ARKナイツ   作:エドレア

13 / 16
アンケート回答ありがとうございます

アークナイツグローバル3.5周年、登臨意、皆さんは楽しめていますでしょうか。私めは大陸の異格エイヤに心を撃ち抜かれております。そうだね、感染者なんだからそりゃ症状進むよね


Case5:龍の巣立ち

 

 

 

 

 

「見つからないねぇ」

「こればかりはしかたない」

「少し休みましょう。闇雲に探しても効率が悪いわ」

「そうですね、こういう探し物って慌てて探している時よりもふとした時に見つかる事の方が多いと思います」

 

 ユウティラヌスのテイムより既に二日。

 事前に見つけてある洞窟を攻略し残すところ後一つとなった洞窟を探して四人は焦土の地を奔走していた。

 この二日の間、洞窟の攻略に勤しみアーティファクトを獲る事に成功している。狭い場所での戦闘、ラップランドが率先して前線に出向き洞窟特有の虫生物にはフォリニックのメガテリウムがバグキラーを発揮するおかげで障害になりえない。ロックエレメンタルの亜種、テイムできないラブルゴーレムが出てくる事もあったがマドロックが対話する事で無力化に成功していた。

 唯一、今の彼女達を悩ませているのは最後の洞窟の入り口だった。洞窟そのものが見つからなければ挑みようが無い。

 

「よくよく考えてみればノーヒントで洞窟を探せって中々辛いところだよね。最初の二つは偶然見つかったようなものかな」

「一応集めた手記からも手がかりが無いか調べてるけど、それっぽい記述が無いのよね」

 

 四人は現在、焦土南東に広がる廃墟郡にいる。岩の荒れ地が広がる内地とは違い外周は尽きる事の無い砂漠の景色がどこまでも広がっているが、完全な殺風景という訳でもない。所々オアシスが点在しているし、かつての先駆者の遺跡なのか朽ちた建造物が建てられているところもある。四人が今いるのはそうした廃墟郡の中でも最も大規模な地域だった。

 

「ただの探索ならアルゲンタヴィスに乗れるんだけど探しているのは洞窟の入り口なんだよねぇ……」

「友人達にも手伝ってもらったが、芳しい成果はない。少し甘く見ていたようだ」

「ロックエレメンタルを使った人(?)海戦術でも見つからないとなるといよいよお手上げってところなのよね。正直マドロックの"お友達"に頼るのは最終手段だと思ってたんだけど……。スズラン、どうしたの?」

「いえ、さっきから何だかここで違和感がするというか……。ここの廃墟にしたってなぜか生き物が極端に少ないしどうしてか落ち着けないんです」

 

 そうやってスズランが辺りを見回した時だった。

 地鳴りが砂の中から突如として響いてくる。遅れて周囲の地形も大きく震えている。

 四人は言葉を交わす事もなく目配せをするだけで即座に戦闘態勢を整える。四人が今いるのは幾つかある廃墟の屋上で垂直な建造物に並みの生物では登ってこれないはずだった。

 だが地鳴りの主はその地形すら無視した。地鳴りがより一層大きくなったかと思えば突如として四人の足場が崩れ去る。突然の落下にフォリニックとスズランはパニックを起こしかけたが歴戦の戦士であるマドロックとラップランドがそれぞれを抱き抱える事で無事に着地する事が出来た。

 

「……生物が極端に少ない理由ってこういうことだろうね」

「なんて、厄介な……」

「赤いオーラを纏っているな」

「これ逃げられませんよね……」

 

 崩れる現場から急いで距離を取る四人。

 崩壊する建造物から姿を現した生物は感情の無い複眼で彼女達を睥睨した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は少し遡り場所はワイバーン渓谷。

 ワイバーンの子育てに励むチェンだが終わりが近付いていた。しかし彼女の表情に楽観的な色は見られない。原因は大きくなった炎龍(イェンロン)とのコミニュケーションが失敗した事だった。

 

炎龍(イェンロン)にあんな顔をさせてしまうとはな。母親失格だ)

 

 もう成体と変わらない大きさに成長した炎龍(イェンロン)。だが甘え癖は治っていない。いや、治っていないというより治さなかったというべきか。

 成長するに従って調教を施したチェンだが調教の終わりには必ず甘えさせるようになっていた。無理に突き放したり冷たい態度を取ると頑固なのかいつまでも鳴き続ける。むしろ調教のご褒美に甘えさせ誉めてやる方が物覚えが良いので割りと自由にさせていた。

 だがこれが良くなかった。今日の調教の終わり際、いつものように可愛ろうとすると少し勢いをつけ過ぎたのだろうか炎龍(イェンロン)がチェンに向かって突貫しチェンを突き飛ばしてしまったのだ。運悪く頭をぶつけてしまったチェンの額からはどこか切ってしまったのか派手に血を流してしまう。賢い子なのだろう、それを見た炎龍(イェンロン)はそれまでの甘えん坊が嘘のように鳴りを潜め、むしろチェンが近付こうとすると怯えるように後ずさりし離れるようになってしまった。

 幼い頃の感覚が抜けきらず意図しない形とはいえ母親であるチェンを傷付けた事に大きなショックを受けた炎龍(イェンロン)。チェンは悲しみに暮れる炎龍(イェンロン)に親として何も出来ないでいる己に腹立たしさを感じていた。

 

(ウェイ……は論外としてフミヅキさんならこういう時どうしたんだろうな)

 

 チェンから一方的に近付いても炎龍(イェンロン)の様子はひどくなるばかりで改善は見られない。仕方なく今は時間と距離を置いた方が良いと判断したチェンは、巣から離れてとりとめのない散策をしていた。食料を得るためでもなくミルクを取るためでもない、言ってしまえばただの散歩である。もう渓谷は探索し尽くしており頭上を飛ぶ野生のワイバーンを無意識で警戒出来ているチェンにとって脅威となる物は何もないはずだった。

 

 渓谷の北側の突き当たり、溶岩の滝が流れている場所まで来たチェン。チェンが拠点にしている炎龍(イェンロン)との巣からはかなり離れている。巣から遠い事もあってここに来たのは数えるほどしかない。ミルクを取るのに手頃なメスのワイバーンがいないか探している最中に通り過ぎるような場所でありこうやってまじまじと眺めるのはチェンとしては初めての事だった。

 

(あの子が元気になってくれれば、こことおさらばだ。それにしても今日は静かだな……!?)

 

 チェンとしては珍しく、気が抜けていたのだろう。もう既に知り尽くしたと思っている地形。散々眠らせてきた野生のワイバーン。そして自身の持つ実力。

 いつもならワイバーンが飛び交いたまに落ちてくる他の生物を狙って野生のワイバーンのブレスが放たれるような混沌とした地域が何の理由もなく静かになる事など有り得ないのだ。

 

「後ろかっ!?」

 

 急いで振り向いたチェン。確かにそこには野生のファイアワイバーンがチェンを捕捉し飛んでいる。直前まで気が付かなかったチェンは戦闘態勢の整えようとして────即座にその場から飛び退き横合いから放たれた一条の雷が先ほどまでチェンがいた場所を通りすぎるのを横目で確認する。勘で次の襲撃を予感したチェンはしかしそれよりも早くチェンの向かう先に緑色の毒ガスが充満している事に一瞬足を止めてしまった。

 

(しまっ────)

 

 ガブリ。

 久しく忘れていた赤い鉄錆びの臭い。

 音も無く、肉薄してきたアギト。

 痛みと衝撃で、衝動的に動いたチェンは少し遅れて状況を把握した。

 

(右腕を、持っていかれたか)

 

 チェンの右肩が大きく抉れている。指先は多少動かせるが肩が全く上がらない。滴る流血は炎龍(イェンロン)との事故が鼻で笑えるほどに多い。二刀流を主眼とするチェンとって致命的な負傷であった。

 三種のワイバーンとは別にもう一頭口から鮮血を垂らすワイバーンがいる。その姿はファイアワイバーンとよく似ているものの一回り図体は大きく体には赤いオーラを纏っていた。

 

(なるほど、ワイバーンのα(アルファ)種か。やつが他のワイバーンを従えているのか)

 

 チェンの知るワイバーンならこういう戦術的な行動を行わない。炎龍(イェンロン)のおかげで思っていたよりワイバーンが賢い生物なのは分かっているが、普通のワイバーンならその総合的な能力の高さで策を弄する必要は無くただただあるがままに暴れればいい。チェンが多くのワイバーンを相手に優位を取れたのはワイバーンからすればチェンは小型の生物であるという傲りにつけこめたからでしかない。最初の一頭を除いてどのワイバーンもミルクを取るために討伐していないのもあるだろう。

 

(厄介だな。このまま巣に逃げ帰るわけにもいかない)

 

 状況は最悪と言っていい。利き腕を潰され逃げるにも四頭ものワイバーンに確実に捕捉されている現状を覆す手段が見つからない。チラッと覗き見程度に望遠鏡で確認した限りでは各ワイバーンともレベル100を優に超えていた。レベルが高ければステータスが高いのも当然で、眠らせるのに必要な麻酔矢もそれ相応に必要になる。チェンの手持ちの麻酔矢では全く足りていなかった。

 

(いっそ死に戻るか)

 

 死に戻り。或いはリスポーンシステム。死ぬと自分が作ったベッドから復活できるシステム。

 ケルシーからARK全体の概要をチェンが聞かされた時に最も驚いたのがこのシステムである。死とは一度きり、という当然の概念に真っ向から歯向かうこのシステムはARKが作られた世界である事を如実に示していた。ケルシーがどうやってリスポーンシステムを把握したのかは知らないが、ロドスのメンバーも知ってはいても誰も試したがらない。当たり前である。

 チェンとて進んで死にたくはない。潜り抜けた数々の修羅場、死を覚悟して臨んではいたが覚悟するのと死ぬ気でいるのは訳が違う。ベッドから復活した後は自分の死体が消えているなんてことはなく肉食生物が食べている事もあるが、場合によっては死ぬ前まで持っていたアイテムを取り戻すために自分の死体を漁る事になる。精神と倫理に対して人によってはあまりに冒涜的だと捉えるだろう。

 

(仕方がないが、死ぬのならあの四頭から見つからない位置でなければならない)

 

 敵性生物に殺された場合、場合によっては自分を殺した生物と鉢合わせる可能性が高い。そしてアイテムが無いまま不利な状況で襲われると前回の焼き直しになり結果として死のループが発生しかねない。単に死ぬだけでは余計な労力を増やしてしまう。

 

 チェンは今、壁を背にしつつ絶えず移動を繰り返す事で何とか攻撃は避けている。彼らの棲み家である渓谷だが複数のワイバーンが同じ場所で固まって飛ぶには狭い。それを理解しているのか、リーダー格のα(アルファ)ワイバーンはだけは無闇に動かずチェンを睥睨している。

 だがジリ貧だった。先ほどのように背後を取られる事だけは避けた形だが反撃の余地が無い以上ただの延命に過ぎないのだ。

 

(出来れば溶岩に落ちる事だけは避けたいがっ……!)

 

 何度目かになるか分からない回避。しかしここまでの無理が祟ったか、チェンは一瞬体勢を崩してしまう。その隙を逃すまいとα(アルファ)ワイバーンが向かっていく。今度は噛み付くのではなく焼き尽くすつもりらしい。チェンに向かって炎が放たれる。それをチェンは横に避けるのではなく片腕で赤霄を抜き真正面から炎に斬りかかった。

 

「舐めるなよ、この私を!」

 

 炎を割いた赤霄はそのままα(アルファ)ワイバーンの頭へ向かう。α(アルファ)ワイバーンからすれば驚愕もいいところだった。これまで回避に徹していた小者が己の放つ吐息(ブレス)を無力化するばかりか反撃してくるなど他より頭を使うα(アルファ)ワイバーンでも想定外である。龍殺しの剣は正しくその威力を発揮した。

 

(浅い、だがこれで良い!)

 

 無理な体勢で抜刀したのが良くなかったのか赤霄はα(アルファ)ワイバーンの頭を唐竹割りにすることはなく、少し下に逸れて喉元に生えている逆立つ鱗を斬り割いただけに終わった。

 逆立つ鱗、つまり逆鱗に触れた訳だがその慣用句に間違いは無いようだ。致命傷に至らないとはいえ大きな外傷を負ったα(アルファ)ワイバーンはそれまでの冷静さをかなぐり捨て怒りの咆哮を上げながらチェンがいたはずの場所に顔を向ける。だがどこを探しても見当たらない。従えていた他のワイバーン達にも見つからないようで周囲には困惑が広がっていた。

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……。何とか、奴らの視界からは外れたか」

 

 戦場になっていた溶岩の滝付近、そこから少し離れたところにチェンはいた。左手で自身の体を抱くように右の肩口を抑えている。

 チェンからすれば一撃入れた事よりも、親玉であるα(アルファ)ワイバーンが一瞬でも冷静さを失ってくれる事の方が大事だった。赤霄・絶影の応用で神速の歩法によりワイバーン達の目から一瞬で逃れたのだ。無闇矢鱈に逃げてもあのα(アルファ)ワイバーンが統率する限り逃走に成功する確率は限りなく低い。α(アルファ)ワイバーンがチェンに接近した瞬間、他全てのワイバーンからの視線が切れるタイミングをチェンはずっと見計らっていた。

 

(血を流し過ぎている。このまま、隠れながら、少しずつ巣の方へ近付こう。リスポーンする時、なるべく死体の位置が近い方が楽……)

 

 少なくとも、歩けるつもりでいたはずのチェン。だが気概に反して体は言うことを聞かず灼熱の大地に横たわる。神速の歩法、それだけでも今のチェンの体力を消費しきるには十分な技だった。

 

(不味い、な。思考が、定まらない。死ぬのなら、もう少し、ワイバーン達から、離れた、位置でない、と)

 

 周囲の暑さに対して徐々に冷えていく自分の体。チェンは柄にもなく、死ぬ瞬間を体験することに腐れ縁とも呼べる(スワイヤー)(リン・ユーシャ)を思い浮かべ彼女達に自慢できるだろうかと思った。

 ふと頭だけを動かし何とか空を見る。遠く離れた空には種類も分からないワイバーンの影が飛んでいた。

 

(あれに気付かれたら、意識があるまま、喰われる事になるんだろうな)

 

 そんなチェンの思いに応えるかのようにワイバーンの影はチェンへ近付いてくる。もうチェンに目を開く余力すらない。静かにその時を待つ。

 やがて地面にそれが降り立つ音がする。いずれとも知れぬワイバーンは、チェンの前で立ち尽くしていた。

 

(なんだ……襲ってこない……のか?)

 

 チェンは薄く目を開けるが逆光でワイバーンが影になってしまっていて判別がつかない。

 ピシャリと水がチェンの体にかけられた。よだれを垂らしたワイバーンの物かと思えば違う。よく見ればワイバーンが何かを咥えているのが分かる。カバンと水が入った皮袋だろうか。

 そこまで理解したチェンは違和感に気付く。痛みが無い。先ほどまで死の淵にいたというのに意識がはっきりしている。

 

(違う。さっきかけられたのはよだれじゃない。これは────私が作ったメディカルブリューだ)

 

 メディカルブリュー。赤いベリーを麻酔薬と煮込む事で作られる即効性のある外傷薬。緊急時に手っ取り早く傷を治すのに使われる生存者のアイテム。チェンはこれを日々活動する中で少ない水を何とかやりくりしながらもしものために備えていた。そんな大事なアイテムをチェン以外で知っている者。

 

 遠くからワイバーンの咆哮が響いてくる。遅れて先ほどチェンを襲った四頭のワイバーン達がやってきた。横たわるをチェンを今度こそはと厳しい目でα(アルファ)ワイバーンは睨みつける。三頭のワイバーンはチェンの隣にいる黒いワイバーンを無視して一直線に向かう。だが彼らの爪牙や吐息が届く事はなかった。黒いワイバーンは向かって来る先頭のファイアワイバーンの首に噛み付くとそのまま強引に振り回し残るライトニング、ポイズン達へ鈍器のようにぶつけて吹っ飛ばす。そのままファイアの首をへし折り壁に叩き付けられた二頭のワイバーンへは渾身の吐息が放たれた。

 

 1分にも満たない時間で瞬く間に三頭の敵ワイバーンを無力化した黒いワイバーンをチェンは誰よりも知っていた。この渓谷に降り立ってからずっと育ててきた甘えん坊の可愛い我が子。

 

「おまえ、炎龍(イェンロン)なのか!」

「ギャオオオオオオオオッッッッッッ!!!」

 

 黒いワイバーン────炎龍(イェンロン)は成体の姿でチェンの声に応えて雄々しく咆哮した。

 

 

 

 

 

(右腕の感覚が戻った。今ならいける……!)

炎龍(イェンロン)、飛べるな?」

「オオオン!」

 

 一瞬で配下を殺されたα(アルファ)ワイバーンは今日一段と苛立っていた。使えぬ雑魚が殺された事はまだいい。替えはいくらでも利く。それよりも自身の威に従わないばかりかあまつさえ反骨心を向けてくる青二才の存在が彼に沸々と鬱憤を溜めさせていた。二足の小さな生き物はこの際どうでもいい。最近何やらこそこそと棲み家の渓谷で動いていたようだから、見かけ次第処理してやるかと構えていたらとんだ手傷を負った訳だが、生意気な若僧をしつけてやる方が彼の中では優先すべき事だった。

 

 メディカルブリューにより回復したチェンはいつもの二刀流の構えで炎龍(イェンロン)の背に乗る。初めての飛行になるがチェンは炎龍(イェンロン)に全幅の信頼を置いていて不思議と懸念する事は何もなかった。

 

「オオオオッッッッッッ!!!」

炎龍(イェンロン)、私を気にする必要は無い。全力で飛べ!」

 

 激しい空中戦が始まる。炎龍(イェンロン)に騎乗して飛ぶのは初めてのチェンだが()()()()()によりチェンはこういった三次元の高速機動に慣れていた。目まぐるしく視界が上下左右に入れ替わる。

 α(アルファ)ワイバーンはファイアワイバーンを元にしたα(アルファ)種だ。同じファイアワイバーンである炎龍(イェンロン)吐息(ブレス)を撃ち合っても互いにダメージは入らない。勝負の決め手になるのは泥臭い肉弾戦となる。

 

(まだ大人になったばかりの炎龍(イェンロン)ではステータスが低い。真っ向勝負ではあちらに軍配が上がる)

炎龍(イェンロン)、真上に、もっと高く飛べ! 私が決着(ケリ)を付ける!」

 

 空中で取っ組み合っていた二頭だが炎龍(イェンロン)α(アルファ)ワイバーンの顔面に炎を吐きつける。効かないはずの攻撃だが頭では理解していても突然視界が炎に覆われてしまえば流石に驚いてしまう。一瞬離れた炎龍(イェンロン)を追いかけようとα(アルファ)ワイバーンを真上を見た。いや、()()()()()()

 大陽が逆光となりα(アルファ)ワイバーンの視界が一瞬塞がれる。視界を取り戻した時にはもう遅かった。炎龍(イェンロン)の背に乗っていたはずのチェンがいない。

 

 ────赤霄・絶影

 

 絶影の剣、棄つるに当たりて即ち棄つ。

 

 先ほどは逃げるのに使った神速の歩法。今度は本来の形で振るわれα(アルファ)ワイバーンは己の死因を悟る事無く肉片となって空に散ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「気付けば、随分遠くまで来ていたな」

 

 α(アルファ)ワイバーンを撃破したチェンと炎龍(イェンロン)は悠々と焦土の空を飛行していた。やっと渓谷から出られたチェンだが今は本来の目的を意図的に無視して炎龍(イェンロン)を思い切り可愛がっている。

 

「私の血の臭いを覚えていてくれたんだろう? ありがとう、炎龍(イェンロン)。おまえが来なければ私は死んでいた」

「ギュオォン!」

「ハハッ、甘えん坊は相変わらずだな」

(男子三日会わざれば刮目して見よ、だったか。三日どころかたった数時間で大きく成長したよ、フミヅキさん)

 

 極東の慣用句を思いだし恩人を思い浮かべるチェン。よくよく考えてみればミルクを取りに出かける以外で炎龍(イェンロン)を一人にしたことはなかった。あの事故とその後のα(アルファ)ワイバーンによるチェンの負傷が奇跡的な形で炎龍(イェンロン)の劇的な成長を生んだのだ。チェンが炎龍(イェンロン)の知育のためにと一緒に遊んだり様々なアイテムを目の前で使ってみせたのも大きい。メディカルブリューはそういった中で炎龍(イェンロン)が覚えているアイテムの一つだった。

 

「グォウゥ……」

「どうした? 何か気になる物でもあったか?」

「オォン」

「あれは……」

 

 高高度を飛ぶ特性からか炎龍(イェンロン)が目敏く何かを見つける。炎龍(イェンロン)が首を振って示した方向は南東部の廃墟郡だった。

 

 

 

 

 

「こいつ、随分とタフだね!」

「それはそうよ! 通常のデスワームですら厄介な相手だっていうのにα(アルファ)種なんて厄介どころじゃないわ!」

「……防御はともかく、火力が足りていない。友人達も近くにいない」

「ごめんなさい、アーツが保たなくてそろそろ切れそうです!」

「リサ、貴方は無理しなくていいから休みなさい!」

 

 廃墟郡での攻防。

 四人を襲ったのは焦土外周部の砂漠地域に生息するデスワームであった。主に砂の中に潜み獲物が近くを通れば振動で感知してそれを襲う巨大な肉食性の芋虫。そのα(アルファ)種である。並みの生物より遥かに大きいこの敵は最後の洞窟を探す四人の行く手を物理的に阻んでいた。

 

「マドロックのロックエレメンタルが重装を担ってくれているけれど、それがいつまで続くか分からないわ」

「いやぁ、僕達の弱点が露呈したねぇ。雑魚戦は得意だけど、まだボス戦に行かないからってこういう"強い一"に対する強力な戦力がいないのが辛いところだよね」

 

 軽口を叩きながらもラップランドはユウティラヌスに騎乗し味方全体を助けるためのバフ咆哮を上げさせ続けている。ラップランドが得意としている戦いは主に対人戦、もしくは常識に収まる範囲内の大きさの生物である。朽ちているとはいえ建物を容易に崩す巨体芋虫が相手では土俵が違い過ぎるのだ。

 

「おや、空から何か飛んで来ないかい?」

「あれは……ワイバーン!? こんな時に……!」

「待って下さい。背に誰か乗っていませんか?」

 

 前線でデスワームと取っ組み合っているロックエレメンタルとそれに乗るマドロック以外が空から飛来するワイバーンに気付く。ワイバーンに対して迎撃の構えを見せたフォリニックだがスズランの指摘でそれが普通のワイバーンでない事に気付けた。

 ワイバーンは四人に一切目も暮れず、デスワームの後ろから圧倒的火力を吐き付ける。そうして、デスワームが炎にのたうち回っていると直後にはバラバラに切り裂かれ燃えた肉片が辺りに散らばるだけとなった。

 

「ヒュウ♪ ︎流石、近衛局の隊長さんだね。あ、今は辞めてたんだっけ」

「貴方は……龍門のチェンさん!? え、ワイバーンをテイムしたの……?」

「ドクターが言っていた、龍門の龍人か」

「ええっと、チェンさん、助けてくれてありがとうございます」

「無事か? ……本当はもっと早くに君達と合流するつもりだったんだがトラブルが重なってな」

 

 当初の目的であるウォルモンド組との合流をようやく果たしたチェン。偶然か彼女達が嘆いていた火力不足を補う大役にピッタリと当てはまる。

 

「なるほど、洞窟を探していたのか。悪いが私はずっとワイバーンのいる渓谷にいて、全く探索できていないんだ」

「あの……崩れた建物の中に地下へ続く入り口のような物があるんですけどもしかしてこれって……」

「道理で、友人達を総動員しても見つからないわけか」

「アッハハハハハッ! 1日に幾つも起こりすぎだよ。退屈しなくてサイッコーだね!」

「チェンさん、救援ありがとうございます。一度拠点に戻って洞窟攻略の準備をしたいのですが一緒に来て頂けますか?」

「勿論だ。君達の旅路に、是非私を加えさせてくれ」

 

 焦土の生存者一行は四人から五人に。

 最後の洞窟を攻略出来れば次はいよいよボス戦である。

 

 焦土での日々もいよいよ終わりが近付いていた。




登場した生物紹介

デスワーム
焦土外周の砂漠地帯に生息する巨大な芋虫。おそらく元ネタなっているのはモンゴル・ゴビ砂漠に生息すると噂されるUMAモンゴリアン・デスワーム(現地語名オルゴイ・ホルホイ)と思われる
テイム不可の完全な敵性生物。普段は砂の中に隠れていて姿を見せず付近をサバイバーかテイム生物が通ると砂の中から地響きと砂が盛り上がるような描写と共に近付いてきて姿を見せる。戦闘能力が非常に高く、ティラノサウルスやワイバーンなどの大型生物でないと討伐は難しい。ロックエレメンタル同様石の建築にダメージを通す事が出来るので焦土外周で拠点を建てる際は高い位置に金属建築とアドベ建築を工夫して混ぜる必要ある。必ず地面から現れる関係上飛行生物さえいれば逃走自体は容易。基本的に厄介な敵キャラという位置付けだがカマキリのテイムには倒すとドロップするデスワームの角が必要。高レベルのカマキリはテイムに複数のデスワームの角を要求するのでカマキリをテイムしたいなら確実に倒す必要がある。
α種が存在しておりより強力な怪物に仕上がっている。強大な分倒した際の見返りも良くなっており一匹から一つしか取れないデスワームの角がα種だと一度に20個もドロップする
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。