少年少女のアカデミアには血が流れている   作:gamama

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すっ飛ばし日常回。原作で言うと雄英入試ちょっと前まで。


でもデク君はまだ出ません()


EPISODE 3 神話前夜

 

 

 

 

 

 

 ――とある少年と少女の劇的な邂逅から、1年と少しの月日が流れた。

 

 

 

 

         「「「「「「かんぱ~~~い!!」」」」」」

 

 

 

 

「いやぁ、今年も大変だったなぁ。あ、このタコのマリネ美味い」

 

「『ノイズ』の発生件数、去年から増え始めているからなぁ……。あー休み欲しい」

 

「そこのカプレーゼ取ってくれる?」

 

「俺らより調査部にくれてやるべきだろ……。本部へのハッキング件数の方がやべーぞ、右肩

上がりだ。 ん、なんだこれ詰め物?」

 

「バロティーヌっていう料理ね、それ。鶏肉や鴨肉で野菜やミンチを包んで……」

 

「怪しいのは――だけど、尾っぽが掴めないんだよな……。よっぽどがいると見たね、俺は」

 

「例の調査も、その後足取りが追えなくなっちゃったものねぇ。 まさかアジトごと自爆され

るとは……」

 

「はい、不覚を取ってしまいました。忸怩たる思いです」

 

「小川さんは悪くありません。「()()()()()()()()()()()()()()()()()()」と、そう仰ってい

たでは無いですか。仲間を軽々に切り捨て、(あまつさ)え玉砕まで強いる……敵方がそのような悪鬼

外道の(やから)と分かっただけ収穫です。より一切の躊躇なく、この身を刃と研ぎ澄ませることが

出来るというもの!」

 

「あまり気負い過ぎるなよ、翼。 分かっているとは思うが、相手の正体、居所を突き止めた

としても、お前を出向かせるわけにはいかんぞ」

 

「……………………承知しています。 ですが、『ネフシュタン』は既に起動しているはず。

相手が使用してくる可能性は十二分にあるのでは?」

 

「だぁ~い丈夫よぉ、翼ちゃん。ノイズが相手じゃないのなら、弦十郎くんが勝つに決まって

るじゃない!」

 

「それは……まあ、確かにそうですが」

 

 

 

「もぐもぐ…………、んっ。 灯志くんのお義父さん、そんなに強いのです?」

 

 

 

「そうよ~?この天才了子さんにさえ理解不能なほど鬼強(おにつよ)なんだから!なにせ、あのオールマ

イトと真っ向から殴り合えるくらいだもの!

 

「……えぇっ!!?それ本当ですか!?」

 

「ハッハッハ。了子君、あまり話を盛らないでくれるか。それは彼と組み手をした時の話だろ

う?あの時、俺は全力を出したが、あの人はまだ余力を残していた。俺などはまだまだ、遠く

及ばんよ」

 

「つまり殴り合えることは事実なのよー……」

 

「はえー……すっごいですねぇ」

 

「それと、弦十郎くんはお義父さんじゃあないから。いいわね?被身子ちゃん?」

 

「灯志くんはそう呼んでますよ? ねぇ灯志くん?」

 

「…………………………」

 

「灯志くん?どうしました?食べないのです?このグラタンとか美味しいですよぉ」

 

 

 ――どうしてこうなった。

 歌満地灯志は楽しい楽しいはずの『()()()()()()()()()()()()()()()クリスマスパーティー

兼忘年会の席で、独り、頭を抱えるのであった。

 

 

 

   ■

 

 

 

 俺と渡我さんの“話し合い”が一先ずの決着を見た後、今日この時までに何があったのか。

 全てでは無いが、順を追って話していこう。

 

 

 まず、あの日、俺の退院は一日延びた。さもありなん。

 左腕は5針ほど縫ったが、後遺症は無い。念のための様子見入院という奴だ。問題だったの

は、主治医の先生と応急手当てに来てくれた看護婦さんを説得することだった。事情はどうあ

れ、俺と渡我さんの間に起こった出来事は、傍から観れば自殺未遂か殺人未遂か、と言った具

合にしか受け取れなかっただろうから仕方がないのだが。さいわいお医者さんも看護婦さんも

話の分かる方だったので、協議は割とスムーズに進んだのだが、やはり保護者に連絡しないわ

けにはいかないと言われ、これを回避するのが一番困難を極めた。俺の方は兎も角、渡我さん

の御両親の耳に入れば家庭崩壊は確実だ。……それだけで済めば――渡我さんの親が渡我さん

の言う通りの人たちならば――まだマシかもしれない、と、内心そう思ってしまったが、俺は

努めて考えないようにした。

 

 俺と渡我さんの個人の問題であり、事件性は無いし、既に互いの間で解決し改善策も決めて

いるからと、何とか渡我さんの御両親に話が行かないようにすることはできたが、ここで予想

だにしていなかった刺客が現れた。

 

 

「ふんふん、なるほど。なるほどねぇ~~…………灯志?」

 

「はい?」

 

「勘当」

 

「ナゼニホワイッッ!!?」

 

 

 母さんが忙しい中時間を割いてサプライズで迎えに来てくれたと思ったら縁切りを言い渡し

てきた。何が起こったか分からなかったぜ……。

 

 

「そんなの決まってるじゃない。――乙女心を袖にしておきながら想わせぶりなこと囁いて、

Wで泣かせちゃうような男はウチの子じゃありません

 

「その乙女に殺されかけたんですけど!?」

 

「殺されても死ななきゃいいのよ♡ 簡単でしょ?」

 

「出来るかッ!!っつーか出来てたまるかぁッッ!!」

 

「…………あ、あのぅ……」

 

「あー、被身子ちゃん?貴女は気にしなくっていいのよ~?」

 

「でも私……、その   灯志くんのことっ「イ イ ノ ヨ ?」

 

 

 渡我さんの謝罪を有無を言わせず仏陀斬った母さんは俺を病室から追い出した。

 

 

いやちょっと待っておかしくない!?

 

「おかしくないわよ~。ここからはガールズトーク♡男子禁制につき出ていきなさーい?」

 

「いやここ俺の病室なんですけど!ちょっ押さないでって!分かった、分かったから!」

 

 

 俺を追い出して二人で何を話していたかは今のところ聞いていない。ただ、それまで申し訳

なさげにしょぼんとしていた渡我さんは普段通りの……いいや、昨日まで以上に明るい渡我さ

んに戻っていた。

 

 

「灯志くんっ!!私、諦めませんからね!!」

 

「えっ」

 

刺して刺して刺しまくっちゃいますから!

 

「え゛っ!??」

 

「間違えました。押して押して押しまくっちゃいますから!

 

「……いったい母さんに何言われたの」

 

「んふふ……灯志くん、私ね?我慢するのはできるけど、我慢強い訳じゃないんですよ?」

 

 

 渡我さんはニタリと牙剥いて笑った。

 

 

「だから、灯志くんが白か黒かで答えを出してくれるまで、イイ子で待ってたりなんかしませ

ん。今は未だ、灯志くんが「好き」になれない私があっても――そんな私もまるっと含めて、

私を「好き」にさせるまでです!」

 

「……!」

 

「『恋は闘い』、なんですよ?灯志くん。 ぜぇーったい、貴方に勝ってみせますから」

 

 

「そーいう訳で、灯志くんに()()()()()()()()()()()()()()()()()ように、私頑張るので!

 ……ちゃんと、見ていてくださいね?

 

 

 そう言って、いたずらっぽく笑う渡我さんが、何だかちょっと可憐に見えて、あれ、俺今敗

北フラグ立ったか?、と思ってしまったことは、この先誰にも口外しないことに決めてる。

 

 

 とは言え、くぎを刺されたというか、母さんからある程度のルールのようなものを教示され

たらしく――あの時の俺の説得も功を奏したのだろう――ところ構わず血を要求することも、

断りも無く切りかかったり噛みついたりすることも渡我さんはしなかった。

 代わりと言っては何だが、俺も俺で、結果が善かろうが悪かろうが、彼女に対し心的負担を

かけた事実とその責任を負う形で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、彼女の吸血欲

求を受け入れることとなった。

 それ吸われ放題なのでは?と思うだろうが、これは渡我さんが自己の欲望をコントロールで

きるようになるための措置だと、あとで母さんにこっそり教えられた。確かに、吸血欲求と加

害衝動、どちらも抑制するにしても、渡我さんが自分の意志でそうしなければ、いずれまた限

界値を超えて爆発するだろう。

 そして、その時彼女の傍にいるのが俺だとは限らない。

 流石は母さんだ、ちゃんとしている。単に息子の奇妙な人付き合いを面白がってからかおう

としているわけでは無かったんだな。

 

 

「失礼ね、そんなこと考えるわけないじゃない。こちとら「デキる女」と評判の櫻井了子さん

よ? ……そ・れ・に♡ 将来的には被美子ちゃんが私の“”になるかもだし?今の内から仲

良し、しておいても損どころかメリットしかないでしょ~?」

 

「それが本音かヨッ!!」

 

――お義母(かあ)さんって呼んでもイイデスカ、お義母さん!

 

「渡我さん!?」

 

「ん~それはねぇ~~~…………モチのロンよ、被身子ちゃん!

 

お義母さん!

 

被身子ちゃん!

 

 

 がっしと抱き合う母さんと渡我さん。俺の中でハーさんが【……何だこの茶番は】と呆れか

えっていたが、正直俺もそう思った。ひょっとしてひょっとしなくても、波長が合うのか、こ

の二人。やばい、二人が組んだら俺や周囲の振り回され度が倍どころか乗になるのでは?

 

 結局のところ、母さんは渡我さんのことを気に入ったのだろう。今後も俺といっしょにいた

いと、臆面も無く言い切った渡我さんのことをあっさりと認めた。――ただ一つ、「デキる女

になりなさい」という条件を出して。

 

 

 まあ、そんな感じで。母さんによって恋の炎に油どころかガソリンハイオク満タンぶっこま

れた渡我さんは、その後、事あるごとに俺に対して、執拗なまでの乙女心大攻勢(ラブ・アプローチ)を仕掛けてく

るようになった。

 

 例えば、無事に志望校に合格し、高校生となった渡我さんだったが、部活動は行わずにちょ

くちょく俺の家に遊びに来るようになった。母さんは月の大半を二課本部か、近くの二課保有

のマンションで寝泊まりしてるのでこちらには帰ってこない。必然、俺と渡我さんの二人きり

が基本だった。二人でゲームをしたり、映画を見たり、宿題をしたり……。時々、母さんや、

俺の友人等も交えて、勉強会を開いたり、夕食を共にしたりもした。

 ちなみに勉強会の際の教え役は、基本的に俺、ごくたまに母さんだ。

 

 

「……薄々分かってました。分かってましたけど、教えられる側ですか私……高校生なのに」

 

「ハハハ、こちとら伊達に天才の息子やってないんだわ。 ……ところでそろそろ離れてくん

ない、渡我さん」

 

「ヤ、です」

 

 

 そして渡我さんは遊びに来ている間、積極的にスキンシップを取りにきた。この時は長方形

のリビングテーブルで、二人横に並んで勉強していた上に間隔を取らず密着してきていた。向

かい側に座ればいいのに。

 

 

「うふふ、お熱いわねぇ、お二人さん?」

 

「観てないで助けてくんないかな、母さん……。暑くなってきたんだけど……?」

 

「ふふ。楽しいねぇ、灯志くん。楽しいねぇ」

 

「……はいはい。それはそれとして手が止まってるよ?」

 

 

 これが4月半ばの出来事。以降、渡我さんの“密着攻撃”は、片腕にぎゅっと抱き着いたり、背

後から肩に顎を乗せたりと、段々と過剰になっていった……が、夏が終わるころには、俺はもう

慣れてしまっていた。

 悪いね渡我さん。もうその程度では俺は揺らがない!猛暑の中で毎度毎度ああも薄着で引っ付

かれれば嫌でも慣れるさ!

 なんて、心の中で叫んだが、今思えばこの時点での俺は大分やられていたというか、暑さでど

うにかなっていたんだと思う。父さんと『小林寺36室』を観てなかったら確実にヤバかった。

 ともあれ、「いまや俺のメンタルはタングステンだ」と意味不明なノリで高を括っていた俺に

渡我さんが新たな攻勢を仕掛けてきたのが9月の半ばを過ぎた頃だった。

 

 

「どうですか灯志くん!美味しいですかぁ?美味しいですよねぇ。 ね!」

 

「……………………美味しいけども、近い。食べづらい」

 

「えー。だって美味しそうに食べる灯志くん好きなんですもん」

 

「でも本当に美味しいわねぇ。 腕を上げたわね、被身子ちゃん。この子が御世辞抜きで料理を

褒めるってなかなか無いわよ?」

 

「ふふふ、灯志くんってば意外とグルメですもんねぇ」

 

 

 「男は胃袋で落とせ」とは誰の格言だったか。天高く馬肥ゆる秋に、渡我さんが打ってきた次

なる一手は“手料理”だった。

 正統派の肉じゃがに始まり、ハンバーグにポテトサラダ、カレーなどの定番のメニューから、

パエリア、ローストビーフ、豚の角煮といった凝ったものまで、手を変え品を変えての波状攻撃

が続いたのだ。ちなみに一番インパクトが大きかったのは、ボルシチなんて作ってきた時だ。色

が気に入ったので作ってみたくなった、とか何とか。流石に骨から出汁を取るのは時間が足りな

くて断念したらしいが、いやいや、本格的すぎるだろう。

 

 

『そりゃあ嫌でも舌が肥えるさ。どこぞの食神に付き合わされて美味いもん巡りなんかしてん

だもの。 なぁ?』

 

【遺憾である。誰が食の神だ】

 

 

 なんて言ってるハーさんだが、ペペロンチーノを供された時は、口にした一瞬、目を見開いて

いた。ペペロンチーノはその出来栄えによって作った人の調理の腕前が明確に分かる。そのまま

黙々と食べておきながら、最後には「稚拙なり」と、結局は毒舌を吐いていたが……明言すると

ハーさんが不機嫌になるのだけど……言語の神を少しでも閉口させたってことは、まあ、だから

して、そういうことだ。

 元々はどの程度のものだったかは知らないが、料理の練習をしているのだと、時折その白い指

にバンソコエードを巻いて恥ずかしげに言っていたので、すごく努力を積んだのだろう。

 

 料理の出来栄えも然ることながら、その熱意が一番、内臓に響いた。

 

 

 と、まあ、このような具合で、全力全開の好意に努力と研鑽とが加わり、さらに普段の渡我さ

んの言動や仕草が合わさることで、爆発的な破壊力を生み出しているのだ。

 

 ……正直に言えば、俺はもう何度となく彼女に()()()()()しまっている。不意に脈拍が上がる

かのような、あの感覚はまったく慣れない。

 慣れないと言えば、吸血行為もだ。他人に自らの身を(ゆだ)ね、何処をどう、いつ何時に命に触れ

てくるのか分からない――分からなくて不安を感じてしまう、その感覚が、やっぱり俺には好き

になれなくて、渡我さんに噛まれたり、切られたりする瞬間はどうにも身構えてしまう。痛みは

血を吸われている間に徐々に薄まっていくので、まだ幾らかは我慢できるが、その間はむず痒く

感じて仕方が無い。

 

 何より一番精神に悪いのが、血を飲んだ後の渡我さんは女の子が絶対に人前でしてはいけない

感じの顔になっていることだ。

 

 ――想像してくれ。頬を赤らめ、息を荒げ、目はとろりと揺れ動いていて、血で紅を引いたよ

うになっている唇は弧を描いて半開き……その隙間からこれまた紅く、濡れた小さな舌がほんの

少しばかり覗いているのだ。そんな、なまめかしいとか、妖しい色気があるとか、花も恥じらう

乙女に対して使っていい表現じゃないのに、そうとしか言えない表情で、彼女はこちらを見つめ

てくるのだ。

 どうだい、大変心臓に悪いだろう?

 

 それにしても、最初の内は「ごめんなさい」と言って、しずしずと口を付けていたのに、一ヶ

月経った頃には「もっとください」とねだり始め、今じゃ酔っぱらったかのようなだらしのない

顔で傷口を啜り、舐め回す始末。

 最近はもっぱら肩口から飲まれている。彼女なりに、人前に出た時に痕が目立たないように箇

所を選んだようだが、おかげで服の襟が伸びる伸びる。

 

 

「チウチウ……チウチウ……♡」(※吸血中)

 

「……もういっそ、家にいる間は上半身脱いでようかな」(※被吸血中)

 

「ぷはっ……それ、遠回しにおうちでしか飲んじゃダメって言ってます?」

 

「言ってるねぇ。 ダメかい?」

 

「ダメです。直視できないので」

 

「ひどくない?そりゃあ女子の前で半裸なんてアレだけどさ。でも、そっか……、そんなに見苦

しいかぁ……古傷とか結構あるもんね……」

 

「そんなことないですよぉ。それはチャームポイントですよ、灯志くんの!ていうかむしろ逆と

言いますか、つまり私絶対我慢できなくなりますもん!だからダメなのです!」

 

 

 それはどちらかと言うと男側が言う台詞では?、と言ったら再度噛みつかれて背中をバシバシ

叩かれた。

 

 

「灯志くんって、ちょーっとデリカシー足りないですよねぇ」

 

「そういう渡我さんは度々恥じらいってものを放り投げるよね」

 

――そこ含めて大好きですよ。灯志くん

 

「ッ……俺、」

 

「オレ?」

 

「…………俺ちょっとコンビニ行ってくるッ」

 

「あぁ~っ!逃げたぁーっ!」

 

 

 ……と、これが1週間前の出来事。この後、家に戻ったらまた血を要求されて、……俺が悪い

ので、彼女が満足するまでされるがままにした。適当に買ってきたスイーツも全部差し出した。

 

 この1年と少し、俺と渡我さんの交流はこんな感じで、新鮮な驚きとありふれた楽しみに満ち

た日々が続いている。もちろん、一事が万事この調子という訳では無い。互いの意見が食い違っ

て論争になることもあったし、些細なことで気持ちがすれ違ったりもした。

 それでも、今もこうしていっしょにいる。――友人として。今も、まだ。

 

 

 

    ■

 

 

 

 少し脇に逸れるが、真面目な話をする。

 渡我さんは、「好きだから」という理由で「傷付ける」が、逆に「傷付けたい」という理由で

「好きになる」ことはない。また彼女は一方で、「傷付いている」という理由で「好きになる」

し、「好きになる」ほど「傷付けたくなる」。つまり渡我さんの他傷行為は、彼女の愛情表現の

手段であると同時に、彼女の嗜好を満たす手段としても齟齬無く機能している。故に、「傷付け

る」という手段と「傷付けたい」という目的が、原因が同じでありながら両立してしまっている

のだ。だから渡我さんの発言は親愛と性愛とがごっちゃになっている節があるし、「好きだから

殺したくなる」という彼女の“敵意無き殺害宣告”は、その延長線上にある結果なのだ。

 

 渡我さんは――彼女は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、のだと思

う。少なくとも、彼女の両親からの愛は、渡我さん自身には愛として――それこそ、世間一般的

な『普通』の親の愛として受け取ることができなかったのだろう。例え、彼らにとって『普通』

であることが幸福で、根底にある思いが、娘に幸福であってほしいと願う、人並みの親愛だった

のだとしても、渡我さんを理解しようとすること無く、一方的に強制してしまった時点で、それ

はもう、どうしようもなく歪んでいたのだから。

 その歪みが、幼かった渡我さんに影響を及ぼした。もしかしたら、渡我さんの「好きな人と同

じになりたい」という変身願望も、彼女の“個性”や嗜好だけじゃなくて、それが原因の一つなの

かもしれない。渡我さんは周囲から言われるがままに『普通』であろうとした。それはきっと、

幼い渡我さんが無意識に、無自覚に、「『普通』になれば愛してもらえる」と、愛されることを

望んだが故の選択だったのだろう。渡我さんは多分、口では認めはしないだろうけど……彼女は

彼女の両親のことが、好きだった――好きなままでいたかったのだ。

 

 

 ということを、今日までの日々で理解した。理解はしたが、やはり納得はできない。

 

 で、何が言いたいのかと言うと、自惚れでなければだが、最初に彼女の愛を()()()()()受け止

めた人間は俺で、その愛に応えようとしている初の人間も俺ってことになる。つまるところ、俺

のそれは友愛、フラタニティだが、渡我さんにとっては初めて真っ直ぐに渡された愛情だったっ

てことだ。いや本当、自惚れで無ければ、だが。

 

 だから――納得はできないが、受け止めることは、したいと思う。

 

 愛に種類があることを、都合がいいと考えている俺は最低だ。それでも、俺は彼女の愛を受け

止めたい。卑怯者でも、煮え切らないクソ野郎でも、今彼女の傍に居るのは俺だけなのだから。

 

 ……何と言うか。渡我さんだけじゃなくて。俺自身も。

 

 

「…………重てぇ」

 

「ん? どうした、灯志くん。箸が進んでいないようだが」

 

「あぁ、いえ、大丈夫です。 少し考えごとをしてました」

 

「……被身子君のことか。 確かに、不安に思うのも無理はない。だが安心しろ!彼女の扱いは

あくまでも外部協力者だ。万が一、上が何と言ってこようが、そこは崩させん。無論、前線に近

づくことも無いように差配しよう!」

 

「ありがとうございます……いや、そっちは別に心配してないんですけどね。父さ……、んん、

弦十郎さんのことは信頼してますから」

 

 

 思考をいったん切り上げ、現在、というか目の前の現実に目を戻す。

 

 

「でもですね……ただでさえ責任重大なのに、また重たいものを背負ってしまったというか……

背負わせちゃったというか……」

 

「まあ、気持ちは分からんでも無いが……いやはや、“個性”ってのは、存外何でもありなのだな

と、俺も改めて思い知らされたよ」

 

 

 二課の職員のみなさん――今話してる相手はオペレーターの友里さんだ――と楽しげに談笑す

る渡我さんを見やり、俺はため息をつく。父さんも神妙な顔になる。

 

 

「他人に“変身”する個性……だがまさか、君の『奏血』まで使えるとはな」

 

 

 そう、色々ブッ飛んでいてもあくまで一般人の渡我さんが、世間にはその存在を隠蔽されてる

機密組織、特異災害対策機動部二課の、その本部にいる理由がそれだ。

 

 

 

 俺の“個性”、『奏血』は――()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 

 

 

 

 




くそっ、イチャつきやがって…………!!!!!!
自分で書いといて何だが、腹立つ。


それはさておき、ついに『シンフォギア』主人公ズの一人目が登場。
最初はこの人、ズバババン……もとい翼さんです。なお、本格的に話に絡むのは次回以降です。
司令と了子さん以外の二課のOTONA組もこれで揃いましたね。原作だと他のスタッフはモブなのですが、オリキャラにするかどうかは検討中。絶対手に余るし…。

そしてとうとうオリ主の個性も開帳。まぁ、読んでくれてる皆さんの中には予想ついてた方もいるんじゃないかな。これも詳細は次回です。


ちょこっと用語解説:

☆ノイズ:

 『シンフォギア』世界にて、遥か昔からちょいちょい存在が確認されてきた未確認生命体。でも実は生物じゃない。人間が触れたら死ぬ。人間に触れると死ぬ。そして炭素になるので微妙に地球環境に優しい。つまり人間だけを殺す兵器かよぉ!

☆特異災害対策機動部二課:

 『シンフォギア』世界の日本にて設立された、ノイズが出現した際に出動する政府機関。ノイズ発生時の避難誘導や被害状況の処理などを行う一課とノイズへの対抗手段の研究と機密情報の処理を行う二課の二つの部署があり、世間には一課のみがその存在を公表されている。理由は、二課が保有するシンフォギアが、その圧倒的戦闘力故に現行の憲法に抵触しかねないから。体を張ってるのは一課も二課も同じだが、二課の活動は研究費とかで資金が嵩むため、その存在を知る政府関係者からは略して「特機部二」……つまり「突起物」と蔑称で呼ばれている。

☆小林寺36室:
 
 ちょっと名前変えてるけど実際にあるカンフー映画だよ。面白いよ。

☆ボルシチ:

 名前だけは聞いたことあるって人は多分多いと思う、ロシアやウクライナの郷土料理。端的に言うとビーツという野菜の煮込みスープ。基本はめっちゃ紅い。
(あとトガちゃんは公式でザクロが好物だけど、日本産のザクロって酸っぱいのが多いんだよね。ボルシチも酸味のあるスープだから、色も相まって多分気に入るんじゃないかなと思ってのチョイス。)

☆バンソコエード:

 絆創膏のこと。 ちなみに筆者は満月ちゃんよりめろこの方が好きでした。そこは円ちゃうんかい……というか、本当の自分を隠していた点がトガちゃんと同じですよね彼女。って本文書いた後で気付きました。


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