[パッチワーク・オブ・ドリーム]ハリボテエレジー育成シナリオ   作:ターレットファイター

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[見えてしまった夢・その先へ]―シニア級・10月後半
[見えてしまった夢・その先へ]その1


 

 東京レース場・芝一六〇〇メートル

 GⅡ・富士ステークス

 

 ゲートの中で頭につけたウマ耳カチューシャの感触をもう一度確かめる。カチューシャは触ってみてもまるで頭から生えているように微動だにしない。ウマしっぽも、ほかのウマ娘たちのように自由には動かないものの、体の一部であるかのようにしっかり安定していた。

 隣の枠に入ったウマ娘から困惑したような視線を感じるが、無視して呼吸を整える。

 富士ステークスはGⅡ競走。

 通常、ウマ娘がレースで勝負服を着るのはGⅠレースのみだ。未勝利戦、条件戦、オープン戦、リステッド競争やGⅢ・GⅡのレースでは全員共通の体操服で出走する事になっている。

 だが実のところ、それは明確なレース規定として制定されているわけではない。あくまで慣例のようなもので、それを破って勝負服で出走したところでそれを止められる規定は存在していない。ただまあ、後でちょっとした注意と、やりすぎた場合は内外からの批判にさらされるだけだ。

 だから、オープン戦やGⅡに勝負服をまとって出走するウマ娘はたまにいる。そしてそういうウマ娘の大半は、勝負服を拵えたもののGⅠで活躍することもできず、重賞戦線でもはかばかしい戦績を収めることもできず、そのレースを最後に引退することが決まっているウマ娘だ。

 ジュニア期でオープン入りし、朝日杯では三強の一角に数え上げられたものの転倒して競走中止。クラシック期のレースではブービーにすら大差をつけられての惨敗続き。 

 客観的に見るなら、わたしも引退ルートに乗っているウマ娘に見えるのだろう。

 だがもちろん、わたしは引退するつもりなどない。

《全員ゲート入り完了! ――スタートしましたっ!》

 ゲートが開き、一気に前方の視界がひらける。隣の枠に入ったウマ娘がスタートダッシュを決めてコース内側に切れ込んでいく。ウマ娘たちの背中が一瞬遠ざかる。

 思わず、その背を追いたくなる。ペースを上げたくなる。追わなくては、追いつけなくなるような気がする。末脚の出せなかったレースの記憶が蘇る。

 大きく息を吸い込む。遠ざかるバ群を見送る。

 けれども、あの背中を意識から締め出しては行けない。

 どれだけ遠くても、追い続けなくてはいけない。

《さあ先頭を走るのは⑦番トランペッター、今日も逃げる! 三バ身開けて⑤番ピットロード追走、ほとんど並んで②番スカイウェーブ……最後方は⑧番ハリボテエレジー、今日はバ群から離されず追走している》

 あの夢を見て、タキオンが見た夢の話を聞いてから、体の調子はかつてないほどに上向いてきていた。その証にこのレースでもバ群から大きく引き離されることなく、下り坂で速めのペースの中でも離されることなく追走できている。

 勝負は第三コーナー。向こう正面の直線を駆けながらじっと前を走るウマ娘に照準を合わせる。

 コーナーを曲がるにつれて、観客席から響く歓声が大きくなっていく。応援しているウマ娘が先頭を逃げる様子を喜ぶ歓喜の声、応援しているウマ娘が中団で勝負どころに向けて脚をためる様にハラハラする声、あるいは応援しているウマ娘が出遅れて後方でバ群に包まれてどうにもならない様にたまらずあげた悲鳴。

 叫んだからと言ってどうにかなるわけではない。「のこせ」と叫んだところで逃げウマ娘が最終直線で踏ん張れるわけではない、「差せ!」と叫んだところで後方にいたウマ娘の末脚が爆発するわけではない。叫んだところで、想いが奇跡を起こすわけではない。

 だが――その声は、ひとつの祈りの形なのだ。

 ――ウマ娘が継承した想いというのはね、いろいろな人々の思いの集合体なのさ。

 けれども、ウマ娘はその背中にいろいろな想いを載せて走るのだ。異世界から継承した想い、この世界でレースを応援するファンの想い、そして、自分自身の想い。

 ならば、わたし自身だって祈りを叫んだっていいんじゃないか。

 わたしの見た夢を、叫んだっていいじゃないか。

 先頭を逃げるウマ娘が第三コーナーに突入する。

 まだ勝負どころではない。仕掛けるにはまだ早いかもしれない。

 だが、ハリボテエレジーにとっては、こここそが勝負所なのだ。大きく息を吸い込む。

「ハリボテぇぇぇぇぇぇぇ――」

 先頭とは数秒の差で、第三コーナーへと到達する。

「――曲ぁがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 それは、わたしが夢の中で耳にした声。

 夢の中にいた、誰かが叫んでいた言葉。

 わたしの脚が、しっかりと地面を踏みしめてカーブを曲がる。勝負服のスカートが風にはためく。

 夢の中の世界のハリボテエレジーは、ウマではなかった。名前の通り、ハリボテエレジーはハリボテで、中にはウマ娘でもなんでもないただの人間が入っているだけだった。

 ただのヒトが、ウマ娘とそっくりな存在であるウマのレースに入り込んでいただけなのだ。

 ――だけどそれは、わたしだって同じなのだ。

 子供の頃に遊んでいた「ウマ娘なりきりセット」を元にした勝負服。

 これは、子供の頃に憧れててなりきり遊びをした時に思い描いていたウマ娘の姿そのもの。

 もともとわたしはウマ娘ではない。ウマ耳もなければ、ウマしっぽもない。けれど、どういうわけか今のわたしはウマ娘としてハリボテの勝負服を着てターフを走っている。

 これはきっと、夢の続きなのだ。子供の頃に見た、『ウマ娘』という夢の続きなのだ。

 夢はきっと醒める。

 ――でも、だからこそ、最後まで夢を見ていたいのだ。

 第四コーナーを曲がる。直線を向く。

 だから、まず私自身が夢を見るんだ、そしてそのためには、その夢がただの夢ではないことを示すしかない。

《直線に入って⑦番トランペッターが変わらず先頭! 追走する④番エアフィックスは届かないか!?

 ――おおっとここで、ここで大外から突っ込んでくるウマ娘がいる! ⑧番だ! なんと⑧番のハリボテエレジーだ!! すごい脚だ! エアフィックスを交わしてデンドウヤスリに迫る! 

 並ぶ! いや並ばない!

 抜き去った!

 一バ身!

 二バ身!

 三バ身!

 ハリボテエレジー先頭でゴールインっ!

 勝負服で堂々と二年ぶりの勝利、重賞初勝利を挙げたハリボテエレジー!!》

 

 

 

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