「お望みの品、ご用意させていただきました。」
「...うむ。ご苦労。」
園子はポケットから取り出したスマホを低い体勢のまま両手で友奈に差し出す。友奈はそれを受け取り、偽物でないかを確認するとご機嫌にスマホをポンポン手の上で投げながら言った。
「これで下準備は完了した。あとは実行するだけだ。...これもすべて、この世の救世主である乃木家のおかげだな。」
「......。」
「全く皮肉な話だと思わんか?かつてソナタの先祖は、この結界内の人類を守るために、命を懸けて戦った。だが今、その子孫はどうだ?人類を滅亡させようとしている我に協力し、もうこの段階まで来てしまった。すでに止められまい。...初代とまるっきり反対だな、ソナタは。」
「私は自分の信念に従って行動しているだけでございます。私の先祖が過去にした行いなど、今の私には関係のない話です。」
「ふははははっ!ソナタが何をしようが、自由ということか。確かに、ソナタの言っていることは正しい。...ますます気に入ったぞ。」
友奈はそう言うと、また昨日のように園子の頭を優しく撫でた。そして園子に背を見せ、彼女から離れていく。
「明日、見晴らしの良い場所にでも登ってみるといい。世界の終焉を見届けるのに、相応しい場所を探しておくのだな。」
友奈はその言葉を最後に、園子の目の前から姿を消した。
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翌日 神樹の壁の上
「......。」
友奈は静かに壁の向こうを見つめている。その景色は神樹がつくりだしている幻の景色だ。友奈は一歩、一歩、ゆっくり踏みしめて結界の外へ足を運ぶ。
「さて...始めるか。」
先ほどの景色とは打って変わって、周囲は一面火の海。真っ赤に染めあがった世界が広がっていた。その中に、白い物体がところどころ動いて空を飛んでいる。
友奈は勇者システムを起動させると、火の海全体に響き渡らせるくらいの気持ちで叫んだ。
「さあもう一人の我よ!!時は満ちた!!!今こそ、世界を創り直そうではないか!!!!」
その大声に反応し、星屑たちは襲いかかってくる。自分たちの世界に入ってきた害虫と判断し、友奈を喰わんと一斉に飛びかかる。
「......ふんっ!」
だが、すべて一瞬で消し飛ばされる。華麗なステップで星屑の攻撃を避け、その後一撃。友奈はやれやれと言わんばかりに首を振った。
「...もう少し星屑の知能も上げたいところだな。これほど神の気を出しているのに気づかんとは。」
またしても星屑が遅いかかってくる。そもそもここはバーテックスが無限にいる。友奈は一体の星屑にまたがり、手を置いて自分の存在を伝えた。
その瞬間、星屑の動きは止まり、周囲の星屑も襲いかかるのをやめた。
「よし、それでOKだ。やればできるではないか。」
ニッコリと微笑んでそう言い、親指を突き立てて外と中を分けている結界を指差した。
「出番だ隷たちよ。結界内へ侵攻しろ。...もう神樹の寿命はないに等しい。次樹海化を起こせば、もうほぼ力は残らないだろう。......神樹は今、この我の体を欲しているはずだ。神樹が最も気に入り、最も優遇しているこの『結城友奈』の体を...。」
そんなことを話しているうちに、星屑たちは神樹の結界内部へ侵入する。と、同時に樹海化を引き起こした。友奈も結界内に戻り、中央に光り輝く神樹を目指す。
「神樹は樹海化を起こしている間のみしか姿を現さない!我はすぐにオマエの元へ辿り着く。オマエは我を受け入れるだろう!消滅しまいと、必死になってな!」
友奈は海を超え、地に立ち、心を踊らせながら跳躍を繰り返す。
「そしてオマエを......内部から破壊する!!この人間の中身にいるのは我だと知らずに、オマエは自分自身から死の道を選ぶのだ!!」
これが天の神の計画の全貌だった。友奈を取り込んだ神樹を内部から乗っ取り、破壊。そしてその時には上空に待機しているもうひとりの天の神と融合。すべては完璧な策略...のはずだった。ふと、乃木園子は何もしていないか確認のためスマホを覗いたとき、
「!?」
位置情報には壁付近に乃木園子の端末...だけでなく他の部員たちの位置情報も刻まれていた。
「こ、これはどういうことだ!?...乃木の末裔がすべての端末を持っているのか...?いや、どちらにせよ乃木園子の位置情報がここに映っているということは...彼女も勇者システムを持って樹海に来ている!!やはり我に抵抗する意志があるということだ!」
と、次の瞬間、それぞれの位置情報がバラバラに動き始める。
「!!!なっ......!?」
友奈は思わず足を止めた。
「これはつまり......だがなぜだ...!?我は確かに、確かにこの目で確認した...!ヤツらの死を!!だがこれが正しいとするならば......ヤツらは全員、生きている!!」
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一時間前 ゴールドタワー
「みんな!準備できてる!?」
「遅くなってごめんな!ちゃんと壁まで行ったか尾行してたからさ!」
「こっちはだいたい準備できてるわ。そっちはどうだったの?しっかり上手くいった?」
「はい!バッチリですよフーミン先輩!」
園子と銀は駆け足で風たちと合流し、息を切らせながら外を見た。
「ゴールドタワーって本当デカいな...。ずっと向こうまで見えちゃうよ。こんなところで生活できるなんて防人、ちょっと羨ましいかも。」
「銀、そんな呑気なこと言ってる場合じゃないでしょ!......全く...最初はどうなることかと思ったけど本当に上手くいったなんてね...。」
「ふふっ、これが全部成り立ったのもミノさんのおかげなんよ~!」
「いやいや、これを思いついた園子のおかげだよ!」
「ここでの生活も結構楽しかったわよねぇ。まあ、一週間程度の間だけだったけど。防人のみんなとも仲良くなれたワ!」
「そのっちと銀を除いた勇者部員を讃州中学から大移動させて一週間の間、ゴールドタワーで過ごす...。本当に並外れた考えだと思うわ。しかも周りの人にも協力してもらって、私たちが急にいなくなった理由は絶対に話してはならないといい聞かせて...。」
「それにしても、先生はわかるとして...いつもふざけてるあの男子たちが何にも言わなかったっていうのがすごいわ。いつもなら、常人でもわかるくらいボロこぼすのに。」
「まあ、大赦の力を使って一軒一軒、直々に頼んでいったからね~。...もし外で話したら大赦からしゅくせ...」
「ストップ園子!それ以上は言わない方がいいと思う...。」
「えっ、そう~?」
「今少しだけこの世の闇を感じたわ...。」
天の神は周囲の人間すべてに騙されていたのだ。そして、なぜそんなことが可能だったのか。その鍵は三ノ輪銀にあった。
「みんな!防人チームも準備完了したわ!もうすぐ樹海化が起こると考えられる!屋上に集まって!」
『了解!!』
芽吹の呼びかけで全員屋上へと移動する。
「......ありがとね、安芸先生。」
「......。」
屋上に向かう途中で園子だけ立ち止まり、海の向こうの壁を見つめている神官にそう言った。
「あなたの協力がなかったら、ここまでのこともできなかった。まさに、こんなドリームチームは作れなかったよ。」
「......。」
「もういい加減終わりにしよう。...ちょっと世界、変えてくるね。」
園子はそう言い残してその場を後にした。その神官は最後まで、海の向こうの壁を見ていた。
ゴールドタワー 屋上
「うおおお!!すっごい!船が浮いてる!?」
「防人にはこんな装備があるのね...!」
「量産型って言ったって、意外とすごいのよ?壁外調査するからいだからね。空だって飛べるし。エネルギー切れになったら落ちちゃうけど。」
総員約30名以上。防人たちは、宙に浮いている舟に乗船していた。芽吹もそのうちの一番前にある舟に飛び乗った。
「防人隊は私に任せなさい!...そっちは園子が引っ張るのよ!あなたが考えた作戦なんだから、責任持ってよね!」
「うん...わかってるよ!」
三日前...突如として全員に前の未来の記憶が蘇った。最後に残っていた記憶は、生々しい『死』を迎える感覚...。その記憶が戻った瞬間、一同は気分を悪くして倒れた。たった三日で...一度死んだようなものなのに、ここまで心の傷を回復させ、再び戦闘に赴くということは常人の精神力では考えられない奇跡のようなできごとだった。
「みんな......本当にありがとね。」
「何よ今更...こちとらすでに散々振り回されてるんだからね!?」
「芽吹...めっちゃ怒ってるな...。」
「聞こえてるわよ銀!!あとこれは、天の神に向けての怒りだから!」
そんな芽吹を横目に、
「私の知ってる...楠の顔...。」
「これでこそ芽吹さんですわね!」
「戦いたくない戦いたくない戦いたくない戦いたくない戦いたくない戦いたくない戦いたくない戦いたくない...」
と、同じ班のしずく、夕美子、雀は呟く。
「さ、ここからは別行動よ!お互い、健闘を祈りましょう!」
「うんっ!!」
芽吹は微笑みながらそう言い、園子はそれに大きく頷いて応えた。
「あんまり気を遣わなくて大丈夫よ、乃木。ひどい目に遭ったのはこれが最初じゃないんだし。なーに!トラックに轢かれたときの方が死んだかと思ったわよ!」
「そんな明るく言うことじゃないよお姉ちゃん...あの時はあの時で本当に心配したんだから...。」
「そうよ。全っ然フォローになってないわよ。」
「そんなことないよにぼっしー。...風先輩、ありがとうございます。」
そして園子は振り返って勇者部員たちの顔を見、
「みんなで円陣、組もう!」
と言った。それから六人で円をつくり、肩を組むと、園子は叫んだ。
「ゆーゆ取り戻して、天の神倒すよっ!!!勇者部ファイトォォォ~!!!」
『ファイト~!!!』
闘気を高め、一斉に勇者システムを起動する。
「友奈ちゃん...!待ってて、今すぐ助けに行くからね!」
「おおっ!!あたしのこの武器...昔のヤツぅ~!」
「それも安芸先生にお願いしたの。ミノさんは軽い刀より、そっちのズッシリした斧の方が使い慣れてるでしょ?」
「園子わかってるぅ~♪」
「昔の武器ってことは...精霊や満開システムはちゃんと銀のにもついてるの?」
「案ずるなわっしーよ~。そこはしっかり最新型だから大丈ブイ!」
園子はそう言ってピースする。
「...!...ねぇ、なんか空が...。」
夏凜がそっと空を指差す。その空は、壁側からだんだんと黒く染まってきていた。
「わっ!わわわわわわわっ!なにこれぇ~~!!!」
続いて雀の弱々しい声がこちらまで聞こえてくる。その声で全員気づいた。自分の胸のあたりに赤い烙印が浮かび上がっている。
「やっぱり、もうひとりの天の神を呼んできたね...。」
「ついに...始まるんですね...!」
樹は空を睨みつける。
「みんな!壁側へ移動するよ!なるべく最初の方で侵攻してくるバーテックスたちを食い止めよう!」
『了解っ!』
勇者たちは移動を始め、海の上に浮かんでいる船を足場にして壁に辿り着いた。
「さて、ここからはそれぞれ別行動だね。」
園子がそう言って全員の方を見たとき、
「...!もうきた!」
樹海化が始まり、光に包まれる。
『...!!』
その時、"敵"が姿を現した。
「......そんじゃみんな、友奈を頼んだわよ!あいつは私が食い止める!!」
「夏凜!?ひとりでやるつもり!?」
「大丈夫よ風。私にはまだ満開がある!」
「あっ、ちょっ...」
夏凜はそう言って一目散に天の神へ向かって飛んでいってしまった。
「もうにぼっしーったら焦りすぎだよ~。」
「園子さん、お姉ちゃん...私も天の神と戦う!」
「樹...!」
「任せて。夏凜さんのサポートは完璧にこなすから!」
「......わかった。よろしくね樹。」
「頼んだよいっつん~!」
樹も夏凜の後を追って天の神の方へ向かった。
「それじゃ、私たちで神樹様のところまで向かいましょう。」
「ええ。そうね。」
「......。」
「...ミノさん......?」
「あたしもここに残るよ。」
「えっ...?」
「もう"あの時"みたいな思いも、後悔もしたくないだろ?今度こそ、全員で帰ろうぜ!」
「銀...。」
「ミノさん...それだったら私も...!!」
「ダ~メ!...あいつを倒すには、お前が必要だろ?心配すんなって!わたしは大丈夫だから。」
「......うん、わかった。」
「それじゃ風先輩、東郷と園子をよろしくお願いします。」
「まっかせときなさい!」
風はそう言って親指を立てて見せた。
「満開っ!!」
東郷は満開を使い、園子と風は東郷の戦艦に乗り込む。神樹が鎮座する、四国の中心を目指して---
「......。ゆーゆの位置情報が止まってる...。どうやら気づいたみたいだね。」
「位置情報を止めることなんてできるの?」
「いや......たぶんですけど勇者システムを壊したんだと思います。」
「こ、壊した!?そんなことしてどうやって神樹様の場所まで...歩きじゃ到底着けないわよね、この距離...。」
「天の神は、バーテックスを自由自在に操れます。つまり...」
「『バーテックスに乗って移動してる』...そういうことよね?そのっち。」
「...うん。大型や中型じゃデカくて目立つから、このたっくさんいる星屑のどれかに紛れて...移動してるんだと思う。」
「...口の中に隠れながら移動してたりとか...?」
「そうかもね、わっしー。」
「うぇぇ......星屑の口の中なんて絶対嫌だわ...。」
「私たちは天の神がどこにいるかわからなくなった...でも逆に向こうも私たちの位置はわからない...。」
「そうだね。確かにゆーゆに憑依した天の神は私たちの位置はわからない......けど...。」
ヒュヒュヒュヒュンッ!!!
その瞬間、背後から無数の矢が飛んできた。東郷はすぐに反応し、戦艦を巧みに操って避ける。
「もう一体の天の神は、私たちの位置を把握できる...!そして、攻撃された方向を見れば友奈ちゃんに取り憑いている憎き天の神も私たちの位置がわかってしまう...!」
東郷は何度か撃ち返すことで攻撃を防ぎきり、
「一気に振り切ります!」
ブーストをかけて猛スピードでその場を後にした。
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「覚悟しなさい...天の神...!」
一方、夏凜はギリギリと歯を噛み締めて天の神を睨みつけていた。
「......満...開っ!!!」
計六本の刀を展開させ、がむしゃらに天の神へ突っ込んでいく。
「うおおおおおおおおおおっ!!!!」
天の神は抵抗し、矢の雨を夏凜に飛ばす。
ザシュッ...!ザクっ...!
「くっ...ぬぅ......っ!」
なるべく防ぎながら突っ込んでいるが、防ぎきれなかった攻撃が夏凜の体力を削っていく。足や頬を矢がかすり、出血する。
(結構...ヤバイかも...これ......!)
「......あっ!?」
少し油断したとたん、特大の矢が目の前まで迫っていた。
(これ...間に合わっ......!!)
ガギィィィンっ!!!
夏凜が目を閉じたとき、鋭い金属音が鳴り響いた。何が起こったのかと彼女はすぐさま目を開けてその方向を見た。
「オイオイ、大丈夫か?夏凜。」
「!...え...銀...!?あなた、園子たちと一緒に行ったはずじゃ...。」
「へへっ、心配でついて来ちゃった。」
そう言いながらまた矢を斧で弾く。銀は夏凜の満開のパーツに乗り、夏凜と同様に天の神を睨んでいた。
「あんまり突っ込みすぎるなよ?これ、経験者からの忠告。」
「でも...こうでもしない限りあいつに近づけないわ!」
「そうだなぁ。」
「『そうだな』って...じゃあどうすればいいのよ!!」
「いいか?こういうときはな...」
二人はまたしても飛んでくる矢を弾く。天の神との距離はすこしずつだが確実に近づいてきている。
「適度に突っ込むんだよっ!!!」
「結局突っ込むんじゃない!!」
(第52話に続く)