[パッチワーク・オブ・ドリーム]ハリボテエレジー育成シナリオ 作:ターレットファイター
コミケ前であれやこれやバタバタしてた上にメインストーリー第五章でタキスズが公式から叩きつけられたせいでプロットが生えてきたりなんやかんやしてすっかり間があいてしまいましたが[パッチワーク・オブ・ドリーム]、連載再開です。
目覚めたときの気分は、最悪だった。
どんより気分を引きずったまま、しかし習慣とは恐ろしいもので機械的に朝のトレーニングを終えて、コースを出たところでタキオンに行く手を塞がれた。
「どうしたんだい、随分と浮かない顔をしているじゃないか」
「……偽物の脚だった」
私のあまりにも簡単にすぎる夢の内容の要約にタキオンが首をかしげる。
「……いったいどうしたというんだい」
「ウマの夢を見たんだ」
そう言ってから、それでは正確な説明ではないなと首を振った。少なくとも、それでは肝心な部分を何も説明できていない。
「……ううん、ウマの夢じゃない。……ウマのふりをした、ヒトだった。ハリボテエレジーは、ウマじゃなかった。そういう夢を見たんだ」
「ふぅン……」
タキオンはわずかに考え込むような様子を見せてから、軽く手を振った。
「少し、話をしようか。……そうだな、わたしたちウマ娘が見る夢の話でもしよう」
「――わたしたちウマ娘は、ウマの夢を見るんだ。どこか遠い世界にいた、私達自身と同じ存在の夢だ」
「タキオンも夢を見たの?」
「ああ。アグネスタキオンというウマの脚に宿る可能性が人々に夢を抱かせ――そして、その脚の脆さが、その夢を終わらせる夢だ」
一限目が始まり、すっかりひと気のなくなったカフェテリア。タキオンはそう言うと、窓の外に目を向けた。
「夢の中でも私は――アグネスタキオンは皐月賞を勝っていた。四戦四勝、名前に冠された超光速の粒子にふさわしくその脚に宿る速度は抜群のもので、いずれは三冠も――そういう夢が語られるだけのものは間違いなくあった」
そう語るタキオンの横顔には、かつてプランBのことを話していたときのような、努めて冷静に、感情を抑えようとしながら――どうしても感情が僅かに漏れているときのこわばりがあった。
「だが、アグネスタキオンというウマがレースで走ったのは、皐月賞が最後だった。屈腱炎が三冠も、彼の可能性の果ても消し去ってしまった。私が見たのは、そういう夢だ」
そう言うと、タキオンは紅茶を口に運ぶ。
いつになくゆっくりと紅茶を飲んで喉を湿らせると、タキオンは目を伏せたまま、「まあ、私の夢のことはいい」とため息をついた。
「それ以上に大事なことはね――私達が見る夢は、いつだってウマたちの走りをコースの外から見たものだ、ということなんだ」
そう言って顔をあげたタキオンの目には、うってかわってどこか面白がっているような色が浮かんでいた。
「これはどんなウマ娘も例外ではない。カフェも、デジタル君も、スカーレット君もそうだ。その意味がわかるかい?」
私が「わからない」と首を振ると、ますます面白がるようにタキオンの笑みが深まる。わずかにタキオンが身を乗り出し、私の顔を覗き込んだ
「なぜなら私たちウマ娘は――ウマ娘が継承した想いというのはね、コースの外から見た人々の思いの集合体だからさ」
その目に浮かぶ光はまるで、破滅的な欲望に身を焦がす悪魔のようで――
「――君が見たものもそうだったんじゃないかな?」
――そして、その言葉はメフィストフェレスの誘惑のような、どうにもならない魅力的な響きを帯びていた。
「……タキオンは、アグネスタキオンという競走馬にどんな思いを抱いたの?」
「どうしたんだい?」
「もしさ、ウマ娘が継承した想いは、同じ名前のウマの走りを見た人々の思いなのだとしたら、そのウマの夢を見たタキオン自身の想いも、受け継いだ想いの中に入ってるんじゃないかってと思ったんだ」
意図的に目を逸らして、なんとか絞り出した私の問いに、タキオンは「うぅン……そうだね」と空を仰いだ。
「――わたしは、アグネスタキオンというウマの可能性の果てはどこにあるんだろう、その果てを見てみたいと、そう思ったね」
「……そっか。ありがと」