幻影のウマ娘   作:ReA-che 名義

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2ヶ月ぶりくらいになります
日常パートは苦手…


再会

いつもの日課にプラスして夜の峠でのタイムアタックを追加するようになり半年程が経過したある日のこと

 

その日は朝から分厚い雲に覆われた曇天の空だった

 

「それじゃあ行ってきます!」

 

「おう、気をつけろよ」

 

本日は天候が荒れそうなために早々と早朝のターフ走を切り上げ、いつもより少し早めに未来に声をかけて朝食を取ったあと雨ガッパを着込んで毎日の日課である配達へ勤しむ

 

先月から山田くん一号の荷台をさらに延長し、最大積載量は750kgに耐えられるよう補強を施し

重量分下り坂等で慣性力が強まる為に両方の車輪へ未来が後付でワイヤー駆動のブレーキを取り付けていた

持ち手脇にあるレバーを強く握れば強烈に作用し、ずっと握りっぱなしであればタイヤがロックするほどの代物である

 

(まだまだ慣れないなぁ…流石に750kgは重い…ッ)

 

一度に運べる量が増えた為に配達周期が緩まるかと思えば特段そうでもなく

寧ろ未来の加工した食肉や革製品等は中々に質が良いらしく単純に得意先の購入数が増えただけであった

 

(…ほッ)

 

牧場付近の山道下り、イオタはコーナーに入る直前にブレーキを目一杯引き絞りリヤカーのタイヤをロックさせてテールをスライドさせる

 

(こういう遊びも楽しいんだけど、無駄なロスが多いし突き詰めれば極力滑らせない方が速いわね)

 

コーナーの途中で後ろをロックさせて強制的にドリフトのような状態へ持ち込むということは素早くコーナーイン側へ進路を取れるとは言え急激に舵角がつくために抵抗が大きい

 

ハッキリと言ってしまえばあまり速くないのだ

 

(理想としては惰性で勝手に滑り出す超高速域で突っ込んでクリッピングを抑えたらグリップさせて立ち上がるのがいいけど、それはまだまだ難しいから煮詰めていかないとね…)

 

いまだ積荷がある状態では30キロ制限と言う縛りを設けてある

この速度なら750kgの荷物を引いた状態でもある程度の休憩を挟めば午後の仕事に支障が出ないレベルで身体の調整を行っているわけだがせっかく新しく覚えた技術も速度が低くて試せないのでは致し方がない

 

(明日からは+10km/hの40で走ってみるか…)

 

最終的には積荷満載のリヤカーで交通の流れに乗って走る

そんな事を思いながら遠目に見え始めてきた街中へ向けて一際強く足を踏み抜いた

 

 

 

「いっけね、降って来ちゃったか…」

 

本日の積荷を全て卸し終えた後、帰路についた信号待ちでポツリポツリと雨が疎らに降ってきた

 

(出荷した後で良かった…今日は革製品だから濡らしたくなかったのよね)

 

ちらりと後ろの荷台へ視線を移し、信号が青に変わったが為に視線を前に戻して発進する

 

「っ…これは」

 

その直後、一気にバケツをひっくり返したような土砂降りに変わった

 

(カッパなければ風邪引いてたなぁ…)

 

思わず苦い笑みが口に浮かぶ、身体の熱が抜けなかったり抵抗になるため普段はカッパを着るのなんて億劫だが今日は正解だと強く思った

こんな強烈な雨は配達するようになってそこそこ経つが五本指に入る

 

(台風と違って風がない分まだいいけど雨量だけならいい勝負じゃない!?)

 

辺りの道路は雨水で一気に黒ずみ何処を走っても足が水を蹴り上げる

早く帰ってシャワーでも浴びようとイオタは脚部に力を集中させて雨の町中をリヤカーを引いたままかっ飛んでいく

 

(…え?)

 

一気に辺りの景色が後方へ流れていく状況下でイオタの視界には信じられないものが飛び込んできた

 

(…あの芦毛の娘って)

 

それは以前公園で見かけたヤクザのような口調の芦毛ウマ娘の姿だった

しかしその姿はウマ娘専用レーンの路肩に座り込み、あの時はきっちりと着こなしていたスーツは乱雑にはだけており傘も差しておらず全身がびしょ濡れであった

そして死んでるのかと錯覚してしまうほどにガックリと項垂れた顔は濡れた髪が纏わりついており表情は伺えない

 

(……ほっとけないよね)

 

前に見かけた時は目があっただけで罵声を浴びせられできれば関わりたくは無かったのだが

あまりにも悲壮感の漂う状態に、初めて会った頃の未来の姿と重なって見えてしまった

故に放って置くことが出来なかった

 

「大丈夫ですか…?」

 

「な…なんやオドレは…」

 

心配に思い声をかけてみるが前回同様ヤクザのような口調で返答がある

大雨に打たれた寒さのせいか、はたまた時折聞こえる嗚咽が故かその声は震えていた

して何だと言われてもただのお節介であるためイオタは何も言わず芦毛の娘へ近づいていく

 

「あぁ、コケちゃったんですね」

 

「…あ?」

 

芦毛の娘は俯いたまま視線が上がらないためその視線の先を追ってみると

恐らく走っている最中に脱げたであろうシューズの片方が落ちていた

そしてそのシューズの底部、固定されているはずの蹄鉄が留め具が外れ、ズレて遊びのある状態になってしまっていたのだ

 

(走ってる最中に蹄鉄がこんな状態になったら急にバランスが崩れるから転んじゃうのも頷けるわね)

 

シューズの強烈なグリップを発生させる蹄鉄は単体でも元々接地面積はとても少ない

ましてやそれは平面に置いたときの話で、実際に身につけて走ってる時の接地面積はさらに極端になる

そんな状況でただでさえ大雨の中急に蹄鉄のズレが生じたらどうなるか

まず抵抗の増大で外れかかった側の足は強制的に急制動になり残った片側のみでその時の身体すべてを支えることとなる

 

当然そのような状態になればよっぽどこのような状況を想定して訓練でもしていない限りは転倒待ったなしだろう

 

「補修用のワイヤーありますから応急処置しときますね」

 

「あ…おい…」

 

芦毛の娘が何かを言った気がするがそれには答えることなくイオタは普段自身のシューズの手入れをする感覚で補修用に持ち歩いてる鋼のワイヤーを通していく

 

「へぇ…(リベットとワイヤーのセパレート…いや、リベットをカラーで包んで3点止めか

素材は希少な物じゃないけど質の良い物を使ってるし、高いレベルで性能と耐久性を求めたレース用ってわけ…)」

 

芦毛のウマ娘のシューズを片手に取り、造りをまじまじと見つめては感嘆の声を漏らす

本来シューズには靴底の素材やその素材の止め方にいくつか種類があり、練習用でターフもダートもアスファルトも走れる万能型のシューズは靴底が蹄鉄かゴム製(又は強化ゴム)の物であり、接着剤等で止めてあるか本体に溶着されてる物がほとんどだ

 

次にレース用の物となると靴底は蹄鉄のみになる

そしてその蹄鉄の止め方は複数に分類され、持ちの悪い順(価格順でもある)に[ワイヤー止め・カラー止め・ビス止め・ボルト止め・リベット止め]の5種類からなり、使う素材によって変わっては来るがそれぞれのメリットデメリットがある

 

また、一番強度の出るリベット止めを使ったシューズが言うまでもなく一番高い

 

(最低限の強度をリベットで補って、荷重変化で局所的に剛性不足に陥るからリベットを更にカラーで包んでガッチリ固定してるわけね)

 

さて、上記の通り重くなるためリベットは多様すればいいと言うものではない

だからこそ最低限の強度を保証する程度にしかリベットは打たれていないのだ

そしてそのままだと実際のレースでは強度不足であるためにリベットをカラーで包み強度の底上げを測ったのがこのシューズなのだろう

 

(で、それだけで仕上げたら固すぎるから外周部分はワイヤー止めにして力を分散できるようにワザと強度を落としてる訳ね)

 

しかし全部が全部その繋ぎ方であれば返って固くなりすぎ

て地面を蹴る感触がダイレクトになりすぎたり生半可な踏み込みじゃしならせるてグリップさせることも出来ずにピョコピョコとはね返されるだけになり性能をフルに使い切れない

 

そのため踏み込みで力のかかる部分は固く、そうでない部分は意図的に弱く作ってうまく力を分散させる

そう言う考えの元でこのシューズは作られてる様だ

 

「…はい、出来た

これでどうです?」

 

「え…お、おおきに?」

 

しかし今回はその構造が悪さをしたのか、手入れはされていたようだが部品の交換はしばらく行われていなかったようで

劣化したワイヤーが走ってる内に切れてしまい

シューズが強度不足に陥ったのをしばらくそのまま走り続けてズレてしまったのだろう

 

本来であれば完調へ戻すのに一度リベットやカラーを全部抜いてセンター出しをし直してからワイヤーで繋ぐのが良い訳ではあるが、それは機材が無いために応急処置でワイヤーでの止め直しだけである

 

「応急処置しか出来て無いんでなるべく早めにシューズ屋にでも持ってって調整してもらってくださいね」

 

「えらい世話になってもうて…」

 

「簡単なのしかしてませんから、それじゃ…」

 

シューズを返却し、いつまでも申し訳無さそうにしている芦毛の娘へそれだけ言うとイオタは走り去っていく

あまり遅くなると牧場で帰りを待つ未来が心配するからだ

 

「あ…行ってもうた…

ちゃんと礼も出来へんかったんに…

けど、えらいシブい奴やったなァ…」

 

 

その場に残された芦毛の娘は独特な関西訛りでどんどん遠ざかっていくイオタを見つめていた

 

「【君塚牧場】、かぁ…」

 

リアカー脇に書かれた唯一恩人への手掛りとして覚えた社用ステッカーの文字を声に出して言ってから穏やかな笑みを浮かべる

 

(後でしっかり礼にいかんとな

世話ァやかれてそのままっちゅーのは人情の街出身が聞いて呆れるで)

 

 

そんなことを考えながら、イオタの去った方面と反対側へゆっくりと歩き出す

先程まで鬱陶しいとしか思わなかった雨すらも、見知らぬ自身に手助けをしてくれたお節介焼きな彼女のお蔭で少しばかり心地がいいと感じた

 

 

 

 




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