されど私に学園モノは似合わない。   作:不可思議可思議

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されど私の学園ラブコメは間違っている。『漆』

 


 

 『暴行担当』

 料理人、海胆岬ほろり。

 人形師、有製あおい。

 

 『情報担当』

 名探偵、八橋あられ。

 他校生、比企谷八幡。

 中学生、比企谷小町。

 

 『勧誘担当』

 美少女、依璃。

 

 『その他』

 小説家、七五三七子。

 芸術家、有製黄彩。

 超能力者、楽羅來(らららい)らら。

 大学生、雪ノ下陽乃。

 


 

 人形師、芸術家、殺人鬼、名探偵、美少女、中学生。しまいには超能力者まで、魑魅魍魎もかくやという面子が集まってまともな会議ができるはずもなく。

 この街での役割分担だけなんとか決めて、あの場は解散となった。

 

 今は帰りに寄り道、というか遠回り、あるいは回り道をしてサイゼリアで陽乃とテーブルを挟んでいた。テーブルにはピザにポテトにチキンにビール。女子二人が頼むには女子力が欠けている気がするけれど、ほとんど陽乃の独断で注文したものなため致し方なし。

 

「……疲れた」

 

「でしょうね」

 

 陽乃は珍しく疲弊した様子で、背を丸くしながらポテトを齧る。私はジョッキにストローを差して啜るという、多方面から怒られそうな飲み方をしながら話し相手になっていた。

 

「可思議ちゃん関係って言うから、かっこいい子か可愛い子か、せいぜいが漫画家くらいだと思ってたらさ〜」

 

「残念ながら漫画家の知り合いはいないわね」

 

 あの美少年の芸術家ならそれくらい片手間に書き上げるでしょうけれど。

 

「探偵に超能力者って、……可思議ちゃん、何したらそんなコネできるの」

 

「私のじゃないわ。……川越にね、いるのよ。社会の逸れ者を集めるのが得意な天使様が」

 

「天使様」

 

 それこそ、チームの九人が集まれば話し合いなんてできたものじゃない。

 そもそもリーダーは『可愛いは正義』、その恋人のイレズミマンは『家族のための正義』を掲げ、日本語よりも肉体言語を好む危険物で、最年少の幼女は言葉が通じるのに心の通じ合わぬ、精神的な化け物だし。永久欠番とメイド長はそもそも集まることが困難だし。

 美少女と人類最賢、名探偵がせめてもの良心、……と言って言えないこともない。その三人だってまともな価値観をしていないけれど。

 

 超能力者の楽羅來ららが一番話しやすいというのは、何と皮肉なことか。

 

「……どうして力のある人間ってまともに生きられないのかしらね」

 

「それ、可思議ちゃんが言っちゃうんだ?」

 

 言われながら、差し出されるポテトを口で受け取る。語ると年寄り臭くなるから多くは語らないけれど、アルコールと塩気の組み合わせはいつでも心躍る。

 

「なんていうか、実感した。己の小ささを。あと母のみみっちさを」

 

「人間皆兄弟とよく言うじゃない」

 

「それ、滅茶苦茶遠回しに自分に返って来てるの分かってて言ってる?」

 

「私が小さいのは一目瞭然じゃない」

 

 外見的に。ロリ的に。論理的に。

 

「今日、もっと小さい子を見ちゃったけどねぇ。芸術家、黄彩くん」

 

「シトリング・ラフィ。普通、仕事の依頼をするなら何百万でも足りない、ダ・ヴィンチやピカソと名を連ねる偉人に分類される人間なのよ」

 

「偉人。小さいどころか偉大、むしろ巨大じゃない」

 

「性格は小さい、と言うか見た目相応の子供なのだけどね」

 

「それは知ってる。あの子とはだいぶ話したから」

 

 

 芸術家、シトリング・ラフィは芸術家家業の傍ら、似顔絵屋まがいの小遣い稼ぎを趣味でしている。

 肖像画を依頼すると数億はくだらないはずなのに、似顔絵だとなんと五百円。クオリティは芸術作品に劣らないが、唯一の難点は本人が選んだ人間しか請け負わない。額が小さいだけでやってることはほとんどカツアゲと一緒。

 

 そして陽乃は当然のように目をつけられ、強化外骨格も鉄仮面も化けの皮も猫被りも、何もかもを引き剥がされていた。

 

「これで五百円は、破格っちゃ破格よねぇ。……二度と御免だけど」

 

 メールで送られて来た件の似顔絵を見ながら、陽乃はビールを一息に飲み干した。

 

「こっちから頼まなきゃ二度目は無いから安心しなさいな」

 

「もしかして可思議ちゃんもやられた感じ?」

 

「陽乃ほど疲れたりはしなかったけれどね」

 

 シトリング・ラフィは似顔絵を描く際、『お喋り』と称して心を暴くような質問を幾つもする。なんでも、絵を描くのに必要な情報を、視覚と嗅覚以外からも読み取る必要があるらしい。

 私の場合は自分を小説という形で出力し続けているため、大した負担にはならなかったけれど、陽乃のような人間にはかなりのストレスになったと思う。

 

 

 食って飲んで、他愛もないことを駄弁って潰して、陽乃をタクシーに放り込んで私は帰る。

 

 


 

 

 翌朝。いつも通り三子に起こされ、沙希に水風呂から引き摺り出された。

 いつもの日常だけれど、しかし違うのは、沙希の服装が制服ではなく私服であること。

 休日に会うことも多いのだから別に見慣れていないということはないけれど、どうも平日にその姿を見ると曜日感覚が混乱してくる。

 

 今日は平日で、祝日というわけでもない。

 けれど、今日は周辺の学校のほとんどが臨時休校。その旨を伝えるメールが、私にも沙希にも三子にも届いている。

 

 なんでも、深夜未明、俗に暴走族と呼ばれる集団と、偶然巻き込まれたと思われる高校生数名が暴行を受け、とある公園で山積みになっていたらしい。公園は今も立ち入り禁止らしく、そもそもどこの公園なのか明かされてもいない。

 で、総武校での事件と関係があるかもしれないと、まぁそういうわけだった。

 

 それでも仕事というのは無くならないもので、大人は普通に出勤するし、生徒会と奉仕部もプロムに関する仕事は絶え間ない。

 

「行ってらっしゃい、お姉ちゃん。気をつけてね」

 

「ん。多分、昼過ぎには帰ってくると思うわ」

 

 いつもより一時間ほどだらだら、ゆっくりしてからの登校。洗濯物を干している沙希と三子に見送られて、私は家を出た。

 

 

 

 例の事件はすっかり広まったのか、いつも以上に人影の無い通学路。せいぜいが、休校を喜ぶ男子中学生が自転車でどこかに向かうのを見かけたくらい。途中に寄ったコンビニでも品揃えがいつもより充実していた。

 

 平和な世の中に起きる大事件というのは何も悪いことばかりではないらしい。

 そんなことを、コカコーラの期間限定フレーバーを飲みながら考えていると、総武校の正門へとついた。メールを見ずに来てしまった生徒が屯している様子を尻目に、閉まった門に足をかけて飛び越え、昇降口ではなく職員玄関から校舎へと入る。

 履き慣れないスリッパをパカパカ鳴らしながら生徒会室へ向かう道中、ふと中庭の方を見て異変に気が付く。

 

「……は?」

 

 総武校の本校舎は口の字の形をしていて、内側には四方を壁に囲まれた中庭がある。

 その壁、四つ全てが塗り潰されていた。

 

 白かったはずの壁は闇夜のように真っ黒く、窓だけは避けるように塗られ、その上に黄色で線画のような絵が描かれている。というかまだ描き途中のようで、母親のように空中浮遊して筆を振るっている芸術家もいた。

 

 描かれているのは、プロムのポスター。

 線画でも十分に美しく、プロムキングとプロムクイーンがダンスを踊っている様子が描かれていて、足下には卒業式とその後のプロムの日程が記されていた。

 窓の位置のおかげか、ここから見える三つの絵はどれもポーズが違う。芸が細かいというか、まぁ芸術家のやることに野暮なツッコミは無粋。

 

 見なかったことにして生徒会室に行こうとしたら、猫を持ち上げるように、首根っこを平塚先生に掴まれた。

 

「どういうことか話してもらおうか、不可思議」

 

「どういうも何も、私も今来たばかりなのだけど」

 

「それは見れば分かる」

 

 平塚先生が睨む先は私ではなく、中庭で腕を振るっている小さい芸術家と、地上でバケツに塗料を補充している幼女。

 シトリング・ラフィとららだった。

 

 平塚先生も生徒会室に用があるらしく、道すがら教師側の事情を聞いた。

 

 シトリング・ラフィは朝早くから出勤してきたばかりの校長に掛け合い、プロムのポスター作成を半ば強引に請け負ったそうな。

 知る人も知らぬ芸術家、シトリング・ラフィの要望を無闇に払い除けるわけにもいかず、中庭で現在進行形で行われている暴挙までも許してしまったと。

 

「百パーセント自然に還る水溶性塗料だから問題ないと説明されたらしいが、……まさか校舎をキャンバスにするとはな」

 

「オープンキャンパスならぬ、オープンキャンバスというわけね」

 

「上手くないぞ。中庭だからそれほどオープンでもないしな」

 

「どうせ中庭が終われば他のところにも描かれるわ。こっちから依頼すれば、壁一枚で何億か何兆か」

 

「……そんなにするのか?」

 

「そりゃ、あれだけ大きいものを描くことなんて滅多にないし。しかもそれが一度の雨で流れるというのだから、愉快よね。文字通りタダ働き。タダより高いものがここには無くなる」

 

「……これ、もうプロムを中止に出来なくなってないか?」

 

「そのために私たちが急ピッチで仕事を進めてるの、知ってるでしょうに。思わぬ追い風があったものね」

 

「追い風というか、まるで嵐だがな」

 

 四枚目を描き終えて、満足そうに飛び回って頷いたり、首を傾げたりしている芸術家を見て、平塚先生は愉快そうに笑う。

 

「まったく、今年は最後まで怒涛のままで終わりそうだな」

 

「私にしてみれば、この程度は日常の内なのだけどね」

 

「君に日常なんて似合わなすぎるな」

 

「そーね」

 

 話しているうちに、生徒会室にたどり着いた。既に私以外の面子は揃っているようで、扉を開ける前からもう騒々しい。

 

「全員、揃っているようだな」

 

 いつも通り、平塚先生はノックをせずに扉を開けた。私もその後に続く。

 

「ナーちゃん先輩おっそーい! 一時間も遅刻ですよぉ!」

 

「授業がないんだから別にいいじゃない」

 

「授業がなくても仕事はあるし私も待ってるんですよー!」

 

「はいはい」

 

 コンビニで買ってきたお菓子と飲み物でいろはを宥め賺して私の席に座ると、平塚先生は自分の分のパイプ椅子を用意して座ってから話し出した。

 

 

「プロムに直接関わる話じゃないんだが、しばらくの間、午後五時以降の放課活動を制限することになった。部活とか委員会とかな」

 

「それは、私たちもプロムの準備に充てられる時間が減るということでしょうか。もしかして、また母さんが……」

 

 雪乃が小さく挙手しながら、うんざりした様子で問うが、平塚先生は苦笑いしながら首を横に振る。

 

「いや、事はもっと現実的且つ社会的な問題でな。例の事件の犯人はまだ見つかっていないんだが、凶器についた指紋の中に、幾つかがとある殺人犯のものと一部だが一致したらしい」

 

 殺人犯、という非日常のワードに全員の顔が引きつる。外の芸術家といい、度重なる異常事態に疲弊しているのが見て取れた。

 

「まぁ、こう言うと恐ろしく聞こえるが、実際のところは欠損が多くて、警察のデータベースにあるもののうち数十個が一致していて、そのうちの一つにってだけなんだがな」

 

「つまり、偶然の一致で可能性は低い、と」

 

 雪乃は確かめるように問うと、今度は平塚先生も頷いた。

 

「可能性があるのだから警戒すべきだというのが学校側の意思だ。……問題ない、とは思うが事件は起きているからなぁ」

 

「……その事件、これからも続けばプロムにも影響出ますよね」

 

 いろはは不安そうな顔で、呟いた。その目は私と平塚先生を行ったり来たりしている。

 

 いろはの言葉を否定しきれず、私たちは黙るしかなかった。

 

 その沈黙を破ったのは、外野、というか野外からの声だった。

 窓の鍵が誰も触れていないのに降り、誰が触れるでもなく窓が開いて部屋に入ってくる。

 

「え〜。僕が描いたんだから、やめたりしたら怒っちゃうよ?」

 

「どこから入ってきたんですか!?」

 

「窓から。ウフフ、見れば分かるでしょ? それより、プロムが中止になんてしちゃ駄目だよ」

 

 シトリング・ラフィ、と言うか有製黄彩にとって、プライバシーの概念は存在しない。『僕の目はゴミ箱の底にだって届く』と自称する目には、何もかもが見えている。

 私たちの肉体なんて言わずもがな。パソコンのデータから、書類の一字一句、プロムの現状に事件の全貌まで。

 

「満足行く仕事が出来たのかしら、シトリング・ラフィ?」

 

「ウフフ、まだとちゅー。創造の子がお腹すいたんだって。だからなんかちょーだい?」

 

「いろはにお菓子とコーラを渡しているわ。私が買ったものだから、」

 

「ありがと〜」

 

「……好きに持っていきなさいな」

 

 ビニール袋をいろはから奪い取り、またすぐに窓から飛び出していった。

 

「……シトリング、ラフィ。あれが、かの芸術家?」

 

「ちっちゃいのに力つよっ。全部取られちゃいました〜」

 

「てかっ、いま普通に空飛んでなかった!?」

 

 雪乃もいろはも結衣も、生徒会役員も呆然と、勝手に閉まる窓を見ていた。

 

「蒼さんの子供だもの。ワイヤーアクションくらい平気でやってのけなきゃ困るわ」

 

「いや、そういう次元じゃないだろう。セキュリティが意味を成していないじゃないか」

 

「監視カメラのついでに生体認証でも付けることね」

 

「窓ガラス全てにか? それこそ万で済めばいいがな……」

 

 窓の外では芸術家が活動を再開したようで、ワイヤーを掛けられている窓枠や木々が軋む音が聞こえてきた。

 

「そ、それじゃあ、こっちも再開しましょう」

 

 雪乃がそう切り出し、全員作業に取り掛かり始めた。

 

「平塚先生、邪魔だからお菓子と飲み物を買ってきて頂戴。財布を預けるから」

 

「君はもう少し、セキリュティやプライバシーについて学んだ方がいいと思うぞ。あと私への敬意も」

 

「じゃあそれもコンビニで買ってきて。レジで言えば五百円くらいで買えるはずよ」

 

「君にとって敬意は、切手と同列なのか」

 

「お金で代替可能なら、似たようなものでしょう」

 

「……じゃあまぁ、行ってくるが、私への敬意は売っていないと思うぞ」

 

「はいはい愛してる愛してる」

 

「私が君に求めているのは愛情よりも敬意なんだがな……」

 

 私もパソコンを起動させながら片手間に返事すると、平塚先生は拗ねたように生徒会室を飛び出していった。

 

 

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