されど私に学園モノは似合わない。   作:不可思議可思議

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やっぱ文化祭が祭りなのは間違っている。『承』

 放課後は私も雪ノ下も文化祭実行委員で忙しくなるし、由比ヶ浜もクラスの方で忙しいそうで、奉仕部は暫く活動を休止することになった。

 

「それでは、定例ミーティングを始めます。じゃあ宣伝広報、お願いします」

 

 私は今は会議室で、ミーティングの席に座りつつ、小説を書いていた。

 

「掲示予定ポスター制作も、大体半分終わっています」

 

「そうですか〜。いい感じですね〜」

 

「いいえ、少し遅い」

 

 雪ノ下が補佐をするようになってから、よくよく似たような場面を見かける。相模が上げて、雪ノ下が冷たく落とす。

 

「掲示箇所の交渉、ホームページへのアップは既に済んでいますか?」

 

「……まだです」

 

「急いでください。社会人はともかく、受験志望の中学生やその保護者は、ホームページを結構こまめにチェックしてますから」

 

「は、はい」

 

 雰囲気を重視している相模と、予定を優先する雪ノ下は、あからさまに、どこからどう見ても、噛み合っていない。

 

「相模さん、次」

 

「あ、う、うん……。じゃあ有志統制、お願いします」

 

「はい。有志参加団体は、現在10団体」

 

「増えたね〜! 地域賞のおかげかな」

 

「それは校内のみですか? 地域の方々への打診は? 例年、地域との繋がりと言う姿勢を掲げている以上、参加団体減少は避けないと。それからステージの割り振り、開演のスタッフ内訳など、タイムテーブルを一覧にして提出してください」

 

「わ、わかりました」

 

 どちらが正しいのかと言えば、雪ノ下の方なのでしょうけれど。でもこの場での悪役は、雪ノ下ただ一人。優しさと正しさは必ずとも合致するとは限らないという現実の縮図が、そこにはあった。

 それでもある程度、雪ノ下に称賛の声が挙げられているし、そこは雪ノ下の裁量なのでしょうね。

 

 


 

 

 会議は概ね恙無く終わったし、私は書きたかった小説が書きたかった通りに書けた。奉仕部の影響かは知らないけれど、執筆の腕は上がった気がする。

 

 


 

 

 クラスの方でも出し物に進展があり、演劇をすることになったらしい。脚本をやろうとしている女子がBL趣味らしく、男子達はげんなりしている。

 主役全員が全体的な見直しを要求し、脚本まで落ち込み始めた。

 

「あ! それじゃあナーちゃんが脚本やってよ! 小説とか書けるんだし、できるんじゃないの?」

 

 私は様子見に来ただけなのだけれど、由比ヶ浜につかまってしまった。

 沙希と共に隅から見ていた私に、そこら中から注目が集まる。

 

「……そうね。百合でいいなら考えてもいいわ」

 

「「「却下!!」」」

 

 女子のほとんどから却下を食らった。そもそもそれが狙いだったけど。書いたって一円の得にもならないし。

 

「百合……、って、何?」

 

 由比ヶ浜は知らなかったようで、首を傾げている。

 

「女子同士の恋愛のことよ。男同士だと薔薇と呼称したりするわ」

 

「なんであんた、そんなこと知ってるの」

 

 沙希から警戒の目が向けられた。

 

「小説家だからよ。あとバイセクシャルだから」

 

「……は?」

 

「女同士でもいける口なのよ」

 

「具体的に言うな」

 

「男よりは女の方がいいわね。むさ苦しいのは嫌だし」

 

「信憑性を足すな」

 

「このクラスでなら沙希が一番好みね」

 

「あんたバッカじゃないの!? てかあんたそれなのに平然と裸見せてるの!?」

 

 沙希の叫びは教室中に広がり、何やらざわついている。

 

「あ……、いや、今のはちが……」

 

「おい不可思議。委員会の方でお前を呼んでいたぞ」

 

 場の空気を入れ替えるように、見計ったかのようなタイミングで、平塚先生が入ってきた。

 

「有志参加を申し出るために来た者が、お前を指名して呼んでいるらしい」

 

「そう、来ちゃったのね。……沙希、ある程度であれば、私のことは好き勝手言っていいわよ」

 

 沙希は「無茶言うな……」と項垂れた。

 

「何かあったのか?」

 

「私がバイセクシャルで、クラスで一番の仲良しが沙希だと言う話をしていたのよ」

 

「……は?」

 

 平塚先生が固まっているうちに、私は会議室へと向かった。

 

 


 

 

 いつもミーティングなんかに使われている会議室は人が入り口から溢れていて、簡単には入れなさそうな様子。

 

 けれど、()()()に限り、野次馬なんてものは馬ですらない。

 

「可思議ちゃん! 予定を繰り上げて来ちゃったのだわ、あたし!」

 

 いかにもピンクピンクしたワンピースで、絵本の妖精のような羽を生やした、白髪ツインテールの美少女。それが数々の人間を文字通り飛び越えて、私の前に着地……ではなく、目線の高さを合わせて浮遊した。

 

「お久しぶりです、(あおい)さん」

 

 背の低い私よりもさらに小さい、言ってしまえば子供体型の彼女は、しかし私より遥かに年上。名を、有製(ゆうせい) (あおい)。人形劇のプロフェッショナルであり、私が唯一手放しで尊敬できる人。

 

「……不可思議さん。彼女について、色々聞きたいのだけれど」

 

「私も聞きたいな! 可思議ちゃんとどういう関係なのかな?」

 

 どうも、人だかりの原因は蒼さんだけではなく、雪ノ下の姉の方も来ていたらしい。姉妹揃って、私たちの前に出て来た。

 

「すごいねー、どうやって飛んでるの? ワイヤー?」

 

「うふふ。ワイヤーアクションは少女の嗜みなのよ」

 

 蒼さんは好奇心全開の雪ノ下姉に物怖じせずに微笑みかけた。

 

「可思議ちゃんから文化祭があるって聞いて、見てみたら有志で参加できるみたいじゃない? だから来ちゃったのよ、あたし」

 

「私は普通に、暇だったら遊びに来てください、程度に伝えたつもりよ」

 

 そもそも忙しい人だし、ほとんど社交辞令的にメールを送っただけだけど。

 

「ねぇ、ダメかしら? あたし」

 

「……いえ、決定権は私にはないので」

 

「あら、そうなの? でもここで一番偉そうなのは貴女だと思うわ、あたし」

 

 雪ノ下の目線に合わせる程度まで浮き上がって、煽り文句のようなことを言っているけれど、あれは別に喧嘩を売っているわけではない。

 

「えーっと、あおいちゃんだっけ? やっぱり君もそう思っちゃうよねー」

 

 対抗してか、雪ノ下姉が蒼さんに視線を合わせるように軽く腰を曲げて言った。

 

「有製蒼って言うのよ、あたし。それと多分だけど、あたしの方が年上よ」

 

「え? そうなの?」

 

「だって私、ママだもん。息子が可思議ちゃんと同い年ね」

 

 雪ノ下姉妹が、というか、聞き入っていた面々が諸々固まった。

 まぁ気持ちはよくわかる。合法すぎて逆に犯罪臭いロリと、自分の母親が同年代とか、不思議な世界にも程が有る。

 

「ねぇ、それはそうと、有志で参加するには誰を頷かせればいいのかしら、あたし」

 

「あっ、それなら委員長の私です!」

 

「そう。じゃあ、よろしくね?」

 

「はっ、はい! 有志団体は足りないし、大丈夫です!」

 

 蒼さんの微笑みに、委員長は顔を赤ながら了承した。

 

「ありがとう。それじゃあ可思議ちゃん、暇つぶしに学校を見て回ってくるわ、あたし」

 

「学校が壊れると困るから、帰るかここで大人しくしててください」

 

「ならここにいるのだわ、あたし」

 

 そう言ったから、私は蒼さんの分の椅子を用意してそこに座ってもらった。

 

 

 相変わらずろくに仕事の回されない私は、席に座って、ノートパソコンで小説を書く。……もしかしたら、作業してると思われて仕事が回ってこないだけかもしれないけれど。

 

 とりあえず連載小説の、今日投稿する分が大体書き終わった頃。

 

「みなさーん! ちょっといいですか〜?」

 

 委員長は作業している面々の手を止めさせ、注目を一点に集める。

 

「少し、考えたんですけど。実行委員はちゃんと文化祭を楽しんでこそかなーって。自分たちが楽しんでないと、人を楽しませられないっていうか〜。予定も順調にクリアしてるし、クラスの方も大事だと思うので、少し仕事のペースを落とすっていうのはどうですか?」

 

「ねぇ可思議ちゃん、何を言っているのかしら、あの子」

 

「都合のいいサボり文句だと思いますよ」

 

 都合の良い耳をしているようで、私たちの会話は聞こえていないようだった。

 

「……相模さん、それは考え違いだわ。バッファを持たせるための前倒し進行で」

「私の時も、クラスの方皆頑張ってたな〜」

 

 まるで、というかまんま嫌がらせのように、姉が妹の言葉に被せるように言った。

 

「雪ノ下さん、お姉さんと何があったのか知らないけど、先人の知恵に学ぶって言うかさ、私情を挟まないで、みんなのことも考えようよ」

 

「だったら、その雪ノ下って言う子の私情のことも考えてあげるべきだと思うわ、あたし」

 

 蒼さんが、そこらに転がっていたボールペンをいじりながらそんなことを言った。

 

「みんなのことって言うのは、つまり私情の集合体でしょう? クラスの方もやりたいとか、楽して遊びたいとか。だったら、仕事を効率的に片付けたいっていうのも、十分に尊重するべき立派な事情だと思うわ、あたし」

 

「うっ、……で、でも、みんなクラスの方もやった方がきっと楽しいし……」

 

「世の中楽しんだもん勝ちだと言うのは否定しないわ。あたしの人形劇も似たようなものだし。……でもそれは、楽しめずに負けている人がいるから成り立っているのを理解した方がいいと思うわ、あたし」

 

「それは……」

 

 話の途中で、下校時刻を告げるチャイムが鳴った。各々急いで片付け始め、済んだ者から帰っていく。

 私もノートパソコンだけだからすぐに片付けが済むし、蒼さんをその辺まで送りながら帰ろうと思ったけれど。

 その蒼さんを、雪ノ下が呼び止めた。

 

「有製さん。……その、ありがとうございます」

 

「うふふ。妖精さんは可愛い子とかわいそうな子の味方なのよ」

 

 妖精のようにフワフワと、窓から飛び出して何処かへ行ってしまった。

 

「……あの人、一体何者?」

 

「見ての通りの人よ。人形師で、特技はワイヤーアクションと人心掌握と空間把握。常識にも重力にも縛られず、好きなものを好み、嫌いなものを嫌う。あらゆる方面で自由人だから、何かに縛られてる人ほど、蒼さんの言葉は心に響く」

 

「聞き忘れてたんだけどさー、可思議ちゃんと蒼ちゃんってどういう関係なの?」

 

 雪ノ下姉に背後から抱き付かれて、背中に三子ほどじゃない感触が乗せられる。

 

「お互いにファンなだけよ。私は蒼さんの人形劇のファンで、蒼さんは私の小説のファン。感覚的には、『親戚のお姉さん』ってところね」

 

 


 

 

 あれからというもの。

 雪ノ下や蒼さんの意見は全く通らず、ほとんどの人間は作業のペースを落とす手段として、一部の人間に押し付けるという方法をとった。おかげで、クラスの出し物に消極的な少数派の前には、仕事という名の書類の山が積み重なっている。

 

「やっぱり相模さんの提案、ちゃんとダメって言えば良かったかな」

 

 そう言った少数派の一人は、生徒会長の城廻(しろめぐり)めぐり。

 

「言っても聞かなかったでしょうね。それより、無くても当日はなんとかなる仕事を仕分けてもらえるかしら」

 

「別にいいけど……、どうするの? 七五三(しめ)さん、じゃなくて不可思議さん」

 

「私達に仕事と責任を押し付けて、本人たちは楽しく遊んでいる。そんなの気分がいいわけないでしょう。私は小説のペースも落ちて収益が下がったし。憂さ晴らしくらいはさせてもらわないと、いい加減モチベーションが持たないのよ」

 

「不可思議さん、余計な仕事を増やさないで頂戴」

 

「余計な仕事をかき集めて、クズ共に押し付けるのよ。その分私たちはペンを動かす量が減るし、キーを叩く数も減る。消費する糖分やカロリーも減るから、ダイエットしてる人には悪いけれど、そこは諦めてもらうわ」

 

「……不可思議さん、可愛い顔して言ってることは滅茶苦茶クズだ……」

 

 私と生徒会長のやりとりに対する苦笑いが聞こえて来た。けれど、笑い事じゃないのよ。

 

「仕事だけが増えて給料が減った。だから怒る。極めて一般的な思考よ。それとも、ここにいる私以外の面子は、ヘラヘラ笑ってるみんなのために無償で仕事をするのが好きで好きで仕方のない、天職が奴隷の人たちなのかしら。――そんなんだからクズが調子に乗るのよ」

 

「……不可思議さん。余計なことを言っている暇があったら、手を動かして頂戴」

 

「愚問ね。私は口と手を同時に動かせるのよ」

 

「それ、滅茶苦茶普通なことを言ってるだけだよね」

 

「モーターみたいな名前の貴女も、さっさと仕事をしなさいな。仕分けが大変ならその分私に押し付けてくれて構わないから」

 

「モーター!? 城廻めぐりだって。せめて、迷路って言って欲しいな……。じゃあ、これだけお願い。後輩いびりみたいで嫌だけど、憂さ晴らしには賛成よ」

 

 どっさりと、辞書二冊分はある資料が私の仕事に積まれた。

 

 


 

 

 翌々日。

 前日は普通に仕事を片付けるだけで終わったけれど、今日はそうではなく。会議室には委員会の全員が集まった。

 

 話の議題は、生徒会長から連絡されたらしい、文化祭のスローガンについて。事前に考えて来たものを出し合って並べて、多数決という形をとるらしい。

 ……多分、私にだけ連絡がこなかったのは生徒会長本人の仕業だ。

 

友情・努力・勝利

 

面白い!面白すぎる!

〜潮風の音が聞こえます。

総武高校文化祭〜

 

一意専心

 

 

 

ONE FOR ALL

 

「お、ああいうのちょっといいよね」

 

 途中から、助っ人的に協力を申し出て参加している葉山が食いついた。

 

「一人がみんなのために、ね。そのまんまじゃない。百人の仕事を一人に押し付けて、九十九人が楽しむ。そこまで考えてのそれなら、確かにセンスはあるわね。パッと見カッコいいし」

 

「不可思議さん……、歯に衣着せようか」

 

「言わなきゃわからない奴には言わなきゃ伝わらないのよ」

 

 

☆絆

〜ともに助け合う文化祭〜

 

 

 最後に出て来たのは、クズ共の筆頭というか、火付け役の委員長の案らしい。

 

「うわ……」

 

「何かな? 何か、変だった?」

 

 思わず声に出てしまった。

 

「別に。クズもここまで来ると輝かしいとか、そんなこと全然思っていないわ」

 

「……ふーん、そう。嫌なら他に案出してね」

 

「じゃあ、遠慮なく」

 

 

闇鍋

燃えた紙幣で沸いた文化祭

 

上から壊れた文化祭

 

学校

許されただけの文化祭

 

独り舞台

全てが美少女に駆逐される文化祭

 

 

 さっと、思いついたものをホワイトボードに書き連ねてみたけれど、周囲の反応は乏しい。

 

「……不可思議。どういうことか説明しろ」

 

 なんだか楽しそうな平塚先生が言うので、私は語る。

 

「とは言っても、別に書いてある通りでしかないわよ」

 

闇鍋

燃えた紙幣で沸いた文化祭

 

「誰も彼も、私を闇鍋みたいに仕事を押し付けてくれたわよね。おかげで小説家業の収益が百万と五千円くらい落ちたわ。しかも一度落ちると元に戻すのに時間がかかる。合計はざっくり一千万くらいかしらね。――私はそれだけの損失が、文化祭のために、仕事を押し付けられたがために、出ているのだけど。誰が責任を取ってくれるのかしらね?」

 

 

上から壊れた文化祭

 

「偉そうな奴から役目を放棄して、下にいた人間に仕事の雨が降り注いだわよね」

 

 

学校

許されただけの文化祭

 

「損失やら状況やら、企業だったら大問題になっていたと思うわ。学校という閉鎖空間だから許された。だから文化祭ができるのよ」

 

 

独り舞台

全てが美少女に駆逐される文化祭

 

「極論でもなんでもなく、私たちが何をしたところで、蒼さんの人形劇の前では雑音にしかならない。文化祭そのものが茶番か踏み台に終わるのよ」

 

 

 説明が終われば、聞こえてくるのは「どうせ自分が楽したいだけだろ」だの、「空気読めねぇのかよ」だのと言った文句ばかり。

 

「文句があるのならお金を払いなさい。何かを支払ったわけでもない人間に、文句を言われる筋合いはないわ」

 

 

 結局、私の案も含めて全て却下されてしまった。無念。

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