[パッチワーク・オブ・ドリーム]ハリボテエレジー育成シナリオ 作:ターレットファイター
[デビュー戦の後に・目指すべき場所]
ゴール板の先で待っていたのは、歓声だった。
「どうしたんだいエレジー君、やけにぼうっとして」
検量所を出たあとタキオンに声をかけられてもまだ、私の身体は力の抜けるような充足感に包まれていた。素早く脈拍を測ったタキオンが興味深そうに顔を覗き込む。
「……ふぅン、随分と興奮しているようだね。どうだったかな、デビュー戦は?」
「……すごい歓声だった」
私の答えに、タキオンが不思議そうに首をかしげる。
「ふむン? 歓声の大きさという意味ならもっとすごいものを浴びたことがあるだろう」
「それは……そうだけど」
歓声の大きさでいえば、タキオンが走ってきたクラシックレースやGⅠとは比べ物にはならない。大きなレースのない日のメイクデビュー戦を見に来るのは相当のファンだけで、レース場の入場者数だってそれほどのものではないし、そういう日に訪れるファンが目当てにしているのだって午後に行われるメインレースだ。だから、メイクデビュー戦のあとにあがった歓声はだいぶ控えめなものだった。
そして、レースで勝ったウマ娘に向けられる歓声はトレーナー補として、あるいはトレーナーとしてこれまでにも聞いてきた。直接的にはウマ娘に向けられるものであっても、自分が担当したウマ娘が歓声を浴びる姿を見るの喜びはなににものにも代えがたい。
しかし、それを自分のものとして聞いたのは、これが初めてだった。
歓声は歓声であり、これまで聞いてきた歓声もその一部は自分に向けられたものとして喜んでいた、だから、その喜びは自分自身が走ったレースであっても変わらないと思っていた。
「……でも、自分で走ったあとに聞くのはまるで違うなって」
「ふぅン……」
私の答えに、タキオンは興味深そうに目を細める。その目に一瞬、不思議な光が浮かぶ。
「そうだね、エレジー君……」
その光は、これまで――トゥインクル・シリーズでの走りのなかでタキオンの目に浮かんでいたものとは、全く違う色をしていた。
「タキオン?」
「ああ、そうだったね」
思わず首をかしげると、タキオンはハッとしたように首を振る。
「疲労回復効果のあるドリンクだ。大丈夫、ドーピングを疑われるような成分は一切入ってない特別製だ。ぐいっといきたまえ」
そう言って怪しい色合いのドリンクを差し出すタキオンの目は、元の色に戻っていた。
特製ドリンクを飲み干すといつものように、どんよりと沈んだ目の色のタキオンが微笑みを浮かべる。
「エレジー君。――おめでとう。さあ、ウィニングライブに行ってきたまえ」
というわけでハリボテエレジーは無事、メイクデビュー戦で勝利することができました。
このあたり、元ネタであるジャパンワールドカップ1.0のハリボテエレジーは未勝利ですが、まあさすがにクラシックならともかく古馬戦線のGⅠレースでは未勝利馬が出てる理由付けができませんので……いやまああのレースどう考えてもサラ系指定競走じゃないし未勝利がどうのというレベルの話じゃないので突っ込むべきところはそこではないのですが。まあそれはともあれ、ウマ娘の育成シナリオなのでそのあたりはちょっとアレンジしています。モチーフとなった競走馬が未勝利のまま終わったハルウララもメイクデビュー戦普通に勝つしそのあと未勝利戦勝てないとどうにもなりませんし、その辺はウマ娘ナイズドされています。
そしてストックが尽きました。書き溜めてはいきますが、しばらく更新が止まります……。