話の展開が急だったりするかもしれませんが必要に応じて改変するのでよろしくお願いします
「………。」
僅かな街灯と自販機の明かり、そして申し分程度に星々の明かりが辺りをぼんやりと映し出す暗闇の中
雅はストップウォッチを片手にタバコをに火をつけ紫煙を燻らせていた
現在位置は東ノ庄峠と呼ばれる山道の市街地側の下りだ
昔、雅が当時の悪友達とここを走っていた頃はこの場所が走り終わってからの集合場所であり
最初に走った下り→上りでは無く上り→下りのタイムを競っていた
そのため今は試走に出てるイオタはそれに習って最初は上りを走り上で折り返してから下って帰ってくるよう走らせているのだ
____カンカンカンッ
「…来たか」
静寂が支配する辺りを場違いな蹄鉄つきシューズでアスファルトを蹴る甲高い音が響いてくると、雅はフッと軽く笑みを浮かべる
少し待ってその音がハッキリ聞こえるようになると奥のコーナーからイオタに貸し出した作業用LEDライトの光が見え始めた
試走に出ていたイオタが帰ってきたようだ
「どうだ?コースは覚えたか?」
「まぁ…大体は、ですかね
それにしてもターフや普通の公道と違って狭いしラインは制御せざるを得ないで相当に難しいコースですね…」
最後の直線を抜けきり、雅の元へ戻ってきたイオタ
そして試走の一番の目的のコースを覚えれたかどうかに関してイオタは正直な感想を交えて話すと雅はいつになく真剣な表情で口を開く
「ま、走るってことはそれだけ奥が深いんだよ
一応測っといたけど、さっきのイオタのタイムはこれな」
「4分42秒!?」
雅からストップウォッチのタイムを見せられたイオタの表情は驚愕一色に変わった
「そ、そんなぁ…試走とは言え結構飛ばして走ったのに」
「すぐに達成できるようじゃ面白くねぇしな
改めて確認するぞ?このコースを往復で4分00秒以下で走れ!
そしたら約束通り新品のシューズを買ってやっから」
思っていたよりもタイムが芳しく無く
その状態で達成できる目標なのかとイオタの表情は一気に苦いものになった
「まぁ精々頑張るこった
今のままじゃ多分ムリだろうけどな〜」
「ぐッ…言い返せないのが悔しい……」
スパーっとタバコの煙を吐き出しながらからかうように笑う雅に対し顔を引きつらせるイオタ
だが途中で何かを思ったのか人差し指を顎の下につけ暫し考え込んだあと再び口を開いた
「…さっきの雅さんのタイムは3分29秒でしたよね?
もしも…もしも私が40秒切ったら他に何かくれたりします?」
「40秒?3分40秒ってことか?」
「はい」
「ほ〜ぅ…言うねぇ?
30秒台で走るってか」
イオタの追加の提案に雅はタバコの煙を一気に吸い込み、一瞬考えるように煙を止めてから
挑発するように目の前でほわぁっと紫煙を吐き出した
「いいだろう、そんな奇跡が起こったら追加でレース用シューズ4セット買ってやるよ」
「…約束ですよ」
「さらに俺のタイム抜いたら俺のシビックくれてやろうか?
相当弄り倒してるから売るにしてもそこそこ値段つくとおもうぜ〜?」
「なんか腹立ちますねぇ…」
絶対に無理だと断言するかのように、もし自分のタイムが抜かれるようなことがあれば自身の車を賭けると雅は言った
それほどまでに自分の叩き出したタイムには自信があるようだ
「んじゃ、早速タイムアタック本番
行ってみるか?」
「了解です、気合入れますよ〜!」
さて、あまり遅くならないうちにと雅は話を終わらせ
ストップウォッチに刻まれたタイムを0に戻してからイオタへ促す
対してイオタは試走とは違い全開で走る為気合を入れ直すと自身の頬を両手でバシバシと叩いてから雅へ促す
「タイムアタック本番行くぞ!
3秒前ー!!」
「っ!」
「2ぃー!1ぃー!」
カウントが始まるとイオタの表情は雅との雑談時とはうってかわって真剣そのものになり、カウントが0になるのを今か今かと待ち構えた
「ゼロ、Go!」
「しゃあッ!目指せ30秒台だぁ!!」
カウントがゼロになり、イオタは威勢のいい掛け声と共に全力疾走していく
そして最初の緩い上りの左コーナーにすぐにその後ろ姿は見えなくなった
「ま、良いとこ4分25秒ぐらいだろ…
それでもだいぶ、いやかなり速いんだがな」
イオタの消えたコーナーの先を見つめ、再び包まれた静寂と闇に紫煙を溶かしながら
雅は不敵にニヤリと笑っていた
◆
一方その頃、東ノ庄峠上りを走るイオタは上りの最初の鳥居があるキツい右コーナーを抜けた所だった
(行ける…行けるんじゃない!?
結構速いぞ私、ひょっとしたら雅さんより速いかも!
絶対に30秒台出してやる!!)
カンカンカンッとアスファルトを蹄鉄が叩く音が小気味よく鳴り響く
現在速度はイオタの最高速に到達しているが普段と違って重りが無い分、上り坂でもグイグイと前へ前へ進んでいくのだ
「お地蔵さん見っけ!」
いくつかコーナーを抜けた先に、先程下り側で雅が170キロオーバーで飛び込んだ中腹に地蔵があるコーナーを視界に入れる
(車からだと多少狭く感じたけど、やっぱ生身だと全然広い!)
これならこの速度で行けるだろうと踏んだイオタは勢いそのままに地蔵があるコーナーへ突っ込んでいく
(あたり!このまま行け…!?)
コーナーへ入ってすぐは読みが当たったとばかりに口元に笑みが浮かんでいたがそれはすぐ悪い意味で裏切られることとなり表情が強張った
(…え?あれ?出口は…?)
試走のときも確かに多少は長いと感じたが、実際に限界ギリギリの領域で走ってみるとそのコーナーは飛び込んでから出口へ抜けるまでが異様に長く、いつまで経ってもコーナーが終わらない錯覚に陥りそうになる
(あれれれ…思ったよりコーナーが長い、これは不味い…)
イオタの背筋に冷や汗が流れる
現在は想定の中ではとっくにコーナーをクリアしてる計算であり、そうなるように限界ギリギリの速度で突っ込んだ
重力に負けてコーナーの外、対向車側へ弾かれていきそうなのを何とか堪えているがそれももうそろそろ限界だった
(ヤバいッ___アウトに膨らむ…滑る____!)
その瞬間視界がグルンッと一気にコーナーのイン側へ向く、足元は踏ん張ろうにも蹄鉄がアスファルトの上を滑走しガリガリと耳障りな音があたりを木霊している
(この___ッ)
反射的にイオタは足のかかとを軸に足先をコーナーと反対側へ向けて重力に押される身体を無理矢理捻じ曲げ駆け出す
上りであったが為に慣性までは働かない重力下では何とか蹄鉄がアスファルトに食い込む程グリップが回復し、窮地を抜け出すことが出来た
(ッぶねぇ〜〜!なんでこのコーナーにだけお地蔵さんが立ってるか何となく理由がわかったわ!!)
しかしこのコーナーを過ぎたから終わりと言うわけではない
イオタの視界には今度は先程雅が170km出した短くも長い直線が待っていた
(このコース唯一のロングストレート、ここが今の私の最大の泣き所よね…
僅かにカーブがかってるところも含めたとしても170以上出せる雅さんに対して私自身は70kmも出ない…)
なら少しでもアベレージを近づける為にギリギリまで突っ込みコーナー速度を高めるより方法はないと考えた
(仮に速度で負けたとしても
気合だけなら雅さんにだって負ける気はしない、行ッけェ!)
手前のコーナーでの減速はすぐに立ち上がって現在再びイオタの限界速度へ
(まだ…まだ…!)
トップスピードに達してからゆるいコーナーを抜け残る直線を速度そのままに駆け抜けていく
(もう…少し!)
そして直線の終わりであるコーナーが、まるで巨大な怪物が獲物を飲み込むためにぽっかりと開けた口のように眼下へ広がっていた
「ッ!」
ぞわッ…と全身の毛が逆立つような感覚に襲われ
気づけば本来目標にしていた減速ポイントの遥か手前からの減速を余儀なくされた
(だ…ダメだ怖すぎる)
さっきのことが尾を引いてか無意識に限界域でコーナーに飛び込むことに恐怖心を抱いていた
(攻めきれない…!)
思うように走れないまま気づけば山も上りきり、これから折返して下りに入る
(ここからは下り…上りみたいな誤魔化しや小細工は通用しない)
上りであれば加速しない限り重力は後ろに掛かり抵抗になるため、ある程度のミスは減速で誤魔化す事は容易だ
しかし下りは進路側に荷重が掛かり、不測の事態になったとき急制動でも止まりきれるかは技術や運次第になる
(ちょっと加速しただけで進む距離が全然違う…
走ることがこんなにも怖いと感じたのは初めてだ…ッ!)
そもそも蹄鉄とアスファルトは相性がよろしく無いためにしっかり足に力を加えて半ばむりやりグリップさせる
それを下りの全開ともなると加えた力が抜けるコーナーの出口付近では毎回に近い程グリップが抜けて滑り出す
(もう少しで下りのストレート、ドライコンディションで急な下りともなれば最高速も90前後まで伸びる筈…!)
蹄鉄からグリップが抜けて路面上を滑り暴れる足をそれ以上の力でむりやり押さえつけ下り続けること数十秒
目の前にまたもやこの峠唯一のロングストレートが見えてくる
しかし先程までと違うことを上げるとすれば
先程は無茶をしても修正の効く上り、今はワンミスが命取りになる下りと言うこと
(上りじゃ気にも止めなかった緩いコーナーが普通のコーナーに早変わりね)
速度が速度な為に緩いコーナーでさえ鋭くなったように感じる
(…見えた、お地蔵さんコーナー!!)
そして緩いコーナーを抜けて残りのストレートへ
視界の奥にはストレートの終わり、コーナー中腹に地蔵が立っている
イオタが思うに一番の難易度を誇るコーナーが見えてきた
(速度が遅い分ギリギリまで駆け込めッ
____フラットアウト______ッ!!)
持てるすべての筋力を脚へ集中し、全力で地蔵のあるコーナーへ
この頃には足裏から路面の設置感は消えかけ、勝手に右へ左へと身体が寄っていくのを何とか真っ直ぐに走らせていた
(さぁ___そろそろコーナー…ッ!?)
コーナー数十m手前、本来であればもう少し粘って減速といった所で
背筋に冷たい汗がとめどなく流れ、本能が警鐘を鳴らした
(クッ…ソォ!!)
反射的に減速したのも束の間、何とか本来の想定していた減速ポイントまで意地で加速しコーナーへ飛び込む
(少し速度が落ちた…けどこれなら!?)
地蔵のあるコーナーへ入ってすぐ、ズッ…と言う感覚と共に僅かに身体がブレてセンターラインギリギリまで身体が押し出される
しかしそれは想定内だ、ジワジワと外へ膨らみかけてるが反対車線を利用すればこのままの勢いでコーナーを抜けれそうであった
(え…ライト…?対向車か!!?)
目の前の木の葉を照らすライトが2つ、うち一つはイオタ自身が身につけてるLED作業灯の白い光
もう一つはハロゲン球特有の肌色に近い光だ
そして後ろには何も走っていない為に、それは必然的に対向車の存在が近くに有るということを示していた
(うぉおッ!?やばい…ッ!!)
間一髪
対向車の存在に気づきズルズルとセンターラインを割りかけていた進行方向へ制動をかけ
ギリギリ自身の走行車線に戻ってから対向車線から走ってくる小型トラックとすれ違った
(危ッな!忘れてたけどターフと違って公道だから車もいるのか!!)
あのまま気づくタイミングが遅れたらどうなっていたかを想像しイオタの背筋に再度冷たいものが流れた
『公道は独りであっても一人じゃない』
かつて配達の許可を得る際に未来の言っていた言葉の片鱗を感じていた
◆
「…戻ってきたか」
缶コーヒーを片手に夜空を眺めてゆっくりと寛いでいた雅は遠くから聞こえてくるカンカンカンッという軽い音が近づいて来たことでイオタが近くまで戻ってきたことを察して視線を道路側へ戻す
ちょうど最終ストレートにある緩いコーナーから作業用LEDライトの明かりが見えてきた所だった
「__ほぅ____」
そして最終ストレートを走りきり、雅の横を通り過ぎた所で雅は手に持っていたストップウォッチを止めた
「ハァ…ハァ…あ〜怖かったぁ」
膝に手を付き中腰になりながら息を切らせるイオタに雅はストップウォッチを片手に近づいていく
「さぁ、イオタ…今のでどれくらいタイム出てると思う?」
「え、えー…?
そりゃもう4分切ってて3分57秒くらいですか?」
イオタの答えを聞いてから雅は満足そうに頷いてからおちょくるように悪い笑みを浮かべ、ストップウォッチをイオタへと見せた
「ブーー、4分22秒で〜す」
「嘘でしょう!?」
ストップウォッチを雅からひったくるように見るが結果は変わらない
4分22秒、あれだけ怖い思いをして走っても目標より2
2秒も遅いタイムだった
「いいかぁ?直線でただただ馬鹿みたいにかっ飛ばせばタイムが出るってわけじゃねぇ
ましてやこんな狭い山道なら尚の事な、もっと幅広く視点を持ってよく考えて走れよ」
「……」
「…ま、俺が思ってたよりかはいいタイムだったぜ?」
「…はぁ」
すっかり落ち込んでしまったイオタを慰めながらすぐそこの自販機で購入したスポーツドリンクを渡す
気落ちしながらもイオタは受け取ったスポーツドリンクを開けてチビチビと飲み始めた
「…あ、マズい」
「…?」
ふと山側の道路を眺めていた雅がボソリと呟く
その言葉を聞いたイオタが不審に思って雅の見ていた方向に視線を向けると赤いランプを光らせながら山から降りてくる車が一台こちらへ来ていた
「最初ので通報が入ったかぁ?今日はいなかったから大丈夫だと思ったんだがなぁ…
……イオタ、早く車乗れ」
「あ、はい」
スポーツ飲料に栓をして雅の指示通りいそいそと雅の車に乗り込んだ
「…さぁ、そのまま素通りしてくれると良いんだがなぁ」
同じく運転席に乗り込んだ雅が暗闇の中でも存在感を放つ赤いランプを回す車_____
パトカーに向かってそうつぶやきながらハンドルを手に持つ
「…あの、お巡りさんこっち見てません?
走ってるときならいざ知らず、今って何か悪いことしてます?」
「いや、この車に乗ってることじたいがな…」
パトカーは雅の車の近くになると減速して徐行程度の速度になるとゆっくり目の前まで走ってくる
「…止まりましたけど」
「やっぱそうなるよなぁ」
パトカーは雅の車の前でピタッと止まった
《はいっそこの車止まりなさい!》
そしてパトカーはサイレンを鳴らしながら雅の車に向けてスピーカーでそう言う
「なんですか?もう止まってるのに…」
「…はぁ、いいか?良くつかまっとけよ?」
そんなパトカーからの言葉と対象に呑気な事を言い放つイオタへ雅は小さくため息を吐いて車のエンジンを始動させるといきなり高回転でクラッチを繋いでロケットスタートを決めてパトカーからの逃走を開始する
《待てコラァーー!前のグランドッ!
エンジン切って止まれー!!事故るぞーッ!!》
逃走を開始するとパトカーは当然の如く赤灯とサイレンを盛大に鳴らしながらスピーカーで怒号を発して追いかけてきた
「雅さん何で逃げるんですか!
この車のどこが悪いんですか!?」
「バカヤロウ存在そのものだ!」
市街地側へ向けて雅は車を走らせる
当然後ろからパトカーが追いかけてくるが今の時間は通行量が少なく徐々に赤灯はルームミラーの端に消えかけていた
《ナンバー覚えたからなーーッ!!》
「おぅ一生忘れんなよボケが!!」
ルームミラーからパトカーが見えなくなる直前そんな言葉が聞こえてきたが雅は聞き慣れたと言わんばかりに吐き捨てるようにそう言った
◆
「と、言うわけで
初めて夜の峠を走ってもらったけど、楽しかったか?」
「…そうですね、怖かったですが色々得るものはあったと思います…けど、最後のあれはスルーしていいものなんですか!?」
帰りの車内にて、あんなことがあった手前山側にはしばらく戻れない為にグルリと市街地を通って未来の牧場へ帰りつつ
雅はイオタに今日の感想を聞いていた
「気にすんな、夜の峠を走るってなったら通報は日常茶飯事だしな
いちいち捕まってたらキリねぇっつーの」
「そうかもしれませんが…」
反省の色が全く無く、逆に笑い飛ばす雅に講義する気力の失せたイオタはため息を吐いてそれ以上の追求を諦めた
「思いの外タイムが伸びなかったのは辛かったですかねぇ」
「それこそ練習あるのみだろ
別にチャンスは一度じゃないんだしな」
「あ、別に今日じゃなくても良かったんですね…」
「いや、今日あのタイム出せはどう考えても無理でしょ」
まぁ、そうですねと小さく呟くとイオタは窓の外の風景に目を向ける
いつも配達で通る道であったが夜だと違う顔を見せるため新鮮な感じがした
「ま、いつになるかわからないけどせいぜい励めよ
またの挑戦心よりお待ちしてまーす」
「…なぁ〜んかムカつきますねぇ」
冗談めかした雅の言葉に少しイラッと来るものの小さく笑みを浮かべる
(…未来さんにお願いしてあそこも走ってみようか)
そんな事を考えながら疲れからかイオタの意識は徐々に遠のいていった