切りのいいとこまで。
「急で悪いが、学級委員長を決めてもらう」
「「「学校ぽいのキターーー!!」」」
相澤先生の発言にみんな一斉ににぎやかになる。初日みたいに、また臨時テストでもするの
かと身構えていた反動だろう。
学級委員長――それは、ヒーロー科に在籍している身としては是非とも経験したい役どころ
だ。集団を導くトップヒーローとしての素地を鍛える機会が多くなるから。
我先にと争うように、誰もが「自分がなりたい」と挙手していく。勿論、僕も……まぁ、そ
の、控えめな感じに……。
「静粛にしたまえ!!!」
!?
「この職務は多を
固たる信頼!ならばここは民主主義に
ひときわ大きな声でそう提言したのは飯田くんだった。
うーん、本当にまじめだなぁ。でも……
「「「そびえ立ってんじゃねーか!!何故発案した!?」」」
その天高く掲げられた右手のせいで台無しだよ……。
周囲から、まだ知り合って間もないのだから皆自分自身に投票すると異議を唱えられるも、
だからこそ複数票を取った者がふさわしいと主張する飯田くん。相澤先生は「何でもいいから
早く決めろ」とだけ言って寝袋に収まってしまった。プロはいつどこでも睡眠を取れるように
ならなくてはいけないのだろうか。
「……や、投票は別にいいんだけどさぁ、飯田」
「む?何だろうか、耳郎君」
「
耳郎さんの指摘に「しまった!」と額をぴしゃりと叩く飯田くん。
そう、渡我さんは今日お休みしている。“個性”の多用に伴う体調不良だと、歌満地くんから
説明された。彼自身も少し元気が無さそうだったけど、彼の血液操作の“個性”の方が理由なの
かも知れない?
「……あー、気にしなくていいと思うよ。渡我さん、委員長とか然して興味無いだろうし」
「いや、しかしそれでは公平性を欠く!」
「むしろ勝手に選出されたら嫌がるよ、彼女は。候補から外すか、彼女に入った分は無効票と
いうことでどうだろう。でないと時間内に決まらないぞ」
「むむむ…………ならば渡我君自身の票はどうする!?」
「ニシシ、渡我だったら絶対歌満地に入れるんじゃない?ねぇ~、歌満地?」
「そうだね」
「いや否定せえへんのかーい」
さ……、サラッと認めた!?渡我さんが自分に投票するって確信してるのか……!?な、な
んか、こう……すごい!昨日一昨日のことと云い、二人してすごくすごい……!
「…………。でも俺は辞退するから、どちらにしろ影響は無いよ」
「辞退するだと?それはまた何故だ歌満地君。君であれば 「家の事で忙しい、以上」 う、
うむ……。家庭の事情であれば致し方無いか」
けれど、気のせいだろうか?歌満地くん、渡我さんの名前が出てから顔色が変わった、よう
に見えたんだけど……。話し方も、微妙に
冷静なように振る舞っているけれど――心配、なんだろうな。きっと。
他にこれといった意見も無かったので、投票は手早く行われた。その結果――
「ままま、マジで、マジでか……!」
何で僕に3票も入ってるのォ!?
「なんでデクに……!誰が……!」
「オメーに入るよか分かるけどな!」
「緑谷なんだかんだアツいしな!」
「バカな……1票…!? いったい誰が……?」
「飯田オメー別のやつに入れたのかよ……」
「自分で提案したクセに何がしてえんだよ……」
「そんじゃあ委員長は緑谷、副委員長は八百万ってことで。ハイHR終了」
マ…………マジでかぁ……!
■
――昼、食堂にて。
俺、緑谷くん、麗日さん、飯田くんの4人で昼食を取る運びとなった。
本当は一人で食べたい気分だったのだが……、折角声を掛けてくれたのだから、これを無下
に断ることはできない。
「不安だ……僕に務まるかな……」
「務まる!」 「その内に慣れるよ」
「二人の言う通り、大丈夫さ! 緑谷君のここぞという時の胆力や判断力は、他を牽引するに
値する……だから君に投票したんだ」
「でも、飯田くんも委員長やりたかったんじゃないの?メガネだし!」
眼鏡は関係ないんじゃないかな麗日さん。それっぽいと言えばそうだが。
「“やりたい”と、相応しいか否かは別の話。僕は僕の『正しい』と思える判断をしたまでだ」
「「「
飯田くんの一人称の変化に、3人異口同音に問う。
「ちょっと思ってたけど、飯田君て……坊ちゃん?」
「ぼっ……!?」
(何気にザックリいくよな麗日さん……!)
(おべんと付いてるよ麗日さん)
ズバット切り込まれて渋面を作りつつも、興味深げに自身を見つめる緑谷くんと麗日さんに
根負けした――尤も、特に隠すことでも無いらしく――飯田くんは理由を話し始めた。
なんでも、飯田君の家系は代々ヒーロー一家であり、飯田君はその次男坊とのこと。そして
彼の兄は今を時めく大人気ヒーロー『インゲニウム』その人なのだ……とものすごい自慢げに
語ってくれた。
規律を重んじ、人を導く。そんな兄の姿に憧れて、兄のようなヒーローになることが、飯田
くんの
しかし、そうか。似ているとは思ってたんだ。
「弟がいるとは聞いてたけど飯田くんだったのか……」
「え?」
え?
「歌満地君、君、兄に会ったことがあるのか?」
・・・・・しまったぁぁあ!口が滑ったぁあ!
そうですあります、だって彼の活動地区は東京で、二課本部は東京郊外。ノイズが発生した
場合に即応可能な範囲だもの!だから鉢合わせたりもするんだよ!
そして自分の弟と同年齢の少年がノイズ相手に大立ち回りしてれば、それはスゴイ気になっ
てしまうだろうさ、事後に声を掛けられもするさ!
ちなみにインゲニウムさんは“ターボヒーロー”の異名に偽りない速さでノイズを振り切るこ
とができるので、こちらがカバーに回ることが殆ど無い。突発的に協力を要請した時の対応も
丁寧、規律重視だから二課の領分には過度に踏み込まず避難誘導に徹してくれるし、大勢いる
自身のサイドキックへの守秘義務の徹底も完璧…………それでいて良識ある一人の大人として
俺や翼さんを気遣ってくれる。
と、二課のエージェントとしては大変助かっているし、個人的にもヒーローとして好ましく
思っていたりする。どこかのちょび火ゲと違って。いや、あの人もプロヒーローとしては信用
できるけども一個人としては……。
うん、思考が逸れた。早く言い訳をせねば。
「いや、その、前に人助けで無茶をしたところを助けてもらったことがあってね……君と同じ
くらいの弟がいてヒーロー目指してるんだよーってね……」
「何と、そうだったのか!いや、人の縁というのは、本当に
「そうだねー……ホントそうだねーHAHAHA……」
立花さんと芦戸さんたちのことを思い出して遠い目になってしまう俺。
ま、まぁ、飯田くんはうれしそうだし、嘘は言ってないし。これで誤魔化せたな――――
〈〈BEEEEEP!!!〉〉
!!
「え、なに、何!?」
「警報!?」
『――セキュリティ3が突破されました、生徒の皆さんは速やかに屋外へ避難してください』
突如として館内にサイレンが鳴り響いたかと思えば、その後流れてきたアナウンスに俺は我
が耳を疑った。
「――
「し、侵入者!?誰かが校舎の中に入り込んだってこと!?」
「セキュリティ3ってのは、正門のセンサー式自動隔壁、通称“雄英バリア”の事だ!」
さっきまでの和気藹々とした空気はあっという間に霧散し、食堂全体でパニックが起こって
いる。誰も彼もが我先にと出口へ向かう所為で、押し合いへし合いとなっている。
これは非常にマズい。このままだと怪我人が出る――いや、最悪の場合……!
2年前の“あの日”の光景が心に浮かび、俺は思わず
「痛っ、ちょ、急に何が起きたの!?」
「麗日さ、うわっ!?」
そうこうしている内に俺たち4人も人波に流され始めてしまう。
適切な避難誘導には正確なルートや“脅威”の位置、規模に関する情報が必要だ。せめて何が
「『
右手首から血糸を生成し、天井へと伸ばして引っ付ける。同時に左手首からも糸を伸ばし、
緑谷くんたちに巻き付けて、俺を基点に引っ張る形で吊り上げた。
「うわぁ!?あ、歌満地くんか、ありがとう!」
「ぷはぁ、潰れるかと思った~~!」
「どういたしまして!それより――」
お礼の言葉をくれる二人に返事をしつつ、窓の外を見る。幸いにもこの食堂は正面エントラ
ンス前が視認し易い位置だ。目を凝らすと、敷地内に突撃してくる集団が――
「……ってマスコミかい!!」
「え? うわ、ホントや!」
「何かと思えば、なんと人騒がせな!」
「敵とかじゃなくてよk……ど、どうしたの歌満地くん?何か顔が怖いよ……?」
「――よし、燃やそう」
「「「歌満地君/くん!?」」」
「2年前と言い、今朝と言い……!ゴミは燃やすべし……ッッ」
「ま、待て!それはよろしくない!気持ちは分かるが落ち着き給え!?」
冗談ではない。二重の意味で。
こちとら昨日の晩から自己嫌悪で忙しいんだ、むしゃくしゃしてるんだ……!これ以上、俺
の神経を苛立たせないでくれ……!
――――ダメだ、落ち着け。また怒りに飲まれぬよう、深呼吸を1度、2度。みんなの安全
が最優先だ……!
「ッ! 麗日君!俺を浮かせてくれ!」
気炎を抑え込んでいると、飯田くんが唐突に声を張り上げた。
「え?う、うん!」
「歌満地君は俺が浮いたら“個性”を解除してくれ!」
何をする気なのだろうか、と一瞬訝しむ。だが、彼が自身のスラックスの裾を捲ったことか
ら、その目的を察した。
「だったら
そう言いつつ、俺は飯田くんに巻き付けている血糸をより太く変形させる。枝分かれさせて
彼の腕にも巻き付けると、そこから丸く厚みのある盾のように形作る。その間に緑谷くんと麗
日さんに付けた糸を右からのものに巻き直す。
これで左腕はフリーだ。血の縄を手繰り、しっかりと握る。
「よし、行くぞ飯田くん! Get set,Ready!?」
「あ、あぁ……――――OKだ!」
「GO!」
突然の申し出にちょっと困惑した様子の飯田くんだったが、一呼吸置いて応えてくれた。
強化した腕の膂力と、血の縄自体を操作することで、俺は飯田くんを――『
板を目掛けて、振り子の要領で放り投げた。
脚部のエンジンを吹かして更に加速し、残像が見える勢いで縦に回転しながら生徒たちの頭
上を横切っていった飯田くんは出入口の真上の壁に、ぶつかるように辿り着いた。その際の衝
撃はある程度は盾状の血塊で相殺できたようだ。
俺(たち)の脳裏をよぎるのは、敬愛すべき
「飯田くん!
(ああ、分かっているさ、歌満地君――!)
――短く、端的に、それでいて大胆に!――
「大丈――――夫ッ!!」
飯田くんのその堂々とした声は、この混乱の中でも良く通った。
「ただのマスコミです!何もパニックになることはありません!大丈夫ッ!!
ここは雄英!最高峰に相応しい行動を取りましょう!!」
その言葉に、生徒たちは徐々に落ち着きを取り戻していった。
視線の集中する場所で、大きな声ではっきりと、誰にでも分かり易いように……。
「パーフェクトだ、飯田くん」
やがてサイレンの音が聴こえてきた。警察が来てくれたようだ。
これで一先ず事態は解決……と、いうことになるだろう。
だが、たかが現場の報道陣があの強固な隔壁を突破できるとは思えない。よしんば連中の仕
業だとしても犯罪行為だ。連中が法に触れるような取材を平気でするようなら、翼さんや世の
ヒーローたちのストレスはいっそう酷くなってるはずだ。
【そも、法の境界を把握していながらも、その
称で呼ばれながら平然と痴態を晒し続けているわけだからな】
『言うよね…………そしているよね、黒幕』
【で、あろうよ。狙いは、この学舎の“網”か、“宝物”の目録か、そのようなところだろう】
『ウチの案件が関わっていたりしたら申し訳ないなぁ……』
警備の体制とか、生徒のリストか。紛失したデータや資料が無いか、後でイレイザーさんに
確認取っておく必要があるな。
……さて、放置してしまった俺たちの昼食だが、無事だろうか?
特機物二のエージェントとしての意識から学生としてのそれに切り替えつつ、俺は緑谷くん
麗日さんと共に飯田くんと合流するのだった。
なお、渡我さんのメディカルチェックの結果は「問題無し」。ガングニール限定解除の行使
によるダメージは日常生活に支障をきたすほどではなく、後遺症なども無かった。
その事には、ホッと胸をなでおろしたが…………。
仲直りは、できなかった。
■
突然ですが、車内の空気が最悪です。
「「………………」」
「…………」チラッ 「…………」チラッ
「「……ッ」」
「………………」サッ 「………………」フイッ
(((……あれもう何度目かなぁ…………)))
――――皆さんどうも、緑谷出久です。
マスコミ騒ぎから数日が経って、今日は水曜日。
これから僕たちはヒーロー基礎学の授業で“
少し離れた場所にあるので、なんとバスに乗って移動している。
いる、のだけれど。
……とある二人の周りだけ、時間の流れが遅いと言うか、グラビティと言うか。
「(芦戸ぉ!あれどうにかしてくんねぇ!?)」
「(ごめんムリ寄りのムリ。もう無理)」
「(金曜からずっとああだよな……何があったんだよ……)」
「(色々やってみたんだよぅ、全っ然改善しないの!自信失くしそう……)」
歌満地くんと、渡我さん。
二人の仲が目に見えておかしくなってから、今日でもう5日になる。
まず会話が無い。目が合えばすぐさま視線を逸らす。
けれど昼食の時とか今のように、ごく自然に当たり前のようにお互いの隣りに座るんだ。そ
の後、どちらも気まずそうな表情で間隔を空け合う。時折、相手の方をちらちらと窺っては、
結局何もしないまま――という状態がもうずっと続いている。
喧嘩しちゃって、どちらも謝ろうとはしているけれど切っ掛けが掴めていない……みたいな
感じだ。はたから観ている分には。
でも、そう単純な話では無さそうでもある。だってあまりにも雰囲気が暗い、重苦しい。
授業は普通に受けているし、話しかければ普段通りであるように振る舞っているけれど、二
人の纏う空気にあてられて、クラス全体の空気も沈み始めてしまっている。
相澤先生は事情を知ってるみたいなんだけど「授業の進行には支障をきたしていない。当人
同士でしか解決しない問題だ、ほっとけ」と放置してるし。
芦戸さんや上鳴くんを始め、耐えきれなくなった人たちが、元気づけたり、事情を聴き出そ
うとするけど、口を揃えて「何でもない」「心配しなくていい」とやんわり断ってくる。
飯田くんが「学級委員長として見過ごせない」と仲直りするよう説得したんだけど――
「すまない、本当にすまない……すまない」
と謝り倒され、
「…………飯田くんには関係ないです、ほっといてください」
と拒絶されてしまった。
――目に生気が無かった……まるで光の射さない暗闇を覗き込んだような気がしたよ。
後にそう述懐した飯田くんはとても悔しそうだった。
入学初日から、とても仲が良くて、その、すごく距離感が近くて……一部からは「あれで付
き合ってないとか冗談では?」とまで揶揄されていた彼らだったのに。
いったい、二人の間に何があったというんだろう?
「――私、思った事を何でも言っちゃうの。緑谷ちゃん」
「ぅえ!?あ、ハイ!?ぁぁ
「
……び、ビックリした~~!急に話しかけてくるなんて!
そしていきなり何を言い出すのかな!?名前呼びだなんてそんなちょっと僕にはハードル高
いですごめんなさい!
「あなたの“個性”、オールマイトに似てる」
「う゛ぇ゛!?」
本当に何をいきなりそそんあまさか気付かれたたたた!?!?!?!
「待てよ梅雨ちゃん、オールマイトはケガしねえぞ。似て非なるアレだぜ?」
あああ……ありがとう切島君~~……!
「しかし増強型のシンプルな“個性”はいいな!派手で出来ることが多い! 俺の“硬化”は
対人じゃ強えけど、いかんせん地味なんだよなー」
「僕は凄くかっこいいと思うよ!プロにも十分通用する“個性”だよ」
「プロなー!しかしやっぱヒーローも人気商売みてぇなとこあるぜ!?」
「僕の“ネビルレーザー”は派手さも強さもプロ並み☆」
「でもお腹壊しちゃうのはヨクナイね!」
「うっ……☆」
切島くんのおかげで話の流れが変わってくれた。良かった~!
と思っていたら、派手な“個性”という話題からかっちゃんに飛び火した……!
「爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気出なさそ」
蛙水サァンッ!!?
「んだとコラ出すわ!!!」
「ホラ」
「この付き合いの浅さで、既にクソを下水で煮込んだような性格と認識されるってすげぇよ」
「てめぇのボキャブラリーは何だコラ殺すぞ!!!」
(かっちゃんがイジられてる……!??信じられない……流石雄英……ッ!)
思わず頭を抱えている内に、相澤先生から注意が飛んで車内は静かになる。窓の外にドーム
状の建造物――あそこが訓練場だろう――が見えてきた。そちらに横目を向けていると、蛙水
さんが何やら小声で話しかけてきた。
「(さっきはごめんなさいね、緑谷ちゃん)」
「(ぅぇっ!?……なん、何が?)」
「(空気を変えたかったの、それで……。緑谷ちゃんはお話しし易いように感じたから、つい)」
「……!(……いいよそんな、全然気にしてないから)」
正直、僕も耐え難かったし……と笑って返す。蛙水さんも笑って一つ頷いた。
……二人のことは気になるけど、今は授業に集中しなくちゃな。
バスが止まり、乗った時と同じようにキビキビと降車する順番を仕切り出した飯田くんに苦
笑しながら、僕は努めて意識を切り替えた。
■
『皆さん、待ってましたよ!』
訓練場前で1‐Aの生徒たちを出迎えたのは、宇宙服を模したコスチュームに身を包んだヒー
ローだった。その声はヘルメット越しであるからか、少しエコーがかかっている。
「おお、“スペースヒーロー”『13号』! 災害救助の現場などで目覚ましい活躍をしている
紳士的なヒーロー……!」
「わぁ……っ!私好きなの、13号!」
ヒーローオタクの緑谷と、ファンであるらしい麗日が目を輝かせる。
よろしくお願いしますと唱和し、生徒たちはドームの中へと案内された。
「すっげぇーーーっ! USJかよ!?」
切島が驚愕の声を上げたように、そこにはまさにテーマパークのような光景が広がっていた。
13号が自慢げなポーズを取って紹介する。
『水難事故、土砂災害、火事、暴風、エトセトラ……あらゆる事故や災害を想定し、僕が作った
演習場です。その名も――
(((本当にUSJだった…………)))
権利関係大丈夫? 幾人かはそんなしょうもない心配をした。
微妙な顔になる生徒たちをよそに、相澤は周囲を見渡す。すると、いるべきはずの人物がい
ないことに気付き、13号を連れて少し距離を取った。
「13号。オールマイトは?」
「先輩……それが、通勤時に制限ギリギリまで活動してしまったみたいで。今は仮眠室に」
「不合理の極みだなオイ。……ハァ、待っていても仕方がない、始めるか」
ため息をつきつつ、相澤は13号に講習内容の説明を促す。
「では……えー、始める前に、お小言を一つ二つ……三つ……四つ……」
そうして13号は語り始める。自らの“個性”『ブラックホール』のように、“個性”には容易く
人を殺傷せしめる力があり、それは君たちもまたそうなのだ、と。
その名の通りの「個人を示す、相互に認証すべき性質」であるとする常識と、「個人が所有す
る力であり権利」であるという事実は、矛盾するものではない。だが超人社会となった現在、各
国は“個性”の使用を資格制とし、厳しく規制することで社会秩序を成立させている訳だが、しか
し、それは個々人の良識と自制心に頼っている面が強い。
一歩間違えれば、或いは自ら踏み出してしまえば、誰もが簡単に他者を傷付け、命さえ奪えて
しまう。それがこの世界の真実だ。
「――君たちの力は、人を傷つけるために有るのではない。助ける為に在るのだと心得て帰って
下さいな。……以上、ご静聴有り難うございました!」
そう言って華麗な所作で一礼する13号に、生徒たちから惜しみない拍手が贈られた――唯我
独尊の権化のような爆豪でさえ、拍手こそしていないが神妙な顔をしている。
しかし、他とは異なった反応をしている者がいた。歌満地と渡我である。
どちらも周囲に
やバツの悪そうな表情になっている。
二人は、つい、チラリとお互いに目を向けた。宙で視線がつながり、また双方向に引きちぎら
れる。今回は誰もその様を見てはいなかった……相澤以外は。
内心で長々と息を吐きつつ、教師である男は早速授業を始めようとした――――
その時。
ぞわりっ。
歌満地は背すじが粟立つ感覚を覚えた。直後、施設内の照明が次々と光を失っていく。
【来たぞ灯志――悪客である】
精神世界にて啓示が降る。即座に神が指差す方向を見た歌満地は、そこに黒い
るのを目視で確認した。
「イレイザーヘッド!!」
「!」
歌満地が“先生”とでは無く、ヒーロー名で自身を呼んだことで、相澤もまた異常を察知する。
施設中央、噴水の手前に出現した謎の靄は、穴へと変形し――そこから一人の男が手を出した。
正確には、
全身を現したその男は、いたる所を手に掴まれていた。『手首から先』だけに。
「全員!ひと固まりになって動くなッッ!!」
相澤は即座に臨戦態勢となり、鬼気迫る声で生徒に指示を飛ばす。その前に、歌満地もまた頭
部のバイザーを降ろし、相澤の隣に駆け寄っていた。
「13号、生徒を守れ! ……下がれ、歌満地。
「嫌です」
「……お前な」
「これは明らかに計画的犯行です……!こちらの戦力が割れているかもしれない。でも全部じゃ
ないはずだ――つまり俺です!」
「ダメだ。この場において、お前は一学生に過ぎん。 ――生徒を守るのが教師の務めだ」
相澤の言葉に、苦虫を噛み潰したような顔になる歌満地だが、それでも下がろうとしない。
その間にも靄は更に大きく広がり、そこから次々と敵意に満ちた目をした
一方、突然のことに理解が追い付いていない他の生徒たちは未だに暢気していた。
「何だアリャ?また入試ん時みたいなもう始まってんぞパターン?」
「違う!退がって、あれは――――」
「13号にイレイザーヘッドですか……。先日頂いた教師側のカリキュラムでは、オールマイト
がここに居るはずなのですが……」
「……アァ?どこだよ……。折角、こんなに大衆引き連れてきたのにさぁ…………」
一通り吐き出し終わったのか、黒い靄は収束し、“人の形をした影”といった姿になっていた。
その傍らで手首まみれの男が、自身の首元をがりがりと掻きむしる。
「オールマイト……平和の象徴……居ないなんて…………――」
「あれは
「子供を殺せば来るのかな…………?」
ちょこっと用語解説:
☆学級委員長:
バクシーーーーン!!
☆インゲニウム:
飯田くんの兄。序盤で名前と姿だけ出てきて、「めっちゃ活躍しそう」と思ったら……。最近の展開観てると生きてる分、有情と言えなくも無いことも無い。「インゲニウム」というのはラテン語でエンジンの語源であり、「賢い」という意味を持つ。
☆13号:
ブラックホールとか強キャラ過ぎひん……?からの、まさか中身があんな感じとは思わなかったよね。
☆USJ
「事故(じこ)ならJではなくZでは?」と思った方はいると思います。私も思いました。これは間違いではなくて、ローマ字で「ざ」の行を記す場合、zで書く「訓令式」と、jで書く「ヘボン式」の二通りが主にあるのです。訓令式は日本語メインで会話する人が覚えやすい表記で、日本の小学校で習うのはこっち。ヘボン式は英語圏の人が実際の発音をイメージし易い表記で、パスポートや国際交流の場で使われます。アメコミ意識のヒロアカだから……なのかどうかは知りませんけどね。