されど私に学園モノは似合わない。   作:不可思議可思議

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もちろん一色いろはが生徒会長なのは間違っている。『尾』

 苦悩は人の歩みを止める。

 工夫は人の思考を止める。

 努力は人の考えを殺す。

 挑戦は人の覚悟を絞める。

 

 だからゆっくり、のんびり、はんなりと。詩的に素敵に不敵に無敵に、私は依頼を解消する。

 

 


 

 

「セーンパイっ! お待たせしましたー」

 

「別に、大して待っていないわ」

 

「……先輩って、髪とかちゃんとすれば可愛いのに可愛げないですよねー」

 

 物事を進行させるために、私は一色を呼び出した。場所は校内の空き教室。鍵は平塚先生から借り受けた。

 

「いや、雪ノ下先輩も似たところありますけど、でもずっと徹底してるっていうか、隙がないっていうか」

 

「徹底しているのが正解ね。だってモテたら大変じゃない」

 

「それを真顔で言えるって、逆にカッコ良すぎてモテそうですけどね」

 

 掃除だけはしているのか埃一つとして被っていない机に腰掛けている私を倣い、一色も向かい側の机に腰掛けた。

 

「貴女はモテたいのね」

 

「普通そうじゃないですか?」

 

「でもそのおかげで、今貴女は苦しめられている」

 

「う、……まぁ、はい」

 

「結局、人間は比較することでしか幸福も不幸もわからないものよ。平等なんて現実は存在せず、対等なんて理想も存在しない。人間、幸福と不幸はプラスマイナスで零って言うけれど、個人ではなく全体で見て、やっと相殺されて零になる」

 

「はぁ……。ごめんなさい、なに言ってるのかよくわからないです」

 

 本当にわからないようで、困惑している。

 

「要するに、シーソーで片側が上がればもう片側が下がるように、貴女が不幸になればなるほど、貴女をここに追い詰めた馬鹿共は幸福になる。……そう考えるとムカつくわよね」

 

「そう言われると、……そう思っちゃいますね」

 

 一色は苦笑いを溢した。

 

「今頃、大爆笑よ。ザマァみやがれって指差して、そのままどん底まで落ちぶれろって親指下げて、這い上がろうともがく今を見たらさらに爆笑。……腹筋が裂けて死ねばいい」

 

「先輩、もしかして怒ってます?」

 

「怒っているのは貴女よ。私は感化されて同情して共感してるだけ」

 

「や、やだなぁ、そんなわけないじゃないですかぁ」

 

 無駄に可愛らしい笑みを浮かべながら一色は言った。

 

「先輩は私がそんな怒ったりするように見えますか?」

 

「表情に出なければ、言葉に出なければ、態度に出なければ、それで怒っていないということにはならないのよ」

 

「……わかったみたいに言いますね」

 

 一色はキッと睨む。

 

「私、誰かのために怒れる人ってあんまり好きじゃないです。そういう人って大体……」

 

「何かあった時に他人のせいにするから」

 

「……そうですね」

 

「でも、私は私のために怒っているわ。私は泣き虫でその上我が儘なのよ」

 

 

 怒りに身を任せ、怒りに心を任せ、怒りに脳を任せる。

 

「質問。というか、提案よ。――仕返し、したいとは思わない?」

 

「えっと……」

 

 一色は言い淀んだ。

 

「追い詰めた奴らに、見捨てた教師達に、一矢報ってやろうと言っているのよ」

 

「……やっぱり、先輩って超頼もしいけど過激なんですね」

 

「貴女の答えは乗るか反るかよ。――乗るならクズ共を叩くついでに貴女を生徒会長へと押し上げる。これから共犯関係になるのだし活動が大変なら多少の協力は惜しまないわ。――反るなら私はただ叩く。貴女がどうなろうと知ったことではない。雪ノ下や由比ヶ浜が失敗して貴女が生徒会長になったところで、私は関与しない」

 

「それ、ほとんど一択じゃないですか……」

 

「言ったでしょう、私は泣き虫で我が儘なのよ。選択肢には常に妥協と諦めを伴わせる。友達百人なんて作らせないし、みんな手を繋いでゴールなんてぶっちぎる。――さ、選びなさいな。どうせもう普通の学生生活なんてできないのよ」

 

 私が再度尋ねると、一色は笑った。腹を抱えて、愉快そうに、周りから何を思われるとか一切考えられていない、下品とすら思える爆笑だった。

 

「まっ、まぁ、これだけ言われちゃったら仕方ないですね。先輩と友達になっておくのも悪くありませんし」

 

 差し出してもいない私の右手を、一色は取った。

 

「先輩と共犯してあげます。仲良くしてくださいねっ」

 

「ま、後悔はさせないわ」

 

 


 

 

 翌日の放課後。私は一色を連れて、職員室へとやって来た。

 

「一色いろはの立候補を取り消してもらいに来たわ」

 

「ストップ待ってバック止まってハウス!! 単刀を直入しすぎです先輩!!」

 

 いつもなら私が来ても一切動じない職員室も、今日はあちこちがざわついた。

 

「いきなり来たと思ったらなんだ」

 

 立ち塞がるように、ジャージ姿で汗臭い、男性体育教師が席を立ってこちらに来た。

 

「聞こえなかったのかしら? 一色いろはの生徒会長の立候補を取り消してもらいに来たのよ」

 

「ふんっ、馬鹿馬鹿しい。我々も暇ではないのだから、帰った帰った」

 

 そいつは言いながら、羽虫でも払うように手首を振るった。

 

「我が儘でも要望でも提案でもないわ。私は命令をしているの。立候補を取り下げなさい。本人がやりたがっていないことも伝わっているのでしょう?」

 

「一色の本心かどうかが分からない以上は無理に決まっている!」

 

「なら生徒会長になりたいのが本心だとでも? 無償で仕事を押し付けられるだけの立場に望んで立ちたがるわけないでしょう」

 

「しゃっ、社会経験もない子供が口出ししていい問題ではない!」

 

「教職が社会経験だと思っているのならそっちこそ社会経験が不足しているわね」

 

「屁理屈を言うな!!」

 

「そういうことはせめて理屈を語ってから言いなさいな」

 

 言われては返すようにしていたら、そいつの顔は茹で蛸のように真っ赤に染まる。間違いなく、私という小娘に反抗されてプライドが傷付いたとか、そんなことだろう。

 

「とにかく! 決まったことは決まったことだ!! もう公表もしてしまった以上どうしようも無いことだ! 諦めろ!!!」

 

「……まるで大声を出せばなんでもしてもらえると信じてやまないガキ大将ね」

 

「なんだとぉ!!」

 

 あ、平塚先生いた。「何をしているんだ!?」とでも言いたげな目で私を見ている。

 

「そもそも、たかが体育教師には用もないのよね。――聞くけれど、一体私は誰の頭を一色の前で叩き落とせばいいのかしら」

 

「帰れと言ったのが聞こえなかったのか!!」

 

「暗に黙れと言ったのが聞こえなかったのかしら?」

 

 もういい加減、鼓膜に響いて喧しくなってきた。

 

「何をしているんだ君達は……」

 

「平塚センセ〜、先輩が〜!」

 

「まったく……。彼女達は私に任せてください」

 

 平塚先生は体育教師を宥め、私と一色を職員室から出した。

 

 


 

 

「で、何を考えてこんな強硬策に出たんだ?」

 

 私と一色はベンチに座らされて、見下されている。

 

「計画を立てる段階は終わったから、実行する段階なのよ。そしてそれも大部分は終わった」

 

「いや、どう見ても生徒が教師に反抗しているだけにしか見えなかったんだが……」

 

「というか私も先輩に連れてこられただけで何にもわかってないんですけど?」

 

「反抗するのが大事だったのよ」

 

 当初の計画では、状況をリセットするところまでやるつもりだった。一色が無理やり生徒会長にさせられるのではなく、一色が進んで生徒会長になるという状況に正すために。

 けれど、あの声のデカい体育教師のおかげで、より良い方向で計画は進んだ。一色がただ一人で従うだけの生徒会長では無い、という認識を職員室中に広めた。そして私のような味方がいることも知らしめた。

 

 計画を大まかに話すと、平塚先生も一色もため息を吐いた。

 

「あー……、つまりなんだ、一色の発言力を我々教師陣と同等近くまで引き上げてから生徒会長にしようということか?」

 

「権力と言って欲しいけれどね。言われるままに、されるがままに、仕事と労働を強制させられるだけの貧乏籤なんて誰も引きたく無いに決まってるじゃない」

 

「私、そんな女王様みたいな生徒会長になるんですか……?」

 

「生徒の長になるのだから、似たようなものでしょう。せいぜい、全校生徒で酒池肉林を実現させるくらいのことをして見せなさいな」

 

「それ絶対わたし殺されるじゃ無いですかぁ!!」

 

「貴女は死なないわ、私が守るもの」

 

「……君がエヴァネタを言うと呪いにしか聞こえないのはわたしが悪いのか?」

 

 


 

 

 話が落ち着いたところで、新たな共犯者に平塚先生を迎え入れた。

 

「……とは言っても、もうやることは殆ど済んでいるのよねぇ」

 

「え、そうなんですか? もっとこう、前生徒会と戦争とか、わたしの推薦者への私刑(リンチ)くらいしでかしそうだと思ってたんですけど」

 

「私刑はともかく、戦争なんてしないわよ。勝ち目ないし」

 

「私刑はともかくなんですね、さすが先輩……」

 

 

 場所を空き教室に移してから、平塚先生は面倒な話をしだした。

 

「そういえばだな、あー……、雪ノ下と由比ヶ浜が選挙に立候補するらしい」

 

「え……、先輩、二人に伝えてないんですか?」

 

 ……忘れてた。説明が面倒臭かったし、何より面倒臭かった。

 

「……事後承諾で済ませるつもりだったのよ。そもそも協力してるわけじゃ無いし」

 

「しかしどうする。職員達は意固地になっていて二人のキャンセルも受け付けないと思うぞ」

 

 大人として、というか社会人としてそれはどうなのよ。

 

「仕方ないわね。面倒だけど、まぁやりようなんて幾らでもあるわ」

 

「先輩の目がいつになく怖い……」

 

 

 


 

 

 後日談。

 

「セーンパーイ! やばいですやばいです!! とにかくもう色々やばいんです!」

 

「何よ。わたしは今、SNSで湧きまくってる一色アンチを一人一人黙らせる作業で忙しいのだけど」

 

「もう知られてた!?」

 

 二年生二人と一年生一人の生徒会選挙は、一色いろはの辛勝ではあったけれど、それでも一色いろはの勝利という形で幕を下ろした。

 基本スペックで二年生に勝てない一色の勝因となったのは、SNSでの活動。校門なんかでの喧しくそして疲れる演説ではなく、楽でその上に数多の人間の目に付くSNSで、手を変え品を変えひたすらに文言での演説を繰り返した。

 

「ナーちゃん、あたし達に手伝えることってある?」

 

「何か役に立ちたいなら投稿しているクズの携帯電話を破壊してきなさい」

 

 一つ弊害として、というか辛勝につながった要因でもあるのだけれど、一色を嫌う人間達が未だに騒ぎ回っている(当然、その中には一色を生徒会長に勝手に立候補させたクズもいるらしい)。

 校内で言いまわっている分には殴る蹴るで解決するけれど、SNSでのアンチコメントは何かと面倒くさい。

 

「わたしも何か手伝うけれど」

 

「正論主義者とネットのアンチは相性最悪よ。由比ヶ浜なら火に油でも和ませて消火できる可能性があるけど、貴女じゃ火に火炎放射するようなものだから無力。物理的に止められないなら下手なことをしないで頂戴」

 

「……くだらない連中もいたものね」

 

「ほんとよ……。これだから文句はお金を払ってからと言っているのに」

 

「なんかこう、……ご迷惑おかけします」

 

 

 無事……かは分からないけれど、一色は不満なく生徒会長になることが出来た。

 

 めでたし、めでたし。

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