第三弾。
衝撃の出来事が起こっていたのに、それを冷静に判断するハジメとユエに、シアのお説教が飛んだ後、なんだか微妙になった空気を払うように上へ上がった一同は、帰って来ていたネロの恋人である〝キリエ〟に昼食をごちそうになった後、しばらく休憩を挟んだ。
そんな時に、ジャックの話を聞いたニコが目を輝かせてハジメに詰め寄り、兵器の類を見せ合い、インスピレーションが湧いたニコが兵器開発に取り掛かったりといろんなことがあった。
そして現在、
「やれやれー! そこだー!」
「がんばれー! ネロおにいちゃーん!」
人のいない時間を使って、五年前に起きた〝魔剣教団事件〟の映像を再生していた。
画面に映る光景は、ネロとダンテが戦っていた場面で、なめているダンテと食らいついているネロが映し出されている。
「……イナバさんの時みたい」
「ですねぇ……って、足の力だけで石像を壊しましたよ!」
「何というパワーだ……! これが五年前だというのか……!」
「ネロ兄って、パワーだけなら俺よりも上って、親父が言ってましたからね」
ハジメとミュウが親子仲良く観戦している傍で、椅子に座りながら一緒に見ている一同。
あのまま今年に起きた事件について調べてもいいが、ネロの素性がよく分からないという皆のために、ジャックがここまで案内したのだ。
「うぉ~!? なんだあのリボルバー! バレルが二本もあるのか!」
「あれは確か……〝ブルーローズ〟。ネロ兄が自分で改造した奴だって」
「何!? クッソ~聞いておけばよかった!」
「まぁカッコいいよね。普通の人が使えば反動で肩がやばいことになるらしいけど……」
「そうなのか、ってマジかよ!? あんなリロードの仕方があるのかよ!」
そう言っている間にも、場面は進んでいく。
「今度は何だ……マジかよ!? なんだあの剣!?」
「あれは……スマン覚えてない。でもあれをモデルに改造したものは知ってるよ。〝レッドクイーン〟。映ってる奴をネロ兄専用に改造した奴」
「……刀身に何らかのものが入っているのかい?」
「そうですね。確か……推進剤を燃やして、それを噴射することで剣に推進力を乗せる機構……だったかな?」
画面では、ダンテと斬り合ったネロが徐々に押されていく光景が映し出されている。
「危ない!? えっ?」
「さっきも映ってましたよね? ネロ兄は右腕が悪魔だって」
「……あれほどの突きを受け止めてなお、後退せず、周りが吹き飛ぶとは……」
「って、あれを片手で持ちあげるの!?」
「そして投げた!?」
「あらぁ……シアちゃんまではいかないとしても、あのパワーはすさまじいわね……」
その後も、ダンテが昆虫標本になったり、ネロが悪魔を倒していったりする光景が続いた。
「何だあれは!? 〇タンドじゃないか!?」
「いいえ、あなた! あれはペ〇ソナよ!?」
「……ジャック。お前の知り合いは剣に貫かれるのがお約束なのか?」
「それは知らん」
ネロの覚醒した場面を見たり、
「ッチ! トータスに居たあの教皇みてぇだな」
「酷い……、家族を守ろうとした人を……」
「まさしく外道じゃな……」
ネロの兄貴分である、〝クレド〟が殺される場面を見たり、
「何だあれ?」
「あ~……親父ってさ、〇ルース・リーのファンらしくてさ、やってみたかったんじゃないのかな?」
捕まったネロの代わりに悪魔を呼び出す装置〝地獄門〟を破壊するために向かったダンテが、動力源となっていた魔具を使っていたり、
「「「「「「「「「打ち返した!!??」」」」」」」」
ネロが起動した〝神〟の拳を打ち返したりなど、様々な場所を巡ったところで、一日目は終わった。
――――――――――――
二日目のレッドグレイブ市観光。
「さて……ここが魔界とつながった場所ですね」
まず行ったのは、ハジメ達が出会った最強のデビルハンター〝ダンテ〟が魔界へと向かうために通った大穴である。
そこには、高校の体育館なんて目じゃないくらいに巨大な大穴が開いていた。
その大穴は、底が見えないほどに深く、落ちれば帰って来れないことを言外に伝えてくる。
「ここか……魔界につながったのは」
「大きい……」
「ここまで巨大な、ジャック君が言うには〝クリフォト〟っていう木が生えたんだっけ?」
皆その大穴を覗いて感想を口にする。
「そうです。そのクリフォトを斬り倒したのが俺の親父と叔父のバージルさんです」
「「「「「「「「「おぉ~」」」」」」」」」
ジャックの言葉に感嘆する一同。
「そしてこの災害を引き起こしたのもバージルさんです」
「「「「「「「「「……」」」」」」」」」
「さらに言えば、事件を終わらせたのはバージルさんの息子であるネロ兄です」
「「「「「「「「「……」」」」」」」」」
続けて告げられたことに引き攣った表情になる一同。
「このことについてはまた後でお願いします。んじゃ、ハジメ。過去を再生してもらえるか?」
「了解した。ユエできるか?」
「……ん、楽勝」
そう言って映し出された光景は、天を突くほどに巨大でまがまがしい雰囲気を纏う大樹であった。
「これが、魔界に生える大樹〝クリフォト〟です。気色悪いデザインしてるでしょ? しばらくこれとにらめっこしなくちゃいけないと知った時は元凶をぶん殴ってやろうと思いました」
比較的ユーモアに行っても気色悪さはぬぐえない。
視点を移動して、クリフォト内部に潜入する。
そこでは、ダンテのものと思われる魔力と、戦っている悪魔のものと思われる魔力が辺りに吹き荒れていた。
そんな場所が見える位置に片腕を失ったネロが立っていた。
――ホントに俺が来る必要あったのか? ピンピンしてるぜ。
そう言っている間にも魔力の激突はやまない。
ダンテの紅い魔力が吹き荒れるが、すぐさま別の魔力にかき消される。
――あの悪魔を甘く見ない方がいい。なにせ奴は、お前の右腕を奪い……それによって強大な力を身に着けている。
ネロの傍に、鳥のような姿をした魔獣〝グリフォン〟を引き連れた男〝V〟が現れた。
相変わらず、何を考えているのか分からない男だ。
――先に行く。ちゃんとついて来いよ。遅れるな。
――ああ……。
そんな彼は足元に粒子のようなものを出現させ、滑るように移動していく。
「あれも、悪魔か?」
「そうだ。確か、シャドウって言ってたかな?」
ハジメの問いかけに朧げな記憶を引っ張り出して、答えるジャック。
――Vって言ったか? 妙なやつだが、今は従うぞ。
――あのデカブツに借りを返さねぇとな……!
画面では自身の失われた右腕を見て、その原因であろう悪魔を見据えるネロがいた。
――……なんで、戻ってきたんだ?
――分かってるだろう? お前がいなくては話にならんのだ。
――そういうこったぜヒーロー! ここは任せてさっさと先に行きな!
道中現れた悪魔達をV達が相手をしている間に駆け抜けていくネロ。
だが、件の悪魔に向かっていく途中にも、雑魚悪魔が現れ襲い掛かる。
しかし、右腕と魔力の大半を持ってかれたとはいえ、修羅場をくぐってきたネロにはそんな奴ら等朝飯前だった。
――待ってろダンテ……!
悪魔達を倒し、魔王の下に辿り着いたネロの目に飛び込んできたのは、
――グァ……! ハァ……ハァ……。
魔王の前に倒れ伏す、ダンテ達だった。
もちろんその中にはジャックもいる。
その光景に驚愕するハジメ達。
あのダンテが負けているのだ。
そして、バージルと呼ばれていた悪魔は、完全に人ではない姿をしていることにも目を見開く。
――グガッ……! ハァ……ハァ……クソッ……!
他の皆が床に倒れ伏しているというのに、ジャックだけは壁にめり込んでいた。
おそらく相当な力で吹っ飛ばされたのだろう。
そんなダンテ達を何の感情も籠っていないような瞳で見るのは、玉座に座る異形の人型。
その姿は、ハジメとは別の意味で魔王だった。
そんな魔王は、ダンテに止めを刺そうと、鋭く尖った触手を向ける。
もう少しでダンテが貫かれる……といったところで、ネロの銃撃が触手を弾いた。
――へぇ……? ここまで来た甲斐はあったってわけだ。
――ネロ……兄……? なん、で……?
ジャックの掠れるような声を聞いてもネロは魔王へ視線を向け続ける。
――おい! デカブツ! 『泥棒はダメよ』って、ママから教わった?
ネロの挑発に視線を向ける魔王。
――へっ……! 悪いなダンテ……俺が頂くぜ!
レッドクイーンを地面に突き刺し、グリップを捻る。
燃焼された推進剤が噴射機構内で火を噴き、相手を切り裂く準備に入る。
しかし、片腕と魔力を失った状態で、ダンテ達が負けた相手を倒せるほど簡単ではない。
そこから始まったのは蹂躙にも等しい戦いだった。
接近しようにも、高威力の魔法が雨霰と飛んでくることによって接近できず、銃撃や何とか懐に潜り込んでレッドクイーンを振るい、当たったかと思えば、魔王の周りを浮遊している赤い結晶のようなものによって攻撃は防がれ、時間を停滞させる魔法により動きを止めたところに、結晶の一撃が入ったことでネロは吹き飛ばされてしまった。
壁にたたきつけられるネロ。
頭からは血が流れ、全身はボロボロだ。
満身創痍という言葉がこれほど似合う状況は早々ないだろう。
そこへ追いついたVがその光景を見て、呆然とする。
――やべぇぞ! もうダメ! おしまいだ!
全員の様子を見て、情けない声を出すグリフォン。
魔王は、ネロに止めを刺そうと掌に魔力を集め、火球を放とうとする。
それでもなお抗おうと立ち上がるネロはもう戦えそうにない。
魔力が高まり、撃ち出される、
――と思った次の瞬間。
あたりに銃声が響き、魔王の頭に弾丸が命中した。
思わず、魔力を霧散させる魔王。
銃声の方向を見ると、先ほどまで倒れていたダンテが立ち上がり、エボニー&アイボリーを構えていた。
――ハァ…ハァ…第二ラウンドだ……!
満身創痍の体に鞭打って、戦おうとするダンテ。
その肉体を悪魔に変化させる〝魔人化〟を使い、剣を抜く。
――ハァッ!
目にもとまらぬ速さで突進したダンテの攻撃を、魔王は片手で受け止める。
いや、触れてすらいない。
魔力だけで拮抗しているのだろう。
その衝突のあまりの強さに空間が波打ち、周囲が崩壊する。
――V! ネロを連れてけ! 余計な真似するな!
――俺はまだやれる!
――ネロ行け! お前じゃ足手まといだ!
再び立ち向かおうとしたネロを強く突き放すダンテ。
――放せっ!
Vがネロを引っ張ろうとするが、振り払われてしまう。
そんなネロの前に、瓦礫が降ってくる。
瀕死の状態では落ちてきた瓦礫の衝撃だけでも後退してしまう。
――行くぞ……!
――ざけんな!
――下がるしかない……! 奴の力は予想以上だ……!
呻くような叫び声をあげながら、Vに引っ張られていくネロ。
――俺がっ足手まといだと! なめてんじゃねぇぞダンテ!
最後まで立ち向かおうとしたネロを壁に押し付けるV。
そして、ネロに言い聞かせるように話す。
――悔しいが……今よりも力をつける方法を考えろ……! ダンテで駄目ならお前が〝ユリゼン〟を倒すしかない……!
――……ユリゼンだと……。
初めて聞いた名前に疑問を浮かべるネロ。
――……魔王ユリゼン……! それがお前の腕を奪った……悪魔の名だ……!
ネロの視線の先ではダンテが未だユリゼンの魔力を突破できずにいた。
だが鍔迫り合いは魔王がダンテの持っていた魔剣リベリオンを粉砕したことで終わった。
魔人になるための鍵である魔剣が壊れたことにより、ダンテの魔人化も解除され、人間の姿に戻る。
地面を滑りやっと止まったダンテは、もう立てないほどに疲弊していた。
そんなダンテに木の根のような触手が伸びる。
――これが、真の力だ。
そう口にするユリゼンの前では、触手によって拘束されていくダンテの姿がある。
もう抵抗する力もないのだろう。
うめき声をあげながら、触手に覆われていくダンテ。
そんなダンテに向かって、倒れていた仲間である、金髪の女性〝トリッシュ〟が生物的な剣〝魔剣スパーダ〟を投擲した。
ダンテの上を通過する一瞬、触手の中から手を伸ばしたダンテがつかみ取る。
そして、再び魔人の姿になったダンテは触手を切り払い、拘束から抜け出した。
もう疲労もピークに達し、気力だけで立っている。
胸に刺さっていた触手を引っこ抜き、またも突進の構えをとるダンテ。
それを先程と同じく、無感情な瞳で見つめるユリゼン。
――ハァッ!
剣を構えて突進するダンテ。
――グァッ!
しかし、先ほどのように拮抗することなく、弾き飛ばされ、壁を突き破って遥か彼方へ飛んで行ってしまった。
――グゥッ……! ツゥ……オラァッ!
壁から抜け出したジャックも〝竜魔人化〟を使い、巨人になって拳を叩きつけるが、結晶によって止められダンテと同じように弾き飛ばされてしまう。
ダンテのように叫び声をあげることなく、気絶してしまったジャックは、ネロたちの逃げた方向へ飛ばされる。
「「「「「「「「「…………」」」」」」」」
ユリゼンのあまりの強さに絶句してしまう一同。
――魔剣スパーダなど……もはや、何の意味もない。
そう呟くユリゼンは触手を動かし、黒髪の女性〝レディ〟とトリッシュを拘束していく。
――貴様ら二人には、働いてもらう。更なる力を得るために。この魔王に尽くせることを、光栄に思え。
絶句してしまった皆を尻目に、ユエは画面を動かし、ジャックの飛んで行った方向へと視点を移動させる。
ネロたちが脱出したであろう時間まで巻き戻すと、Vの使い魔である黒い泥のようなもので出来た巨人〝ナイトメア〟が破壊してできた穴から飛び出す二人。
戻ってきた二人を迎えたのは、Vにダンテを紹介したモリソンだ。
その背には、気絶したジャックがいる。
――お前等だけか? ダンテは?
――時間を稼いでいるが……長くはもつまい……。
その直後、クリフォトから触手のような根っこがアスファルトを砕きながら現れる。
「この先、見ない方がいいですよ。特にミュウちゃん」
「ッチ!」
「わ! パパ、どうしたの?」
ジャックの警告にすぐさま反応したハジメがミュウの視界を手で覆う。
画面では、逃げ惑う人々を根っこが貫き、鮮血を周りに撒き散らせている。
異世界で、人が死ぬ光景を散々見てきた一同であったが、このような惨い光景は見たことがなかった。
――まさかダンテが……負けるってのか?
――ッ!
――止せ…! どうせ助からん…! ここは引くぞ……
――ッチ!
殺されていく人々を助けようとしたネロをVが止め、人々の悲鳴を背にしながら彼等は去っていった。
これが悪夢の始まりとなった出来事だ。