[パッチワーク・オブ・ドリーム]ハリボテエレジー育成シナリオ   作:ターレットファイター

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[ジャパンワールドカップにて・たどり着く]その2

 

 ひときわ大きい歓声が聞こえて、ゴール板の前を通り過ぎたことにやっと気づいた。歓声から遠ざかりながら、ゆっくりとスピードを落として第一コーナーの終わりあたりで足を止める。

「おめでとう、ハリボテエレジー」

 肩を叩かれて振り返ると、ギンシャリボーイが肩で息をしながら苦い笑みを浮かべていた。

「――ようこそ、タイプ・ブラック(GⅠウマ娘)の世界に」

 タイプ・ブラック(太ゴシック文字)――現役と過去のウマ娘に関するデータを網羅した国際ウマ娘名鑑におけるGⅠウマ娘の証。国際GⅠの格付けを得たウマ娘の名前は黒い太ゴシック文字で記載されることから転じたことから生まれた呼び名だ。ギンシャリボーイも、チョクセンバンチョーもそれぞれにすでにタイプ・ブラックの証を得ている。

「おい、今回だけじゃねぇだろうな?」

 背後からどつかれて振り返ると、ゼイゼイと肩で息をしながらチョクセンバンチョーが後ろからすごい目で睨みつけていた。

「……有馬記念、俺もギンシャリも出る。逃げるんじゃねぇぞ!」

「エレジーは追い込みタイプだから先頭(ハナ)の奪い合いには参加しないんじゃないかな……」

「そういうことじゃねぇよ!」

 ギンシャリボーイのずれた返答に毒気を抜かれたらしい、チョクセンバンチョーはひらひらと手を振りながら背を向けた。

「まあいい。これで終わり、なんてこたぁねえだろ――また走ろうぜ」

「……まったく、バンチョーは素直じゃないんだから。――行ってらっしゃい、ウイニングラン」

 チョクセンバンチョーに苦笑しながら、ギンシャリボーイもコースから出ていく。

「――しかし、負けたな。完敗だ」

 コースに残ったのは、わたしひとり。

 ざわざわと、スタンドのほうから聞こえてきていたざわめきが徐々に一つの名前に収束してゆく。

 彼らが呼ぶ名前は、このレースの勝者の名前。

 彼らが呼ぶ名前は、ハリボテエレジー。

「――そっか、勝ったんだ、わたし(ハリボテエレジー)

 

 ウマ娘の一群が内ラチの向こう、少し遠い場所を走り去っていった。レース中にはけして広い場所とは感じられない最終直線も、コースの外から見るとびっくりするくらい広大で、そこを走るウマ娘たちは遠い。

 走り去っていったのは、いずれも世界に名だたる優駿と言っていいウマ娘たち。

 先頭に立つのはダンボール製のウマ耳カチューシャをつけた女性。ウマ耳のないウマ娘。アグネスタキオンと桐生院葵がその可能性に魅入られたウマ娘――ハリボテエレジー。

「届いた――届いたぞ桐生院くん!」

 タキオンが抱きつくと、感情が追いつかず呆然としていた桐生院葵がやっと結果を認識したように「ええ、ええ……」と頷いた。

 どよどよと、ざわざわと、思いもかけなかったであろう結果にざわめいていた観客たちの声が、いつの間にか一つの名前を形作り始める。

「エ・レ・ジー! エ・レ・ジー!」

 観客たちが名前を呼ぶ中、彼女は第一コーナーの先から一人、コースを駆けて帰ってきた。ウイニングラン。GⅠを勝利したウマ娘だけに許された栄誉。

 ハリボテエレジーはコースの外側の観客席に向けて大きく手を振りながらゆっくりとゴール板の前を駆け抜け、タキオンと桐生院の前に帰ってきた。

 感情を映さず、固くピンと立ったダンボール製のウマ耳カチューシャ、アレンジを加えた汎用勝負服、腰からだらんと下がったつけしっぽ。一見してウマ娘のコスプレをした只人にしか見えないその姿は、間違いなく二人が可能性にその魅入られたウマ娘だった。

 涙を拭った桐生院葵が向き直る。

「おかえりなさい、エレジーさん」

「――ただいま」

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