[パッチワーク・オブ・ドリーム]ハリボテエレジー育成シナリオ 作:ターレットファイター
「君ならやれると思ってたよ!」
レースを終えて私が地下バ道に入ると同時に、タキオンが勢いよく突っ込んできた。
「いやあやっぱり君の最大の持ち味は最終直線に入っての切れ味鋭い末脚だね! 適性距離が違うとはいえカフェのそれを彷彿とさせる実に素晴らしい走りだったよ!」
これまで見たことがないほどに――クラシックレースを制覇したあとも、有馬記念で限界速度の果ての領域に足を踏み入れたときにすら浮かべなかった、文句なしに晴れ晴れとした笑顔を浮かべながら早口でまくしたてる様子に苦笑していると、タキオンがぐいとわたしの身体を持ち上げた
「だがしかしまだ限界速度はまだ彼方にあるね! 最大の問題も解決されたことだし、ようやく限界速度の果てへの挑戦への入り口に立てたと言えるんじゃないかな!」
「うんありがとうタキオンありがとう――ありがとうだからさすがにちょっと離して!! 回さないで!!」
そのままぶんぶんと私の身体を振り回し始めたタキオンに、手を振り回して抗議するとぱたりと回転が止まった。
我に返って、ごまかすように咳払いをしたタキオンがいつもの蠱惑的な表情を浮かべる。
「……つい性にもなくはしゃぎすぎてしまったね。久々の勝利おめでとう、エレジー君」
その反応は、普段の振る舞いを思わず忘れてしまうほどにタキオンが私の勝利を喜んでくれているということを示していた。
「うん。ありがとう。タキオン。……ずっと迷惑をかけてごめん」
なんだかくすぐったい気持ちになりながら頭を下げると、「なに、気にすることはないさ」とタキオンが手を振った。
「エレジーさん、おめでとうございます」
タキオンと私のやり取りが一段落したのを見て取った桐生院さんが控えめな様子で頭を下げる。私がレースに勝利したことで表情は晴れやかになっているが、目の下に刻まれた隈はメイクでも隠しようがなかった。
「桐生院さん」
「はい」
私の呼びかけに、真剣な話の雰囲気を感じ取ったのか桐生院さんが背筋を伸ばす。
「ずっとご迷惑をおかけしました。トレーナー転向はしません。今年も走ります。――ウマ娘として」
「はい」
「だからもう少し、付き合ってくれませんか。――私の夢に」
「はい!」
力強く頷いた桐生院さんの瞳から光るものがこぼれ落ちる。
「そうなれば、これからのローテをどうするか考えないといけないねぇ」
「ええ」
「桐生院くんのことだ、もうローテーションの案は考えているのだろう?」
「はい」
タキオンに促されて桐生院さんが抱えていたファイルから出した紙には、秋のトゥインクル・シリーズのレースの最終目標と、それにむけてのローテーションが記されていた。ローテーションも、想定されるレース結果やコンディションに合わせていくつかのバリエーションが検討されている。昨日今日の作業で作られたものではない。もっと前から検討を重ねたものだとひと目で分かるつくりだった。
わたしが見た夢ののことは桐生院さんにはまだ話していなかった。トレーニングでそこそこのタイムが出せるのは凡走しているときもそうだったから、トレーニングのときの感触だけでは前のような走りを取り戻せたのか判断できなかったし、何よりレースで結果が出る前に桐生院さんをぬか喜びさせて、またがっかりさせたくはなかったからだ。
だけど、ローテーションの最終目標にはGⅠが書かれていた。
それは桐生院さんが、私が元の走りを取り戻せばGⅠの大舞台にふさわしい走りができると信じてくれていたという証だった。
「――秋の国際招待マイルGⅠ・ジャパンワールドカップを目標とするプランを、考えています」
ようやくクラシック期の迷走の話が終わってジャパンワールドカップ編に入れました……。
次回はジャパンワールドカップに向けて、ファン感謝祭でのチョクセンバンチョー・ギンシャリボーイとのお話になる予定です。
また、諸々の用事がありまして次回以降の投稿はしばらく不定期になると思います。遅くとも春先くらいには定期連載に戻せるといいのですが……。