「楽しめたか?」
「……はい。」
その返事にはどこか力が無い。
「悔しいか?」
「おい、そっとしといてやれよ。」
「いいんです。すごく、楽しかったですから……。」
シーツの初GⅠ、初海外出走は1と2分の1馬身差の2着で幕を閉じた。落ち込む気持ちもわからないわけではない。だが、その悔しさこそが明日への活力となる。
負けて尚強し。向かない展開でも力の限り果敢に攻めた彼女にこそふさわしい言葉である。
「私の力の限界を引き出せたような気がします。レースに悔いはありません。」
「そうか。」
「心配には及びません。むしろ、とっても気持ちが良くて、晴れやかな気分なんです。」
「ライブはどうだった?俺はライブに関しては門外漢だが、飲み込みが早くて助かったよ。イギリスのレースじゃこうはいかないだろう?」
「凄かったです。ペンライトの色が綺麗で、こんなにも応援してくれる人がいたのかと思うと……。」
シーツは目元を抑えて俯く。悔しさとも喜びとも取れない微妙な顔をして、その後に大きなあくびをした。
「大丈夫か?」
「はい、大丈夫です。ただ……。」
「ただ?」
俺が問うとシーツはどこか恥ずかしそうに笑顔を作り、小さく呟いた。
「眠たいのと……、少し、少しだけですが、お腹が空いちゃいました。」
シーツは心は折れたりはしていない。むしろ走る前とは見違えるほどの満面の笑みをこちらに向けてきた。
ここに至るまで、彼女はどれだけ枕を濡らしたのだろうか。クラシックへの出走権は無く、本国のGⅠには出られない。眠れない夜もあっただろう。
だがそれも今日で終わりだ。彼女は勝てこそしなかったが、見事に『革命』を起こしてみせた。
彼女は既にベッドから飛び出して、次の
声に力が無かったのも、恐らくは空腹のせいだ。
「そうだな、何か食べたいものはあるか?『スシ』に『ラーメン』、『テンプラ』に『ヤキトリ』、あと、イギリスじゃ食べられない『パファーフィッシュ』*1なんていうのもある。なんでも好きなものを食べに行こう。」
「いいんですか!?」
「もちろんだ。『カステラ』はドンへのお土産として
目を輝かせながら、シーツが言う。あれこれと考える彼女を尻目に、そばにいたシェイプが耳打ちしてきた。
「お前、後悔すんなよ。」
「どういうことだ?」
「去年のクリスマスパーティーを思い出してみろ、あの量のメシが一晩で消えたんだ。どういう意味か、わかるよな?」
血の気が引いていくのがよくわかる。体の芯が冷え、体から汗が吹き出してきた。
「全部!
屈託のない笑顔とともに大きな声が控え室に響いた。