されど私に学園モノは似合わない。   作:不可思議可思議

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まさかクリスマスが地獄なのは間違っている。『意』

 昼休み。三子が昨日衝動買いしてきた焼きそばパンを教室で食べていると、由比ヶ浜が寄ってきた。

 

「ナーちゃん、今日部活くる?」

 

「そうね……。悪いけれど、依頼が特にないのなら休ませてもらうわ」

 

「……そっか」

 

「この時期は書かなきゃいけない小説が多いのよ」

 

「いろはちゃんのお手伝いで忙しいとかじゃないんだ!?」

 

 ……忙しかったら、まだそっちの方がマシかもしれないわね。

 

「そっちはそっちで面倒なことになってるのよ。……材木座の中二病が真っ当に見えるくらいには面倒な集団だったわ」

 

「それ、日本人?」

 

 多分違う。

 

 


 

 

 放課後も放課後、空がすっかり赤らんでいる頃。

 

「ごめんなさい先輩っ、遅れましたぁ……」

 

「別に平気よ」

 

 一色から『部活に顔出してから行きますね〜』と連絡されたから、私は無人の生徒会室で小説を書いて待っていた。

 

「そこは『今来たところだよ』って言うところですよ」

 

「今来たなら私は今まで何をしていたのか聞いてくるでしょう」

 

「そんなの当たり前じゃないですかぁ。先輩のミスを突ける後輩を目指してますから」

 

「いい趣味してるわね」

 

 致命的に方向音痴な私は相も変わらず一色と手を繋ぎ、あのサバトよりも悍ましい異界へと歩み出した。

 

 

 事態は進み。

 今日からは、小学生が八人ほどが手伝いに来る。

 

「君たち一人一人のマンパワーに注目している。これから一緒に決めていこう。積極的に、いろいろ言って欲しい」

 

「「「よろしくお願いしまーす!」」」

 

 既に私達以外は集まっていて、海浜の生徒会長が言うだけ言って放置、離れていってしまった。

 

「何すればいいか聞いてくる?」

「誰が? 私無理……」

「先生に聞いてもらお?」

 

 小学生から見れば、高校生は強大すぎる存在。誰も彼もが萎縮している。

 

「……私、行くよ」

 

 その中の一人、妙に大人しいと言うか、大人らしい雰囲気のある黒髪ロングの少女が、こちらへ来た。強大な存在の目の前へ赴く緊張感を滲ませながら。……って。

 

「留美じゃないのよ」

 

「……可思議?」

 

 気がついていなかったらしく、総武校の生徒会に尋ねに来た留美は私を見て目をキョトンとさせた。

 

「先輩、知り合いですか?」

 

「私の友達よ」

 

「……ロリコン?」

 

「年下趣味と言いなさい。……違うけど」

 

 私の趣味は平塚先生や沙希のような年上感のある人であって……。

 

「可思議。私達、何したらいい?」

 

 私がいるからか緊張感の抜けた留美は、再度尋ねる。

 

「何、と言われても、まだ何も決まっていないのよねぇ。決まっていないっていうのは、留美達にさせることが決まっていないってことじゃなくて、このイベントでやることが決まっていないという意味で」

 

「……じゃあなんで呼んだの?」

 

「私に聞かれても、なのよ。……時間が時間だし、小学生と高校生が遊びまわる時間でも無いわね」

 

 暇ならゲームセンターにでも連れていこうかと思ったけれど、時間はもう十七時。小学生が遊ぶには危うい時間帯。

 

「あ、それじゃあ飾り作っちゃいましょうか。材料はほとんど揃っていたはずです」

 

 妙案閃いたと言わんばかりに一色が言った。材料といっても、画用紙や折り紙だったけれど、それならむしろ小学生の方が得意そうでもある。

 

「一色、ここは任せるわ」

 

「え、先輩は手伝ってくれないんですか?」

 

「私はタイピングより細かい作業は苦手なのよ。料理とか工作とか、やるだけ材料の無駄よ」

 

 だから私は、できることをやる。

 

 


 

 

 海浜の生徒会は私達も小学生も放置して何をしているかと思いきや、あの日本語モドキで話し合いのようなことをしていた。

 

「ねぇ」

 

 なるべく威圧的になるように、聞き流されないように、声をかけた。

 

「なんだい?」

 

 生徒会長が爽やかそうな微笑みを浮かべながら振り向いた。

 

「いい加減何をするのか決めないと、小学生が来ようが誰が来ようがさせることが無いのよ」

 

「それはそちらに一任させたつもりだよ?」

 

「だったら内容の決定権も寄越しなさい。貴方達には口ではなく手で働いてもらうわ」

 

「いや、それはダメだ。視野を狭めることに他ならないんじゃないかな。みんなで解決する方法を模索するべきだと思うんだよ」

 

「その時間も惜しいという話をしているつもりよ。イベントの準備が二日、三日で終わるとでも思ってるの?」

 

「そうだね。それもどうするかみんなで話し合わないとね」

 

 私らしくもなく、舌打ちの一つもしたくなった。

 この話し合いが大好きで仕方がない愚か者が何を考えているのかといえば、要するに責任の分散。『言い出しっぺの法則』という、最初に言い出した人間が実行し、責任を持つべきという理念がある。

 この場合の言い出しっぺというのは、このクリスマスイベントを提案してきた海浜総合高校のことであり、イベントの内容を提案した人間を指す。――その人間になりたくないけれど、誰かに押し付けるのも心苦しいというわけだ。あるいは、誰か一人に決められるのが気に食わないというのも相応にあるだろう。

 

「焦るのは分かるけど、頑張ってみんなでカバーしていこうよ」

 

「……はいはい」

 

 阿呆も束ねれば折れなくなる。共犯者がいるだけでその心は自信に満ちる。

 

「だったらその会議、今すぐ始めなさいな。……いい加減、カバー仕切れる範囲を過ぎるわよ」

 

 誰かと協力してやるというのは、何にしても時間がかかるもの。それは当然一人が独走するより確実で安全なのでしょうけれど、物事の認識を統一できなければいけない。そのためには必要以上に綿密な話し合いが必要で、故に時間がかかる。

 

「じゃあ、早速会議に入ろうか」

 

 何よりもの問題は、海浜生徒会の目的は決してイベントでもボランティアでもなく、この話し合いそのものなこと。私から見れば無駄でしかない、無益で無意義で無意味な話し合いをしている自分たちに酔っている。意識高い系、なんていうけれど、まさしく、自意識過剰。話し合いという手段そのものが目的であり、最終的な失敗はみんなで分け合えば問題なし。

 そんなことを、意識的であれ、無意識的であれ、認識を統一してしまっている。

 

 


 

 

「これまでのブレストでグランドデザインはみんなと共有できたと思うんだけど、今日はもっとクリエイティビティな部分について、ディスカッションしていこう」

 

 そんな長ったらしい前口上から、会議は始まった。

 

「これについてはゼロベースで始めることだから、みんな自由に発言してね」

 

 自由に言っていいというのなら、イベントの中止を言いたいところなのだけれど、流石にこれをこのタイミングで言うほど私も愚かでは、あるいは殊勝ではない。

 

 海浜生徒会から、次々と意見が上がる。

 

「やっぱクリスマスっぽいことがいいよねー」

「トラディショナルな部分は外せない要素かな」

「でもうちらの需要って高校生らしいことなんじゃない?」

 

 会議を長引かせる、楽しい時間を続ける手段として、彼らは抽象的な意見ばかりを出して、結論を遅らせる。

 

「……クリスマスらしいものって、何があるかしらね」

 

 言葉が通じずとも、方向修正くらいはできるはずであり、案の定効果があったらしく芋づる式に意見が出てきた。

 

「クラシックなクリスマスコンサートなんて地域のイベントのスタンダードって感じがするよね」

「でも、若いマインドも加味した方がいいんじゃないかな。バンドとか」

「それならいっそ聖歌隊とか。パイプオルガンとか借りて」

 

 具体的な案が出て来れば、結論への道筋が見えてしまう。それを許容できるほど、議長は阿呆ではなかった。

 

「よし。ぞれじゃあ一度、全部検討しよう」

 

 会議を長引かせるために。かっこいいビジネス用語を一つでも言うために。

 当然、そんな時間は残されていない。イベント当日まで残り一週間とちょっとしかないし、何をするにしても準備に加えて仕込みや練習までとなると、今決まったところでまだ無茶。

 

「この中から選んで決めた方が早いでしょう。決めた内容の割に練習不足でグダグダなんて、愚の骨頂よ」

 

 思わず言うと、議長は首を横に降って反論する。

 

「すぐに意見を否定するより、みんなの案を取り入れて全員が納得できるものを作るべきだよ」

 

「全員の納得と内容の完成度、どっちを優先するべきなのかしらね」

 

「それも後で話し合おう」

 

「話し合う時間は完成度を削って出来ているのよ。時計とカレンダーを見なさい」

 

「……何を言っているんだい? 記録はしっかりと残しているさ」

 

 そんな話はしていない。

 

 

 会議は様相を変えて進行する。

 

「音楽系にまとめて、いろんなジャンルのクリスマスコンサートはどうかな?」

「まとめるっていう観点で考えれば、ミュージカルと音楽の親和性は高いよね」

「いっそ全部混ぜて映画にするっていうのは?」

 

 折衷案という名の闇鍋レシピにしか、私には聞こえなかった。

 否定を禁じられるブレインストーミングでは、一度組み上がったものを否定で削ることはできない。

 

 会議は混沌を極め、時間ギリギリになっても会議が終わらず、結論は持ち越しとなった。

 小学生は外が真っ暗になる前に帰していて、留美と話す時間もなく、一色と共に帰った。

 

「お姉ちゃん、おかえり」

 

「あんた、こんな時間まで何してんの」

 

 玄関で靴を脱いでいる間に、三子と沙希が顔を出した。

 

「朝帰りしてた沙希には言われたくないわね。……というかこんな時間までいて平気なのかしら?」

 

 沙希は放課後にアルバイトでうちに来るけれど、家での家事のために、いつも五時前には帰ってしまう日がほとんど。

 

「今日は母親が休みで夕飯作るっていうから、少しね。でももう帰るよ」

 

「沙希さん、最近お姉ちゃんが帰り遅いから心配してくれてたみたい」

 

「そう。……沙希、心配はいらないわ。別に危険なことをしてるわけじゃないから」

 

「なら、なんか手伝えることある?」

 

「テロリズムでもしてイベントの中止へ追い込んでもらえると助かるわ」

 

「……何言ってんの? てか何やってんの?」

 

「サバト」

 

 いや、魔女でも話し合う時はもっと計画的に話し合うと思うけど。

 

 


 

 

 翌日。

 今日は会議は無く、他の作業を進めたいらしい。

 

「先輩、もう飾り作りが殆ど終わっちゃいそうなんですけど、次何やったらいいですかね?」

 

「そう……」

 

 そもそも、小学生に任せていい仕事というのが少ない。それこそ飾り作りのようなイベントの修飾ばかりで、本題周りは決まってすらいないのだから、下手なことをやらせてもどうしようもない。

 

「飾り方向で何かするしかないでしょうね。ツリーの組み立てなんてどうかしら」

 

「物は届いてますけど、今組み立てちゃっても邪魔じゃないですか?」

 

「エントランスにでも置かせて貰えばいいんじゃないかしら。残り一週間だし、交渉すれば多分平気よ」

 

 一色は納得したようで、会議室から出てどこかへと向かって行った。

 そして、私にできることも、多分これで最後になる。

 

 データを纏めた画面をノートパソコンに移し、海浜の生徒会長に見せる。

 

「これは?」

 

「予算や時間的にどうしようもないアイデアを精査したわ。まぁ大半が予算、残り幾つかが時間的に無理なのだけれど」

 

「おおっ、ありがとう!」

 

 最低限必要な予算と比較して切り落としたものや、映画などの時間的に不可能と切り捨てた文字列を見て、顔を顰めながらも、小さくうなづいた。大層不服らしい。

 

「これで問題点は明確になった。みんなでどう解決するか考えよう」

 

「時間をかければかけるだけ、今なら採用できるアイデアを切り落とすことになるのよ?」

 

「バンドとかは外部に発注するとかもあるんじゃないかな? プライベートライブの派遣サービスとかも結構あるんだよ」

 

「少ない予算でそんなことできるわけないじゃない。時は金なり、時間を短縮しようとするとそれだけお金がかかるのよ」

 

「……みんなで検討して次の会議で決めよう」

 

 意見を求め、聞く。承諾を得て、行動。問題が起きないよう、後から揉めないように調整。なるほど大事なことなんでしょうね。

 でもそれが出来るのは、意見を切り捨て、相手を説得し、失敗すれば責任を取る覚悟のあるものだけ。

 

「次の会議で決まらなければ全て不可能。私も善処はするけれど、決まらないようなら総武高校はこの件から手を引くよう私は働きかけるわ」

 

 何かを得るには、何かを諦めなければならない。解決の近道は妥協と諦め。楽しくかっこいい会議は諦めろ。

 

 

 返事を聞かぬまま、私はそこを離れる。

 席に戻って小説を書こうとも思ったけれど、ふと、部屋の隅に目がいった。

 一人ハサミを片手に黙々と作業していて、雪の結晶の飾りを作っているらしい、留美がいた。

 

「飾り作り、楽しい?」

 

「うん」

 

 こちらに目もくれず、無表情で切り続けているのを見るに、没頭しているらしい。

 私は隣に座り、膝にパソコンを乗せてキーを叩く。

 

「可思議、やることないの?」

 

「ないのよねぇ。おかげで、クリスマスと年末年始の分の小説が書き上がってしまったわ」

 

「どんな話?」

 

 夏休みから始まった留美とのメールのやりとりは今でも続いている。その内容というのはまぁ他愛もない雑談が多いのだけど、時々、私の小説の感想を送ってくれている。あまり長時間はパソコンを使えないそうだけど、それでもちゃんと読んでくれているのを私は知っている。

 

「そうねぇ。ネタバレしない程度に話すなら、死んだキャラクター達の会話とか、普通にクリスマスデートとか、一家の正月とか、まぁ色々書いてるわ。留美の気に入ってた娘も登場したわね」

 

「そっか。じゃあ今書いてるのは何?」

 

「秋頃から書き始めた、ファントムハウスね」

 

「へぇ。いつ書き終わる?」

 

 妖怪モノが小学生にウケるのは今も変わらないようで、お化け屋敷を舞台とした小説は留美のお気に入りの一つ。

 

「明日には更新できると思うわ」

 

「楽しみにしてる」

 

「存分に期待していなさいな」

 

「うん。……あ」

 

 留美が作っていた雪の結晶の最後の一枚が、出来上がってしまった。

 手持ち無沙汰になってしまい、使い道の無くなったハサミを留美はジッと見つめる。

 

「別に、無理に働く必要はないわ。暇なら話し相手ぐらいにはなれるわよ」

 

 

 その日も、準備はほとんど進行しなかった。

 

 




 感想で、可思議ちゃんと三子ちゃんの容姿を聞かれたので、ここに。


 可思議ちゃん

 髪は膝あたりまで伸びていて、手入れの類を一切しないためボサボサ。金と茶が縞模様になるように雑に染められていて、生え際からは黒髪が出てきている。
 顔は上の中くらいだけれど、髪が原因で下の下くらいに見られることも。
 体格は小柄。身長150cmで、脂肪や筋肉が最低限もついておらず、駆動域の限界まで動く。胸がどうこうとかの次元でなく、普通に不健康そう。
 制服よりも、ワンピースのような布の枚数が少なく済む格好を好む。


 三子ちゃん

 髪は腰あたりで切り揃えていて、真っ黒。染めたりはせず、手入れは抜群にされている。
 顔は可思議と同程度だけれど、あまり似てはいない。
 かなりの高身長で、胸やら太腿やらが大きい。
 体格の都合上、メンズの服を着ることが多い。
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