ありふれぬ悪魔狩人は世界最強 アフター   作:クラウディ

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前回の続き。





Mission13 陰陽師騒動その3

 

 

 

 

「どわぁ!?」

――きゃあ!?

 

 皆の話がまとまって三十秒後。

 突然、遠藤達の前に魔法陣が現れ、何かが放り出される。

 そこから出てきたのは、遠藤のクラスメイトであるジャックと身に覚えのない手乗りサイズの狐だった。

 

 一人と一匹は突然のことに対応できず、地面にべちゃっ! と、音を立てて倒れ伏す。

 

「ジャック!?」

「よぉ……遠藤……アイルビーバァック……」

 

 慌てて駆け寄ってきた遠藤に、某サイボーグが溶鉱炉に落ちる際に発したセリフを言いながら、ジャックは顔を上げた。

 

「どうしてお前が!?」

「い、色々抜けてるぞ遠藤…………まぁ、説明しろって言うのは分かるさ……実はな……」

 

 そう言ってジャックは痛む腹をさすりながら説明をし始めた。

 

――ジツハヨォ、マタベヨネエサンニヨビダサレチマッテナァ……

 

――オレガイナイアイダニマタカヨ……

 

――ンデ、ヨビダサレタサキデテンシヲブチノメシタトオモッタラ、ベヨネエサンニオイテカレテ、ニホンマデジリキデカエラナクチャイケナクナッタンダヨ。

 

――……クロウシテンダナ、オマエモ

 

――ソウダロソウダロ? ソレカラヤットノオモイデアパートニカエッテキタラ、フト、オンミョウジノコトガキニナッテヨ。ソレデハジメニキイタラウムヲイワサズニココニポイダ。マッタク、ハジメハヒデェヨナ。キンキュウジタイダッテノハワカッテルケドサ。モウチョイヤサシイオロシカタッテモノガアッタンジャネェノカナ。

 

「取り敢えず、事情は分かった。一先ず、時間がないから目的地に向かいながらこっちの事情も話す。それでいいか?」

「OKだ。こっちはそっちの事情が全くもって分からねぇ状態だからな」

 

 話がまとまったのか、先へと進もうとする二人。

 しかし、陰陽師の者達は、いきなりのことに色々と追い付いていないようだ。

 

「え、遠藤様! そちらの方は一体……?」

「あ、そういやそうだった」

 

 真っ先に声を上げたのは、陽晴だった。

 そんな彼女に、うっかりしていたという声を漏らす遠藤。

 

 遠藤達にとっては、ジャックはいろんな意味で記憶に残る人物なのだ。

 何故なら、あのハジメの親友であり、ダンテの息子であり、悪魔と言う存在と戦うデビルハンターなのだから。

 それ故に、自分達の中で勝手に納得してしまったのである。

 

「えっと……こいつは「俺の名前はジャック・レッドグレイブ。遠藤達のクラスメイトだ」……ということだ。詳しいところは後で説明するよ」

「は、はい!」

 

 そう言ったところで彼等は行動を開始した。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

「「「「「ウェルカムトゥハウリアヴィレッジ!!」」」」」

 

 樹海に到着した浩介達を出迎えたのは、七色の煙幕を背に香ばしいポーズを取る総勢二十人のハウリアだった。

 ちょっと予想してた。

 

「ちなみに、今のはウェルカムと、族長たるこのカムが歓迎しますぞ! をかけたオシャレ極まりない――」

「解説しなくていいっす」

「へぇ……これがシアさんの家族かぁ……」

 

 次期族長としてばっさりいく浩介と、面白いものを見たというようにハウリア達をじろじろと見るジャック。

 

 カムがビタッと止まる。

 なんか妙に冷や汗を掻いている。

 

「しょ、食事も用意してますぜ!」

「ささっ、次期族長! こちらの席に!」

 

 なぜか、パル君とネアちゃんが会社の上司を歓待するような雰囲気で、やっぱり冷や汗を掻きながらやってくる。

 いや、よく見ると全てのハウリアがうっすら冷や汗を流している。

 

「え、なに。なんなの、この気味の悪い歓迎ぶり……」

「気味が悪いなんてそんな! ハウリア一同、次代を担うだろう族長候補に敬意を示しているだけですぞ!」

「カムさん、口調もおかしい……」

 

 全てを察したラナが、ぽんっと浩介の肩に手を置いた。

 

 遠藤が肩越しに振り返ると、まるで死地に赴くか否かの辞令を待つ兵士のような顔があった。

 思わずギョッとしちゃう。

 

「こうくん。族長達はね、歓待という名の賄賂を送っているのよ。ご機嫌取りとも言うわ」

「え? なんで?」

「ボスに執り成してほしいのよ」

「……あぁ」

 

 つまり、ハウリアの次期族長にして魔王の右腕たる浩介を思いっきりヨイショして、無断で隠れ里を作ろうとしたことへのお咎めを軽減するよう進言してほしい、ということらしい。

 

 ロマン溢れる樹海の迷宮が完成していれば、ロマンのごり押しでボスも怒らず認めてくれるに違いない! ワンチャン! ワンチャン! リスクを取らずして何がハウリアか! ハッハーッ!! とテンションアゲアゲで勢いのまま実行したのだが……

 

 目論見が外れ、今更ながらに冷静になり、「……これマジやばない? ボスに散々やめろと言われてたことやっちゃったよ……お仕置きされる……」とガクブルしているらしい。

 

 なんて……なんて……

 

「ダメな人達なのっ」

「思ってたよりアホですねアンタ達」

「「「「「ぐぅっ」」」」」

 

 エミリーとジャックが思わず言っちゃった素直な感想に、香ばしいポーズを取ったまま激しい腹痛に耐えているかのような顔でぐぅの音を出すカム達。

 

「そ、それより、浩介殿! ロマン溢れる方々が一緒だと聞いたが!」

「また勢いで乗り切ろうとして……」

「陰陽師の方々は一緒ではないのかね!!」

「おぉ! そちらの方は、ボスのご友人であるデビルハンター殿ではないか!」

 

 勢いで空気を変えようとするカムに、浩介は嘆息しつつ頷いた。

 

 実は、ここにいるのは浩介、ラナ、エミリー、ヴァネッサ、クラウディア、そしてジャックの六人だけだ。

 

 陽晴達は後から来ることになっている。

 というのも、参戦するにあたって彼等には準備が必要だったからだ。

 失った〝式〟や〝式神〟の再召喚、呪符の作製と補充、呪具でもある衣服の着替え、全国の関係者への連絡や各種の確認等々。

 

「ふむ。幼女を手籠めにしたと聞いたが」

「誰に聞いたんです? 南雲っすね? よしアビってやる」

「ラナだが?」

「まさかの裏切り!」

 

 バッと遠藤がラナを見ると、「確定未来よ。私には視えるの。フフッ」と片手で顔を覆いながら香ばしくなっていたので無視する。

 

「彼女達はこちらに来られるのか? ゲートを開けないだろう?」

 

 魔力と氣力の説明はハジメから既に受けているのだろう。

 魔力を必要とするゲートを、陽晴達は開けない。

 

「いや、大丈夫ですよ。陽晴ちゃんは天星大結界の異界を介して稲荷に通ずる鳥居から鳥居に転移できるんで」

「ほぅ! それは凄いな! つまり、地下のあの鳥居に出てくるということか!」

 

 全国どこでも稲荷神社の鳥居に転移できる陽晴は、帰還者を除けば日本限定で最速の移動手段を持っているといえる。

 

 出会った当初、散々山中を歩かされた浩介と陽晴だが、あれは陽晴の記憶が封印されて白狐と意思疎通できなかったこと、揺らぐ結界の維持に白狐が全力を注いでいる状態だったことが原因だ。

 

 異界は白狐の領域。

 本来は時間や距離にもある程度干渉できる。

 時間の進みが外界より遅かったのも結界の崩壊を遅らせるためであり、普段は逆に流れ込む氣力の消費量を上げるため早くなる。

 巫女たる術者が対応しやすいよう、異界内なら空間的距離を縮めて瞬間移動じみたことをするのも可能である。

 

 その力を以て、巫女が入ってきた鳥居の前に、目的地の鳥居を持ってくることで実質的に全国の稲荷神社に数秒で転移することも可能なのである。

 

「地下の鳥居……あそこから?」

 

 浩介が視線を転じる。

 

 今いる場所は、周囲が二メートルほどの岩壁に囲まれた窪地の手前だ。

 複雑に入り組んだ樹の根が窪地に蓋するように覆っている。周囲には掘り返されたような痕があった。

 

 カムが頷く。

 

「あの窪地の奥に地中の坂道があってな。その奥に件の社がある」

「よく見つけましたね?」

「〝影法師〟から聞き出したのだよ。てっきり、保護区での無断里作りがバレて役人が来たのかと思えば、闇の世界の人間特有の匂いをぷんぷんさせているときた」

「それで侵入者だと?」

「うむ。平和な日本の執政者にも闇の住人を活用する剛の者がいたのかと、すっかり感心したが、実際は違ったな。たとえ普通の役人であっても、ボスに伝わりかねない以上、逃すわけにはいかんかったが」

「いかんかった、じゃないですよ。お仕事にきた役所の人に手を出しちゃダメ、絶対」

「しかし、ボスは戸籍? 関連で随分と認識を弄り倒したという話を聞いているが……」

「……なんも言えねぇ」

 

 とにもかくにも、役所の人間が「保護区の無断使用禁止死ね!」をしに来たに違いないと勘違いして、「ならば戦争だ! 役場の方々よ!」と〝影法師〟の術者達を狩ったカム達は、無力化した彼等から情報を絞り出し、樹海の祠ほこらの存在を知ったというわけだ。

 

「クレイジーすぎる……!」

 

 ジャックが戦慄したように呟く。

 まったくもってその通りだった。

 

「ところで、カムさん。バーナード達は?」

「ウィン達の姿も見当たりませんね?」

 

 ヴァネッサとクラウディアがキョロキョロと辺りを見回して尋ねる。

 英国保安局強襲課の部隊長バーナード率いる特殊部隊と、オムニブスのウィン率いるエクソシスト部隊が参戦するはずなのだが、姿が見えない。

 

「保安局はもうすぐ到着するだろう。時間になればボスがゲートで送り届けてくださる。オムニブスの者達は既に到着しているが、先程、周辺の地形を確認したいと出て行ったところだ。ハウリアが三十人ほど各地で警邏に当たっているから迷うことはあるまい。直に戻ってくるだろうが……入れ違いになったな」

 

 そういうことらしい。

 今度は逆にカムが小首を傾げた。

 

「そう言えば、服部と言ったか。日本の役人はどうした? 人員を出すと聞いたが?」

「服部さんとは一旦別れました。周辺市町村とメディアの対応を優先してもらってます」

「ふむ。確かに、場所が場所であるし真夜中ではあるが……万が一、一般人が乱入しては事だな。情報機関は特に」

「ええ。適当な理由をつけて接近禁止令みたいなものを出してくれるそうです。後は、樹海外縁の遊撃部隊として機能してもらおうかと」

「なるほど。地の利を生かした外部の部隊と挟撃するというわけか。了解した」

 

 と、そこまで情報共有したところで、

 

「愛しの君、はよう祠を見に行きんしょう?」

「「「「「ッッ!?」」」」」

 

 唐突に、なんの前兆もなく浩介の背後にふわりと出現した長身の女に、ハウリア達が凄まじい反応を見せる。

 

 一斉に飛び退き、刹那のうちに背中の小太刀を抜刀。

 カムの次に近い位置にいたネアは背後に回り込み、パルは離れた場所の木に飛び乗って狙撃体勢に。

 

「ハウリアが常在戦場すぎる件」

 

 全員、緋月の危険性を本能で察したのだろう。

 冷や汗を噴き出しつつも殺意マシマシの鋭い眼光を叩き付けている。

 おまけに、気が付けば半数のハウリアが夜の闇に溶け込むようにして姿を消してしまった。

 

 一瞬で、強敵を囲い殺す陣形を整える連携力に、エミリーとクラウディアが「うわぁ……」とドン引きした様子になり、ラナと、なぜかヴァネッサはドヤ顔。

 ジャックはこういう状況になれていたため、少しだけ引いていた。

 

 そして、殺意を向けられた緋月はというと、

 

「ほぅ……流石は正妻殿の身内でありんす。なんと心地よい、フフフ」

 

 どこかうっとりした様子で妖艶に舌舐めずりしていた。

 どうやら、伝承の鬼の琴線に触れたらしい。ハウリアはお眼鏡に叶いまくったようだ。

 

「カムさん。大丈夫です。彼女は――」

「こうくんの新しいお嫁さんよ! シアタイプなの! 種族はなんとぉ! 伝承に語られる厄災の鬼神!」

「「「「「厄災の鬼神……」」」」」

 

 カム達がむずっとした。

 ウサミミがそわそわしている。

 魂をくすぐる素敵ワードに本能が反応している!

 

 ラナが無意味にターンした。

 片手を紹介するように緋月へと向け、エンターテイナーの如くきらめき顔で声を張り上げる。

 

「数多の配下を従える、最強にして天上の美貌を有する鬼の頭領! 夜さえ鮮血に染め上げると畏れられた緋色の月! 大江山の酒呑童子とは彼女のことよ!」

「「「「「うぉおおおおおおおっ、酒呑童子! 酒呑童子! 誰か知らんけど、とにかく格好いい酒呑童子!」」」」」

 

 反射的に臨戦態勢を取ったが、説明を受けるまでもなく浩介が警戒していない時点で味方と判断したのだろう。

 後はもう、ラナの紹介にテンションアゲアゲ。

 だって、紹介がハウリア魂にこれでもかと突き刺さるから。

 

「……わっち、照れてしまいんすっ」

 

 当然だという顔をして余裕たっぷりに微笑むかと思えば、意外にも赤く染まった頬を両手で押さえてもじもじする緋月さん。

 

 ここに来る前に、正妻殿に許さんわけにはいかないと、ラナにだけ真名での呼称を許可したせいだろうか。

 認めた相手の掛け値なしの称賛は普通に嬉しいらしい。

 これも鬼の性か。

 割と素直な性格なのだ。

 

――へぇ……良かったですねぇ酒呑童子ぃ? そこまで照れたような顔をして……

「……黙りんしゃい玉藻。その身を食ろうてしまうぞ?」

「ぬぉ!? 金色の狐!?」

 

 褒められている緋月を見て、面白そうな予感を感じ取って出てきたのは、ジャックと契約している玉藻の前だ。

 突然現れた玉藻に、今度は警戒心を上げることなく興味津々と言った表情で見つめるハウリア達。

 

 ジャックの方に座る玉藻を見つけたラナが声を上げる。

 

「あ! 玉藻ちゃん! なんで今まで出てこなかったの! 皆に紹介したかったのに!」

――すみませんラナさん。ですが、ご主人様以外に触れられるのはちょっと……

 

 そう言う玉藻は、ラナから少しだけ距離を取るように移動する。

 実はさっき、道すがらジャックの事情を緋月やラナに説明しているときに玉藻の説明もしたのだ。

 その時、ふわふわの毛並みが自慢だという玉藻の言葉に触ってみたラナ達だったが、その余りのふわふわ具合にやみつきになってしまい、もみくちゃにされたのである。

 

「ラナ! その狐は一体……」

「ふっふっふ……この子はね! ここにいる酒呑童子と双璧を成すとも言われる伝説の妖狐!」

「「「「「伝説……!」」」」」

 

 先程と同様に、心くすぐる香ばしいワードに唾を呑むハウリア達。

 

「彼女こそ! 時の帝に寵愛を受けながらも妖としての姿を解き放ち、数多の実力者を退かせるほどの強力な術を使いこなす金色の太陽! 九尾の狐として名高い玉藻の前とは彼女のことよ!」

「「「「「うぉおおおおおおおっ、玉藻の前! 玉藻の前! 誰か知らんけど、とにかく格好いい玉藻の前!」」」」」

――そこまで言われると、少し恥ずかしいですね……

 

 ハウリアの称賛に思わず照れたように顔を前足でかく玉藻。

 やはり、素直な賞賛は緋月同様に嬉しいらしい。

 

「ごほんっ。愛しの君、祠を見に行きんしょう?」

――あなたと意見が合うのは癪ですが、その方がよさそうですね。

 

 この国に伝承を残す最強格の鬼と妖狐として、この国そのものだという〝龍〟を封じる祠には興味があるらしい。

 

 いずれにしろ、守護の対象は確認しなければならないし、陽晴達のお迎えもある。

 

 なので、警備にネア達を残し、カムの案内のもと浩介達は地下へと続く洞穴へ足を踏み入れる――前に、穴を覗いた浩介が顔をしかめた。

 

「狭いな……」

「少しの間だけだ。坂道が終わればもう少し空間は広がる」

 

 緩やかな坂道が続いているが、どう見ても中腰で進まなければならない狭さだ。

 穴自体も人工的ではあるがかなり適当な掘り方で、凹凸が激しい。

 頻繁な出入りも、多人数での出入りも想定していない。

 

 いや、安倍晴明が健在だった当時の日本人の平均身長的には、これで十分だったのかもしれないが……

 

「緋月にはきついな、これ」

 

 媒介に戻る? と浩介が振り返りながら問うと、

 

「これで問題はないでありんしょう?」

 

 僅かに緋色の粒子が飛び、ふわりと浩介の肩が僅かな重みが加わった。

 

「エッ!?」

「チビ緋月ちゃん!」

 

 ラナが思わず目を輝かせる。

 そう、緋月が玉藻と同じように手乗りサイズになって浩介の肩に乗っていたのだ。

 

「わっちの形など、この世界ではあってないようなもの。別物になるのならともかく、背丈を変えるくらいできるでありんすよ? 相応に力は使いんすが」

 

 驚きをあらわにする一同に、悪戯が成功した少女のような笑みを浮べる緋月。

 袖で口元を隠し「くくっ」と笑う仕草があまりに可愛らしくて、エミリーとクラウディアの鼻息が荒くなる。

 

「コウスケさん、ついにマスコットまで……どこまでもヒーロー体質ですね?」

「うるさいよ」

 

 遠藤がヴァネッサの呆れ顔から視線を逸らしつつ、気を取り直してカムを促して一行は地下の祠へと進んでいった。

 

 しばらく進むと、

 

「うぅ、結構、臭いがこもってるわね」

「同感だ。それに()()の匂いもする」

 

 エミリーが顔をしかめて、白衣の袖で鼻を覆った。

 ジャックも不機嫌そうに鼻を鳴らしている。

 確かに、じめじめと湿気の多い澱よどんだ空気が漂っている。

 

「ご老公曰く、〝右天之祠〟は南の一カ所を除いて基本的に管理していないってことだったものね」

 

 と、ラナが思い出すように言う。

 

 〝右天之祠〟は、富士山を中心に東西南北の四カ所に存在する。

 四神相応の結界だからだ。どこかが失われても一カ所でも健在なら機能し続けるという保険の効いた結界なのだ。

 

 この樹海にあるのは、そのうち〝北の祠〟ということになる。

 おそらくだが、他の三カ所、天子山地にある〝東の祠〟、不老山の〝西の祠〟、蓬莱山の〝南の祠〟は既に破壊されているだろう。

 

 ハウリアがロマンに暴走していなければ、事態はもっと切迫していたに違いない。

 

「秘匿のために〝存在しない〟ことにするのが一番良いというのは納得ですが、呼吸は大丈夫でしょうか?」

 

 すんすんと鼻を鳴らしながらヴァネッサが懸念を口に出すと、クラウディアが心配そうな眼差しをカムへと向けた。

 

「特に奥の方はまずいのでは? 陽晴さん達、出てきた途端に倒れたりしませんか?」

「おそらく問題なかったのではないか?」

 

 カムが言うに、自分達は普通に掘り返した上で侵入し中を探索したが、陽晴達なら同じく外から入るにしろ、奥の鳥居から出てくるにしろ、なんらかの術で対応できたのでは? とのことだった。

 

 というのも、どうやら岩肌や鳥居には無数の紋様や文字が彫られているらしい。

 壊してしまったが、樹海側の出入り口にもあったのだとか。

 

「それに、洞窟の奥だとボスには報告済みだ。支援物資と一緒に送風機と酸素を蓄えたアーティファクトを用意してくださった。送風機は既に起動させているから問題ない。臭いは……これでも大分マシになった方だぞ」

 

 そうだった。

 いろいろ支援物資を送ってくれているのだった、と一同、安堵の吐息を漏らす。

 

「そう言えば、妖魔に有効なアーティファクトを貸与してくださるのでしたね」

「そんなものが必要なのか?」

 

 クラウディアが、今は浩介の〝宝物庫〟に入っている自身の相棒〝聖十字架〟を思い浮かべながら言う。

 それに対し、ジャックは今聞いたというように首を傾げる。

 

 クラウディアが使用する〝聖十字架〟は、対悪魔特攻の最強武具だが、妖魔はその限りではない。

 浩介が魔法で倒せると証明しているが、帰還者に比べ魔法的素養のレベルが低いエクソシストでは、どこまで既存の力で対抗できるか……

 

 その辺りの問題をクリアするためのアーティファクトが送られているはずだ。

 

「うむ、届いている。基本的には君達の魔力や基礎能力を増大させるアーティファクトだ。昇華魔法関連のだな。お仲間には既に支給してある。祠を拠点とするから、君への支給品もそこに置いてあるぞ」

 

 納得しつつ、ふと、クラウディアが小首を傾げた。

 

「世界中で素養を持つ者達が目覚めているのに、どうして私達エクソシストには影響がないのでしょう? 確か、陽晴さんは元々術が使えていたところ、王樹の復活以降、更に力が増大したのですよね?」

「そう言えばそうだな? というか、その理屈なら俺達帰還者もパワーアップしておかしくないはずだけど……」

「その点なら、確かボスが少し言及していたな。トータスで魔力を持たない種族である我々に変化がないか、聞き取り調査のついでにな」

 

 情報を整理していく遠藤達だが、ジャックは違う。

 

「なぁ、さっきから妖魔だか王樹だかなんだか言ってるがどういうことなんだ?」

 

 自分以外が分かっているように話を進めるので、ジャックは質問を投げかけた。

 

「あ、そういやジャックには説明してなかったな」

 

 弱の質問に答えたのは遠藤だった。

 

 曰く、あくまで仮説段階だが、エクソシスト(ジャック達も含む)と陰陽師では力の起源が違うのだろうということだった。

 

 エクソシストは、地獄の住人という魔力を基礎とする異界人と地球人の間に出来た子の子孫だ。

 故に、魔力のない地球において魔力的素養を持っている。

 

 対して、陰陽師を筆頭に術が使えるほど素養を持つ覚醒者達は、おそらく、妖魔と人間の間に出来た子の子孫であるが故に、氣力をベースとして一般人よりも高い素養を持っているのだろうとのことらしい。

 

「ああ! そう言えば、安倍晴明は葛の葉っていう妖狐の母親から生まれたって話、あったな!」

「なるほど。異類婚姻譚というのは世界中に存在します。それが事実であったなら、その子孫達が覚醒者ということなのかもしれませんね。国や時代にかかわらず、やはり人類みなオタクであり人外ラブ勢! 流石は陛下! なんてロマンのある仮説を! このヴァネッサッ、感服! 圧倒的感服!!」

 

 興奮するヴァネッサをさらりと無視して、納得顔をしているクラウディアに浩介が追加で仮説を口にした。

 

「けど逆に言えば、魔力の豊富な世界、つまりトータスにクレア達が来て鍛えれば、俺達と同じく更に成長できるってことじゃないか?」

「まぁ! それは夢のあるお話ですね! いつか行ってみたいと思っていましたし!」

 

 キャッキャッとはしゃぐクラウディア。

 ぴょんっと跳ねて、お約束のように天井に頭をぶつけ、着地と同時に足を滑らせて後頭部強打へ一直線――というところで、後ろにいたヴァネッサが慣れたように受け止めて阻止した。

 

 ついでに、こういう場合クラウディアは無意味にジタバタともがいて自爆的ピタゴラスイッチを発動するので、中腰にもかかわらずしっかりとお姫様抱っこして二次被害を防ぐ。

 普段はあれな捜査官だが、この足腰の強さは流石である。

 

「なるほどねぇ……その王樹が復活したから氣力を使う陰陽師が強くなって、俺達には変化がなかったってことか」

 

 有識者の解説に納得したように呟くジャック。

 

 そうこうしているうちに、坂道が終わった。

 洞窟の先には開けた空間が見える。

 アーティファクトのライトを方々に設置してあるのだろう。随分と明るい。

 

 通路を抜けると一気に空間が広がった。

 高さは五メートルくらい。

 縦横は二十メートルくらいだろうか。

 中央付近に幅三メートルほどの川が横断していて、右端は泉になっており、地下水が流れているのが分かった。

 

 その澄んだ川の向こう側にひっそりと、苔むした祠があった。

 石造りで、三角屋根の小さな祠。

 観音開きの扉の向こうに、五芒星が彫られた石版がある。

 

 その祠の手前、川との間には天井を支えるように密着した石造りの鳥居もあった。

 

「なんつーか、異界って感じだな」

 

 思わず呟いた浩介の感想は、この場の全員の気持ちを代弁していた。

 

 神聖なようで、どこかおどろおどろしく、人の立ち入りを拒んでいるようで、逆に誘っているようにも感じるのだ。

 

 その鳥居の脇に、様々な物資が山盛りになっていた。

 

 装飾系のアーティファクトは当然、銃火器や弾薬の類い、箱詰めされた各種回復薬、それらを整理整頓しつつ、まるで商店の主人の如き「イ゛ィ゛!!」と歓迎を示す何番目かのアラクネさん。

 

「我等は魔力がないからな。宝物庫の起動に内蔵魔力をいちいち消費するのは困るので、悪いが一度で全部出させてもらった」

「分かりました。エミリー、負傷した人はここで治癒してもらうことになるだろうから、エミリーの好きなように整えてくれていいよ」

「わ、分かったわ……でも、本当に私、ここにいていいの?」

 

 エミリーは、己の領分を弁えている。

 だから不安なのだろう。

 

 置いていかれたくない、みんなと一緒にいたい。

 そんな願望と、足手まといにはなりたくないという合理的な理性の狭間で瞳が揺らいでいる。

 

「私、戦いだと役立たずだし、万が一何かあったら浩介達に迷惑かけちゃう……」

 

 自虐的に、一緒に戦う資格が自分にはないのだと、しょんぼり肩を落とすエミリー。

 

 なぜか、浩介達は揃って透き通った表情になった。

 

 浩介がそっと一歩前に出て〝宝物庫〟からエミリーから預かっていたものを返す。

 

 それを、「今更そんなこと言いっこなしだ。一緒に戦おう」という意思表示だと解釈して、エミリーはふにゃっと嬉しそうな笑みを浮べた。

 

 そして、ダースベ○ダーみたいなガスマスクを装着した。

 

 更にガンベルトみたいなごついベルトとポーチも装着。

 チラリと覗く白衣の内側と合わせて色とりどりのヤバそうな薬品がずらり。

 何を噴出するつもりか、両太もものホルスターにはガス缶まで。

 

「コフーッ、こうすけ! 私、期待に応えるから!」

「うん」

「コフーッ、万が一敵が入ってきても、あらゆるお薬で無力化してみせるわ!」

「うん」

「はいっ、対抗薬! コフーッ、戦闘が始まったら洞窟内をガスや粉煙で満たすから、味方には効かないようにちゃんとみんな飲んでおいてね! シュコーッ」

「……」

 

 本当に対抗薬なのだろうか。これが毒ですと言われても納得しちゃうくらい毒々しい紫色なのだが。

 

 ベーダ○卿みたいなマスクをした白衣の少女が、毒物と毒ガスを装備して待っている祠……うん、きっと覚悟ガン決まりの〝影法師〟とて二の足を踏むに違いない。

 

 なお、このガスマスクは、日常的に危険物を研究しているエミリーのために用意されたアーティファクトであり、対抗薬がある現状では不要な代物なのだが……

 

 どうやらエミリーちゃん、結構気に入っているらしい。

 密閉された感じが妙に落ち着いて思考がクリアになるのだとか。

 

 客観的に見ると、完全にマッドサイエンティストである。

 非常にこわい。

 

「エミリーさん、卑下する必要はありませんよ。貴女は立派な危険人物なのです」

「クレアさん!?」

「エミリーちゃん、今度、一族の前で毒物の発表会をしてくれないかしら?」

「良いな、それは! どれも非致死性とはいえ素晴らしい効果なのだろう? 気に入ったのがあれば言い値で買わせていただこう!」

「売らないわよ! 特にハウリアには!」

「面妖でありんすねぇ。わっちに対峙できた理由が分かりんす。純真無垢を装ってなんと恐ろしい娘子でありんしょう」

「鬼に引かれたくないんですけど!?」

「マッドポイズンエミリー……いえ、もっとこうスタイリッシュな……」

「SOUSAKAN! 二つ名を考えないで!」

 

 つまるところ、自虐するほど役立たずではないということで、浩介達は自己評価の低いエミリーになんとも言えない表情になってしまうわけである。

 

 なお、藤原と土御門の者達も、エミリーの〝元気になるお薬〟を処方されて、再生魔法付与アーティファクトと相まってハイに――ではなくギンギンに――でもなく、気炎万丈な感じになっている。

 

 今夜が過ぎれば極度の疲労でぶっ倒れるだろうが、逆に言えば今夜一晩は最高のパフォーマンスを発揮できるだろう。さすエミ。

 

「まぁ、妖魔の類いには効き目がないだろうし、どんな手札で防衛線をすり抜けられるか分からない以上、ここにも一定の戦力は置くから心配はいらないぞ」

「う、うん。一緒にいさせてくれてありがと、こうすけコフーッ」

 

 またふにゃりと笑ったに違いない。

 たぶん。

 ベーダ○卿なので分からないが。

 

「Oh……Crazyなお嬢さんだな……」

――同意です……

 

 そんな和気藹々とした雰囲気の横で、ジャックと玉藻は引いていた。

 

 そうこうしているうちに、鳥居が淡い輝きを帯び出した。

 

 全員が注目する中、薄い霧が柱自体から発生し、中央部分へ渦巻くようにして集まっていく。

 そして、

 

「お、おぉ……」

「あらぁ~」

 

 思わず、浩介が驚きと感心の声を上げ、ラナまで目をぱちくりとしながら声を漏らす。

 他の者達も同じ。

 

 なぜなら、

 

「遠藤様、皆様、お待たせしました」

 

 先頭を出てきた少女が、あまりに神秘的だったから。

 

 まず服装が違う。

 純白の狩衣だ。

 流れる長髪と立烏帽子の黒が際立っている。

 転移に術を使っているからか全身にうっすらと白光を纏い、瞳もまた光を内包しているような強い輝きを宿していた。

 

 神性を感じずにはいられない。

 神の使いと言われても納得の穢れなき無垢の姿。

 

 だがしかし、その後ろから大晴やご老公を筆頭に狩衣で統一した陰陽師達が出てくると、その凜とした佇まいと相まって、途端に彼等を従える最強の陰陽師なのだとも感じさせられる。

 

 神域の存在感を持ち、人としての強さをも放つ少女。

 

「藤原陽晴、ただいま参上いたしました」

 

 その微笑に見惚れない者は、この場にいなかった。

 緋月でさえも、だ。

 

 なんとなく気を呑まれてしまって浩介達が言葉を紡げずにじっと見ていると、陽晴がだんだんとそわそわし始めた。

 頬も赤く染まっていく。

 

「あ、あの……おかしい、でしょうか?」

 

 恥じらう姿が年相応の少女のもので、いつの間にか帯びていた光も消えている。

 狩衣姿の自分と浩介達を交互に見て、少しおどおど。

 

 おかげで、ようやく我に返る浩介達。

 

「い、いや、そんなことない、よ? その、あれだ、びっくりしたというか……なんというか……」

「?」

 

 九歳の女の子相手に赤くなりつつしどろもどろになる浩介の姿を、お巡りさんが見たらきっと手錠を取り出すに違いない。

 

 小首を傾げる陽晴を前に、ラナまでちょっと頬を染めつつも肘で浩介の脇腹を突いて促す。

 ほら、感想! 素直に! と。

 

「うっ……えっと、陽晴ちゃん、凄く綺麗だなぁと。はは……」

「! ぁ、ありがとう、ございます……」

 

 両手の袖で顔を隠して、消え入りそうな声でお礼を口にする陽晴。

 その姿に、むしろ女性陣が悶える。

 

 そして、大晴パパが鬼の形相で前に出てくる。

 

「父親に、いったい何を見せつけてくれているんだい?」

「すみません、すみません」

「うっかり呪ってしまってもいいかな?」

「それうっかりと違う。確信犯」

「もうっ、お父様! 冗談でもそのようなこと仰ってはいけません!」

 

 メッと父親を叱る陽晴だが、真っ赤なお顔なので迫力は皆無だ。

 ついでに、君のパパは決して冗談は言ってないと思うよ、と浩介は心の中で指摘する。

 だって、大晴パパの目がマジだもの。

 さりげなく、右手の指が刀印を作っているもの。

 

「まぁまぁ、大晴殿。落ち着きなされ。今はそれどころではなかろう」

「ご老公……はぁ、そうですね」

 

 ご老公に諫められ、渋々さがる大晴。

 これは、事態を解決した後も中々に大変そうだ。

 

 クラウディアの父親代わり――ダイム長官とタッグを組まないことを祈るばかりである。

 何せ、あの人はあの人でデート現場に職権乱用でチャーターした航空機で飛来し、降下強襲してくるような人だから。

 不可視の呪いと物理のタッグは考えたくもない。

 

 あり得そうな未来を想像して遠藤がぶるりと震えている間に、カムとの挨拶も終わったようだ。

 

 と、そこで複数の足音が響いてきた。

 

「おう! アビィ! 来てやったぞ!」

「バーナード!」

 

 どうやら無事に地上に送り届けられたらしい。

 代表してバーナードだけ祠に降りてきたようだ。

 黒を基調とした戦闘服で、相変わらず快活な雰囲気で手を振っている。

 

 彼の後にも三人ほど続いていた。

 

「アジズ! ウィンにアンナも!」

 

 オムニブスのエクソシスト達だ。

 クラウディアの弟分であるアジズに、金髪の細剣使いウィン、栗毛三つ編みのトンファー使いアンナの三人である。

 

 浩介が手を振ると三人揃って表情を綻ばせた。

 

 そして、近くにいるジャックの姿を見て、ギョッとした表情になる。

 

「あ、あの! あ、あなたはダンテ様の息子様であるジャック様ですか?」

「え? あ、はい。そうですが?」

「ス、スパーダ様の息子だけでなく、お孫様にも会えるとは……! あ、握手してください!」

「い、良いですけど……」

「ありがとうございます!」

 

 何故かやたら好意的な反応をされて、戸惑ってしまうジャック。

 今まで、こんな好意100%な反応をされたことは滅多にないので、戸惑っても仕方ないのであろう。

 さっきも、クラウディアに握手を求められていたため少しは慣れたはずなのだが、やはり、幼少のころから敵意にさらされてきたジャックからしてみれば新鮮すぎるものなのだ。

 

 ちなみに、なぜこんなにもエクソシストたちが好意的なのか?

 

 簡単に言わせてもらうと、エクソシストたちの所属するオムニブスは悪魔絶対ぶっ殺す組織だけでなく、魔剣士スパーダのファンクラブでもあるのだ。

 

 だから、今の状況を分かりやすく言うなら、「推しの息子、その孫に出会えた限界オタク達」というわけだ。

 

 そんな、日本どころか世界の命運すらかかっている防衛戦を前にしているとは思えない空気の中、

 

「ええい! グッダグダじゃねぇか! はいっ、切り替えていこう! お仕事の時間だぞ! 装備の支給とチェック! 各部隊の配置の確認! 敵戦略の予想と共有! 対応策の確認! 迅速にな!」

 

 防衛戦のリーダーとして、浩介は無理やり空気を変えたのだった。

 

 それから。

 

 祠の外、腹立たしいほど晴れた夜空に浮かぶ月光が中天を過ぎた頃合い。

 

 異世界の首刈りウサギ、英国保安局の特殊部隊、エクソシスト、陰陽師、デビルハンターという異色すぎる混成部隊が、祠を中心に大きな円陣を組むようにして待機する中。

 

 にわかに、肌をぬるり撫でるような気配を全員が感じ取った。

 

 樹海の静寂が、地を踏みしめる無数の音で、あるいはゾゾゾッと這いずるような音で壊されていく。

 

 空気が変わった。

 

 殺意と敵意に満ちた、重苦しい空気に。

 

『来たぞ』

 

 異常な気配が全方位から迫ってくる。

 引き絞った弓の如き緊迫感が満ちていく。

 掌が汗ばみ、呼吸が浅くなる。

 

 背負っているものの大きさを、自分達が敗北した場合の結果を、今は考える必要がないと分かっていても、この異常な空気が強引に想起させる。

 

『現在時刻は二時。夜明けまでは約四時間』

 

 通信機越しの浩介の落ち着いた声音に、知らず固くなっていた表情筋から力が抜けていく。

 

『どうせ南雲のことだ。朝までには方をつけるだろう。つまり、それまで持てばいい』

 

 飄々とした声音に、知らず笑みが浮かぶ。

 

『とはいえ、だ――』

 

 ざっざっと地を踏みしめる堂々たる足音が聞こえてくる。

 

 正面から急速接近する一際強力でおぞましい気配をものともせず、自ら歓待するかのように歩みを進める音。

 

『我等なら、時を待つことなく終わらせることも可能であろう!』

 

 唐突に変わる空気! そして口調!

 

 ひゃぁっ、俺達のアビィが来たぜぇ! とテンションが上がる深淵卿ファンの皆さん! 陰陽師の皆さんだけちょっとついていけない!

 

『ひたすら耐える? 否、否、否! 断じて否である! 教えてやろうではないか! 我等の力を! 結集した絆の力を! この闇深き樹海の奥に、我等、深淵の使徒ありと! 刻みつけてやろうではないか!』

 

 うぉおおおおおっと雄叫びがあちこちから。陰陽師の皆さんが怯えている! 隣にいた冷静沈着だった特殊部隊員が、突然テンションMAXになったから! え、なにこの人、こわっ。

 

 と、同時に、ザンッと。

 

 斬り裂く音、生々しい断末魔の悲鳴、そして、消えゆく一番駆けしていたおぞましい気配。

 

『Are you ready?』

 

 どこからか「こうすけぇ、もうやめてぇ!」「ああっ、また遠藤様がおかしく!」という悲鳴と、「ククッ、我が伴侶よ、最高に輝いているわね!」「アビスゲート最高! いいぞもっとやれぇ!」という絶賛と、「愛しの君は、やはり別の人格を持っているでありんすか?」「いえ、同一とのことです。そうは思えないですけど……」というやり取りが聞こえてきたが、些細なことだ!

 

 きっと、倒した尖兵たる妖魔の骸の上で、華麗にターンしつつ香ばしいポーズを取っているであろう深淵卿は、

 

『It's show time!!』

 

 樹海全域に響けとばかりに、〝樹海防衛戦〟の開戦を叫んだのだった。

 

 

 

 それを聞きつつも、ジャックはジャックで悪魔達と戦う前の口上を呟く。

 

This party getting crazy(イカレたパーティの始まりだ)……!」

 

 魔力を吹き出しながら、心底うれしいといった風に口元を歪めてジャックは叫んだ。

 その表情はまさしくジャックの体に流れる、

 

Let's rock(派手に行くぜ)!」

 

 悪魔と言うべき顔だった。

 

 

 

 






戦闘回は次回。


次回予告

Dragon Devil Triger



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