幻影のウマ娘   作:ReA-che 名義

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色んなことが重なりすぎて鬼の忙しさの中執筆
実に4ヶ月ぶりの更新となります


配達

勾配がキツめの坂が続く山道を山田くん一号(リヤカー)を引きながらイオタは駆けていた

 

(慣れてはきたけど重いな…)

 

速度にして約30km、通常であれば永遠に走れそうだと錯覚するそのスピード、しかし500kgもの重りを引いてる今は全く別の顔を見せる

 

(普段走る分には気にも止めないような緩い坂も山田くんはすぐに反応するわね…)

 

引き手のイオタが身軽でも引いてる山田くん一号(リヤカー)はそうも行かず

慣性の法則に従ってありとあらゆる坂を検知し、時に引き手が腹部にめり込み、時に背中が荷台に押される

 

(けど、まぁこの程度なら大丈夫…)

 

最初の頃は上り坂一つで滝のような汗をかき、下りともなれば荷台に踏み潰されるのではないかと常に気が抜けなかった

だが今はこの程度ではなんてことはない

 

(こういうトレーニングは、いま自分の限界がどこなのかわかるからいいわよね)

 

何度も言うようであるが、本格化を迎えてない以上どんなに鍛えても筋力やスタミナの許容が増えるスピードはとても遅い

だがそれでも人よりは早い為に数ヶ月も続ければどれほどの物になったか体感できるほどにはやるやらないで違いが出る

 

(さ、早く配達終わらせてターフでも走ろっと)

 

 

 

 

 

 

街に降りるとイオタはウマ娘専用レーンを山間と同じ時速30kmのまま走り続ける

当然辺りをランニングしてる他のウマ娘達より遥かに遅いスピードな為、用意に追い越しできるよう目一杯左に寄って走っていた

 

(…うん、相変わらず周囲の目が痛い)

 

端から見ればウマ娘とはいえ幼い子供が自身の体よりも大きいリヤカーを苦もなく(表面上は)引いている光景は明らかに異様な物で

あちらこちらから注目を浴びていた

 

(ここまでは良いペースで来れた…この先に公園があったと思うからそこで一度休憩を入れよう)

 

周りの目を意に介さず走り続け

ふと荷台に括り付けた時計を見るとかれこれ2時間程走り続けている計算になる

丁度両足がわずかに疲労感を訴えて来たところなので少し行ったところにある公園で一時休息を取ろうと考えた

 

「…確かこの辺だったはず」

 

配達のルート上にある公園ではあるが利用する事がないため

記憶上の場所に自信がない

 

(あ、あったあった…)

 

少し先へ行き、目的地が見えてきたことで表情が明るくする

 

「ぷぅ〜…今日は暑いなぁ」

 

公園の中へ入るとゆっくり速度を落としていき

あたりに何もない広場になっている場所へリヤカーを停車させると深々と息を吐いた

 

(今日の配達先は4件だから、このあと一時間もあれば卸し終わる…

帰りは空荷だから飛ばせるぞ〜♪)

 

リヤカーの脇に常に備え付けた水筒を手に取り、中のスポーツ飲料を一口煽って笑みを浮かべる

適度にバラストがあり、低高速の特性がガラリと急に変わる公道で走るのはターフで走るのとはまた別の楽しさがある

 

(ん…?)

 

そんなこんなで休憩を終わらせ、また公道へ出ていこうとしたとき、ふと視界の端に映った一人のウマ娘がいた

 

(芦毛の子…か)

 

そのウマ娘は少し暗めの銀髪と大きめの赤青配色のハチマキを身に着けており

身長は目測だがイオタと同等かそれよりも低く、であるにも関わらずスーツを着ていてあまりにも不自然な格好をしており、どうやら飲み物を購入したいのか自販機にお金を入れてからウンウンと唸っている

 

「あ"?」

 

(あれっ?)

 

ついに商品を決めたようで意気揚々とボタンを押すも商品は出てこなかった

というよりその子が他のボタンを押しても商品が出てくる気配は一向に感じない

 

「は…?え"!?出てこーへんがな!

せやったら金返せや!?」

 

慌てた様子で芦毛のウマ娘はお釣りの返却レバーを引くもおつりすら出てくる気配を感じない

 

俗に言う【飲まれた】というやつだ

 

「ぐっ!?…こッのォ〜〜!!」

 

遂には痺れを切らした芦毛のウマ娘が自販機の中央部に鋭い蹴りを叩き込む

辺りにバゴンッという鈍い音が響き渡ると商品の取り出し口からはあらゆる商品が、釣り銭口からはジャラジャラと小銭が出てくる

 

(うっわぁ〜…)

 

「一本でええ!一本で!

あ〜ホンマ腹立つわ〜!!」

 

余程苛ついたのか他の商品や小銭に目もくれず、出てきた目当ての缶飲料を一本だけ手に取ると肩を怒らせながら歩き出す

その様を少し離れたところで顔を引きつらせながら見ていたイオタだったが

不幸なことに芦毛のウマ娘が振り返りバッチリと目が合ってしまった

 

「何見とンねん!

見せモンとちゃうぞコラァ、シバくど!?」

 

(うわ怖っ…ヤクザかよ…)

 

割と洒落にならない眼光で睨まれたのでイオタはそそくさと目線を外し、今度からあの芦毛のウマ娘がいるときはなるべく近寄らないようにしようと考えながら足早に公園を去った

 

 

 

 

 

 

「…じゃっ、きっちりありますね?」

 

「んー、いつもありがとうねぇ〜」

 

現在イオタは最後の配達先である精肉店にて積荷の伝票と引き渡す荷物に違いがないかのチェックを終えて帰るところであった

 

「気をつけて帰るんだよ?」

 

「はーい、わかってます

また来ますね〜!」

 

精肉店の店主の老婆の言葉にイオタは手を振り返し店をあとにする

 

(終わった終わった〜♪

これなら午後一には牧場につくわね!)

 

荷台にくくりつけた時計で時刻を確認するもいつもよりかは少し早めの時間をさしている

今日は積荷が重い精肉である中で最速のタイムを叩き出していた

 

(もうちょっと慣れてきたら荷台をまた延長してもらおう…)

 

まだ先は長いがこのペースであれば数ヶ月以内にさらに重いリヤカーを引けるだろうと推測し笑みを浮かべ、地面を強く蹴り込んで駆け出す

 

イオタの引くリヤカーは空荷とはいえ何かを引っ張ってるとは思えない速度でロケットのように加速していった

 

 

 

「く〜…!!ついに買っちゃったぜ!!

カーボンフルカスタムのロードバイク♥

オーダーメイドだから300万もしたけど僅か3kgの車体は伊達じゃねぇ!これならウマ娘なんかメじゃねぇな!!

もはや公道じゃ俺が無敵だぜ〜ッ!?」

 

そしてその先には何やらブツブツとつぶやきながらピッチリとしたサイクルウェアを着たロードバイクに跨った青年が一人、時折ウマ娘専用レーンにハミ出ながら走っている

 

「あ…?ナニよ?重たいリヤカー引いたロリウマがこのフルカーボンで武装した俺様に煽りくれちゃう訳ェ?」

 

帰りしなで飛ばしたい気分だったイオタはその青年の斜め後ろに位置づけ、こちらにハミ出てこない時に追い越しを掛けようとタイミングを伺っていた

 

「上等だぜ!こっからついてこれっかよーー!…ってあれ?」

 

刹那、勝負と勘違いした青年が加速すると同時にウマ娘専用レーンから外れ本来の走行ラインである車道に移る

その速度は彼自身が天狗になるのもやぶさかではなく、目測で50kmは超えていただろう

 

しかし常日頃からターフや公道を自身の限界ギリギリまで追い込んで走ってきたイオタからしたら幾分眠く

 

むしろ車道に戻ってくれたのをこれ幸いと青年のロードバイクが止まってると錯覚してしまうような瞬発力で一気に横並びになるといとも容易く前へ前へと差が開いていく

 

「は、はぇえ…さ、300万もした俺のフルオーダーメイドのフルカーボン製ロードがリヤカー引いたウマ娘に負けてるぅ…?」

 

追い越されてしばらくは必死に追いかけていた青年もいくら待ってもダレずに加速し続けるイオタのスタミナとどんどん視界の端で小さくなっていくその背中とリヤカーのリアビューに戦意が削がれてスローダウンを余儀なくされた

 

 

 

 

 

「ついたついた〜…」

 

更に時間が過ぎて、イオタはリヤカーを引いたまま牧場の正門をくぐる

太陽の位置は丁度真ん中程、時計を見れば正午手前を指していた

 

「おっ…雅さん来てるんだ」

 

牧場内の駐車場に見慣れた赤茶色の古臭いスポーツタイプのハッチバック車を見つけてはここ最近姿を見せていなかった雅の物だと結論づけるとリヤカーを裏の倉庫に置き、近くの水道から水をホースで引っ張ると軽く荷台を洗い流す

 

「おゥ、精が出るなガキンチョ」

 

「あ、久しぶりです雅さん」

 

ある程度流し終えると背後から声を掛けられ振り返る

そこには案の定雅の姿があった

 

「最近頑張ってるんだって?街の方で噂になってるぜ?」

 

「?噂になるような覚えはないんですが…??」

 

「リヤカー引いてバカッ速のウマ娘がいるって話なんだけどお前じゃねぇの?」

 

「…私ですね、多分」

 

噂になるようなことには本当に心当たりのないイオタであったが次いで雅から放たれたリヤカーを引いたウマ娘と言う単語を聞けば自分であると納得せざるを得なかった

 

「今日のこのあとの予定は?もう終わりけ?」

 

「いや、まだいくつか残ってますけど

まぁそんなに忙しくは…どうかしたんですか?」

 

午後からの予定を聞かれるものの、特に特別なことがあるわけでもないためいつも通り動物たちの世話だけである

慣れてきた今では決して暇ではないが言うほど忙しくもない

 

「じゃ、夜に予定空けといてくれよ」

 

「はぁ…わかりました…?」

 

 

 




さぁここからいよいよ物語は本編へ向けて進んでいきます。
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