幻影のウマ娘   作:ReA-che 名義

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急いで書き上げたので誤字脱字、又は文章の構成がおかしくなってるかもしれません
それと時間軸がおかしなことになり始めてたので過去話遡って修正かけてます


成長

イオタが未来の牧場へ居候するようになってから2年の月日が流れた

 

「___ふぁ…朝か」

 

部屋の簡易ベッドから身を起こし一度大きく背伸びをする、ここに来たときよりもわずかに身長が、ショートだった髪も背中につくぐらいまで伸びた

2年の歳月は成長期も相まってその容姿をガラリと変える

 

「今日も走るとしますかね〜」

 

ひと呼吸起きベッドの真横にある古ぼけたナイトテーブルに手を伸ばし、愛用のヘアゴムを取り出すと髪を一本へ括る

流石に長過ぎると結い始めたのがまだ半年程度前のことなので未だに真ん中で結えてるか自信がなく

一度括ってから鏡で何度か確認をしてからベッドを抜け出す

 

「走り終わったら未来さんに声をかけて…

朝ごはん食べたら厩舎の掃除しとこうかなぁ、でも今日は配達があるんだっけ…」

 

2年も一緒にいれば多少は気心のしれた間柄になり、今のイオタは未来を君塚ではなく下の名の未来に敬称を付けて呼んでいる

そしてそんな未来と昨夜のうちに立てた今日の予定を寝間着から軽装に着替えながら振り返りつつ今日一日の予定を立てていく

 

「よし、こんなもんかな」

 

一通り着替えが終わると部屋の入り口に立て掛けてあるランニングシューズを手に取り部屋を後にした

 

 

 

 

 

 

 

−−−−−ドグッ

 

まだ空が薄暗く、月が辺りを照らす黎明のターフに湿気を充分に吸った重い土が打音のような音と共に後ろ足で蹴りあげられ宙を舞う

 

−−−−−ドグッ

 

まだ初春の時分、日中こそ温かい日差しではあるものの日の登っていない今の時間は加速するたびに強烈に襲いかかる空気の壁は肌を刺すように冷たい

 

「ハッ…!ハッ…!」

 

しかしそんな中を温度を感じさせずに空気を切り裂くが如く駆け抜けるイオタ、その姿は放たれた弓矢の如くブレがない

 

(相変わらずこの時間のターフはトリッキーで、面白いけど隙がない!)

 

ハイペースのまま駆け抜けコーナーに入る手前で一瞬両足が沈み込む勢いで制動を掛け、今日飛び込めるギリギリの速度を見極めてコーナーへ侵入していく

 

(でもこのひりつくようなスリルと速く走れたときの陶酔感はたまらないわね!)

 

飛び込んで最初の頃はのりに乗った速度が影響し、摩擦係数の少ないターフを滑るように入り込む

挙動が落ち着いてから滑るギリギリをパーシャルステップで持ちこたえコーナーの出口が見えたら全開で駆け出す

 

自身の持てる全力で走ることはここに来てからニ年間、その前は実家で物心つく頃からずっと続けている

風が強く吹こうが、大雨が降ろうが、雪が降ろうがこの日課だけはやめてない

 

そんなイオタを持ってしても朝露が芝に溜まった黎明のターフは気が抜けないものだった

 

大雨が降れば水の抵抗で雑に走らない限りはある程度の安定が得られる、雪が降ったのなら思い切って滑らせっぱなしにした方が返って速い

 

でも黎明のターフは滑る芝と滑らない芝が混在しており、ステップを踏みながら瞬時に判断しなければならない

 

怖気づいて警戒したままさほど濡れてない芝を走れば当然遅い、かと言って警戒しなさすぎて濡れた芝を全開で踏み込めば転倒待ったなしだ

 

(こればっかりはやっぱ経験、足を踏み出す前に一瞬で判断してステップの強弱を決めて、踏み込むときには躊躇なく…

踏抜くなら踏抜く、セーブをかけるならセーブをかける!)

 

半端な走りが一番遅い、繊細でなおかつ大胆な走りでなければただのロスで終わってしまう

とはいえ状況に応じてパワー任せにまとわりつく芝を蹴散らしたほうが良いときだってある

 

(ここのターフだったらどんな子相手でもいい勝負できそうね)

 

それらすべてを網羅してる自覚はイオタにはあった

乾いた芝、濡れた芝、凍った芝

季節により、時間帯によりそれぞれ違う状況の芝を毎日

多い日なら朝昼晩、少なくとも朝晩2回は必ず走ったことにより生まれた経験

ここでだったらどんなウマ相手だろうと負けない自信があった

 

(ま、そんな日はこないだろうけどね

ここの生活は好きだから)

 

ニ年経とうがトレセン学園への憧れが消えたわけではない

けどここで過ごして、ここでの生活を手放してまで行きたいとは思わないし、それ以上に未来に迷惑などかけられない

 

(それに、今の夢はG1より未来さんの牧場を復興することだし…)

 

おそらくお人好しの未来なら行きたいと言えば学園に連れて行ってくれるかもしれない

しかし先程述べたように、今は憧れこそ残ってはいても牧場再建の生活を捨てるほどでもない

故の現状維持だ

 

(だからって走ることには手を抜かないけどね、なんだかんだ体力つければ配達楽だし!)

 

一歩、また一歩と駆ける足のペースを上げて、これが午前のラスト一本だとイオタは決める

 

(最後は思いっきり攻めてみようか!)

 

右に左にと大きく踏み出す脚に合わせて、地面で吸収しきれないパワーに負けた蹄鉄が浮き上がって芝との摩擦はどんどん少なくなる

すると出した脚に連動するように身体は左右に滑るように加速していく

 

(足裏に感じる芝との接地感が極端に減ってきた

パワーと芝に乗った水分に負けて滑走してる____!)

 

ニ年間も同じ芝を走ればその場その場の走り方も完璧に覚える、そして、ニ年間も経てばあの頃よりトップスピードだって当然伸びていた

 

「ハァッ…!ハァッ…!!」

 

荒い呼吸音と芝と土を強烈に蹴り上げる音が黎明のターフに木霊する

チラリと内ラチと外ラチに視線を向けてイオタはトップスピードの計測に入った

 

(…50Km/hってとこ?だいぶ載せられるようになってきたわね)

 

時速50キロ、それが今の朝霜だらけの重バ場での最高速度であり、良バ場なら苦がなく巡航出来るイオタのトップスピードだった

 

もちろん現役で走る競走バや猛者揃いの中央トレセンの生徒達からすれば50キロと言うトップスピードはなんの変哲もない数値だ

 

しかしイオタの年齢、いまだ本格化を迎えていない現状、ぬかるんだターフと言う条件を合わせれば一気にその異様さは際立つ

 

(流石に他じゃ同じことは出来ないだろうけど、ここでなら慣れたもんね)

 

ラスト一本も残りは最終コーナーのみとなると、顔を顰めて否が応でも真剣な表情になる

これからやることはこの数ヶ月空想でのみ組み立てる事が出来た限界コーナリングの一つである

 

(せっかくだし"アレ”、やってみるか)

 

速度はそのままに目の前のコーナーへ、ラインを目一杯アウトよりにとって僅かに減速すると

そのまま内ラチの柵を掠めるようにイン側へ切り込んでいき

 

−−パンッ

 

(つぅ!っぶねぇ!?寄せ過ぎか!?

…いや……)

 

勢いそのままに膝先を擦る

刹那左足にビリッとした痛みが走り、思わず目測を見誤ったかと勘繰るが次の瞬間には構わずにコーナリングを続けた

考えれば当然ではあるが、普段と同じ速度で普段よりマージンを削ってインに寄せた分コーナーを走る距離は短くなる

たとえばいつもは5センチ開けるなら今日は数㎜

タイムで測ればコンマですら変わりはないだろう、しかし体感でも速ければやる理由としては充分だ

 

(これはこれで速い!!)

 

最短距離を最速で走るために内ラチのあるイン側目一杯まで寄ったまま、体に掛かった横Gに速度を殺されないよう慎重にパーシャルステップでグルリと向きが変わりるのを待つ

そして視線がコーナー出口に完全に向けれるようになると打って変わって全開に駆け出す

 

 

(立ち上がりは慎重に、アウト側いっぱいいっぱいまでを許容に滑らせて…ここだ!!)

 

進路を外ラチに取ったとは言え速度が速度である、慣性で滑っていく身体を体幹と長年の経験による細やかなステップでいなしていくがそれでもズルズルとコーナーの外へ外へと流れていく

とはいえ焦らず慎重に事を運ぶしかない

一度この速度で飛び込んでしまえば修正は難しいし焦れば柵と目出度くお友達である

 

(ぅ…おっ!?)

 

身体を外ラチへ寄せに寄せて、足先にチリッと言う小さな音とともに微細な衝撃が襲う

それと同時にイオタはここ最近目標に掲げていたことの一つが達成出来たことにほくそ笑む

 

『アウト・イン・外ラチ走法』

 

それがここ最近のイオタが目標にしていたコーナリングである

大元はいつも使っているアウト・イン・アウトと言うレース技術のさらにコーナー速度を高めた版だと思っていただきたい

入り口で目一杯アウトによったらイン側内ラチにぶつかる勢いで飛び込んでいき、視線がコーナー出口を捉えたらクリッピングポイントから速度を落とさないように緩い弧を描くように全力で駆け出して外ラチ数mmまで寄せて抜け出す

先程の微細な音と衝撃はイオタの蹴り上げた足先、ランニングシューズの蹄鉄が外ラチを掠めた際に発生したものだ

 

(ようやく形にはなった…!私の理想のコーナリングその1…

あとは精度を煮詰めるだけね!)

 

もちろん難易度は恐ろしく高く、さらに言えば正気の沙汰ではない

並のウマ娘ならばあまりにも危険で絶対に不可能な芸当である、それでいて獲られるものは自己の満足感とコンマ数秒程度タイムが縮まるくらいだろう

 

だがそのコンマ数秒を侮ることなかれ、レースに関して言えばコンマ差を笑うものに走者である資格はないのだから

 

 

 

 

「未来さん、朝ですよー」

 

「…おー……」

 

目標を達成出来たことにより幸先のいい一日のスタートを切ったイオタは着替だけ済ませてその足で未来を起こしに行く

未来は普段から早起きではあるが低血圧であるために声を掛けにいかないと自身が決めた朝食の時間ギリギリまで出てこない

これでも去年くらいまでは朝の支度はすべて未来がやっていた為に遅れることなどなかったのだが

今は朝食の用意はイオタが頼み込んでやっており、やることがなくなってしまった未来は余った時間ベッドの上で倦怠感と格闘するようになった

 

「とりあえずベッドから出ましょう?」

 

「あー…悪いなぁ…」

 

掛け布団の掛かったまま座り込んでいた未来から掛布団を引き剥がしイオタはベッドから離れる

それを皮切りに未来も意識が覚醒しだしたのか大きく伸びをすると前日から近くに用意している着替えに手をつける

 

「…出てもらっていいか?」

 

「あ、すいません」

 

そして未来は素知らぬ顔をして居座り続けるイオタに避難の目を向ける

素でやっていたのかハッとなって軽く謝罪してからイオタは出ていった

 

(…内ラチに膝を当てるほど……か、随分と攻め込んでるみたいだな…)

 

イオタが出ていってから未来は着替えながらイオタが退出する際の足運びにいつもより少し違和感があることを見抜いていた

無意識下で患部を庇い身体に負担がかからない程度にバランスの狂った足運びからおそらく左側の膝を柵に軽く当てたと未来は推測する

 

(そろそろいつも通り走るだけじゃ飽きが来る頃だろ

元々見様見真似でもそこそこに走れていたアイツのことだ、ルーツを司る母親の走りを守り、この2年でいろんな走り方に手を出して、そこに自分の走りを見出そうと殻を破ってる最中だ…)

 

それ故に限界点を超えた際のイオタの素質が解る訳だが同時に怪我を誘発するリスキーさも当然高い

着換えの終えた未来はイオタの待っているであろう部屋の扉の向こうを見つめ小さくため息を吐く

 

(思ってたよりもこの段階にくるのが早かったな…まぁいい

近々書庫から合宿所時代のトレーニングメニューでも引っ張り出してきてみるか、アイツにもいい刺激になるはずだ)

 

 

 

 

「えーっとこっちが市場に下ろすやつ…こっちが旅館で…これは精肉店のやつ」

 

朝食を終えたイオタは現在厩舎の隅から引っ張ってきた配達用の巨大リヤカー(仮称山田くん一号)を建物の入り口に置き

本日の配達する荷物と届け先の確認をしていた

牧場である以上ただ動物を育てている訳ではなく、豚や牛、羊に鳥など食用にできるものは屠畜から食肉加工まで未来がこなしている

一度はイオタが引き受けようとしていたのだが実践であまりのショッキングさに気を失ってしまった為にこればかりはいまだに未来だけの担当だ

 

「…今更ながら絵面がすごいな」

 

一緒に荷物の伝票を確認しながら未来は目の前の光景の異常さに口を挟む

元々は一般的なサイズ(最大積載量300キロ)のリヤカーであるのだが、一回に沢山積んだ方が効率がいいしトレーニングにもなるとイオタが未来に依頼し、リヤカー(山田くん一号)はその積載量を500kgまでを許容に荷台の改造が施されており、当然荷台の長さも通常の倍近くまで伸びている

そしてそんな大きなリヤカーを引くのは年齢的に小学生の小柄なイオタである

 

「わかってると思うが安全にな、飛ばすのは構わんが怪我と事故だけはするなよ?」

 

「わかってますよ、『公道は俯瞰で見ろ』でしょう?」

 

配達を任されるようになってから、未来から課せられた条件がいくつかある

一つは歩行者や車、他のウマ娘達に走りで迷惑をかけないこと、自分より速いのが来たなら張り合ったりせず、近づいてくるのがわかった時点で端へより先行させること

これは積荷がある為、車や普通のウマ娘より早く走れるわけがないので基本すぐに譲る事で少しでも交通トラブルのリスクを減らすためだ

 

もう一つは交通量、通行人やあたりを走る車やウマ娘たちの流れを自己中心ではなく一歩引いて広く見ること

走る以上独りであっても一人ではない、周りにいるのは常に自分以外の他人でありどんな動きをするかなんてわからない

そのためたとえ目の前で何が起きても対処できるよう予め警戒しておけと言うことだ

 

最後に必ず無事で戻ること

怪我や事故はもってのほか、変なのに絡まれ追いかけられたら最悪荷物は捨て置いてでも帰ってこいと言われている

 

この3つがイオタが配達に出る条件だ

 

「よし、こんなもんかな…」

 

「今日の配達先を考えると午前目一杯使って正午には戻れそうですね」

 

「今日も走るか?」

 

「もちろん!…お披露目したいのあるので見てもらえます?」

 

「あぁ、わかった」

 

あらかた荷物を積み終えると、未来は額にじわりと浮かんだ汗を拭い今度は大きめの氷を残った隙間にみっちりと詰め込んでいく

更にその上から厚めの木の板で蓋を閉める為、この季節なら配達時間も加味するとぶっちゃけ氷は必要ないのだが精神衛生上一応、である

 

「それじゃあ、いってきますね」

 

「おぅ、いってらっしゃい」

 

低く腰を落としてリヤカーをグンと引く、引っ張られたリヤカーがゆっくりと動き始めるとイオタは出発する事を告げた、対して未来は簡素に返答し、イオタを見送る

普段はピクリとも表情を動かさない割に、穏やかな表情を浮かべながら

 

 

 




もう何話か挟んだら閑話として現代側も書いていこうと思います
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