「遅い!三ノ輪さん遅いっ!」
「まあまあ、わっしー。ミノさんもきっといろいろあるんだよ~」
園子の怪我は無事完治し、今日から合宿が始まる。須美と園子は合宿先行きのバスで大人しく銀を待っていた。須美はぷりぷり怒っている。それは銀が約束の時間を過ぎても現れなかったからだ。
「それにしてもこの遅れ方はないわ!あんなに張り切ってたのに!」
須美がそうやって園子に言った瞬間、
「すみません~!遅れましたー!」
と、銀がバスに駆け込んできた。
「三ノ輪さん10分遅刻よ!何考えて....」
「いや~ごめんごめん!....ちょっといろいろあって~....」
「ほら、わっしー。いろいろあったんだって~」
「いろいろって....なによ....」
「いろいろはいろいろさー!」
銀はそう言って須美の隣に座った。
「あれ?今日は珍しく園子が寝てないな?朝はだいたい寝てるのに。」
「えへへ~。今日は私も張り切ってるんよ~!ずっとこの日が楽しみだったからね~!」
三人が揃ったところでバスは動き出す。ようやく合宿先に向かうのだ。
(たとえ一日だって、この僅かな時間だって無駄にはできない....。この三人で一緒にいられる時間は限られてる....。)
園子はそれがわかっていた。だから寝はしなかった。少しでも今を楽しむために....。
「三ノ輪さんをあそこのバスまで運んだら成功よ!途中でボールに当たったらそこでアウトだから頑張るのよー!」
合宿先に着くとすぐに鍛錬が始まった。担任がこの合宿の監督のような立ち位置に着き、園子たちを鍛える。
「ねぇねぇ、こっからジャンプしても良いかな?」
「ずるはダメだよ、ミノさん~....」
「ま、そうだよな!....須美もよろしくな~!」
銀は振り返って遠くに待機している須美に手を振る。
「あ....え、ええ!三ノ輪さん!乃木さん!」
「お堅いぞ~!須美っー!ほら、銀って言ってごらんなさい!」
「私も私も~!」
「うっ........ぅぅ....」
須美は顔を赤らめて下を向いた。
「あちゃ~....まだダメか~....」
「緊張してるみたいだしね~。ま、焦らずゆっくりでいこうよ、ミノさん~!」
「ふふっ....そうだな!」
二人はそう言って前を向いた。
「それじゃ、始め!」
先生の合図で機械が動き始める。
-----
---
-
「はぁ~....極楽極楽~....」
旅館を丸ごと貸し切り。これは大赦の力あってこそなし得ることだった。銀は一日の疲れを癒すために温泉に入る。
「この数日間大変だったね~。私、ちょっと筋肉ついたかも?」
「でもま、これから成長する女の子がこなすメニューとしてはかなりキツかったよなぁ。今日でクリアできて本当に良かったと思うよ。....それはそうと........鷲尾さんちの須美さんや、その体を見せなさい。」
「えっ!?どうして....」
「クラス1のそのお胸を拝んでおこうかなと思って....」
「い、いやよ!!」
「事実を言ったまでだね!むしろ大きいくせしてデレてるとか、贅沢言うな!」
銀は須美に襲いかかった。対して須美もそれに対抗する。
「ふふっ....やめときなよ~?先生に見つかったら....」
園子がそこまで言ったとき、丁度そこへ担任が入ってきた。
「三ノ輪さん、鷲尾さん。貸し切りだからって温泉で騒がない!」
そうとだけ言うと、担任は奥へ進んでいった。
「ほらね~。」
「す、須美....見たか....?」
「ええ....。」
「服の上からだとよくわかんなかったけど、大人ってすごいんだな....」
「ふ、二人とも聞いてないし~....」
温泉から出て、三人は部屋に戻る。担任からは連携を深めるために常に三人でいることを命じられていた。そのため、部屋も三人同部屋だった。
「ねぇねぇ、二人は好きな人とかいないの?」
布団に寝転がった銀がいきなり聞いてきた。
「えっ!?わ、私はもちろんいないわ!」
「須美はいなさそうだもんな~....。ちなみに私もいない!」
「ええっ!?自分から振っておいていないの?!」
「別に悪いことでも何でもないだろ?女子三人集まったからにはやっぱり!....こういう話が盛り上がるっしょ!」
銀は得意気にそう言うと、
「園子は?」
と、聞いてくる。その問いに園子は笑って答えた。
「いるよ。好きな人。」
「ええっーー!?」
「ホント!?誰誰??」
須美は異様に驚き、銀は目を光らせて迫ってくる。
「それはね~............ミノさんとわっしー!!」
『........。』
少しの間、沈黙が流れる。
「そんなことだろうと思ったわ....。」
「ま、園子らしいよな。」
二人は苦笑いしてそう言った。
「ええ~....本当だよ~!」
「それはわかってるよ。........ただ、こういうのは普通異性だろ....?」
「えっ?そうなの~?」
「はは....さすが園子だ....」
「もう話は終わったわね。早く寝るわよ。」
須美はそう言ってさっさと部屋の明かりを消す。
「え~!早いよ須美~!」
「ダメよ。明日もまた朝早いんだから。」
そんなことを銀と須美が話していると突然、部屋中に星空が広がった。
「わっ!?なんだこれ?!」
「プラネタリウム~」
園子はニコニコして即答する。
「消しなさい....!」
「え~....」
「いいから!」
「は~い....」
園子は須美に促されてプラネタリウムの電源を切った。
-----
---
--
「ぅ....ぅん....あれ....?乃木さん....朝起きるの早いのね....。」
まだ完全に日が出ていない時間。朝日が遠くの山と神樹が作った壁を照らす。それを園子がイスに座って髪を整えながら見ていた。
「あ、おはよ~わっしー。起こしちゃったかな~?」
「いや、大丈夫よ....。」
須美は目をこすりながらゆっくりと布団から出た。
「なんかね、早く起きちゃったんだ~。なんだか目が覚めちゃって。」
「そう....。」
「今日で帰っちゃうしね~....」
「そうね....。なんだかんだ大変だったけど、私は楽しかったわ。」
「私もだよ。すっごく楽しかった。ずっとこの時間を....繰り返していたいよ....」
「えっ....?」
「あっ、いや....名残惜しいからさ~!ほら、わっしー。早めに帰る準備しておこう?」
「そうね。三ノ輪さんも起こそうかしら?」
「まだ気持ちよく寝てるし、別に起こさなくてもいいんじゃないかな~?」
「........そうね。なんか悪いものね。」
「遅い!三ノ輪さん遅いっ!やっぱりあのとき起こしておくべきだったわ!」
須美と園子は帰りのバスに乗っていた。また銀が来ない。もう出発する時間はとっくに過ぎている。
「まあまあ、ミノさんもいろいろある....」
「いろいろじゃ済まされないこともあるのよ!このままじゃ三ノ輪さんは将来苦労する羽目になってしまうわよ!」
須美は少し怒り気味で園子の言葉を遮ってそう言う。
「考えすぎだよ~もっとお気楽に~」
「乃木さんは逆に緩すぎなのよ!」
「ごめんなさいー!遅れましたー!」
やっと銀が帰りのバスに乗ってくる。
「三ノ輪さん....あなたねぇ....」
「おお....須美こわ....。本当にスマン!ちょっと野暮用で....」
「野暮用....?」
須美は目を細めて銀を見た。
---
--
-
「乃木さん!これは調べるべきことだわ!このままだとお役目にも支障が出てくる!」
合宿から帰ってきて数日。須美はこんなことを園子に提案してきた。
「し、調べるってなにを~?」
「三ノ輪さんが毎回遅れてくる理由よ!今日はランドセルに猫入ってたし!........明日は彼女を尾行してその理由を突き止めるわよ!」
「尾行....?そこまでする必要あるかな~....?」
「あるわ!そのまま本人に聞いても絶対答えてくれないもの!」
「確かにそれはそうだね~....」
「じゃ、決まりね!」
須美はそう言って話を切り上げた。園子から見た須美は怒っていながらも、どこか楽しそうに見えた。
(第七話に続く)