乃木園子は勇者である ~リベンジの章~   作:てんぱまん

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7.10作戦編
【第9話】Go back


 

「俺がトラックに轢かれそうになったとき、園子さんは俺を助けてくれました....。実際、そのおかげで俺はこうして元気にしています。本当にありがとうございます。」

 

「あ、いや....それは全然いいんよ~。どこもケガしてなくてよかった~」

 

鉄男はどこか緊張しながら話を続ける。

 

「........それで、なんですが....俺を助けた時、俺の手を握りましたよね?」

 

「え?....う、うん....こっちに引っ張ろうとしてね~。」

 

「やはりそうですか....。」

 

「....?」

 

さっきから鉄男一人で理解しているため、当然園子はなにがなんだかわかっていなかった。

 

「あ、ごめんなさい....。実はですね、園子さんがこの病院に入院しているのは事故による直接的なものが原因じゃないんです。」

 

「えっ?....じゃあどうして?...手にも包帯巻かれてるし....」

 

鉄男はまるで誰かに発言を命令されているかのように、ポケットから取り出した小さいメモ用紙をちらちら見ながら話す。

 

「園子さんは俺を助けた後、どこもケガしてないはずなのに急に倒れたんです。無意識の状態で倒れたものですから、その時にその手をケガしたようです。なのであなたは今、原因不明の意識不明状態だった....というわけです。....あ、大丈夫ですよ?園子さんのお友達は今みんな部活動中ですから。今ここに来る心配はないです。」

 

「あ、うん....それよりも....!」

 

「すみません。"あのこと"の方が気になりますよね。前置きが長くなりました。」

 

鉄男はそう言うと一段落おいてまた話し始めた。園子は唾を飲み込み、鉄男の話に聞き入る。

 

「........園子さん。おそらくあなたは、ピッタリ三年前にタイムスリップしていた....そうでしょう?」

 

「!!うん....そうだよ!でも....なんでわかったの?」

 

ピタリと当てた鉄男に驚きながらも、園子は一番気になっていたことを聞く。鉄男は目を一秒くらい閉じて開け、こう言った。

 

「それは........未来が、変わったからです....!」

 

「っ!?じゃ、じゃあミノさんは今生きて....!」

 

「あ、いや........無駄な期待をさせてしまって申し訳ありません....。姉はまだ歴史上、二年前のお役目で亡くなったままです。」

 

「........そう....」

 

「でも、あなたは確実に未来を変えた。あなたには未来を変える力がある....!....なぜ俺がそう言えるか、それは昔なかったはずの記憶がスッと頭の中に入ってきたから....!」

 

「えっ....?」

 

「三年前、あなたは俺に言った。『姉を守ってくれ』と....俺のことを小さな勇者と言った。」

 

(....!!!)

 

園子は驚いた。それは、さっき三年前の鉄男に言った言葉そのままだったからだ。

 

「突然、その言葉が頭の中に出てきたんです。不思議なことに、三年前もの記憶が。俺、三年前のことなんてほとんど覚えていないはずなのに....その記憶だけが鮮明と思い出されたんです。感じたことのない、とても不思議な感覚でした。これは、本来なかった歴史....。それが今回のことに気づいたきっかけの一つです。」

 

「そっかぁ........でも、一つってことは他にも....?」

 

「はい。....もう一つは、東郷さんの記憶にも変化があったから。」

 

「っ!!....わっしーも....!?」

 

「........はい。それでこの数時間、二人でいろいろ考察しました。どこも外傷がないのに目覚めない園子さん、突然二人に舞い込んできた三年前の記憶....それらから考えてこの結論に至った、というわけです。」

 

「なるほど....。よくそこまで考えたね~」

 

「ま、ほとんど東郷さんの考えですけどね!俺は全っ然わかんなかったし!」

 

鉄男は急に小学生らしい顔つきに戻り、笑いながらそう言った。

 

「ねぇ........だとすると私、もう過去に戻れないのかな....」

 

「それは大丈夫だと思いますよ。」

 

「えっ....!?!?戻れるの!?」

 

園子はベッドから起き上がり、身を乗り出して鉄男に迫る。

 

「あ....い、いやぁ~...これも東郷さんの考えですけどね、園子さんのタイムスリップは事故による衝撃が原因ではないと考えてまして....。........俺の手を握ったときに、意識が飛んでタイムスリップしたでしょう?そして....こっちに戻ってくるときも俺の手を握った....」

 

「!!....うん!そうそう!!」

 

園子は大きく首を縦に動かして頷く。それを見た鉄男は園子の顔に近づき、自信満々に言った。

 

「ここから言えること....つまり!」

 

「鉄男くんとの握手がタイムスリップのトリガーってわけだね~!!」

 

園子は拳を突き上げて叫ぶ。

 

「そう!そーゆーことです!!(俺が言いたかった....)」

 

「それは安心したけど....タイムスリップしている間、こっちではどれくらいの時間寝ることになるのかな~?」

 

「まあ、ここまで寝ていた時間はざっと数時間くらいですからね~三年間過去にいるとすると....こっちではちょうど三日間くらい寝ることになるでしょうか?単純計算だと過去での一年がこっちでの一日っすね!」

 

鉄男は親指を突き立てて言う。

 

「了解なんよ~!....こっちでたくさん時間過ぎちゃったら過去での時間が多く進んじゃうのかな....だったら早く戻らなきゃ!もうあの日が近いんだよ!」

 

園子は急いで鉄男の手を握ろうとする。

 

「ちょ、ちょっと待ってくださ~い!!落ち着いて!一回まとめましょう!きっとそこら辺はなんとかなるはず!....園子さん、ひとりで抱え込んではダメです!これも東郷さんの伝言ですが....園子さんのタイムスリップを知っているのは園子さんひとりだけじゃない。俺らもいるんすから!」

 

「....!!」

 

「とりあえず....俺の姉を救うための作戦会議です!まずあのときの戦いがどんなだったか園子さん、教えていただけ....」

 

「その前に!!」

 

「えっ....?」

 

園子は興奮気味の鉄男を制止すると、改めて向き合って言った。

 

「『園子さん』は堅苦しいな~って。ついでに『東郷さん』も!」

 

「えっ....じゃあ他になんと....」

 

鉄男がそう聞き返す。すると園子は即座に返答した。

 

「『園子姉ちゃん』と『美森姉ちゃん』で!」

 

「えっー!?逆に馴れ馴れしすぎませんかぁ!?」

 

「いいんよ~....私たち、鉄男くんと仲良くしたいし。本人もこう言ってるじゃん?なんなら敬語もやめて欲しいかな!だから....ねっ....?」

 

「確かに....敬語はこちらも話しにくいっすけど........わ、わかりましたよぉ........そ、園........園子姉ちゃん....」

 

「おおっー!いいね~!....じゃあ私は、てっちゃんって呼ぶね~」

 

「あ、はい....」

 

「それじゃ、早速!話合おう!」

 

---

 

--

 

-

 

結局、鉄男との会話はただの無駄話で終わってしまった。だが、この無駄話のおかげで二人の距離は一気に縮まった。園子は全く焦ってはいなかった。なぜなら、もう作戦は出来ていたからだ。どっちみち鉄男と一緒に考えたところで、姉と頭も似通っている鉄男に良いアイデアは浮かばなかったであろう。

 

そして、タイムスリップについて他にもわかったことがある。記憶の大きな改変は今のところ、東郷と鉄男にしか起きていないということ、タイムスリップから戻ってくると過去の園子の記憶は元の歴史のものに戻るということだ。ここまで完璧な作戦を立てておいて勇者の歴史が一切変わっていないことから、園子はそう結論づけた。そして........

 

「それじゃ....そろそろ行ってくるね!ありがとう....てっちゃんと色々お話できて楽しかった~」

 

「いえ....。俺は園子姉ちゃんを信じてるから!過去の俺はなんにも知らないから力になれないと思うけど....現代の俺は応援してるから....!がんばってきて、園子姉ちゃん!!」

 

「うんっ!!」

 

そう言うと、園子は包帯で巻かれている手を差し出す。その手を、鉄男は両手で優しく包み込むようにして握った。

 

 

 

 

 

バチッっっ!!

 

 

 

 

 

またあの感覚。目の前が真っ暗闇になり、雷のようなものが一瞬だけ視界に映る。気づいたときには....

 

「?....どうかしたのか。」

 

「はっ!!....ここは....?」

 

「『ここは』って....あんたが連れてきたんだろ?俺をここに。急に変なこと言い出したかと思ったらまた変なことを....」

 

目の前にはまだ小さな鉄男がいた。さっきまで会っていた鉄男とは打って変わってまだ幼い。

 

(ってことは....)

 

園子は周りを見渡す。向こうには三ノ輪一家と須美、そしてイネスが見える。

 

(戻ってきたんだ....!しかもちゃんと途中からだ!私がてっちゃんにミノさんを守るように『やくそく』したところからだ....!)

 

園子はとりあえず安心した。もし時間がすすんでいてあの戦いに間に合わなかったとしたらもう取り返しがつかない。これでもう一つ、タイムスリップのことについてわかった。向こうで過ごした時間は、こっちでは反映されない。向こうでどれだけ時間が経とうが、いつでも途中から始められる。

 

「........それで、もういいのか?言うことは終わりか?」

 

鉄男はさっきから黙りこくっている園子に対し、目を細めながら聞いてくる。

 

「あ、うん!もういいんよ~邪魔しちゃったね~」

 

園子たちはその後、須美たちの元へ戻って銀を除く三ノ輪一家と別れた。

 

「いつの間にいなくなったと思ったら....そのっちは鉄男くんと何話してたの?」

 

「うふふ~内緒なんよ~」

 

あれから時間は経ち、もう夕方になっていた。今日で園子たちの休みは最後であった。また明日から学校と鍛錬の日々が始まる。

 

三人は夕日が照らす帰り道を歩き、ある分岐まで来たところで止まった。

 

「おっと、あたしだけ別の道か。」

 

銀はそう言って二人の方を振り返る。

 

「休みって過ぎるのは早いよな~....。明日からまた学校とキツい鍛錬の毎日かぁ....。........でも、この数日間いろいろあったけど、楽しかったな!」

 

銀は笑顔で二人にそう言う。その笑顔を見た須美は何か気になったのか、表情を曇らせる。

 

「そ、そうね!........本当、終わってほしくないわ。すっごい....楽しかったもの。」

 

「私も........このまま三人でずっと遊んでいたかったな~」

 

「おいおい、どうした二人とも!らしくないじゃん!いつまでも休んでるわけにはいかない、そうだろ?」

 

「そ、そうね!まさかそれを銀に言われるとは....」

 

「私たちが頑張らないと、こういう楽しい毎日もなくなっちゃうからね~」

 

「そうだな。園子の言う通り!!....そんなことさせるかってんだ。だから、また明日から頑張ろうぜ!須美!園子!」

 

『うん!』

 

二人は大きく首を縦に振って答えた。それを見た銀は安心し、そして....

 

「それじゃ、また明日学校で!........またね!」

 

「あっ....」

 

その言葉を聞いた須美はまた何かを感じた。そして銀に手を伸ばして彼女の手を掴もうとする。しかし、

 

 

パシっ

 

 

「....?どうした....園子....?」

 

須美が銀の手を掴む前に、園子が先に銀の手を掴んでいた。

 

「やっぱり........離れたくないよ....いつまでも一緒にいようよ、ミノさん....」

 

「?....何かあったのか、園子。」

 

さすがに銀も園子の様子がおかしいと感じたのか、まじめなトーンで彼女に尋ねる。

 

「........ごめん。やっぱりなんでもない!」

 

園子はそう言うとゆっくり手を離した。そして、

 

「またね、ミノさん。」

 

と名残惜しそうに言って別れた。

 

---

 

--

 

-

 

須美と園子の二人だけとなった夕方の帰り道。二人はどちらもしばらく黙っていた。もう少しで二人も別れるというところで、須美が突然こう言った。

 

「ねぇ、そのっち。そのっちってさ....私たちに何か隠してない?」

 

「えっ....」

 

園子は単純に驚いた。予期せぬ質問に、園子は立ち止まって固まる。

 

「やっぱり、何かあるんでしょ。....思えば四月からずっとおかしかった。意味不明な発言とか、知らないはずのことを知っていたり、これから来る敵のことも的確にわかってた....。ねぇ、これ全部本当に巫女の力なの....?私には........自分でも到底信じられないけど....まるで未来に起きることがすべてわかっているかのよう....」

 

(....!!)

 

ついにここまで気づかれた。さすがに今までボロをこぼしすぎたんだ。勘が鋭い須美はずっと最初から自分のことを疑っていた。

 

また、園子はタイムスリップのことを打ち明けるいいチャンスだと思った。ここまで仲良くなった須美ならきっと信じてくれる....力になってくれるはず。今までずっと二人に話す機会を逃していた。ここで須美に話し、その後に銀に話せばきっと円滑に作戦が実行できるであろう。園子は思いっきって口を開いた。

 

「あ、あのね!........わ、私....実は....!」

 

 

 

プルルルルルルル........

 

 

 

しかし、そのタイミングでちょうど須美の電話が鳴った。須美は ごめん、と言って電話に出て、ちょっとしてから電話を切るとこう言った。

 

「ごめん、そのっち。早く帰らなくちゃいけなくなっちゃった。その話はまた明日でいい?」

 

「あ、うん....全然いいんよ~」

 

「ごめんね!それじゃ、また明日~!」

 

「うん。またね~!」

 

走って帰って行く須美を、園子は後ろから見送る。須美が見えなくなるまで手を振った後、その手を静かに降ろすと自分もまた帰るために歩き始めた。

 

(せっかくのチャンス、逃しちゃった。........でもどっちみち明日、二人に作戦内容を伝えなきゃいけない。)

 

 

 

園子は家に着いた後、自分の部屋に行き、本棚に挟んであるとあるノートを取り出した。そこにはびっしりと文字や絵、図が書かれており、何度も書き直された跡がある。そう、このノートは今まで園子が戦いの度に書いてきた作戦ノート。また、これまでタイムスリップしてからの生活について書き留めてきた日記でもあった。園子はイスに座り、ノートを机の上に置いて広げる。

 

(決戦は遠足の日....あの日は一度たりとも忘れたことがない....。)

 

遠足はとても楽しかった。三人でアスレチックをしたり、バーベキューをしたり....。しかし、銀は二度と家に帰ることはなかった。弟の鉄男に直接お土産を渡すことも、遠足中に『やくそく』した、園子に料理を教えるということも叶わなかった。

 

園子は強く拳を握る。鮮明に思い出されるあの時の彼女の背中。ボロボロに傷つきながらも、勇ましく、倒れることなく、最期まで立っていた背中。園子はノートを睨みつける。そして、そのノートをランドセルの中に入れ、明日の準備を始める。

 

「これは、私のリベンジだ。....こんなことがなんで起こってるかはわからない。でも、これは大きなチャンス。私の後悔を、人生を大きく変えられるチャンス。」

 

園子は自分に言い聞かせるように独り言を言う。彼女は、未来に戻っていたときに鉄男と話した会話内容を思い出す。

 

---

 

(完っ璧な作戦じゃないっすか!さっすが園子姉ちゃん!姉ちゃんから聞いてた通りだ!)

 

(えへへ~、そうかな~?)

 

(そうっすよ!....でも、それくらい作戦が完璧なら、それに見合ったかっこいい作戦名が必要だな!)

 

(かっこいい作戦名....?)

 

園子は首を傾げて鉄男をじっと見る。それに対し、鉄男は胸を張って言った。

 

(実は、聞きながら作戦名を考えてたんすよね~。........姉ちゃんの命日は7月10日です。そこからとって....名付けるとするならばズバリ!!)

 

---

 

園子はランドセルを閉め、ゆっくりと机の上に置く。

 

「バーテックスたち、ここからが本当の復讐だよ。覚悟しててね~。7.10作戦、始動だ!」

 

(第10話に続く)

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