少年少女のアカデミアには血が流れている   作:gamama

9 / 21
原作ヤベーことになってますね。スターさん強いのに……んもー堀越先生ってば。
ところで皆さんは本誌派ですかコミックス派ですか。筆者は本誌派です。

でも古紙で出すのめんどくさいし近場に古本屋も無いしでジャンプがめっちゃ溜まってます。先日とうとう自室の壁が一面ジャンプの詰まったダンボールで埋まりました。

地震起きたら死ぬな……。 皆さんはちゃんと断捨離しましょうね。


EPISODE 4 スタートラインフィーバー

    

 

 

 

「もう一度おさらいしておくよ、渡我さん。『奏血』発動時の注意点は3つ。

 

 一つ、武装を作り過ぎると失血死。

 二つ、フォニックゲインの制御をミスると失血死。

 三つ、そもそも使い過ぎると毛細血管がパーンで失血死。

 

 オッケー?

 

オッケーです! って、このやり取り何回目です??」

 

 

 新しい年を迎えて、既に2ヶ月近くが経過した。

 今日は2月26日、雄英高校ヒーロー科の一般入試・実技試験の日だ。

 

 

「何度も言われなくたって分かってますよぉ。お正月からずっと聞かされてますもん、もう

耳タコです」

 

「仕方ないだろ?君はまだ制御が甘いから。ペース配分には気を付けるように。それともう

一つ、エネルギーの物質化は……」

 

「使っちゃダメ、ですよね?「血液操作の範疇から外れる」から」

 

Exactly(イグザクトリー)(その通りでございます)。使うにしても必ず血を媒介にして偽装すること。

じゃあ後一つ……」

 

「チョーカーは外さないことっ!分かってまっ・すっ!」

 

 

 流石にしつこかったか、渡我さんは いーっ と歯を見せるしかめっ面を向けてくる。

 

 

「よろしい。では最後にもう一つだけ」

 

「むぅ~、まだあるんですかぁ?」

 

 

 ぷくっと片頬を膨らませる渡我さん。でもこれはちゃんと言っておきたいことなんだ。

 

 

「……無理はしないでね。ケガとか……いや雄英側もそこは配慮してるだろうけど……気を

付けて」

 

 

 渡我さんは目をしばたかせてから、一拍置いてフワリと笑った。

 

 

「ふふっ、いちいち優しいねぇ灯志くん。だから好きです」

 

「いちいち、は余計だよ」

 

「でもそれ、灯志くんに言われちゃオシマイですからね?」

 

「それも余計……、いや、言われないと思い起こせないか、俺」

 

「ホントそれです。 だから何度でも言ってあげますねぇ、耳タコなくらい」

 

 

 互いに軽口をたたきつつ、受験会場である雄英高校の正門をくぐる。

 しかしまぁ、本当に広いな此処。地図をください。

 

 ギリシャの神殿をH状のガラス張りオフィスビルで押し潰したような外観の、巨大な中央

棟を二人で見上げていると、渡我さんが感慨深そうにぽつりと呟いた。

 

 

「……あっという間の2ヶ月でしたね」

 

「そうだね……。いやホント、よくついてこれたよ渡我さん。――義父さんの修行に

 

「もう一生分のアクション映画観た気がします……」

 

 

 年明けとともに渡我さんは通っていた高校を自主退学、雄英合格を目指して勉強すること

になった。学力の方はこの1年、頻繁に勉強会を開いていたこと、そもそも一度高校入試を

経験していることで、何とかなりはしたのだが。実技となると話は別、ということで試験勉

強と並行して、俺と共に戦い方の特訓をすることになった。

 そこで義父さんが指導役として名乗りを上げたのだ。結果、特訓は「映画鑑賞」と言う名

の、修行になった。

 

 最初に映画のDVDをズラッと見せられて「これがマニュアルだ」と言われた時の渡我さ

んは、そりゃあもうポカンとしていた。この人は()()()()()オールマイトと勝負できるほど

強くなったのか、と、最初は半信半疑だった。……まぁ、その後義父さんのでたらめ過ぎる

動きを観て唖然としていたけど。3階建てのビルを跳び超えたり、指先で真剣白刃取りとか

見せられたら……、ね?

 

 いや、あれで“無個性”ってんだから、本当に義父さんはトンデモな人だ。

 

 

 2ヶ月近くに及ぶ修行の日々を思い返しているのだろう。肩を落として、げんなり顔の渡

我さん。傍から観れば、試験が不安で仕方ない風に見えてるんだろうなぁ。まさかカンフー

だの合気道だの大迫力の爆破シーンだので食傷気味なのだとは夢にも思うまい。

 逆に渡我さん自身は「夢にまでオールバックのコックのおじさんが出てきた」と泣きつい

てきたこともあった。キッチンで料理を作る片手間にバッタバッタとヴィランをなぎ倒し、

巨大なオーブンやミキサーに放り込んでいったらしい。怖っ。

 

 でも、義父さんの修行に最後までついていったことで、渡我さんの戦闘技術は飛躍的に向

上した。本人の好みと元々の身体の柔軟さを活かした、ナイフや短剣を用いたCQC(近接

格闘術)を基本として、義父さんの中国拳法をベースとした我流体術、緒川さんの現代忍法

――気配の消し方や音を出さない足運びなど――も少し教えてもらい、まだまだ粗削りで拙

くはあるが、“渡我さん流戦闘術”と呼べるスタイルを習得したのだ。

 並行して、俺への変身と奏血の精度の向上も行っていた。なので、ぶっちゃけ超ハードな

メニューだったと思うが、渡我さんは見事乗り切ってみせた。エクセレント。

 

 とはいえ急ごしらえであることに変わりは無く、現時点で渡我さんの『変身』からの『奏

血』使用可能時間は、1時間の変身に対して約9秒ほどとなっている。

 ……『変身』を維持できる時間はコップ一杯分の血液で約24時間、コップ一杯はおおよ

そ200mlなので、1時間の変身に必要な血液量はだいたい8mlとなる。ちなみに人間

の1日で造られる血液の量は、体重1kgにつき1.6mlとされているので、65kgある

俺の場合は104mlとなり、俺が自然に造れる血液2日分で、渡我さんは俺にだいたい2

5時間変身できる……という計算になる。

 

 そしてそれだけの血を渡我さんに渡しても、彼女が『奏血』を使える時間は4分足らず。

試験中ずっと発動させておくことは不可能だ。しかも血液消費量の多い大技を使った場合、

発動可能時間は更に短くなる。

 

 渡我さんが合格できるかどうか、そも無事に実技試験を終わらせられるか。本人より、俺

の方が不安でしょうがない。

 

 

 そんなわけで胃薬飲んどこうかなと思っていたら、後方から怒声が聞こえてきた。

 何とはなしに気になって、振り向いてみると縦に縮んだパンパスグラスみたいな髪型の少

が、育ち過ぎた緑のガーベラみたいな頭の少年を睨みつけていた。

 もさもさ緑くん(仮称)は爆発ヘッドくん(仮称)に取り乱しながらも話しかけていたが、爆

発ヘッドくんはこれを無視してこちらに向かって来る。肩を怒らせながら。

 

 

「うわあ、不良です。不良だねぇ灯志くん」

 

「俺が不良みたいに聞こえるそれ。 ……ところで何処かで見たことない?あの二人」

 

 

 他の受験生たちが、爆ハくんを盗み見てひそひそと話している。 「おい、あれバクゴー

じゃね?」 「ヘドロん時の」 ……ふむ?

 

 

「――あぁ!去年の春か、田等院(たとういん)の!」

 

「あ゛ぁ゛?゛」

 

 

 Oops(おっと)、うっかり口に出してしまった。こちらとすれ違おうとした爆ハ……もといバク

ゴーくんは立ち止まって殺気の籠った眼光を飛ばしてきた。

 

 

「あー、すまない。気に障ったみたいだね、悪かったよ」

 

「…………チッ」

 

 

 舌打ち一つで切って捨てられた。悪いのはこちらなので、別に構わないけど。

 バクゴーくんはそのまま先へ行ってしまった。ふと横を見ると、渡我さんの目付きが険を

帯びている。

 

 

「今のは俺が悪いんだから、気にしないでね……」

 

「……はぁ~い」

 

 

 空返事だなぁ、と苦笑していると先程のも緑くん(略称)が宙に浮いているのが目に入る。

彼の個性か?いや、慌てふためいているから隣に立ってる女子の方かな。

 

 

「灯志くん、早く行きましょうよぉ」

 

「ああ、うん。今行くよ」

 

 

 渡我さんに急かされ、校舎へと足を向ける。そう、他人を気遣うことは、心がけるのは兎

も角、余裕は今に限っては持つ必要は無い。此処に集っている者は皆、合格と言う数少ない

椅子を奪い合う、ライバルなのだから。

 

 

 あ、でも()()()()()()()()()()んだよな。一般合格枠を36名から40名、だったか?

 

 

 

     ■

 

 

 

『今日は俺のライブにようこそッ!エヴィバディセイヘイッッ!!!』

 

 

 

 

 

 

 静。

 

 

 

 

 

 

『……こいつぁシヴィ~~……! ンなら受験生のリスナーに、実技試験の概要をサクッと

プレゼンするぜ! アーユーレディーー!? YEAHHHH!!

 

 

 

 

 

 

 閉。

 

 

 

 

 

(このひりついた空気の中でべしゃれるのは流石だよなぁ、マイクさん……)

 

「ほぁぁぁ……!“ヴォイスヒーロー”、プレゼント・マイクだぁ……!すごいぃ……!ラジオ毎週聴いてるよ、

感激だなぁ~~……!雄英の講師はみんなプロのヒーローなんだぁァァ~~~……!」

 

(そして君はべしゃっちゃダメだぞ、も緑くん(略称)。気持ちは分からんでも無いけど落ち

着け。悪目立ちしてるから、周りに聞こえてるから)

 

「ウルセェ」

 

(ほらツッコまれた!)

 

 

 実技試験説明会が始まった。壇上でスポットライトを浴びながら受験生の塩対応に晒さ

れているのは、“ヴォイス・ヒーロー”プレゼント・マイクさんだ。も緑くん(略称)の言っ

た通り、自分のラジオ番組を持っててDJとしても活動している。

 ちなみに俺は彼と顔見知りだ。一度()()()()()()()()()()()ことがある。

 

 

『入試要綱通り、リスナー諸君にはこの後、10分間の「模擬市街地演習」を行ってもら

うぜ! 持ち込みは自由!プレゼン後は各自指定の演習会場へ向かってくれよな!』

 

 

「……灯志くんといっしょじゃないです……」

 

「同校の受験者同士で協力させない為だろうね」

 

 

 俺と渡我さんの受験番号は連番だが、指定された演習会場は違う場所だった。渡我さんが

あからさまに不機嫌になっている。とは言え、流石にこれは俺ではどうしようも無い。すま

ない渡我さん。帰りにあったかいものでも奢ろう。

 

 

『演習場には()()()の“仮想ヴィラン”を多数設置してあり、それぞれの攻略難易度に応じて

(ポイント)を設けてある。各々の個性で仮想ヴィランを行動不能にし、Pを稼ぐのがリスナーの目

的だ! 勿論!他人への攻撃など、アンチヒーローな行為は、御法度だぜぇ~?』

 

 

 まるっきりゲームだなぁ。しかし仮想ヴィランか。本物のヴィランには有効でも、ロボッ

トというか、機械が相手では通用しない個性持ちもいそうなものだが……その点は考慮して

るんだろうか。俺としては、怪我させる心配が無いので思いっきり出来るからいいけど。

 

 

「質問よろしいでしょうか!」

 

 

 ハッキリとした、よく通る声が、大きく会場内に響いた。見ると、眼鏡をかけた真面目そ

うな男子が高々と挙手している。

 

 

「入試要項には()()のヴィランが記載されています!誤載であれば!日本最高峰の雄英にお

いて!恥ずべき事態!我々受験者は!規範となるヒーローのご指導を求め!この場に座して

いるのです!」

 

 

 真面目なんだか居丈高なんだか分からない人だ。

 

 

「ついでにそこの縮れ毛の君ッ!」

 

「!?」

 

「先程からボソボソとッ。気が散る!物見遊山のつもりなら、即刻ここから去りたまえ!」

 

「……すみません……」

 

 

 も緑くんにまで舌鋒を向ける真面眼鏡くん(仮称)。も緑くんは口元を隠して俯いてしまっ

た。周囲からも失笑が漏れる。

 

 

(……それ、今ここで言うことじゃないと思うけどなぁ)

 

「ですよね。みんなの前で言わなくてもいいと思います」

 

(君は君でナチュラルに人の心を読まないのっ)

 

 

『オーケー、オーケー。受験番号7111くん、ナイスなお便りサンキューだ! 4種目のヴィ

ランは(ゼロ)P!言わばお邪魔虫。各会場に1体、所狭しと大暴れしているギミックよ!倒せな

いことも無いが、倒しても意味は無ぁい――上手く避けることを、オススメするぜ?』

 

「有難う御座います!失礼致しました!!」

 

 

 真面眼鏡くんは大きな声で謝罪すると、90度直角にお辞儀をして着席した。

 ……ああ成程。彼に対して微妙に既視感があったが、真面目が過ぎて空回り気味なとこが

翼さんと似てるからだな。

 

 

『――俺からは以上だ。 最後に、リスナー諸君に我が校の“校訓”をプレゼントしよう!

彼の英雄、ナポレオン・ボナパルトは言った。「真の英雄とは、人生の不幸を乗りこえて征

く者」と!

 ―― Plus Ultra(さらに向こうへ)”! それでは皆、良い受難を!』

 

(……良い受難を、ね。 そんなものは無い方がずっと良いのに)

 

 

 さて、いよいよだ。

 

 

「渡我さん」

 

「? なんですか?」

 

「あー……その。……がんばって」

 

「! ……はいっ♪」

 

 

 こっそりと、俺にだけ聴こえるように……その凄絶な笑みも、俺にだけ見えるように、こ

ちらに顔を寄せて渡我さんは返事をした。

 最後列で良かった――他人には見せられないからね。

 

 

 

    ■

 

 

 

 歌満地と別れ、バスに揺られて5分。実技試験・演習場に到着した渡我だったが、雄英の

スケールの大きさに驚かされていた。

 

 

「うわぁ、広ぉい……」

 

 

 ――まさか敷地の中に()()()()()()()しちゃうなんて。

 

 こんな会場が後5つもあるとか、どれだけお金かかってるんだろう、などと、益体も無い

ことを考えつつ、渡我は他の受験者の様子を油断なく観察する。

 

 ――敵を知り自分を知れば勝てる、でしたよね! でしたっけ?

 ――あ、さっきの人だ。緑のもさもさ頭の。

 

 この場に集った受験生の中に、緑色の髪の少年――緑谷の姿を見つけた渡我。そして緑谷

に近づく男子を見とめて、彼女は苦い顔をした。

 

 ――うわ、眼鏡の人もいます。

 ――あー、もさもさの人絡まれてる。  

 

 「こんな時、歌満地ならばどうするか」と考えて、仲裁に入ろうかと思った渡我であった

が、他の受験生たちの大半が眼鏡男子に詰め寄られる緑谷を見てニヤついていることに気付

いた。

 渡我はお義父さん、もとい弦十郎に見せられた映画のワンシーンを思い出す。主人公を仕

留めたと思って油断した敵が、その隙を突かれてあっさり死ぬというものだ。

 

 ――みんな油断してますねぇ……。

 ――ふふっ。

 ――ごめんねぇ、もさもさくん。

 ――私、絶対合格するのです。しなくちゃなのです。

 ――灯志くんが、「がんばって」って、言ってくれたから。

 ――だから……利用するねぇ。ごめんねぇ。

 

 少しばかり場の空気が弛緩する中、渡我は深く息を吸い、吐いて、神経を研ぎ澄ませてい

く。そして――

 

 

『はいスターートォ!!』

 

 

 たった一人、新雪を前にしてリードから解放された犬のように飛び出して、唐突な開始宣

言に呆気に取られる受験者たち全員を置き去りにした。

 彼らが状況を飲み込んだ時には……もう渡我の姿は見えなくなっていた。

 

 

     ⇔

 

 

『どうしたどうした!実戦にカウントダウンなんざねぇんだよ!!ほら走れ走れ~~!!賽

は投げられてんぞぉ!?』

 

「え、え? えぇっ!? で、出遅れたぁあああああ!?」

 

 

 突然の試験開始に驚き、他の受験者たちに置いていかれてしまった緑谷は、慌てて演習場

へと走り出した。

 

 ――何をやってるんだ僕は!?あぁもう、絶対に合格しないといけないのに!

 

 緑谷は必死に走りながら仮想ヴィランを探す。だが、なかなか見つからない。

 

 ――落ち着け!大丈夫、大丈夫!僕にはオールマイトがついてるんだ……!

 

 師の教え、今日までの努力を思い起こし、改めて合格への決意を漲らせた緑谷の前に、右

手からビルの壁をぶち抜いて、1P仮想ヴィランが現れた。

 

 

 『標的補足……ブッ殺ス!』

 

 「口悪(くちわる)っ!?」

 

 

 襲いかかる仮想ヴィランを前に、緑谷は個性を発動させようとした。しかし――

 

 ――き、来た!何処を狙う!?頭、はちょっと位置が高い!脚部を崩して動きを……?い

や、胴体!胴体はもろそうだぞ!よ、よし、胴体に!

 

  

 「SMA(スマ)――

 

 「据え膳!」  〈THOOM!〉

 

  あああああああぁ!!??」

 

 

 動きを止めてしまった間に、他の受験者――ベルトからレーザーを出す個性のようだ――

に横取りされてしまった。

 

 

 「メルスぃ☆いい連携(チームプレイ)ができたね! ま☆君と会うことはもう無さそうだけど☆」

 

 

 アデュー、と、何故かフランス語で別れを告げたヘソレーザー(仮称)に唖然としていた

緑谷だったが、「残り6分2秒!」のアナウンスに再び駆けずり回るのだった。

 

 緑谷出久、現時点での獲得スコア――()()0P。

 

 

     ⇔

 

 

 一方、先んじて演習場の奥まで入った渡我は、既に『奏血』を使い切ろうとしていた。

 

 

「ふぅ……。だいぶ稼げましたけど……ここからはこっちですね」    

 

 

 ()()()()()()仮想ヴィランの屑鉄に囲まれながらひと息ついていた渡我は、歌満地への変

身を解除し、元の姿に戻ると、大腿部のホルスターに()げていたナイフを抜いた。

 

 今の渡我の服装は、大きめなピンク主体のブルゾンに白いタンクトップと黒めのハーフパ

ンツ、靴はピンクのランニングシューズだ。ブルゾンと同じくゆったりめのサイズ故にペイ

ズリーのミニトップスが覗いているタンクトップは、淡い青色のベルトでウエストマークさ

れている。

 ちなみに、歌満地に変身していた間は上記の服装の下に、黒一色のコンプレッションイン

ナーのみが追加されていた。その格好の歌満地をスマホでパシャり、変身前にその画像を観

ることで、変身時の自動着ぶくれを解消したという訳だ。

 

 本当はついこの前まで通っていた高校のセーラー服とローファーのままで試験に臨むつも

りだった渡我なのだが、2月の終わりの、まだまだ寒いこの時節に激しい運動、ましてや戦

闘行為をするにはまるで向いていない格好だと、今朝がた家まで迎えに来た歌満地に苦言を

呈されたのだ。

 彼女はそんな歌満地にこう言った。

 

 ――だって、この方がカアイイんですもん

 

 歌満地はこう返した。

 

 ――でも変身したら、それを着てるのは()()()()()だよ??

 

 そこまで考えていなかった渡我は、でも修行中に着ていた学校指定のジャージとか弦十郎

から押しつけ……もとい貰った黄色いトラックスーツなんかは絶対イヤだったので、渋々手

持ちのスポーツ向きの衣装を箪笥から引っ張り出したのだ。

 

 

「うひゃあ、やっぱり夏向きコーデじゃ寒すぎます……。 でもでも、女の子の恰好した灯

志くんは、私以外に見せたくないので。我慢です私」

 

 

 この発言、つまり、そういうことである。

 恋してる相手本人の男の尊厳はまるっきり気にしていないらしいぞ、この娘。

 

 

『残り6分2秒~!』

 

「ん、もう半分になりますか」

 

 

 ナイフをくるくると手で弄びつつ、渡我はどのように次の一手を打つべきか思案する。

 

 ――今()()()ジャストですよね。んー……、まだ足りない気もします。

 ――でもこの辺はもうロボットいなさそうですし。

 ――探し回るのはメンドっちいですし……。

 ――なら、灯志くんの言ってた通り、後は()()()()した方が良いですね。

 

 パシリ、と小気味いい音を立ててナイフを逆手に握り、渡我は派手な音のする方――他の

受験者たちが固まっているだろう場所へと駆け出した。

 

 

     ⇔

 

 

 ――マズいマズいマズい……!

 

 残り時間4分11秒にて、大通りに出た緑谷は他の受験者たちの戦いぶりを見て完全に焦

燥に支配されてしまっていた。

 

 ――中には数十ポイント以上取っている人までいる!?あのいい人も!

 

 じわじわと目に涙を貯める緑谷。けれどそれは、徐々に夢から突き放されていく絶望だけ

が理由では無く――

 

 ――僕は()()()()()()()()()()()()……!なのに!

 ――拳がもう、こんなだ!

 

 彼の右手は、赤く腫れあがっていた。

 1Pヴィランをヘソレーザーの少年に奪われた後、なんとか別の1Pヴィランと2Pヴィ

ランを1体ずつ撃破することに成功した緑谷だったが、その際に抱いた小さな達成感は目の

前の現実を前に跡形も無くなっていた。

 

 ――分かってたはずだ!当然だろ!

 ――これはオールマイトの力だぞ!

 ――ちょっとでも揺らせば、あふれてしまう!零れないように、ゆっくりと、ミリ単位以

下で“器”を回すのがやっとなんだ!

 

 緑谷がオールマイトから継承した“個性”、ワン・フォー・オール……その凄まじい力は、

受け継いで2ヶ月経った今でもまるで制御できていない。

 緑谷が自身の肉体を壊さずに発動できる上限は、オールマイトの全力を100%とした場

合、現在のところ僅か2%しか無い。その上、必ず上限いっぱいで使える訳でも無く、制御

に失敗すれば肉体が損傷することへの恐怖心と、生来の考え過ぎる癖が相まって、「使おう

としたけど発動せず、そのまま殴った」という事態が何度か起こったのだ。

 故に、アマチュアである学生たちの“個性”や身体能力でも破壊可能な強度に造られている

敵ロボットでも、金属でできている以上は素手で殴り続けていれば、拳を痛めてしまうのは

必然であった。

 

 ――ボクサーみたいにグローブとか、テーピングとか!せめて軍手でも!

 ――持ち込み自由なんだから、サポートアイテム代わりに持ち込めばよかった!

 ――何より拙いのは、まるで思うように動けていないこと!

 ――ビビッて止まっちゃうし!

 ――考えてる間に横取りされるし!

 

 そして、そんなことに思考を割いているせいで、さらにチャンスは減っていく。それもまた

頭の片隅で理解できている筈なのに、緑谷は開いていく感傷を抑え切れなかった。

 

 ――この2ヶ月でちゃんと理解できた……オールマイトみたいにいくはずも無いって……

そう思い込んでた!

 ――全然違った!僕だってやれるんだって、思い上がってた!

 

 緑谷は己の浅慮を、未熟を悔やんだ。――だが、後悔は先に立たず。

 

 〈THOOOOM・・・〉

 

「「「「「!?」」」」」

 

 〈KA-BOOOOOM!!!〉

 

 先に立つのは、いつだって……“壁”だけである。

 

 

 

 

 




入試試験回、まずはデクくん他+トガちゃんサイド前編。
1‐A組との接点は早めに作っていきたい。

今の時点で本作トガちゃんは、原作トガちゃんよりパワーはグッと上ですが暗殺スキルはガクッと下がってます。スピードは同じくらい。
でもOTONAだけでなくNINJAの手ほどきも受けてしまったので、カバーされるばかりか別のスキルも身に付くかも。

なお、トガちゃんの『変身』時間に関する考察は原作での「コップ一杯」発言からの完全に独自調査によるものなので、正確ではない場合があります。鵜呑みにしないでね。

そして前回、原作より2カ月早く継承したことでデクくんもパワーアップ。OFAをちょびっと使えるようになってます。
なってますが、原作での入学後と同等の濃い経験が無いので上限は2%。しかもビビッてブレーキ踏んじゃうので、0~2%間で乱数が発生している状態。

といったところで、次回に続きます。


ちょこっと用語解説

☆耳タコ:

 耳に胼胝ができる、の略。同じことを何度も聞かされることをいう。海産物の方では無いので注意。

☆Exactly(その通りでございます)

 『ジョジョの奇妙な冒険』第3部「スターダストクルセイダース」より、敵キャラの一人、ダービー弟の台詞。慇懃無礼な態度を取ってくる敵ってだいたい最終的に小物化するよね。

☆オールバックのコックのおじさん

 アメリカ海軍上等兵曹にして戦艦ミズーリのコック長、しかしてその正体は「ネイビーシールズ」対テロ部隊元指揮官、ケイシー・ライバック……もとい、彼を演じた俳優のスティーヴン・セガールのこと。日本では最強のコック、キッチンでは無敵のセガール拳などなどで有名。実際セガールさん本人もめっちゃ強い。

☆CQC

 Close Quarters Combat。近接格闘の略称。軍隊や警察において近距離での戦闘を指す言葉であり、またその技術のこと。本文では後者の意味で使ってます。

☆パンパスグラス

 デカくてフワフワのススキみたいな植物。

☆緑のガーベラ
 
 ガーベラ・ポコロコという品種。ポコロコって響きが可愛い。

☆田等院

 『ヒロアカ』原作第1話で登場した地名。元ネタはスターウォーズに登場する惑星タトゥイーン。

☆プレゼント・マイク:

 『ヒロアカ』に登場するプロヒーローの一人。個性は『ヴォイス』。めっちゃでかい声。高低音も自在。ラジオDJにして雄英高校英語教師でもあると、三つもわらじ履いてる人。常にテンション高くてノリがウザい時もあるが、ヒロアカ大人組の中では屈指の良心・良識の持ち主。

☆Plus Ultra:

 『ヒロアカ』作中で何度も使われる言葉。座右の銘になったり、狂気の引き金になったり、嫌悪されたりと様々。

☆コンプレッションインナー:

 アスリートとかが着ているピチピチのインナー。加圧シャツとは別物。

☆黄色いトラックスーツ:

 彼の伝説的武術家にして俳優、ブルース・リーが映画『死亡遊戯』で着ていたやつ。『シンフォギア』本編で弦十郎と主人公の響がマジで着てる。二人はリュウと豪鬼のコスプレもしていた。多分トガちゃん(とオリ主)も着させられている。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。