今から100年と少し前、新世紀の終わりごろ。
中国・軽慶市で「
この報道以来、世界各地で超常現象が報告されるようになり、世界はその総人口の約8割が
何らかの特異体質“個性”を持つに至った超人社会となった。
人々は、自分たちが手に入れた力に恐れ、慄き、やがて私利私欲のために力を振るう者と、
それを止めるために力を奮う者とに分かれていった。――“
今やヒーローは
得ることができる人気の職業だ。
ヒーローになりたい、そう思うのが今の若者にとっては普通の感覚で、俺のクラスメイトは
半数以上が進路希望にヒーロー科――プロヒーローを養成する特殊なカリキュラム――のある
高校を希望している。
一番人気は雄英高校だ。倍率……確か3000倍だったかな、すごい数字だ。
多くのプロヒーローを輩出していて、あの平和の象徴『オールマイト』や『エンデヴァー』
の出身校だから、「自分もあの二人――No.1やNo.2のようなすごいヒーローに!」と思う学
生が後を絶たないのは仕方ないのだろう。当然、毎年多くの受験生が狭き門に阻まれ、口惜し
涙を飲んでいる。
俺はそんな生き馬の目を抜くほどな重馬場に飛び込むつもりは無い。ヒーロー免許が取れる
なら何処でもいい。
最悪、取得できなくてもいいんだけど、この国では免許が無いとヒーロー活動をしてはいけ
ない――もっと言うなら個性を私的に行使してはいけない、という法律がある。善意で自主的
にヒーロー活動をしている人たちでも、いわゆる“ヴィジランテ”、ヴィラン予備軍扱いとされ
てしまうのだ。
俺は別にヒーローになりたいわけじゃない。人助けがしたい、そのための力が自分にはある
から使いたいし、使うべきだと考えている。ただそれだけだ。
周囲から何を言われても別に気にはならない……もう気にしないことにしているけど、犯罪
者になるのは困る。日々の生活とかいろいろ不便になってしまうし、なにより確実に母さんや
ハーさんにお説教をもらってしまう。父さんは……説教ではすまないだろうな。けど最後には
笑って許してくれるだろう。
だから必ずヒーロー免許は取る。それまではなるべく個性を使わずに人助けをしよう。派手
にやらかして警察のお世話になるのはやめよう。
■
「そう、思ってたんだけどなぁ」
【ふん。やはりお前には無理であったな、愚か者のお前には】
「容赦ないなぁ……。もっと優しくしてよ。ご覧の通り重傷者なんですけど」
意識を取り戻して2、3分。自分の置かれた状況をはっきり知覚するまでもう1分。肉体の
状態をチェックすれば、まぁ全身痛いわ痒いわ、ひどいことになっている。骨もいくつか折れ
てるっぽい。どこもかしこも包帯がぐるぐる巻かれていて、まるでミイラになった気分だ。
【本来であれば形状が残るどころか名状もしがたい有様になっていたであろう。最低、失血死
は免れ得ぬものであった。我に感謝せよ、
「うん、本当に助かったよ。ありがとうハーさん」
【ハァ……もはや旧慣となったが敢えて通告しよう。その呼称はやめよ!不敬である!】
「あはは、ごめんごめん。……ありがとう、
一応、記憶に支障が無いかも確認しようか。俺の名前は
そして、さっきから俺と会話をしている人はハーさん。真名、『シェム・ハ・メフォラシュ』。
神だ。
うん、神様……らしいんだ。いやマジで。俺も信じてはいるけど、今でも「マジか」って思
う。そして、
ないようにしている。)
ハーさん曰く、俺たち人間を創り出したのはハーさんとその同族たち――アヌンナキという
異星の人々。世界各地に神性などとして伝承が残る上位存在「カストディアン」の正体である
らしい。
そして現在の超常社会の原因となった個性の発現……その更に原因となったのは
「
であり、その欠片とやらが
「
……というのだ。
何を言ってるのか分からない?大丈夫、最初は誰だってそう思うさ。
そんなトンデモ話を古風な言い回しと、当時はまだ分からなかった難しめの熟語を多用して
語るハーさんに対して、「ちょっと何を言ってるかよく分かんないです神さま、教えるのヘタ
ですか神さま」と返した小さかった頃の俺は悪くないと思う。そして、そんな幼子の俺にキレ
散らかしてたハーさんは全然神さまっぽくなかった。
ハーさんの言うところの“バグ”は俺とこうして話しているハーさん自身にも起こっている
らしく、「ほんとに神さまなの?」と言う俺に【遺憾である】【何故か情緒が不安定なのだ】
【記憶の中の我はもっと冷徹にして冷静であった】と抗弁された。
そもそも本来であればハーさんの意識が自力で覚醒することはできなかったようで、こうし
て目覚めることが叶った今でも、
それも出来ないとかなり憤慨していた。
「死ななくてよかった」という安堵と、「これからどうしよう」という不安で同時にブン殴
られたのが俺が4歳――世間において一般的に「個性が発現する」とされる年齢になった時の
ことだった。
今のハーさんには自分の身体が無いので俺から分離することも出来ないらしく、新しい肉体
を得るには神の力……要は莫大なエネルギーリソースが必要とのこと。
以来、俺はハーさんといっしょに生きてきた。一人っ子の俺にとっては、我が儘な姉のよう
な、口うるさい先生のような、そんな不思議な関係だ。ハーさんの方は俺のことをどう思って
るのかは知らないけど、流石にもう俺の肉体を乗っ取ろうとは思っていないはずだ。
多分。きっと。メイビー。
だって最初の頃はひどく高圧的な態度で、会話すること自体が稀だったんだ。それを考えれ
ば、今ではお互いに軽口を叩ける程度には仲良くしているのだから、随分と進展したと言える
だろう。まぁ、名前で呼んでくれるようになったのは2年くらい前からで、それまではずっと
「宿主」だの「不完全な下等生物」だのとめっちゃ下に見られてたんだけどね。
【何を思索に耽っている。今のお前がすべきことは速やかなる栄養補給である。早急に
「そんなこと言ってハーさんが味覚共有したいだけでしょ」
【不服である。そして不要である。病院食は我が舌に合わぬ。実に粗食なり】
「そりゃあ病人用の食事だもの。当たり前でしょ」
さっきハーさんは俺のことを乗っ取れないと言ったけど、俺の意識が無い時と俺自身が許可
した時は別で、主に外食する時とかに俺はハーさんに肉体の主導権を渡している。
ハーさんは俺のなかで暮らすようになってから食べることが好きになったそうで、【食事の
時間は、ただ目の前の料理のみ理解し、堪能すればよい。精神的負荷の解消……安息の時であ
る】とかなんとか。今では近隣地域の「美味いもんマップ」まで作るほどグルメになった。
この神、本当は食神とかじゃないのか?
「ていうか、夕餉って……今、夕方?」
窓の外を見ると、確かに日が傾いている。
【お前は3日も眠っておったのだ】
「3日か……まぁ、その程度で済んでよかったかな」
【良くなど無いわ、戯け!お前の所為で、あの喫茶の季節限定
が!この馬鹿者!】
「そう怒んないでよ。退院したら行けばいいじゃない」
【貴様、忘却したか!彼の店は下郎共の蛮行の所為で爆発炎上していたであろうが!】
あ、そう言えばそうだった。そのせいで逃げ遅れた女の子が瓦礫に潰されそうになって、俺
はその子を助けようとして――
「……あの子は!?あの時の女子!無事なnッッッ」
思わず跳ね起きてしまい全身に激痛が走る。そのままよろよろとベッドに倒れ込む。
【阿呆め】
「…………そう思うのもしょうがないけど言わないでください」
ぐう、と腹の虫も鳴った。存外元気だ、俺の身体。
【くくっ、貪婪なことよな】
「それはアンタだろハーさん」
【貴様ッッッ】
がなるハーさんを無視して、俺はナースコールの子機に手を伸ばした。
■
実のところ、怪我して入院するのは初めてのことじゃない。
趣味で人助けをしていると大なり小なり怪我もするし、まだ個性が未発達な上に制御も上手
にできなかった頃はよく病院のお世話になっていたからだ。
今回は長くても一ヶ月もすれば退院できるだろうと過去の経験から推察する。
【お前の個性の最大稼働を用いればもっと短縮できるのだがな。】
「仕方ないよ。病院の中じゃ騒がしくって使えない」
まあ、じっくりやるさ、と笑う俺に嘆息するハーさん。意識を取り戻した日の翌日のこと。
不意に病室――運良く個室だ――の扉がノックされる。どうぞ、と返してみれば、ゆっくり
とドアが開いて……あの時の女子が、そこにいた。
「あ、のぉ~……えっと、その、失礼します……」
「――良かった!」
「……はい?」
「あの時は夢中だったから、加減を間違えてなかったか心配だったんだ。君が無事そうで、本
当に良かった!」
いや、本当に良かった。彼女が瓦礫の落ちる範囲の外に出るように、さりとて怪我などしな
いように、細心の注意を払って「押した」とはいえ、あの状況ではミスって打撲や擦過傷を負
わせていてもおかしくなかったからなぁ。
不安そうにしていた女の子は、顔をきょとんとさせた後「……助けてくれて、ありがとうご
ざいます」と言って、深々と頭を下げた。
「いいよ。俺が好きでやったことだから。むしろ、そんな風に気苦労かけちゃったわけだし、
助けたのと迷惑かけたので
俺がそう言うと、女の子はまたきょとんとして、心底可笑しいというように笑い出した。
「……ふふっ、あはは。何ですかぁ、それ。変なの」
……気のせいかな。今、一瞬彼女の顔が引きつったように見えたんだけど。俺、そんなに変
なこと言ったか?
「私、トガです。
「渡我さん、だね。俺は灯志。歌満地灯志だ。」
「……灯志。灯志くんですね!よろしくねぇ、灯志くん!」
そう言って渡我さんはうれしそうに笑う。……笑ってる、ん、だけど。
やっぱり気のせいじゃないな。また引きつったように見えたぞ。何だ?自分でも気づかない
内に彼女の機嫌を損ねるようなことをしたのか?俺は。
…………してたな。あの時、最後に倒れた際に前のめりだった気がする。つまり俺は血塗れ
の状態で、図らずも彼女を押し倒す格好になった、はずだ。
『クリーニング代……、どうしよう……』
【違う。そうではない】
■
その後、渡我さんはひとしきりお礼の言葉を並べ立てた後、お見舞いの品定番のフルーツバ
スケットを置いて帰ってしまった。制服を汚してしまったことは謝れなかった。
「また来る、って笑って言ってたけど……結局、何か無理をしてるって感じだったな」
血を浴びせてしまったことじゃないなら何なんだろう。気になるなぁ。
籠からリンゴを手に取り、軽く拭いておもむろにかじりつく。利き手じゃない上にケガで力
が入りにくいがこのくらいなら、まあ、大丈夫だ。
「なぁ、ハーさん。何か心当たりとか無い?」
【くだらぬ。些末事に囚われるな。今お前は休養を取る事だけに専念せよ】
「まあ、そう言わずに。……ほら、このメロンとかさ。美味しそうだと思わない?」
【貴様!まさか一人で貪る気か!?おのれ卑怯な。美食を質と取るなど!】
ぐぬぬ、としかめっ面をするハーさんだったが、やがてため息を一つつくと少し真面目な顔
になって俺にこう言った。【あの娘には警戒せよ】と。
「え、何それ。どういうこと?」
【別段、あの娘はお前に対して不平不満を持っているわけでは無いのだろうさ。あの顔は、己
が衝動……欲望に抵抗せんと耐えていたが故の作り笑いであろうよ】
「欲望?」
俺が首を傾げていると、ハーさんは何だか神妙な……それでいてどこか困惑しているような
面持ちになって、眉間を抑えてしまった。
【……あの娘はな、灯志よ。
「…………はい?」
【お前が倒れた時、肩の傷口から流れ出ていたお前の血が、丁度あの者の半開きの口腔に流れ
込む格好になったのだが……、あやつはその際に、こう、ゴクリとな?】
「…………Pardon?」
ちょっと何言ってるんですかね、この神さま。
【まあ、その後すぐに気絶したのでな。あるいは、あの者自身、無意識下での反射的な行為で
あったのかも知れぬ……】
「な、なんだそういう……」
【と、あの娘が来るまではそう思っていたのだが】
「え?」
【知覚できなかったのか?あの娘、お前の負傷箇所ばかりに目を向けていたぞ。獲物にねばり
つく蛇のごとき眼でな】
「…………マジ?」
いや、きっと心配してくれていたんだよ。「こんなにケガさせちゃった」とか、そんな感じ
でしょ。そんな餓えたケモノみたいだったなんてHAHAHA。
【あの娘……、恐らくは異常性癖の持ち主。他者への暴虐、弑逆を愉悦と覚える者……そう、
当世風に言うところのドSなのであろうッ】
「真顔で何言ってんだこの駄目神!」
――後日、この時のハーさんの推測が、当たってるどころか更に斜め上を行ってることなど、
俺たちは未だ知る由も無かったのだった。
オリ主は神さん転生では無いです。でも神がついているおかげで頭はいい。
何なら神本人が天才だから展開も早められるぜー。(メタい)
ちょっと用語解説
☆個性:
『ヒロアカ』世界において、凡そ120年以上前に人類に発現した異能の力。
本編開始時点で地球人口の8割超が保有者というアメコミもビックリの世界観。
個性持ってないといじめられるし、持ってても当たり外れがある。闇深い。
☆アヌンナキとカストディアン:
『シンフォギア』世界の人類の創造主。遠い宇宙から来た異星人。でも見た目
は地球人とそう変わらなかったりする。アヌンナキという人たちが後世でカスト
ディアンと呼ばれている、という感じ。ややこしい。
☆シェム・ハ・メフォラシュ:
『シンフォギア』シリーズ第5期のラスボス。人類の創造主アヌンナキの一人
にして改造執刀医。その能力は「言語」。自身を含めたあらゆる物質の構造式に
干渉し、全く別の存在に改造することが可能というチートの持ち主。
『シンフォギア』本編開始前に既に死亡していたが後述のデータ断章と自身の
遺品「シェム・ハの腕輪」の力で、それまでラスボスになると噂されていたとあ
るキャラを依り代に完全復活。人類全てを怪物に改造しようとし、実際に一時的
ながらもほぼ全ての人類を掌握してみせたヤベー神。
☆データ断章:
『シンフォギア』世界の地球人はある種の生体コンピュータであり、その遺伝
子中にプログラム言語と化したシェム・ハの欠片――いわゆるバックアップファ
イルーーが組み込まれている。
コンピュータである地球人同士をネットワークでつなぐことで、シェム・ハは
どの欠片からも再生復活が可能なのである。