千剣山らしき場所で寝てたら世界が滅んでいた   作:烏龍ハイボール

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今回からFGO本編とリンクさせた内容になっていきます。

なのでこれまで以上に話が飛んでいたり、ぶっ飛んだ展開になったりしていますが、その間に起きた出来事等も含めて、今後の進行と共に補完していく事になりますのでよろしくお願いします。




第13話 家族と建国

 

終焉の地

 

 

本土の最下層、龍の霊廟

 

島の最奥に広がる広大な空間。地上に比べてもマナの質が異常な程良質で、普通の幻想種であれば一度入ったら二度と出てこなくなるだろう。そんな空間を占領する様に横たわる巨体、ダラ・アマデュラは、頭部と腕部までの胴体を器用に入れて眠っていた。その傍らに転がる大岩の上には眷属のビシキが座っており、眠る主の姿を見ている。

 

「・・・・・」

 

『・・・・・』

 

この世に生まれ落ちてから20000年余り

 

妖精達と出会ってから12000年

 

ビシキが眷属になって11500年

 

長い年月が過ぎた。その間も成長を続けたダラ・アマデュラの全長は現状計測不能。

 

まともに測るのが面倒くさく感じるほどの成長を遂げていたその身体から流れ出るエネルギーは龍脈を通って残った世界全体に行き渡り、巡り巡ってこの場へと戻ってきている。既にその肉体は経口摂取によるエネルギー補給を必要としておらず、巡る龍脈と自身の炉心から活動に必要なエネルギーを獲得する事に成功していた。それでも時折、顔を出しては食物や生物を土地ごと喰らう事もあった。それは生物としての本能なのか、残された人間性が抗う事で起きるのかは長年共にいるビシキも完全に把握する事が出来ずにいる。

 

長く共に居るからこそ良く理解したいと思うがそれもそう上手くいくものではない。

 

「はぁ・・・」

 

ビシキのため息が、静寂な空間に木霊する。そのため息を聞いてかどうかは分からないが、彼女の座る大岩の前に黒い影が降りてきた。

 

『随分と思い悩んでいるな、ビシキ』

 

「アルビオン・・・何の用ですか。笑いに来たんですか?」

 

影の正体はアルビオン。既に成熟しているが身体の大きさは数千年前から変化はない。が、その内包する力はビシキを超えており、今では配下も従えている。そんなアルビオンを前にしても彼女の態度は崩れない。

 

『いや、ただ最近は塞ぎ込んでいると思ってな。大方、義母の事だろうとは思ったがここまで足を運ぶとはな。恐れ入る』

 

「別に壊れても、狂ってもいませんよ。それにここに来たのは初めてではありませんし」

 

『年の功と言う奴かな?年長者はやはり違うな』

 

「当然です。私は貴方よりも年上なんですから、そんな言葉でいちいち逆上はしませんよ」

 

アルビオンの冗談を受けたビシキは淡々と言葉を返した。思っていたよりも落ち着いて返事を返されたアルビオンは、目の前の半竜半精に対する認識を変える。

 

『なんだ。意外に冷静だったな』

 

大半の幻想種はこの場に流れる力に呑まれる。しかし目の前にいる妖精はそれすらも克服したか、或いは眷属になった事でこの領域に耐えうる存在になったのだろう。それよりもと、アルビオンは短く呟いてからビシキにある事を伝える。

 

『上はどうやら騒がしいみたいだな。何でも()とやらが出来るらしい。それの頂点に立つのがモルガンと言う妖精だそうだ』

 

「いよいよですか。主も良く許可を出しました。・・・いや、寧ろ乗り気でしたね」

 

『そうだな。終着点に変化はないが少しの寄り道だと言っていたな。寄り道にしては大分休憩を挟むみたいだが?』

 

「主には我々小さき者達と同じ視点というモノがなかったので新鮮なのでしょう。あの身体がある今だからこそ彼らとも触れ合える。内にある魂が龍でなく人であれば尚更です。生まれ変わることはいい事ばかりではありませんから」

 

『・・・・・・』

 

ビシキはダラ・アマデュラに頼まれアミメニシキヘビサイズの蛇を利用した魂の分割化したアナザーボディーの事を話に出した。あの身体のダラ・アマデュラは、ビシキが出会った頃の様な穏やかでのんきな性格になっていて彼女自身懐かしさを覚えるものだった。実の所、あの様な魂の割き方をしたのはビシキの故意である。

 

今日に至るまで、徐々に魂の変質が起きていく事で昔の姿を見せなくなってしまったダラ・アマデュラ。そこにある種の危機感を覚えた彼女は残された心を失わせない為に魂の分離を進言した。その大き過ぎる生命の本能に押し潰されない様にと。

 

ダラ・アマデュラ自身も気軽に動けると聞き、快く了承して仮初の肉体を用意する様に頼んだ。処置は見事に成功し、そのせいで気づけば居なくなる放浪癖が生まれたが、その心が消えるよりはマシだと判断しての事だった。

 

「変わる事は良い事です。私自身、多くの出会いを経験して変われたと思っています。ですが、変わる=消え去るではない。あの方が良いと言っても私自身は承諾しかねました」

 

それはこれまで彼女自身があまりしてこなかった願いの発露であった。自分を救ってくれた主が変わっていく中で大事なモノが消え失せていく事を恐れた。それは単に主たるダラ・アマデュラに対する心酔や忠誠では片づかない感情である。ビシキは己の内に秘めた思いを言葉に出し切ると、翼を生やして飛び立って龍の霊廟から出ていった。残るは眠るダラ・アマデュラと傍らで座るアルビオンのみ。

 

だがアルビオンは眠るダラ・アマデュラの顔の前に来ると閉じている瞼を叩いた。

 

『だそうだ、義母よ。不貞寝はやめて、少しは眷属の想いに答えたらどうだ』

 

するとダラ・アマデュラの瞼がゆっくりと開いて大きな眼がアルビオンを捉える。

 

『・・・・何時から気付いていた?』

 

『ビシキと話し始めてから僅かにエネルギーの流れが乱れていた』

 

アルビオンがダラ・アマデュラから離れると、その大きな頭部が動いて正面に向き直った。

 

『最近、イヤに静かだったから心配したぞ。また何か身体に異変が起きているのか?』

 

『そこは特に問題はない』

 

『では何が?』

 

『我自身とビシキの関係だ。あの娘と出会って10000年以上の時が過ぎた。主と眷属ではなくもう少し違う立ち位置、正確には寄った関係性になっても良いのではと考えていた』

 

それは例えるなら不器用な親子だった。親が親なら子も子。互いに考えていてもその本心を本人に直接伝える事が出来なかった。巨龍の抱いた小さな問題に、アルビオンは思わず苦笑した。

 

『直接言えば良いだろう。アイツは喜ぶぞ』

 

『今更な気がする。それに少し気が引けている』

 

『似た者同士だな。今からでも遅くはないから言ってやれば良いじゃないか。思い立ったが吉日と竜人族の長も言っていたぞ』

 

『相変わらずお前とアイツらは仲がいいな。まぁ、取り敢えず追い掛けるよ』

 

アルビオンの説得を受けたダラ・アマデュラは身体を捻って地震を発生させながら霊廟を後にする。揺れが収まるのを確認したアルビオンは、大きくため息をつくとバサリと翼を広げる。

 

『世話の焼ける主従・・・いや、義親子だな。さて、私は調べ物を始めるかな。彼の予想通りなら、ここにある筈だ』

 

ヌシの居なくなった空間で物色を始めるアルビオン。ここで彼はあるモノを発見する事になるのだが、それはまたいつかの機会に話すとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本土の地表まで戻って来たビシキは、ブリテンに向かう為に南へと向かおうとした。しかしそれを遮るかの様に轟音が周囲に響いた後、背後にある大穴からダラ・アマデュラが顔を出した。両手で祭壇の両脇の大地を掴んで姿勢を保つと長い首を動かしてビシキの目の前に頭を持ってくる。突然の事に何が起こるのか予想がつかないビシキは硬直したままダラ・アマデュラの反応を待つことになった。

 

『・・・あ~、取り敢えず祭壇に降りてくれ。落ち着いて話がしたい』

 

「あ、はい。分かりました」

 

ビシキが言われた通りに祭壇の上に降りると、ダラ・アマデュラは更に身体と首を曲げて視線を合わせた。

 

『突然ですまないが、ビシキは我の眷属になった日を覚えているか?』

 

「え?あ、はい。もちろんです。あの日は私が生まれ変わった日。どれだけ時が流れようとも色褪せる事なく私の記憶に刻まれています。ですが、それが何か?」

 

それを聞くとダラ・アマデュラの表情が柔らかく変化するのが見えたビシキは、突然どうしたのかと尋ねた。

 

『我は考えていた。これまで約10000年もの間、お前は我に付いて来てくれた。その間、色々な事があった。迷惑もかけたし、笑った事もある。アルビオンが新生し、面白い奴等もやって来た。でもそんな中でもどんどん成長して頼りになるお前の存在は大きかった。かつての人としての性が薄れていくのと同時に、今まで無かった感情が出てきた』

 

そこでダラ・アマデュラは一拍、時を置いた。次に出た言葉は奇しくも記念すべきあの日に出た言葉に似ていた。

 

 

『もう我等、義親子にならない?』

 

「えっ?え、うえええええっ!!」

 

ビシキから、彼女らしからぬ素っ頓狂な声が出てくる。

 

『懐かしい。あの日、我の眷属になるかと聞いた時もお前は驚いていた』

 

「当たり前です!驚きすぎて心臓が破裂してしまいます!ですが、良いのですか?私なんかが・・・・」

 

『他なら断るがビシキ、お前は特別だ』

 

その先、両者の間に言葉は無かった。片や言葉にならない程に泣きじゃくり、片やその様子を穏やかな表情で見守り続けた。10000年余りに渡る主従の関係はこの日を境に別の形へと姿を変えた。後に当時を振り返る度に顔を赤面させて逃げるビシキの姿があちこちで見られる事になったのは別の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは歴史的一日だった。

 

この世界に初めて国が生まれたのだ。

 

 

 

南の孤島であるブリテン島。その大領主にして、妖精王と謳われた妖精オベロン。彼の統治は数千年に及び、現在のブリテンの基礎を作り上げて来たが、妖精暦3000年に一身上の都合と言う便利な言葉と共に領主の座を降り、島の西方にて隠居すると宣言した。次の領主になるのは誰かと騒がれたが、オベロンや各氏族から出た多数の推薦によりモルガンと呼ばれる女性が領主の座に付くことになった。

 

このモルガン。出自こそ不明であるがその実力と政治手腕は確かである。彼女が領主になってから発生した幾つもの災厄を未然に防ぎ、その被害を最小限に抑え、その後の復興やオベロンの掲げた路線を継承する様な政策も妖精達からの支持を集めた。

 

モルガンの統治により更に繁栄したブリテン島にて、彼女はある宣言を発表した。

 

それこそが妖精國の建国である。

 

モルガンによる統治が始まって丁度3000年が経過した頃、彼女自身の口から諸侯へと伝えられたその発表は妖精達を困惑させた。彼らには国という概念がそもそも無かったからだ。

 

領主と言う言葉すらオベロンや神の眷属から齎された話であり、そこに来て新たに国と言われた彼等は反応に困ったのだ。しかしモルガンから伝えられた内容はこれまでとさして変化はなく、ブリテンが領主の土地ではなく、国の土地と言う意味合いに変わったくらいだと妖精達は認識していた。勿論、中には疑問を覚える聡い者も居たが、モルガンを支持する氏族たちによりその意見は丸め込まれた。これによりモルガンは自身を邦を束ねる女主人として女王と名乗る様になる。更に彼女の手足として動く妖精達にも各地を治める権限が与えられて、かつての妖精王や建国前のモルガンに習い、自らが管理する街のリーダーとして領主の役職を得た。

 

彼等多くの妖精達から賛同を得られた事で正式に妖精國の名を付けられ、その後に開かれた戴冠式では本土に住むとされる神の眷属が天から降りてきて祝福するなど皆を沸かせる催しで賑わった。

 

 

また、モルガンは過去の出来事などを記す為に暦を制定し、妖精國建国の年を“女王”を取り入れた女王暦元年とし、それ以前を妖精暦として定めた。これにより過去の歴史を明確に記した年表も作成され、大まかではあるが過去に起きた出来事を多くの妖精達が目にする事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

妖精國の首都 キャメロット

 

女王モルガンは、オベロンが作り上げた都市に更に改良を加えて独自の仕組みを組み込んだ都市へと改造を行っていた。そのキャメロットの最奥区、巨大な大穴を背にして建つ女王の住まう宮殿で執務をこなすモルガンはふと、玉座の背後にある大穴に視線を移す。

 

「何かの因果なのだろうか。コレを背に玉座に就くなど」

 

彼女、モルガンの呟きには多くの意味が込められていた。しかし、その意味を真に理解出来る者は恐らくここには居ない。それは過ぎ去り消えてしまった話であり、今を生きる者にそれを知る術はなかったからだ。全てはモルガンの中にだけ残る一つの思い出となっていた。が、これからはそんな感傷に浸る暇も無いだろう。

 

「ようやく、ようやくだ。私の計画もようやくスタート地点に立った。ここから始まるのは勝ち取る為の戦い・・・」

 

『やぁモルガン。元気にしてた?』

 

決意を新たにするモルガン。彼女一人しか居ないはずの玉座の間で、念話が聞こえてきた。大穴を一望する窓の脇に立つ太い柱に視線を移すと、上から一匹の大蛇が降りてきた。特徴的な両腕と背に生える一対の扇刃を持つその大蛇はダラ・アマデュラから分離したアナザーボディーである。そのままダラ・アマデュラはモルガンの座る玉座の装飾の上を移動していき、彼女を見下ろす位置までやって来た。

 

「アナタは蛇王龍。戴冠式のサプライズはやり過ぎです」

 

『ハッハッハッ!それは私に言われても困るよ。あの娘は確かに私の眷属だけど、こっちの私はあの娘の行動を把握はしていない』

 

こちらのダラ・アマデュラは相変わらず陽気だった。モルガンはその態度に顔をムスッとさせるが言うだけ無駄である事は知っているので、頬杖をつく。

 

「で?今日来たのはまた暇潰しですか?」

 

『ううん。真面目な用だよ。例の計画(・・)の進行は順調かい?』

 

ダラ・アマデュラから出た計画の単語にモルガンの表情は感情が消えた様に真顔になる。それだけでこの話が重要であることを物語っていた。

 

「その点は問題ありません。私とて失敗する訳にはいきませんから」

 

モルガンは玉座から立ち上がるとテラスに向かって歩き始めた。ダラ・アマデュラもそれに続き、外へと出るとモルガンは手摺に身体を預けて空を見上げた。

 

「蛇王龍。アナタには感謝していますよ。私はまだやれると、そう考えさせてくれたのですから」

 

『頑張ろうね。誰かの為でなく、私達の為に』

 

意外にも意気投合する一人と一匹。彼女等の見上げる空には一筋の光が伸びていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ダラ・アマデュラ辿異種
全長:計測不能

と言うよりも長すぎて途中で計測するのが嫌になった。アルビオンが。眷属のビシキと義親子の契を交わした。それだけかの巨龍にとって、彼女が代わりの効かない存在になっていた。

ビシキ
ダラ・アマデュラの眷属。元純粋な妖精で竜の因子が混ざった竜精となり、11500年間も主従としての関係であり続けたがめでたく義親子の契を交わした。これにより更に繋がりが深くなるだろう。しかしながら、公の場ではヌシと眷属の関係を維持している。知っているのは当事者とアルビオンだけである。

アルビオン
不器用な主従の後押しをした。竜人族とは現状も繋がりを持っている。島の最奥にて何かを探していた。




龍の霊廟

島に廻る龍脈の終着地にして、元の巣穴の真下。

現代に至るまでの蛇龍種の亡骸で出来た巨大空間。初代が地面、先代に至るまでの蛇龍種により壁や天井が形成されている。

今代のダラ・アマデュラは大きすぎて全身が入らない。

通常の種であれば入る事も出来る。





オベロン
結果的にモルガンにブリテンを譲る形になった。本人は西で隠居するとの事らしい。


モルガン
ブリテンにおいて妖精國を建国した。ただ、これすらも計画の始まりだと言うがその全貌とは・・・


妖精國
モルガンが女王として即位し、建国した国。建国の際に少しいざこざが起きていた。







前書きでも載せていますが、次回からはFGO本編に絡み始めます。途中の話は今後、随時補完していくので何があったかはお預けです。


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