少年少女のアカデミアには血が流れている   作:gamama

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ちょびっと時間戻って前回の前に渡我さんの身に何が起きたのか、という話。

超短いけどようやくまともな戦闘描写が入った。これホントにバトルもの×(かける)バトルものか?



神話前夜②

 高層ビルの森の中、広い車道の上で二人の剣士が――歌(・)い(・)な(・)が(・)ら(・)対峙している。

 

 一方は少女。SFめいた装甲とボディスーツを身に纏い、深く濃い青色の、絹糸のような

長髪を、左頭頂部付近から一房(ひとふさ)、風になびかせている。

 一方は少年。こちらは同じ青ながらも、若干緑がかった、透明感のある色合いの短髪で、

ごく普通のシャツとスラックスの上から、血のように赤い籠手を着けている。

 

 両者の得物も対照的だ。少女が握るは白銀の刃、振り抜くたびに風が鳴る。少年が握るは

深紅の刃、振り切るたびに風を割る。

 空を切る音、地を蹴る音、硬質な衝突音が、両者の口ずさむメロディーに合わせて、激し

い波のように空気に打ちつけ鳴り響く。

 少女が右の袈裟斬りから斬り上げを放てば、少年は後方に軽く跳ねるように下がり、少年

が脇構えのまま間合いを詰め、刃(・)を(・)伸(・)ば(・)し(・)て(・)腕を狙うも、少女は先んじて鍔元に飛び込んで

これを撥ね上げる。体勢を崩され、懐に迫られる少年だが、即座に彼の剣が脇(・)差(・)程(・)度(・)の(・)長(・)さ(・)

に(・)縮(・)む(・)。少女の放った閃光のような突きをギリギリでいなし、二度、三度と後方に大きく転

回した少年は、今度は手にした刀を身(・)の(・)丈(・)ほ(・)ど(・)も(・)あ(・)る(・)大(・)剣(・)へ(・)と(・)変(・)形(・)さ(・)せ(・)た(・)。

 これを見た少女も、自らの剣(つるぎ)を巨大化させる。双方の刃にエネルギーが収束し、片や青、

片や赤の稲光が迸る。二人は互いに大上段に構え、同時に打ち下ろした。

 

           『蒼ノ一閃』 『紅ノ迅雷』

 

 放たれたエネルギーは“飛ぶ斬撃”となって、空中でぶつかり合い、爆発した。吹き荒れる

熱と光、巻き上がる粉塵を引き裂いて、少女と少年は再度、刃を交わす。

 

 両者は一進一退の攻防を続けている様に見える。だが――互いに険しい顔つきながらも――

乱れ無く構える少女に対し、少年は呼気を荒げ始めている。

 

 

「…………フッ!」 好機と見たか、少女が一気に駆け出した。

 

「! くっ!」 対して少年も正眼に構え直し、前に出る。

 

 

 そして打ち合い、鍔競り合うこと数合、少女の剣(つるぎ)が少年の血の刃を弾き砕いた。 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 ――フォニックゲイン。

 

 それはすなわち、歌の力。

 

 

 適性を持つ者による歌唱――それに伴う特(・)定(・)振(・)幅(・)の(・)波(・)動(・)、及びその波動によって生じるエ

ネルギーが、フォニックゲインである。

 

 その最大の特性は、「聖遺物」を起動させることができる、というもの。

 聖遺物とは、世界各地の神話や伝承に登場する、超常の性能を秘めた武具・物品の総称。

いわゆる“オーパーツ”である。そのどれもが、現代の科学技術では製造不可能な異端技術(ブラックアート)の

結晶だが、今の世において発見され、回収されているものの多くは経年劣化や損傷により、

本来の力を失っている。だが、ただの一欠片、ごく僅かに残された力の残滓であっても、ひ

とたび起動すれば膨大なエネルギーを発生させる聖遺物は、新たなるエネルギー資源として

……そして、強力な兵器として、遥かな過去から今もなお様々な国が、収集と研究を続けて

いる。

 しかし、図らずも“個性”という超常を獲得し、1世紀以上が経った現代文明においても、

聖遺物の力を解放させることは誰にもできなかった。

 

 そんな現状を覆したのが、天才考古学者・櫻井了子。彼女の提唱した「櫻井理論」と、こ

れに基づき開発された“アンチノイズプロテクター”――FG式回天特機装束「シンフォギア」

は、その存在を知った各国首脳部を震撼させた。

 

 未だ以て、機械的に聖遺物を起動させることは、どこの国家や組織でも実現させることが

できておらず、唯一フォニックゲインを発生させることだけが聖遺物を目覚めさせる手段と

なっている。だがフォニックゲインを発生させ得る適性は先天的なものであり、これを持つ

者はごく僅かにしかおらず、おまけに持っていたとしても必ず聖遺物を起動させられるわけ

では無い。と言うのも、聖遺物は通常時は基底状態にあり、その聖遺物に共振・共鳴するこ

とができる“適合者”の歌で無ければ、励起状態にできないのだ。現代に至るまでその形状を

損なっていない「完全聖遺物」であれば、一度起動させることさえできれば、後は誰(・)で(・)も(・)使(・)

え(・)る(・)よ(・)う(・)に(・)な(・)る(・)のだが……こちらはそもそも起動に必要なフォニックゲインの量が半端では

無く、一個人の歌だけではまず不可能となっている。

 

 故に、普通の少女を通常兵器や強力な個性を持つプロヒーローをも上回る、“超人”に変身

させるシンフォギア・システムは、ノイズに対抗できる唯一の装備であるという以上に、聖

遺物という、化石燃料や核をも超える「新エネルギーの可能性」の成功例として、某大国を

始めとした諸外国から秘密裏の情報開示を迫られている。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「――と、ここまでは理解できたかしら?被身子ちゃん♪」

 

「はい!よく分かんないです!」

 

 

 母さんからの確認に、笑顔で堂々と答える渡我さんであった。

 

 

「あ、でも一個だけ分かりました!」

 

「あら、何かしら?」

 

「あ(・)の(・)風鳴翼さんが実は魔法少女やってるってことです!」

 

「……プッ、フッフフッンクフフフフnやぁだもう被身子ちゃんったらぁ! 笑わせないで

ちょうだいな! んふっ、ふふふっ」

 

 

 一瞬耐えるものの、こらえ切れず笑い出す母さん。周りの人も小さく吹き出す中、眉間に

しわを寄せ、若干青筋を立ててる者が一人。

 

 

「……。…………ッ!……………………!!」

 

「うん、気持ちは分かるけど落ち着こうか翼さん」

 

「・・・・・何を言うのっ。私は至って冷静よっ」

 

 

 二課クリパ兼忘年会の当日、午前10時。特異災害対策機動部二課本部・発令所にて。

 この時、この場に居合わせていたのは俺と渡我さん、母さんの他に、二課司令官である父

さんと、シンフォギアの装着者――奏者である風鳴翼(かざなりつばさ)さん、オペレーターの藤堯朔也(ふじたかさくや)さん

と友里(ともさと)あおいさんたちだ。前方の大型スクリーンには資料映像として、俺と翼さんの戦闘シ

ミュレーターを使った模擬戦の記録が映し出されている。

 

 

「ま、まあ、こんなトンデモ話、すぐ理解しなさいって言う方が無理があるわよね」

 

「途中、“FXで有り金全部溶かした人”みたいな顔になってたもんな……」

 

 

 渡我さんの反応に同意を示す友里さんと藤堯さん。あと藤堯さん、やけにピンポイントな

例え方だけど……。もしや実体験が?

 

 

「さて、ここからが話の肝よ。即ち、何故被身子ちゃんをここに連れてきたか、ってこと」

 

「え、え~~と……、私がその、てきごーしゃ? って奴だとか?」

 

「ん~……、まぁ、確かに、しっかり検査を行ったわけじゃないから、その可能性も無くは

無いけども。いずれかの聖遺物の適合者であっても、他の聖遺物の力まで引き出せるってワ

ケじゃないしねぇ……」

 

「当然です。どんな歌、誰の歌にも、聖遺物を起動させられる力が備わっているわけではあ

りませんッ。彼女の個性が横車(よこぐるま)なだけです!」

 

「ステイ、翼さんステイ」

 

   

 『変身』……、それが渡我さんの個性だ。他人の血液を経口摂取することで、その人と同

じ肉体に自身を変化・変形させる……という、発動型の個性。渡我さんの狂気を形作った要

因の一つでもある。色々と使い道のありそうな個性だが、「摂取した血の量が変身できる時

間に比例する」こと、「相手の衣服なども含めて変身し、この時元々着ていた服はそのまま

である」こと、そしてもう一つ、「変身した相手の“個性”は使えない」という制限がある

……はず、だったのだが。

 個性は異能の力であると同時に、その持ち主の身体機能の一つでもある。なので個性は、

筋肉などと同じで“使えば使うだけ成長する”のだ。渡我さんは俺の血を飲んだ後は、必ず俺

に変身していたそうで、やがて何時頃からか、変身中は俺の個性も使えるようになっていた

らしい。繰り返し俺に変身していたことで彼女の個性は成長し続けていたのだ。

 

 そして、彼女はとうとう、俺の個性『奏血』の真価をも引き出してしまった。

 

 

「“自身の血液中に特定振幅の波動(歌)を起こしてフォニックゲインを生成、血液ないし肉体を

基点として、制御・操作する”……、それが灯志の個性、『奏血』なの」

 

 

     ■

 

 

 ――事の発端は、14時間前に遡(さかのぼ)る。

 

 

「ノイズとは異なる、エネルギー反応を検知!」

「位置特定、座標出ます!」

「この波形パターン……。彼(・)です、司令!」

   [PLAYBLOOD]

「灯志くんかっ!またぞろ無茶をしでかしたか!? 了子君ッ!」

「もう通信入れてるわ!とは言っても、あの子こういう場合に出た試しがないけど……。  

あら?繋がったわね……。もしもし?今何してる…………はい?」

 

 その時の二課本部は、ノイズの発生時ほどではなかったものの、かなりてんやわんやだっ

たらしい。まあ、「何の変哲もないベッドタウンに突如としてノイズとは異なるエネルギー

反応を検知した」のだから無理もない。しかも、それが俺の『奏血』とほぼ同じ波形パター

ンで、その時俺は家で風呂入ってたのだから。

 のんびり半身浴してたところに本部から緊急通信が入ったもんだから、おのれノイズ許す

まじと思ったら、原因が俺と言われ、いや心当たり全然無いんですが!?と反論した矢先に

渡我さんから電話がかかってきて……。

 

 

『あ、灯志くんっ、どうしましょう!? わっ私、私……、おウチの屋根、吹っ飛ばし

ちゃいました!!』

 

「・・・・・What?」

 

 

 母さんと合流して渡我さんの家に急行してみれば、確かに屋根の一部が吹き飛んでいた。

そして屋根の無くなった箇所の部屋はぐちゃぐちゃに荒れており、そこかしこに血がブチ撒

けられていた。 

 渡我さんの話によると、この日も俺の血を吸った渡我さんは、自宅に帰った後、いつもの

ように自分の個性を使って自(・)身(・)の(・)肉(・)体(・)を(・)俺(・)と(・)同(・)じ(・)も(・)の(・)に(・)変(・)え(・)た(・)。そして歌いながら『奏血』

を発動したところ、体外に出した血液が赤い電光を放ったので、びっくりして腕を振り回し

たら、なんか爆発した、……ということらしい。

 

 渡我さんの証言から推察するに、今回初めて発生したフォニックゲインに驚き、『奏血』

の制御を誤ったのだろう。結果、行き場を失くしたエネルギーが体外で操作していた血液か

ら放出され、屋根を破壊したのだ。――つまり、俺も原因だった。

 

 騒ぎを聞きつけた当該地域担当のヒーローや警察もやってきて、もう本当に混沌だった。

聖遺物や異端技術が絡んでいない以上、二課が直接関わるわけにもいかず、俺と渡我さんと

母さんだけで、単なる個性事故だと関係各位に釈明するのは本当に大変だった。

 

 一番手を焼いたのが渡我さんの両親だ。

 何せ、渡我さんが俺の個性を使えるということは、渡我さんが俺の血を飲んでいるという

事実とイコールだからだ。その辺を上手く誤魔化すことができれば良かったんだが、そう甘

くは無かった。

 「何てことをしたんだ」「どうしてこんな馬鹿な真似を」「人様にとんだ迷惑をかけて」

とかとかなんとか。確かに、深く考えずに他人の個性で“遊ぶ”ようなことをしていた渡我さ

んにも非はある。だが彼女に己の個性の危険性をキチンと説明していなかった俺の方が、事

の責任は重大だった。なので、悪いのは自分だと土下座した俺に、彼らは目を白黒させてい

たが、直後「何故娘に自分の血液を飲ませたのか」と指摘してきて一寸窮してしまった。

 

 

「他人の血を飲むなんてこと、異常だとは思わないのかね君は?」

 

「いえ、それは……」

 

「まさかとは思うが、うちの娘に強要されていたりはしないだろうね? どうなんだ、被身

子!お前、彼に血を飲ませてくれなんて馬鹿なことを言ったんじゃないだろうな!?」

 

「……」

 

 

 渡我さんは黙ったまま、俯いてしまった。――嫌な流れだ。このままだと渡我さんは、彼

女が望んでもいないことを言ってしまう。あるいは、あ(・)の(・)時(・)の(・)よ(・)う(・)に(・)ハジケるだろう。どち

らに転んでも、これからの渡我さんは――

 俺はそう考え、一つの決断を下した。

 

 

「どうした被身子。私たちはお前のためを思って言ってるんだぞ!返事をしなさい!」

 

「そうよ被身子。どうなの?黙ってないで、何とか言いなさい!」

 

「…………っ、私 「俺が自分の意志で彼女に提供したんです」 !?」

 

「……何だって?」

 

 

 御両親の目が俺に向けられた。

 

 

「俺の個性は――御覧になったでしょう――とても強力なものです。そして渡我さん……娘

さんの個性は、条件さえ満たせば俺の個性を使える。な(・)ら(・)、使(・)わ(・)な(・)い(・)手(・)は(・)あ(・)り(・)ま(・)せ(・)ん(・)」

 

「……?いや、ちょっと待ちたまえ、君」

 

「ですが、強力な反面、制御が難しいのもまた事実です。だ(・)か(・)ら(・)こ(・)そ(・)、今(・)日(・)ま(・)で(・)長(・)い(・)時(・)間(・)を(・)

か(・)け(・)て(・)、二(・)人(・)で(・)切(・)磋(・)琢(・)磨(・)し(・)て(・)き(・)ま(・)し(・)た(・)。先程も申し上げた通り、今回の件は俺の説明不足に

因るものであり、彼女に罪はありません」

 

「だからっ!君はさっきから、何の話を――」

 

「娘さんはッ!」 俺は遮るために叫んだ。 「彼(・)女(・)は(・)俺(・)と(・)同(・)じ(・)道(・)を(・)行(・)き(・)ま(・)す(・)ッ!!」

 

 

 親御さんは、また目を白黒させた。

 俺はさらに言葉を重ねていった。

 

 

「俺(・)が(・)ど(・)の(・)よ(・)う(・)な(・)人(・)間(・)で(・)、(・)ど(・)の(・)よ(・)う(・)な(・)将(・)来(・)設(・)計(・)を(・)し(・)て(・)い(・)る(・)か(・)は娘さんから聞き及んでおいで

でしょう?――俺(・)は(・)将(・)来(・)、(・)ヒ(・)ー(・)ロ(・)ー(・)免(・)許(・)を(・)取(・)得(・)す(・)る(・)つ(・)も(・)り(・)で(・)い(・)ま(・)す(・)」

 

「……。……!?まさか、いや、いやいや待ってくれ。まさかそんな」

 

「娘さんの個性は、他(・)者(・)が(・)関(・)わ(・)ら(・)な(・)け(・)れ(・)ば(・)ま(・)と(・)も(・)に(・)運(・)用(・)で(・)き(・)ま(・)せ(・)ん(・)。俺の個性を使えれば、

それは彼女にとって大(・)き(・)な(・)ア(・)ド(・)バ(・)ン(・)テ(・)ー(・)ジ(・)に(・)な(・)る(・)んです」

 

「い、いやしかし」

「今(・)日(・)ま(・)で(・)本(・)心(・)を(・)告(・)げ(・)る(・)こ(・)と(・)が(・)で(・)き(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)のは、貴方方に反対されると思ったからでしょ

う。ですが、それは致し方が無いことなのです。だ(・)っ(・)て(・)、(・)『(・)普(・)通(・)』(・)で(・)は(・)無(・)い(・)で(・)し(・)ょ(・)う(・)?」

「ま……」

「俺はこう思うんです。出来るか出来ないか――そんなことは、やれば分かる!やらなけれ

ば、一生分からない!」

「…………」

「彼女は、俺にこう言ったんです。――頑(・)張(・)る(・)か(・)ら(・)、(・)私(・)を(・)見(・)て(・)い(・)て(・)く(・)だ(・)さ(・)い(・)、と」

 

 

 渡我さんの父親は、今度こそ絶句してしまった。母親の方も、吃驚仰天といった風だ。

 

 

「だから俺は、彼女から目を離すつもりはありません。これは俺が自分の意志で決めたこと

です。 もう一度言います。彼女は俺と、同じ道を行きます。子供の言うことと、信じられ

ないとは承知しています。それでも……どうか、彼女が努力していることだけは、分かって

ください」

 

 

 そう言って、俺は頭を下げた。すると、事の成り行きを黙って観ていた母さんが、俺の隣

に並び出て、同じように頭を下げた。

 

 

「私(ワタクシ)からも、お願い致します。――娘さんの気持ちを、聴いてあげてください」

 

「母さん?」

 

「い、いや……しかし、その、そのように頭を下げられましてもですね……」

 

「余所様の御家庭の事情に踏み込むこと、御無礼とは重々承知しております」

 

 

 「ですが」 母さんはそこで言葉を切り、顔を上げて、毅然とした態度で渡我さんの両親

に突き刺すような視線を向けた。

 

 

「子はいつか、親の元から離れるのが、遥(・)か(・)昔(・)か(・)ら(・)世(・)の(・)常(・)と(・)い(・)う(・)も(・)の(・)。お膳立てが過ぎるの

も、却って良ろしくないのではありませんこと?」

 

 

 流石母さん、と、思わず感嘆した。俺の本当に言いたいことを察してくれたようだ。

 

 

「我が子の行く末を案じ、正しき道を指し示すことは、親として当然のこと。しかし、子が

自らの意思と力で見つけ、考え、選んだ道ならば――その夢を支えてあげることも、また、

親の務めではないでしょうか」

 

「…………」

 

 

 困惑し、言葉を失った渡我さんの両親から半歩身体を逸らし、後ろにいる渡我さんに顔を

向けた。

 

 

「渡我さん。君の口からも伝えるべきだ。本当は、自分は何がしたいのかってことを」

 

 

 俺はそう言って、親御さんからは見えないように、片側のみ口角を上げてウインクしてみ

せた。……渡我さんならば、これで伝わるはずだ、という奇妙な確信があった。

 渡我さんは俺を見て、その普段鋭角な目付きをまぁるくしたが、すぐさまニコリと笑って

みせた。俺にはあまり見せなくなった、あ(・)の(・)笑(・)い(・)方(・)で。

 

 そして彼女は、一歩、踏み出した。

 

 

 

 

 

 数十分後、帰り道、母さんの運転するピンクの軽自動車の中。

 

 

「は~、やれやれ……。まったくもう、いつからあんな小狡い口の利き方をするようになっ

たのよ。お母さんポカンとしちゃったわ」

 

「いいだろ、別に。嘘は言ってないんだから」

 

 

 そう、俺は一つ足りとて嘘は言っていない。

 ただ、真実を省き、誤解し易いような言い方で事実のみを列挙しただけだ。言葉では無く

て単語、もとい単(・)な(・)る(・)語(・)り(・)を並べただけ、とも言う。

 

 

「勝手に勘違いしたのは向こう様さ」

 

「こまっしゃくれたことを……。思惑通りにならなかったらどうするつもりだったのよ」

 

「その時は、嘘(・)で(・)も(・)本(・)当(・)で(・)も(・)な(・)い(・)こ(・)と(・)を言ってたさ。同じ道を行くからって、必ずしも同じ

歩き方をするわけじゃないからね」

 

「まあ、確かに、未来のことはだれにも分からないものねぇ。まっ、上手くいったことは、

いったんじゃない? 被身子ちゃんの身の振り方以外はね」

 

「…………」

 

 

 俺は後部座席に座る渡我さんを、肩越しにのぞき込む。

 家屋が一部崩壊、自室を失った渡我さんはしばらく俺の家に泊まることになった……とい

うのは理由の半分。『奏血』のフォニックゲインを内外に浴びた渡我さんの身体の状態を検

査するために連れ出したのだ。……年頃の女子が保護者の監督下とはいえ男子の家に外泊と

言うのはアレもアレだと思うのだが、よく許可したなぁ、あの御両親。

 

 

「ごめん、渡我さん。他にマシな理由と言うか、言い訳がさ、思い浮かばなくって」

 

「ん-ん、いいのです」 渡我さんは首を横に振った。 「考えてくれたんですよね?私も

灯志くんも、自分に嘘をつかずに済むように。これからもいっしょにいられるように。こー

いうのも、折り合いをつける、ってヤツですよね?」

 

「……俺と君と、君の御両親の間ではそういうことにできたけども。俺が君の、これからの

行く先を勝手に決めたことには変わりない……。やっぱりどうにかして、渡我さんにはこれ

まで通りの生活を――」

 

「私も取ります、ヒーロー免許」

 

 

 トンネルに入った。走行音が反響する中、車中に沈黙が広がる。

 

 

「……プロヒーロー免許取得は国家試験だ。仮免の時点で合格率は5割弱……、一般からの

応募は書類選考だけでなく素行調査もあるから更に厳しい。基本的にはヒーロー養成コース

のある教育機関に在籍していることが、取得の前提になる。でも、渡我さんの高校は普通科

だけだ。――これ、分かってて言ってる?」

 

「灯志くんが取るなら私も取ります」

 

「転校……、編入することになるんだよ?」

 

「灯志くんと同じ学校に行きます」

 

「二年次から始めることになるんだ。人一倍がんばらなきゃ留年だ」

 

「じゃあ入り直します。それで灯志くんと学年も同じです。わぁ!我ながらナイスアイデア

ですねぇ、これ!」

 

「――っ嫌いだろ、こういうの!」

 

 

 耐えきれなくなって、声を荒げてしまった。

 

 

「分かってるだろ?あんなの問題の先送りなんだ。はっきり言ってしまいたい癖に、ビビッ

てそれもできない!結局は曖昧なままだ!こんなぬるま湯の長風呂に、君が付き合う必要は

ないんだ!だいたいヒーローなんて好きじゃないんだろっ!?こんな押しつけはっ」

 

「灯志くん」

 

 

 ――今、何の話してます?

 渡我さんにそう言われて、俺は停止してしまった。走る自動車の中で、まるで自分だけが

慣性の法則に置いていかれたようだ。

 

 

「……えっ」

 

「ヒーローがどうとか、将来がどうとか、そ(・)ん(・)な(・)の(・)ど(・)う(・)で(・)も(・)い(・)い(・)のです。 私ずっと言って

ますよね、「好きな人と同じになりたい」って。その為なら、私、どんなことでもするので

す。ずっとそういう私を見せてきましたよね?」

 

 

 渡我さんは何時に無く真剣な瞳を、俺に向けていた。

 ああ、そうだ。この人はそういう人だった。自分の「好き」のためなら、どこまでだって

突っ走れる、突き抜けてしまう。

 俺は、君のそういうところを――

 

 

「確かにまた好き勝手してくれたのは、ちょっとお(・)こ(・)ですけど。でも、初めて灯志くんから

“私と同じが良い”って言ってくれましたから」

 

「あ……」

 

 

 ……そうか。俺はただ、渡我さんに自分を誤魔化して欲しくなかったから、ありのままの

渡我さんを虚偽と隠したくなかったから、ああいう言い方をしたのだけど。そういう受け取

り方もできたのか。

 

 

「だから私、ちっとも嫌じゃないのです。無理強いされたなんて、思ってないですよ」

 

「…………」

 

「目を離すつもり、無いんですよね?だったらちゃんと見ていてください。ずっと傍にいて

ください。 ……今更、嘘になんかしないデスヨネ?」

 

 

 何も言えず、閉口する俺に、渡我さんは呆れたように溜息をついた。

 

 

「だいたいですねぇ、こうなるって分かってて、分かった上でやったんじゃあないですか?

それで、やった後でそんな風にウジウジするの……」

 

 

 そこで渡我さんは言葉を区切り……、一切の感情が抜け落ちた顔になった。

 

 

「――灯志くん、カッコ悪いですよ」

 

「ぐっはぁああぁぁ!!!?」

 

 

 かっこわるい?KAKKOWARUI!?誰だ俺だ誰が渡我さんが――――???!!

 

 

「……被身子ちゃん。 それ私も似たようなこと言ったわ、1年前に」

 

「マジですかお義母さん」

 

「マジもマジ♪大マジよ~~?」

 

「ダメダメじゃないですか灯志くん」

 

「ごふぅっ!」

 

 

 イッツァ、フェイタリティ…………!

 

 

「昔っからそうなのよねー、この子ったら。もう直んないと思うわ」

 

「別に直して欲しいとかいう訳じゃないですけどね。カッコ悪いとは思っても、それも灯志

くんですもん」

 

「はいはい、ご馳走様。 ――で?ここまで言わせて、まだうだうだ言うつもり?」

 

「…………………………」

 

 

 ――へんじがない。ただのしかばねのようだ。

 なんて、死んでるわけにはいかないな。

 

 

「……渡我さん」

 

「はい」

 

「俺と一緒に、……雄英、受験してくれますか」

 

「はいっ!                         ……………え、雄英?」

 

 

 頬を染めて満面の笑顔で了承してくれた渡我さんだったが、いくらか間をおいてきょとん

としてしまった。

 

 

「ヒーロー科あるなら何処でもいいって言ってませんでした?」

 

「まあ、そうなんだけど……、ワケあって事情が変わったというか……」

 

「事情?」

 

「雄英高校は広大な敷地を有し、教職員全員がプロヒーローでしょ?つ・ま・り~、何かを

守ったり隠したりするにはうってつけ……。そう思わない?」

 

 

 言葉を濁す俺に代わり、義母さんが口を開いた。

 

 

「隠す……?」

 

「『記憶の遺跡』、『深淵の竜宮』に続く、日本政府第3の“宝箱”……。その建設が進めら

れているのが、雄英高校地下深部なのよ。元は要人保護シェルターの建設計画だったのを、

いざって時に二課のサブシステムとして機能するように手を加えたという訳♪」

 

「???」

 

「竣工は来年5月を予定。その後二課と同等の機能を整備していく計画なの。当然、人員の

異動もある。じゃあ、もののついでということで、灯志は雄英に入学すればいいじゃないっ

て話になったのよ」

 

「……?……???…………????」

 

「義母さんストップ。渡我さん煙出そうになってるから」

 

 

 フクロウみたいに頻りに首をひねる渡我さんを見かねてタンマをかけた。いきなりこんな

話されても、ついていけないよな、そりゃあ。

 

 

「そうね。じゃあ、詳しい話は向こうに着いてからにしましょうか。悪いけどぉ、色々協力

してもらうわよ~、被身子ちゃん?」

 

「ふえ?協力……ですか?」

 

「そうよ。先ずはねぇ……――――脱いでもらうことになるわね?」

 

「…………えっ?」

 

 

 ――えええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!?

 

 車中に響き、道路に尾を引いて夜に消えてく、渡我さんの驚愕の叫び。俺は思わず、しわ

の寄った自分の眉間を指で揉んだ。

 

 

     ■

 

 

 そして義母さんに身体の隅から隅までメディカルチェックを受けた渡我さんは、こうして

自身の身に起こった出来事、フォニックゲインと聖遺物の関係性について説明を受けている

という訳である。

 

 

「はえー……全然知らなかったのです」

 

「まあ、渡我さんの前だと俺、本領発揮する機会無かったからね」

 

「私、出会った頃は「体から音が流れる」個性だと思ってました」

 

「俺はレコードプレーヤーか何かかな???」

 

 

 要するに俺の『奏血』は、生(・)身(・)で(・)シ(・)ン(・)フ(・)ォ(・)ギ(・)ア(・)と(・)同(・)じ(・)特(・)性(・)を(・)発(・)揮(・)で(・)き(・)る(・)という、自分で言

うのもなんだが、チートとしか言えない個性なんだ。尤も、幾つか制限と条件があるので、

戦闘力の面ではシンフォギアと全く同じというわけでは無いのだが。

 例えば、瞬発力が低い点。分類としては「発動型」の個性なので、発動させていない間は

普通の人間と然して変わらない。従って、最初から十分な力を発揮することが難しいのだ。

故に、渡我さんを助けた時は、瞬間的に絞り出したエネルギー全てを走ることに集中させた

ために、防御が疎かになって大怪我を負ってしまったワケダ。

 

 

「・・・・・」 渡我さんが何やら考え込んでいる。

 

「渡我さん?」

 

「……灯志くん、「血を操る」個性だ、って。前に私にそう教えましたよねぇ?」

 

「う、ごめん。フォニックゲインの説明をするのはちょっと問題があったから……。でも、

嘘は言ってないでしょ、嘘は」

 

「…………嘘は言ってないですけど。無・い・で・すけどぉ~~」

 

 

 憮然とした顔でこちらをじっと見てくる渡我さん。

 

 

「でも、やっぱり隠さないでほしかったです」

 

「うん、まあ、あ(・)あ(・)な(・)る(・)って分かってたならね?話していたかもしれないけどさぁ……。と

言うか、そもそも俺の関知しないところで俺に変身してたのは正直良い気しないよ?第一、

他人の個性使って何をしてたのかな?あ~ぁ、信用失くしちゃうなー」

 

「……うぅ」

 

「!?」

 

「うぅ、そんな言い方って無いですよぉ。酷いです。悪いことなんてしてないのに……」

 

 

 いきなり目を潤ませてべそをかく仕草をする渡我さん。

 

 

「っ! ごめん、言い過ぎたy 「まあ、嘘泣きですけど」 ぅオイッ!」

 

「ふふふ、これでおあいこですよぉ。 いいですよねぇ?灯志くん?」

 

「……っっっっとに、君はッ、ホントッッもう…………はぁぁぁぁぁぁ…………」

 

 

「・・・・・俺たち、いったい何見せられてるんだろうな」

 

「やれやれ……。最近の若いのってのは、みんなこうなのか?」

 

「多分違うと思います、司令。……多分ですけど」

 

 

「んっんんっ! ……そこのお二人さん?それ以上イチャついてるとメディカルチェック(まる裸に)す

るわよ?」

 

「「アイ、マム!」」

 

 

 渡我さんと二人、ハモりつつ元気よく返事を返す。うん、元気ですよ僕たち。だから健康

診断とかいらないデスヨ、マム。なんか不穏な副音声が聞こえたのは気のせいデスヨネ?

 

 

「……おほん。話を戻すわよ? さて、映像で観てもらった通り、灯志は血液で武器や装甲

を作っていたけれど、あれはあくまで個性の応用なの。血を介することでエネルギーそのも

のを操り、更には物質化さえも可能!おまけにフォニックゲインをバリアのように纏えば、

生身でノイズに対抗できちゃう! つまり貴女も、灯志に変身すれば同じことができる、と

いうことよ。被身子ちゃん。――それが割かしヤバネタだってことも、さっきの説明から分

かるわね?」

 

「…………悪い人に知られたら狙われちゃうかも、ってことですね?」

 

「だいせいか~~い!花丸あげちゃうわ♡なんせ『奏血』で発生するフォニックゲインは、

そ(・)れ(・)が(・)極(・)小(・)の(・)破(・)片(・)程(・)度(・)の(・)も(・)の(・)な(・)ら(・)、(・)ど(・)ん(・)な(・)聖(・)遺(・)物(・)も(・)起(・)動(・)さ(・)せ(・)、(・)特(・)性(・)を(・)引(・)き(・)出(・)せ(・)る(・)んだから!

まっ、現時点での研究データでは、って枕詞は付くけどね?だけどもし、この事実まで良識

の無い連中にバレちゃったら……、あぁん、想像するだにおっそろしいわぁ~♪」

 

「なっ、櫻井女史!そのようにあっけらかんと言うことではありません!」

 

「まあ、その情報を知っているのは二課本部に勤務する者だけだ。お上はおろか、鎌(・)倉(・)に(・)も(・)

報告していない、いわば秘中の秘。他の国々や裏社会の連中には、まだ知られてはいないは

ずだ。なので、そこは安心してくれ」

 

「ん~……、灯志くんとお揃いなのはうれしいですけどぉ……。素直に喜べないし、安心も

できないですよぅ。……お揃いはうれしいですけどぉ」

 

「ブレないなぁ、君は」

 

 ――はぁ、俺もう今から胃が痛いよ……。

 思わず自分の横隔膜辺りをさする俺であった。

 

 

 

 

 




次回にもうちょっと続きます。原作本編への合流の目途も立ったし、ヒロアカ側のキャラもようやくバシッと出せそうです。


説明だけで何文字使うんだろうな……。でもこれがシンフォギア二次の楽のしどころ。劇中でサラッと流される設定多すぎるんじゃあ!

ところで無印の翼さん、G以降の翼さんより口調難しいと思わん?私だけか?


ちょこっと用語解説:

☆蒼の一閃:
 
 『シンフォギア』劇中で最も多くカットインが入った翼さんの必殺技。いわゆる「剣からエフェクト飛ばす攻撃」は見栄えが良いからね。

☆風鳴翼:

 『シンフォギア』1期から登場するシンフォギア奏者。幼少の頃よりその身を剣と鍛えてきた防人系女子。1期の中盤まで滅茶苦茶面倒臭い性格してたが、2期からはクールで頼りがいのある先輩キャラとして定着。でも要所要所ではやっぱり面倒臭い。

☆藤堯朔也:

 『シンフォギア』1期から登場する名脇役。超人変人揃いの主要メンバーの中で一番普通というか、没個性な人。でも複雑な軌道計算を暗算でパパっとやっちゃったり、膨大な情報を瞬時に取捨選択したりする、いわば情報処理チート。

☆友里あおい:

 藤堯と同じく1期から登場するオペレーター。大変仕事のできる人。拳銃片手に現場に出張ることもあるなど、度胸がある。友里さんに あったかいもの、どうぞ されたい。されたくない?


☆こまっしゃくれた:

 言動などが大人ぶっていて生意気であるさま。

☆ヒーロー免許:

 『ヒロアカ』原作においてヒーロー活動するために必要な免許。ヒーローは一応公務員なので当然国家資格。ヒーロー免許無いと敵に襲われても個性で反撃もできない。現実以上に正当防衛と過剰防衛の線引きが大変そうである。ほんと生きにくいな、あの世界。

☆フェイタリティ:

 FATALITY。「致死性」「(事故・災害による)死亡」。ここでは「トドメの一撃」の意味。『モータルコンバット』は人を選ぶけど面白いと思う。人を選ぶけど。


 



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