大まかな流れは作ってあるので構想に時間はあまりかからないのですが日常パートはやはり難しい!
「未来兄ぃから紹介があった通り、俺は未来兄ぃの従弟の雅だ
ここで見習いやるってなら今後顔を合わせる機会も多いだろ、よろしくな」
先程までの険悪な雰囲気はどこへやら
未来が来た事で雅がイオタへ向けていた敵意は今はすっかり成りを潜めていた
「見た目はアレだが俺が一番信用してる奴でもある
…性格はちっと難があるかも知れないけどな」
「おい」
雅の見た目をアレな物扱いをした挙げ句性格についても触れた未来に雅は速攻で食い下がるが
その様を見てイオタは思う
(…まぁ確かにカタギの人には見えないね)
目立つ髪色、目立つ位置に入った入れ墨
粗暴な口調と敵意は無いとわかっていても感じる圧と貫禄は控えめに言ってヤクザの駆け出し
又はギャングか金貸しだと言われても違和感がなかった
「まぁ一度置いといて
後は昼飯でも突きながら話そうや」
「何でお前の分まであると思ってんだよ
ねぇよ当然」
「は!?」
「こうなるから事前に連絡しろって言ってんだろこのバカ助!」
現在時刻はお昼時、未来のあんまりな紹介に食ってかかっていた雅も腹が減ったのかナチュラルに御相伴に与ろうとするものの察知した未来から待ったが掛かり
第2ラウンドが始まろうとする
「…っと続きは中でにしよう
悪いなイオタ、腹減ったろ」
「あ、いえ…」
しかし未来は流石に大人だといったところか
話し込んで同じくお昼をお預けされていたイオタへ向き治ると話を無理矢理切り上げ謝罪と共に建物内に入るように促した
イオタはイオタで話し込んでる中でお昼を催促するのが厚かましいと思ったのか生返事を返すのがせいぜいだったが…
◆
「本当に何も無いのか?
割とマジで腹減ってるんだけど」
「…しょうがねぇな、秘蔵のチキンラーメンでも出してやろう」
「チョイスよ…まぁ好きだけど」
移動中のこと、空腹に苛まれ再び食い物の有無を尋ねる雅に未来は小さなため息を1つ吐くとストックしていた即席麺を出すことに決めた
「悪ぃな、うちがもうちょい運営に余裕があれば
もっと他のモンも出せるんだが」
「…いや、なんだかんだ出してもらえるだけ感謝してるよ」
もてなす側の未来が言うのもおかしな話だが
大した物を出せない事を軽く詫びると雅から帰ってきたのは素直な感謝である
(…なんだかんだ二人とも本当に仲いいんだなぁ…)
そしてそんな二人の3歩程後ろを歩くイオタは、二人の表情を交互に見ながらそう思った
「さて、じゃあ追加で作るとするか…」
二人は建物内の一際大きな扉の前で止まり、未来はそう呟いて小さく息を吐いてひと呼吸入れてから扉を開ける
「…おぉ」
イオタの口元から無意識に声が溢れる、扉を開くと
そこは広々とした、おそらく昔は従業員達が使っていたであろう食堂だった
「二人とも先に座って待ってな」
未来はそう言って調理場へ姿を消す
残されたイオタと雅はそれぞれ2つ返事で対面するように食堂の椅子に腰を掛けた
「____で?」
腰を掛けた瞬間、雅は表情を変えずにイオタへ問いかける
「未来兄ぃは人一倍悪意に敏感だから、お前をここに置いてる時点でお前の人となりについてはについては別に疑っていない
けど何もこんな貧乏所帯にいるってのが引っかかるな、俺としては理由を話してもらえると納得できるからありがたいんだが」
「それは…」
別に目の前の雅は当初のように敵意を向けてくるわけではない
しかしただでさえ自分の生活さえ苦しいはずの未来が、今になってイオタのような小さい子供のウマ娘を雇ったのか気になるのだろう
「…私、行くところがないんです
名前は言えませんが、母は界隈では名のしれた競争バで
姉たちもそんな母の血を証明するかのように色んなレースで勝利を収めてました」
「…」
独白のように、時をまたいだ事を伏せてこれまでの事を話し始めるイオタの表情を見て
それが嘘偽りのないものであることを確信した雅は、黙ってイオタへ続きを促す
「それでも私なりに頑張ったつもりでした
寝る間も惜しんで勉強して、走って、きっと私にはみんなみたいに才能がないから
みんなと並び立つには人一倍の努力が必要なんだって
気づいたら鹿毛だった頭も芦毛みたいに真っ白になりました
それでも…やっと掴めたんです、地方だけどトレセンへの入学を」
気づけば声は震えていた
やっぱり心の奥底では振り切れていなかったのだと、改めてイオタは確証した
「けど、駄目だったんです
認めて貰えなかった、中央に言った姉や地方でもデビューから勝ち星を上げた姉たちと、入学は決まっても一度も一等を取ることがなかった私は
入学さえ許されずに絶縁状を叩きつけられました」
「…それで行き場を失った時に未来兄ぃが拾ったって訳か」
雅の言葉にイオタが小さく頷くと想像より複雑な状況に雅は深々とため息を吐いた
「わかった、そういう事情なら俺ももう何も聞かねえ」
「何の話だ?」
「いや、何でも」
ちょうど戻ってきた未来が料理を片手に何の話をしていたのを聞いてくるがイオタが口を開くより先に雅が何でもないと返す
「ふぅん…ま、いいか」
深く詮索しない未来は運んできた料理を次々とテーブルへ置いた
◆
「_____うっま」
運ばれてきた朝食を囲み3人で手を付ける(雅だけ即席麺だが)
とイオタは驚愕で目を見開く
「未来兄ぃの飯ってめちゃうまいよな」
「いやマジで美味いですよこれ…」
味を知ってる雅はイオタに出された料理の数々を見ながら悔しそうに言うと賛同するようにイオタも絶賛する
「大袈裟なんだよなぁ…元々好きで手伝いはしてたけど
独りになってそこそこ長いんだからある程度できるってだけだぜ?」
「…これでそこそこなら君塚さんの将来のお嫁さんは相当なプレッシャーでしょうね」
謙遜するように大したことはないと言う未来に呆れたようにイオタはツッコミを入れる
当の本人はあまり納得の行かないような顔で頬を人差し指でポリポリと掻いており、謙遜ではなく本当に大したことないと思ってることが伺えた
「で、午後からの予定は?」
「イオタに手伝って貰いながら各房の動物の餌やり、かな?
あとはそろそろ出荷先を決めなきゃいけないのが何頭かいるからその打合せは俺が」
ふと即席麺を啜っていた雅が未来へ休憩後は何をするのかスケジュールを聞く
お手伝いのイオタは初日であるためできる仕事も限られる為に一瞬悩んでから午後の手伝いは牧場内の動物達への餌やりで済ませようと決める
その後やる予定の打合せは電話でのものだがまだイオタでは対応が出来ないため未来一人だ
「どうする?昼も走るならターフ開けとくぞ?」
「いいんですか?」
朝も走っていた為に昼休み中も走るならターフを開けておくと未来が告げるとやはり走りたかったのかイオタはそう言って笑みを浮かべた
「お、走れるんだ?」
「独学でまだまだ荒削りだが基礎はできてるからな、ちょっと凄いぜ?」
イオタが走ることに以外にも雅が反応を示す
次いで実際に見たときのリアクションを想像してか未来は笑いながら言った
◆
昼のターフは朝露で湿りバ場の悪い黎明や早朝のものと違い
晴天に包まれた空とカラリと干上がったターフは絶好のスピードアプローチポイントでもある
____ドッ
右足を力強く杭を打つように踏みしめれば足の形にターフも凹む
____ドッ
慣性の力で前に押し出る体を後ろ足でターフを蹴り上げ更に速度を上げ左足を踏みしめる
またしても左足の形にターフが凹む
(朝露の溜まった早朝のターフもテクニカルで面白いけど
やっぱりトップスピードの載る良バ場のターフはシンプルに楽しいわね)
現在イオタは保てる限りの速度域でターフを高速周回していた
「へぇ…特出した速さは無い、ステップもコーナーアプローチも甘い…けど全体的なバランスは取れてるな
アイツ本当に独学か?」
「あぁ、そもそも独学じゃなければもっと基本的な所が出来てるはずだ
そこを考えれば確かにイオタの走りはてんでなっていないんだが…」
「…それでも疾いな」
ターフをぐるりと回ってイオタがコーナーを立ち上がる
その姿を見届けながら外ラチの外で雅と未来が思い思いに意見を述べた
「おっ…立ち上がってきたぞ
脚力は中々のものだが…何か違和感が残るな」
「流石に気づいたか」
「あぁ、もしかしてだけどアイツ本格化突入してないだろ?
それも初期段階すらまだ…」
本格化と言うのはウマ娘の成長にはかかせないもので、本格化を迎えることによってそのウマ娘の才能が開花すると言って過言ではない
また本格化を迎え、数年程度の短い期間でウマ娘の体は一気に作り変わる、本格化突入は個人差にもよるが中等部から高等部でその成長の頭打ちが見える事から10歳前後程度には本格化に入るか前触れが起こるのが通説であり本格化に合わせてそのウマ娘のデビューも決まる
「あぁ、アイツはまだ本格化に入ってない
いわば超晩熟型か」
「それであれなんだろ?恐ろしいやつだな」
大体のウマ娘は10歳前後で本格化する
それを踏まえれば齢10歳で本格化の片鱗が見れないイオタは超晩熟型であると未来は踏んでいた
そりゃ本格化した同期のウマ娘相手の模擬レースも戦績は振るわない筈である
(…だが疑問な所もある、イオタの話から実家はそこそこ以上の名家であるはずだ…
その名家がイオタの特性を見逃すのか?晩熟型だからと見捨てるのか?…わからない)
ふと浮かんだ思考に引きずられながら
未来はイオタの走りに意識を集中させる
(アイツはきっと速くなる、シービー姉ちゃんとルナちゃんを見ていた時より確実にわかる
周りから馬鹿にされようが見放されようが走り続け、磨き上げた努力に才能が加わればきっと類を見ない戦績を叩き出すだろう)
目の前の直線を目一杯に加速していくイオタと目があった
イオタは汗こそ流してるものの、その体躯や齢に見合わないハイペースでコーナーに消えていく
(あぁ、本当になんて走りをしやがるんだ)
ウマ娘を見てワクワクするなんていつ以来だろうか
久しく忘れていてとっくに抜け落ちたと思っていた感情が
イオタの走りを見るごとにまた少しずつ火が入っていくのを実感する
「本当に、震えるほどにシビレるぜ___」
口元から不意に溢れた未来のそんな言葉に答えるものは誰もいなかった