されど私に学園モノは似合わない。   作:不可思議可思議

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されど私の学園ラブコメは間違っている。『玖』


 

 

 ここ、埼玉県川越市において。名を複数持つものは確かに珍しくはあるものの、別に特別と言うわけでも特殊と言うわけでも無い。

 かく言う(わらわ)とて、『高天原(たかまのはら)七七七(ななみ)』という名の他に、『人類最賢』という二つ名が二つ目の名として十分に機能している。

 数年前、妾がまだ小学生だった頃。とあるクイズ番組で共演した子役は、妾の名を知らずとも、『人類最賢の小学生』という二つ名は知っていたように。

 

 古くより日本には、仮名(けみょう)という、今はすっかり廃れた文化がある。有名な一例として、坂田金時には『金太郎』という仮名が存在した。

 

 さて。ならば考えてみなければあるまい。『坂田金時』と『金太郎』には何か差異はあったのか。どれだけの差異があったのか。

 無い。ある訳がなかろう。その二つの名称は一人の人間のものであり、一人の人間を指し示すものなのだから。

 

 所謂、ニックネームというものかの。

 

 

 では、改めて考えてみなければならないことがある。思い出さねばならないことがある。

 

 七五三七子と、不可思議可思議。

 妾の遠い親戚という、世間の狭さを感じざるを得ない存在ではあるのだが、それは今語るべきでは無いか。話を戻そう。

 

 妾たちチームの要因はかの『売らない文豪』を不可思議可思議ではなく七五三七子と呼び、触れ合ってきたが、どちらで呼んでも混乱をきたしそうなものだし、ここは探偵に倣い、文豪と呼ぼうかの。

 

 かの文豪は、己の持つ二つの名をあからさまに差別化しておった。

 不可思議可思議は七五三七子を、『自分より四割増しで素敵に過激』と評した。

 七五三七子は不可思議可思議を、『自分から生まれた、私が描いた唯一の物語の主人公』と評した。

 

 言ってることが正確かどうかはともかく、確かにその二つの名はそれぞれ、別のものを指し示していた。

 不可思議可思議が七五三七子になることはなく、七五三七子が不可思議可思議になることもなく。

 

 世間体に気を遣い、区別と言い換えても差し支えは無いが、ここは敢えて差別と言い続けよう。

 なぜなら、その二つには明らかな差があるのだから。

 

 七五三七子を妾達チームは『文豪』と認識しているものの、七五三七子に小説を書くことはできなかった。

 あやつには物語を作る才能こそあるものの、文才は無い。小説家より、脚本家や映画監督なんかの方がよっぽど天職と言えよう。あの顔と演技力なら、俳優もできるかも知れんの。そもそもが、あの偉大な人形師の人形志望だったわけだし。

 

 これは仮説であり、真説とするにはそれこそ、あの忌々しい超能力者にタイムマシンでも作らせねばならない説だが、きっと不可思議可思議は七五三七子が生み出したキャラクターなのであろう。

 

 そりゃ当然だろと言いたくなるであろうが、そう、当然のことなのだ。

 七五三七子は、小説家であり、文才という才能を持ったキャラクターを、己の中に生み出した。脳内彼氏、脳内彼女、所謂イマジナリーフレンドを作るように。

 超能力者が万物創造という身体能力で宝石を生み出すように、七五三七子は妄想という基礎能力で人間を生み出した。

 

 そりゃ、不安定になっても仕方がない。時が経ち自分との境界が曖昧になっても仕方がない。むしろ、年単位で完全に差別し続けていられた、不可思議可思議の別人としての完成度が異常すぎる。

 

 鏡に向かって『お前は誰だ』と言い続けると精神崩壊する、という話があるだろう? あれを二十四時間、三百六十五日し続けるようなものなのだから、狂気の沙汰だと言わざるを得ん。

 

 まぁその制作手法として、手本として、殺人鬼と料理人というまったく異なるキャラクターが一つの体に共存した存在が近くにいたというのも大きかろう。作り方は分からずとも、在り方はよく見知っていたのだ。

 

 だからまぁ、文豪にしても海胆岬ほろりにしても、名が二つと言うよりキャラクターが二つだと言った方が正確か。

 

 もっとも、その殺人鬼も今や絶滅し、その身には料理人しか居ない。けれどその料理人も殺人鬼の影響は受けている。子が親の影響を受け、親が子の影響を受けるようにの。

 

 それと似たようなことが、文豪にも起きた。

 クリスマス前、不可思議可思議が限りなく弱った時のことだ。七五三七子は弱った我が子を見て、迷いなく、考え無しに助けに入った。おかげでクリスマスイベントは完遂できた。しかし、助けに入ったのは紛れもなく、不可思議可思議ではなく七五三七子。紛れもなくというか、むしろ紛れ込んだのか。

 小説の書き方を知らない親が、小説家の子供の手伝いをできるわけもなく。子が立ち歩むのを支えながらも、しかし同時に足を引っ張ってしまっていた。

 

 故に、しばらくの間は全盛期並みの小説家でいられなかった。

 

 しかし人は成長するもの。

 文才の無かった七五三七子が、子から学び、幾らか小説を書けるようになった。生み出してからずっと見守り続け、最近じゃ手を貸したりもしていたのだから、そりゃ上達するに決まっている。

 料理人が戦えるようになったのも似た理屈なのだろうな。

 

 あとは、子が親を、現実を受け入れれば、失った分を十分に補填できる。どころか、親の物語を作る才能がそのまま足し算され、全盛期以上の小説家になりうるかも知れん。

 確かに子が親から受け継ぐように、親に似た才覚もあっただろう。七五三七子の声帯模写や腹話術、読心術は、『人類最賢』の知識量や『美少女』の魅力に十分匹敵していた。

 しかし不可思議可思議のそれらは、文才だけを持って生まれたからか、十分どころか一分にも届かない程度の、言ってしまえばお粗末なものだった。それらが十分に到れば、あるいは。

 

 ……エンパス体質だけは、やはり体質ということなのか、名に囚われず同じだけ文豪を苦しめていたか。

 

 とはいえ、完全体ともなればそんな体質に容易く屈する文豪でもあるまい。

 ドラゴンボールのフュージョンのように、人間二人がそのまま足し算されたのだからな。……あるいは半人二人が足し合わさってやっと一人になったとも言えるが。

 どっちにしろ、恐ろしい存在となったことに違いあるまい。

 

 きっと、妾達チームのリーダー、白神彩織に匹敵するような化物だ。

 

 何せ、文豪は単独を好むものの、しかし人と組むことで真価を発揮するタイプなのだから。――リーダーと同じく。

 それこそ超能力者とコンビを組めば、書物の国のルイス(ブレイク・クラッシュ・デストロイ)くらい容易くやってのけるだろう。

 殺人鬼と組めば、黄金の国(ハートフル・ピースフル)を実現するかも知れない。

 

 願わくは、あの可愛らしい泣き虫だけは治らないことを祈るばかり。

 

 妾こと、高天原(たかまのはら)七七七(ななみ)からの、補足のようなものは以上。

 読者諸君。残り数話であろうが、かの文豪、不可思議可思議の物語をしっかり見届けてやってほしい。

 

 残念ながら妾達チームの物語は、番外編行きかの。

 

 


 

 

 きっと、私が全盛期レベルまで力を取り戻すのも依璃の計画の内だったのでしょうね。あるいは人類最賢、七七七(ななみ)の予言か。

 どっちなのかはともかく。面白い小説を書けるようになった翌日から、事態は急変した。――間違えた道から元のルートに戻ったのだと理解するほど、素早く劇的に。

 

 始まりは、放課後になって帰宅した頃にいろはから届いたメール。

 

 ――学校側の判断による、プロムの中止。

 

 正確には、まだ中止を検討しているというのが正確な現状。

 シトリング・ラフィが一枚噛んでいることもあって、すぐに判断は出来ないが、放っておけばその方向性が変わることはないという。

 

「まぁ、そりゃ、乗り込まれればそうなるわよね」

 

「ああ……。一色の時もそうだったが、学校が方向を定めてしまったら、一職員の私では参考意見にしかならんのだよ」

 

 部屋着に着替えた後に来た連絡の為、とりあえずワンピースだけ着て、私は職員室に舞い戻って平塚先生と対面していた。

 

 雪ノ下母はあの後にもう一度、今度は学校へと物申しに来たらしい。その結果が、中止の検討。

 検討に留めていられるのは、学校が想定していた以上にプロムの準備が進んでしまっていたことと、シトリング・ラフィのネームバリューによるもの。

 シトリング・ラフィも中止にした場合は、絵に関する諸々の費用の半分程度(と言っても億で止まるかどうか)の額を請求すると言っているし、衣装や設備をレンタルする業者にもそれなりの額を払わなければいけなくなる。

 が、それも言ってみれば金か説得で解決する問題でしかない。

 

「陽乃が言っていたように、これはこれで試練なのかもな。雪ノ下の成長、あるいは挫折のための。……そのために、君は何度も切り離されようと攻撃を受けていたんだろう?」

 

「あら、気付いていたのね」

 

 成長。あるいは、挫折のための試練。――負けイベント。

 攻略法は負ける以外無く、唯一の方法はチート。そのチートというのが、例えば私だったのね。なんと弱いメアリー・スーか。

 

「陽乃からそれとなく聞いてはいたからな。私の中で事件と結びつけるのに、そう時間はかからなったさ」

 

「だったら止めて欲しいものだけどね。連日救急車とパトカーが来ているようじゃ、そっちが原因でプロムが出来なくなるじゃない」

 

 幾ら三年生が自由登校で殆どいないとはいえ、流石に危険を冒してまでやるほどプロムは重要なイベントではないのが現実。

 

「ああ、そっちはそっちで別の問題が起きててな」

 

「それは、私も聞かせてもらえるのかしら?」

 

「……まぁ、ある意味では直接の被害者だものな」

 

「ある意味も何も、普通に被害者よ」

 

 平塚先生が言うに。

 なんでも、警察より更に上から圧力が掛かり、事件と学校行事なんかとを関連づけられなくなっているのだとか。だからプロムには影響しない。……と言えば良く聞こえるが、しかしそれが保護者会にも通じるわけもない。

 保護者からのクレームは、職員室が機能停止するほどに多いらしく。臨時休校こそ、例の圧力のおかげで出来ないものの、欠席に関してはどんな理由だろうと公欠扱いになるのだとか。

 他にも色々と支障をきたしており、学校側も下手な行動が取れないという。

 

「……まぁ、そっちはとりあえず事件が終息すれば収まるのよね」

 

「そうなんだが、それこそ噂を根絶する以外に方法は無くないか?」

 

「そーね」

 

 私がヤリマンビッチだという噂が完全に消滅すれば、事件は、というか襲撃は起きなくなる。私が自衛をする必要もなくなる。

 

 あくまでも、噂を消すことができればの話で、それはコップの中から水を、水蒸気も含めて無くすようなことで、それはそれは面倒極まりないことだけど。

 

「噂を消すのは面倒だけど、なら上書きすればいいんじゃないかしら」

 

「ほう? 確かに理論的にはそうなるが、しかしあの妙な噂を上書きできるものか?」

 

 まぁ、突拍子も無いことを言いふらしたところでそんなのは焼石に水。――だけど、冷え切った水を一気に、大量にかけてやれば、石も冷める。馬鹿の目も覚めるというもの。

 

「ちょうどいい噂があるじゃない。――私のレズ疑惑」

 

「……まだ突っ込まんぞ。詳しく聞くだけ聞いてやろう」

 

 私がレズビアンだという噂は、文化祭あたりで若干出回った些細なもの。まぁ所詮は噂で、私の整形疑惑に押し負けて殆ど消滅してるも同然だけれど、でも根も葉もない噂というわけでも無かった。

 

「明日、全校集会を開きましょう。三年生もなるべく出席してもらって。……そこで、私が告白するわ」

 

「……そういえば、バイセクシャルだと言っていたな。それをわざわざ言って、それで収まるものか?」

 

「違うわ。だから、告白するのよ。私は平塚先生を愛していっ」

 

「やめんか!」

 

 話し切る前に、拳骨で強引に口を閉ざされた。

 

「やめろ、私がクビになるじゃないか」

 

「いいじゃない。その時は私が養うわよ、静」

 

「やめろ! そして名前で呼ぶな! ……その、なんだ。こっちまでその気になってくる」

 

「これくらいでその気になってくれるのなら、もう少し押せば落とせそうね」

 

「生憎と、その言葉のおかげで私の難攻不落は保たれそうだ」

 

 本気で安堵したような顔をしながら、タバコに火を付けた。タバコの中でもきつめの臭いが、私の鼻腔を擽る。

 

「……なら、告白しても平気よね?」

 

「っげはっ、げほっ……。な、な、なんだと?」

 

 今度は閉ざされないように、タバコを吸っている間に言うと、平塚先生は咳き込んで私に煙を浴びせた

 

「だから、難攻不落だと言うのなら、私が告白しても平気でしょう? ……別に、振ったっていいのよ。怒ったりしない」

 

「いや、……君はほら、泣くだろ」

 

「泣かれるのが嫌だから付き合うとか、そっちの方が嫌。そんなんだからいつまで経っても結婚できないのよ」

 

「なにぃ!?」

 

「それどころか、私に気を遣ってかまともな婚活も最近は出来ていないみたいじゃない」

 

「…………なぜ私の婚活事情を把握しているんだ」

 

 訝しむ目で私を見ているけれど、そんな目を向けられる筋合いは私には無い。……多分。

 

「毎日のように私の小説に感想をくれているじゃない。毎回結構な量を読んでから書いてるみたいだし、仕事と読書時間を差し引けば、まともに婚活なんてしている暇はないはずよ」

 

「……匿名で送っているはずなんだがな」

 

「メールと文面が一緒。あれを男にもやっているのなら、普通に引かれるわよ」

 

「……マジ?」

 

「超マジ。私じゃ無かったら愛想尽かされても仕方ないわね」

 

 平塚先生のメールはなんと言うか、こう、重たいと言うか、メンヘラ臭い。ある意味じゃ、雪ノ下以上の『面倒な女』属性だった。

 

「……ちょっと、コーヒー買ってくる」

 

「なら私も生徒会室に向かうわ。明日には全校集会を開いておきたいし、プロムもどうにかしなきゃ」

 

 無視したのか、聞こえていないのか。私が話している途中でもう平塚先生は財布を持たずに職員室を飛び出していってしまった。

 

「……やっぱ、失恋とかクソだわ。人魚姫マジ尊敬する」

 

 


 

 問い。

 あなたは思い人の幸せのためなら、海の泡になれますか?

 ならない場合、あなたは思い人を殺さなくてはならず、殺さなかった場合、思い人は幸せになれます。

 

 模範解答。――はい。愛しい人のために、喜んで犠牲になりましょう。

 

 私の答え。――絶対やだ。私が結婚したい。死にたくないし、殺したくも無い。バッドエンドとか糞食らえ。

 


 

 

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