されど私に学園モノは似合わない。 作:不可思議可思議
『今回の騒ぎを起こした反省』 2年F組 不可思議可思議
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「……三人。なんの数字かわかるか?」
「平塚先生が今年告白して振られた回数かしらね」
「違う。君の反省文という名のテロリズムで保健室送りになった教職員の数だ」
放課後、私は職員室に呼び出されていた。
一色と職員室に乗り込み体育教師と言い争いになったことに対し、反省文五十枚を言い渡されたけれど、私は反省文というものを書いたことがなければ、何を書けばいいのかも知らない。
そして謝意を伝えるなら『ごめんなさい』が適切だと判断した結果が、今だった。
「大体、君が反省している様子が想像つかないよ……」
「失礼な。雪ノ下と由比ヶ浜が立候補する前に止めておけばという反省は今でもしているわ。報連相って大事よね。ほうれん草は嫌いだけど」
反省文はシュレッダー送りになり、私は部室に向かった。
道中にコーラを買ってから部室に来たら、ドアを開ける前から何やら騒がしい。依頼人でもきているのかと思いながら扉を開けてそこにいたのは、一色だった。生徒会が正式に始まってしばらくはあまり来なかったけれど、最近はよく来るようになっていた。
「あっ、セーンパーイ! ヤバイですー! 今日は本当にやばいんですー!」
「はいはい。人類の頂点に立つのならまず落ち着きを持ちなさいな」
「あ、いえ、そんな宇宙人の襲来とかじゃないです」
何度も相手をしているうちに、ある程度だが扱い方がわかってきた。
強引に落ち着けさせて話を聞くと、海浜総合高校という学校の生徒会との合同でクリスマスイベントをするらしいのだけれど、それが非常に不味い状況らしい。……そしてそんなイベントを言い出したのが向こうで、一色は断るつもりだったのに、平塚先生が乗り気になったらしい。
「……それで始めてみたものの、上手く纏まらないっていうか……」
「まぁ、平塚先生が乗り気じゃ仕方ないわね。とりあえず先生には時間外労働に励んでもらうとして……」
「え、先輩は手伝ってくれないんですかぁ?」
「当日は私も予定あるし難しいけど、準備くらいは私も協力するわよ。そういう約束だしね」
十二月末というのは、クリスマスに正月に冬休みと、イベントごとが多い。小説家業でも一枚噛みたいところではある。けれどそれ以外は大した用もない。
「いいねー! ゆきのん、手伝ってあげようよ!」
「え、いや……」
由比ヶ浜は乗り気だけれど、雪ノ下は乗り気ではないらしい。
「……申し訳ないけれど、私は反対よ。生徒会初仕事から外部に頼ってというのは、外聞的によくないと思うわ」
「まぁ、そうね。……私が個人的に手伝うわ。最悪の場合、貴女達は『手伝う私』を手伝うという形でお願いするわ」
「……最悪の状況で呼ばれても困るのだけど」
「私の言う最悪は、私以外の参加者全員の話す言語がドイツ語にでもなって言葉が通じなくなるレベルのことよ」
「本当に呼ばれても困る事態じゃない……」
コミュニティセンターというところでやるらしく、方向音痴で辿り着けるはずのない私は一色とともにそこへと向かった。
「先輩って、そんなに方向音痴なんですか?」
「校内でも迷子になる程度には方向音痴よ」
「うわぁ……」
途中コンビニに寄ってお菓子や飲み物を買ったりしながら、手を繋いで目的地に向かう。
「店員さんに姉妹だと思われてましたねー」
「まぁ、美人なんて誰も彼も似たような顔してるものね」
「おじさんのアイドルに対する偏見みたいなこと言わないでくださいよぉ」
まぁ、店員が姉妹と判断したのは顔以上に身長差でしょうけど。
迷うことなく、私たちはコミュニティセンターとやらの会議室に到着した。既に面々は揃っていて、他校の高校生と思われる集団は賑やかに話している。反面、総武高の生徒会の面々は静かに座っていた。
「お疲れ様でーす」
一色が声をかけると、一人がこちらへと寄ってきた。
「僕は玉縄。海浜総合高校の生徒会長なんだ、よろしく」
「私は不可思議可思議。小説家よ」
「……先輩、こういう時でもその自己紹介するんですね」
「事実であり史実だもの」
一色が言った通り、似たような自己紹介を生徒会役員や顧問にして変な顔をされた。
「歓迎するよ。お互いリスペクトできるパートナーシップを築いて、シナジー効果を生んでいけないかなって思っててさ」
……???
「日本人なら日本語で話してもらえないかしら。何を言っているか――ンヌヌッ」
日本語で話すよう伝えようと思ったら、一色から口を塞がれてしまった。
「あれ、もしかしてナナッチャン?」
一色があの外国人モドキに連れられていって手持ち無沙汰になっていると、見覚えのない他校の女子から聞き覚えのある呼び名で声をかけられた。『ナナッチャン』という呼び方は、確か中学二年か三年の時に、陽気な女子が言い始めたあだ名だったはず。
「……誰かしら」
「忘れられてるの!? あたしだよ、あたし! 折本かおり!」
……覚えていない。というか、中学校の同級生で名前まで覚えてる人なんて多分ほとんどいない。
「……そう」
「ナナッチャン、髪染めてたから一瞬誰だか分かんなかったよ。生徒会とかするようなキャラだっけ?」
「そんなわけないじゃない」
「だよねーっ! マジウケる!」
……??
私はここに、外国人との異文化交流にでも来たのかしら。
気がついたら、折本は去っていた。
「……先輩、お友達とかいたんですか?」
「いたとしてもあんな外国人じゃないわ」
一色が戻ってきて、会議が始まる。……悪夢のような、というかサバトのような会議だった。
「えー、じゃあ前回と同じく、ブレインストーミングからやっていこうか。議題はイベントのコンセプトと、内容面のアイデア出しから」
海浜の生徒会長が議長になって会議は進むらしい。
別の海浜の生徒会が挙手して発言する。
「俺たち高校生の需要を考えると、やっぱり若いマインド的な部分のイノベーションを起こしていくべきだと思う」
「そうなると当然、俺たちとコミュニティのウィンウィンの関係を前提条件と考えていかないといけないよね」
「戦略的思考で、コストパフォーマンスを図っていくべきなんじゃないかな」
……??
何を言っているのかさっぱりわからない。
「……うち、何言ってるのかようわからんのやけど」
「京都弁でいきなり話しかけないでください。……私もさっぱりですけど」
海浜生たちが盛り上がっているところに一応気を使って、小声で一色に尋ねてみたけれど、一色もわからないらしい。――あれは日本語じゃなかった!
「……みんな、もっと大切なことがあるんじゃないかな」
突如、議長が何かを言い出して注目を集めた。
「ロジカルシンキングで論理的に考えるべきだよ」
ロジカル、ムシキング?
「お客様目線で、カスタマーサイドに立つって言うかさ」
カスタード? お菓子の話?
ああ、子供向けの何かだろうか。
「なら、アウトソーシングも視野に入れて」
「今のメソットだとスキーム的に厳しいけど、どうする?」
「一旦、リスケする可能性もあるよね」
「もっとバッファをとってもいいんじゃないかな」
「ああー、そうだね。全体をよく見たい」
……やっぱりわからない。全体どころか一部分も見えてこない。
よくわからないまま、会議は終了した。
「大体どんな感じかわかりましたー?」
「……あんたはんが何に難儀しとるか、くらいはなぁ」
「京都弁が抜けないくらいですか……」
「おもろい思っとるんか、かいらし思っとるんか知らんけど、うちにはさっぱりやわ」
「まぁ、なんか難しいこと言ってますもんねぇ。……でも、先輩もたまにあんな感じですよ? 意識高い系っていうか、不思議ちゃんっていうか」
「私は日本語をおもちゃにしてるだけよ。あんな怪文書の読み上げと一緒にして欲しくないわね」
「……急に普通に戻らないでくださいよ。一秒くらい思考が止まりますから」
「難儀やねぇ」
暖房ですっかり温くなったコーラを飲み干してゴミ箱に捨てて戻ってくるうちに、一色は向こうの会長から何やら紙束を受け取っていた。
「……まぁ、こんな感じで、議事録纏めもうちの仕事になりそうです」
一色の言葉を聞いた、こちらの生徒会達の顔は、いつかの文化祭で見た表情をしていた。
各々作業を進め、私は小説を書き、その日は終了した。
次の日も、会議はあった。
「企画の概要として、まだちょっと固まり切っていないから、昨日のブレストの続きからやっていこう」
いわゆる、ビジネス用語と呼ばれるらしい、……言って仕舞えばウザいだけの意識高い系、ナルシストの言葉について多少調べ、なんとなく理解はできるようになった。
「せっかくだし、もっと派手なことしたいよね」
「それあるー! やっぱり大きいことっていうか、とりあえずドカーン的なね!」
「うん、確かに小さく纏まりすぎていたかもしれないな」
……やっぱり話している言語が違うかもしれない。日本語とビジネス用語を足し合わせて見ても、議事録に書かれているのは『みんなで考えることを考えてその考え方もみんなで考えて……』みたいな、意味のない話し合いでしかないように見える。
「……何をするのか、メールか何かで決まったのかしら?」
「いえ。まだ何やるか具体的には何も決まってませんねー」
……まとめるも何も、ロープの内側に何もないじゃない。
「ちょっと規模を上げようと思うんだけど、どうかな」
海浜の生徒会長は、なぜか私や一色の方を向きながら尋ねる。
「あー……、そうかもですねー」
「規模を大きくするには時間も人も資金も場所も足りないわよ」
「ノーノー、そうじゃない」
思わず日本語で口出ししたら、急に否定された。
「ブレインストーミングはね、相手の意見を否定しないんだ。『問題があって大きくできない』、じゃあどうやって解決していくか。そうやって議論を発展させていくんだよ」
「それなら、私の意見も否定しないのが定石じゃないのかしらね。ブレインストーミングは独創的なアイデアを出すための集団思考法という意味だったかしら。――けれど、独創とは否定という彫刻刀で削って現実に嵌め込むから意義があるのよ。妄想と現実の区別をつけなさい」
「……申し訳ないが、何を言っているのかさっぱりだな。意見があるなら、みんなに分かる言い方で言ってもらえないかな?」
こっちのセリフ過ぎるのだけれど。
「問題は見つかった。ならどう可能にするかを話し合おう」
私のことは見限ったらしい。
「近くの高校をさらに入れるっていうのは?」
海浜の一人がそんなことを言い出した。
蒼さんレベルとまではいかずとも、雪ノ下姉妹レベルの人員じゃないと無意味だと思うのだけれど。
「入れて何をさせるのかしら? 労働力ならうちとそっちから適当に希望者でも連れて来ればいいじゃない。私みたいに」
「否定はダメだと、伝えたつもりだったんだけどな」
「ブレインストーミングそのものが愚かだと語ったはずよ。苦悩と工夫は成功への遠回り」
「……しかし、君の意見で人手そのものの問題は一応解決と言える」
「なら、近くの小学校ならどうだろうか」
……会長を折るまではいかずとも歪められたと思ったら、次弾がまた凶悪だった。
「なるほど。ゲームエデュケーションって言うのかな、ああいう風に楽しみながら作業するようにできれば、地域の小学生の力を借りられるんじゃないかな」
会長が補足するように何か言うと、海浜の面々が「ウィンウィンだね」と、おそらく肯定しまくる。
「小学校へのアポイントメントとネゴシエーションはこちらでやるとして、その後の対応、お願いできると嬉しいんだけど」
なんかもう決定事項らしく、「呼ぶだけ呼ぶからそのあとは全部よろしくね」的なことを一色に向かって言い出した。
「そうですねー」
「どうかな?」
「はい、わかりましたー」
一色が請け負ってしまったということは、つまりはさらに総武校生徒会の仕事が増えるということ。複数のため息が重なった。
そんなところで、今日の会議は終了した。
「セーンパイ!!」
「……何よ」
一度会議室から出て、自販機で飲み物を買ったところで戻れなくなったから、近くのベンチで休んでいると、一色が声をかけてきた。
「どうしてあんな、波風立てまくるんですか! 見てて冷や冷やしましたよ!」
「……別に、平塚先生を連れてこれなかったから、いっそ台無しにしてやろうとか考えていないわよ」
「そんなこと考えてたんですか!?」
「だから、考えてないわよ。普通にウザかったから黙らせたかったの」
「それはそれでどうなんですか……。あ、そういえば先輩、こんなところで何してるんですか?」
「迷子よ。部屋にも出口にも辿り着けなかったの」
一色に手を繋いでもらってなんとか外に出て、どうにか帰宅することができた。