されど私に学園モノは似合わない。   作:不可思議可思議

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やっぱ文化祭が祭りなのは間違っている。『転』

千葉の名物、踊りと祭り!

同じ阿呆なら踊らにゃ

Sing a Song

 


 

 スローガンの件から何日か経ち。無事にスローガンは決定し、全員参加の作業の時にサボっていた面々へと仕事を押し付けたりしながら、文化祭当日を迎えた。

 

『雪ノ下です。オンタイムで進行します。問題があれば即時報告を』

 

 これから体育館のステージで開演式。委員長はステージに立つ必要があるため、雪ノ下が中心となって最終点検なんかが行われている。

 私は二階から見下ろし、客席で何かトラブルが起きていないかを確認する役割を与えられた。又の名を、厄介払い。

 

「開演一分前。客席側に大きな問題無し。……格好つけたいのはわかるけど、時計くらい自分で見なさいよ。通信にだってタイムラグがあるんだから」

 

『不可思議さん、無駄口を挟まなきゃ気が済まないのなら通信を切って一人で言いなさい。耳障りよ』

 

『私らしくもなく正論を言ったつもりだけどね』

 

『……あの、お二人とも。みんなに聞こえています』

 

「『……』」

 

 後輩に黙らされる、二人の先輩がいた。……というか、私たちだった。

 

 

 式が始まれば、私の仕事は終了。留美の来る時間が近いため、通信用の機材を実行委員の一年生に預けて、私は体育館を出た。

 

 あちこちに物が置かれていて、人がいないのに騒がしい雰囲気の廊下を通り。正門側の昇降口から出て、校門近くに行くと、受付用に張られた天幕の下に平塚先生が一人、タバコを吸いながら居座っていた。

 

「独身なだけでなく、こんな時でも一人なのね」

 

 まだ留美は着いていないみたいだし暇つぶしに話そうと声をかけると、平塚先生は「うん? ああ、不可思議か」と、私の分のパイプ椅子を用意した。

 

「来賓がある以上、全員が開演式に出るわけにはいかないんだ。受付にも人員は必要だしな。……待て、まだ式は終わっていないはずだ。なぜ君がここにいる」

 

「似たようなものよ。待ち合わせというか、迎えというか。流石に高校を小学生一人に歩かせるのは酷でしょう」

 

「絶妙に叱り難い言い方をしてくれるな。君には友人を免罪符に使うことへの罪悪感はないのか」

 

「免罪してるんだから罪悪なんて無いようなものよ」

 

 互いに説教じみた話をしていると、ちょうど開演式が終わるくらいのタイミングで、彼女は私の前に姿を表した。

 

「その、久しぶり。可思議」

 

 実行委員で作った、最寄駅からの簡易的な地図を片手に、留美は小さく手を振る。

 

「ええ、久しぶりね」

 

 方向音痴な私が逸れないように手を繋いで、とりあえず教室に向かう。

 


 

 

 

「……可思議、ここ、さっきも来た気がする」

 

「奇遇ね。私もこのチョコバナナは食べた覚えがあるわ」

 

「なんで買ったの?」

 

 私のクラスの方向に向かいつつ、人混みの流れと客寄せに誘われながら見て回っているうちに、目的地につくこと無く一周してしまっていた。

 

 売りつけられたクッキーを留美に渡したり、お化け屋敷に呼び込まれたりしていると。

 

「不可思議さん、何を遊び呆けているのかしら?」

 

「あら」

 

 委員会を引き連れた雪ノ下が、収集つかないほどに入り乱れた廊下を整理しながら私達の前に立った。

 

「鶴見さん、久しぶりね」

 

「あ、うん……」

 

 顔見知りとの再会に、留美は軽く会釈した。

 

「で。貴女にも見回りの仕事を任せたはずなのだけど」

 

「生憎と覚えていないし、何より絶賛迷子中よ。教室まで案内してくれると助かるわ」

 

「自慢げに言われるべき内容が一つもないわね……。貴女の教室ならちょうど一つ真上よ」

 

 毎度のことだけど、なんで迷子になったときほど目的地が近くになるのかしらね。

 

「……可思議って、本当は馬鹿なの?」

 

「馬鹿と方向音痴は別物よ。よくいるでしょう? 成績悪いのに校外学習の時だけは張り切るやつ。私はアレの逆なのよ。……じゃ、見回りは適当にやっておくから、なんかあったら平塚先生に言っておいて頂戴」

 

「貴女が働く気は無いのね。……もういいわ」

 

 

 

 留美は方向音痴じゃないみたいで、教室までむしろ私が案内されてしまった。

 

「今晩、君は来ちゃいけない!」

 

「そんなっ! どうして! 俺たちはずっと一緒だって言ったろ!?」

 

 私のクラスの出し物である演劇は、ほとんど満席状態。葉山と戸塚のシーンを客席の後ろから二人で見ているけれど、……。

 

「……ねぇ、確かあの人って、男の人なんだよね。林間学校の時にもいた」

 

 客席の黄色い声援をあげる女子たちを理解できないような目で見ながら、留美はヒロインが戸塚であることに疑問を持った。

 

「僕を見ると、悲しむかもしれない」

 

「俺たちはずっと一緒だ!」

 

「仕方がないんだ! 僕のことは諦めて!!」

 

「俺たちは、ずっと一緒なんだ!!」

 

 星の王子様の原作を読んだことはないから、二人のやりとりが原作のものなのか知らないけれど、なんかもう薔薇園にしか見えなかった。

 

 

 劇が終わって、教室から出ると、留美は私の袖を引っ張った。

 

「ん、何かしら?」

 

「……女子高生って、ああいうのが流行りなの?」

 

「いや、イケメン目当てが大半だと思うけど……、間違いなくああいうのが好きな人はいたでしょうね。……多少マニアックな趣味を持つっていうのは外部の友人を作るなら有効な手段ではあるけど、留美にはああなって欲しくないわ」

 

「うん、大丈夫。よく分かんなかったから」

 

「わかった上で拒絶できないといけないけどね」

 

「じゃあ、可思議が教えて」

 

「私に薔薇の趣味があるみたいな言い方はやめなさいな」

 

「ああいう感じの小説は書かないの?」

 

「書いたことはあるけどウケが悪かったのよ」

 

「……あるんだ」

 

 アレは、ただの気の迷いだった。

 何かと間違えて買ったBLゲームをとりあえずプレイしたら、思いの外面白くって、そのまま勢いで小説も書いたけど、後々読んでみたらそもそも面白くなかった。

 

「来たよ、お姉ちゃん。留美ちゃんも久しぶり」

 

 次はどこに行こうかと話していたら、三子が私たちを見つけて、人混みを通り抜けてきた。

 

「えっと、……確か、三子さん?」

 

「うん。お姉ちゃんが迷惑かけなかった?」

 

「すぐ迷子になったりしたけど、平気」

 

「じゃあいつものことだね」

 

 

 幸い、三子なら知らない場所でも私を案内できる。どうせ行きたいところなんてなかったし、三子の行きたいところを巡りましょう。

 

 


 

 

 適当に昼食を終え、二つ三つ出し物を巡った頃合いに。最近になってメール機能を使えるようになったスマホに、着信が入った。

 

「……三子、これどうやって出るんだっけ」

 

「お姉ちゃん、いつから機械音痴のキャラになったの……。ちょっと貸して」

 

 電話が来るのがそもそも久しぶりだし、バージョンアップの影響か画面の配置も違ったしで、私には難易度が高かった。三子に出てもらってから、私は受け取る。

 

「もしもし。何かあったら平塚先生に伝えるよう言わなかったかしら」

 

『平塚先生にも伝えたわ。いいから急いで来て頂戴』

 

 プツリと、雪ノ下からかかってきた電話はすぐに切れた。

 

「可思議、どうかしたの?」

 

 留美が心配そうに尋ねた。

 

「緊急事態、みたいね。流石にいかなきゃだし、……三子、留美をお願いするわ」

 

「うん、わかった。……手伝えることはない?」

 

「平気よ。……留美、悪いわね。私の財布を渡しておくから、好きに使っていいわ」

 

「んーん、いいけど、大丈夫なの?」

 

「いつものことよ。諦めて、妥協して、下り坂を惰性で降りる」

 

 廊下の人の数がかなり減っているけれど、そういえば蒼さんの人形劇がそろそろかしら。

 

「これからのおすすめは体育館のステージよ」

 

 


 

 

 今、体育館では雪ノ下の姉の方が、複数人とで演奏をしていた。音楽はあまり知らないけれど、ジャズというのかしら。

 予定では、この後に蒼さんの人形劇が待ち受けている。私も普通に見たかったのだけれど……。

 

 私は舞台裏で何があったのかを聞いた。

 

「さがみ…………、誰?」

 

「不可思議、お前なぁ……。君の嫌っていた、実行委員会の委員長だ」

 

 そう。その委員長がいなくなったらしい。このままだとエンディングセレモニーができないから、急いで見つけなければならないのだとか。

 

「なら貴女が代役をしたらいいと思うわ、あたし」

 

「……それは難しいです」

 

 出番に備えて、自分と同じくらいの大きさの人形達を率いた蒼さんが提案するが、雪ノ下は首を横にふる。

 

「最後の挨拶や総評はなんとかなったとしても、優秀賞と地域賞の投票結果を知っているのは相模さんだけですから」

 

「なら私が出るわよ? 『委員長の相模さんは他人に仕事を押し付けるのが上手い人で、最後の美味しいところも押しつけられちゃいましたー。地域賞と優秀賞は持ち逃げされたから、でっち上げです。落ちた人も気を落とさないでくださいねー』って、正直に言ってあげるわ」

 

「……色々言いたいことはあるが、君が普通の女子高生らしい口調で話している光景は、思いの外恐ろしい物があるな」

 

「当然却下よ。いくら恨みがあったとしても、そんな公開処刑みたいな真似はさせられないわ」

 

「うふふ。その処刑、されるのは可思議ちゃんなのかしら、それとも委員長ちゃんなのかしら」

 

 いい案だと思ったのだけれど……。これもダメで、アレもダメじゃ、探さなきゃいけなくなるじゃない。……探さなきゃいけないのね。この場にいて一番役に立たないのは、音楽も劇もできない私なのだから。

 

「まぁ、逃げた先で見つかるのがイケメンでは無く私にだったら、それはそれで嫌がらせくらいにはなるかしらね」

 

「相模さんの居場所に心当たりがあるの?」

 

「私は方向音痴なのよ。そんなものあったところで、行方不明が一人増えるだけ。……平塚先生」

 

「なんだ」

 

 どこか期待したような、楽しそうな笑みを浮かべている。……けどそんな、楽しそうな話ではない。

 

「学校で死ぬならどこで死にたい?」

 

「嫌に物騒だな……。サスペンスで定番なのは、夕暮れ時の無人の教室とか、トイレとか、あと屋上くらいじゃないのか?」

 

 指を折り数えながら平塚先生は言い、雪ノ下と生徒会長は顔を顰めた。

 

「屋上ならなんとか私でもいけるわね。上に登るだけだし」

 

「流石に自殺は無いと思うけどな……」

 

「それが一番楽なのだけどね」

 

 生徒会長の考え方も、まぁ方向性的には間違っていない。方向というか、方角的というか。

 

 詰まるところ、件の委員長は逃げたのだ。委員長であることを諦め、チヤホヤされることを諦め、今後どうなるのかも考えずに未来を妥協した。

 楽をしたツケが回ってきて、不相応な仕事という罰から逃げようとした。

 この世に免罪符なんてものはない。過ちを打ち消すには、打ち消せるだけの何かを払わなければならないし、それも無いなら罰を受けるしかない。――その罰からも逃げた。

 

「どうせ推測だからイメージでいいのだけれど、どこの屋上が一番人が居なさそうかしら。人が居なくて、だけど探すなら選択肢に入る程度に入りやすい、使い道のない屋上」

 

 委員長の望みは、決して今日を隠れ潜んで乗り切ることじゃない。むしろ、見つかることを望んでいる。御伽噺の王子様のような、汚いところも受け入れてくれる聖人君子(イケメン)の手で、罪人を引き上げる蜘蛛の糸で、救われたがっている。――悲劇のヒロインを望んでいる。

 

「……特別棟。あそこなら人が寄り付かないし、出入りも簡単よ」

 

 雪ノ下が、思いついたのか思い出したのか、そんな様子で言った。

 

「どこよそれ」

 

「私たち奉仕部の部室もある校舎よ。……そんなことも知らないの?」

 

「建物の名前なんてスカイツリーと金閣寺だけ覚えておけばいいのよ。……長話になるかもしれないから、蒼さんも時間稼ぎよろしく」

 

「可思議ちゃんの頼みなら任されてあげるのだわ、あたし」

 

 蒼さんは微笑み、人形劇で使われる、蒼さんと同じくらいの大きさの人形達がピタリと敬礼する。

 

 あーあ。本当に、本当に、本当に、……あーあ、よ。蒼さんの人形劇は楽しみにしていたのに。

 

 あーあ。

 

 

 

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