少年少女のアカデミアには血が流れている   作:gamama

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バトル・イン・USJ編、始まりです。





 


EPISODE 8 勇-游-憂-U.S.J

 

 

 

 

 

 

 

 中央広場に現れた集団は、観た限りの特徴はほとんどバラバラで統一感がまるで無い。

 ただ一点、悪意に満ちた目をこちらに向けている、ということは共通していた。

 

 ──全員、あからさまにヴィランなのだ!

 

 

 日常から非日常へ──突然の状況の変化についていけない生徒たち。彼らの混乱する頭が

まず思い浮かべたのは、警戒ではなく困惑だった。

 

 何せ、ここ雄英高校は、在籍する教師全員が現役のプロヒーローだ。(ヴィラン)からしてみれば、

ここに侵入することは、自分の墓穴を掘ることと同義ではないのか。

 

「どうだろうな」

 

 その疑問に、淡々とした声で轟が答えを返す。

 

「現れたのがここだけか、学校全体かはわからねえが、警報の一つも鳴らねえし、聴こえて

こねえ。なら、そう言うことができる“個性”が向こうにいるってことだ。隔離された空間、

俺達しかいないこの時機。確かに馬鹿だが阿呆じゃねえ──これは、明確な目的を持って、

用意周到に画策された()()だ」

 

 その冷静な語り口に、これが現実だと理解が追い付いてきた“たまご”たちの顔が、サッと

蒼褪めていく。

 

「13号、避難開始!どうにかして外部に連絡しろ!センサー対策も頭にある連中だ、電波

系“個性”が妨害している可能性がある。上鳴、お前も“個性”で連絡試せ!」

 

「ウ、ウッス!」

 

「で、歌満地──」

 

 矢継ぎ早に指示を飛ばしつつ、隣でおもむろに腕を掲げた歌満地に、相澤は自身の武器で

ある捕縛布を素早く巻き付けていた。

 

「次、動こうとしたら奴らより先にノびてもらうぞ」

 

「…………ッ」

 

 ゴーグルを親指で押し上げ、横目で己を(にら)む相澤に対し、深く眉間にしわを刻み視線をぶ

つけ返す歌満地だったが、一寸を置いて、腕を降ろした。

 

「まさか1人で戦う気ですか!?無茶だ!イレイザーヘッドの戦闘スタイルは敵の個性を消

してからの捕縛──あの数相手に正面戦闘は……!」

 

「ヒーローは一芸だけじゃあ務まらん。……任せた、13号」

 

 制止しようとした緑谷に教えを返して、イレイザーヘッドは広場への階段を一足(ひとあし)で飛び降

りていった。

 

 遠距離攻撃が可能な“個性”の敵がこれを狙い撃とうとするも、『抹消』によって不発。

 ならばと異形系“個性”が殴りかかるも、巧みに躱して地に叩き伏せる。

 隙を突こうにもゴーグルで目線が隠れているため、『抹消』する対象とタイミングが分か

りづらい。次々とのされていくヴィランたち。

 

 

 心配など無用であった──対多数戦こそ、ヒーロー・イレイザーヘッドの真骨頂!

 

 

 などと感心する緑谷を(たしな)めつつ、生徒たちを退避させようとする13号だったが、その眼

前に黒い(もや)が急速に噴き出し、人型を成していった。

 

 声音からして男性であるのだろうその敵──「靄の男」は慇懃無礼(いんぎんぶれい)な口調で名乗った。

 曰く、自称『敵連合(ヴィランれんごう)』。その目的は、

 

 “平和の象徴”、オールマイトの抹殺。

 

 その大胆不敵な発言に、生徒たちは怖ろしさよりも当惑の念を強く抱いた。

 

 子供たちにとって、オールマイトは生ける伝説、最強のヒーローだ。自分たちが生まれて

来るずっと前から、あらゆる悪と戦い、勝利してきた無敵の男だ。そんな彼を負かすどころ

か殺すと言い切った。

 

 出来るわけが無い──誰もが心の中で否定した。……幾名かを除いて。

 

「本来ならこちらにいらっしゃる筈ですが、なにか変更でもあったのでしょうか? まあ、

いいでしょう……どちらにせよ私の役割は──ムウッ!?

 

 〈Spwooosh!〉

 

 ──歌満地流血奏術 『Staff String(スタッフ ストリング)

 ──交差捕物(クロス ニッティング)

 

 余裕たっぷりにどこに付いているのか分からない口を回し続ける「靄の男」だったが、何

時の間にか目の前に生徒が一人飛び出してきたかと思えば、視界いっぱいに真っ赤な“網”が

広がり自分にむかって飛んできたことにはギクリとした!

 

 しかし、先程までの態度の大きさは決して慢心ばかりによるものでは無かった。素早く、

冷静に、“個性”を活用して回避してみせる「靄の男」。網は彼を捕らえること無く、その不

定形な体をすり抜けていった。

 

 わずかに、()()()()()()

 

 危ない危ない……、などと、わざとらしく口に出した「靄の男」だったが、攻撃してきた

生徒が眼前にいないことに気付いて、今度こそ動揺した。

 

「な──どこ、二゛ッ!?

 

 瞬間、背後から衝撃。

 首元を掴まれ、うつ伏せに地に叩きつけられる「靄の男」。その苦悶に(よじ)れる二対の妖光

の前に、鋭利な刃先がかざされた。

 その刀身は紅かった──血に濡れているのではない、血でできているからだ。

 

「動くな。妙な真似をすれば、これにあんたの血も混ざることになる」

 

「……!?」

 

 『Percussive Gauntlet(パーカッシブ ガントレット)』を形成した右手で「靄の男」を押さえつける歌満地が、冷徹な

声音で警告する。自らを押さえつける者になんとか目線を向けた男は、痛みと驚きに呻きつ

つもどうにか脱出するべく、思考と舌を回す。

 

「……何故、“捕まえられる”と思ったのですか?私はほら、御覧の通り──」

 

質問をするな。あんたと話すことは何も無い……何故かな、とても不快なんだ」

 

「歌満地君ッ!」

 

 明らかに殺気を放っている歌満地に対し、咄嗟に13号が叫ぶ。歌満地は「靄の男」から

意識を逸らさぬように注意深く、されど素早く、13号に目礼して応えた。

 

「お叱りは後で如何様(いかよう)にも。13号先生、この人の“個性”を無力化できるのは、この場では

相澤先生だけです。現状では無理ですから、このまま俺が抑える続けるか、強制的に意識を

落とすしか無いと考えます。前者の場合、俺は避難できません。後者の場合は、この人はこ

んな形ですから、どこにどう力をかけていいのか判断しかねます。──最悪、加減を間違え

てしまう可能性がありますが……どうしますか?」

 

 真顔でつらつら淀み無く、物騒なことをのたまう歌満地。

 戦闘訓練の時とも明らかに異なる、その手馴れたものかのような言動──あっという間に

恐ろしげな悪人を捕り押さえて見せた彼に、クラスメイトたちは驚きを隠せない。

 事情を知る渡我は特に反応していない。目の前の出来事よりも、先週の事で頭がいっぱい

だからだ。

 そして同じく彼の立場を関知している13号はヘルメットの中で顔をしかめた。

 

 確かに生徒たちを避難させる為には、自他をワープさせる“個性”を持つ「靄の男」は最大

の障害であり、能力とその身体的特徴を(かんが)みれば、ロープ等を使っての単純な拘束は効果的

では無い。かと言って、13号の『ブラックホール』では、例えば拳銃を突きつけるように

牽制として使うには初速が足りないし、吸い込む力での拘束は強引に『ワープ』することで

脱け出される可能性もある。歌満地の言う通り、この敵に対しての最適解は──自分たちを

守るために孤軍奮闘している最中の──相澤の『抹消』なのだ。

 

 ──そう、彼の言っていることは概ね正しい。

 ──当の歌満地君自身が、自分の被る不利益、危険を、当然のことのようにプランに組み

込んでいなければですけどね……ッ。

 

 内心で頭を抱えつつ、歌満地も避難させてこの敵も無力化する方法は無いか──と、他の

選択肢を考え出す13号。いっそこのまま歌満地に拘束させておいて、まとめて引きずって

行った方が早いのではないか、と思い付いて、慌てて頭を振った。

 

 そんな13号と歌満地のやり取りを見て、「靄の男」がくつくつと含み笑いを洩らす。

 

「とても学生とは思えない……言葉と行動……!()()()()()()──」

 

「! 黙れッ」

 

 歌満地は右腕にさらに圧を加えて、男の発言を(さえぎ)った。

 

 ──こいつ、まさか二課を知っている?

 ──情報が洩れて…………いや、今は考えるな!

 ──これ以上口を開かせてはいけない、落とす!

 

「お(しゃべ)りはベッドの上でしてもらおう!」

 

 

     ⇔

 

 

「…………遅ぇ」

 

 チンピラたちが吹き飛び、転がされる中で、広場から正面入口の方を見上げながら、手首

にまみれた男は苛立ち混じりに呟いた。

 

「『黒霧(くろぎり)』のヤツ、何チンタラしてやがる……。ハァ……仕方ねぇなぁ……」

 

 

「────『脳無(のうむ)』」

 

 

 「手首の男」が一言そう呟くと、男の隣に控えていた巨体の(ヴィラン)がピクリと反応した。

 その肉体は、黒々とした筋肉の塊であった。血走った眼球、(わに)の如く裂けた顎。しかして

何より異質であるのは――

 

 脳が、剥き出しであることだった。

 

 

「ちょっと手伝ってやれ」

 

 男の指差す方へギョロリと目玉を回し、脳無と呼ばれた存在は前傾姿勢を取る。

 

「させるか……!」

 

 その丸太のような腕に、大方の敵たちを行動不能とした相澤が捕縛布を巻き付け、動きを

妨げようと全力で引き倒しにかかった。

 

 しかし。

 

 まるで肩の凝りでもほぐすように、脳無は腕を()()()と回す。

 ただそれだけの動作で──相澤の身体は猛烈な勢いで、上に落ちた。

 

 

     ⇔

 

 

「歌満地くん!?」

 

「いけません、歌満地君!それ以上はっっ」

 

 黒霧を押さえつけたままのガントレットに淡く紅い光が(はし)った。

 13号が慌てて止めに入るも、振動によって発生した衝撃と共に、歌満地は体重をかけて

右腕を打ち込んだ。

 コンクリートの床に亀裂が走って、黒霧は(たま)らず肺の空気をいっぺんに吐き出した。

 

 ――このまま、衝撃波で中身を()()()()()てやる!

 

 歌満地が更にエネルギーを解放しようとした、その時。中央広場の方向から、凄まじい轟

音が鳴り響いてきた。

 

 誰もが音のした方へと振り向いた。歌満地もまた、反射的にそちらへと意識を向け――

 

 砲弾のような勢いで飛んでくる巨大な物体を視界に捉えた。

 

「!! ッッッDefend fermata(ディフェンド フェルマータ)ァッ!!

 

 歌満地は跳ねるように立ち上がり叫ぶと同時に、両腕を突き出した。左右の手首から前方

へと噴き出した血液は二秒とかからず半円状の盾を形づくり、その勢いのまま13号と生徒

たちを、彼らの後方へと押しやる。

 

「うわっ!」「え!?」「ちょっ」「あか──」

 

 直後。

 飛来した物体は、先程まで歌満地がいた場所へと墜落した。足場が円状にひっくり返って

いき、巻き起こった突風に煽られ、全員が体勢を崩し、ころけていく。

 

「~~~~! ク・ソ・がぁ!何だっっちゅうんだクソがッ!!」

 

 いち早く起き上がった爆豪が悪態をつく。次いで轟、切島らも体勢を立て直す。13号は

既に臨戦態勢を取り、立ち込める土煙へと指先を向けていた。

 

「無事ですか、歌満地君!」

 

「……灯志くん? 灯志くん、どこですか!? 灯志くん!」

 

 13号が、我に返った渡我が必死に呼びかけるも、返答は無い。その間に土煙が引くと、

見上げるほどに大きい異形が其処にいた。

 

 脳無である。広場から階段の上まで──如何様にしてか──飛んできたのだ。

 

 脳無は左膝をつき、左拳を眼前の地面に突き落とす格好で止まっている。その奇妙な異様

に、生徒たちはどうしようもなく怖気を覚える。

 

「ゲホッ…………まったく、手荒にもほどがある。おかげで助かりはしましたが」

 

「「「!」」」

 

 そして、動かない脳無の向こう側で咳き込む声と共に、黒い靄が(うごめ)いた。

 歌満地が自分から離れた段階で、黒霧は即座に『ワープゲート』を発動していた。ダメー

ジこそそれなりに与えたものの、意識を刈り取ることはできなかったのだ。

 

 ──死体は無いですね……その辺に転がっているわけでも無い、と。

 

「となれば……さっさと済ませてしまいましょう。脳無を戻さないといけませんしね」

 

「……! 皆さん、早くここから――」

 

 13号が言い切る前に、脳無を飲み込みながら靄が急速に膨らみ、生徒たちへと向かって

広がっていった。

 

 

「これが私の役目────散らして、嬲り殺す

 

 

 伸びて渦を巻く靄に、轟が、峰田が、八百万たちが、次々と飲み込まれていく。

 

「みんな!!」

 

 咄嗟に近くにいた麗日と砂籐を抱えて脱け出した飯田だったが、クラスメイトたちが靄の

向こうに消えて行くのを見て、ほとんど悲鳴のような声で叫んだ。

 

 その瞬間、正面ゲートの扉が吹き飛んだ。

 そこから飛び込んできたのは、いなくなっていた歌満地だ。

 額から、口の端から、いたるところから血を零している。左腕などは折れているが、血糸

とガントレットで無理矢理に固定し、動かしている状態だ。

 脳無の突撃によって吹き飛ばされ、外壁を突き破って外まで出ていたのだ。

 

 ある意味、怪我の功名であったのだが……彼はそれを()()にした。

 

 歌満地は作り直した血の刀を握り締め、あっという間に黒霧へと詰め寄り飛び掛かった。

しかし、今度は楽々と躱されてしまう。

 自分を睨む歌満地に対し、黒霧は(くら)く笑ってみせる。

 

「フフフ、どうしました?先程までのキレが全くありませんよ?」

 

「このっ……」

 

 再度刃を振るおうとする歌満地だったが、聴こえてきた短い悲鳴に、思わずそちらへと顔

を向けてしまう。今にも靄に囚われんとする渡我の姿があった。

 黒霧が自分へと靄を伸ばしていることを理解しながらも、歌満地は躊躇(ためら)わず渡我の元へと

駆けた。

 

「渡我さんッ!!」

 

「……!」

 

 歌満地は必死の形相で渡我へと手を伸ばし、渡我もまた、手を伸ばして。

 

 

 あと少しで、指先が触れ合うか、といった瞬間──

 

 

「え────」

 

「────ぇ」

 

 

 歌満地の手が、空を切った。

 

 渡我が、わずかに、()()()()()のだ。

 

 

「と、が、さん……?」

 

 何故?どうして?

 脳裏が疑問符で埋め尽くされ、歌満地の思考は焼き切れるように途絶える。

 

 対する渡我もまた、全く信じられず、自らの手を見て絶句している。

 今、自分は何をしたのだ?

 

 

 そうして二人は、暗闇へと投げ出された。身体も、心も、光差さない無明へと。

 上下左右の区別も付かない空間を漂う中で、誰かを呼ぶ声を聞いた気がした。

 

 それが自分の声だったのか、それとも自分への声だったのか。

 分からないまま、落ちていく。

 

 

 ただ、胸の奥から伝わる拍動だけが確かな感覚だった。

 

 

 

     ■

 

 

 

 USJ内・水難ゾーンに飛ばされた緑谷は、待ち構えていた敵に襲撃されるも蛙水に助け

られ、水上に浮かぶ船に退避していた。

 同じく飛ばされていた峰田も蛙水に助けられたが、どさくさ紛れに彼女の胸に頬ずりした

ため、船上に叩きつけられた。

 

 船の周囲を取り囲む敵たちは皆、水場に適した“個性”の持ち主のようだ。

 全員、獲物を狙う目で緑谷たちを見ている。

 ここだけで無く、施設内の他のエリアでも敵たちが待ち伏せをしている。人命を救う術を

学ぶためにあつらえられたはずの舞台は、今や悪党たちの「狩り場」と化していた。

 

 

──戦うしかない

 

 緑谷は決断的に言った。

 

「僕たちがするべきことは、連中の企みを阻止すること……救援を呼ぶにしろ、他のみんな

を探すにしろ、戦って勝つしか道は無い……!」

 

「アッーハァァ!?何が戦うだよ馬鹿かよオールマイトをぶっ殺せるかもしれねぇ奴らなん

だろぉ!?オメーも見ただろ歌満地がヤラれちまったんだぞ!?アイツに無理でオイラ達が

出来るわけねぇよぉ!助けが来るまで待ってた方が良いに決まってんだろぉ!?」

 

「……下の連中がそれを大人しく待っててくれると思う?」

 

 緑谷にそう静かに言われて、峰田は錆びた歯車のように固まり、さらに蒼褪めた。

 

「それに、大丈夫……とは言えないけども、よく考えてみて峰田くん──ここにいるのは、

明らかに水中戦を想定している奴らばかりだよね」

 

「どぅっ、どどどどういうことだよ?」

 

「……この施設の設計を把握した上で、人員を集めてるってこと?」

 

 蛙水が確認するように問い、緑谷は肯定した。雄英のカリキュラムを盗み、外部との通信

を断ち、施設各所に、その環境に適した“個性”持ちを揃えた上で襲撃してきた──実に用意

周到で油断ならない連中だと苦々しく評価する。

 

「けど、それにしてはおかしな点がある。『』の“個性”の蛙水さんが……」

 

「ケロ?」

 

 

「……つっ、つぅ梅雨ちゃん、がっ、ここに移動させられてるって、てンッ!」

 

「自分のペースでいいのよ、緑谷ちゃん」

 

 

 要するに、敵は自分たち生徒の“個性”までは把握していないのではないか――それが緑谷

の推測であり、突破口であった。

 彼の提言で、3人は互いの“個性”について詳細を共有し、作戦を立案する。

 

「──で、最後は峰田ちゃんが……ってことね?」

 

「うん、これなら勝機は十分にある! …………と、思う」

 

「無茶苦茶言うなよぉぉぉ!上手く行かなかったらどうすんだよ一発アウトじゃねーーか!

マジおとなしく待ってた方がいいってぇ~~~!」

 

 峰田が泣き喚き出した直後、船体を強い衝撃が襲った。

 

 様子見に飽いた敵が攻撃してきたのだ。船は真っ二つに割れ、どんどん沈み始める。

 パニックを起こした峰田が頭部のふさをもぎっては投げ、もぎっては投げる。が、敵には

届かないし、手でぱちゃぱちゃと波を立てて遠ざけられる始末。峰田は更に泣きじゃくり、

緑谷は相手に峰田の“個性”がバレなかったので胸をなでおろした。

 

「チクショォォォ!!入学早々怖えぇ目に遭ったかと思えば今度は殺されそうになるなんて

おかしいだろ!うわああああ死にたくねぇえええ!!まだ八百万のヤオヨロッパイに触れて

もいねぇってのによォーーーー!!

 

 魂の叫びであった。そして最後の一言で蛙水の目がゴミを見る目に変わった。

 

「だったら……だったら戦おう、峰田くん!戦って、勝つんだ!」

 

「むりムリ無理無~理ぃ~だぁってぇ~~えっ!お前本当何言ってんだよ緑谷ぁ~~!」

 

 再度、奮起させようと声を掛ける緑谷だったが、峰田に逆ギレ気味に返される。

 

「勝てるわけねぇよぉ!オイラたちもうお終い――」

 

 

「諦めるなっ!」

 

 

 緑谷に大きな声で叫ばれて、峰田は驚いて泣き言と鼻水をひっこめた。

 

「ごめん、怒鳴って……。でも、何かしなくちゃやられるだけだよ。出来るかどうかじゃな

いんだ、そんなの……僕だって自信なんかない!それでもやるべきなんだ!」

 

 何だそれは、と峰田はまた喚こうとして――固く握られた緑谷の拳が、震えていることに

気付き、ハッとなった。

 

「そりゃ、誰だって、死ぬのは怖いよ……でも、だからこそ立ち向かうんだ。生きることを

諦めないために! 諦められないから、戦って、勝つんだ!」

 

「……ッ、緑谷お前……」

 

「それに……『待っていれば誰かが来てくれる』……それこそ、僕にはできない」

 

 

「僕は、その『誰か』になる為に!雄英(ここ)に来たんだ!」

 

 

 そう言って緑谷は船縁(ふなべり)に脚を掛け、雄叫びをあげながら水上へと跳んだ。

 それは敵たちの目には子供ゆえの浅慮と映った。彼らはにたつきながらも確実に仕留める

ために、緑谷が着水するのを待つ。

 

 その油断、僅かな猶予こそが緑谷の欲した“好機(チャンス)”だった。

 

 ――今の僕に出せる出力、2%じゃ、これからやることには足りない……でも、敵はここ

以外にも大勢いる!

 ──だから腕一本も犠牲にはできないから……体力テストの時のように!

 

 前方に突き出した左手の中指を曲げ、親指で抑え込む──デコピンの構えを取った緑谷は

その今にも跳ね上がらんとする二指に『OFA』を発動させた。

 

 

DERAWARE SMASH(デラウェア スマッシュ)!!」

 

 

 『OFA』の超パワーを籠めて解き放たれた中指は前方の空気を弾き、空気の弾丸を水面

へと撃ち込んだ。

 その威力は水中へと向かって大きく穴を穿ち、吹き飛んだ水は元に戻ろうとその穴へと流

れ込む。結果、着弾地点を中心として巨大な渦が発生し、敵たちを引きずり込んでいく。

 

「~~~……ッ、梅雨ちゃん!峰田くん!」

 

 へし折れ、内出血で真っ赤になった指の痛みに顔をしかめながら、緑谷は船上の二人に合

図を送る。

 蛙水はすかさず飛び出し、その長い舌を空中の緑谷へと巻き付けて回収する。彼女の小脇

に抱えられた峰田は、未だ恐怖から涙を流しているが……緑谷を見る彼の目には、先程まで

は無かった、小さいながらも(しっか)りとした輝きが灯っていた。

 

 ──ちくしょう……緑谷オメー、オイラと同じくせに!

 ──恐くて、怖くて、ブルっちまってるくせに……カッコいいこと言いやがって!

 

 ──…………オイラだって……!

 

「うああああぁぁあ!! オイラだって!オイラだってぇぇえええぇえぇっっ!!」

 

 峰田は絶叫しながら、頭部の『もぎもぎ』を次々と水面へと投下していく。もぎ取り過ぎ

て頭皮が裂け、血が流れても、構わず投げ続けた。

 水面に落ちたもぎもぎは渦へと引き寄せられて、敵たちに付着していく。やがてひと塊に

くっ付いた彼らは動くこともままならなくなった。

 

 

 こうして、みっともなく騒ぐ団子を後目に、緑谷たちは水難ゾーンを離脱した。

 

 ──しかし状況、未だ予断を許さず。

 

 

 

     ■

 

 

 

 一方そのころ、USJ内・火災ゾーン。

 

「……えぇ…………すごい……いや、でも……えぇ……?」

 

 一人、困り顔で眼前の光景を見惚けている少年がいた。

 彼の名は尾白猿夫(おじろましらお)。頑丈で柔軟な『尻尾』を持つ1-A生徒である。

 

 尾白の視線の先では嵐が吹き荒れていた。ここは火災現場を再現したエリアであるので、

火災旋風と表現すべきだろうか。

 

「グワーッ!」「ンアーッ!」「ゲボッ」「あじゃバー!?」

 

 その中心に(うつむ)き、立ちつくす少年を敵たちが襲っているのだが、飛びかかった端から次々

と吹き飛ばされているのだ。

 裏拳。手刀。回し蹴り。あるいは伸びてきた腕を無造作に掴み放り投げる。遠距離攻撃は

右手の刀で弾き、払うか、ボクシングのスウェーのように最小限の動きで躱していく。

 

「こんガキャァ―― 〈CRACK!〉 ――ぶごッッ!?」

 

 少年の背を優に上回る体躯の敵が猛然と掴みかかっていくが、少年の脚が()()の様に一瞬

で跳ね上がり、その顎を下から打ち抜いた。

 そして、のけぞり、ガラ空きとなった腹に放たれた少年の蹴りは深々と突き刺さり、

 

 〈CRAAASH!〉

 

 敵の巨体を()()()に折ったままブッ飛ばした。

 

 ――振り上げた脚を引き戻す反動で、素早く回転しての中段蹴り!

 ――さっきからずっと、あそこから全く動かずにカウンターを決めている……。

 ――まるで360度すべて見えているかのように相手の動きを読んでる!

 ――本当にすごい、なんて技前なんだ……!

 

 一連の流れを観て、尾白は思わず唸る。「尻尾が生えている」という、それだけの“個性”

であるが故に、それを十全に生かすために格闘術を学び、日々鍛錬に勤しんでいる彼には、

敵を薙ぎ倒している少年――歌満地の技量がいかに高いかがはっきりと分かった。

 

「でも……」

 

 だからこそ、尾白には、歌満地の様子がおかしいことがやけに気にかかった。

 

「――なんで、ずっと俯いてるんだ?どうしてあそこから動かないんだ?」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 身体各所に打撲。支障はない。

 額が割れた。臓腑も損傷。止血は済んでいる。

 左前腕部骨折。応急処置につき、使用は可能だが万全には程遠し。

 

 兎も角、痛い。どこもかしこも痛い。けれど、今一番辛いのは体の痛みじゃ無くて。

 

(拒絶された)

 

 見間違いじゃない。……そうであったならどんなに良かっただろう。何か理由があったの

だと思いたい。嫌悪や忌避ではない、別のわけがあるのだと。

 

(甘えているんだって分かってる)

 

 仕方がないことだ。嫌われるだけのことを、俺は、彼女を裏切ったのだから。

 彼女の心を、知っていながら、認めていながら、俺は────

 

「舐めんなぁ!」「ガキのくせに」「オラーッ!」「死ねよやぁーー!」

 

 

 騒騒しい。

 

 

「グワーッ!」「ンアーッ!」「ゲボッ」「あじゃバー!?」

 

 ……それでもやはり、戦場になど立つべきではない。そう思う。

 彼女は俺と同じが良いと言う。俺そのものになりたがっている。

 それが、俺にはとても――――

 

「こんガキャァ──

 

 

 喧喧諤諤。

 

 

 ──ぶごッッ!?」

 

 

 不快だ。

 

 

 〈CRAAASH!〉

 

 

 ……なんて、身勝手なんだろうか。傲慢だ。反吐が出る。

 

「ちょ、調子こいてんじゃねぇーーッ、こnぷギュッ!?」

 

 

 邪魔だ。

 

 

「はっ離せ、離ひあbbっばbっばaAaaarggh!?」

 

 

 だからこそ、停滞は許されない、許せない。……行かなくては。

 彼女を、皆を、護る。相手が人間でも、何者であろうと。断ち塞ぐ万難を排す。

 それこそがこのチカラの意味、このイノチの意義。

 

「あ、アバッ……、ヒィ…………」

 

 「誰かの為に」──それは結果的にではなく、過程で行われなくてはならない。

 

 命を懸ける理由にはなっても……

 

「や……、やべて……」

 

 生きて往く理由にするのなら

 

「やべでくべぇえぇぇぇえぇ!?」

 

 ──それは人の在り方では無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 また一人、襲いかかって来た敵に対し、歌満地はその顔面を鷲掴みにして止める。

 そしてそのまま、捕らえた頭ごとガントレットを振動させた。敵は物理的に震えながら、

その衝撃と苦痛にくぐもった悲鳴を上げる。

 

 ゆっくりと持ち上がった歌満地の顔を見て、尾白は背筋が粟立つ感覚を覚えた。

 光の無い瞳は空虚で、どこまでも冷たく淀んでいた。命乞いをし出した雑魚敵に向けられ

てこそいるが、()()()()()()()()()()()()

 

 直感的に、まずい、と判断した尾白は、すぐさま歌満地へと走り寄った。

 

「止めるんだ歌満地ッッ!!」

 

 大きな声で制止するも、聴こえていないのか、歌満地は再び敵の頭蓋をシェイクした。

 ほとんど白目を剥き、口端から泡を吹くばかりとなった敵から手を放すと、すっ、とごく

自然に、右半身に構える。

 

 尾白は知識と経験から、それが喉元を狙っているものであると見抜いた。

 

 ──あれはダメだ!

 ──下手したら本当に……殺してしまう!

 

 このままでは間に合わないと判断した尾白は、走りながらも尻尾を振り回した。バランス

を崩す事無く、その遠心力で身体を回転させると、数歩先、路上に落ちていたコンクリート

の破片に、ゴルフのスイングのように尻尾をぶつけて振り抜いた

 

「と・ど・けぇぇえぇっ!」

 

 祈るように叫びながらかっ飛ばした破片は――果たして、狙い(あやま)たず歌満地へと向かって

空を切り、彼に着弾……する前にはたき落とされた。

 しかし、その僅かな間隙に泡吹き敵は完全に失神して崩れ落ち、尾白もまた、体勢を持ち

直して歌満地までたどり着いた。周囲で燃え盛る火炎にも負けない勢いで、尾白は歌満地に

詰め寄った。

 

「何をしてるんだッ歌満地! 敵だからって、何をしてもいいわけ無いだろう!?」

 

………………、……尾白くん?」

 

 怒る尾白に対し、束の間、虚ろな目を向けていた歌満地だったが、数度まばたきをすると

実に間の抜けた顔になった。

 

「あぁそうだよ尾白だよッ……って────ちょっと待ってくれ。歌満地……、まさか君、

気付いてなかった……のか?」

 

「……えー……、と」 歌満地は周囲の惨状を確認すると、 「うん」 と頷いた。

 

「え、今なんで周りを……?」

 

「ずっと考え事してて……。ごめん、あまりにもその、ショックで……自分でも意外なほど

に大きくて、受け止めきれなくって……君もいたとは」

 

「いや、いやいや待って待って待ってくれ!?じゃあ君はその、まさか、無意識に反撃して

たって言うのか!?この、敵たち全部、考えごとしながら倒したって!?」

 

「敵意は感じ取ってたよ?それに広場の連中もそうだったけど、九分九厘はただのチンピラ

……この程度の相手なら、まぁ、殺気に合わせて動けば……」

 

 マルチタスクは基本でしょ?と、事も無げに言う歌満地に、尾白は唖然とする。

 

「……でもやっぱり、駄目だな、俺は」

 

 己の手のひらに視線を落として、歌満地は自嘲するように唇をゆがめる。

 

「考え過ぎて、取り返しのつかないことをするところだった。……尾白くんがいてくれて、

良かった。ありがとう、俺を止めてくれて」

 

「…………」

 

 こちらに顔を向けて、ほんの数分前まで人を殺せそうな眼をしていたとは思えない朗らか

な笑みを見せる歌満地に、尾白は薄ら寒い怖さを覚えるのだった。

 

 

 ──状況、予断を許さず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







ちょこっと用語解説


☆黒霧:

 敵サイド随一の便利キャラにして苦労人。焼酎では無い。

☆脳無:

 その秘密は次回。

☆DERAWARE SMASH:

 デコピンで空気を弾いてぶつける出久の必殺技。つまり指銃・撥。現時点では指一本や二本犠牲にしないといけない。最大5発、つまり初期の霊丸。

☆尾白猿夫:

 ものすごくいい奴なのに、とあるキャラと某カラー扉絵のせいでものすごくヘイトが集中している不憫な男。作中での扱いも普段はちょっと不憫なとこがある。活躍する時だけはめちゃくちゃ光るヤツ。 









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