いつも読んでくれてありがとう。年内最後の投稿になります。
今年は色々と大変な年でした。来年はより良い一年になると良いですね。
今回はこれまでにも増して「こんくらいええやろ」な感覚で書かれてますので
御注意ください。
閃光。
視界を覆い尽くす、白の奔流。
「くぁ……なっ……」
あまりの眩さに、轟は
バキリと、氷の砕ける音。
こじ開けた瞼の隙間から、焦点の合わない瞳をどうにか音のする方へ向けた轟は、逆光の中
を自らに向かって迫り来る黒い影を見た。
そして息が詰まりそうなほどの衝撃が彼の
へと包み込まれていくのだった。
■
赤い手甲が、磨り潰した焼き菓子のように崩れて、宙に霧散していく。
「…………っ」
「ふぅっ……、ふー……。……轟さん、確保――ですわね」
凍結によって足場の悪い中を全力で疾走し、3階に駆け付けてきた八百万。乱れた息を整え
て、確保テープを取り出した。
彼女が迷い無く此の場まで来ることができたのは、戦闘音の他に、歌満地がつけていた足跡
という目印もあったからだ。
「ふぅ…………あの、歌満地さん?その、何も気絶させる必要は無かったのでは?」
「……うん、まあ。いつ“左”を使ってくるかとずっと警戒してたら、つい力が、ね」
「“左”……?」
「や、こっちの、話、さ…………」
「しかし、何と言いますか。こんなに順調に事が運ぶだなんて……――歌満地さん?」
直後、ガクリと膝を落とした歌満地に、八百万は思わずぎょっとした。
「ど、どうなさいましたの!?」
「だいじょぶ……、大丈夫。 単なる貧血と冷えのダブルパンチさ、問題ない……」
「それは大丈夫とは言いません!」
慌ててホッカイロを創造し出す八百万を、そんな時間は無いと歌満地は手で制す。
その指先は、震えている。轟と障子との戦闘で体外に放出した血液は、冷気によって温度が下
がってしまったため、体内に回収できる分もほとんど戻せなかったが為だ。
――血液を通常の温度まで戻して回収……となると、けっこう消耗するからなぁ。
――チョーカー着けてる制限モードじゃ、この冷気は正直キツい。
――キツかった。
「残り時間はもう半分――回復している余裕は無いよ。すぐ、上に向かおう」
「……はぁ、分かりましたわ。一先ず、峰田さんに連絡を取りましょう。あちらも首尾よく進ん
でいると良いのですけど……――峰田さん、聴こえまして?そちらの状況は?」
『………………』
「……? 峰田さん?」
『――ふふっ。聴こえてますよぉ、も・も・ちゃん?』
「!!??」
『峰田くんはぁ、今ちょぉっと、お口が利けないのでぇ……。代わりにトガと――お話し、しま
しょう?』
「と、渡我さん……!?」
『はい♪トガはトガですよぉ。今は
(な……なんで……?何が、どういうことですの……!?)
あまりのことに驚き、混乱で二の句が継げない。無線から聴こえてきたのは峰田の声で無く、
渡我の声だという事態……そして、その声が自分の知る渡我のものとは、まるで違っていること
に、八百万はひどく狼狽してしまった。
モニタールームで談笑した時の、他者を気遣える優しさなど微塵も感じ取れない――粘り付く
ような敵意に満ちた声音に、彼女の心はじわじわと落ち着きを失っていく。
『どうしましたぁ?お話ししたくないんですかぁ?まぁ、それならそれでもいいんですよ?
「……ッ!?」
未だ思考の定まらない状態であれど、渡我の言葉に、八百万はようやく状況を飲み込む。峰田
は、渡我に捕まったのだと。そして人質にされているのだと。
『ん~、この言い方はちょっと、ベタ過ぎましたね、フフッ。あ、先に言っておきますけど先生
の許可は取ってますよ、一応』
「なにをっ…………何を仰ってますの?」
『轟くんと障子くん、捕まえたんですよね? ――取り替えっこ、しましょう?』
――捕虜の交換……!
そう来たか、と、八百万は歯噛みする。
確かに、オールマイトから提示されたルールでは、ヒーロー側・ヴィラン側ともに、「相手を
全員捕まえれば勝ち」ではあるが「
つまり、“その場にいない者として扱うか否か”の判断は演習参加者に
ヒーローチームが勝利条件を達成するまでは、轟と障子は「一時的な拘束下にある」状態なだ
けで、状況自体にはまだ干渉し得るのだ。
――とは言え、現行犯なら話は別なのですから、既に法的には逮捕されていて……
――それに明示された状況設定を
と想定するのが自然では……
――そもそも、どうして渡我さんは人質交換だなんて……
――演習終了まで、時間を稼ぐため?
――そう、そうですわ、これは演習……
『も~もちゃぁん?ちょっと考え過ぎじゃあないですかぁ?』
こちらの心境を見透かしているかのような渡我の台詞に、八百万の背すじに
『時間稼ぎだなんて、つまんない理由じゃあないですよ。だから峰田くん盾にして逃げたり、降
参してくださいとかもしません』
「つ、つまら、ない?」
『本当は轟くんに代わりに伝えてもらう積もりだったんですけれど、返事が無いんですもん。灯
志くんに負けて、自失でもしてます?』
『フフッ。自分の口で、自分をチップに、“
ないけど”、だなんて……言わされちゃったら、きっと悔しいでしょう?ねぇ?』
『あーぁ。そっちの方が、もっと面白かったのになぁ』
理解できない。八百万は、理解できなかった。
渡我と轟の間に何かあったのか、何があったのか、あるいは別に何も無いのか。八百万には分
からなかった。渡我が本心から発言しているのか、それとも、あくまでも敵としての演技なのか
も分からなかった。八百万には何も分からなかった。
『ま、別にいいんですけどね?あー、敵っぽく言うと、こうです――“役立たずに用は無いです。
せめて最後に私の役に立って死になさい”、って感じですかね』
「何を言って……どういう意味ですのっ」
『
抱えてここまで来るか、来ないか。でないと――フフフ、どうなっちゃうのかなぁ?自分でも分
かりませんよぉ?フフッ、フフフ…………』
ただ、“恐ろしい”と。“近寄りたくない”と。自分は恐怖と嫌悪を感じているのだと、それ
だけは否応なく、はっきり知覚した。
これは演習だ、渡我は演技をしているのだ――八百万は胸の内で何度も、そう自らに言い聞か
せるのだった。
⇔
「早く来てくださいねぇ」、と言い残して、渡我さんは通信を切った……そうだ。
「……八百万さん。ここは要求を飲むしかない」
「歌満地さん……。ですが、その……」
「峰田くんを盾にしないのは、仮想核を取られたら終わりだから、どっちも抱えて対処するとい
うことは彼女に出来ない。二人を連れて来いと言うのは、裏をかかれないよう、目に見える保証
を、と言ってるのさ」
そして、八百万さんから聞かされた渡我さんの発言から推察するに、多分、
無能な部下の粛清……とでも言うのか、そういうロールプレイだな?これも多分、映画の影響
かな。
「渡我さんは、隠すことはするけど嘘はつかない人だ。基本的にはね。今は敵に“なりきってる”
けど――言ってることは大体本当だと思った方が良い」
「――――――」
つまり、俺たちはこれから、轟くんたちを守りながら、峰田くんを奪還しつつ、核か渡我さん
を確保しないといけない訳だ。
差し当たっての問題は、残り時間がそろそろ6分ってこと。
渡我さんはまだ俺の『奏血』をフルで使えるはずだから、最低2分未満で轟くんと障子くんを
運びながら上に辿り着かないといけない。
「階段は氷で塞がれてるし…………。仕方ない、ぶち抜くか」
「はい?」
俺の言葉にきょとんとした八百万さんは、次いで俺が創り出した
「ちょ、ちょっと歌満地さん!?まさかそれは!」
「八百万さん、ちょっと離れてて」
「お待ちになって!大規模な破壊行為は――」
「だいじょぶ、大丈夫。竜巻とか出さないって。 このまま真上にカッ飛ぶだけだから」
「それは大丈夫ではありませんッ!」
当然のように八百万さんに抗議されるが、俺は構わず右腕で
に向ける。だって時間が無いからね、仕方ないね。それにこの廃ビルの見取り図はちゃんと頭に
入っているから、このまま進んでも問題ない。
俺は左の手首から血糸を射出し、八百万さんたちに巻き付ける。
「ごめん、ちょっと揺れるよっ!」
「なっ、待――きゃああぁぁっ!?」
唸りを上げて右回転する戦槍を突き出しながら、『
のように縮めて、頭上へと跳び上がった。
後方へと流れる風が進む力をアシストする。
槍はドリルのようにコンクリートを砕き、鉄骨を捩じ切って、俺たちは一気に上へ!
〈CRAAAAASH!!〉
破片と粉塵を散らしながら5階に飛び込んだ俺の目に映ったのは、もう一人の俺――『変身』
した渡我さんの姿だった。
「敢えて言おう――俺が来たぞ、
「あはァッ……――待ってましたよ、
⇔
直ぐに来てくれた!うれしい!
しかもノッてくれるんですね!うれしい!
私の前に立った灯志くんは、左腕を思いっきり振り上げて――ああ、そんな運び方を。
ダメですよ灯志くん、女の子にはもっと優しくしなきゃ。百ちゃん、ふらふらじゃないで
すか。
「うぅっ、こ、こんな、粗雑な扱いを……――え? う、歌満地さんが2人!?」
「さあ、君の仲間は連れて来た。こちらの仲間の無事を確認させてもらおう」
百ちゃんたちをゆっくり床に降ろして、そう言ってくる灯志くん。……顔が青いし、誤魔
化しているけど息も上がってる。ふぅん?轟くんたち、思ったよりも削ってくれたみたいで
すね。これなら――
「心配しなくても、無事ですよぉ。丁重に……は、もてなしてないですけどね」
くいっと、左の手首から出してる血のロープを見せつけます。この先に峰田くんを縛って
るんですけど……。
「んむむーー!!むぐぅうぐむむーー!!」
あ、灯志くんたちが来たのに気付いたみたいですね。
「窓の外から峰田くんの声が、……まさか!?」
「はい!絶賛、ミノムシのように揺れています!」
そう、峰田くんを縛ってるロープは、私の手元から窓へ伸び、窓枠に幾らか巻き付いて、
お外に垂らされているのです。
「――止めるんだ渡我さん。君、残り時間もう無いだろ、俺になってたなら」
「やー、です。今のトガはヴィランなので。好きに、好きなだけ――ヤるのですっ!」
後ろ手に隠していた右手に3枚、手裏剣を作って、投げる。狙いは背後の三人。
けど、全て灯志くんに槍で弾かれます。だから、その間に一気に距離を詰めました。
槍のリーチは危ないけど、密着しちゃえば思いっきり振れません。他の武器に作り直す暇
を与えないよう、至近距離で攻め立てるのです。
「あはっ、どうしましたぁ?震えてますよ、灯志くんっ!」
「く……っ。階段を上ったら、雪国だったもんでねっ! 盾を創るんだ、八百万さん!身を
守ってくれ!」
「……! で、でしたら、峰田さんを私が――きゃっ!?」
百ちゃんが灯志くんの後方から動こうとしたので、左手に手裏剣を作り、手首のスナップ
で素早く、進行方向に投げて
うにします。
「ダメですよ百ちゃんっ。ロープ切れたら、峰田くん落ちますか、らっ!」
「~~~~ッ! (そんな……本当に、生殺与奪を、握っていると……貴女は、そう言いま
すの!?渡我さん!)」
灯志くんの血の槍と、私の血のナイフがぶつかり合って、まるでどっちも金属でできてい
るみたいに、甲高い音が部屋いっぱいに何度も響きます。時々左手に
クナイみたいな武器――を作って、百ちゃんたちの方に投げるけど、灯志くんに受け止めら
れて、叩き落とされて、一つも届きません。
たった1分くらいのやり取りだけど、それでも私の血がぐぐっと減っていくのが分かりま
す。ぞわぞわして、寒くて熱くて、頭の奥の方から叫んでる!「危ないよ」って!
「あはは!楽しいね灯志くん!楽しいねぇ!」
「そんな青い顔してよくも言う!」
「灯志くんもですよ、青いのは!」
「いい加減にするんだ!このままじゃ変身が解けて、峰田くんが落ちる!」
「ヒーローでしょう!?止めてくださいよ、だったら!そういうの!」
とは言ってみたものの!失血するペースが思ったより早いですね!時間ギリギリまで引き
延ばすのは、やっぱり無理がありましたか。
しょうがない、そろそろ最後の“良からぬこと”を始めましょうか。
⇔
――蚊帳の外……ですわね……。
片や辛そうに、片や楽しげに――同じ容姿でありながら対照的な二人は、何度も己の得物を
ぶつけ合い、その度に火花が散る。
槍を細かく振るい、相手の攻撃を防ぎながら背後の三人を庇い続ける歌満地(本物)。轟・
障子との戦闘で消耗した彼の肉体は、明らかに動きに精彩を欠いている。その歯を食いしばっ
た、苦々しい表情は蒼ざめている。
もう一方の歌満地(渡我)は右手のナイフで間断無く攻めたてながら、左手に暗器を創って
は歌満地たちへと無造作に投げつけることを繰り返しているが、狂気的な笑みを浮かべる顔は
徐々に血の気を失くし、流れる汗の量も増すばかりだ。
二人の動きは、加速度的に鈍くなっていく。しかし、それでも尚その速度は、とても自分が
割って入れるようなものでは無い――目の前で繰り広げられる、同じ顔をした者同士の戦いを
ただ観ているばかりの自分に、その現状に八百万は下唇を軽く噛んだ。
――今、この状況で……私に、何ができるのでしょう?
――……いいえ、いいえ!
――ここで弱気になってはいけない!
――考えなさい、考えなくては!
とはいえ、少しでも歌満地(本人)の守備範囲外に移動しようとすれば、即座に渡我から刃
が飛んでくる。これでは峰田を救出することも、核兵器を探しに行くこともできない。
尤も、余裕が無いのだろう、渡我の
あり、多少切り傷を受けるかもしれないが、突破することは余裕で可能ではある。
しかし、渡我の手に峰田を地上5階に宙吊っている縄が握られている限り、下手に動けば演
習どころでは無い惨事となってしまう。
――…………本当に?
――これは、演習、演習ですのよ?
八百万は思った。いくらなんでも、本当にそんなことはしないだろう、と。これはあくまで
も訓練――ヒーローになる為の学びの機会なのだ。
に追いやるような真似を、仕出かすわけが無い、と。
頭では、理性では、そうだとはっきり解っている。なのに。
無線での会話、今、彼(彼女)が浮かべている凄絶な笑みが、コールタールのようにへばり
付いて、八百万の判断を引き延ばし続ける。
彼女の心に、恐怖が、紙面に落とされた墨のように滲んでいく。
――……認めましょう。
――ええ、認めざるを得ませんわ。
――私は……渡我さん――貴女が怖い!
――恐ろしい、理解できないと……そう感じてしまっている!
思わず、耐えられず、八百万は闘う二人から顔を
鳴らない呻きが押し出される。
――今の貴女は、まるで、本当に本物のヴィランの様……。
――それがとても怖い……。
――何より、
――級友に、共にヒーローを志す方に、こんな気持ちを抱くだなんて……!
――今、この状況に、何も成せずにいる自分が恥ずかしい……!
――渡我さん……貴女は、何を思って、こんな――
――?
八百万はふと気付く。逸らした視線の先、そこに何かが落ちている。
その時、一際大きく音を立てて歌満地とぶつかり合った渡我が、弾かれる勢いを利用して後
方へと跳び退った。
「はっ、はぁっ、ハァ…………ッ。……ここまで、ですねぇ」
血のナイフを床へと落とし、両手を上げ出した渡我に、歌満地は疑念の、八百万は困惑の目
をそれぞれ向ける。
「これはもう、勝てませんね。流石です、ヒーロー」
「……もうやめよう、渡我さん。降参して、早く峰田くんを引っぱり揚げるんだ」
降伏を促しつつも、歌満地は依然油断なく構える。
――ここまでしておいて、あっさり終わる渡我さんじゃあない。
そんな歌満地に、なお荒い息のまま、渡我はニタリと笑ってみせる。
「もう勝てない、けど――そういう時、
「!!」
渡我は、意地の悪そうな上向けた語尾で言い放ち、更に後ろまで跳躍した。それを見て、歌
満地は目付きを鋭くして渡我を睨む。
「ダメだッ!冗談じゃ済まないぞ、渡我さん!」
「冗談なんかじゃないですよ、灯志くん」
左腕を頭上に掲げながら
だ。その、歌満地と同じ貌の輪郭が、揺らぎ始める――『変身』が解除される兆候だ。
「ダメだ……、度が過ぎてる!本当に、本当に俺は怒るぞ、渡我さんッ!!」
「……ふーん、そう。そうですか」
険しい顔で叫ぶ歌満地を、渡我は欠伸をする猫のような動きで覗き込む。
その何処か寂しげな顔が、どろりと溶けた。
「――信じてくれないんだ」
元の姿に戻っていく渡我の手首から、血の縄がプツリと切れて消えていく。
それよりも早く、歌満地は槍を放り捨てて走り出す。
「それとこれとはッッ!!」
渡我の横を通り抜け、窓際へと駆け寄る歌満地。それを横目で見て、渡我は――彼女にして
は珍しい――片方の口角のみをニッと吊り上げる、不敵な笑みを浮かべた。
その様を目撃した八百万の脳裏に、閃くものがあった。
『時間稼ぎだなんて、つまんない理由じゃあ』 『ヒーローなら、仲間も、敵も、見捨てたりしませんよね?』
『渡我さんは、隠すことはするけど嘘はつかない』 『心配しなくても、無事ですよぉ』 『ロープ切れたら、
峰田くん落ちます』 『ヒーローでしょう!?止めてくださいよ』 『――信じてくれないんだ』
――そして、床に落ちている、あれは……
八百万が再び視線を向けた先……そこに落ちているもの――
「――!いけません歌満地さん! 罠ですわッ!!」
八百万が叫ぶのと、歌満地が外へと飛び出す勢いで窓枠から身を乗り出したのは、ほぼ同時
であった。
「峰田くんっ、今――た、す……助けっ……………。 え?」
即座に『
るぐる巻きにされ、声も出ぬまま絶叫する峰田ミノムシの姿。
しかし、彼は4階の天井より、少し下くらいの高さで
落下――していない。
彼を吊るすロープはぴんと張っていて、その長さは、少しも変化しない。
巻き付いていた血のロープは消えていく――
「ま、さか……」
「そのまさかですよぉ」 〈KICK〉
その言葉と共に、歌満地の
綺麗に中段に蹴り抜いた姿勢を維持したまま、渡我は拗ねた感じで呟いた。
「灯志くんのばーか」
対して、落下していく歌満地は叫んだ。
「ああぁあぁごめん渡我さんでも馬鹿ぁぁああぁあぁぁぁッッ!!」
両腕からビルの壁面に『
そのまま振り子のように、2階へとガラスをブチ破って消えていった。渡我はその様子を見届
けて、室内へと向き直る。変身時と同じく、青いままの顔は疲れ切っているように見えるが、
それでも彼女は笑っている。
実に、達成感に満ちた笑顔だった。
「――さてと。これでもう、残るはトガたちだけですねぇ、百ちゃん」
「……そう……ですわね」
「で、
会話をしながら、八百万は二の腕から鉄の棒を引き抜くように創造し、渡我は無手のまま、
ふらつく身体を構えた。
「残り2分足らず……もう少しだけ、付き合ってもらいます」
「……私、貴女という人を誤解していましたわ」
「?」
鉄棒を握り締め、八百万は渡我を呆れと怒り――そこに一摘まみの安堵を添えた――の混ざ
った視線で
「歌満地さんの仰った通り、貴女は度が過ぎています。――お灸を据えて差し上げますわ!」
■
「はい、お疲れ様!六人とも、よく頑張った! ……で、何か弁明はあるかな?渡我少女」
「無いです!灯志くんに勝てて楽しかったです!」
「ワーオ、いっそ清々しいまでの開き直り」
演習は終わった。俺が落下した後、八百万さんは時間制限ギリギリまで渡我さんに粘られ、
何とか隣の部屋に駆け込むもそこでタイムアップ。ヴィランチームの勝利となった。
参加者6名中、3名が失神、1名行動不能、2名疲労困憊……まぁ、ハッキリ言って1戦目
と同じくらいの惨状だな。
うん、2階に突っ込んだ後ね、頭打って気絶してました。俺。
本当にもう、渡我さんは……。本当に、もう。
「私が“構わないよ”って言ったのは、捕まえたヒーローチームの人員を人質として扱うってぇ
アイデアだけでさ――あんな危ない真似まで許可した覚えは無いぞ!それと峰田少年を捕まえ
た後、インカム捨てただろう!まったく……減点じゃあ済まないからね!後でしっかり反省文
を書いて提出してもらう!」
「爆豪くんがあれで止められなかったのでイケると思いました、反省はしてます」
「ぐふっ」
オールマイトが微妙に痛いとこ突かれちゃってむせてる。ていうか、気付かなかったけど自
分の小型無線を外していたのか渡我さん。反省してるとか言ってるけど、確信犯だぞ絶対。
しかしまさか、八百万さんが峰田くんに渡した命綱を利用するとは。
命綱を血液で覆い、窓枠に結んだ部分から手元まで血のロープを伸ばすことで、峰田くんを
吊るしているのは、その全てが『奏血』で創ったロープなのだと思わせる、なんて策を仕掛け
てくるなんて……。
本当に“してやられた”ってヤツだ。完全に騙された。
言い訳がましく聞こえるかもしれないが、一応言わせてもらう。俺は渡我さんが、本当に峰
田くんを死なせるつもりだったとは思っていなかった。ただ、彼女は「俺が必ず助ける」と、
そういう理由で実行しているのだと――
そんな浅ましい、
敵味方に分かれて勝負しているという状況の上では、その読みは間違っていなかったと言える。
しかし、俺が渡我さん個人のことをもっと信じていたなら、ブラフだと見抜けたはずだ。
穴があったら入りたい。むしろ穴掘って埋まりたい。
俺って、本当に最低だ。思い上がりも甚だしい。
「ま、まあ、しかし、両チームとも、ナイスプレーだった!互いに二手、三手先を読んだ作戦
を立てて、きちんと実行できていた!ただ、その分、想定外の出来事への対処がちょっとばか
し甘かったかな? 実際の敵退治の現場では、不測の事態など起こって当たり前。変化する状
況への即応力もまた、プロヒーローにとって重要な能力!これを身に付けるには予測だけでな
く、経験を重ねることが大切だ。今日のことも、次の機会に活かせるように各自しっかりと反
省しておこうな!」
「「「「……はい」」」」「はい」「はぁい」
俺も含めて雰囲気が暗い。ちゃんと返事できてるの障子くんだけじゃないか。
「(結局、まともに活躍できたのは轟さんを行動不能にする際のみ……)」
「(……歌満地には敗けた。渡我にはいいようにされた。……クソッ)」
「(轟の策に任せるばかりだったな。もっと意見を出したり、主体的に動くべきだった)」
「渡我怖い、歌満地怖い、渡我怖い、歌満地怖い…………」
うん、みんな大なり小なり精神的ダメージを受けてる。渡我さんも……いつものようにニコ
ニコしてるけど……実際はどうだろうな。
『――信じてくれないんだ』
………………。
後で、ちゃんと謝ろう。
⇔
「それより今はチウチウさせてください、辛抱溜まんないです。 勿論、謝罪は後でまた別
に、たっぷりと聴かせてもらいますからね」
「・・・・・。君って人は……」
「なんですか?
「……いぃや……何でも無いです……」
⇔
「わりぃな、時間取らせて……、……大丈夫か?顔がまだ青いが……」
「だいじょぶ、大丈夫……。ちょっと吸わ……使い過ぎただけだから」
「?」
授業の後、秒で着替えて渡我さんと合流した俺は、物陰で思いっきり血を
「帰ったらもっとさせてくださいね。それで許してあげます」と、プンスカふくれっ面で言
われてしまっては、男の俺は反論のしようも無い。
おかげで今の俺は、大変に血が足りない。教室に戻る道すがら、待ち構えていたらしい轟く
んに心配される始末である。
「むぐ……。で、話って何かな……?」 造血剤を飲み込みながら轟くんに訊ねる。
「……まぁ、大丈夫ならいいんだが。先に一つ、確認させてくれ……お前、俺の“左側”を警戒
してたろ。――知ってたのか?」
あー。それか。確かに、昨日今日と一度も使ってないもんね――左の、炎。一度も会ったこ
との無い人間が、見せたことも無い自分の“個性”の性質を把握していたら、そりゃあ疑念を抱
くのも無理はないか。
「……それは、あー……、君のお父さんから。ちょっと話す機会があって、その時に、まぁ、
自慢されたというか……」
「……っ、そうか。なら単刀直入に訊く。歌満地、お前、奴と何があった?」
「・・・・・えーっと。何故いきなりそんなことを?」
「アイツがお前のこと、あー……“カラオケ小僧”って、呼んでた。今年の首席だと。そんで、
何時くらいからだったかは忘れたが、時々、戦場で歌がどうとか子供がどうとか、ぶつくさ言
うようになった。すげぇイラついた顔で」
Uh-Oh。
「戦場っつうのは、多分ヒーロー活動の
えることしか頭に無い男だ。そんな奴が、俺に名指しで“こいつに勝て”と言ってきた――だか
ら、お前の個性のことを知って、ほぼ確信した。お前と、奴が愚痴ってた小僧共ってのは、同
一人物なんじゃねえか、と。……そういや複数形だったな?渡我も含んでんのか……?」
なにしてくれてんだあのチョビ火ゲ!!
そういやそんな素敵なニックネームで呼んでくれてましたねぇ!(皮肉)
二課及びシンフォギアの情報は守秘義務があるんですが!?俺が二課のエージェントでノイ
ズと戦ってることも一応含まれてるんですけど!実の息子だからって話したんか!?
いや待て、落ち着け。聞く限り、エンデヴァーの独り言を耳にしたのが切っ掛け、というこ
とみたいだから、この場合、轟くんの推理力が高かったってことなのかなぁ。
どうしてこのクラスは頭の回転の良い人が多いんだ。
そして、どっちにしたってアウトなんだわ!二課とシンフォギアの存在は知らないみたいだ
からまだいいけど、俺のことは完全に誤魔化せないじゃないか!渡我さんまでとばっちり受け
てるし!
「まあ、そういう訳で……どうしても、気になっちまってな。奴に目を付けられるなんて……
歌満地、お前、一体何をやらかしたんだ?」
「何で俺に非があるみたいな言い方なの!?」
「いや、奴はクズだが、腐ってもNo.2ヒーローだからな……だからヒーローとして関わった
んだろう、と考えたら……こう、後ろめたいようなことがあったんじゃねぇかと」
「まぁ……確かに自分の父親が、自分と友人でも級友でも無い学生と交流があるとか、経緯が
ちょっと想像し辛くはあるけども。色んな意味で」
「歌満地、俺は――お前が過去にどんな間違いを犯したんだとしても、責めたり、言いふらし
たりはしねぇ。奴がお前に目を付けた理由を知りてぇ――
のかもしれねぇけど……頼む、話してくれ」
「人が
うわー、そんな真剣な目で見られても困るよ轟くん。
…………どうしよう、これ。
俺は思わず頭を抱えるのだった。
オリ主VSトガちゃんROUND2、結果はトガちゃんの勝ちでした。
正面切ってガチンコでは勝てないので心理戦、見破られてもそれはそれで個人的に嬉しい、どっちに転んでも美味しい……原作からしてトガちゃんは頭脳派な戦い方だと思ってるので、こういう展開になりました。
しかし何やらオリ主との関係が雲行き怪しい感じ。そして何やら勘違いしかけてる轟くんに問い詰められてしまうオリ主。どっちもうまく切り抜けることができるかな?
ちょこっと用語解説:
☆プロヒーローと警察と逮捕権:
現実の日本の法制度では、逮捕状無しで逮捕できるのは「現行犯」と「緊急逮捕」の二通り。この内、警察官では無い人が逮捕――つまりは力づくで他人を拘束することが認められているのは、現行犯の場合のみです。
『ヒロアカ』世界では、インターン編で家宅捜索のために令状取ってるので、あの世界でも同様に逮捕状は必要なはず。作中でプロヒーローは「緊急時には警察や消防が来るまでその代行を務められる」とされているけど、ヒーローが対応する事件は個性犯罪――その大半が現行犯か、即時に対応する必要があるものに限られてくる。
なので、代行を務める際でも、裁判所に逮捕状を請求する権利までは発生しない……と解釈してます。そこまでの権限持たせちゃうと警察の形骸化、ヒーローの職権濫用の危険を招いちゃいますしね。
☆階段を上ったら雪国:
川端康成の小説『雪国』の冒頭の一節「国境の長いトンネルを抜けると、そこは雪国だった。」より。雪国って言うか、氷の国だけど。
☆鏢:
中国の投擲武器の一種で、日本でいう手裏剣に当たるもの。クナイ、あるいは鏃に似た形状をしていて飾り布がついてるのが一般的。縄を付けて鎖鎌のように扱う『縄鏢』と言う武器もある。イメージしにくい人は『鋼の錬金術師』とか『うしおととら』『マギ』『バキ』とかで使い手がいるので読んでみて。
☆蚊帳の外:
無視され、不利な扱いを受けること。また、物事に関与できない位置に置かれること。
☆コールタール:
石炭を乾留したとき生成される茶褐色又は黒色の液状物質。かつては線路の枕木、木製の電柱等の木材に防腐剤として使われていた。発がん性が見つかってからは使われなくなってきている。ちなみに乾留とは「固形の有機物を密閉空間で高温で溶かして空気に溶ける物質と溶けない物質に分離すること」。
☆慙愧:
自分の見苦しさや過ちを反省して、心に深く恥じること。
☆Uh-Oh:
「おおっと」とか「うーわっ」とか、英語で驚いた時やちょっとした失敗を起こした時に発する表現。ちょっとわざとらしい言い方なのでネイティブの方はあまり使わないらしい。