遅くてごめんねな上でのBパート。私、すまないさんだよ。
『――本当にもう、手間をかけさせる子なんだから。
……で?弁解があるなら聞いてあげるわよ?』
「ないです……」
『やーねぇ、そんな沈んだ声しなくたっていいじゃなーい! 別に怒ってないわよ?』
「絶対嘘だ……」
『何か言った?』
「いいえ母上様?何も言っておりませんのことよ?」
渡我さんが帰った後、俺は携帯電話で母さんと連絡を取っている。
(※病院の中で携帯電話を使う場合はその病院の指定された場所か、(可能なら)自分の病室の中で使おう!
大部屋でも通話できる場合は他の患者さんの迷惑にならぬよう、一言断って声を控えて使用するように!)
重傷を負って今は病院だと言ったら案の定「またなの」と呆れられた。
個性の研究により、科学技術が旧世紀から飛躍的な発展を遂げた
またその恩恵を受けている。とりわけ、活動の内容が内容だけに生傷の絶えないヒーロー
たちを支えるために、外科的な治療法は大きく進歩していて、怪我の完治にかかる日数は
昔と比べれば随分と短縮されている。ちなみに、“個性”の仕様というのは実に多種多様、
十人十色であるけども、医療に応用できる――つまり他者を治療できる“個性”を持ってる
人ってのは意外と少ない。特に、日常生活に支障をきたす程度からそれ以上の怪我病気を
治せるものとなるとかなり希少であるらしい。
とは言え、だ。一応は一般市民な俺の場合、ヒーロー向けの高額な医療保険とか、保障
とか当然適用外な訳で。入院する際にかかる諸々の必要経費は、昔とそんなに変わらない
ワケで。
つまり自分の勝手でやってる人助け……それで病院のお世話になる俺は、父さんと母さ
んには大変な負担を強いてしまっている。自分でも、それはちゃんと理解しているはずな
のに、結局はまたベッドの上でごめんなさいすることになる。何度でも。
だから俺は母さんには頭が上がらない、下げっ放しだ。
『前回は工事現場で鉄骨の山に埋もれて、その前は巨大化“個性”のヴィランに伸し掛か
られて、更にその前は降ってきたダンプカーと……潰されてばっかりねぇ。
あなたの圧迫祭りは通年開催なの?』
「好きで潰されてるわけじゃないし、そんな祭りも主催してないからッ!っつーか圧迫祭
りって何!?年がら年中開かれててたまるかそんな変態フェスティバル!!」
『さて、どうかしら?この狭いようで広い世界、案外どこかでやってるかもよ?』
「仮に存在してたとしても絶対に参加しないから。よしんば俺がお祭り男だったとしても
全力で拒否するから!」
でもこの人、自他とも認める天才な癖に、時々こういう突飛な発言やブッ飛んだ行いを
平然とかましてくるので重い頭でもついつい上がってしまう。
やはり、ナントカと天才は紙一重、というのは真実なのだろう。本当に困ったものだ。
『と・こ・ろ・で?今回助けたのって女の子だったんでしょう?同年代の』
「…………そうだけど」
『どんな子なの?かわいかった?りんごの皮むきとか上手だった??』
「……確かにお見舞いに果物バスケット持ってきてくれたけど、そこまでしてもらうわけ
にはいかないって」
『あらまぁ~、気の利かない子なのかしらぁ?減点-1ね!』
「小姑気取るの早過ぎない?そういうんじゃないからね今回も」
困った点と言えばもう一つ。母さんは恋バナが好きということ、転じて、俺の恋愛事情
をむやみに掘り下げようとするというところだ。俺が異性と何かしら関わりを持つ度に、
その女性のことをどう思うか、とか根掘り葉掘り聞いてくる。場合によっては相手方にも
“ガールズトーク”を仕掛けるもんだからほとほとまいっている。
前に、“そんなに恋愛語りが好きならさぞ実戦経験も豊富なんでしょうね”みたいなこ
とを言ってやったら、
「私の恋バナ百物語を聴いたら、夜眠れなくなるわよ?」
と返された。いや、その例えは胸が高鳴るどころか止まっちゃう奴だよ。ホラーだよ。
『話を戻すけど、実は今ちょっち手が離せないのよねぇ~。とりあえず入院費はあなたの
口座に振り込んでおくから当座の諸々は自分でやってくれるかしら。着替えとかはレンタ
ルサービスでお願いね?時間が獲れたらちゃんと行くから!』
「分かった。……忙しいのに、ごめん」
『気にしない気にしない。忙しい時に限ってタスクが増えるのなんて、この職場じゃ日常
茶飯事なんだから』
謝る俺に笑って返す母さんだけど、やっぱり心苦しい。
それは相手取ったヴィランだったり、はたまた助けた誰か当人だったりするけど、いの
一番に、今まで一番に傷つけているのは俺の周りにいる人たち……。
母さんは俺が怪我をした時、無茶をした時、怒るか呆れるかのどっちかだ。
でも本当は陰で悲しんでいるのを知っている。1年前の俺が死にかけた日に、父さんの
肩を借りていたのを俺は知っている。
「…………本当にごm」
『ごめんなさいは一回までよ』
また謝ろうとした俺は、決断的な声色でたしなめられた。
「母さん……」
『“完全で完璧な存在なんていない。いてはいけない。不完全であることこそが、私たち
ヒトの在るべき姿”……前に、そう教えたでしょう?』
「“完全・完璧とは進化の極致であり、最終形。故に、その先に進歩や進化は存在しない。
ただ永遠の停滞があるだけだ。”……だったよね」
『その通りよ』
「ちゃんと覚えてるって」
その言葉を教えられた時のことは、はっきりと印象に残ってる。
あの時、母さんは少し悔やむように……それでいて、何かステキな思い出を懐かしんで
いるかのように話していたから。
『“不完全であるがゆえに失敗を恐れず、まだ見ぬ未来へと手を伸ばし続ける”……。それ
が、私がこうあって欲しいと願うヒト……人間の在り方よ』
「……」
『だから私は、あなたにもそのように在って欲しい。――私では届かない“その先”へと、
あなたなら進んでいけると信じてる』
母さん……ッ!
『そもそも人間の本質なんてのは、醜悪そのものよ。どんなに美しく着飾ったところで下
地が襤褸より汚らしいのだから、形ばかりの誠意なんて重ねるだけ無駄よ、無駄』
母さん……ッ。
「いや、あの、母さん。俺は心の底から申し訳ないと思ってですね」
『へぇ~~~~?じゃあもう二度と怪我しないって言うのね?無理よね?そんなの』
「ハイ……、オッシャルトオリデス……」
『分かればよろしい』
こわ……。母さん、こわ……。
「……あと、醜悪は言い過ぎだと思うんですけど……?」
『
むむ、やけに説得力があるけど、ずっとって……母さんまだ
瞬間、背筋が凍る感覚。ハッ、殺気!?
『――灯志?』
「何でもないデスヨ、マム!俺はなんにも考えてないデスネ!?」
『それはそれで腹立たしいわね、まったく……。 兎に角!これからも懲りずに人助けを
するつもりなら、そんな暗い顔しないこと。“あなたの望むがまま”……』
『――我が儘を通すなら、笑って通しなさい。』
『あなたはこの天才考古学者、
■
「かなわないよなぁ、母さんには」
通話を終えて、ベッドで横になる。
「ちょっと話するだけで、胸ン中のもやもや吹っ飛ばしてくれるんだから。流石だよ」
【この場合、お前の憂慮が些事に過ぎぬだけだ。毎度毎度懲りずによくもまぁ……】
「うーん、その通り過ぎて何も言えない」
でも、あれだよ。体力が低下してる時ってネガティブになり易いって言うだろ?
【ネガティブとは消極的、あるいは否定的の意。先ほどの貴様の考え方はネガティブシン
キング、即ち悲観的、ペシミズムと言うのだ。不同である。】
「細かいよ!重箱の隅をつつくどころか顕微鏡で監察レベルだよ!」
【他愛のない会話の上では誤用と指摘するほどでは無いことぐらい理解しておるわ、馬鹿
め。今のは我なりの冗句である】
「ハイハイ神ジョークすごいですね。かなり爆笑だよ。ところで調子戻った?」
【雑に逸らしおって……まあ、よかろう】
明らかに不承不承、といった具合の表情のハーさんは、目が覚めた時よりも
ハーさんは俺の中にいる実体のない存在だけど、こうしてしゃべってる時は一種の幻覚、
イメージとして俺の傍に姿を見せるのだ。そして、ハーさんには“個性”とはまた違う、
別の異能がある。
「
構造、在り方をプログラムと捉え、そこに
自在に書き換える」という、この超常社会にあっても在り得ないような超抜級の力だ。
しかしながら、不完全で不完璧な今のハーさんでは十全に使えないらしく、使うたびに
ハーさんは自己を削り、存在そのものが縮んでしまう。今回の一件で、気絶した俺の出血
を止めるためにその力を使ったことで――消耗自体は少なかったみたいだ――さっきまで
のハーさんは輪郭が不規則に乱れていた。時間を置いたり、俺の肉体を通してエネルギー
を得ることで一応は回復できるとは言え、手間を掛けさせたことには違いなく……。
「あらためて言わせてもらうよ。――ありがとう、シェム・ハ」
【……何度も言うな、煩わしい。お前が死ねば我も死ぬのだ。我は己の生存のために必要
を為したに過ぎない】
そっぽをむかれた。人から見ればあからさまに照れ隠しだろうけど、素面で言ってるん
だよな、これ。まあ、神さまのツンデレとか人間からすればろくでもない受難にしかなら
なさそうだし誰得って話だよね。
【何を笑っている。本当にお前という奴は……不遜にもほどがある】
「ははっ、ごめんごめん。でもさ、やっぱり何度だって言いたくなるんだよ」
そう、例え鬱陶しくたって、繰り返し言葉にしないと伝わらない気持ちはあるし、一度
だけじゃ薄れて消えてしまう想いだってある。
「俺たちは口に出す言葉の一つ一つさえも正しく完成させれてないんだからさ。ハーさん
が教えてくれたことじゃないか。呪いがどうのこうの、って」
【フン、先ほどまで俯いておったくせに抜かすではないか。この我に向かって】
ハーさんは眉根を寄せて、ベッド際の窓から夜空を、夜空の月を見上げた。
【忌々しきはバラルの呪詛……。彼の軛から解き放たれ、我が悲願を成し遂げるのは一体
何時になるのであろうか……】
「あら、何時になくセンチメンタルだね。珍しい」
【いかに不滅たる我と云えども、こうして囚われ人の如く無様と退屈に身をよじる日々を
課せられては気が滅入ることもある。……まあ、こうしてお前を見ているのは、微少では
あるが無聊の慰めにはなるがな。微少ではあるが】
二回も言わなくても。
【しかしまあ、あの女も随分と変わったものだ。……いや、我が言えた義理でも無いか】
「ん?何か言った?ハーさん」
【……大したことでは無い。それよりも、早急に就寝せよ。お前の肉体は先ほどから眠気
を訴え始めているぞ】
言われてみれば確かに。鎮痛剤その他諸々が効いてきたらしい。
「そうだね。まだ少し早いけど……寝ないと治らないからね」
灯りを落とし、身を横たえる。
「おやすみ、ハーさん。……寝てる間に身体使うなよ?」
【愚問である。使える状態に戻してからほざくがよい】
「あはは、そりゃそうだ」
■
「――どうだった、了子君。灯志君の様子は」
「ピンシャンしてたわ。言ったでしょ?心配しなくてもいいって」
「そうは言うがな、曲がりなりにも俺は彼の親代わりをやっているんだ。心を配るなと言
うのは無理な話だろう」
「やれやれ。すっかり父親面するようになっちゃて」
「ハッハッハ、そうだな。だが、例え血は繋がっていなくても、彼が俺を“父”と呼んでく
れる限り、俺はそれに全力で応える、そう決めたからな。……しかし、君も人のことは言
えんと思うんだがな、了子君」
「……まあ、否定はしないわ。自分でも、未だに「そんな馬鹿な」と思う時があるもの。
「フッ……。どうだ、了子君。いっそこのまま本当の家族に――」
「それは無いわ。貴方、あの子を出しにする気?」
「うぐっ……!そういうつもりでは無かったんだが……」
「まっ、仮令、貴方が外堀を埋めることができたとしても、その程度じゃあ
ないわよ。何千年にわたる恋心を、たかが数年の想いで上回れると思った?」
「生憎、俺は諦めの悪い男でな。それに、壁は高いほど燃えるってもんだ」
「知ってるわ。……さて、そろそろ仕事に戻りましょうか。例の調査、進展があったのよね?」
「ああ。
――『ネフシュタンの鎧』の、行方について。
『シンフォ』世界は西暦2045年以降が舞台なので『ヒロアカ』世界よりは歴史的にかなり前なんだけど、この作品では『ヒロアカ』側に合わせる形で同一時間軸にしてます。つまり……?
ちょこっと用語解説
☆圧迫祭り:
元ネタは『ジョジョの奇妙な冒険』第7部『S・B・R』においてヴァレンタイン大統領夫人が放った迷言。ファーストレディが言っていいセリフじゃない。
☆櫻井了子:
『シンフォギア』第1期から登場する、ロボアニメで言うと博士ポジションのキャラ。シンフォギア名物「非常にモブに厳しい」を体現する雑魚敵、「ノイズ」を唯一倒せるシンフォギア・システムを造った天才。でも自室では全裸。詳しくはアニメを観てくれ。
☆バラルの呪詛:
『シンフォギア』シリーズにおける様々な事件の原因。人類から統一言語を奪っている神の呪い。で、この呪いをかける原因になったのがシェム・ハで、彼女は人類を呪いから解くために頑張ってるんだ!