ごめんなさい。自分なりに続けるんで許してクレイモア
「こんにちはぁ、灯志くん。お見舞いに来ました!」
「いらっしゃい、渡我さん。今日も元気だね」
今回の入院生活が始まってから10日が経った。
俺が意識を取り戻してから今日までの7日間、渡我さんは
「ん-、最近はそうでもないかもです。寒いと動きが
「まあ、もう12月だし。分かるよ、俺も寒いのはちょっと苦手」
「わぁっ、灯志くんもなんですね!? 同じだね灯志くん。同じだねぇ!」
にこにこ笑いながらベッド際の丸椅子に座り、「りんご剥いてあげます!」と自分で持って
きたりんごを自前の果物ナイフで切り始める渡我さん。この光景も既に5日続いているが、も
はやこうするのが当然と言わんばかりに自然な動作になっている。
けどね、渡我さん。毎日りんごは流石に飽きが来ます。 え?今は冬?違う、上手いことな
んて言ってないから。 今日は5つも持ってきた?ちょっと待ってそれ全部むく気かい?
眠っている間に月が変わって、今はもう師走。お坊さんも駆け回る、この忙しい時節にも関
わらず、こうして訪ねてくれる渡我さんは優しい人だと思う。だがしかし。
「渡我さん、俺はお見舞いって割と特別な出来事だと思うんだ」
「特別……、私が来るの、特別なことってことですか!? わぁい!」
「……特別なことって、いつもと違うから特別なんだと思うんだ」
「私は毎日がスペシャルでも全然いいと思います!」
「…………それは、その、素敵な考え方だと思うけどね?でも――」
「
「……………………はぁ」
流石に申し訳なくって、なるべくやんわり「何度も足を運んでくれなくてもいいんだよ」と
伝えるたびに、渡我さんはこう言い返してくる。初日の俺の発言を覚えて、いや、根に持って
いる上でのこの返しだろうか。
くっ、何のつもりの当てこすり……ッ!
それでも、引き下がれない理由がこちらにはある!いや、むしろそちら側にある!
「………………私、迷惑ですか?」
「いや、そうじゃないけどさ。渡我さん、受験生でしょ?」
そう、渡我さんは中学3年生。高校受験を間近に控えている大事な時期に在るのだ。ちなみ
に俺は中学2年なので彼女の1個下になる。お見舞い2日目にしてちゃんとした自己紹介を交
わした際にその事実を知った時はちょっと驚いた。「渡我先輩って呼んだ方が良いですか?」
って言ったら、「え~、なんかヤです」と拒否された。
だから「俺のせいで渡我さんが高校落ちたら……とか、すごい申し訳ないし……」と思って
しまうし、口から出るよね。
「わっ、そんな深刻なふいんき出さないで!心配しなくても大丈夫ですから!」
「いやでも……」
「大丈夫です!こないだの模試では合格圏内でした!」
ぐっ、とガッツポーズ――両手で体の前で小さくやるやつ――をしてみせる渡我さん。
自信アリ!って様子だけども……いや、今ちょっと視線斜め上に逸らさなかった?それ嘘つ
く時によく見られる仕草だよ?そのポーズは可愛いけども、誤魔化された方がいいの?
コンマ数秒悩んで俺は誤魔化されることした。だって可愛いからね、仕方ない。だが渡我さ
んの学力以外にも懸念事項はある。
「……なら、いいんだけど。でもこんなに頻繁に出かけていたら、親御さんに心配されない?
それで無くとも説教とか――」
「
――この7日間、一度も聞いたことの無い“冷えた”声だった。
ハッとなって、思わず渡我さんの顔を見た。……いつも通りの、いつもの変わらない笑顔の
渡我さんだった。
「……なんにも問題無いのです。灯志くんが心配することなんて、なんにも。むしろ二人とも
じゃんじゃん行って来なさいって感じですよー!」
あはは、と笑って言う渡我さん。それでいいのか御両親。
俺は何も言えなくて、またため息をついてしまった。すると渡我さんの顔がみるみるうちに
曇っていく。
「……やっぱり、嫌ですか?私が来るの」
「! そんなこと無いよ!」
「……本当?」
「うん。来てくれて、とても嬉しい」
「…………ッ」
これは心から思ってる。“個性”の習熟度が上がるに連れて負傷する頻度も増え、併せて入院
する事態も増えた俺は段々と友人を作る機会を失って、中学に上がってからは学内にほとんど
知り合いもいない状態なのだ。むしろ周囲からは敬遠されている――「いつも怪我して包帯巻
いてるヤバい奴」だと思われてるらしい――この始末。
ましてや同年代の異性の友人なんて、元々片手で数えるほどしかおらず、そのうえ遠方に住
んでいたり、忙しかったりで顔を合わせる機会も無い。時々
する程度。
なので、こうして時間を割いてまで顔を出してくれる渡我さんの存在が、俺にはとても輝い
て見えるのだ。
「本当にありがとう。渡我さん」
「………………! きゅ、急にそういうことマジめに言わないでください。ダメです」
「ありがたやありがたや」
「拝むのはもっとダメですっ、ていうか嫌です」
場を和ませるつもりでちょっと巫山戯てみたが機嫌を損ねてしまったようだ。渡我さんはい
かにも「私、不満です」と言うような表情になって俺から顔を逸らした。でもその頬はちょっ
と紅みが増している。
うーん、前にハーさんが同じ所作をしてたけど全然感じが違うなぁ。正しく「照れ隠し」っ
て感じだ。 で、そのハーさんなんだけど
【此度もこの娘は顔が紅潮しているな。視線も熱を帯びて……隠しきれぬ欲望が籠もっている
――やはりお前に懸想しているのでは?】
『ちょっと黙ってて神』
ここ数日、何故か渡我さんに対して失礼って言うか下世話なことばかり言うのだ。
『いつから母さんみたいな真似するようになったんだよ。後、渡我さんが来てる時は話しかけ
ないでって言ったよね』
【お前こそ、見て見ぬふりなど止めたらどうだ?我の指摘に揺れ動いただろう?】
俺の中でハーさんが底意地悪く、クククと笑う。
【如何に命の恩人と言えども、口も利けぬ有様の内から通い続ける者がいるか?ただ感謝の意
を伝える為だけにこうも足繁く通い詰める者がいるか?礼を尽くすというなら、看病に努める
のが妥当であろうに、ただただ談笑をしに来るだけの者がいるか?】
『りんご剥いたりはしてくれてる』
【お前の好物がりんごと知ってからだろう!しかも以降毎日持参してくる上に、当然のように
自らも食しているではないか此奴! 見舞いの品だと持ってきたのは己だと言うのにきっちり
完食しおって!おまけにお前が食い残さぬよう黙視にて念押しする始末と来た!
これが恋慕故で無いなら何だと言うのだ!?やはりヒトは度し難い!】
『さては自分だけが食いっぱぐれてるからって拗ねてるな???』
あ、図星だなこれ、めっちゃ悔しそうにしてる。これが創造主だと思うと泣けてくる。
……だが、しかし。ハーさんの言うことにも一理あることは認めざるを得ない。こうも頻繁
に会って、話していれば俺だって流石に気付く。
――渡我さんが俺に対して、恩義以外の、大きな感情を抱いているってことに。
「灯志くん?どうかしましたか?」
「……いや、何でも? で、何の話だったっけ」
「「好きなヒーロー」の話ですよぅ!灯志くんが好きなヒーローって誰です?やっぱりオール
マイトですか?それともオールマイトですか?もしくは……オールマイト?」
「オールマイト一択なんだ……?」
渡我さんは遊びに……もとい、お見舞いに来た時に話題にするのは基本的に俺に関すること
ばかりだ。と言うか、渡我さんが一方的に話しかけて、俺がそれに答えている。
俺の好きな食べ物から始まり、、好きな科目、何が得意で何が苦手か、等々、根掘り葉掘り
と尋ねられた。
「歌満地灯志と言う人物についてもっと知りたい」という意志がひしひしと感じられる。
その思いの
は俺に対して、いわゆる恋愛感情の類を向けていると言うのだろうか。
……俺は、上手く言えないが、違うと思う。ハーさんの推察が全く見当違いだという訳じゃ
ないけど、きっとそれは九死に一生を得たことに因る吊り橋効果って奴だ。 一過性のものに
過ぎないだろう。
しかしお見舞いティータイム7日目にして――渡我さんは決まって午後にここに来る――よ
うやくヒーローの話題が出たな。クラスメイトや数少ない友人たちは頻繁に、やれ今日は誰が
活躍してただの、サイドキック入りするならどの事務所かだのと、ヒーローのことを話題にす
るのが普通なのに。
「うーん。確かにオールマイトのことは、すごいなぁとかは思うけど。別に好きってわけでも
無いかなぁ。他のヒーローも、まぁ、似たような感じかもしれない」
「えっ、そうなんですか?」
「意外?」
「だって灯志くん、人助けしてるんですよね?私を助けてくれたみたいに」
「それってヒーローになりたいからじゃないんですか?」と渡我さんは首をかしげる。
「将来ヒーローになるなら、ヒーローのこと好きだったりしないんですか?」
「免許は取るつもり。でも、ヒーローになりたいわけじゃないんだ、俺」
「??? 同じじゃないです?資格取るのと、ヒーローになるの」
「俺にとっては違うことなんだ」
「んんん……?でも……」
渡我さんは傾げていた首を更に傾けた。困らせてしまったようだ。
――俺がヒーローになる理由。俺が人助けをしたい理由。
その根本にあるのは、俺の過去の経験だ。
だがそれは、人に聞かせて面白い話じゃない。……何より話したくない。
でも渡我さんは興味津々のご様子……さて、上手く説明できるかな。
■
その後、病院の面会時間が終わり、渡我さんは、明日も来ます、と言って帰っていった。
昨日までと比べるとちょっとテンション低かったと思う。やはり俺の自分語りが御気に召さ
なかったんだ。 途中から無表情になってたし。
それでもまた来るって、なんかもう渡我さん、ここに来るのを日課にする気では?一昨日な
んて塾あるとかで会話できたのは10分も無かったのに。
本格的に説得しないとマジでヤバいかもしれない。ここまで来るのに時間もお金もかかって
いるはずだし、何より本当に渡我さんが受験失敗したら、きっと俺は俺の責任にする。
「なんか俺、胃が痛くなってきた……かも」
【そうか、ならば代われ。残りのりんごは我が堪能する】
「いやそれ消化するのは俺の胃だからね結局!」
……好きなヒーローの話題は結局弾まなかった。りんごも丸1個残ってしまった。
と言うか、何名か俺でも知ってるメジャーなヒーローの名前を出してみたけど、渡我さんは
その殆どを知らないか、小耳に挟んだ程度の知識しかないようだった。
「……渡我さん、ヒーローにあんまり興味ないんかな」
【ふむ、気持ちは解らぬでもない。ヒーロー飽和社会、等と言うのであったか?今の時代は。
何処を見やっても英雄気取りの愚物が群れを成しているなど、不快の極致である……】
「まあ、昨今ショービズ色が強過ぎなとこはあるよね」
自分から降った話題にもかかわらず(普段とは違って)彼女自身が聞き手に回るという逆転
現象……。それだけ渡我さん本人がヒーローに関心が無いということだ。
俺に関してなら、それが自分が興味の無い事柄でも知りたいってことなのか。それほどまで
に俺を調べ尽くして、彼女はどうしたいのだろうか。
「
【気付いたか】
「まあ、ね。渡我さん、多分“隠す”のが上手いんだ」
……最初から、違和感はあったんだ。今まで人助けをする中で、多くの人と関わって、たく
さんの笑顔を見てきた。だから、その人が
「あまりに切り替えが早かったのには驚いたけど……俺が家族の、両親のことを訊ねた時の、
あの一瞬……渡我さん、表情が無かった」
【凄然たる面貌であったな。――あの人形のような笑みは、正しく仮面だったということだ】
「仮面、か。…………なぁ、シェム・ハさん。俺は……」
――なんか、それは嫌だ、と思う。
「心から笑えないなんて、そんなのは悲しい。――俺はあの子を、笑顔にしたい」
【フン、好きにしろ。我はあの娘がどうなろうと知ったことでは無い】
「冷たいなぁ」
【我にヒトの義理など期待するでない。我神ぞ?】
「そういうとこだぞ駄目神」
■
「5個はやっぱり多かったですね。食べ切れないのはいけないです。反省、反省です」
でも、今日も灯志くんのことをいっぱい知れました。楽しいなぁ、嬉しいなぁ。
家に帰ってベッドに倒れ込む。腕を伸ばして枕を指に引っ掛け、引き寄せて抱きしめる。
大きさが足りない。枕を放り投げ、布団をかき寄せる。重みが足りない。
「……またぎゅってしたいなぁ」
あの日の彼の身体を思い出す。ボロボロで、砂と埃でドロドロで、血と汗の匂いがして、
とってもステキだった。
二人いっしょに倒れた時は、本当に押し潰されるかと思った。背中がドンッてなってズキ
ズキして、一瞬息が詰まりそうになって……でも血の香りがお鼻いっぱいに広がって、すぐ
にどうでもよくなった。
そして、ぼんやりしていく頭でもはっきりと覚えていられた……舌に零れた、鉄の味。
「…………また飲めないかなぁ」
あの時は死ぬと思って、助けられて、助けてくれた人が死にそうで、いっぱい血が出てて
ドキドキして、受け止めて、受け止めきれなくて、痛みと血の匂いでクラクラして、まだ私
生きてるんだってやっと解って――そんな具合に頭の中がぐちゃぐちゃでした。
だから、吹き出すほどに流れてた彼の血を見ても、それを飲みたいって気持ちが湧いてこ
なかった。なのに。
そっと、自分の唇に触れる。
あの時、私は初めて出会ったばかりの男の子に、命を救ってくれたばかりの人に無意識で
“キス”をしたワケデスネ。 ム・イ・シ・キ・で。
――う゛ぅ゛う゛う゛う゛う゛~~~~ッッ!!恥ずかしすぎるぅぅ!!!
ナイ!我ながらナイです!少女漫画でだってそんなあっさりとか早々無いです!
あ、でも直接ちうちうしたわけじゃないからノーカン? 間接キス?みたいな?……でも
やっぱり恥ずかしいです……っ!
ついついベッドの上でぐにゃぐにゃしちゃう。布団にぐいぐい埋めてみても、熱くなった
頬っぺたはなかなか冷めない。きっと今の私、りんごみたいな顔になってる。
もしも灯志くんに今の私を見られたら、はしたない子だって思われちゃうかなぁ。
「……それはヤダなぁ」
起き上がって姿見を見る。笑ってみる。いつもしている『普通の笑い方』。ほっぺをぐに
ぐにしてもう一度。してはいけない『普通の笑い方』。
「むぅ、やっぱりちょっとヘタっぴになってますね……」
灯志くんに出逢ってから、段々といつもしている笑顔を作るのが難しくなってきてる。気
を抜くと直ぐしてはいけない笑顔になりそうになる。
今日もかなりヤバかったです。あんなカッコイイことサラッと言わないでほしい。 でも
本当はもっと言って欲しい私もいます。悩ましいです。
灯志くんといると、笑顔を作ることが苦しいと思ってしまう。『普通』でいることが、い
つもよりずっと辛いと思ってしまう。こんなの、灯志くんの所為じゃないのに。悪いのは彼
だなんて思いたくないのに。
いっそ全部見せれば楽になれるかな……なんて期待しないほうがいいんだろうなぁ。だっ
て、私の普通は誰もが変だって言う。異常だって怯える。
灯志くんなら大丈夫?でも彼もそうだったら、私はきっと――。
私が『普通』だったなら、こんな気持ちにはならなかったのでしょうか。
「私はこんなに普通なのに」
彼へのこの気持ちは、日に日に膨れ上がっていく。 きっと恋 なんだと思う。
だと思う、なのは、だって私はもうサイトウくんが好きなのです。あの日だって、サイト
ウくんと同じことをしようと思って隣町までお出掛けしたのです。
それでヒーローとヴィランの戦いに巻き込まれて、灯志くんに助けられて。
・・・・・。
「自分でも薄々分かってましたけど……惚れっぽいにも程がありません? 私ってば」
一度に二人の男の子を好きになるなんて、これもきっと『普通』じゃない。
私は灯志くんが好き。サイトウくんも好き。小鳥さんも猫さんも、何かのドラマで真っ赤
なドレスが似合ってた女優さんも、ザッピングしてて目に入ったボクサーさんも(名前は憶
えてないけどボロボロでかっこよかったので)、
も(目から血を飛ばすのがカアイイので)好き。
私は好きがいっぱいあるのがイイのです。好きにいっぱいなれるとイイのです。
だから、好きを比べるのは、どっちが好きかなんてことは、あんまりしたくない。気が乗
らないのです、サゲぽよです。
でも普通の私も、『普通』にしないといけない私も、恋は特別だ、って認識は同じ。
だから特別がいくつもあるのは、やっぱりきっと『普通』じゃない。
「ヤダなぁ……。やらしいなぁ、私……」
……今日はもう、眠っちゃいたいなぁ。でもお風呂は入らなきゃ。ああ、ご飯もまだでし
た。でも今リビングに降りたらお母さんに叱られる。「またお見舞いに行ったの」って。
あの日は灯志くんのことばっかり心配してたくせに。私が無事で良かったって言ってくれ
たけど、その後すぐお父さんといっしょに「お前のせいで彼が死んだらどうする気だ」なん
て、まるで私が悪いみたいに責めてきて。灯志くんの目が覚めた時なんて、露骨にほっとし
てたし!お見舞いだって最初は「ちゃんと謝るんだぞ」とか「あちらに失礼の無いように」
とか必死だったくせに十日経った今は「迷惑だから止めなさい」とか「そんな事より勉強し
なさい」とか!!自分たちは灯志くんが起きてから3日目に行ったっきりなのに!
灯志くんに三人揃って頭を下げた――私は無理矢理下げさせられた――私たちに、灯志く
んはすっかり困ってしまってた。「自分がやりたいことをやっただけ」って、私に言ったの
と同じことをお父さんとお母さんに話して、二人は謙遜してるんだって受け取ったみたい。
「ご迷惑をおかけしました」って逆に頭を下げた灯志くんのことを、二人は「よい子」だ
とか「若いのに出来た少年」だとか言ってベタ褒めした。ちょっとムッとしました。ああ、
「うちの子とは大違い」とかも言ってました。すごいイラッとしました。
――灯志くんはずっと苦笑いだったので、好印象では無かった筈です。ザマァです。
……イケナイ、イケナイ。グチグチネチネチ言っちゃうのはカアイクないです。落ち着く
のです、私。スゥーッ、ハァーッ、です。
灯志くんは私が嘘をついてることに気付いてるかな。お母さんもお父さんも、本当は私が
灯志くんのところに行くのに反対してるの。
もしも気付いてたなら……、でも、例えそうでも灯志くんは明日も笑って私を迎えてくれ
る、そんな気がします。
だって、灯志くんは強くて優しくてカッコよくて……灯志くんは、私の――
『違うよ。俺はヒーローなんかじゃない』
不意に、今日の灯志くんとのお話が
『渡我さん。俺はね、
『好きだと……思える?』
『俺は俺のこと、あんまり好きじゃないってこと』 そう言って灯志くんは窓から遠くの景
色を見つめてた。まるで、何か大事な思い出をそっと取り出すみたいに。
『でも、こんな俺のことでも大切だと想ってくれる人たちがいるから』
悲しそうな、寂しそうな、なのに笑ってて……出逢ってから初めて見る表情だった。
『みんなが好きだって言ってくれるから、俺は自分を曲げない』
『…………』
『この先ずっと好きになれなくても、せめて俺は俺であることを貫こうって決めた――それ
がたまたまヒーローみたいな生き方に見えてるだけ』
また新しい灯志くんを知ることができた――それはとってもうれしかった、はずなのに。
『
救うヒーローだなんて烏滸がましいでしょ?』
そう言って力無く笑ってる灯志くんの顔を、私はまっすぐに見れなかった。
「……スキじゃない。スキじゃないです、あんな……あんなの……」
どうしてこんなに胸が痛いの?
どうして知りたくなかった、なんて思っちゃうの?
どうして好きじゃないなんて感じちゃうの?
私は灯志くんのこと好きなのに!
「分かるのかな……。
でも、それはダメなのです。それは『普通』じゃないから、『普通』じゃないことしちゃ
いけないから。お母さんもお父さんもみんなみんなそう言うから。
我慢しなくちゃ……我慢しなくちゃダメなんです。
「ガマンシナクチャ……。ガマンデス……、ガマン……」
震え出した身体をぎゅぅっと丸める。抑え込むように。
……一階からお母さんが私を呼ぶ声が聞こえる。お父さんが帰ってきたみたい。
一人の時間は終わり。ここからは『普通』の時間です。
絶対お説教されますよねぇ……ハァ。
思った通り、二人揃ってガミガミ言ってきました。
違います、勉強サボる口実なんかじゃあないです。 え、受験終わるまでお見舞い禁止?
でないと外出自体禁止する? 酷いです、あんまりです。
受験勉強はちゃんとするからと、とっても頑張って、なんとか週2日、年末年始はダメ、
でお互いに妥協しました。 うぅ、最低でも週3日は欲しかったです。
灯志くん、きっとガッカリしちゃいますよねぇ……。
と思ってたら次の日、灯志くんから「再来週までには退院すると思う」と言われました。
■
「・・・・・お見舞いって口実無くなっちゃうじゃないですかーーー!!?」
「えっ、口実って何!?どういうこと!?」
【ハハハハ、馬脚を現したな小娘。愉快である】
トガちゃんの両親かなり嫌な感じになっちゃったな…アンチ・ヘイト付けるべきか。意見をください偉い人。
ちょこっと用語解説
☆LANE:
みんなのスマホに入ってるだろう、緑に白吹き出しのアイコンのコミュニケーションアプリ。文面に迷うとついスタンプ連打しちゃうよね。
☆Yo!Tube:
世界的な動画サイト。侍が刀で大根切ってる動画とかある。
☆目から血を飛ばすトカゲ:
サバクツノトカゲのこと。北米から中米にかけて生息する爬虫類の一種。目から血を飛ばすと言っても空裂眼刺驚よろしく眼球から出してる訳じゃない。最大射程は1mだけど体内の3分の1の血液を消費する、負担の大きい超必です。