[パッチワーク・オブ・ドリーム]ハリボテエレジー育成シナリオ   作:ターレットファイター

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ストックも回復してきたのでぼちぼち連載を再開します。クラシックの半ばまで8エピソードくらいストックしてるので、1か月くらいはまた元のペースで更新していきます。


[勝負服イベント:夢のカタチ]―ジュニア級・11月前半
[勝負服イベント:夢のカタチ]


 

 トゥインクルシリーズには、勝負服というものがある。

 未勝利戦・条件戦・オープン戦・そして重賞と階層をなすトゥインクルシリーズのレース体系の中でも最上級の格付けを与えられているGⅠレースでのみ着ることのできる、自分専用の衣装、それが勝負服だ。オーダーメイドの勝負服を纏い、大一番のGⅠレースを走る姿はトゥインクル・シリーズにとっての最大の華であり、トゥインクル・シリーズを目指すウマ娘にとって共通のあこがれである。

 そして、その憧れを現実のものとできるウマ娘はごく少数だ。

 一握りの上位層しか出走できない重賞レースであるGⅡ・GⅢであっても出走するウマ娘が着るのは全員共通の運動着。

 勝負服を着ることのできるGⅠレースに出走するのはトップ層のなかでもごくわずかだ。

 ましてや、トゥインクル・シリーズでの一年目、ジュニア期に勝負服を着てレースに出走するウマ娘ともなれば、同世代の中でも指折りの実力者、翌年のクラシック路線やティアラ路線での活躍が期待される有望株という評価を与えられることになる。

「まさか、一年目で勝負服を着ることになるなんてなぁ……」

 だからこそ、いざ自分がその「ジュニア期に勝負服を着て出走するウマ娘」の一人として勝負服のサイズ合わせをするときに浮かんだのは苦笑いだった。

 ウマ娘としてトゥインクル・シリーズに出走するというだけでも未だに感情が追いついていないのだ。最高グレードであるGⅠに出走することになっても、もう気持ちが追いつくとか追いつかないよりも先にまず実感が持てないというのが正直な気分である。

「その気持ちはちょっとわかります。私もまだ担当のウマ娘というよりも、タキオンさんのトレーナーって感覚のほうが先立ってしまいますから」

 私のつぶやきが耳に入ったらしい桐生院さんが勝負服のチェックを続けながらそう言って困ったような笑みを浮かべた。

「でも今回の出走を勧めたのは桐生院さんじゃないですか」

「それはまあ、芙蓉ステークスでの走りはそれだけのものでしたから。ほら、新聞でも来年のクラシック路線の有望株として紹介されていますよ」

 そう言って桐生院さんが示した競馬新聞は「ジュニア期三強対決」の見出しで私の次走――三つしかないジュニア級GⅠレースの一つ、朝日杯フューチュリティステークスは来年のクラシック路線の有望株三強の勝負になると書き立てていた。

 メイクデビュー戦で五バ身差を二着につけて圧勝、ジュニア級一勝クラス、ジュニア級重賞のGⅢ・新潟ジュニアステークスと三連勝。そのうえ、逃げ・先行・差しとどの戦法でも戦えることを証明済みのギンシャリボーイ。

 未勝利戦を突破するのに二戦を要したもののその後は条件戦、オープン戦と連勝し、暴走さえしなければ強気の走りで馬群を突き破るパワーを持ち、今後の大きな成長が期待されるチョクセンバンチョー。

 そしてメイクデビュー戦に加え芝二〇〇〇メートルのオープン戦・芙蓉ステークスでも驚異の末脚でもって最後方から最終直線で全員ごぼう抜きの二戦二勝と無敗。さらにレース内容を見ても芙蓉ステークスで二着に三バ身差と余裕のある勝ち方をしているハリボテエレジー。

 この時期になると翌年のクラシック路線の有望株が新聞を賑わせるのは毎年のこととはいえ、その一角に自分が数え上げられているのはどうにも気持ちが追いついてこない。特に、一番最後のハリボテエレジーの紹介なんていったいどこのウマ娘の話ですか? と聞き返したくなるくらいだ。

「へぇ……これがエレジー君の勝負服かい」

 軽くジャンプして腰のつけしっぽとカチューシャがずれたりしないか確かめていると、それまで部屋の隅でじっと様子を見ていたタキオンが首を傾げた。

「しかし……なんで勝負服をせっかく誂えたのに、汎用勝負服のデザインなんだい?」

 私が注文したのは白をベースに紺色、緋色を配したデザイン――汎用勝負服と呼ばれる、GⅡ以下のレースのウィニングライブでウマ娘が着る衣装そっくりのものだった。

 もちろん、そういうデザインにすることまで含めて私の注文でもある。

「これが一番馴染みのある、憧れのスタイルだったからね」

「いや、汎用勝負服は汎用でしかないだろう……?」

 タキオンには今ひとつその意味がわからなかったらしい。首をかしげるタキオンの横で、ああ、なるほど、と手を打ったのは桐生院さんだった。

「『ウマ娘なりきりセット』ですか!」

「ええ、それです」

 そう、私の勝負服はウマ娘なりきりセットのデザインを念頭に置いたものだった。

 ウマ娘なりきりセットとは、汎用勝負服にウマ耳を模したカチューシャ、つけしっぽがセットになったウマ娘もヒトも問わない女の子向けの定番のおもちゃだ。

「ウマ娘なりきりセット?」

 しかし、タキオンは遊んだことがなかったらしく、その名前を聞いても首を傾げたままだった。

「……タキオンさんは遊んだことありませんか? 私の家だと親戚一同集まったときはだいたいこれをつけて遊んでましたが……」

「いや、私はもとからウマ娘だったのだからなりきるもなにもないだろう?」

 桐生院さんがスマートフォンで検索した画面を見せても、タキオンには思い当たるものがなかったらしい。確かに、タキオンの場合トゥインクル・シリーズに憧れてなりきりセットを着てた……というほうが逆にイメージが沸かない。

「まあ、そういうのもタキオンらしいといえばタキオンらしいけど……スターホースなりきりコレクションなら聞き覚えあるでしょ? タキオンがこういうので遊ぶくらいの年齢の頃だったらサイレンススズカとか……」

 ウマ娘なりきりセットには、汎用勝負服のものだけではなくその年のトゥインクル・シリーズで活躍しているウマ娘の専用勝負服や耳飾りを再現したシリーズもある。

「ふうン……そんなものがあるのか」

 汎用勝負服には興味がなくても、自分が子供の頃に活躍していたウマ娘に憧れてなりきりセットを……というのはタキオンにはなかったらしい。

「タキオンのも発売されてるよ、ほら」

「へぇ、こんなものがあるのかい……ふむン、カフェのもあるのか、これを着て走ってみたら面白いデータが取れそうだ」

 そう言って笑ったあとに、タキオンがずい、と詰め寄ってくる。

「でだ、エレジーくんはどうして汎用勝負服なんだい? なりきりセットにするのなら別に汎用のでなくてもいいだろう、私の勝負服のなりきりセットもあるんだろう? ならばそっちにすればいいんじゃないかな? GⅠを複数、それもクラシックレースも取ったウマ娘だぞ、汎用勝負服よりはこっちのほうが縁起もいいんじゃないかい?」

 わずかにむくれたような様子のタキオンに思わず苦笑してしまう。タキオンは割とそういう子供っぽいところがある。だけども、ウマ娘としてトゥインクル・シリーズを走る――子供の頃に夢見ていたことが実現するのなら、この服装だけは外せない。

「これは、子供の頃に憧れててなりきり遊びをした時に思い描いていたウマ娘の姿そのものだから」

 なぜなら、専用勝負服を着ることができる――GⅠで活躍できるウマ娘は一握り。開催されるレースだってGⅠはそれほど多くない。休日になるたびにテレビの中で走り、ライブを踊っていたウマ娘たちは、この汎用勝負服を着ている姿のほうが多く、そしてこっちのほうが印象に残っているのだ。

 だから、わたしにとっての夢は、専用勝負服よりも汎用勝負服を着ることのほうだったのだ。

「なるほど。『憧れの形』か……ふぅン、その感情は面白そうだねぇ」

 目を細めたタキオンが、わたしの頭の上のウマ耳に手を伸ばす。

 半年あまりが過ぎても、ウマ娘なら当然持っているはずのウマ耳がそこに生えてくることはなかった。だから、タキオンの手が触れたのも強化ダンボール製の作り物のウマ耳だった。

「そういうこと。せめて、姿だけでもそれらしく、ってね」

 

 




というわけでハリボテエレジーの勝負服のお話でした。次回からギンシャリボーイ・チョクセンバンチョーの朝日杯フューチュリティステークスになります。
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