「なっ......!!」
(これは......また未来が変わった!?)
辺りをキョロキョロ見渡し、自分の体を触って、結城友奈...天の神は焦る。
(あいつらから受けた傷がすべて消えている...それにここは...体育館裏?)
勇者たちとの戦いで深手を負った友奈はイネスから病院へむかっていたはずなのに、今は讃州中学の体育館裏に立っている。
「バカな......我は間違いなく殺したはず...!だが未来が変わったということは......そんなまさか...!!」
体中から汗が吹き出る。イヤな汗だ。そしてやがて気づく。背後からの視線に。
(......!!)
友奈は唾を飲み込み、ゆっくりと後ろを振り返った。そこにいたのはもちろん...
「.........なぜソナタが生きている...乃木の末裔よ...!」
園子は、友奈から約三メートルほど離れたところに立っていた。そして次に彼女がとった行動。それは天の神を驚愕させ、動揺させた。
ザッ......
「!?」
園子は地面に膝をつき、手をついて深々と頭を下げた。その頭はピッタリと地についており、作法のなった綺麗な座礼をしてみせたのだ。
「これは一体なんの真似だ...!?」
「私は......あなた様に忠誠を誓います。これまでのご無礼、どうかお許しください。」
「...?......な、なんだと...?」
「あなた様の為ならば、なんでも致します。この世のすべての頂点はあなた様...私はようやくそれに気づくことができました。直々にご教授いただき、これ以上ない感謝の気持ちで溢れております。」
「おいおい......何をするかと思えばどういうつもりだ...。」
(今になって心が折れたというのか...?いやそんなわけがないだろう!!...最期まで我を見ていた目は...間違いなく『憎しみ』の感情で満たされていた...。まだ諦めていなかった...!きっとこいつは、我の懐に入り込んで隙を窺うつもりだ...!隷になったふりをして...我を倒すために...。)
「つまらない冗談を言うんじゃないぞ...乃木の末裔っ!!」
友奈は永遠と頭を地につけている園子に近づき、彼女の頭をガシッと踏みつけた。
「そのような言葉、信じるとでも思ったか!我もだいぶ舐められたようだな。ソナタ自身、こんな行動に出るのも本当は不本意だろう。こんなことしたくないに決まっている。最終手段で、考えに考えた上で、ソナタにとって一番屈辱的な方法で我に近づいた。...だが忘れないぞ。ソナタが我に向けたあの目を...。ソナタが今更何をしようが無駄なんだよ!!」
友奈はそう言うと、指で銃の形をつくって園子の頭に向けた。
「ソナタがまた未来を変えてくれたおかげで、我の力も元通り。あの戦いはなかったことになったから、バーテックスの力も使用できるということだ。ここで今すぐソナタを殺すこともできるのだぞ?」
「......。」
「周りに人の気配もないようだし...よくひとりで会おうと思ったな。こうなるのが予想できなかったか?」
「どうか...お許しを......。」
「......あ...?」
その時、友奈の堪忍袋の緒がプッツーンと切れた。
ドガッ!
友奈は園子の顔を思い切り蹴飛ばし、その衝撃で園子は地面に転がる。
「まだ言うか!!ソナタにプライドはないのか!?ソナタの企みは分かっていると言っているだろう!!それなのになぜやめない!?」
そう訴えかけるも、園子はまた綺麗な座礼をして
「お許しください...。」
と言い続ける。
「はぁ......最後の最後で見損なったぞ。やはり人間に存在価値などない。」
友奈は再び銃の形をつくる。
「......なんでもっ...あなた様に認められる為なら、なんでも致しますっ!!」
園子は必死にそう叫んだ。それを聞いた友奈はピクッと反応し、園子に向けていた手を下ろした。
「そうだ...確かに最初そう言っていたなぁ...?『なんでもする』...と。」
「はい...!」
「よぉし、わかった。では我の要望に応えられたならば、隷として使ってやろう。」
「!!......それは、本当でございますか...!?」
「ああ、我は神だ。例え相手が人間であっても約束は守る。」
「ありがとうございます...!ありがとうございます...。」
「だが、『ソナタが我の要望に応えられたなら』と言ったろう。」
友奈はそう言うと、静かにしゃがんで園子の顔の横に自分の顔を近づけてそっと耳打ちした。
「......勇者部員全員を、ソナタの手で殺せ。」
友奈は園子がどんな反応をするか楽しみにしていた。彼女は今まで勇者部員たちのために戦っていたと言っても過言ではない。その勇者部員たちを、自分の手で殺めろと命令されたら...。彼女はどれだけうろたえ、絶望の表情を見せるだろう。
だが、実際の園子の反応は天の神が望むような『普通』の反応ではなかった。
「お安い御用でございます。そのようなことでよろしいのであれば。」
「!?!?」
即答。全く間がなかった。まるでそれを命令されるのがわかっていたかのように。表情も一切変えず、淡々とそう答えたのだ。うろたえたのは友奈の方であった。
「わ、我の前でだ!我の前で全員殺せ!!不正やごまかしは許さぬぞ!!」
「当然でございます。」
「!?...勇者部員だぞ!?三ノ輪銀も東郷美森も、全員だぞ!!」
「はい、理解しております。」
「そんなわけがない!ソナタは今まで何のために戦ってきたのだ!なぜ我に反旗を翻したのだ!?...ソナタの望む世界を、創造しようとしたのではないのか!?」
「先ほども申したとおり、私はあなたに忠誠を誓ったのです。そのような愚かな考えはもう、私の心中にはひとかけらもございません。」
(なんだと...!?我は本当に......こいつの心を折ったのか?完膚なきまでに打ちのめしたのは確かだ...。だが......またこいつは未来を変えた。口振りからして勇者部員は全員生きている...。絶対、絶対、我を倒すことしか考えていないはず!!)
天の神はどうしても彼女を信用できなかった。これまでの、狂気すら感じる友への思いを見てきたからであったからだ。
「......そうか、わかった。取り乱して悪かったな。」
天の神は一度自分を落ち着かせ、再び園子に顔を近づけた。
「では、早速いってみようか。......まずは三ノ輪銀からだ。」
「今から、でございますか。」
「ああそうだ。今からだ。どうした、何か不都合でもあるのか?」
「いいえ。」
「いいか、くれぐれも怪しい動きはするんじゃないぞ。我は三ノ輪銀の前に姿を現さん。もう向こうは皆、我の正体を知っているからな。一緒にいたら当然怪しまれる。だからお前はひとりで、お前の意志でやつらを消せ。我とお前は何も関係していない、それを突き通せ。いいな。」
「承知いたしました。」
またしても園子は淡々と返答。そして...
「殺め方はどういたしましょう?」
「......は?」
「絞殺、溺殺、惨殺、毒殺、焼殺...人間の殺め方は多様にございます。この他にもまだまだありますが...ご希望は何かございますか?」
「ソナタ...何言って......」
「道具のことならばおおよそ揃えられます。学校の理科準備室に侵入すれば、必要な毒薬は手に入ります。首や手首と言ったところの大動脈を切断すれば、数分で死に至る。ですのでちょっとしたナイフでも平気なんです。あまり騒ぎを起こしたくないのなら......」
「も、もうよいっ!!殺め方はどうでもよい!!ソナタに任せる!」
「承知いたしました。」
気持ち悪くなった友奈は園子が最後まで言い切る前にそう言って止めた。もうこの頃には、園子のあまりの変わりようにゾッとしていた。そしてまた、興奮もしていた。
(人間は......こうも変わるのか...!?こいつのこんな一面など、どの世界にも存在しなかった!...だが...だとしたら...非常におもしろい...!!)
背中のあたりにゾクゾクっと感じるこの感覚。恐怖と興奮が混じり合った、今までに経験のない特別な感覚であった。
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もう日は落ちかけている。夕立はすでに止んでいたが、空は真っ黒の雲に覆われたままだった。明るさからしてもうほとんど夜になろうとしていた。
園子は下校途中を狙った。その時間ならば、いつも一緒に帰っている銀と二人きりになれる。友奈はその様子を、バレない程度に後ろから静かに尾行して見守っていた。
「なぁ~園子~今日の宿題ってさぁ、英語と~...国語と~...数学だっけ~?」
「今日は五時間目にやった実験のレポートをまとめる宿題もあるよ~。」
「あっ、それもかっ!完全に忘れてた~...今日の宿題多いな~...だるぅ~~...」
そんなようないつもと変わらない会話を繰り返している。
(いつ仕掛ける気だ...?)
友奈は後を追いながらそんなことを考えていると、突如園子が銀の手を引っ張って人がすれ違えないほどの細さの建物と建物の間に銀を連れ込んだ。
「うわっと!そ、園子...なんだ急に?」
いきなり狭くて暗いところに連れてこられた銀は当然ながら困惑する。
(なんだ!?あの細い隙間に入ったぞ...!)
友奈はすぐさま駆け寄り、その間を覗いた。
「ごめんねミノさん...悪く思わないでね。」
「......えっ?」
すると園子はポケットから万能ナイフを取り出した。
「.....ご神託だから。」
それから抱きつくようにして銀に近づき、そして......
刃先を首に突きつけて、その血色ある肌を 切 り 裂 い た 。
ブシャァッ!!!
赤い液体があたりに飛び散り、返り血が園子の顔と制服にビシャッとかかった。
「かっ......ぁ......?」
銀は首を抑えながら倒れ、ジタバタもがく。
(........。.........。.............ほ、本当に...やった...。)
それを間近で見ていた友奈も、血相を変えて絶句する。
「な"、な"んで.........園...子......?」
まだ息があるようで、銀は園子の足首らへんを掴みながら一生懸命言葉を紡ぐ。だがそのうち力尽き、やがて動かなくなった。それを確認した友奈は、おそるおそる園子に近づいた。
「............死んだ...のか...?」
「はい。呼吸も心臓も脈も、完全に止まりました。」
「............。」
「どうかなされましたか?」
「............なんとも、思わないのか...?」
「私は、あなたに満足していただればそれでよいのです。あなたさえ幸せであれば、私も幸福。命だって喜んで差し上げます。」
園子は立て膝をついて頭を下げ、顔を少しだけ赤らめながらそう言った。
「......もはやソナタが乃木園子であるのかという疑問の前に...人間であるのかという疑問が頭によぎる...。ここまで感情をなくした人間が、存在するのか...?」
「何をおっしゃっておられるのです。...あなた様に直接お使いできるという、この私にはもったいない広栄な立場におかれて、私はとても幸福だと感じているのです。この気持ちが、なによりの証拠でございます。」
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翌日。また園子はひとりの命を奪った。今度は背後から太い紐で首を絞め、絞殺。なんのためらいもなく行う園子の姿を見て、友奈は彼女の隣に立つことも恐ろしく感じてきていた。
「......。」
「......完全に息絶えました。すっかり私に心を許してしまっていたのですんなり済みましたが...昔の彼女ならそうはいかなかったでしょう。」
「......ああ。三好夏凜ならそうだろうな。」
友奈はパチンと指を鳴らし、夏凜の亡骸を証拠が残らないように完璧に消す。
「早く残りの部員も済ませましょう。怪しまれるのも時間の問題です。」
「......。まさかそっちからそんな提案をしてくるとはな...。わかった。任せるぞ。」
「今日中には全員...終わらせられます。」
「そんなに早くか...!?」
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「はぁ...はぁ...はぁ......」
乃木園子は本当に、この日のうちにすべての部員の命を奪った。それに用いた体力は予想以上で、園子は息を荒くしながら友奈の方を振り返る。
「これで...全員でございます...!」
友奈は足を組みながらズッシリと机に腰掛けており、その報告を聞いた彼女はゆっくりと拍手をした。
パチ...パチ...パチ...
「フフフ.........ハハハハハハハハハっ!!......ご苦労、乃木の末裔よ。まさか本当にすべて成し遂げるとは。最初は到底信じられなかったが......ソナタのその変わりよう...そしてこの成果を見て、我も考えを改めるとしよう。」
(これほどタイムリープをしても、まだ見られない人間の一面があったとは......案外興味深いものだ、人間というのも。)
友奈は立ち上がると、園子にキスするくらいまで近づき、彼女の顎に手をやって自分の顔の高さに彼女の顔を動かした。いわゆる顎クイだ。
「ソナタを我の隷として認めてやる。これで我の敵は完全にいなくなった。もしソナタが裏切ったとしても、ソナタひとりではもはやどうにもできん。ソナタには我の最後の計画を手伝ってもらうぞ。」
「最後の計画というのは...?」
「まあ、とりあえず聞け。」
友奈は園子から離れ、またさっきと同じように足を組んで机に腰掛ける。園子は地べたに正座して両手を前におき、友奈の話を聞き始めた。
「我の最後の作戦...それは、もうひとりの我と接触すること。そして、この世界を創り直す。」
「...!」
「もうひとりの我に会うためには、勇者システムが必要だ。生身では外の世界を歩くのは不可能だからな。...いくら神とはいえ、自分どうしでテレパシーを用いた会話などできない。我から会いに行くしかないのだ。」
「接触なさったら...どうなるのですか?」
「我とこの世界の我...『ふたつがひとつになる』。」
「...!!」
「そうなれば、もうこの人間の体は不要だ。元の我の肉体と一体化し、元々あった我の力は倍になる。」
つまり、天の神二人分...その力がひとつに集中するということだ。
「これが成功すれば、たとえ神樹が全盛期の頃でも敵ではない。すべての神の中でも我は、トップレベルの力を手にすることができるだろう。」
友奈はうっすらと笑い、園子に問いかける。
「ソナタは人間の初めての隷だ。もちろん、協力してくれるな?」
「......当然でございます。すべてはあなた様のご意志のままに...。」
「ふっ...自分も死ぬというのに大層な覚悟だ。それだ、それだよ。我が求めていたのは、その狂気じみているほどの強い信仰心。それが本来人間にあったはずの神への忠誠だ。」
友奈は再び園子に近づいて彼女の頭を優しく、ゆっくり撫でた。
「期待しているぞ、乃木の末裔。明日には勇者システムを用意しろ。明後日には作戦実行だ。」
「承知いたしました。」
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「......安芸先生。」
「......戻ってきたのね、乃木さん。」
乃木園子は、勇者システムを受け取りに大赦本部に来ていた。しかし、もらった端末の数は七。アタッシュケースの中にしっかり全部入っていることを確認すると、ひとつだけ取って制服のポケットに入れた。
「今のところは?」
「はい...順調です。『彼』が考えている作戦も、無事聞き出せました~。」
「...!」
「まあ、だいたい前の未来でゆーゆに乗っかったときにわかってたんですけどね~。ほら、タイムリーパーにはタイムリープの力以外にも、もうひとつ特殊能力が身に付きますから、それで。...計画が変わっていないか、確認も必要でしたし。」
「......その情報は信用できるの?まだあなたを疑ってる可能性も...。」
「もちろん、その可能性もちゃ~んと視野に入れてますよ。......実際、『彼』はちょっとだけ嘘つきましたし。」
「えっ...?」
園子はニヤリと笑い、一礼してその場を後にした。外に出ると、壁に寄りかかって腕を組みながら園子を待っている人物が一人。
「おまたせ、ミノさん!」
園子はその待っている人物にそう呼びかけた。
「おう、園子。もらってきたか?」
「うん。はい、これミノさんの!先に渡しておくね。」
園子はアタッシュケースを開けて、一番左のスマホを取って銀に渡す。
「おおっ...!本当に私の勇者システムが...!」
「複製、なんとか間に合ったみたい。結構ギリギリに完成して、大変だったって言ってたよ~。」
「そっか...感謝しないとだな。」
「うん、そうだね。」
銀は受け取ったスマホを握りしめ、寄りかかっていた壁から離れた。
「さ、行こうかミノさん!あともうひと仕事!」
銀と園子は二人、一本の道を歩いてゆく。
(第51話に続く)