ようやく形になったので投稿。
「そう言えば、何か私にお手伝いできること無いですか?」
牧場での思い出話を聞いて一区切りがついてからイオタは未来へそう言う
別に手伝えと言われた訳ではないが、無理にここに置いてもらう以上ヒモのように何もしないのは気が引けたのだ
ここに置いて貰うならそれ相応の対価として労働をする、まだ幼く齢10に満たないイオタ自身そうするのは当たり前だと本能で思っていた
「…本来なら君のような幼い娘を働かせるのは気が引ける
だが確かに何の気なしに追加で一人養える金がある訳じゃないし、幼いとは言え人間より力のあるウマ娘の君が手伝ってくれる事がありがたいのは事実だ」
本当なら遊び、学ぶ事が本業の子供に仕事の手伝いをさせるのが気が引けるのは事実で
それが出来ないくらい切羽詰まってるのも事実だった
「…改めて俺からお願いする
手伝ってくれ、君の力が必要だ」
故に未来はイオタから手伝いを申し出たのではなくあくまで自分から手伝ってほしいと言う事にした
「…当然、と言ってはそこまで考えて戴いてる以上言えませんね
けど、こっちは無理を言ってここに置かせて貰ってる身なんです、置かせて貰ってる身で何もしないなんてそんな罰当たりな事するつもりありませんから」
勿論イオタの返事はOKだった
何ならそうするのが当然とまで思っていたが、未来の思いを聞いて認識を改める
まだ幼い自身を汲んでくれ、その上で向こうから手伝ってほしいと改まってお願いしてくれた
その気遣いが嬉しかった
「私からもお願いします、ここで働かせてください
私に手伝わせてください」
「あぁ、よろしく頼む」
故にイオタからも働きたいとお願いすることにした
真意を察してかイオタのお願いを受け入れる未来の表情は終始穏やかなものだった
◆
「それじゃあまずは最初の仕事を覚えて貰うが…」
「はい!」
現在未来とイオタの二人は作業着に着替えて厩舎に集まっていた
二人とも白無地のTシャツにオーバーオール、長靴タイプの安全靴といういかにもな格好であり
イオタの分はまだ用意が間に合わなかった為に未来が子供の頃に使っていた物のお下がりを使っている
「まずは厩舎の掃除からだ、動物たちが邪魔になるから一度放牧させるぞ
牛とか豚みたいな大型の動物は一匹一匹ターフに出してくれ」
「わかりました!」
最初の仕事は夜間のうちに糞尿で汚れた動物達の厩舎内の掃除から
指示を聞いたイオタは元気よく返事を返すと動物たちに振られた番号付きの手綱を引いてターフへと一時的に放牧する
「ここからはスピード勝負だぞ
万が一にも脱走出来る作りにはしてねぇが絶対はありえねぇ
それに、ごく稀に暴れだすやつもいるからな」
「なるほど…!」
戻ってきたイオタに渡されたのは一本のデッキブラシと藁をかき集める土木農具のフォークだ
「とはいえ最初は慣れないだろうから自分のペースでゆっくり確実に出来る範囲で急いでくれ
今は覚えることが優先だからな」
「わ、わかりました」
さすがに今まで一人で仕事をこなしていただけありイオタへ指示を飛ばしながらテキパキと素人目に見ても早くそして確実に厩舎内をキレイにしていく未来に圧倒されながら見様見真似で厩舎内の掃除を始める
◆
「よし、ここはこんなもんだ
後はここの動物を戻してヤギ、羊、鶏、兎の厩舎に行くぞ
少し休憩挟むか?」
「い…いぇ…ゼェ…だ、大丈夫です…」
約30分後、一滴の汗も流さず涼し気な顔で次の指示を出しつつ一度休憩を入れるかと提案する未来と全身汗だくになり息を切らしながらそれを拒むイオタと言う対象的な二人の図が出来上がる
「そうか、あまり無茶はしないように
…次のところが終わったら絶対休憩取らせるぞ」
「お、お気遣いなく」
端から見ても疲れ切った様子のイオタに、それでも必要ないと言ってすぐに聞いてくれるようなタマでないことを感じ取った未来は次の作業が終わり次第強制的に休憩を取らせる事に決めた
「いくら何でも初日でテキパキとこなせる奴なんかいねぇ
それを踏まえれば十分上出来だよ
動物の搬入は俺がやっとくから一度息整えときな」
「あ、ちょ…」
言い終わる前に背を向けてターフへ向かった未来へイオタは項垂れてしまった
(早ぇえ…あの人……
何で人間なのに私より作業早くて私より重い物運んで私より疲れてないの…?)
現状仕事の足しか引っ張ってないのではとイオタは未来へ申し訳なさとどんな鍛え方をすればああなるのかと心配な気持ちでいっぱいになった
◆
「お疲れ様、午前の作業はこれで終わりだ
午後の作業は一時間半程度昼食と休憩挟んでから再開だ」
「……お疲れ様でした」
少し時間を飛ばして正午になり
午前の仕事が全て終わる、途中搬入中の動物たちが一斉に興奮して暴れだすと言う災難に見舞われ二人して牧場内を駆けずり回るというハプニングもあった
最終的に手慣れている未来が一人でどうにかしてしまったが慣れない仕事と暴れる動物を抑え込むことに体力を使い果たしたイオタは足腰がガクガク震える程に疲労しきっていた
「すごいな君塚さん…今でこんな仕事量を一人で回してたなんて……」
しかし元々それらを全てひっくるめて未来は一人でこなしていたのだ
体格以外全て体の構造で劣る筈の未来が一人で、その事実はイオタは舌を巻くしかなかった
そしてそれと同時に自分一人でも仕事を回せるようになり早く未来に楽をさせてあげたいと強く思った
(今は大丈夫でもあのやつれ方…そのうち本当にぶっ倒れちゃうよ)
今なら病的なまでにやつれ、死人のような形相をしてる未来にも納得が出来る
慣れてるとはいえあの作業量を毎日毎日こなしていたのでは疲れなど一向に取れないだろう
しかもそれは午前だけの話であり午後にはまた別の作業がある
(君塚さんは覚えるのを優先しろと言ってくれたけどそれじゃダメ
覚えるのも早く終わらせるのも平行しないとね)
道のりは遠く険しいなと小さく溜息を吐きながらイオタは建物内へ戻ろうとする
ゴオォ___ォオッ
「…ん?」
ふとその時、遠くから近づいてくる轟音に気づいた
あたりに響くその音は飛行機のようだがジェット機のように甲高い音ではなく
レシプロやヘリコプターのように不規則な低音でもない
自然とイオタの足は建物を通り過ぎ、牧場の目の前の通り沿いまで来ていた
ゴォオオ___ゴォッ_____…ボォオオオ
通り沿いに出るとその音はより一層鮮明に聞こえてきた
一体何が来ると言うのか、イオタは体を強張らせながら近づいてくる謎の音により一層注意を払う
____ゴォオォ…ボォンッ!
「…車?」
奥のコーナーを抜け、姿を表したのは少し古臭い赤茶色の平べったいコンパクトカー
そしてその車はイオタの視線も気にせずに牧場の中へ入っていく
「…!?一体あれは…」
急に入ってきた車にはイオタは気圧される、というのも今までイオタは実家にあった無駄にデカイ車や移動用のリムジンなど
大きく静かな車しか見たことがなかった
目の前にある車はそれらには属さない、小さいがボディが横長でかつ耳を塞ぎたくなるような爆音で耳障りな筈なのにどこか新鮮で心地良いとさえ感じた
バコッ___
金属同士の連結がむりやり外されるような決して耳に心地よくはない音と共に運転席のドアが開く
「え…?あれ……?"君塚"さん?」
運転席から降りてきた人物を見てイオタは更に驚愕する
太陽の光が当たるたびに全く違う色の輝きを見せる不思議な銀色の髪
左目尻に涙の形の入れ墨や血色が良く肉付きもしっかりしていて、かつ背丈は低いがその顔立ちは牧場主の君塚未来とそっくり同じだった
(…てか君塚さん顔立ちは良いと思ってたけど
もうちょっと太ったらこんなカッコいいのか…)
未来は泣く子も大泣きしそうな顔をしているが、ひとえに悪すぎる顔色とやつれた頬、生気の無い瞳がそれぞれ強い主張をしてホラー映画も真っ青な見た目になっている
だが一つ一つの顔のパーツは中々に整っていた
そして同じ顔でネガな部分が全く無い目の前のこの人物は当然な如く美形であった
「…誰?お前」
目の前の人物は訝しげに眉をひそめながイオタを見つめかえす
刹那ゾワリとイオタの背筋に冷たいものが走るような錯覚を感じた
(こ、怖いなぁ…この人…)
まさに蛇に睨まれた蛙だ
ひと睨みで人の身動きを止められるような人間など世界広しと言えどどれだけいるだろうか
「あ、えっと…君塚さんにお世話になってます
見習いのイオタって言います」
「ふーん…」
怪訝な表情は変わらないものの
未来の名前を出したことにより多少目の前の人物から向けられていた圧は軟化した
「___おい来るなら連絡くらいしろよな」
ふと真後ろから聞こえた言葉に後ろを振り向くと建物の玄関に背を凭れる未来の姿があった
「おぅ、暇だから来たぜ」
「ったくいつもそれだな
ともかくウルセェからエンジン切れ、動物達がビビるだろうが」
「へーへー」
未来の姿を見つけると先ほどと打って変わって嬉しそうに暇だから来たと宣う目の前の人物に当の未来はこめかみに手を添えて溜息を吐きながらまず車のエンジンを切れと言う
茶化しながら車の空いた窓越しにエンジンを切ると
地響きのようにあたりに反響していた音が消えて一気に静かになる
「君塚さん…この人は?」
恐る恐るイオタはこの人物が誰なのか未来に問う
未来の話では家族は誰もいないと言うことだが未来そっくりで親しげなこの目の前の人物は一体誰なのか気になったのだ
「あぁ…こいつは」
言われて未来はイオタの方へ向いてひと呼吸置く
そして少しだけ面倒くさそうに口を開いた
「こいつは綾瀬(アヤセ)雅(ミヤビ)、俺の親戚の弟だよ」