ぐ。
「...!」
防いだはいいが天の神の想定以上に力が強く、弾くのは不可能だった。
「ミノさん今!!」
「よしきた!」
木の陰から飛び出した銀が、右手を大きくあげて友奈に剣を振るう。
「うおおおおおりゃあああああ!!」
ギィィィンッ!!
「...はあっ!?」
銀の全力の振りは友奈の高く上げられた足に受け止められる。
「その体勢から!どうやってこれを防げるんだよ!?あたしの全身全霊だぞ!!」
「これが...神と人間の差だ...!」
「...!やばい...!ミノさん下がって!」
友奈は大きく空気を吸い込むと、銀の顔に向かって息を吹きかける。その色は紫色だった。毒霧を吹いたのだ。
「うわあっ!?なんだこれ!?」
銀の力が弱まったのを見計らって、友奈はそのまま銀を蹴飛ばした。
「ふぅ...もう飽きてきたなぁ...。もうちょっと攻めてみるか。」
「えっ...?」
「...ソナタたち二人にこれを防げるか...?」
友奈はそう言ってまた地面に潜り、足止めしていた園子の攻撃から逃れる。そして園子たちのかなり後ろから姿を現し、勇者の脚力を最大限に引き出したジャンプで遥か上空へと浮き上がる。
「うぅ...ホント力強いなあんにゃろ...。」
「あいつまたなんかするつもりだよ...ミノさん...!」
「...え?」
「ほら!上!上!」
「!...あんな高くに?それにあの構えって...。」
友奈は上空でバンザイをするかのように両手を上にあげ、手のひらを空に向けていた。
「あの構え...もしかして元○玉か!?!?」
「それはないと思うけど~...。」
そんなことを話していると、友奈の頭上に太陽のような火球が出現し、その大きさはどんどん大きくなっていく。
「!!!...あっ...あれもしかして......!」
「う、うん......レオの火球だ...!!」
「あいつ本当にあれをやるつもりか!?あんなのが地面に当たったら、まじでヤバいことになるぞ!!」
「絶対守らなくちゃ...!!」
-------
「ふっふっふっ...さて、これをどう防ぐ?避ければイネス周辺は更地同然。もうこの火球も多くの人間に見られているはずだしなぁ。」
ある程度の大きさにまで膨らむと、友奈はニカっと笑って火球を地面に投げた。
「止めてみよ!!勇者よ!!!」
-------
「きた...!」
「園子!とりあえずあたしらでなんとかするしかない!......満開っ!!」
銀も満開を使用し、二人揃って火球に突っ込んでいく。
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ......!!
『うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!』
二人とも満開の使用で精霊のご加護はないため、尋常じゃない熱さだった。
「ぐわああああああっ!!...熱っ!熱ぅー!!!」
「うっ...うぅ......うううう......!!」
勢いは緩くなったものの、依然動きは止まらない。園子はこれを止めている間、二年前のことを思い出していた。
(そう言えば大橋での最後の戦いの時も......こんなことあったな...。)
園子は横を向いて銀の顔を見る。汗をどばどばかきながらも暑さに耐え、一生懸命になって止めようとしている。
(あの時はミノさんが私を...。)
とんっ
「えっ.......?」
園子は反射的に銀を押していた。園子自身も無意識だった。気づいていたときには、ひとりで火球を受け止めていた。しかし園子は全く後悔していなかった。
銀はいきなりのできごとで困惑し、思わず力が抜けてしまう。その拍子で満開も解けてしまった。パワー全開でエネルギー消費も構わず使っていたのもあるだろう。
「そ、園子...!」
銀は地面に落ちながら、感じたことのないほどの眩しさに耐えながら園子の姿を見た。彼女の姿はどんどん離れていく。
「あのときはまたミノさんに守られちゃったけど......今回こそは、あなたを守るよ。」
銀は手を伸ばすが届くはずがなかった。そして---
ピカッ............ドオォォォォーーーンッ!!!
派手な光と爆発音を発し、火球は空で消え去った。
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急に暗くなった地面で、銀は周りの瓦礫をどけながら
「園子...?園子ぉ~...どこだぁ~...園子ぉぉ~~.....」
ガラガラ...ガラ...
園子の名前を虚しく繰り返し言いながら捜す。あたりに響くのは瓦礫をどける音と収まる気配のない激しい雨と風の音。そこに銀の近くへ歩いてくる人影がひとつ。
銀は園子かと思ったがその『人』を見たとき、がっくりと肩を落とした。その銀が見た『人』はゆっくりと口を開けて話し始めた。
「乃木の末裔は...火球とともに爆散したようだな。」
「......。」
「精霊の守りはついていないのだ。ついていたとしても我の攻撃だから無意味だがな。...なんとも感動的な最期だったではないか。大切な親友を無事守り抜いたわけだ。ソナタが好きなこの世界と一緒に。...彼女は彼女なりの使命を果たせたと思わないか?」
「......園子は生きてる...。」
「......は?」
「園子は生きてる...!こんなんで園子は死なない...!」
「はぁ...現実逃避か。ソナタも見たろう。爆発とともに消え去った姿を。実際、今捜していても見つからないではないか。体の一部分も残らずして死んだのだよ。」
「いや...生きてる...!あたしは認めない...!!」
「...我の言うことに対して否定しかしないなソナタは。いい加減呆れたぞ。せっかくその戦闘力に関して評価してやったのに。神が少しでも人間を認めたというのに。」
「あたしはもう...あんたを神だとは思えねぇよ...!あんたは悪魔だ...!みんなを不幸にする、最低最悪な悪魔だ...!!」
「酷いな。神に対して誹謗中傷か。神を悪魔扱いとは...。一番生意気なのはソナタかもな。...今のうちから乃木の末裔に謝っておこう。先ほど我は『親友を守れたのだから使命を全うできた』と言ったが......今からその親友は死ぬ。」
「...。」
「だが嬉しいだろう?またすぐに会えるのだ。...あの世でな。」
「園子は死んでないって言ってるだろ。お前が勝てるとも決まってない。」
「......まだ言うか。正直、こんな状況になってまで諦めないのは逆に狂気を感じるぞ?そろそろおとなしく殺されて欲しいもんだ。」
「おとなしく殺される生き物なんて存在するもんか...。あたしはこれから、お前を動けなくさせる。そしてその後は園子にどうにかしてもらうんだ...。お前の中には友奈がいるんだからな。友奈の体からお前を追い払えるのは園子だけだし...。」
銀はそう言って自分の外れている左肩を掴み、ぐっと引き寄せて関節をはめる。銀ははめる時の痛みで少し顔を歪ませた。しかし、これで左腕が動くようになった。
「はぁ...はぁ...人間様はしぶといぞ。」
「それはこれまでの戦いで死ぬほど熟知している。」
友奈は即刻拳圧を放ち、見えない砲撃が銀を襲う。奇襲であったが持ち前の運動神経で回避した。
ボッゴン!!
背後の瓦礫が吹き飛ぶ。
「......うん...?」
友奈は吹き飛んだところを凝視している。不審に思った銀は同様にその方向を見た。そこには、
「!!......園子!!」
「驚いた...あの爆発で体が残っているとは...。」
「ほら言ったろ!園子は生きてるって!!」
「...我には死んでいるように見えるが?」
そんな心無い言葉を無視し、銀は園子が倒れている瓦礫の前に立つ。銀から園子までの距離はかなりあった。彼女の安否は気になるが今そこに向かったら天の神に殺されるのは確実であろう。
「ま、でも一応トドメをさしておくべきか。生きていたとしてもどうせ何もできず死んでいくと思うが...。」
銀は歯ぎしりしながら友奈を睨みつける。
「そこをどけ、三ノ輪銀。」
それを聞いた銀は自分の足元に剣でひとつの直線を書き、天の神に告げた。
「ここから先は...通さない。」
(第48話に続く)
『友情編』連載時にはすでに『神の猛攻編』の内容はだいたい考えていたのですが『天の神に憑依された友奈はすべてのバーテックスの技を使える』という設定は第47話を書いているときにパッと思いついて書いてみました。そしたら思った以上におもしろくて手が止まらなくなりました(笑)
次回で『神の猛攻編』を終わらせられればなと考えております。ここまでの展開で少なくとも楽しめる内容ではないと思いますが次回もお楽しみに。