[パッチワーク・オブ・ドリーム]ハリボテエレジー育成シナリオ   作:ターレットファイター

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[見えてしまった夢]―シニア級・6月後半
[夢の終わり・黄昏]


 

 ウマ娘には、三つの適性が存在する。

 どの距離帯でのレースでなら、己のスピードを発揮できるのかを示した距離適性。

 芝とダート、はたまた障害競走、どんな種類のレースであれば己の加速力を十分に発揮できるかどうかを示す馬場適性。

 レース中、どのような位置についてどう走るのが最も己の性格や体質にあっているのかを示す脚質適性。

 これらの適性に合わないレースであれば、どんなウマ娘でも己の力を十分に発揮できず凡走に終わったり惨敗を喫すことになる。故にトレーナー過程ではその適性を読むことも学ぶが、中途半端に距離適性の広いウマ娘であるとなまじ好走できてしまうだけに適性の合わない路線で勝ちきれないまま走り続けてしまうことも往々にして発生してしまう。

 これままで、ハリボテエレジーのレースは芝のマイル~中距離、脚質は追込を中心に走ってきていた。

 秋のレースでの惨敗を受けて、桐生院さんとタキオンはまずこの適性の見直しからやり直すことにした。

 オープン戦・ポルックスステークス(中山・ダート一八〇〇メートル右回り)――十六着

 未挑戦だったダート路線での適性に賭けてのレースは、秋と同じように言い訳のしようもない惨敗。

 オープン戦・メトロポリタンステークス(東京・芝二四〇〇メートル右回り)――十八着。

 ジュニア期に勝利したこともある中距離レースへの改めての挑戦。出足がつかず、追走できなくなっていたことを踏まえて暴走覚悟で序盤から力を使って走るも、まるでレースの展開についていけなかった。

 スピードもパワーも足りない。どれだけ力を出そうとしても、どういうわけかジュニア期のような末脚が出ない。それどころか、まともについていくこともできない。

 まるで、何かが抜けてしまったような状態だった。

 怪我や体の成長によって体のバランスが変わり、それまでのような走りができなくなる、早熟で能力の伸びが止まる、あるいは本人にも周囲にも全くわからない原因によってある時期を境に急激に弱くなる、勝てなくなるウマ娘――私もその一人になってしまったとしか言いようがなかった。

 

 

 

 思いがけない提案が舞い込んできたのは、最後の勝利である芙蓉ステークスからすでに一年半、夏に差し掛かった頃のことだった。

「――専属トレーナー契約の提案がありました」

 春をすぎると、トレセン学園では選抜レースが開催され始め、来年にデビューを控えたウマ娘の専属トレーナーにならないかというオファーがちらほらと出始める。

 ウマ娘の側からすれば、能力のあるトレーナーを早いうちに確保できるし、トレーナーの側からしても将来有望なウマ娘と専属契約を早いうちに結べることは来年以降の生活の見通しを明るくさせる。

 私にも、そのオファーが届いたのだ。ウマ娘となってからの競走成績はパッとしない、それどころか突然謎の不調に陥っていることがマイナス点ではあるものの、トレーナーとしての実績だけを見るならばアグネスタキオンを育て上げ、しかもウマ娘としてのレースの経験もあることが評価されたらしい。

「そう、ですか……」

 その報告を聞いた桐生院さんの反応は、その一言だけだった。

 しかし、タキオンのように専属トレーナーの下でサブトレーナーをするのならともかく、専属としてトレーナーに復帰するということはトゥインクル・シリーズから引退するということとほぼ同義である。わたしの一存だけで決められることではない。だからこそ、桐生院さんの意見も聞きたい。そう伝えると、桐生院さんは「わたしは……」としばらく言いよどんだあと首を振った。

「エレジーさんの、いえ、手作さんの好きな方を選んでください」

 そう言った桐生院さんの顔は、ひどく疲れた様子だった。曲がりなりにもクラシックの有望株と言われたウマ娘を預かりながら、そのウマ娘の育成に失敗し、凡走以下の走りしかさせられなくなった無能――詳しい事情を知らないファンからのそういった評価に苛まれ続けていたためだろう。

「……ごめんなさい」

 そうつぶやいた桐生院さんの声は、消え入るように小さかった。

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